アットウィキロゴ

3日目・前編

 ―――朝目覚めると、そこは青臭い森の中だった。
 と、云うのは最初からわかっている………寝ぼけているのだろうか?
 見張り係である勝名と綾華の背が見え、少し視線をずらすと即席の縄で両手足を縛られた久我、その隣で眠る都が目に入る。
 自分の隣に視線を向けると、木に背凭れて寝ている悠希がいた。
 今回の演習で、初めて見たかも知れない…この男の寝顔を。
 しかし………普段は無表情というか無愛想の権化のような顔をしているのは解るが、寝顔まで表情が無愛想なのはどうなのだろう…?
 姿勢が苦しいのならやめれば良いだろうに、寝返ることも身揺るしすらしない。
 ただじっと、その姿勢で待機しているのはお師匠さんのせいなのか…?
 上半身を起こし、少し顔を近づける。
 ………見れば見るほど無愛想だ。不機嫌にもほどがある。
(これでもう少し愛想が良ければ、良い娘がいっぱい寄ってくるのに…)
 と、思ったが………ものすごくそれは許されない事だと、心の中にドス黒い炎が燃え広がった。
 それだけは許せない、私だけを見て欲しい…、ずっと傍に居て欲しい…
 昨日、久我に言われたことが頭に過ぎる。
『素直になれってことです』
 ちょっとキリッとした顔が鼻につくが、しかしその云ってることは的を得ている―――気がする。
 むぅ…朝からアンニュイな気分になってしまった。
「もう…悠希のせいよ」
 そう云って、頬をつんつん―――
「敵か!?」
「ふひゃあ!?」
 いきなり立ち上がり転がり、どこからともなくナイフを抜き放つ。
 ほぼ無拍子の動きに、雫は思わず情けない声を上げてしまった。
 が、悠希も即座に状況を把握し、
「あ、おはよう」
 ナイフを収めながらいつもの調子で、そう云った。
「お、……おはよう、悠希」
「どうしたんですか!?」「何かあったか!?」
 物音に気付いた二人が慌ててベースの中へと駆け寄る。
「いや、なんでもない。俺が派手に動いただけだ」
「そ……そう、なんです…か?」
 自分なりに、何か隠したいのだろうか。珍しく小さな嘘を混ぜている。
(私を敵と思っちゃった…から?)
 なんてことを考えてみるが、例え聞いても悠希は答えないだろう。そんな気がする。
 はぐらかす時は露骨にまではぐらかすのがこの男なのだ。故に徹底的に口を閉ざす。雫が「白状しろ」と云っても、場合によっては平気で口を紡ぐだろう。
 口が軽いと云えば軽く、硬いと云えば硬い…
「そ、それよりちょっと早いけど全員起きて朝食にしましょ。ほら都、起きなさい、悠希は久我をお願い」
「うぅ~ん…今寝付いたばかりなんですぅ…」
「あはぁ~ん…雫ちゃんの肌やわらかぁ~………っだぁぁぁぁ!?ぎひぃぃぃぃ!」
 背中にある激痛が走るツボを押して起こす悠希。ある意味外道。しかも立て続けに2回も。
「おはよう久我。凄い悲鳴だったけど大丈夫か?」
「森り~ん…もうちょっと優しく起こしてください…こんな起こされ方じゃ精神もたんよ…」
「今押した場所が痛いってことは、お前ちょっと内臓痛めてるな。レバーか野草食うか?」
「人の話聞いてる!?ねぇ、わざと無視したよね!」
 問い質されてる間、悠希はどこからともなく野草を取り出し、それを久我に渡す。
 軽くカレー粉を塗したそれは、まぁそれなりに美味しく結局黙らされることに。
「うぅ~…1時間も寝れないなんて過酷ですよぉ………」
 よほど眠気が辛いのか、都はユラユラ揺れている。それはそれで愛くるしいと思うが、これでも今は試験中。
 シャキっとしてもらわねば困る。
 都の両頬を手で挟み、むにむにと顔を揉む雫。奇妙な悲鳴を上げる都だが、イマイチ抵抗はできていない。
「ほら、これで眼が覚めた?」
「は、はいぃぃ…」
「綾華も勝名も、ご飯食べましょ」
「「了解」」
 とは云え、それほど気合を入れた朝食等、ここでは期待できない。精々、悠希が趣味と実益を兼ねて作った燻製肉で腹を満たすしかない。
 朝から肉……普段なら重たいものだが、今はそうも云ってられない。野草で包み、強引に腹へ流し込んでいく。
