【設定】
【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷A+ 魔力E 幸運A 宝具??
【スキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
正式なアサシンのサーヴァントではないため、クラス別能力ではなく、彼自身が到達した武芸者の境地としての”気配遮断”を持つ。
これは、こそこそと隠れるための技ではなく、武芸者が己を虚しゅうして周囲に溶け込むという、精神的な技術である。
暗殺のために磨いた技ではないため、ハサンの持つ気配遮断には及ばない。
実のところ、気配を消した佐々木小次郎は、サーヴァントですら知覚することは難しい相手である。
所見で小次郎の存在に気がつくことは極めて困難だ。
しかし、彼の行動範囲が柳洞寺の山門付近に限定されているため、小次郎の存在を知っている者であれば、発見することは比較的容易なはずである。
とはいえ、小次郎自身の性格により、姿を晒し双方名乗りをあげての戦いとなることが多い。
そのため、この能力が本来の用途(隠密状態からの不意打ち)に使われることは少ないというのが実情だ。
(コンマテ)
あと僅かで山門に至るという時に、その障害は現れた。
いかなる敵であろうと突破する、と決意した彼女でさえ、その“敵”には意表を突かれた。
颯爽(さっそう)と現れた男の姿はあまりにも敵意がなく、信じがたいほど隙がなかった。
(本編
セイバー視点)
コンマテのみに目を向け、気配遮断が鯖に察知されずに燕返しの間合いまで接敵出来る性能かつ
山門縛りがなければ不意打ち燕返しで瞬殺出来る、という意見があるが
本編順守なら名乗りを上げ、スレ前提なら平地の山門結界内に存在するので二次創作向きな話題
心眼(偽):A
視覚妨害による補正への耐性。
第6感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
透化:B+
明鏡止水。精神面への干渉を無効化する精神防御。
暗殺者ではないので、アサシン能力「気配遮断」を使えないが、
武芸者の無想の域としての気配遮断を行うことができる。
宗和の心得:B
同じ相手に同じ技を何度使用しても命中精度が下がらない特殊な技能。
攻撃が見切られなくなる。
“攻撃に目が慣れる”などという下手な剣筋は繰り出さない、という事か。
燕返し
対人魔剣。最大補足・1人。
相手を三つの円で同時に断ち切る絶技。
多重次元屈折現象と呼ばれる物の一つらしい。
ゲイボルクとは違った意味で、回避不可能の必殺剣である。
【Weapon】
物干し竿
剣豪・佐々木小次郎が携えていたという長刀。
物干し竿はあくまで名称にすぎず、刀の正式な銘は不明。
記録では長さ三尺余(一尺は30cm)とされるが、本編でアサシンが持つ物干し竿は
五尺余に及ぶ規格外の長刀で、その間合いは槍に近い。
人の域を逸脱した“秘剣”を操るアサシン以外、この長刀を満足に扱える剣士はいないだろう。
一回目
両者の間合いは三メートル弱。
一瞬で詰めようと踏み込むセイバーを前にして、アサシンは身構える。
それは。
この戦いが始まって以来、見せた事もない剣士の構え。
「秘剣―――――――」
セイバーが踏み込む。
もはや長刀は意味をなさない。
懐に入られた以上、その長さが仇になる。
だが。
「――――――燕返し」
二回目
その体が、一足で間合いを詰める。
セイバーを断ち切る距離、
あらゆる守りを許さぬ間合いから、牢獄の如き軌跡が繰り出される――――!「――――――――」
真っ当な「殺し合い」なら
アーチャーが有利。
されどアサシンは他の鯖と異なる戦闘条件で闘う曲者です。
多くの鯖が攻性である反面、アサシンは防性。
柳洞寺という鯖殺しの地形と
キャスターが作り上げた対魔術の防御結界は魔術・宝具を大幅に削減してしまう為、強力な宝具でなければ致命傷は与えられない。
となると、両者の戦いは剣技に寄る所が大きくなるのは明白。地形効果によって狙撃を封じられたアーチャーがやや不利か……?
