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辛くもシャドウが送り込んだ死者たちの魔の手から逃れた物置内。
物置の操縦室では、イナバ製作所社長とゼクスが今後どうするか考えていた。

「さて、これからどうすべきか」
「今、この物置が向かっているのはヘルヘイムの森と化した都庁の近く……危険ですね」

ディケイドから逃れるためとはいえ、緊急脱出装置を使った弊害として都庁の近くに落ちようとしていた。
まさか都庁がヘルヘイムではなく対主催組織になっていることなど知らない物置組にとっては、都庁の近辺に落ちるということはヘルヘイムのインベスを刺激して攻撃される恐れがあると思い込んでいる。

「ネットで飛び交う情報だけでもかなりの戦闘力を有している……少なくともネームド狂信者に敗れた私のエピオンで倒すことも不可能だろう」
「格納庫に秘蔵のミレニアム・ファルコン号……武装を装備した宇宙船があり、あれの機動性なら都庁の攻撃を受ける前に急速離脱できるかもしれません。
 ただし、乗員は無理につめこんでもたかだか30名くらいが限界……とても避難民やクローントルーパーまで載せきれません」
「むう……どうにかならないものか」

一行のリーダー格であるイナバ社長とゼクスは打てる最善の策を探して思い悩んだ。
あと20分もすれば都庁の近くに着陸する。
それまでに決断を出さねばならない。

「このままでは埓があかない。私がエピオンのゼロシステムを使って未来を占ってみよう」

ゼクスが提案したのは戦場を超高度な情報分析によって最適な未来を割り出すゼロシステムの使用であった。

「アレを使うとあなたは消耗するのでは?」
「少しぐらいなら平気だ。
 そうでなくとも有事に備えてエンジンを暖める必要がある」
「わかりました。まだエピオンは万全とは行きませんが稼働率80%まで修理が済んでいます。
 何かわかりましたら格納庫から伝えてください」
「了解」

そしてゼクスは格納庫で眠る愛機の下へ向かった。


一方、物置内の居住ブロック。
医務室には怪我をしているベルナドットと、とある事情からほんの一瞬だけ怪物になりかけたクリスがいた。

「やれやれ……Lの旦那からざっくりと事情を聞いていたとはいえ、お嬢ちゃんの身に何があったんだか」

話によると、クリスが突然吸血鬼のようになり避難民を一人食ってしまったらしい。
シンフォギアも装備していたのでどうするか考えあぐねたところ、食人鬼・風鳴翼にそっくりな少女がクリスを人間に戻した。
その後、彼女は気絶し、医務室にて眠っている。
そんな眠り姫の寝顔は安らかで、とても食人に走った怪物には見えなかった。
ヘルシング機関で怪物を殺し、怪物と肩を並べたベルナドットだからこそ、それがわかった。

ちなみに犠牲になった避難民は野比玉子症候群を患ったタケシであり、クリスは実質誰も殺めてないのも救いであった。

【タケシ@ポケットモンスター 死亡】
死因:クリスに捕食された


場面はまた他の一室に移り、そこではテラカオス・ディーヴァの残滓を名乗る少女はLを中心にシマリス、レックス、ロビンから尋問を受けていた。
尋問と言っても堅苦しいことはなく単に話を聞くだけであり、都庁近辺にたどり着くまでに正体について可能な限り話してもらわないといけなかった。
とにもかくにも彼女には謎が多すぎるのである。

「それじゃあ『ツバサ』さん……話を聞きましょうか」
「ツバサって……私はテラカオス・ディーヴァの残滓であって風鳴翼では……」
「残滓が名前というのは少し可哀想そうでしょう。
 あなたの正体がどうであれ、名前がないのならば指名手配された風鳴翼に似ている以上、ツバサさんと便宜上呼ばせていただきます」
「……わかりました」

残滓はこの場ではツバサという名前を与えられ、尋問は始める。

「ではツバサさん、いくつか質問します。
 あなたは大半の記憶を失っているという話ですが、どこまで覚えていますか?
 そっくりな見た目をしてしますが風鳴翼の行方は?
 答えられる範囲で答えてください」
「わかりました」