 綾華と勝名はまだ体が起きているお陰でサクサク食べていく。が、若干2人とも嫌そうな顔をしている。
 そろそろ体臭が気になり出してるのだろう。ここに来てからずっと、雨のひとつも降ってないのだ。我慢してるようだが、時折体を掻きたそうに手がピクピクしている。
(………ここもなんとかしないと、ね)
 雫も似たような心境だ。軍人とは言えまだ女の子なのだ。どうしても、身嗜みを気にしたくなる。特に匂いが気になってくる。
 男性陣を見るが、まだ体臭が強くなったという感想は出ていない。ということは、まだ大丈夫。まだ………
 が、あくまで”まだ”というだけ。早急になんとかしたい。
 ベースから僅かに見える空を見るが、どこまでも快晴だった。
 その普段なら喜ぶべき空も、今は恨めしく感じていた。
 一雨でも降ってくれればいいのに………
 快晴の空を、雫はじっと見つめるのだった。



 ―――探索隊Aチーム、綾華・勝名ペア。
(まぁ………予想していたことですが………)
 勝名に軽く説教を終えた綾華は、溜息混じりに先に行くよう指示を出した。
 頭が、痛い。
 頭痛が痛い。
 頭が頭痛。
 意訳、要するに思わぬ行動ばかりが目に付いて精神的に頭が痛くなってくる、ということ。
 悪気がないのが余計に質が悪い。悪いと思ってないから反省してくれない。
 その厚意が、逆に辛い。
 何がって、
「よっしゃぁ!この先に何かある匂いがするぜ!」
「ですからぁ~…」
 そう云って、トラップの解除が疎かなまま突っ走る事これで6回。
 1回目は、たまたま解除し忘れたトラップがあったのかと思った。その時は、自分の不注意さが問題だと考えていた。
 2回目は、明らかに見つけていたトラップを、そのまま無視して行こうとした。この時、何かが違うと感じた。
 3回目………疑心が確信に変わる。トラップの解除中、何かを発見したのか、解除中のトラップを放置してその何かを見に行こうとした。流石に止めたが……
 とにかく一直線なのだ…彼女は。目先に目的のものがあると思うと、その思いに忠実にひた走る。
 せめて動きやすいよう解除してもらわないと、後で物凄く困るというのに…
「いいですか?今は試験中で、何がどう採点されるか解ってないんです。
 なんでも猪突猛進で済まされるハズがありません。
 ですから、もうちょっと自制をですね―――」
「あぁ~もうっ、綾華は細かすぎるんだよ。
 作動させなけりゃ別に問題ねぇっての!」
「勝名さんが大雑把過ぎるんです。もっと周りに眼を配らないと、後ろの私が心配で心配で…」
「心配性だなぁ、そんなのなるようにしかならねっての。
 もっとも、オレは別にやられるつもりなんかないけどな!」
「それで朝倉さんを巻き込んでは意味が無いでしょう…」
「ぐぬっ…!」
 1日目、2日目と、勝名は自分を押し止めてくれる相手がいなかった。久我も都も、自分から率先して動くタイプの人間ではない。
 ………久我の場合は別の意味で率先して動くが、今はそこは除外する。
 ともかくとして、そこは流石に源 雫の采配ミスと云わざる得ない。勝名 澄子が増長するような人選をしてしまったのは、どう云い繕おうと間違っていたと、そう云わざる得ないだろう。
 とはいえ、それで2日目の失態の中心は勝名なのは間違いない。そこをしっかり把握してないと、自分もまた、先人と同じ轍を踏むことになる。
 そのためにも、こうして何度も説得を繰り返しているのだが―――中々聞き覚えてくれない。
 ある程度割り切れる人なら、勝名を犠牲にしてトラップを炙り出すという手を思いつくかも知れない。
 が、齊藤 綾華という人物は、そういう999を生かすために1を犠牲するような、割り切った判断はできなかった。
 それは彼女にとって弱点になるのかも知れない。が、少なくとも今は、綾華は十全を助ける判断することこそが正しい道だと、強く考えていた。
 だから、勝名のような結果を鑑みない行動は慎ませるべきであり、しっかりと手綱を握ってるべきだと、そう考えていた。
「別に憎くてこんなことを云ってるんじゃないんですよ?