【戦闘描写】
そうして頂上。
あと僅かで山門に至るという時に、その障害は現れた。
いかなる敵であろうと突破する、と決意した彼女でさえ、その“敵”には意表を突かれた。
さらり、という音さえする程の自然体。
颯爽(さっそう)と現れた男の姿はあまりにも敵意がなく、信じがたいほど隙がなかった。
奇怪さ、得体の知れなさでは前回のアーチャーを上回る者はいないだろう。
それに比べれば、目前のサーヴァントには恐れるべき箇所も、驚異を感じるほどの武装もない。
……故に、それが異常だった。
目前の男からは何も感じない。
サーヴァントには違いないのだが、英霊特有の宝具も魔力も持ち得ない。
ならば倒すのは容易だ。
勝負が一撃で決するは道理。
だと言うのに、彼女の直感はこう告げていた。
―――侮るな。
このサーヴァントには、自分を必殺する手段がある、と。
間合いがつめられない。
男の武器――――日本刀にしては長すぎる刀の間合いが掴めない事もあるが、それ以上にセイバーの位置はあまりに不利だ。
階段の下と上。
男との距離は約五メートル。
駆け上がり、踏み込む前に一度、あの長刀による洗礼を受けよう。
……しかし、あの刀からは何も感じない。
受け流す事は容易の筈。
ならば臆さず踏み込むべきなのだが、不用意に近づく事は出来ないとセイバーは直感した。
セイバーは知るまい。
このサーヴァントこそ物干し竿と呼ばれる長刀を持ち、慶長の世に並ぶ者なしと噂され続けてきた剣士だと。
―――否、知っていたところで何が変わろう。
出生も不明、実在したかどうかさえ不明瞭。
ただ人々の口端(くちはし)にのみ上(のぼ)り、希代の剣豪の好敵手として祭り上げられた剣士を知る者など、この世でおそらくただ一人。佐々木小次郎と呼ばれるモノを討ち果たした、史実に残らぬ宿敵のみであろう。
それを英雄と呼ぶ事など出来まい。
アサシンのサーヴァント―――佐々木小次郎というソレは、セイバーとはあまりにかけ離れた存在だ。
本来ならば英霊として扱われぬ剣士の実力なぞ、英霊であるサーヴァントたちの誰が知ろうか。
切っ先が交差する。
幾度にも振るわれる剣線、
幾重もの太刀筋。
弾け、火花を散らしあう剣と刀。 ―――数十合を越える立ち会いは、しかし、一向に両者の立場を変動させない。
上段に位置したアサシンは一歩も引く事なく、
石段を駆け上がろうとするセイバーは一歩も詰め寄る事が出来ず、徒に時間と気力を削っていた。
「は――――!」
数十回目となるセイバーの踏み込み。
五尺余もの長刀を苦もなく振るい、セイバーの進撃を防ぎきるアサシン。
いや、それは防ぎきる、などという生易しいものではない。
セイバーの剣戟が稲妻ならば、アサシンの長刀は疾風だった。
速さ、重さではセイバーに及ばないものの、しなやかな軌跡はセイバーの一撃を悉(ことごと)く受け流す。
そうして返される刃は速度を増し、突風となってセイバーの首に翻る。
―――その一撃を紙一重で躱して踏み込むセイバーへ、躱した筈の長刀が間髪入れずに返ってくるのだ。
直線的なセイバーの剣筋に対し、アサシンの剣筋は曲線を描く。
アサシンの切っ先は優雅ではあるが、弧を描く為に最短距離ではない。
ならば直線であるセイバーの剣筋に間に合う筈がないというのに、その差を無(ゼロ)にするだけの何かがアサシンにはあった。
「くっ――――!」
踏み込む足が止まる。
切り返す長刀に剣が間に合わない。
避ける為には引くしかない、と咄嗟に後退する。
見惚れるほど美しいアサシンの剣筋は、同時に、見届ける事が困難なほどの速度だった。
その矛盾はアサシンの技量によるものなのか、頭上の敵に挑む己の不利な状況ゆえなのか。
確たる分析もつかないまま、追撃してくるアサシンの長刀を避け、首を突きに来る切っ先を剣で弾く。
「っ――――」
気が付けば、さらに数段後退している。
あれほどの長刀だ。
一度捌いてしまえば懐に入るのは容易いというのに、どうしてもそれができない。
卓越した敵の技量と、絶対的に不利な足場。
ここが平地であったのなら、あの長刀にこれほど苦戦する事もないであろう、とセイバーは唇を噛む。
「―――さすがにやりにくいな。視えない剣というものがこれほど厄介とは思わなんだ」
アサシンは不動である。
彼にとって、これは守りの戦いにすぎない。
後退するセイバーを無理に追撃する必要もなし、上に位置するという有利を捨てる筈がない。
「……ふむ。見れば刀を見る事さえ初めてであろう?
