シューティングゲーム復興の為に

岡野哲は一部に熱狂的な信者がいる作品(「セガガガ」「 ASTRO BOY 鉄腕アトム ~アトムハートの秘密~」「ガンスタースーパーヒーローズ」ディレクター)を幾つか手がけた経験がある。しかし、彼は東京南部の大田区にあるセガ本社で、新しいビジネスモデルについて語っている。それは落日のジャンルを生き残らせ、そしてもし氏の思い通りになれば、更にいくつかの歴史的作品が復刻されるかもしれない。私達はPS2版「サンダーフォースVI」のディレクターと対談し、彼の核心に迫った。

なぜジャンル自体が苦境にあるシューティングゲームを作ろうと思ったのですか?そしてどうやってセガを説得したのですか?

簡単な話だ。俺自身がアーケードの出身かつシューティングというジャンルが本当に好きだから。かなり前から作ってみたいと思ってた。シューティングゲームはアーケードでさえ特別なジャンルだ。大きな利益を上げられるようなものじゃねぇし、多くの有名タイトルも今や過去のもの。今は、他で利益を上げている会社ぐらいしか2Dシューティングゲームを開発できねぇからな。俺はこのシューティングというジャンルのゲームを作って、同時に利益を出せるようにしたかった。新しいビジネスモデルを試してみる、と言ってもいい。
ここだけの話をしてやろうか?サンダーフォースVIなんてプロジェクトは存在しない。本当はプロジェクトSTGと言う。サンダーフォースVIでジャンル自体を蘇らせることが、プロジェクトの最初の一歩だ。これはシューティングゲームを1つ作っても利益が無いから、ファンが非常に盛り上がるようなタイトルを使って、将来のステップの基礎になる第一歩なんだよ。だから、セガはサンダーフォースVI単体ではなく俺らが行おうとしているこのプロジェクトを評価してるわけだ。
もちろんセガもビジネス的な観点では心配してる。セガのような会社の経営者が利益について注意深くなるのは当然だからな!ただ、現在の世界のビデオゲーム市場で、日本のゲームメーカーに残されているジャンルは非常に少ないと俺は主張した。西側向けに俺らがFPSを作るなんて無意味だ。海外のユーザーは日本のRPGにもあまり関心を持って無いからな。しかも俺達にはゲームを開発・リリースして、利益を上げられるジャンルがほとんど残ってない。その選択肢の中にシューティングゲームがある。でもたったひとつシューティングゲームを作るだけではほぼ無意味。だから俺は最初のタイトルはベースでその上、他の作品をリリースする新しいビジネスモデルを提案することに集中した。会社は理解を示し、計画を許可してくれたわけだ。
さて、この会社の経営陣は利益について非常に心配しているとさっきも言った。ただ同時に、こいつらはゲームのこともよく知ってる。俺がテーブルに自分のアイディアを並べたとき、こいつらもシューティングゲームが大好きだなとわかったね。だから会議の間、俺達はお金のことだけじゃなく、過去の素晴らしいシューティングゲームのことも話した。知ったこっちゃないが経営陣らは特に「TATSUJIN」が好みなんだとよ!こういう要素がすべて組み合わさって、俺はプロジェクトに許可をもらったわけだ。このプロジェクトが認められたのも、アーケードで長い歴史を持つセガだからこそだと思ってる。完全に利益重視の会社ならば、シューティングゲームを開発できるチャンスは少ないだろうよ。

でも、なぜサンダーフォースVIなのですか?

そうだな。これは本当に俺が作りたかったゲームだったということだ。「セガガガ」の終盤にも、このシリーズへの賛辞であるシューティングゲームの場面があるしな。それじゃあ、セガがどうやって自社のライセンスを使ってシューティングゲームというジャンルを復活させるか、考えてみてくれ。「クライング」をやるべきか?「ウィップラッシュ」?冗談じゃねぇよ!サンダーフォースくらいの伝説的タイトルでなくては駄目だろうが!昔のシューティングゲームには附いていたサウンドセレクトモードみたいな伝統的な機能もつける予定だしな!。処理落ちもあるぞ!

