F分隊編
“F”that stand for
1DAYS 上陸
7月○日 北日本近海
まだ夜も明けきらぬ太平洋、その朝焼け空を背に黒々と浮かぶ孤島。
周囲は風もなく穏やかな海、だがその水面下20mには弧島を目指し海中を進む黒い影がある。
明らかな人工物であるその影は砲弾形のボディーに底部から突き出す4本の突起物があり、さながら巨大な“海月”であった。
だがその躯体から聞こえるのはわずかな水切り音のみで推進音は全く聞こえない。
これは“海月”が最新鋭の電磁推進機関を採用しているからに他ならない。
「OA-6J“蛟竜”」
帝国海軍海兵隊の戦術歩行攻撃機「A-6J“海神”」の偵察型である。
上陸作戦に先立ち、どの部隊より早く戦場に突入し艦砲射撃の着弾観測や部隊の管制を実施する。
またその静粛性を買われ、ドライデッキ・シェルター(DDS)を装備して海兵偵察隊を“敵対地域”へと送り届ける事もある。
今そのチェンバー内に潜水服に身を包んだ国連軍第301衛士訓練部隊 F分隊8名の姿があった。
衛士を志すものが通らねばならない関門『総合戦闘技術演習』通称“総演”に参加する為である。
演習開始当日、301訓練部隊は営庭での大場基地司令の訓示の後、各分隊毎に輸送機やヘリ等、
様々な輸送手段で百里基地を発ち各地の演習場へと赴いていった。
思えば総演の日程が発表されてからというもの、301部隊の訓練は通常カリキュラムに加えて
航空機やヘリからの降下訓練やスキューバによる潜水等、特殊技能の訓練が追加された。
およそ衛士の適正とはかけ離れている内容に、事情がわからず戸惑う者や単調な基礎訓練と違う物珍しさから喜ぶ者
と反応は様々だったが、全てはこの日を迎えるための準備だった、という訳だ。
(半年前の私には自分が潜水艦に乗る事になるなんて考えもしなかったけどね)
F分隊の最年長、日吉梓は自分の境遇のあまりの変化に苦笑しかけ、気を引き締めた。
日吉は国連軍に入隊後、横浜基地に整備兵として配属され
戦術機の機付長まで勤め上げていた。
だが昨年末の甲21号攻略作戦、その後に起きた横浜基地防衛戦が転機となった。
大挙して襲撃するBETAから格納庫を守る為、日吉達整備員まで動員され戦術機に搭乗して戦った。
その際の操作ログから日吉に新OSへの適性が認められ衛士訓練生として301部隊に編入された、という事らしい。
詳しい理由は判らない、何しろ書類上は“志願した”と言うことになっているからだ。
着任当初は戸惑い、百里を訪れたかつての上司に殴り掛かる(未遂だが)事さえあった。
だが気持ちの整理がついた今、この演習に自分の力の限りを尽くしてみよう、そう思う。
それはあの日見た“暁の空”が、戦禍癒えぬ横浜基地を旅立った彼女たちへの想いがそうさせているのかもしれない。
日吉がそう思う理由はもう一つある。
何事も“決して手を抜かず全力で”というのが任官以来の日吉の信条だが、今置かれている立場はその意に沿っていると言い難い
とかく日吉が配属されているF分隊の評価は芳しくなかった。
F分隊は訓練学校から選抜された他の分隊と違い軍歴のある者が多く癖のある者も少なくない。
基礎過程を一度修了しているだけに今のところ大過なくこなしているが、教官の中には訓練へ取り組む熱意が足りないと見る向きもあった。
梶原教官はその筆頭で評価会議の席で『期待出来ない“F分隊”の事は忘れた方がいい』と大場司令に進言したと言われている。
その噂は何時しか広まり誰ともなくF分隊はForgotten(忘れられた)分隊と呼ばれるようになった。
この演習で高評価を得る事が出来れば汚名返上の又とない機会となる…はずなのだが。
