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5日目・後編

 ―――1時間経過―――
 つい20分前からバケツをひっくり返したような大粒の雨が降り注いでいた。
 もはや雨が木々や葉を叩く音以外聞こえない。
 視界も悪く、明りのない森の中を行軍するのは危険と判断し、雫は見通しのよい沿岸付近を移動することを選んだ。
 無論、こちらはこちらで波にさらわれる危険性もあったが、海面より高い位置にある岩場や森と沿岸の境目になってる箇所を選び、そこを少しずつ移動していく。
 ………本来なら移動せず弱まるのを待つべきなのだろうが、狙われている以上、そうも云ってられない。
 また、夏場とは云えこの大雨により体温も奪われてしまっているため、少しでも体温を保つためには動かざる得なかった。
(本当なら、これで体を洗いたいのだけれど…)
 女子陣全員がそんなことを思うが、今はそんな余裕はない。そういう意味では、彼女らの歩兵装甲に対する怒りは察するに余りある。
 今すぐにでもBDUを今すぐ脱いで全身を洗いたい。久我の眼があるが、そんなことは気にもならない。
 早く洗いたい…脱ぎたい。でも、ずぶ濡れのまま行軍せざる得ない。
 それが強いストレスとなって、全員の意識が散漫になってしまう。
 良くないことだとは解っているが、それでもそこは”女”を捨てきれない年頃の娘達。
 状況を正しく理解していても、欲求まではまだキチンと制御できていなかった。
 その強い雨脚も気持ち弱まると、視界も僅かに把握できるようになる。そうなることで、より早くにトラップを発見しやすくなってきた。
 やがて、以前解除したトラップの1つを森の方で発見する。
「これは…迎撃用の機関銃…ですよね?」
 雨に濡れて黒光りするその機銃を持ち上げながら、綾華が尋ねる。
 それに答えるように、雫は説明を始めた。
「対物センサー付きのシリコン弾入りのね。対物センサーは別の場所にあって、外しさえすれば使えると思うわ」
「で、これを担いで小銃代わりにするってンだな」
「ないよりはマシ…ってレベルだけれどね。相手は歩兵装甲だし、シリコン弾程度じゃ豆鉄砲と同じよ」
「でもでも、これである程度は抵抗できるようになったら良いんではないでしょうか?」
「いやぁ都っち。それだったらもっといっぱい欲しくない?」
 久我の指摘に、雫が強く頷く。
「そう。豆鉄砲でも数があればそれなりに脅威になるわ。だから可能な限り、これと同じようなのをかき集めて。
 他のトラップでもいいけど、今はこの私達を妨害するものが最大の武器になるのだからね」
『了解!』
 目的を再確認した後、雫達は雨脚が弱まって来たのを確認してから森の中へ入っていく。
 今の状態では、歩兵装甲に見つかったら逃げるに逃げられないのだから。

 ドシャ降りの中を悠希は走り抜ける。
 雨水が足場を悪くしてるが、師との修行では霙でぬかるんだ山肌の中を走り抜けたのを筆頭に、無闇に酷い足場での走り込みをやってたこともあるせいか、まったく苦にならない。
 直感でも滑る・滑らないの感触は解るし、そのお陰で図体ばかりでかい歩兵装甲との差を大きく開いていく。
 やはり色々経験しておくものだと、強く感じ入る。
 歩兵装甲は踏ん張りが利かないぬかるむ足場と邪魔な樹木により、思った以上に移動速度が悪い。このまま引き離すのも手だが、囮ということを加味するともう少し引き付けておいた方が良いだろう。
 とは云え、手持ちの投擲武器は全て使い果たしたし、石程度では意味を成さない。
 となれば―――
「ボウガンがあったな、そういえば…」
 都が引っかかり、そして止めた、殺傷能力ありのボウガン。
 歩兵装甲相手にどこまで通用するかは謎だが、今のナイフ1本だけという状態に比べたら大きな戦力向上だ。
 幸い、この先にあるはず。矢の位置も大体は覚えている。なら、行くに越した事は無い。
「くかかっ…!」
 口元が知らず釣り上がる。心底楽しそうに。
 先程痛い目を見たというのに、まだ気が高揚している。
(まだだ…!まだ俺は全てを出し切ってない!俺はまだまだ本気じゃない!)
 全力を出し切っていない事への余裕なのか、あるいは闘争心が燃え盛っているのか。
 いくらでも抵抗手段が思いつく。まるで湧き水の如く、あらゆる状況を想定して。
 ただ、頭の中は加速していても、体はそうも行かない。今は逃げの一手しか打てないのには変わりない。
(ともかく、今はボウガンの回収だな!)