今回あなたは専任のチームを集めましたが、グレフや、はたまたトレジャーのような、もっと大きなスタジオと組むことは考えなかったのですか?

トレジャーとは何度も良い付き合いさせてもらってるな。合計で3つのプロジェクトで一緒にやっている。トレジャーはアーケード、特にシューティングゲームでは素晴らしい会社だ。しかし、サンダーフォースがサンダーフォースではなく、トレジャーのゲームになってしまうだろうと俺は感じた。PS2の「グラディウスV」を見れば、あれはトレジャーのゲームだ。だからサンダーフォースの魂を残してくれると思われるチームを選んだわけだ。それと、アーケードの黄金時代に皆が楽しんだような、とても基本的な2Dシューティング要素を盛り込みたかった。トレジャーには独特の芸術的・革新的なアプローチがあるが、基本的なアーケードの黄金時代のようなゲームを作るにはふさわしくないと思ったからな。

魂を残す、とは具体的には?

まあ、アイレムの「R-TYPE FINAL」とは異なるアプローチが欲しかった。所謂「原点回帰」というやつだ。メガドライブでサンダーフォースを遊んだヤツらに作品を届けたかった。3Dによってカメラ視点が動的に変わることで、2Dシューティングゲームの楽しみは完全に失われた、とは言わないまでも変化してしまったな。そして多くのシューティングゲームはキャラクターデザインに重きを置くようになった。俺は基本的なシューティングゲームの体験を求めていた。だから自分で作ってやるぜ!と。いまXbox 360やPS2で出ているシューティングゲーム作品は、ほとんどが自分の家でやっても興奮しないものばかりだ。ゲームを楽しむには本当に自分のプレイに集中しないといけない。俺が自宅でシューティングゲームを遊んでいた頃は、ゲームを買うのがとても楽しみだった。それで仕事から帰って、ビールの缶を開けてからすぐに楽しめたものだ。しかし今のゲームは複雑すぎて、集中力を要求しすぎサンダーフォースVIを開発していたとき、俺はあの興奮を取り戻したかった。何も考えずにただ弾を撃って、敵の編隊とボスを倒して勝利の報酬を得るんだ!へんてこなキャラデザインややこしいシステムは無い。純粋に弾を撃つ楽しさのみだ。

これまでの開発に当たってもっとも困難だったことは何ですか?

まあ、それはあまり話したくないんだが……ああ、そうだだ!今時、シューティングゲームの開発でそんなに資金なんざ手に入らないからな。「セガガガ」を思い出すね。手持ちの予算には非常に気を遣ったし、その年の開発では仕事のやり方について非常に「独創的」になる必要があった。このプロジェクトで他に難しかったのは品質。10年以上新作が出なかったサンダーフォースのようなシリーズは、もはや伝説の域に達している。皆、思い出を振り返るんだよ。素晴らしい瞬間や演出、ボスのことを話したり……サンダーフォースVIはこうした点をすべて盛り込んでいるが、信者のヤツらはこうしたフィーチャーをそれぞれに記憶しているわけで、信者のヤツらに認めてもらうのは難しい。これはPS2で、Xbox 360ではない。だから「オメガファイブ」のようなタイトルに比べると見た目では勝てねぇよな。日本ではXbox 360について検討はしてるんだがな、こっちだとXbox 360はあまり売れていないし、普通の人間ならXbox 360でシューティングゲームを開発しようとは考えないからな。

今、シューティングゲームというジャンルがこれだけ苦境にあり、売れていないのはなぜだとお考えですか?