演習の監督官である富樫教官に見送られ、潜水母艦“たつなみ”を離れる事30分。
DDS内には普段と変わらぬ弛緩した空気が漂っていた、分隊長を筆頭に緊張感に会話が繰り広げられている。
「あう~ いい加減お日様が恋しいなぁ、このままじゃ琴美“もやし”になっちゃうの」
そうこぼすのは分隊長の市原琴美、何処かの大学院の物理学教室に飛び級で在籍していたという。
科学系の学生は兵役免除の筈だから志願したということになる。
おっとりした口調と時として飛躍する会話から“天然”と周囲からは思われがちだが、
それは彼女は頭の回転が速く思考の途中経過を飛ばし結論から話すからに他ならない。
分隊配属当初は会話が噛み合わず“これで分隊長が務まるのか?”と一同困惑したものだ。
「出発してからずっと海の中ですからね、昼か夜か時計を見ないと判らないですし。
海軍の人も潜航中は朝夕は献立でしか判らないって言ってましたよ。」
琴美のぼやき応じたのは田村芽衣、補給部隊出身だが父母、兄共に衛士という軍人一家に育った
彼女は幼い外見に反して礼儀正しくその口調もしっかりとしたものだ。
もっとも兄の所属している部隊が出撃した報を聞く度に心配で眠れないという辺りは年相応で
微笑ましく、分隊の“妹”という位置づけだ。
「食事といえば噂の金曜カレー、本当においしかったですぅ~」
そう続けたのは工兵部隊出身の加藤愛華だ。
「なんでも艦ごとに伝統のレシピがあるそうです。烹炊長さんに尋ねたら
“演習に合格したら隠し味教えてやる”といわれました、皆さんがんばりましょう」
「カレーの為に頑張るというのも愛ちゃんらしいの」
「そっ、そんなつもりじゃ…ごめんなさい~」
「琴美さん駄目ですよ、愛華さん困っているじゃないですか」。
琴美のからかいにオロオロする加藤に田村が助け舟を出す。
加藤は入隊するまで多忙な両親に代わり妹弟達の面倒を見ていた事もあり料理が得意
で家庭的で細やかな気配りが出来るのだが多少人見知りで気弱な面もあった
一方でそんな呑気な会話に加わっていない分隊員もいる。
高山楓と青木美里の二人は互いに手元が見えない様に背中合わせに座り時たまメモを取りながらなにやら呟いている。
暗譜(駒や盤を使わない)で将棋を指しているらしい。
帝国軍の幼年学校から編入された楓は大人しそうな外見に似合わず戦術的思考に秀でていた。
301部隊でも将来のCP候補として目されておりF分隊で分散行動をとる際は副隊長も務める。
最近F分隊の訓練成績が好調なのも“天然”な琴美の指示に対して楓の的確なフォローにある事は誰もが認める所だ。
またそのセンス故か将棋の腕も301部隊の中でも群を抜いていた。
一方の青木は北方で警備部隊にいたという、日吉に次ぐ長身ながら軽い身のこなしで射撃や格闘、戦技全般に優れている。
自ら多くを語ろうとはしないが“実戦”経験があるのでは?と噂されていた。
孤高を決め込んでいる訳ではないが、他の分隊員から一歩引いているような印象があり、
休憩中も一人で本を読んでいることが多かった。
そんな青木に将棋を勧めたのが楓で、青木も意外とのめり込む質なのか指南書を読破、その上達はまざましかった。
今や将棋で彼女達に敵うものは分隊内にいないといっていい。
(好きなのは判るけどさ、なにも此処まできてしなくてもいいじゃない…)
日吉は二人に半ばあきれつつも分隊唯一の男性である有田遼平に目を向ける。
隔壁に背中を預け眼を閉じている姿は寝ているとしか思えない。
元機械化歩兵の有田は日吉と同じ国連軍横浜基地の出身だ。
昨年末の基地防衛戦では格納庫において日吉と文字通り背中を預けて戦った中だ。