「くははははっ!くははははははははっ!」
 素早く身を翻し、悠希は森の中を駆け抜ける。
 わざと歩兵装甲に見えるように。
 その姿を大きく見せながら。

 ―――2時間経過―――
 雨脚は大分弱まり、日本でもよく見る程度にまで落ち着いていた。
 山から流れる濁った雨水があるものの、行軍できないわけではない。
 雫達は順調に移動とトラップの回収を続けていた。
 とは云え、直接的な攻撃に使えるものは殆ど無く、どれもがワイヤー系か閃光手榴弾に属するものばかりだった。1時間前に見つけた機銃は、運が良かったか、あるいは極めて稀な種類だったのだろう。
 また、回収できた量を見ると、そろそろ持ち歩いての行軍は厳しくなってきている。そうでなくとも、この分隊に力持ちそう多くはない。男の久我は最初こそ率先して持っていたものの、すぐに弱音を吐き勝名と交代した。その勝名も、「女性としては力がある」程度で、やはり持ち歩くにはやや荷が勝っていた。それでも受け持った以上は弱音を吐かない辺りは、誰よりも根性があると云えるだろう。
「勝名さん、代わりますか…?」
「やっ…しんどいのは確かだけどよ、まだ我慢できる範囲だから気にすんなって」
「でも………」
「それよりも、都は体力を温存することを考えな。これから間違いなく、この森っつーか、山っつーか、とにかくこの中を走ることになるんだし、よ」
「………そう、ですよね。ごめんなさい、変なこと云ってしまって」
「いいって、いいって。ほら、とにかく進めよ」
 とは云え、それにオンブに抱っこされてるわけにもいかない。そろそろ1次迎撃体勢を整えたいところだ。雫はそう考える。
 何も一箇所で迎撃体勢を整える必要は無い。幾つかに分け、時間を稼いだ方が効率的だ。
 場所は島の東南側。位置的には氷室が指定した東の崖に気持ち近い。が、後生大事に抱えるわけにも行かないし、それで脚を遅くしていては本末転倒だ。
「みんな、ここで一度迎撃ラインを構築するわよ。
 優先はワイヤートラップ。閃光手榴弾よりも確実な物理的対抗手段なのは解るわね?
 閃光手榴弾は2個を残して他はこの辺に積んでおいて。今は邪魔だから」
 雫は自身が知るトラップ構築を最大限に発揮してラインを形成していく。
(………悠希ならもっと上手いラインを構築できるのだろう)にという、皮肉交じりの想いを押し殺しながら。
 それでも、できる努力をしていくしかなかった。 

「っ―――とっ」
(ちと、これは厳しいな…!)
 振り下ろされ、振り回されるスレイブ・モジュールを間髪で避けながら、そんな事を思う。
 わざとらしく見せ付けすぎたのか、あるいは向こうのパワーを甘く見ていたのか………
 思いのほか早く間合いを詰められ、こうして一方的な白兵戦を強いられている。
 攻撃するならまだしも、避けに専念する分ならそう難しいことではない。問題は動くタイミングくらいだろう。それも体がほぼ勝手に動いてくれる分、なおの事それほど苦労はしていない。2時間くらい前に受けたダメージも、そう深くはないようで動く分には問題ない。
 よって、今出来ることは、とにかく逃げながらボウガンの元へと行くことだけ。
 しかしこちらはそう余裕があるわけでもない。いくら避けるのに専念しているとは云え、かなりギリギリのところを綱渡りしている。
 幸いと云うべきか、奇妙と見るべきか、向こうは「わざとか?」と思いたくなるほど単調な動きだ。もっとも、その図体で複雑な動きをされても困るのだが。当たる面積も、威力も、生身の悠希とは比べ物にならないほど広く大きいのだから。
 が、それは同時にこの最高のスリルを、経験を与えてくれる。一種の恐怖中毒者(スリルジャンキー)とも云える感覚が、悠希の心を支配していく。
 半分意図してギリギリのところを狙って避ける。どんなに人間の動きを追従できるように作られていると云っても、細かい機微までは再現できはしない。その太く変形する柔軟な装甲でもないスレイブ・モジュールでは腕組みができないように、その図体故の微妙な誤差、挙動の隙を突いている。
 頭で”なんとなく”解った事を、そのまま実践できるこの状態に歪な笑みを浮かべる。
 この状況はすこぶる楽しい。それに、
「ふ…っ!」
 樹木を背にし追い込まれたように見せかけ、その誘いに乗った歩兵装甲が大振りの一撃を放つ。それを直前のところで回避し、そのモジュールが樹木を砕く。
 こうすること何十回。地道な作業は続く。
(暴走通りというか、ちょっとした誘いに乗りやすいな…)
 これがわざとなのか、本気なのかはわからない。何せ機械相手だ。人間のように小難しい策略を練ってると考えて行動してるものの、ここまで”ハマって”くれてる辺り、これが本気な気がしなくもなく。
 と、
「―――よしっ!」
 目的の地点に到着!即座に歩兵装甲に対して大きく距離を取り、手早く目的の代物、ボゥガンを探す。