理由は簡単で、格闘ゲームの状況と似てるな。マニアックになりすぎた。今のゲームの作りかたでは楽しめるわけがない。DSを「リズム天国ゴールド」をプレイするために買うヤツは見かけるが、「怒首領蜂」をプレイするために買うヤツは非常に少ない。皆が「スターフォックス」をためらわずに買い、しかも楽しんだ時代からは遠く離れてしまった。シューティングゲームを作ってきた開発者は、複雑化しすぎ、マニア向けを指向しすぎたために自分の首を徐々に絞めてしまった。多くのヤツらは「ストリートファイターII」を楽しんだが、「ストリートファイターZERO」や「ストリートファイターIII」を楽しんだヤツなんかどんどん少なくなった。

業務用バージョンは検討しましたか?

やりたかったが、俺んとこの会社のアーケード基板のラインアップはリンドバーグとNAOMIだけで、その中間が無い。リンドバーグは高すぎ、NAOMIは残念ながら性能がショボい。中間的なものがセガにあれば、業務用バージョンを作ろうとしただろうがな!

日本のゲームメーカーが世界という舞台で想像力を発揮できる場が少ない、ということをお話しされました。なぜそう思われるのですか?

日本のアニメ産業を考えてみろ。アニメ産業が今のような形になったのは、ある時点で生存のための選択肢が非常に限定されてしまった為だ。それが彼らに変化・再検討・進化を強いた。そして現在、我々が知るような非常に成功した産業となった。アニメ産業はウォルト・ディズニーのパクリから始まった。その後15年で産業自体が限界に達してしまった。そのアニメを買うのが日本人だけだったからな。日本でしか売れない物に同じだけのお金を投資する意味はあまり無い。他にもっといい投資先があるということだ。しかし需要は重要だったから、各スタジオは自分たちのアプローチを変えた。キャラクターデザインに集中するところもあった。独自のテクニックを磨くところもあった……じゃあ、日本のゲーム産業を考えてみろよ。実のところ、状況はかなり似てる。昔は「スーパーマリオブラザーズ」や「バイオハザード」のような日本のゲームタイトルは世界で売れてた。時が経つに連れて、こうしたゲームは日本以外のデベロッパーでも作れるようになった。それによって制作コストが下げられるようになり、また西側からのアイディアを容れることで、海外市場により適したものが作れるようになった。こうした分野で日本的な創造性は薄れ、俺らが活躍できる機会も少なくなった。素晴らしいシューティングゲームを作れるのは日本人だけだ、と俺は信じてる。俺らのシューティングゲームで、自機を真横からだけ見せる手法をとってもそうだ。視点変更もないし、反対側の翼も見えない。今時の目で見れば変かも知れないが、これは日本の開発者でなければ思いつかなかったであろう視覚的なアイディアだと思う。海外の視点で見ればナンセンスかも知れないが、俺達にとってはカッコイイんだよ!

今日のゲーム産業は北米市場に非常に集中しています。外で売れるようなゲームを作るというプレッシャーを会社から感じていますか?TF VIのようなプロジェクトは、現在の市場環境でどこに落ち着くのでしょうか?

プレッシャーはある。だが率直に言ってやる。海外のデベロッパーは、海外のユーザーがもっとも楽しめるコンテンツを作ることに一番適してる。その意味では、俺らが日本で開発したいものは、まず最初に国内市場を目標にしなくてはならん。世界市場をターゲットにする必要は理解してるが、コンテンツという視点で見ればナンセンスだ。正直言って「海外向けゲームを作ろう」と聞いたり言われたりするのにちょっと飽き飽きしてる。もちろん、開発したゲームが世界でヒットすれば嬉しい。ただそれが第一の目標になるべきだと思わないと言うことだ。俺達は自分の創造的プロセスにまず集中して、面白いタイトルを世に出すことに集中すべきなんだよ

サンダーフォースVIは海外でリリースされますか? そしてどのように?