直後の桜花作戦の混乱で別れたきり、互いの消息も判らぬままだったが
百里で再会し同じ分隊に配属された時は世間の狭さに驚いたものだ。
F分隊では有田は実戦経験と修練から得た近接戦闘の技能を買われて前衛を担当している。
今回の演習においても重要な役割を果たす事は間違いなかった。
「遼平、起きてる? まさか寝てんじゃないでしょうね?」
日吉の呼びかけに有田は瞼を開けると腕時計に目をやりながら応える。
「休める時に休む、戦場で身についた習慣だ。問題ない、5分前には自然に目が覚める。」
「そうなの…ってホントに寝てた訳!?しっかりしてよね、アンタはこの演習の要なんだから、」
「了解、“決して手を抜かず全力で” だろ。」
そう応える有田の表情から気負いや緊張が見て取れない事に頼もしさを感じる。
(とはいってもコイツの表情が判るのは分隊じゃあたしぐらいだけどね)
「頼りにしてるね“坊や”」
「そろそろ“坊や”は勘弁してくれ・・・」
口から生まれてきたような久我と違い有田は多くを語るような性格ではない。
任官以来ずっと男所帯という事もあり女性と接する機会がなく苦手としている面もあった。
それでついぶっきらぼうな対応になってしまい、気弱な加藤など「なんか怒ってるみたいで怖いです~」と半ば本気で怯える始末。
日吉はそんな有田を放っておけず分隊に溶け込めるようにとなにかと気を配った。
有田もかつての“戦友”という親近感もあり日吉には気兼ねなく接するようになった。
最近では誤解も解けてきたが、今度は二人のどこか的外れなやり取りから“日吉と有田の夫婦漫才”と呼ばれる羽目に。
年上の日吉が有田の事を“坊や”と呼んでからかうのも、そんな関係をまんざらでなく思っている日吉の照れ隠しなのかも知れない。
「まぁ食事は文句はないんだけどさ・・・そもそもなんでウチらだけ潜水艦な訳?」
その間にも琴美達の雑談はまだ続いている、分隊の1人、水口萌花が妙なことを言い出した。
輸送部隊出身で雅な名前から想像も出来ない快活なお調子者、「萌ちゃんて萌花というより燃火だね」という加藤の水口評が全てを物語る。
「だいたい他の分隊はヘリだの輸送機で颯爽と出発したのに“ドン亀(潜水艦の愛称)”って、扱い酷くない?
兎も角狭いし空気は臭うし、二言目には「喋るな、走るな、水は節約しろ!!」でしょ。
終いにゃ“空気が勿体無い、用がないなら静かに寝てろっつれて行かれた先が魚雷の上だよ。
あんなモノの上で眠れるなんて潜水艦乗りの感覚を疑っちゃうよね。“ドン亀”のドンって鈍感のドンだねきっと」
水口の言う事は事実でもある、以前と比べて大幅に改善されたとはいえ潜水艦内部の環境は快適とはいいがたい。
ろ過機を通しても取れない独特のディーゼル臭はサブマリナー(潜水艦乗り)にとっても悩みの種の一つであった。
「あんた達、自分達が何処にいるか忘れてない?艇長に聞こえたらどうすんの」
次第にヒートアップする萌花の潜水艦批判をたしなめるべく日吉が声を掛けたが時既に遅く、壁のインタ-フォンから男の声が聞えた。
「馬鹿野郎、そういう話は通話スイッチを確かめるもんだ。こっちまで筒抜けだぞ」
「「「「!?」」」」
「もっ申し訳ありません大尉殿。」流石に市原も慌てて謝罪する。
「馬鹿野郎、「だいい」だ。殿もいらねえよ、陸式(陸軍)じゃあるまいし。
確かに嬢ちゃんの言うようにコイツは陸ではのろまな亀だがな。
まぁ長年使っていると欠点も含めて愛着が湧くのが愛機ってものさ。」
どうやら大尉の“馬鹿野郎”は口癖らしい、苦笑交じりの声に怒気は感じられない。
「それにこいつにはとっておきの必殺技があるんだ、甘く見てると火傷するぜ」