 それは黒光りして周囲に溶け込んでいたもののすぐに発見し、固定していた枝ごとナイフを使って叩き斬るように外す。が、枝からはずれたものの、”パキンッ”というスーパーカーボン特有の妙に軽い音を立てながら、ナイフの刀身が根元から、折れた。
「ちぃっ!」
 使い過ぎた事への後悔よりも、反省よりも先に折れた刀身を拾い上げ、”それ”を近寄る歩兵装甲めがけ放つ。
 が、当然今まであの塊に叩きつけていた刀身である。刺さることも、傷つけることもなく装甲に阻まれ、むなしく地面に落ちた。
 その間にも歩兵装甲は悠希に迫る。追われる側、悠希はそれでも付近に落ちてるはずの矢を急いで探す。が、見つからない。
 何度か避けて見せるがいよいよ危うくなってきた―――と、その時歩兵装甲の足元に矢が転がってるのを発見。
”行く”か”行かざるべき”か………そんな一瞬の迷いも見せず、悠希はそこへ飛び込む。迷う時間よりも、動く時間を優先したのだ。
 スライディングで通り抜け、通り抜ける直前振り下ろされるが紙一重でかわし矢を回収。そのまま背を向けたまま悠希はその場から離れだす。
 目的のものを回収した以上、使えるように加工する時間も考え、脅威から離れる必要があった。
 その間、思考を巡らせる時間はほぼ皆無。ただ直感にも似た発想のみが、彼を突き動かしていた。

 ―――3時間経過―――
 1次防衛ラインの構築を終えた雫達は、新たなる防衛ラインを構築するためのトラップ集めを進めていた。
 雨も大分収まり、小雨程度に落ち着いた今の状況なら、ある程度歩兵装甲が出す音は判別できる。そうであると信じ、その上で雫はトラップの回収を急がせていた。
(まだ移動音が聞こえない事と、悠希が未だ戻らないという事実…
 この2つだけで判断できる事は、まだ単独で引き付けてることくらい…ね)
 それしか、ない。それしか判断材料がないのだ。
 体内時計は大雑把にしか働いてないが、もう既に3時間が経過している。
 予定の時間からはまだまだ間があるが、そろそろ悠希の意見も聞きたいし、状況も知りたい。
「おい、分隊長!そろそろ荷物が増えて動けなくなってきたぞ!?」
 勝名が両手に抱え切れそうにない量のトラップを抱えながらそう叫ぶ。
「作戦行動中よ、声を抑えてっ。
 それより綾華、ちょっといい」
「はい、なんでしょう?」
「都を連れて西側を軽く見てきて。木に登って………は、悠希じゃないから無理か…
 とにかく、ちょっと向こうの状況が知りたいから偵察をお願い」
 判断材料が少ないなら、増やせば良い。
 増やすには動くしかない。となれば、偵察しかない。
 このまま当てずっぽうに防衛ラインを構築して迎撃するよりも、ある程度予測が立てられるようにして物事を決めて行った方が良い。
 と、いう順序の考えは綾華も同じだったのか、特に反対することなく雫の指示に従う。
「了解しました。都さん、偵察に行きますから一緒に来てください」
「は、はい!」
 取り外したトラップを地面に置き、手早く綾華と共に動き出す。
 その背を見送った雫は次にどうするか考えをまとめる。
「で、荷物どうすんだよ!?」
「少し北に移動して、そこに2次防衛ラインを構築するわよ。それまで我慢して」
「ちっ、わーったよ」
「返事は”了解”」
「はいはいはい、りょーかいりょーかい!」
「カッチーナ、声抑えようぜ?」
「そう思うなら荷物持ちやがれっ、この野郎!」
「遊んでないで移動するわよ2人とも」
 悠希のことは心配だが、今はとにかく迎撃体勢を整えるのが先決だろう。それが解っているからこそ、雫は表にそのことは極力出さず、やるべきことに集中している。
 自身がまだ、その歩兵装甲を見てないことが少々気がかりではあるが、今はとにかく、準備を怠らないよう努力するしかない。
 実際のところ、雫も他人を心配していられる余裕は、なかった。

 やはり森林の中は生身の悠希の方に分があった。
 木々が密集していたり、地形も傾斜が多い等の場所を選んで逃げようと思えば、あっという間に引き離せるあたり、先程のは余裕の見過ぎだったのだろうか。
 かと云って、大きく引き離し過ぎても良くない。自身が今、囮であることを忘れてはいけない。
 わざと見える位置で歩みを遅くし、追いかけられると判断できる距離を維持しつつ、ボゥガンの加工を行う。このままではろくに撃てないし、弦を真っ当に引っ張ることもできない。
 射撃はともかくとして、使えるよう加工しておくことは、決して悪いことはない。
 そんな紙一重というか、少々危険が勝ち過ぎる状況が続いてる。
 そもそも、逃げてる最中にこんな工作作業など、普通はしないものだ。にも関わらず、それをする自分に、心のどこかで違和感を感じてはいた。
 しかしそんな違和感を拭う間もなく、歩兵装甲はなおも悠希を追い続ける。