ダウンロード販売をうまく利用できないか、見ていきたいと思ってる。ただその場合、値段付けのバランスを見出さないといけない。やろうと思えば高い再現度でTF VIをPSPに移植できる。だが日本国内では、「モンスターハンターポータブル」を考慮から外した場合、これがどの程度うまくいくかは不透明。Wiiのことを少し思い出した。仮に大売れしたとしても、俺達のゲームがこうしたプラットフォームにどんな影響を与えるかははっきり見えてない。なので、PS2でTF VIをリリースした後、次のプラットフォームにダウンロード販売を選ぶ可能性は十分ありえる。もちろん、日本でサンダーフォースVIが売れれば、世界市場向けに喜んでXbox 360に行くよ。全く問題ない。ただ日本では、PS2だな。

サンダーフォースVIがプロジェクトSTGの第1ステップだとすれば、続きはどうなりますか?

セガが持っている休眠中の権利の内、手がけてみたいものが二つある。「スペースハリアー4D」「ファンタジーゾーン3」だ。俺らの第一歩が成功したら、どこか大きなスタジオとリソースでこれに取り組みたいね。しかしサンダーフォースVIは後続のための非常に決定的なステップだ。俺らのアプローチが現実的なものだと示さなくてはならん。しかし次のステップとしては、本当にスペースハリアーを作りたいと思ってるこれは俺らに素晴らしい世界と体験を与えてくれた、セガの歴史の中でもユニークなゲームだった。しかし将来のプロジェクトがどうであれ、サンダーフォースVIの成功が鍵になるな。

岡野氏のシューティングゲームベスト5

1.沙羅曼陀:発売当時、俺は高校生だった。アーケードでこれを見たときはショックを受けた。ゲーム内の生物的な世界はとてもユニークだ。映画や漫画も含めて、これに類するものは全く無い。俺にとってはとても大きなインパクトがあったね。他のどのメディアにも表現できなかった異世界にプレイヤーを誘える、という当時のゲームの優位性を示すものだと思う。
2.TATSUJIN:これは間違いなく、純粋にジャンルにおける最高のゲームバランスを持ったゲームだ。非常に単純な(あるいは単純すぎる)「ゼビウス」とマニアックすぎる「怒首領蜂」の中間に位置するものだ。あまりに好きだったから、基板ごと買った。
3.スペースハリアー:ちょっと3Dゲームに浮気しているかもしれんが、沙羅曼陀と同じようにこのゲームは全く新しい、独自の世界へプレイヤーを誘った。俺が小さかった頃、お年玉を全額スペースハリアーの筐体につぎ込んでクリアしたことがあった。5000円は下らんかっただろうな!俺は2Dシューティングと3Dシューティングは区別するが、スペースハリアーに限ってはこうした分類を超えてる。
4.ダライアス:これは横に3つの大画面を並べるというトンデモないゲームだった!これだけの空間を戦い抜かなくてはいけないなんて想像できるか?このような奇妙な名前に満ちた素晴らしい世界このような奇妙な名前を持つ別の信じられないほどの世界を持っていました。海の幸!音響装置!このタイトルは、アーケードゲームの黄金時代のトップを極めてるな。また、シューティングゲームが当時のアーケードで一番カッコ良かったジャンルともいえるな!
5. 超連射68k:これは俺が多くの時間プレイに費やし、楽しんだゲームだ。これは、X68000っていう昔のマイコンでアマチュアが開発した非常にマイナーなタイトルだ。お前もネット上で見つけるのは簡単だ。これはアーケードのビジネスモデルによって支配されてないから、ゲームは積極的にプレイヤーを殺しにかかってくる必要がない。アーケードゲームには3分でプレイヤーを殺しにかかってくる。そうしないとゲームで利益が出ず、ゲームセンターに置いてもらえない。超連射はシューティングゲームにこのルールがなかったらどうなるかという実験だった。一回のプレイは12分くらい続く。それ以上続くと、プレイヤーは退屈し怒りを感じる。これは効き目があるな。

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最終更新:2012年11月01日 21:08