私の剣筋は邪道でな、並の者ならばまず一撃で首を落とす。それをここまで防ぐとは、嬉しいぞセイバー」
「加えて、打ち込みも素晴らしい。その小躯でこれほどの剣戟を行うからには、さぞ鍛え抜かれた全身であろう」
追撃する必要がない為か、アサシンは余裕げにセイバーを観察する。
力を失い、ゆらぐ切っ先。
それを隙と見て踏み込む事など出来ない。
あの男には構えなどないのだ。
いかなる体勢からでも刀を振るえないようでは、あれほどの長刀は扱えまい。
「どうした? これで終わりという訳ではあるまい。その不可視の剣、見かけ倒しではなかろうに」
「ふん、いつまでも減らず口を――――!」
激突する剣と刀。
「―――いよし、当たりだ……!」
ぎぃん、と何もない空中で止まる長刀。
アサシンは視えない剣を止めた刀をにやりと見つめ、そのまま剣を受け流し――――
セイバーは、首を払いに来る一閃を受けきった。「っ……!」
セイバーとて判っている。
今まで見慣れないアサシンの剣戟を防げたのは、偏にこの剣のおかげなのだと。
不可視の剣は攻め込むにも受けに回るにも、相手の感覚を狂わせる。
故にアサシンは深く追撃をしない。
セイバーの武器の長さが判らない以上、アサシンから攻め込むのは危険すぎる。
アサシンがセイバーを仕留めにかかる時があるとすれば、それは――――
「ハッ…………!」
アサシンの額をうち砕きにかかるセイバー。
その一撃を、
アサシンはわずかに後退しただけで、完全に躱しきった。
「……よし、これで目測はついたな。刀身三尺余、幅は四寸といったところか。形状は……ふむ、セイバーの名の通り、典型的な西洋の剣だな」
涼しげに語るものの、それがどれほど卓絶した目利きなのか言うまでもない。
セイバーの一撃は、たとえ剣が見えていようと捉える事が困難な速さなのだ。
にも関わらず、視えない剣を防ぎきり、かつ全容すら把握するとは―――
「……信じられない。何の魔術も使わず、満足に打ち合ってもいないというのに私の剣を計ったのですか、貴方は」
「ほう、驚いたか? だがこんなものは大道芸であろうよ。邪剣使い故、このような技ばかり上手くなる」
「―――なるほど。私の一撃をまともに受けず、ただ払うだけが貴方の戦いだった。邪剣使いとは、その逃げ腰からきた俗称ですか」
「ハ―――いやいや、まともに打ち合わぬ無礼は許せ。
なにしろこの長刀だ、打ち合えば折れるは必定。おぬしとしては力勝負こそが基本なのだろうが、こちらはそうはいかぬ。その剣と組み合い、力を競い合う事はできん」
「―――――――」
「もとより、刀というものはそういうものだ。
西洋の剣は、その重さと力で物を叩き切る。
だが、我らの刀は速さと技で物を断ち斬るのだ。
戦いが噛み合わぬのは道理であろう?」
「まあしかし……これでは些か興がそがれる。
もうよい頃合だぞセイバー? いい加減、手の内を隠すのは止めにしろ」
「っ――――アサシン。私が貴方に手加減しているとでも」
「していないとでも言うのか? 何のつもりかは知らんが、剣を鞘に納めたまま戦とは舐められたものだ。私程度では、本気を出すまでもないという事か?」
「―――――――」
「ほう。それでも応じないという顔だな。
―――よかろう、ならばここまでだ。おまえが出し惜しみをするのなら、先に我が秘剣をお見せしよう」
そう告げて。
長刀の剣士はゆらりと、セイバーの真横へと下りていった。
「な――――」
アサシンにとって、頭上の有利を放棄するという事は負けに等しい。
アサシンは確かに優れた剣士ではあるが、それはこの地形条件であったからこそ。
同じ足場で戦うのなら、セイバーは一撃でアサシンの長刀を弾き、そのまま首を刎ねる事さえ可能なのである。
それはアサシンとて承知の筈。
だというのに、何故――――
「構えよ。でなければ死ぬぞ、セイバー」
さらりとしたその声に、セイバーの直感が反応した。
――――それは事実だ。
アサシンが下りて来た事は、自分にとって有利な事などではない。
幾多の戦いを駆け抜けてきた直感が、自らの過ちを警告する。
「く――――!」
咄嗟に視えざる剣を構える。
躊躇している暇などない。
アサシンがその長刀を振るう前に、己が剣を打ち込めばいいだけの話――――!