(さて、問題はこの先どうするか、だ…)
 ボゥガンを直したところで、自分が使ってはせっかくの矢を捨てるのも同じだ。よって、これは使えない。
 とは云え、単騎で相手するには装備が脆弱だ。というか、ない。素手でカーボンの塊を殴るのは流石に阿呆のすることだ。
 本体だと思っていた部分は大分腐っていたのか、腐敗した肉が下に行って強化服が大分ダブついているのが見て取れる。しかも無遠慮に揺らされているから、もげた首からその内容物が歩く度に漏れている。それによって正面が云いようのない混沌とした汚れに彩られつつあった。
 あそこまで変形していると、あの部分を打撃を与えたところで無意味だろう。もっとも、強化服の上から打撃が通じるとは思ってもいないし、そもそもあの歩兵装甲は”衛士がいないのに動いている”のだ。
 となれば、相手すべきはあの位置ではなく、制御ユニットが詰まった背部モジュール。
(んなことは解ってる。だがまともな火力がねぇんだよ…っ)
 携行火器としては安定した火力を持つRPG-7でもあれば楽なんだろうが、生憎とそんな物騒なものはない。対物ライフルすら、ない。
 そう、何もないのだ。
 今抱えているボゥガンも、実際通用するかもわからない。何もないよりかは良いだろうと持ってはいるものの、それは結局、代わりに失ったナイフと同じでしかない。
「………引き際、だな」
 いいだけ時間は稼いだはずだ。このまま相手していても、殺されることはあっても勝てる見込みなんてない。
 ゆっくりと、あれを誘導しつつ後退しよう。
 雫達と合流したいが、位置が解らない以上、どうすることもできない。
(ひとまずこのまま東に移動するか…)
 西に誘導していたのから今度は東へ。
 馬鹿のように簡単に釣られる歩兵装甲を引き連れて、悠希は東へと向かう。
 状況は、ゆっくりと変化していた。


 ―――4時間経過―――
 雫は勝名・久我の2名を引き連れて、ひたすらトラップの回収に勤しむ。
 状況がわからない以上、これしかする事がないというのもあるが。
 しかし、これといった強力なトラップは見つからない。
 シリコン弾が装填されたクレイモアなんて物もあったが、使い道はそう多くはない。そんな微妙なトラップをひたすらかき集めるものの、どれも決定打になるものは存在しない。
(時間まで足止め出来てればいいから、そこはまぁ、いいんだけど…)
 そう、最悪時間さけ稼げれば良い。それさえなんとかなれば、後は教官がなんとかしてくれる。
 体感時間にして、残り3時間。分厚い雲の向こうから微かに覗く月の位置から見ても、大体はそんな時間。
(正直、厳しいわね。歩兵装甲は確実に正規の装甲だろうし、それを抜くための装備がないなんて…)
 真っ当な火器が1つも無いことがここまで恐ろしいとは思わなかった。
 普段は持ち歩かない代物でも、いざ欲しい時に手元にないというのは、こんなにも心許ないのか。
 地に脚が付いてないような、妙にふわついた感覚が両足に残り、心の底にはドライアイスで象った座布団が鎮座している。
「しっかし、森りんも凄いよね。歩兵装甲相手に単騎ってさ」
「あぁ?確かにな。普通思いついてもやらねぇもんだけどよ」
「一歩間違えば死ぬってか、普通に死ぬよね、それ。なんでやろうって思ったんだか」
「そりゃ、お前―――」
 久我の問いに、勝名が雫に目を配る。それだけで久我は合点がいったかのように、手を叩く。
『雫のためならば』と公言してはばからない悠希だ。まぁ、当然と云えよう。
「なるなる、つまり雫ちゃんのためならえんやこらー!ってことか。これって”愛”だよね?」
「ブンタイチョー、久我ガ風邪ヒイタミタイデース」
「えぇ…ちょっと、年甲斐もなくその…風邪ひいちゃいましてね…って、その対応は寂しいと思うよ!?」
「ならどんなのが良いんだよ?」
「こういう時の反応はね、”な、なんだってー!?”っていうのが相場なんよカッチーナ」
「………ナンダッテー」
「もっと感情を込めて!」
「なんだってー」
「もっと!モット!己の魂が燃え盛ってるがごと―――オーガニック!?」
「ちょーし乗んなや!」
「サーイエッサー…」
「………そろそろ、遊ぶのは自重してね?」
「「了解っ」」
 悪ふざけが過ぎたことを素直に謝罪する意味も込め、2人は敬礼を含めて返事する。
 雨もほぼ完全に上がったのはいいが、相変わらず歩兵装甲が出す異音は聞こえない。
 それが良いことなのか、悪いことなのか。判断に困るところだ。
 あまり聞こえないのも後々面倒なのだが、今聞こえられても余計に面倒だ。
 状況が悪い中で好転してるようも見えない今の状況………雫には、悪い方へ転がってると受け取ることにした。
 そうすれば、余計な期待を持たずに済むし、悪転した時でもありのまま状況を受け入れられる余裕を持つことができる。