 私はただ、勝名さんに怪我をして欲しくなくて、こうして口を」
「うぅぅ~っ、解ったわかった!解ったから!聞くよ、従うよ!
 ったく、お前はオレの親かっての」
 あまりの小言の多さに、ついに根負けした勝名は両耳を手で塞ぎながら降参したと、全面降伏する。
 そんな勝名に苦笑しつつ溜息を一つ吐く。ようやく解ってくれたかと、長い説得の記憶が反芻する。そんなに長くないが。
「あぁ、ある意味そんな心境ですね、勝名さんが相手の場合。
 手のかかる子を持つということは、こういうことなんでしょうか…」
「………今、絶対オレの事馬鹿にしただろ…?」
「気のせいですよ。では、張り切ってトラップを解除していきましょう!」
「わーった、わーった…じゃなくて、リョーカイ」
 凄い不承不承な感じだが、これ以上自分の意地を突っ張る無意味さも自覚できている。
 勝名は確かに周り見ずなところがあるが、それは生来の気質がそうさせる部分が強く、本人の中では決してわざとトラップを見過ごしてるわけではない。むしろ本人の中では完璧にこなしてるつもりだった。
 が、実際はまぁ綾華の指摘通り見逃したトラップが”多少”多いのは認めよう。
 要は、その見逃したトラップがあることを認めるのが嫌だったんのだ。意固地になってただけとも云える。
 それはともかく、そこを認めてしまった以上は、自分の眼より確かな綾華の眼に頼るのが一番だろう。
 それは綾華が考えていたところで、早速指示を出していく。
「うーん、確かにオレじゃ気付かないのも結構あるなぁ」
「それでもキチンと云われた場所にはすぐ気付くじゃないですか。もともと眼は良いんですよ、勝名さんは。
 それに対処そのものも的確ですし」
「そんなホメんなよ、テレちまうって!」
 顔を赤くしながら頭を掻く勝名に、笑顔でそれを見つめる綾華。
 そこから順調に先に進んでいく。最初は綾華がトラップの位置を発見していたが、徐々に勝名が先手で動き探し出していた。
 集中していったのだろう、サクサク仕事が進んでいくのを見て、綾華も解除作業に参加していく。
 しばらくトラップを探しては解除してまたトラップを探してという作業を繰り返していると、不意に開けた場所に出た。
「ここは………島の端ってことですね」
「方角は東か。そういやここまでずっと上り坂だったな」
 解除に集中する余り、上ってることを若干失念していた。
 パッと見ただけでも、岬となっていて崖の向こうに海が見える。これと云ったものも無く、非常に見晴らしが良いようだ。
 周りに気を配りつつ、ゆっくりと岬の先へと向かう。
 岬の先端付近は平坦で、遮る物は何もない。草の1本2本くらいは生えているが、その程度。
 下を見ると、巨大なショベルで削られたような急斜面の崖がこの岬を囲っている。その下では、崖とも壁とも云えるこの場所に波がぶつかり、白く泡立ってるのが見えた。
 その光景に、脳が潜在的な部分で薄ら寒い恐怖を呼び起こす。一歩でも踏み外せば命は、無い………そう強く思わされる。
「試験中でもなければ、ゆっくり観光したいのですけどね…」
「ダイナミックだよなぁ…なっ、降り」
 云わんとすることを察した綾華は勝名のBDUの襟を掴み、ズルズルともと来た森林へと戻っていく。抵抗したいが、下手打って綾華ごと落ちるのはまずいと思い、不承不承その引きずりに従う。
「あ、ちょっと待って綾華、綾華!」
「なんです?」
「あれっ、あれっ!」
 急に騒ぎ、指差す勝名に云われるままその指差す方向を見る。
 その方向は、山があった。が、それだけだ。何か特徴的な物があるようには見えない。
 ほぼ一面を緑で覆われた山をじっと見てもなにがあるようには見えない。
「何があるようには…」