「ふ――――」
両者の間合いは三メートル弱。
一瞬で詰めようと踏み込むセイバーを前にして、アサシンは身構える。
それは。
この戦いが始まって以来、見せた事もない剣士の構え。
「秘剣―――――――」
セイバーが踏み込む。
もはや長刀は意味をなさない。
懐に入られた以上、その長さが仇になる。
だが。
「――――――燕返し」
そんな常道など、この剣士の前にありはしなかった。 稲妻が落ちる。
セイバーの剣戟を上回る速度で、一直線に打ち落とされる魔の一撃―――!
「っ――――!」
だがその程度の一撃、防げないセイバーではない。
振り上げた剣を咄嗟に防御に回し、アサシン渾身の一撃を弾き返す……!
「もらった……!」
いかにアサシンと言えど、今の一撃を弾かれては立て直しに隙が生じる。
その秒にも満たぬ合間に、アサシンの腹を薙ぎ払おうとした瞬間。
「――――――――あ」
咄嗟に、直感だけに任せて、セイバーは石段を転がり落ちた。
逃げるように転がり落ちる。
受け身も何もない。
セイバーはただ必死に体を倒し、勢いを殺さず階段を転がり落ちた。
「く――――!」
落下を止め、体を起こすセイバー。
その視線の先には、悠然と佇む長刀の剣士だけがある。
「ほう。躱したか我が秘剣。さすがはセイバー、燕などとは格が違う」
「―――信じられない。今のは、まさか」
「なに、そう大した芸ではない。偶(たま)さか燕を斬ろうと思いつき、身に付いただけのものだからな」
長刀が僅かに上げられる。
先の一撃―――セイバーを戦慄させた魔剣の動きをなぞるように。
「見えるかセイバー。
燕はな、風を受けて刀を避ける。早かろうが遅かろうが関係はない。どのような刀であろうと、大気を震わさずには振れぬであろう? 連中はその震えを感じ取り、飛ぶ方向を変えるのだ。
故に、どのような一撃であれ燕を断つ事はできなかった。所詮刀など一本線にすぎぬ。縦横に空を行く燕を捕らえられぬは道理よな」
「ならば逃げ道を囲めばいいだけのこと。
一の太刀で燕を襲い、風を読んで避ける燕の逃げ道を続く二の太刀で取り囲む。
しかし連中は素早くてな。この長刀ではまず二の太刀が間に合わん。事を成したければ一息の内、ほぼ同時に行わなければならなかったが、そのような真似は人の業ではない。
叶う事などあるまいと承知したものだが――――」
「――――生憎と、他にやる事もなかったのでな。
一念鬼神に通じると言うが、気が付けばこの通りよ。
燕を断つという下らぬ思いつきは、複数の太刀筋で牢獄を作り上げる秘剣となった」
淡々とした語りに、セイバーは内心首を振る。
違う。
今の剣はそんな簡単なモノではない。
ほぼ同時? まさか。
二つの刃はまったくの同時だった。
アサシン―――佐々木小次郎の長刀は、あの瞬間のみ、確かに二本存在したのだ。
「……多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)……なんの魔術も使わず、ただ剣技だけで、宝具の域に達したサーヴァント――――」
驚嘆すべきはまさにそれだ。
今の一撃ではっきりと判った。
佐々木小次郎には、英霊が持つ“宝具”などない。
有るのはただ、神域に達した力量による魔剣のみ。
あろうことか―――この男は人の身でありながら、宝具で武装した英霊と互角なのだ―――!