 だから、準備は怠ってはいられない。
 特にこの場合、準備はし過ぎてもし足りないくらいだ。徹底しとくに限る。
「できればこの辺から迎撃して行きたいのだけれどねぇ…」
「なんでだ?どこでも同じだろ、こんなの付け焼刃みたいなもんなんだし」
「それでもよ。そうでなくてもこっちが不利なのは変わりないんだから、少しでも有利な状況を作っておかないと。
 こんな場所で死にたくはないでしょ?」
「それは確かに」
「なるほどなー」
「解ったならほら、設置を急いで―――」
 そう促した途端、雷でも落ちたかのような激しい音が山の方から響いた。
「何っ!?」「うぉあ!?」「なななな何、何!?」
 咄嗟にその方角を振り返る3人。
 その方向には―――

 偵察行動故に、慎重に進む綾華と都。
 それは歩兵装甲を警戒しての行動だが、同時に「まだ解除し切れてないトラップがあるやも?」という心理が働いての行動でもあった。
 状態はそう良くはない。ただでさえ足元は濡れているのに、その足元は腐葉土で滑りやすくなっている。しかも既に空から光が消えて久しい。
 ただでさえ眼が悪い綾華である。この状態でしかも森林の中を動くというのは、余計に眼を悪くすることにもなった。
 が、その事でグダグダ云っている暇はない。一歩間違えれば命の危険に晒されている状況は、悠希だけでなく自分達も同じなのだ。
 歩む足を時折止めつつ、周囲に意識を集中する。
「森上さんはどこまで行ったのでしょう…?1人で歩兵装甲を相手するなんて、そうはできないとは思いますが。
 ………もしかしたら、やられたんじゃ…」
「悠希さんならきっと大丈夫です。あんな凄い人、そうはいないと思います」
「そう………です、よ、ね」
 一瞬ネガティヴな方向へ考えが逸れた自分が恨めしい。
 そんな綾華に対し、しっかり信じられる都の言葉は、やけに眩しかった。
「都さんは、森上さんのことを心から信じてるんですね」
「はいっ、当然です。私は悠希さんを信じてますから」
 信じています………その言葉が、やけに重く聞こえた。
 なんてことはない、ありふれた言葉のはなずなのに。
 誰だって口にする、簡単な言葉なはずなのに。
『………何か、あったんですか?』
 と、言葉が喉まで出かけるが、それを飲み込む。
 今はそのことを追及している場合ではない。
 悠希の陽動が効いてる場合、そろそろ合流しようと動くはずだ。そう何時間も時間を稼げるわけでもない。どんなに体力があっても、2・3時間しか陽動…というより、囮ができるわけがない。
 彼の上限を加味しても、やはりその時間がギリギリであるはず。
 となれば、そろそろ動く音が聞こえるはずなのだが………
「こう樹木が多いと、音もあまりしませんね…」
「そうですね…しかもどしゃぶりの後ですし」
 雨音はいくらでもするし、風が出れば樹の葉が擦れ合う。動物が動けば草は揺れ、枯れ木は折れる。
 音に溢れたこの森の中で特定の異音を探すのは難しいと、云わざる得ない。それでも、2人は耳に神経を集中し、眼を皿にして、肌に感じる空気の振動を読み、足から伝わる歩む音に意識を傾ける。
「………ぇ?」
 と、都の目に暗い森の中を動き回る何かが映った。
「どうしました?」
「あれ―――」
 指差そうとした瞬間、何かが樹木を”叩き折った”。
「きゃぁ!?」「な、何が!?」
 叩き折られた樹木から、何かが飛び降りる。それは都達の前に着地し、
「都に、綾華!?」
 そのモノ、森上 悠希は驚いて見せた。
「ゆ、悠希さん…っ!?」「ひ…っ!」
 同時に2人も驚く。突然出てきた事に―――ではなく、その顔に。
 驚く直前の、悠希の恐ろしく、歪で、そして楽しそうな顔が、頭の中に張り付く。
 やはり、勘違いではなかった。間違いなく、この状況を楽しんでる。
 2人はそう強く思わずにはいられなかった。
「驚いてる場合か!」
 突如現れた悠希は、硬直してる都達を抱き抱え、そのまま走り出す。
 硬直したままの2人は、丁度悠希の後ろを見る形となり、となると必然、荒れ狂う歩兵装甲を直視する事となり、
「う…っ!」
「ひぃ…っ」
 草木を力だけでなぎ倒す歩兵装甲への物理的な恐怖と、人”だった”ものが入っている強化服から溢れる、ぐずぐずに崩れた遺物への嫌悪感と精神的恐怖が入り混じった悲鳴を2人は上げた。これのお陰か、悠希に対する恐怖とか、嫌悪感が、一時的とは云えものの見事にそちらへとスライドし、頭の中から悠希へのことが吹き飛んだ。
 そして幸い………と、云うべきか、歩兵装甲との距離はグングン離れていく。軽いとは云え、人間2人を抱えてもなおこの動きができる悠希に驚くものの、それは今の状況と比べたら遥かにどうでも良かった。
「って………森上さん、まさか今までずっとあれと追いかけっこを!?」