「良く見ろって、真ん中辺り!」
 云われた場所を見るが、これと云って何があるとは思えない…
「一ヶ所だけ、妙な動きがあるだろ!?」
 そう云われても、だからなんだと云わざる―――
「…えぇ?」
 妙だ。
 一ヶ所だけ、風で靡く動きとは違う動きを見せてるヶ所がある。まるで別の何かがぶつかったように時折撓ったり、激しく揺れたりしている。
 猿か何かが飛んでるのかと最初は思ったが、良く見るとそうでない様に見える。もっと大型の生物か、動体でなければ起きなさそうな揺れやしなり方だ。少なくとも、綾華にはそう見えた。
 やがてそれは、山の反対側へと消えていく。
 それまでの間、2人はじっとその光景を凝視していた。何かが見えるのではないのかと。そういう淡い期待を抱きながら。
「………何か、居るな。間違いなく」
「…もしかしたら、昨日見つけた足跡の主かも知れませんね…」
 昨日見つけた足は、確かあの山へと続いていた。その可能性は高いはずだ。
 だが、だからと云って今行くのは早計だろう。備えも無しに行くのは危険過ぎる。
 最低でも、森上 悠希を連れて行く必要がある。実力の上では、間違いなくあの人が”そういうこと”に適任と思う。昨日見せ付けられた動きを思い出すと、尚のことそうだと。
「よし、今から行って見ようぜ!」
 フラっと来た。足から崩れ、そのまま倒れそうになる。
 もう、眼が好奇心で満たされていて「何を云っても無駄だ!オレは行く!」と云わんばかりに。
「はいはい、自重してくださいね…逸ってもろくな事はないと昨日学んだでしょう?」
「ぐぅぅぅぅ…っ!」
 そう云われてしまうと、何も言い返せない。昨日の件が無ければ強気で押せるのだろうが、あるのでそうもできない。
 それでも強引に行こうとするが、綾華はそうする前に動き、
「さっ、行きますよ。この島はまだ調べつくせて無いんですから」
 押す前に押されてしまった。
 ここでぶつかることもできるが、しかし以前決めた役割分担を思い出す。
『雫が居ない場合は綾華の指示に従うこと』とし、そして勝名は『悠希の下になる』こと。厳密には、前衛での行動は悠希の指示に従うということなのだが、それはつまりこの分隊内において、

      雫>綾華>悠希>他3名

 という上下関係が成立してしまってるということだ。
 無論、これはこれまでの訓練で経験した事を元に取り決めたものであるため、異論は基本的にない。
 要は、ここで楯突くと組織的な部分に問題が出るということだ。上からの指揮に従えぬ兵は不要。
 そそうなれば、この試験は落とされる可能性もある。少なくとも、何時自分達を見てるか解らないこの状況でそれは得策ではない。
 そんな考えが頭の中を過ぎる。
 ………今更かも知れないが。
「わーったよ…散策探索だな…!」
 凄い納得してない顔をしているが、綾華はそれを見ない振りをして
「えぇ、行きましょう」
 と、元の任務へ戻ることを再度促した。



 ―――探索隊Bチーム 都・久我ペア。
 今、久我の下に都が組み敷かれていた。
 元々男女の平均腕力には絶望的な溝が存在している。それは今も昔もさして変わらない。
 それが都ほど発育が良くない子であれば、当然久我であっても押し倒せるのは自明の理であろう。
 が、今の2人の間に強制された意思は存在しない。
 あるのは互いを求め合う、雄と雌なら必ずと云っていいほど起きる性の衝動。
 人気がないこの島で男女2人だけという状況は、生存本能を強く刺激され、否応無しに興奮を増してくれる。
 そのいきり起つ愚息を目の当たりにした都は、頬を上気させ、発情していた。