ツバサは偽ることなく素直に答えていき、シマリスたちはそれを頑なに見守った。

「私がディーヴァから継承した記憶は少ないです。
 はっきりわかるのは私を生み出したのは指名手配された風鳴翼……テラカオス・ディーヴァであること。
 朧げに覚えているのは彼女は世界を救おうとしていたこと。
 都庁で何やら悪い想い出があった気がすること。
 沖縄でこの世界に生きるもの共通の敵が現れて風鳴翼が敗れたこと。
 ……残滓として復活する前に夢の中で誰かに世界を救うために因子を集めるように言われたこと。
 私の記憶にあるのはそこまでですね」
「ふむ、都庁の下りはヘルヘイムに何かひと悶着あったからとして、風鳴翼はどうして食人行為で人を救えると思ったのです?」
「そう思うようになった経緯は覚えてませんが、彼女なりの大義を持っていたと思います。
 たぶん、今の私のように人に触れただけで因子を吸収する力がなかったので、やむを得ず食べて因子を蓄えていたのかもしれません。
 手段は残酷ですが人を助けようとしていたのは本当です」

「先ほどから話に出ているテラカオスとは?」
「個人的な見解だと人の中に眠る混沌の因子を集められる特別な存在……でしょうか?
 ごめんなさい、私自身もあまりよくわからないのです」

「混沌の因子とは?」
「この世界に生きる人びとに必要な目に見えないエネルギー……常識を逸脱した存在ほど欠かせない物です。
 ただし、テラカオス以外は過剰に摂取すると死んでしまうようで……沖縄に現れた敵はこれを操る術を持っているようです」
「無いと困るが有りすぎても困るもの……酸素のようなものですかね」
「はい」

「クリスさんは混沌の因子に侵されたから食人鬼化したのでしょうか?」
「いえ、どちらかと言えば元々あった混沌の因子を何らかの手段で暴走させられ無理やり特別性の存在……先ほど言ったテラカオスに近いものにされていた感じがあります。
 ただ、テラカオスと言っても私と違い、強引に進化させられていた反動のせいで暴走していました。
 暴走した彼女を救うには混沌の因子と因子を暴走させる何かをギリギリ生存を保てるレベルまで私が吸収するしかありませんでした」
「……ふむ」

ここでLはいったん質問に一区切りをつけ、仲間たちと話す。

「うう~ん、難しすぎてさっぱりでェす」
「Lの旦那、あのお嬢ちゃんが嘘をついている可能性は?」
「演技であれば自ずとわかるものなのですが、目や仕草を見る限り嘘は言っていないようです。
 本当に記憶喪失状態でわかる範囲を素直に答えている感じでしたね」

名探偵であるLの目をもってしても、ツバサは嘘を言っていないという見解であった。
彼女の持つ力や因子については先ほどクリスを救った時点で証明されている。
カオスロワちゃんねる掲示板では風鳴翼が都庁と交戦した目撃例もあり、争ったのは確か。
沖縄には現在異常気象が発生しており、人類共通の敵……イナバ社長が持っていた古文書の中にある滅びの化身の可能性が濃厚。
目の前にいるテラカオスは滅びの化身に対抗するための抑止の神または救いの神である可能性もある。
もし彼女が救いの神であるなら是非とも欲しい存在ではある。


「ミスターL、彼女の話で少し気になることが……」
「どうしましたレックス? これは?」

彼女の話の中で何かが引っかかったレックスはLに一冊の書を見せる。
それはシマリスとの捜索中に偶然拾ったTCホール観察日記であった。

「まさかとは思いますが、これを少しだけ読んだ時に気になることがありまして……専門的なものはさっぱりわかりませんが、この項……世界には必要不可欠であるが浴びすぎると死に至るエネルギー……『TC』、彼女の話にある混沌の因子と似てませんか?」
「TC? 聞き覚えのない言葉ですが、共通点があるのも気になりますね。 ちょっと見せてください」

Lはレックスが持ってきた書を手に取り、パラパラと流し読みをする。

「いかがですか?」
「……いや、内容が専門的かつあまりにも難解で私が完全に理解するには半日近く時間が必要です。
 理解はできてもこのTCと彼女の言う混沌の因子が同一かを確かめる技術が私にはありません。
 探偵より科学者や技術者を連れてきた方が早いですね」
「そうですか……」

Lは優れた頭脳の持ち主であるが、日記の完全解読には相応の時間を有し、かつ解読以上の成果は得られないようだ。


「ただ、気になることが一点あります。
 この日記の著者が阿笠博士氏とヒート・オブライエン氏であることですね」
「阿笠とヒート? 誰ですかそりゃあ?」
「アガサの方はかなり前の放送で呼ばれていた気がするですけど……」