「あぁ!でも、そろそろ限界なんで戻ってきた!」
「戻ってきたって……」
 サイズの差で辛うじて速度の優位を確保してるお陰で余裕はあるものの、流石に使う力が増えた分声にいつもより苦しさが混じっている。
 迫る歩兵装甲は絡まるツタや枝をなぎ倒し、しかしややおぼつかない足取りで3人を追う。
「綾華っ、背中のを頼む!走りにくいっ」
「背中…って、ボゥガン?」
 悠希が脚を踏みしめる度に身体に当たるものを見ると、それはツタ製の即席ベルトで吊るされたボゥガンだった。
 弦は引かれてあるものの、弾体である矢は装填されていない。矢はベルトに挟まっており、その矢尻が僅かに綾華の豊満な胸を突いている。その事で若干の嫌悪感を持つが、その半分腹いせが混じった動作で、即席ベルトを引き千切るようにボゥガンを取った。次いで矢を取ろうとするが、
「矢は温存しとけっ、今使っても外れるだけだっ」
 移動射撃は散々やってきた。が、それは殆どが平地でのことで、凹凸が激しい上に人に抱えられての状況では、まず当たらないだろう。
「それはそれとして!」
 小さく崖になった地形に飛び降りるなり、2人を下ろす。
「分隊長と合流したい。位置はわかるか?」
「はい、どの方向に行ったか程度ですが―――」
 都がそう答えた直後、不意に”ズンッ”と重い音が。
「っ!」
「「きゃっ!?」」
 悠希は咄嗟に2人を突き飛ばし、自身もその直後に飛び退く。その刹那、3人が立っていた場所に歩兵装甲が飛び降りる!
 勢いあまり、悠希は背にあった露出した大岩に背中を強かに打ち付ける。肺の空気が一気に無くなり、一瞬呼吸困難に陥る。が、目の前に振り下ろされるスレイヴ・モジュールを認識し、動かない体を意地で動かし間髪のところで避けてみせる。スレイヴ・モジュールはその有り余るパワーによって大岩を砕き、破片が悠希に降り注ぐ。盛大な音が鳴り響いた。
「ぅ…っ!かはっ」
 無酸素状態と叩きつけられる破片による痛みに、悲鳴らしい悲鳴を上げることができない。そこから1テンポ遅れて、ようやく呼吸を取り戻し、右回りで歩兵装甲を誘う。
「っ…、2人は……っ、先行しろ…!早く…っ」
 酸素がまだ十分に行き届いてない。その中で辛うじて指示を出し、裏拳の要領で振り回されたスレイヴ・モジュールの下を潜り抜ける。空振りとなったモジュールが崖の土を爆ぜさせ、緩くなった土がそのまま崩れる。
 埋もれそうなところをモジュールに掴まってよじ登り、邪魔そうに振り回す反動を利用して砕けた岩の向こうへ飛び移る。
「悠希さんっ!こっちです!」
 指示通り先に動いていた都が手を振って先行した位置を知らせる。
 一寸、(もう少し時間を稼ぐべきか?)と思うが、もうそれも限界そうだと思い直し、悠希は都たちの方へ走っていった。


 ―――5時間経過―――
 尾を引く爆音と、何かが崩れる音、そして断続的に聞こえる木々がなぎ倒される音。
 そして―――どんどん近づいてくる、その音。
 それに急かされるように、いや急かされて雫達は迎撃ラインの構築を進めていく。
 結局、実弾を装填したトラップは見つけられなかった。意外と探すと出てこないものだと、うんざりしながら作業を進める。
 幸い、沿岸で見つけた同機種のシリコン弾入りの機関銃を発見し、火力はそれなりに確保。とは云え「無いよりマシ」程度の装備ではあるのだが。
 トラップをバラした即席ワイヤーを太い幹を選んでくくりつけ、その鼻先に閃光手榴弾をぶら下げる。無いなりの悪あがきという奴だ。
「綾華達はまだかよ?」
「気にはかけてるけど、来ない以上どうすることもできないわ。
 ただ、音がこっちに近づいてるところを見ると、誰かがこちらに誘導してる可能性はあるわね」
「対人センサーの可能性は?」
「それだったらもっと前に歩兵装甲は私達を襲ってない?そうではない以上、センサーで私達を把握してる可能性は低いわ」
「なるほどなー」
「っと、トラップの設置完了!で、雫ちゃん。この機関銃はどうすんの?」
「センサーは私が持つから、2人は銃本体を持って。
 実際の運用では、私の合図で銃身を歩兵装甲に向けるだけ。後は私がセンサーを使ってトリガーになるわ」
「「了解」」
 準備はできた。後は上手く歩兵装甲を誘導できるかが勝負となる。
 音は大分近くに来ている。となれば、もう動いて次の防衛ラインの構築―――というわけにも行かなくなった。
「2人とも、ここを第1次防衛ラインとし、迎撃体勢に入るわ。
 構え!」
 合図と同時に、2人は銃を近づいてくる音の方へ向ける。
 大分雲が薄くなってきたとは云え、森の中は暗く、月明かりは殆ど差し込まない。大分目が慣れているとは云え、この状態で閃光手榴弾を使ってしまったら自分達も危うい。使う上で相当気をつける必要がある。
 音は大分近い。激しい音と、それに紛れて小さい音も聞こえる。これは一体?