「はぁ・・・必殺技、でありますか?」
およそ蛟竜には似合わない言葉に琴美も間の抜けた返事しか返せない。
「おっと、そろそろエントリーポイントだな、おしゃべりはここまでだ。
最後にもう一度装備のチェックをしろ。泳げない奴はちゃんと浮き輪持っただろうな?」
先ほどと打って変わった真剣な声に艇内の弛緩した空気に緊張が走る。
二人一組になって潜水の準備を開始した。
互いに呼吸具の接続を確認しあい、首に掛けていたゴーグルを装着する。
「今日は大潮だ、今は満潮も近いから波に乗っていけば楽に浜に辿り付ける筈だ。」
「了解です、大尉、送っていただきありがとうございました。」
「折角のバカンスだ、楽しんでこいよ!! 注水開始」
切り替わった非常灯の赤い光の中、足元から海水がゴボゴボと注水される。
見る間に水位が顔面にまで上昇するがこれまでの訓練の成果か慌てる者はいないようだ。
注水完了を示すランプが点灯しDDSの後部ハッチがゆっくりと開いていく。
水深10m、目の前には夜明け前のほの暗い海中が広がっていた。
各々装備を詰めた防水バックを手にゆらりとDDSの外に出る。
(準備はいい?)琴美が一同を見渡すと手信号で尋ねた。
(了解)×7即座に肯定の意志が帰ってくる
琴美はこの演習における最初の命令を下した。(分隊出発!)
ゆっくりと次第に力強く陸地を目指して泳ぎだした。
F分隊の“夏休み”はこうして幕を開けた。
海岸にたどり着いたF分隊は周囲に人影がないことを確認すると装備を詰めた防水バックを引きずりながら上陸する。
浮力を失った事で背中のボンベがずっしりと背中に食い込むが気にしてはいられない。
日が高くなればそれだけ“敵”に発見される危険が高くなる、そのまま前方の林に飛び込んだ。
何百メートルを潜水した上に装備を抱えての上陸ともなると体力の消耗は著しい。
バッグを降ろすとその傍らに座り込んでしばし呼吸を整えた、さすがに誰も声が出ない。
やっと一息ついたところでまず萌花が声を上げた。
「はぁ~疲れた、折角の海デビューなのに散々。スキューバって楽なものだと思ってたのに。」
「演習が終るまでのお楽しみだよ萌ちゃん、琴美も熱帯魚が楽しみ~」
萌花は入隊するまで海を見たことがないという筋金入りの山育ちだけに海やマリンスポーツに憧れを抱いていたようだ。
どうやら市原も同じらし、“バカンス”に想いを馳せている。
「ところで・・・此処は何処なんでしょう?」
田村が誰ともなく尋ねる、その言葉に一同は周囲を見渡した。
今いる場所は浅い入り江の奥といった所だ、白い砂浜に青い松原のコントラストが目に美しい。
砂浜の端には打ち上げられている廃船らしきものも見える。
「この時刻にしては太陽の位置が低いですね、かなり北方では?」
高山が時間を確認しながら応える。
「まぁね、南国には到底見えないけど」
日吉が周囲の木を見上げる、椰子やマングローブといった南国特有の木々は何処にも見当たらない。
「なんだか田舎の風景みたいで落ち着きますぅ」
加藤はむしろ見慣れた光景に安堵しているようだ。
「ちょっとそんな馬鹿な~バカンスっていうから水着調達したのに!?教官の嘘つき~」
「熱帯魚~」
「教官は南洋とは言ってなかった、バカンスは避暑を指す言葉だから大尉の言葉も間違いじゃない。」
吼える萌花らに対して青木が冷静に指摘した、日吉が言葉を継ぐ。
「はいはいバカンスの話はまた後、ちゃっちゃと片付ける。
人目につかないための払暁上陸でしょうが、…どうみても無人島だけどね」
「梓姉は南海のバカンスに乗り気じゃなかったから平気なんだよ、そりゃ“アレ”を着たくないのはわかるけどさぁ」