聞き覚えのない人名にロビンだけでなくシマリスとレックスも首を傾げる。

「科学都市ニルヴァーナというものがありまして、ありたいに言えば光祐一郎やダイジョーブ博士などの数多くの天才科学者を排出したところです。
 阿笠氏とヒート氏はその都市の出身者で師弟関係にありました……が、ヒート氏は大災害が起こる数週間に何者かにニルヴァーナにて暗殺され、阿笠氏はその直後に知り合いの少年たちと謎の失踪をしており、ヒート氏殺害の容疑がかけられています。
 暗殺と失踪の真相は定かではないですが、日記の最後にはこう書かれています」
「「「!」」」

Lは三人に日記の最後のページを見せる。
その部分の内容は簡単で専門家でなくとも簡単に理解できた。



――「もしも」のことが起きた時のために、対処法になるかもしれない暗号文を別荘に置いてきた。
  私とヒート君の身に何かあった場合は回収して解き明かして欲しい。



それは殺し合い前と最中に死んだ二人の科学者からメッセージであった。
Lたちは会ったことがないので知らないが、阿笠は自身を黒幕と謳い(クソザコナメクジだが)テラカオスを作っていた。
だが洗脳を受けていたシグナムと同じように、果たしてそれが本当に彼の真実の姿だったのか?


「ニルヴァーナは科学都市、ひと握りの人間ぐらいなら混沌の因子に関して知らない者がいないとも限らない」
「そのひと握りが阿笠とヒートなんでぃすね?」
「これはあくまで探偵の勘ですが、この日記とツバサさん、次の大災害は無関係とは思えません」

「だが確証を得ようにもヒートも阿笠も既に死んじまってるぜ?」
「別荘まで行って確かめるしかないということか」
「阿笠の別荘は確か長野県に合ったハズ……あそこは過疎地で東京ほど危険性は高くない。
 エピオンの機動力なら往復2・3時間で行けるでしょう」

Lは探偵の勘から重大な鍵と見なした日記をしまい、それ以上に未来を左右するかもしれないツバサを見る。
できれば真実の追求のために尋問を続けたいが、もうすぐ危険地帯である都庁の近くに着陸するので今は時間が取れず後回しにするしかなかった。

「風鳴翼、混沌の因子、TCとTCホール、テラカオス、沖縄の敵……それから救済の予言、解かなければいけない謎が一杯ですね……なんとか解き明かせれば良いのですが」

そして、ツバサを連れた男たちは社長が待つブリッジへ向かった。



『こちら格納庫のゼクス! 緊急事態発生だ!!』
「ゼクスさん!?」

それは五人がブリッジに入った瞬間に巻き起こった。
格納庫のエピオンのコクピットにいるゼクスが、非常に慌てた様子で物置全域に注意を勧告したのだ。
どうやらゼロシステムで未来を読み取ったらしいが……?
尋常でない様子のゼクスにイナバは理由を聞く。

「ゼクスさん、一体何が……」
『説明している暇はない! 総員対ショック防御! 居住ブロックにいる避難民はすぐに――「なんだあれは!?」

ゼクスが言い切る寸前に巨大物置の前に、巨大な黒い鋼鉄の影が転移してきた。
――黒く塗装されたグレートゼオライマーだ!!

物置内の全員が「あれはまずい」と思った瞬間にはもう遅い。
機体の前に「雷」の字が浮き出ると同時に必殺武器の一つ、原子核破砕砲(プロトン・サンダー)が容赦なく物置に放たれた。
ダークディケイドとは桁違いの威力の前に物置は一瞬にして2/3が蒸発。撃墜されて地上に落下した。



撃墜後の物置のブリッジの中は惨憺たるものであった。
運良く、L、シマリス、レックス、ロビン、そしてツバサは無傷か軽傷で済んだが、彼らが見たものは飛び散る部品の数々に噎せ返るような香りの黒煙。
そして衝撃から身を守るのが間に合わなかったか運悪く破片に当たってしまった死体が散乱している。
その死体の中に。

「コマンダー!コマンダー社長!」
「……ダメだ死んじまっている」
「イナバ社長……」

物置組のリーダーであり、ゼクスたちにとっては恩人であるイナバ製作所社長は落下の衝撃で首の骨が折れてしまっていた。
即死である。
彼の死は生き残った者に大きな悲しみを与えるが、絶望はそれで終わらない。
オペレーターが驚きの声を上げながら、モニターの情報を報告する。

「い、今の攻撃で避難民を収容していた居住ブロックが蒸発! 格納庫からも応答がありません!」
「蒸発だと……避難民は?!」
「……全滅です」
「そんな……そこにはクリスちゃんにベルナドットさん、ゼクスさんが……!!」
「なんてひどいことを……」

オペレーターから発せられた残酷な事実に5人は衝撃を受ける。
特にシマリスとツバサは悲しみにより泣き崩れるのだった。
しかして状況は彼らを待ってはくれなかった!