 少しずつ前進して様子を見ながら辺りを注意深く見渡す。
 と、思っている内に、視界に何かが過ぎった。
「11時!」
 指示された方向に咄嗟に向ける。と、
「ま、待ってください!」「私達です!」
「都と、綾華か?」
 2人を確認すると、雫は勝名達に銃を下ろすよう指示を出す。
「2人とも、無事?」
「は、はい!それよりも!」
「歩兵装甲がすぐそこまで来てます!今、森上さんが時間を稼いでますから、迎撃の準備を!」
 そう悲鳴に近い声を上げたと同時に、
「うぁ!?」「きゃぁ!?」「ひぃぃぃぃっ!?」
 闇の向こうから、歩兵装甲が現れた。
 木々をなぎ倒し、自身にぶつかる枝で装甲を引っかき傷を作りながら。
 ただ無言で。ただ寡黙に。ただひたすらに。
 その重厚な、異星生命体と戦うための装甲を今、人へ向けて。
「か、構え!」
 今初めて見るその装甲に、雫は思わずそう叫んでしまう。そして同時に、狙うべき対象を見た時、そこにあるべき”モノ”が、歪な形でぶら下がっていることに気付き、頭の中が真っ白になってしまった。
 その事に気付いた綾華が、慌てて駆け寄り、そして揺さぶる。
「しっかりしてください!今はそんな場合では!」
「―――っ!ごめん、綾華…っ!全員後退、例の場所に!」
 例の場所。つまり、少し下がった位置にある迎撃ラインと云う名の、トラップの群へ。
 と、その直後、雫達と歩兵装甲との間に何かが降って来た。
 泥だらけの悠希だ。
「悠希!?」
「先に行け!俺が誘導する…っ!」
 あちこちに引っかき傷を残したまま、悠希は素手で白兵戦を挑む。
 阿呆と罵ることもできたが、今はその時間も惜しい。悠希はトラップ群の位置を知らないのだから、どの道こちらが位置を知らせる必要があった。
 振り回されるスレイヴ・モジュールと、無遠慮に持ち上がるレッグ・モジュールを間髪で避けながら、頭部付近にあるセンサーユニットに肘鉄を叩き込む。拳で殴るよりも威力が高い反面、肉薄しなければならない技だが、手持ちが何もないのなら、これしかないのだと、そう云わんばかりに果敢にも間合いを詰めていく。
 それをハラハラと心配そうに移動しながら見守る雫。勝名達を先導させ、都達にその後を追わせる。その一番後ろに付きながら移動する雫を、綾華は引っ張る。
「―――着いたぜ、分隊長!」
 勝名が叫ぶ。直後、雫は全員に「対閃光防御!」と、指示を出す。
 分隊員の位置を把握した悠希は、その地点に何かがあると判断。注視すれば、木の上から何かが、閃光手榴弾がぶら下がっているのが見えた。
(つまり、あそこに誘導しろってことか………!)
 そう判断すると、即座に誘導方向を変更。そして、すぐに”そこ”へ誘われていく。
 1歩踏み出す毎に振り回されるスレイヴ・モジュールは、悠希を捉えることなく、しかし地味にかすりながら追い詰めていく。
 と、流石に動き続けてた弊害が出てくる。脚に疲労が、じんわりと出てきたのだ。
(ちっ…!あと少しなんだ…よ!)
 膝に力が入らなくなってきた。まだ動かなければならないというのに。
「ふっ…!」
 真上から振り下ろされるその巨大な拳を、全力に近い両足の跳躍をもって、回避と同時に間合いを取る。受身を考慮していない跳躍で、背中を強かに打ちつけ、肺から酸素が根こそぎ消え去る。それを我慢しながら、さらに後ろへと転がっていくと、歩兵装甲はそれを追ってきた。
 直後、空気が吐き出される放出音と共に歩兵装甲に”何か”が絡みついく!