「だが足場が悪かったな。燕返しの軌跡は本来三つ。もうわずかに広ければ、横の一撃も加えられたのだが」
「……そうでしょうね。そうでなければ片手落ちです。
全てが同時であるのなら、円の軌跡(二の太刀)はどうしても遅くなる。それを補うために、横方向への離脱を阻む払い(三の太刀)がある筈だ」
「いい飲み込みの早さだ。だからこそ我が秘剣を躱したか。
―――く、素晴らしいぞセイバー……!
このような俗世に呼び出された我が身を呪ったが、それも今宵まで。生前では叶わなかった立ち会い、己が秘剣を存分に振舞える殺し合いが出来るのならば、呼び出された甲斐があるというもの――――」
長刀を構え直し、石段を下るアサシン。
狙うはセイバーの首か。
今一度あの秘剣を躱す自信など、セイバーにはない。
ランサーのゲイボルク同様、アサシンの燕返しは出させてはいけないモノだ。
いや、必ず心臓を狙いにくる、という正体さえ知っていれば対応できるゲイボルクと違い、知っていてなお回避できないアサシンの秘剣は対応策がほとんどない。
あるとすれば、出させない事それ一点。
打ち勝つには、アサシンがあの秘剣を繰り出す前に最強の一撃を見舞うのみか――――
「……なるほど。確かに、手加減など許される相手ではなかったようだ」
両手を下段に。
視えない剣を地に突きつけるように下げ、セイバーは歩み寄るアサシンを睨む。
「ほう……? そうか、ようやくその気になったかセイバー」
階段を下りる体を止め、今一度必殺の構えをとるアサシン。
それを凛と見据え、
「――――不満がないのはこちらも同じだ。
我が一撃、受けきれるかアサシンのサーヴァント……!」
セイバーは自らの枷を解いた。
大気が震える。
剣は彼女の意思に呼応するかのように、大量の風を吐き出した。
「ぬ――――!」
わずかに後退するアサシン。
それも当然、セイバーから放たれる風圧は尋常ではない。
アサシンばかりか、太く堅固な山門の木々さえも震え、軋んでいる。
それは、爆発に近い風の流れだった。
密閉されていた大気が解放され、四方に吹き荒ぶ。
人間の一人や二人などたやすく吹き飛ばす烈風は、セイバーの剣から放出されている。
それが彼女の剣の力。
風王結界とは、その名の通り風を封じた剣である。
圧縮された風を纏う剣は、光の屈折角度を変貌させ剣を透明に見せていた。
その風を解放すればこのような現象が起こる。
解き放たれた空気は逃げ場を求め、無秩序に周囲に発散する。
―――その合間。
吹き荒ぶ風を自在に操る事が、彼女の剣にかけられた戒めの魔術である。
膨大な魔力を持つセイバーならば、おそらくは数分は結界を維持し得るだろう。
その証拠に、これだけの風を解放していながら、未だ彼女の剣は透明のままだった。
「……ふん。さながら台風と言ったところだが、しかし――――」
吹き荒ぶ風の勢いは収まらない。
セイバーの剣から放たれる風は、今まさにアサシンを飲み込もうと鎌首をもたげていた。
「―――この程度の筈がない。その奥にある物、見せてもらうぞセイバー……!」
目を潰す烈風の中、アサシンは間合いを詰める。
「――――――――」
セイバーの腕が動く。
前進を許さぬ強風の中、悠然と歩を進めるアサシンを迎撃しようと、風を巻いた剣が唸りをあげ――――
「そこまでにしておけセイバー。その秘剣、盗み見ようとする輩がいる」
薄笑みをうかべながら着物の男は言った。
その視線は俺と同じ、木々の茂った山中に向けられている。
「このまま続ければ我らだけの勝負にはなるまい。
生き残った者に、そこに潜んだ恥知らずが襲いかかるか、それともおまえの秘剣を盗み見るだけが目的なのか。
……どちらにせよ、あまり気乗りのする話ではないな」
男はつまらなげに言って階段を上り始める。