「物置を攻撃した敵からエネルギー反応! 再攻撃を仕掛けてきます!!」
「悲しんでいる暇じゃねえ! すぐに物置から脱出するんだ!」

もはや物置は地に落ちたスクラップと化し、塹壕としての役割もゼオライマーの攻撃を防げなかった時点で果たせない。
ロビンの指示通り、生き残った5人とクローントルーパーは物置から脱出した。
脱出直後にゼオライマーのJカイザー(レーザー攻撃)が放たれ、物置は大爆発を上げて地上からも消え去った。

「生き残ったのは……これだけか!」
「あんだけたくさんいたのに、よくも……!」

最終的に脱出できたの5人とクローントルーパーが30名程度、避難民や残りのクローントルーパーは死亡である……
その惨劇を生み出したゼオライマーにレックス・ロビンは怒りの目を向ける。

「待ってください! あれを!」

今にもゼオライマーに攻撃しかねなかった者たちにツバサは待ったをかける。
彼女が指を差した先には、物置組とは別の人員が倒れていた。

「あれは……イチローチーム!?」

全員ではないとはいえ、このロワでも強豪対主催チームであるイチローたちがボロボロになって地面に倒れていた……
メジャーリーガーのイチローだけではない。
天空竜であり神の一柱であるオシリス。
幻想郷・山の四天王の一人である伊吹萃香。
邪眼とアスクレピオスの使い手である美堂蛮。
カオスロワを代表する胡桃使い・6/すら体のあちこちから血を流し、倒れていた。
対する黒いグレートゼオライマーは無傷であった。

「弱すぎるな。首輪の外れていないメジャーリーガーなど、こんなものか」
「くッ……」

辛うじて息のあるイチローチームもといイチリュウチームを、グレートゼオライマーのコクピットの中でドリスコルは侮蔑の表情を向ける。



物置が撃沈される数時間前、イチローたち聖帝軍救助班もとい殲滅班は墨田区の近くにいた。
しかし、聞いただけで大幅な弱体化を強いられる怪獣ロボきらりの歌のせいで迂闊に近づくことができず、遠巻きから戦いを観戦するしかなかった。
その間にイチローはオシリスのドラゴンネットワークを介して浦安の仲間に連絡を取った。
きらりんロボが立川市を焼き尽くし、少女を惨殺したのは本当のようだが、ロボを狂信者に奪われただけかもしれないので聖帝軍を悪しき軍勢と見なすのは早計すぎるというイチローなりの判断であった。
ひとまず、悪の巣窟である都庁が近すぎるのと歌に対して対策が取れない(耳を塞ぎながら被害なしで戦えるほど都庁の軍勢やきらりんロボは弱くない)ので江戸川区から様子を見るしかなかった。

「しかし、ここからだと遠すぎるな……」
「戦いそのものは見えるけど、何を言ってるかはさっぱりだ。
 聞こえたら歌の餌食になって、動けなくなってしまうんだけど」

江戸川区の空の上からならきらりんロボと都庁の軍勢(フェイ・レスト)の戦いが見えないこともない。
しかし、音や言葉だけはどうしようもなかった。
激戦区東京は様々な戦闘による音が邪魔でかなり近づかないと聞き取れないのだ。
聞こえる距離まで近づければレストの口から都庁の軍勢聖帝軍がマーダー集団でないとわかるかもしれないが、今はきらりんロボの超弱体化歌のせいで近づくこともままならない。
歌を突破しようとすればダオスレーザーやまどかレーザーが飛んでくるだろう(実際にそんなことはないが)。

今のイチローたちにわかっているのは、ロボ以外の聖帝軍がこちらがたどり着く前にどこかへ引っ込んだことと、都庁の仲間である金髪の男とどこからか現れた初音ミクみたいなロボと暴走したきらりんロボが戦っているところぐらいである。