 それは、初日に悠希が都に分解するよう指示を出したトラップと、同型のワイヤートラップだった。それが歩兵装甲の手足に絡みつき、大きく動きを妨げる。
 そのセンサーの眼と鼻の先にある、閃光手榴弾がもがく装甲にぶつかって”コンッ、コンッ”と乾いた音を鳴り響かせる。と、ぶつかる衝撃で落ちるよう細工がされた閃光手榴弾が不規則に落ち出し、数瞬の間を置いて―――炸裂っ!眩い閃光と強烈な爆音が立て続けに爆ぜる。
「―――つぁッ!」
 直前に耳と眼を塞いだが、至近距離ではあまり意味を為さない。眼は暗闇に慣れていたせいで強い光は瞼越しにも伝わり、音は聞こえないというほどではないものの、周囲の音を出鱈目に拾ってしまう。
 しかし歩兵装甲に、もろに食らったようで、両スレイヴ・モジュールを地面につけ、姿勢の安定を図っている。恐らく、今ので光学センサーに一部支障が来たしたのだろう。
 なんとか視界に漂う残光を避けながら、その状態を確認していると、
「―――ぅきっ、こつちに…」
「は?」
(何故小声で声をかける?)と思うよりも早く、勝名が悠希をその場から引っ張り出した。
 口元を見ると、一応大声で云ってるのは確認できた。つまり、今耳が馬鹿になっているのを再度確認することに。
「今よ、構え!」
 雫はそんな悠希が射界から抜けたのを確認すると、号令を出す。ほぼ条件反射で動く久我と、勝名から機関銃を手渡された綾華。
 直後、センサーを起動させ、その前に自分の手をかざす。
 数瞬の間―――
「うぉあ!?」「きゃっ!」
 大袈裟なまでにけたたましい破裂音が森の中を埋め尽くす。その銃身から放たれるシリコン弾が、歩兵装甲の頑強な皮膚に吸い込まれてる。が、
「はりゃー、弾かれてるよ!?」「当たり前です!こっちはシリコン弾ですよ!?」
「頭部のセンサーを狙って!弱装弾なら数で押すの一手しかないわ!」
「「了解!」」
 生憎露光弾は装填されてない。それに、相応の大型マガジンを装填されているが、無駄撃ちもできない。
 この暗闇と閃光弾が残した残光の中で、なんとか見えるセンサーユニットに弾を当てていく2人。
 視界はまだ安定しておらず耳も調子が戻らない中で、そんな状態からでも状況を汲み取ろうと動く悠希。を、勝名は抑えに回った。
「今はじっとしてろってっ!脚に来てんだろ?」
「ぇ、なに?聞こえない」
「お前は何を云って………って、至近距離じゃしゃーねーか…」
「なんだって!?」
 耳が聞こえない―――それはある種の更年期障害でもあり、この発言だけは実に年寄り臭いものであった。
 それはともかくとして歩兵装甲を見れば、徐々にセンサーが復帰しているのか、やけに不規則だった動きが制御されたものへと戻っていく。それに指し示すように、ゆっくりと上体が起き上がっていくのが見えた。
 それが正常時の7割というところまで来た時、2人が同時に「弾切れ!」と報告。
「全員、第2次迎撃ラインにまで後退!急いで!」
『了解!』
「悠希さん、歩けますか?」
「あ…ぁぁ、大丈夫だ…!」
 大丈夫ではない。が、今は我慢して動かねばならないだろう。故に、足手まといになるような事もできない。
 都の手助けを辞退し、全員の後を追う。
 だが、耳と眼が不自由な身体では、まともに走ることも、ましてや今まで見せた軽やかな身のこなしができるはずもなく、斜めに走っては木々にぶつかるを繰り返してしまった。
「つぅ…っ、情けねぇ…」
 3度目の激突は横っ面を強かにぶつけることになり、その拍子で犬歯が口内を切り、血が溢れ出る。
 それを拭っていると、横に都がいるのに気付いた。
「悠希さん、やっぱり手伝います!」
 云うなや、都は悠希の脇に入り、そのまま悠希を支えるようにしながら先行した分隊員を追いはじめる。おんぶにだっこではないため、それほど重いはずではないのだが、気持ち歩みが遅い。
 ここで一瞬突っ撥ねることを頭の中で過ぎったが、かぶり振って頭の中から追い出す。
「…すまん、頼む」
「はいっ、任せてください!」
 都に支えてもらいながら、悠希は分隊員を追うことを決める。
 でなければ、余計な怪我を増やすだけだし、歩兵装甲に追いつかれては眼も当てられない。男の意地よりも、今は隊の事を優先すべきなのだと、そう強く思う事にする。
「急いで2人とも!もう少しで動き出すわ!」
 都は振り返り、同時に歩兵装甲が自身にまとわり付くワイヤーを引きちぎろうと悪戦苦闘しているのが見えた。
(既にこちらに気付いてるはずよ…早く距離を稼がないと…!)
 そう思うが早く、都は悠希を押して進み始める。
 支えるのが思いのほかきついというのは、ぐっと我慢して。
 悠希も知っているからこそ、何も云わず、できるだけ都に体重をかけないよう、真っ直ぐ歩くよう努めた。
 歩兵装甲はついに、ワイヤーを引きちぎって、301A分隊の追撃を再開した。
最終更新:2010年11月06日 21:48
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