「――――待て……! 決着をつけないつもりか、アサシン……!」
「おまえがこの山門を越える、というのであらば決着はつけよう。何者であれ、この門をくぐる事は私が許さん。
だが―――生憎と私の役目はそれだけでな。
帰る、というのであらば止める気はない。まあ、そこに隠れている戯けは別だが。気に入らぬ相手であれば死んでも通さんし、生きても帰さん」
アサシン、と呼ばれた男はかつかつと石段を上がっていく。
「踊らされたなセイバー。だがもう一人の気配に気が付かなかった私も同じだ。あのままでおけば秘剣の全てを味わえたであろうが……よい所で邪魔が入った。そなたにとっては僥倖であったか」
「っ――――――――」
セイバーは無念そうに俯いている。
……薄れていく殺気。
アサシンの言葉ではないが、セイバー自身、ここで戦う事の不利を感じているのだろう。
「そら、迎えも来ている。そこにいる小僧はおまえのマスターであろう。盗み見をする戯けが小僧に標的を変える前に立ち去るがいい」
そうしてアサシンの姿は消えた。
霊体になったのか、ともかく進まなければ手は出さないという意思表示か。
この場は既に五戦を耐え、その度に死闘が繰り広げられた事を。
柳洞寺に挑んだ数々のサーヴァント。
バーサーカー、ランサー、
ライダー、セイバー、アーチャー。
その五者を悉く撃退した魔人があってこそ、山門は穏やかに闇を貪(むさぼ)れるのだ。
「―――待っていたぞ。よくぞ間に合ってくれた、セイバー」
流麗な声が響く。
五尺を超える長刀が月光を弾く。
山門に至る階段。
そこに、いる筈のない敵がいた。
「アサ、シン――――」
セイバーの声に色はない。
いる筈のない敵、いてはならない障害。
その二つのまさかが、彼女から冷静さを奪っていた。
「どうしたセイバー。私がいるのがそれほど不思議か。
私はここの門番だと、おまえは承知している筈なのだが」
楽しげに語る声は、あくまで涼(すず)やか。
サーヴァントにとって悪寒でしかない魔風を背にして、長刀の剣士は何一つ変わらなかった。
「……馬鹿な。何故ここにいるアサシン……! 貴方はキャスターが呼び出したサーヴァントだ。キャスターが消えた今、貴方が留まっている筈がない……!」
「通常のサーヴァントならばそうであろう。だが私はちと特殊でな。この身を縛っているのは人ではなくこの土地なのだ。
おまえたちがマスターと呼ぶ依り代。私にとっては、それがこの山門という事になる」
「な――――土地が、依り代だと……?」
「うむ。いかに
魔術師と言えど、実体を持たぬサーヴァントにサーヴァントは維持できぬ。サーヴァントの依り代はこの時代のモノでなければならぬらしい。
女狐は私を呼びだし、依り代にこの土地を選んだ。
故に私はこの山門にのみ出現するサーヴァント。召喚者であるキャスターが滅びたところで、この山門がある限り消える事はない」
「―――もっとも、それも日雇いにすぎんがな。
女狐が私に与えた魔力はおよそ二十日分。その限度がいつか、おまえならば見て取れよう」
歌うように言って、剣士は右腕を掲げる。
雅な着物のなか。
白い腕は、ガラス細工のように透けていた。
「アサシン――――――貴方は」
「見ての通り、夜明けまで持たぬ身だ。
二十日の刻限などとうに過ぎている。ここまで持ち堪えた事こそ僥倖と言えよう」
「――――――――」
呆然と剣士を見上げる。
長刀から放たれるモノは、殺気でもなければ敵意でもない。
ただ、戦え、と。
勝利も敗北も介さぬ、意味のない殺し合いを求めていた。
「―――では。私と戦う為に残ったというのですか、アサシン」
「言わせるなセイバー。口にすれば、詰まらぬ言葉に成り下がる」
くつくつという笑い。
彼女とて剣士の思惑は理解できる。
だが、今はそれに付き合う時間はない。