「あのおさげがクソ長いロボットは警察組の仲間じゃなかったのか?」
「ああ、確かに……なんで都庁の奴と一緒に戦っているんだ?」

フェイはかつて都庁に滅ぼされたとされる警察組の仲間であったハズだ。
それがなぜ、都庁の者と共に肩を並べて戦っているのだろうか?
イチローチームの疑問はつきない。


「ん!? まずい!!」

その最中に何かに気づいたイチローはオシリスの背中から空中へとダイブ。
そしてきらりんロボから放たれたビームの流れ弾をバットで打って、誰もいない明後日の方向へと飛ばした。
身を乗り出し自由落下していたイチローはオシリスが長い尻尾でキャッチし、転落死は免れた。

「無茶をするな!」
「すまない……だが、今の一撃は止めないと関東もまずかった」
「生体エネルギーの集積場所になっているビッグサイトか」

ビームの向かっていた先はビッグサイトであった。
ビッグサイトは今、溜まりに溜まったマグネタイトのせいで高威力の爆撃を行うと暴走で関東が消滅しかねない危険な集積所にもなっている。
イチローが防がなくては関東にいた全ての参加者が全滅していたであろう。

「しかしそうなるとあのロボットが狂信者に乗っ取られた線がなくなるな……」
「ビッグサイトは自分たちの最大拠点なんだろ? いくら狂ってるとは言え流れ弾がいかないように気にはするだろ」

狂信者に乗っ取られているならビッグサイトの安全ぐらいは守ろうとするハズだ。
仮に事故だとしてもきらりんロボは気にも止めずに戦いを続けている。
ロボが狂信者に乗っ取られた線はないと考えるべきだろう。

「やはり聖帝軍はマーダー集団なのか?」
「せめてもう少し近づければ何かわかるかもしれねえが」

聖帝軍の正体が見えてこないイチロー
せめて接近さえできれば何かがわかるかもしれないが、これ以上近づけないことに苛立つ6/。
そこへ一つの転機が訪れる。


「あ、イチロー! 都庁の金髪と聖帝軍の岩みたいなのと話をしているぞ!?」
「本当か?」

オシリスたちが目撃したのは都庁の番人であるレストと悪魔超人ザ・魔雲天が会話をしている様子である。
彼らはきらりの暴走を止めて救う術を話し合っていたのだが、これが風評被害に騙され会話が聞こえない第三者から見ると。

「おい、なんであいつら仲良さそうに会話してやがんだ?」

都庁の軍勢と言えば警察組を全滅に追いやるほどの最悪の集団。
確認できただけでも都庁にいた都知事らや彼らを救いに来た人間たちを殺し、氷嵐の支配者は大阪の一部を氷漬けにして参加者を殺している。
警察組や貴虎たちも彼らの餌食になった。
そんな奴らとなぜ聖帝軍の者が争いもせずに会話を交わしているのか。
そして戦いの末にきらりんロボはある程度のダメージをレストに負わされた後に、レスト・魔雲天共に都庁へ転移した。
都庁の魔王によるレーザーが飛んでくるかもしれないので、都庁までは近づくことができなかった。
戦場に残されたのはフェイのみであり、イチローたちに聖帝軍の素性をこれ以上確かめる手段はなかった。



「これではっきりしたな。聖帝軍はやはり噂通りの悪逆集団。
 そして最悪の連中である都庁の軍勢と最初から組んでやがったんだ!」

それを言ったのはオシリスであった。
彼は怒りの目線を聖帝軍もいる都庁へと向けている。

「待ってくれ! 聖帝軍の岩人間もあのロボと戦っていたじゃないか!
 まだ真実を決め付けるに早すぎる!」

イチローたちは怒れるオシリスを止めようとするが、彼は聞く耳を持たない。

「ああ、確かに……だがビッグサイトへの攻撃から考えて狂信者に乗っ取られた線はねえ」
「関係ない他のマーダーに乗っ取られた可能性は?」
「いや、戦場になった墨田区には聖帝軍と狂信者、後から来た都庁の奴らしかいなかったとドラゴンネットワークにはある。
 となると考えられる線は聖帝軍の『内ゲバ』だ」
「仲間同士で殺し合った……と言いたいのか!?」

オシリスはきらりんロボの暴走を聖帝軍での内部抗争によるものと断定した。
内部抗争の理由は定かではないが、内ゲバを起こした搭乗者を粛清するために予め仲間同士であった都庁の軍勢が協力していたとも考えられる。

