アットウィキロゴ

鬼と狸と子狸と

大場重勝は思う。

己が成すべきことを成す為に、そしてその為の権力を得る為に必要なのは…武、知、財…そのいずれにも勝り重要なのが、人脈であると。
どれだけ優れていようとも、人間が一人で出来ることなど高が知れている…故に、人脈。

驕った言い方をするのなら、それはつまり己が動かせるだけの駒を増やすということ。

されど紙の上で、数字の上で得た駒がどれだけ頼りになるか、信頼できるか――答えは否。


それ故に大場勝重は動く。

実際に顔を合わせ、話し、見定め、そして立ち振る舞う。
百里基地司令となり、そうも動きまわれなくなろうと、可能な限りは動きたいと考えている。


そして大場勝重は望む。

強き駒を…有能であり、勇敢であり、そして信頼できる人材を。
故に之まで集めてきた…めぼしい人材には可能な限り唾をつけておいた。

その中でも、特に信頼できる部類であるのが目の前の二人……現在は国連軍横浜基地に所属しており、本日休暇を利用して久しぶりに挨拶をしに来た、見慣れぬスーツ姿の朽木大尉と日野中尉である。

「准将閣下、大変ご無沙汰致しまして、申し訳ありません。ご壮健のようで何よりです。」

言葉とは裏腹に気負わない表情の男――日野恭平はインド亜大陸派遣の頃からの部下であり、かれこれ10年以上の付き合いである。
スワラージ作戦にて負傷し一度現役を退いたが擬似生体により復帰――今では数少ない歴戦の猛者の一人。
一を聞いて十を察することが出来るタイプであり、大場の懐刀的存在である。

「日野、他人の目も無いんだ…その気色の悪い話し方は止めたまえ。」

階級差を考えれば、むしろ十全とは言えない言葉使いであるが、昔からの部下からの言葉としてはむず痒い…特に、非番を利用し軍人として来ているわけでは無いのであれば尚更である。

「大場さん、お久しぶりです。」

「……いやぁ、大将の嫌味の篭ってない敬語って珍しくて不気味な………すいやせん。」

日野のおどけた言葉に威圧感満載の視線を送っている男――朽木蓉鋼。
昔、朽木の祖父に世話になったことから何かと縁があり、恩を返す意味も込めて何かと世話を焼くことがあった…朽木本人は自分に対する恩を感じているようだが。
日野を懐刀――使い勝手の良い名刀とするのなら、朽木はまさしく持ち手をも傷つけかねない妖刀だろう…昔よりだいぶ角がとれたが、決して扱い易い人間では無い。

「そういえば朽木君、鉄斎殿がたまには顔を出すようにと言っておられたよ。……そう嫌そうな顔をするもんじゃない。」

「はっ…………失礼しました。」

(祖父の名前が出るだけで、これか…まだ朽木家の方とは不仲のようだな。)
日野が何か聞こうとしていたが、朽木の嫌そうな様子を見て止めていた…相変わらず気が回る男だ。

「ところで、最近の調子はどうかね?」

やや強引に話を変えると、朽木と日野が近況を語りだす。
身体の調子から仕事の具合まで、言えることと言えないことがあるのは当然である為、当たり障りのない情報で談笑が進む。

(とはいえ、その当たり障りのない情報でも有益なものは多い……などと考えねばならないのが嫌なところだな。)

頼めば腹を割ってくれる相手に対してまで、腹を探るのは気分の良いものでは無い。

「此方にも再訓練をクリアした衛士を回すという件、どうなりそうだね。」

気を取り直し、話を続ける。
擬似生体を移植した衛士たちは、元の実力が高いほど、身体を失う前の実力に及ばないことが多い。
だがしかし、彼らの真の価値は全員が実戦経験者(ベテラン)であることである…実力が高くとも錯乱して簡単に死ぬ新任など後を絶たないのだから。
現在正規の国連軍衛士部隊を駐在させていない百里基地としては、即戦力は喉から手が出るほど欲しい。

「擬似生体移植者を集めて部隊を作るのは、ケアの面からも意義はあります…が、いかんせん奴らのほとんどが原隊復帰希望ですからね。やるのなら上の…狐の一声が必要でしょう。」

なるほど…と言わざるを得ない。
本人の希望を無視してかき集めるのなら、最低限基地の最高責任者に許可を取る必要があるのだろう…横浜基地であれば、最高権力者にも。

「こっちはどうなんでさぁ?訓練兵はしっかり育ってやす?」

「私としてはさっさと戦術機に乗せたいところだがね、大事に大事に育てられて、未だ総合演習前だよ。」

「ですがその口ぶりですと、能力自体には期待が出来そうなんですね。」

朽木の興味深そうな台詞に内心驚く…教官などという仕事に就いているが故か、この男が他人、しかも現段階では役にも立たない訓練兵に興味を持つなど。
(昔であれば、そんな餓鬼のことは興味が無い…とでも言いそうなものだったが。)

「あぁ、そうだな。元々が新OS、件のMX3に適正の高い者が選ばれていることもあるが、訓練の経過からも大いに期待しているよ。」

「べた褒めですねぇ……そりゃぁ楽しみでさぁ。」

「うむ。彼らが実戦に立つときには、是非とも実力に信頼が置ける君達に面倒をみてもらいたいものだ。」

「同じ戦場に立つことがあれば協力させて頂きますよ。」

まぁ、その状況を作るのに、色々と面倒そうだが…と誰かが呟き、皆で笑う。

一息つき、話を続ける――持っていきたい話題に向けて。

「有難う。特にA分隊は当然実力が高いが、朽木君が気に入りそうな癖のある若者ばかりでね。心配が耐えそうに無いよ。」

「大将…目つき変わりすぎですぜ。」

面白い玩具を見つけたような…そんな目つきになる朽木に苦笑を向ける日野。

「大場さん、日野との積もる話もあるでしょうし、私は少し基地の中でも見て回ってきますよ。」

(まったくこの男は…と内心苦笑しつつも、都合の良い話の流れに思わず頷く。)

立ち上がり、スーツのジャケットを羽織る朽木――慌てて立ち上がる日野。

「ちょ、ちょっと大将!「案内をつけよう。」って、大場さん!?」

さすがに失礼だと嗜める日野と朽木が揉めたが、大場自身がかまわないと言っている手前、結局は見て回ることとなる。
数分後、案内の氷室軍曹が到着すると、日野に小さく一言囁てから出て行ってしまった―――日野の表情の陰りに疑問を覚える。

「…………日野、彼が最後に何か言っていたようだが?」

「大場さん、あれは不自然でさぁ。さすがにあの状況ですんなり認めるなんて。『俺に言えない話を終わらせたら迎えに来い』…だそうで。あの人ぁ、やたら鋭いんですから気をつけて下せぇ。」

(積もる話…そのままの意味だとはな。腹芸を好まないが、出来ないわけでは無い…か……。)

不快な思いをさせてしまったことを心中で詫び、気を取り直して話を始める。
朽木の好まない…面倒な話を。

最終更新:2009年12月21日 22:26
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。