急がなければ、ふたりは
ギルガメッシュとの戦いに間に合ってしまう。
いや、最悪―――自分が境内に到達する前に、二人はギルガメッシュと対決するだろう。
「そこを退けアサシン。貴方に門番を命じたキャスターは消えた。もはや門を守る意味などあるまい」
じり、と一歩踏み込んでセイバーは問う。
だが――――
「―――否。もとより、私に戦う意味などない」
それ以上進めば始める、と。
長刀の切っ先をセイバーに向け、アサシンは言い捨てた。
「そう、戦う意味などない。私には初めから何もないからな。英霊としての誇りも、望むべき願いもない。
いや―――そもそも、私が呼び出された事自体が間違いなのだ。なにしろこの身は、佐々木小次郎などではな(・・・・・・・・・・・)い(・)」
「――――!?」
セイバーの混乱はここに極まったと言っていい。
佐々木小次郎。
それはこのサーヴァントの真名の筈。
しかしアサシンは自らの口で、自らを偽物と告げたのだ。
「そう驚く事でもあるまい。
佐々木小次郎というモノはな、もともと正体のない架空の剣士なのだ。
実在したとされるが、記された記録はあまりに不鮮明。
ある剣豪の仇役として都合がよい“過去”を捏造された、人々の記録だけで剣豪とされた人物だ」
「確かに佐々木小次郎という男はいただろう。物干し竿と呼ばれる長刀を持つ武芸者もいた筈だ。
――――だが、それらは一個人の物ではない。
佐々木小次郎という剣士は、引き立て役としてのみ作られた架空の武芸者であった筈だ」
「架空の、英霊――――ですが、貴方は」
「そう、佐々木小次郎だ。佐々木小次郎という殻(カラ)、それを被るに最も適した剣士が私というだけの話だ。
私に名などない。読み書きなど知らぬし、名前を持つほど余裕のある人間ではなかった」
「私はただ、記録にある佐々木小次郎の秘剣を披露出来る、という一点で呼び出された亡霊だ。
偽りのサーヴァントであるこの身は長くは保たぬ。故に、キャスターも使い捨てとして扱った」
「そら、意味など初めから無いだろう?
たとえここで偉業を成したところで、報酬は全て“佐々木小次郎”に与えられる。私には何も返ってこない。無である私にとって、あらゆる事は無意味だ。
この身は自分すら定かではない。佐々木小次郎という役柄を演じるだけの、名の無い使い捨ての剣士にすぎぬ」
長刀が揺れる。
架空の物語によって作り上げられた架空の剣士は、その役柄を貫き通さんと立ちはだかる。
「―――だが。
その私にも唯一意味があるとすれば、それは今だ。
無名のままで死んでいった“私”に、もし、望みがあったとしたら」
きっと。
無名の剣士では立ち会う事も許されなかった、上等すぎる剣士との対決を、死の際でさえ夢見たのではなかったか。
「――――アサシン」
……そうして、彼女は剣を構えた。
この敵を説き伏せる事など出来ない。
初めから死を賭している剣士に応えられるのは、ただ剣を合わせる事のみ。
「では始めよう。
なに、もとより花と散るこの身。その最期をそなたで迎えられるのであらば、これ以上の幕はあるまい――――!」
長刀が奔(はし)る。
セイバーの剣が、月光の如き一撃を受け流す。
「くっ――――!」
翻る長刀。
この男に力を使っては、山頂で待つギルガメッシュには太刀打ちできない。
だが力を温存する余裕などない。
否―――全力で戦ってとしても、果たして勝利し得るかどうか。
長刀は一撃毎に鋭利さを増していく。
架空の剣士。
宝具を持たぬまま、英霊と互角以上に戦う剣豪。
その決着を、彼女はここで付けねばならない――――
二メートル近い長物を自在に繰るアサシンに、セイバーは未だ踏み込めずにいた。
「くっ……!」
躱しきれず後退する。
両者の距離は一向に縮まらない。
セイバーとアサシンの間合いの差は一メートル。