 そ………っと、その細い白魚のような指が愚息に触れる。上気し汗ばんだしっとりとした指が先に当たり、言いようの無い快楽が全身を襲う。それだけで果てそうになるが、それもまた良しと云わんばかりに快楽に身を委ねる。
 最初は形を確かめるように…やわやわと触り、久我の歓喜の声が出る場所が解ってきたのか、次第にその指はより積極的に、能動的に動き出す。
 手を伸ばし、軽く指を都の胸に這わせただけで、その口から甘い歓喜の声が漏れた。それだけで、久我の愚息は暴発しそうなほど膨れ上がる。さらに手の平から感じる柔かなそれに、久我の動悸と呼吸は激しくなっていく。
 強く胸の先を摘むと、今まで聴いたことのない艶やかな悲鳴が、その外見から想像できない声が溢れた。
 それが聞きたくて、久我はこれでもかと云うほど強く先を抓り、しこり上げていく。
 充血し、勃起するそれは、幼い都の体であっても自分が女だと、立派な雌なのだと自己主張していた。
「く、久我さぁ…ん…」
「もっと喜んで良いんだよ、ハニー…」
 自慢の甘いフェイスと白い歯を光らせ、都の気分を高まらせる。それだけで都は顔を真っ赤にさせ、同時に見たことも無い良い笑顔を向けた。
 都の腰が、もっと刺激を久我の足に押し当てくねられせる。まるで発情した犬のようだが、むしろ久我的には無問題。もっと刺激を与えるため、自身の足を動かす。薄い生地が内側から溢れるソレを纏わせ、淫靡な音と臭いを撒き散らす。それが聞きたくて、久我はもっと足を強く、早く動かす。
 それだけで、都は喜声をあげ、軽い絶頂を迎えた。
 全身で息をし、控えな胸がやわやわと揺れる。
「感じやすいなぁ、マイハニー。こんなんじゃ、この先の刺激に耐えられるのかい?」
「も…もっと凄い…のがあるですか…?」
「あぁ、もっとボクを感じてくれ、マイハニー…っ!」
 シャツをたくし上げ、露わになった控えめの胸にむしゃぶりつく。悲鳴は断続的に上がり、それでも久我はやめない。都の手も、久我の頭を逃さないよう押さえている。先っぽの桜が唾液でヌラヌラと光り、垂れた唾液が胸全体を艶かしく彩っていた。
 そろそろ久我も限界に達し、愚息を都の腰へ近づける。
「さぁ、いくよマイハニー…ハニーの初めて、ボクに頂戴」
「はぁ…はぁ…ど、どうぞ…私の初めて…もらって、ください…」
 大きく頷き、久我は愚息を花弁に押し当て、ゆっくりと腰を前にへと突き出す。
 都の苦悶とも歓喜とも云えるような悲鳴が、周囲に響いた―――

「ってなる予定だったのにさぁ…」
 すご~~~~~~い不満顔でぼやく訓練学校の男性訓練兵が一人、そこにいた。というか久我だった。むしろこの時期にそんなことを考えている男はこいつくらいなものだった。
「なーんで寝ちゃうかなぁ~」
 横を見ると、すやすやと穏やかな顔で寝ている都が。小さくまるまって、世の事など知らぬといった風体で、ガッカリしてしまう久我。
 本当なら、もうとっくに先のような展開になっててもおかしくなかった。
 だというのに、この娘は探索から1時間もしない内にパタリと寝てしまったのだ。
 このまま襲うのもありと言えばありだが、何故か思いとどまってしまった。
 初日、勝名に怒られたのがあるかも知れない…とは思うものの、その程度で思い止まる自分が情けない。
「うーん…やっぱり襲っちゃおうかなー…」
 そう思うが早いか、指を無意味に地面で走らせ、都の胸へと向かわせる。
 が、後一歩という所で思い留まる。
 やはり、どこかでブレーキをかけている自分がいる。
 意識するしないに関わらず、久我は手を止めてしまう。
 そういえば、ふと少し前に言われた事があったのを思い出した。
『―――時折虚構が混ざっているように見えるがな』
 そう云ったのは、確か教官だ。
「はは…しっかり見抜かれてやんの」
 乾いた笑いがその口から漏れる。