「だが奴らの無意味な抗争のせいで関係ないロリや立川市が犠牲になった!
 理由はどうあれ関係ない奴らを巻き添えにし、幼い子供のフリをして他の参加者を騙して助けにきた俺たちの気持ちを踏みにじった行為……万死に値するぜ!」
「ちょ、ちょっと待て、じゃあなんで警察組のロボットが都庁と一緒に戦ってんだよ!」
「おおかたあのロボットは警察組を裏切って自分だけ生き残ったんだろ。
 もしくはAIでも弄られて仲間にされた可能性もある」

オシリスは完全に頭に血が昇っていた。
多くの仲間や後輩を殺されて時間があまり立っていなかったこともあり、彼の視野はかなり狭まっているのだ。
勘違いによって生じたと自分では気づいていない義憤にオシリスに駆られていたのだ。

「うわ!」
「オシリス、何を!」
「今度は止めんなよ、イチロー

怒れるオシリスが次に行動は長い尻尾を使って四人の仲間を動けなくし、口からサンダーフォースの発射準備を始めることであった。
黒炎竜の時は背中に乗せていたことで邪魔をされてしまったが今度は妨害されない形を予め作った。

「何をする気だ!」
「本当は都庁を撃ちたいところだが首輪の制限が効いてる今じゃ化け物ばかりのあそこには通用しないかもしれねえ。
 だが、せめてあそこに残っているおさげがクソ長いロボットだけでも破壊しておく。
 都庁と聖帝軍の戦力を削げる内に削いどくんだよ」
「やめろオシリス! やめておけ!」

オシリスはお礼参りに戦場に一機取り残されたフェイだけでも殺すつもりであった。
そんなことをすれば都庁の怒りを買うのは確定的に明らかであり、都庁の善悪のどちらにしろチームを危険にさらす危険行為であったが、今のオシリスにはそれがわからない。

「第一、自然至上主義を気取っておきながらロボットなんて使ってんじゃねえよエセエコテロリストどもが!
 くたばれ、サンダー・フォー――」



怒り狂った神の一撃、気づいていないフェイに放たれようとした瞬間であった。

「デッド・ロンフーン」
「って、のぎゃあああああ!!!」

フェイを殺すことばかりに気を取られたがための不意打ち。
文字通りの意味で嵐のような強烈な一撃……それもブルーアイズの攻撃力を倍以上凌ぐ、7000ダメージの一撃がオシリスの長い胴体に直撃。
サンダーフォースは不発になると同時に、オシリスの上半身と下半身が分断されて江戸川区を大量の血で汚した。
力を失ったオシリスの上半身はそのまま地面に落下、イチローたちを巻きつけていた下半身も合わせて落下するが尻尾の肉がそのままクッションになったために仲間へのダメージはほとんどなかった。
余談だが、同時刻にフェイ・イェンがハクメンに両断されたのは同時刻の出来事であるも、状況が状況だけに誰も確認する暇がなかった。



「お、オシリス!?」

不意打ちを受けて真っ二つになったオシリスは仲間の呼びかけにも答えず、穴という穴から血を出して沈黙していた。
イチローたちの中で最悪のケースが頭を過り、襲撃した黒いゼオライマーに敵意を向ける。

「フンッ……冥王の前には神とて所詮この程度か」
「てめえ、よくも!」
「私の名前はドリスコル、クラウザーさんの復活を強く信望するものの一人だ」
「クラウザーの? クッソたれのDMC狂信者か!」
「私含む信者共をなんと言おうが構わないが、クラウザーさんにはさんをつけろよ胡桃野郎、とだけ言っておこう」

そう言って機体を地上に下ろしたのはDMC狂信者の上層部の一人、ドリスコル。
つい先ほど本拠地であるビッグサイトに向けてきらりんロボからの攻撃を確認された(イチローが防いだが)ために、完成したグレートゼオライマーのテストも兼ねて単身で出撃したのだ。

「一人で来たのか」
「ああ、他の信者がいるとこの機体の実力を図る試験にならないからな」
「試験だと……一人できたことを後悔させてやるぜ! クルミボール2号!!」

狂信者はイチリュウチームに取っては不倶戴天の敵。
そして野球仲間を殺されたことにチームの中で最も怒りを顕にしていた6/は必殺のクルミ投球をゼオライマーのコクピットめがけて放つ。