ぼやく萌花、その視線の先は日吉の胸があった。同年代の女性に比して余りにも平坦な・・
「なによ、あんたより大きいじゃない」視線の意味に気づき思わず反論する日吉、だが水口はここぞと追い討ちをかける。
「でも、梓姉の場合は胸というより胸囲だし、それに私はまだ成長期だから」
「・・・・萌、あんたも応馬並に学習能力ないのね、口禍って言葉知ってる?」
日吉は怒りを込めた拳で引き際を誤った水口のこめかみをグリグリとえぐる。
「うひぃ~ごめんなさいです」
「そういう梓さんも遊んでないで早く着替えてください。」
何時もと変らぬ口調の楓。しかしその声には有無を言わせぬ迫力があった。
「「はい・・」」
潜水装備を降ろして潜水服を脱ぐ、下に着込んだBDUが濡れてないのはドライスーツのお陰だ。
各々が装備をまとめた所で市原が呼びかけた。
「みんな、ブリーフィング始めるよ!」
全員が琴美の前に整列すると楓が報告する。
「F分隊総員8名上陸完了しました。」
「といっても8人じゃ一目瞭然じゃん」
「逆に増えてたら怖いですぅ」
「わかんないよ、もしかしたら別人とすり替わっているかも、琴みんが怪しい!」
「なんでやねん萌ちゃん」
「…皆さん不謹慎です!!こんな事だから“Forgotten”分隊といわれるんです。」
いらだったような高山の声に一同は顔を見合わせた。
普段の高山ならこれぐらいの冗談に目くじらを立てる程堅くはない筈だが。
「私達の未来が掛かった試験だというのに…もっと真面目に出来ないんですひゃぁっ」
「高山、少し肩の力を抜こうか」
いつの間にか楓の後ろに廻った青木が楓の肩を揉んでいた。
誰もが楓に注目していたとはいえ今の青木の動きに気付いた者は分隊内に果たして何人いたことか。
そのスニーキングの技術は見事というしかない。
想定外の“攻撃”に思わず取り乱し、自分の上げた声の大きさに赤面する楓。
「気負すぎると最後まで持たないぞ。そう心配するな、皆成すべき事は心得ているさ」
普段多くを語らない青木だけにその言葉には分隊の誰もが一目置いている。
「・・・大声を上げてすみませんでした。」
「えっと、そろそろ命令書の開封時間じゃないでしょうか?」
いままで雰囲気に飲まれ固まっていた加藤がおずおずと切り出した。
「おっとそうだね、楓ちゃんディスク」
「はい」楓が命令書の封を切ると中には数枚の地図とフロッピーが入っていた。
楓からフロッピーを受け取った琴美は端末に挿入すると解凍のコマンドを打ち込む。
端末の液晶画面を見つめる琴美の言葉を待つ一同、だが琴美は何か考え込んだ様子で一向に口を開こうとしなかった。
「あのーどういう指示なんですか?」
「低軌道衛星の周回周期ってたしか・・・緯度を調べる必要が・・・そうすると次の通過は・・・」
「はい?」
「何ですか、市原さん?」
「おーい琴みん戻って来-い!」
琴美はそれらの声に応えることなく携帯端末に向き直るとキーボードを叩き出した、なにやら計算を始めたらしい。
「では私から説明します。」
一緒に端末を覗いていた楓が顔を上げると説明を始めた。
琴美は一旦思考モードに入ると外部からの入力を一切受け付けなくなる。
その間に楓が状況説明を済ませるのがいまやF分隊の日常となっていた。
「私達が上陸した島の地図です」
各々配られた地図を覗き込む、南北に二つの島がある。
円くて比較的小さい北側の島に対して南側の島の方が細長い。
アルファベットのⅰの字に似ている。
南側の島は比較的記載があるのに対し北側の島は海岸線のみで全くの白紙だ。
「名前が記されてないので便宜上北島、南島と呼称します、現在地はここ南島の南端です。」
最終更新:2010年02月28日 18:28