 あの時は気付かない振りをして言い逃れてた…別の時も、知らず無理をして振舞っていた…
 そして今も、襲える絶好のチャンスだと云うのに身体は動こうとしない。動かせない。
 教官は解っていたのだ。派手振舞っているその内側にある、ちっぽけな久我 応馬という糞餓鬼の本質を。
(悔しいなぁ…でも、ここで本当に襲って試験に影響与えるのもなぁ…)
 結局のところ、久我にはその程度の覚悟しかないのだ。
 源 雫のような明確な目的があるわけでもなく、森上 悠希のような確固たる信念があるわけでもなく、齋藤 綾華のような希望に溢れた目標があるわけでもなく、勝名 澄子のような執念があるわけでもなく、朝倉 都のように何かに対し頑張れる根性があるわけでもない。
『軍隊に入れば女の子と一杯エッチできる』という程度の目的の久我に、他の分隊員の足を引っ張る度胸など、あるはずがなかった。
 だから、今までいい様に雫達からの制裁を受け入れきた。そうすることで、自分の虚勢を騙すことができたから。
「あーヤダヤダ、後ろ暗いのはオレの性分じゃないって」
 頭の上に圧し掛かる暗い雲を払い落とすように手をバタつかせ、立ち上がる。
「悔しいからトラップ解除しよ~っと」
 その程度のことすらに言い訳を求める自分に嫌気が刺す。
 でも、それが自分なのだ。それが久我 応馬なのだ。
 小さい自分なりに立ち振る舞うしかない。今はそうすることでしか、分隊に貢献できない。
(ちっちぇなぁ…ちっちぇなぁ…)と、何度もブツブツ呟きながら。
「ん………ぅ…」
「呑気もんだよ、オレのハニーは…」
 苦笑しながらも、その寝顔の前では悪態も吐けない。
 でも、それで良い。女の子を言葉で貶す趣味はない。
「…ぅ…ん………くが…さん…」
 なにやら寝言を呟いている。その寝言の中に、自分の名前があったのに気付くのに少しだけ時間を要した。
「………ぁきらめないで………なら、できます…から…」
「………夢の中のオレも、駄目人間なんだなぁ」
 まぁ、それがこの分隊での久我の立ち位置なのだろう。そのことについては甘んじて受け入れよう。むしろ、トップがいるこの分隊の中で、自分の順位など底辺にしかなれないのだから。
「…しんじてます…から……すぅ…すぅ…」
「………えぇー?」
 信じる―――そう聞こえた。どういう夢を見てるんだ、この娘はと、強く思う。
 よほど普段の自分は信用に足りないということなのか、はたまた実はそれだけ信じられているのか…
 が、
「それでも、さ…」
 ふつふつと、何かが腹の底から湧き上がってくる。
”それ”は久しく忘れていたものだ。
 むしろ、”それ”を切り離してきたつもりだった。
 だが、今は違う。
 ………少し、悠希達に感化されてしまったのだろうか?
 それでも、今は割とどうでも良い。
「信じられちゃぁ仕方がないよねぇ!」
 所詮寝言。本心ではない。
 本人の口から出た言葉であっても、夢の中の久我に対して云った言葉であり、現実の久我に云った言葉ではない。
 それでも。
 あぁ、それでも。
 だからこそ。
 そうだからこそ。
(信じてくれると云ってくれた娘を裏切れるわけがないっしょ!)
 この時だけ、久我はいつもの女の尻を追うだけの軟派な男をやめた。
 それが良い事なのか悪いことなのか、それはまだ解らない。だけれども。
 久我は今この一時だけの間、己がポリシーを捨てる。
 その間、朝倉 都はすやすやと穏やかな寝息を立て続けていた。
 久我の熱気など、どうでも云いと云わんばかりに。
最終更新:2010年04月08日 02:24
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。