「『ディフェンドボディ』」

しかし、クルミの弾丸はコクピットを貫くことなく、両腕によって防御され腕パーツに多少のヒビを入れる程度にとどまった。

「なるほどそれなりの威力はあるようだが火力が足りなかったな」
「だがクルミボールを防いだことで!」
「おまえの両腕は使えなくなった!!」

クルミボールを防ぐために両腕を使った瞬間を狙って萃香と蛮が追撃を仕掛ける。
小柄な見た目に関わらず山の四天王と言われた鬼にしてパワーだけなら幻想郷でも指折りの力を持つ萃香。
アスクレピオスの力を使って悪魔の腕を手にしチートバッカーズとなった美堂蛮。
純粋な火力ではイチローやナッパには劣るがイチリュウチーム屈指のパワーファイター二人のの前ではいかなゼオライマーの装甲とて耐えられぬだろう。
実際、ゼオライマーは数あるスーパーロボットの中では鈍重な部類であり、回避力は決して高い方ではなかった。


そう、回避力だけならば。



「『ファースト』&『タックル』」
「な……!?」

ファーストとは格闘攻撃選択時、自分が後攻になる状況でも必ず先手を取れるようになるフロントミッションシリーズの皆勤賞スキルである
タックルとは体当たりをして敵を転倒させる技であり、敵はこの攻撃を避ける事が出来ず、必ず命中する。
最初に仕掛けた萃香の拳の一撃が入る前に、萃香の肉体はあまりにも巨大すぎるグレートゼオライマーの回避不能体当たりによるカウンターを受けて後方にあったビルに体を突っ込ませることになる。

「この野郎!」
「『分身』」
「くっ!」

分身は素早く動くか敵の目を欺いて攻撃を避けるグレートゼオライマーのデフォルトスキル。
発生確率は50%だったり違ったりとまちまちだが、発動さえしてしまえば命中率100%の攻撃すら回避可能。
分身して悪魔の腕を躱すグレートゼオライマー。
だが、その先に三人目の追撃者であるイチローが蛮の背後から飛び出し、バットを持ってグレートゼオライマーに叩きつけようとする。

「まだだ!」
「なかなかの連携だが、甘い。 『フットワーク』」

バットの威力はレーザービームほどはないが、それでもメジャーリーガーの打撃だけに直撃すればゼオライマーの重装甲とて破壊しただろう。
分身についてもイチローの動体視力なら追えており、直撃かと思いきや今度は敵の格闘攻撃を絶対に回避するスキル、フットワークによる身躱し脚にて躱されてしまう。

「入ったと思ったのに!」
「今度はこちらの番だ。トゥインロード&『バラージュ』」

攻撃を尽く弾かれ隙が生まれたイチローたちに対し、ドリスコルは弾丸をばら撒いて周囲の敵を一辺に攻撃できる射撃スキルであるバラージュで攻撃を仕掛ける。
ゼオライマーの腕にはバラージュに必要なマシンガンなど装備されていない。
そのため、バラージュの代わりにゼオライマーを分身させてプラズマ火球光弾と冷凍光線を同時に発射することで発生した対消滅エネルギーでイチローたちを葬らんとする。

「死ぬが良い」
「!?」

分身して2体になったゼオライマーがぐるぐると回転し、熱と冷気による破壊エネルギーを周辺にバラまく。
その凄まじさは嵐の如く、江戸川区にあるビルは一瞬で全て瓦礫に変わった。


「……ほう、あの攻撃を受けてまだ生命反応がある。なかなかしぶといな」
「ハァハァ……助かった6/」
「クルミボール防御技、クルミシールド……これは無数のクルミを圧縮して強靭な盾を作り出す……クルミが多ければ多い程効果が増すんだ!」

トゥインロードは6/がクルミを投げて作った盾により、6/で一枚、イチローと蛮に一枚、萃香に一枚ずつ使うことで死を免れた。
身代わりになったクルミの盾が灰になって崩れ落ちる。

(……だがまずいぞイチロー、今のでクルミを使い切っちまった。
 そもそもクルミシールドでも……ダメージを完全に防げるわけじゃねえ、ぐっ……)
(蛮と萃香は生きているが……もう戦えそうにないな)

代償として6/はメインウェポンであるクルミを全部失ってしまった。
しかもクルミの盾があっても攻撃力が高いゼオライマーのダメージを全て防げるわけではなく、衝撃などによる殺しきれなかった余剰ダメージをイチローたちは受けることとなった。
イチローと6/は既にボロボロ、攻撃を防ぎきれなった蛮と萃香はダメージを受けて気絶していた。
むしろイチローたちのタフネスさとクルミがあと数個足りなければ、今の一撃で全滅していたであろう。



(素晴らしい……流石はグレートゼオライマー。そしてDMC狂信者驚異のメカニズムよ。
 完成に至るまでハザマや三島、カギ爪団を犠牲にしてまで雌伏の時を待った甲斐があった)

ゼオライマーのコクピットの中でドリスコルは思う。
ドリスコルの実力とヴァンツァー「レイブン」の性能ではチートキャラに到底太刀打ちできるものではなかった。
上層部に選ばれたのもエリート軍人故に狂信者軍団を指揮・運営ができるからであり、他の下っ端は戦闘力はあっても指揮スキルがなかったのだ。
戦闘力自体はロボット有りでも幹部最弱と言えた。
そこでモブにより発見されたグレートゼオライマーを手に入れた。
だがこれだけでもチートキャラの上をいくイチローのような理不尽キャラには勝つことは難しい。

だが、そこは人員だけなら腐るほどいる狂信者。
サーフを始めとした技術者が揃うことで、ドリスコルとグレートゼオライマーは超理不尽級の存在へと昇華した。
具体的にはグレートゼオライマーは狂信者が持ちうる最新鋭技術を注ぎ、元々高性能な機体が更に強化。
ドリスコル自身も戦闘シミュレーターを使うことで経験値や熟練度を獲得し本来は持ち得ない強スキルを全て獲得した。
ちなみにシミュレーターは5thに登場したものと同じで、いくらやっても時間が進行しない。
つまりフロントミッション版の精神と時の部屋を使った結果、ドリスコルは1~5全てのスキルを手に入れたのだ。
本来、「タックル」「フットワーク」「バラージュ」は初代フロントミッションには無いスキルだが、これらも狂信者なりの技術革新により手に入れたのである。

強力なグレートゼオライマーとドリスコルが完成するまでに長い時間と多大な犠牲を要したが、その見返りとしてイチローたちを手も足も出ないほど追い込んでいた。


「ん?」
「あれは?」

そこでゼオライマーのモニターとイチロー・6/の視界に空飛ぶ巨大物置が目に入る。
三人は直感であれに人が乗っていることを察した。
物置はどうやらこちらとほど近い場所に接近しているようだ。
狂信者仲間の報告ではある対主催集団を追い詰めるも突然現れた物置によって取り逃がすということがあった。
生贄を匿う存在は狂信者にとっては敵である。

「そうだな……次は雷の力をあれで試してみるか」
「待て! ドリスコル!!」

ゼオライマーが物置の方を向いて何をするか察したイチローは剛速球を敵に投げつけるが、分身で躱された直後に物置の前に転移。
しかも転移した場所はちょうど物置をイチローの攻撃からの盾になるようにしていた。

「さあ、レーザービームを投げられるものなら投げて見ろ」
「しまった、あの位置じゃ……」
「卑怯者ッ!!」

レーザービームの直撃ならばいかなゼオライマーとて仕留められるだろう。
特に空中にいるのならば地上の被害を気にする必要がないので投げることを躊躇する必要はない。
だが人質を取られた場合は別であり、ゼオライマーに向けてレーザービームを投げた瞬間、物置も一緒に蒸発してしまう。
投げれば多くの無関係な命が失われる。

「私を殺せるチャンスかもしれなかったのに…イチロー、その優しさが命取りだ」
「やめろ、やめるんだッーーー!!!」

イチローの一瞬の躊躇を見逃さず、ドリスコルはゼオライマーに無慈悲な神雷たるプロトンサンダーを放った。
瞬間、物置の三分の二が蒸発。黒煙を上げて地上に墜落。
まだ墜落する前の物置から部品と共に燃え残った避難民やクローントルーパー『だったもの』がイチローたちの頭上に降り注いだ。
蛮と萃香を抱えて6/とイチローは急いで落下物が落ちない場所へする。


「ひでえ……俺のいた大正義巨人軍もマーダーだったが、こんなえげつない殺し方はハラサンも望んでねえ!!」
「よくも……今ばかりはスポーツマンシップとかは関係ない。僕はおまえを殺すことしか考えられないぞ!!」

6/だけでなくイチローでさえドリスコルのやり方には怒髪天ものであった。
しかし、二人の怒りさえ届かないほどの恐怖……瓦礫と死体の山の上に立ち絶望を振りまく黒い巨人はまさに魔王をも越えた冥王であった。


『敗北』に続く
最終更新:2018年05月17日 00:42