その、たった数歩分の石段を駆け上がる事さえ、セイバーには出来なかった。
「――――――――っ」
唇を噛む。
このような小競り合いを続けている暇はない。
もとより力で勝る相手だ。
魔力と剣の威力を盾にすれば押し切れない相手ではない。
一撃だけ。
一撃だけ受ける事を前提にすれば、容易く組み伏せられる。
腕でも足でもいい。
多少の傷に怯まなければ二撃目はない。
甘んじて一撃を受けた瞬間、彼女はアサシンに踏み込み、敵を両断する自信がある。
だが。
その一撃が確実に首を刎ねる物だとしたら、力押しなど出来よう筈がない。
目前のサーヴァントの一撃とはそういう一撃だ。
牽制などなく、常に命を奪いにくる。
それを防ぐ手段は後退しかありえない。
横に回り込めぬ地形の不利と、敵の技量が彼女の前進を許さぬ為に。
故に踏み込めない。
彼女は生きて境内に辿り着かねばならないのだ。
こうしている合間にも、二人はギルガメッシュと対峙している。
彼女の到着が遅れれば、どちらかが死んでいるかもしれない。
いや、最悪――――既に、二人は。
「くっ――――ああああ…………!」
駆けた。
胸に沸いた不吉な想像を払拭するように、声を振り絞って駆け上がる。
衝突する二つの軌跡。
「む」
鬼気迫る突進に何を思ったのか、アサシンは己を討ちに来るセイバーの体ではなく、振り下ろされる剣に刀を振り当てた。
「……ほう。流石はセイバーの剣。数回程度ならば耐えられると思ったが、一撃で曲がるとは……!」
火花がこぼれる。
打ち合った剣と刀は、鍔迫り合いながら、互いを押しのけようとする。
「受けた……? アサシンが、私の剣を……?」
アサシンの刀は脆い。
鉄さえ両断するという業物ではあるが、所詮は人の手による物。人ならざる業によって鍛えられた彼女の剣とは比べるべくもない。
正面から力のみで打ち合えば、確実に長刀は粉砕される。
それを知っているからこそアサシンは剣を受け流し、剣ではなく体を狙う事でセイバーを退かせていたのだ。
だが、アサシンは自ら受けた。
いかに鍛え上げられ、アサシン自身の“粘り”があったところで、刀ではセイバーの一撃を防げない。
セイバーの一撃を受け止めた長刀は芯が曲がっている。
その様では、もはや今までの鋭利さは保てまい。
“……勝てる? 無傷で、この男に勝てるのか……?” アサシンの長刀を押し返しながら自問する。
その迷いが、油断となった。
アサシンがセイバーの剣を受け止めた事には意味がある。
それが何の為なのか気付く前に、彼女はその位置に立たされていた。
「……!」
体の位置が、変わっている。
階段の上と下とに別れた二人の立ち位置が、今は平行。
セイバーは気が付かないうちに体を横にずらされ、真っ平らな足場に立たされている。
……それは、前回の焼き直しだ。
お互いが水平になる立ち位置。
秘剣を振るうに適した足場。
そこでならば、アサシンは己が魔剣を披露できる。
――――燕返し。
円を描く三つの刃は同時に標的を囲み、防ぐ事も躱す事も許さず、確実に敵を絶命させる。
「――――――――」
ぞくり、と。
彼女は、自らの首筋に走る悪寒に身震いした。
「アサシン、貴様……!」
セイバーの力が弱まる。
このまま押し倒す事はできる。
力で勝る彼女ならばアサシンを弾き跳ばし、トドメを刺しに走り寄るか、山門まで駆け上がる事もできる。
だが―――そのどちらも、結果は同じだ。
離れればアレ(・・)が来る。
突き飛ばした後、トドメを刺しに踏み込もうと、背中を見せて駆け上がろうと、あの魔剣を放たれればそれで終わる。
ならば押せない。
力を弱め、アサシンに合わせて睨み合うしか手段がない。
「―――よいのか、力を弱めて。これならば私の方からおまえを弾き飛ばせるが」
アサシンは満足げに、追い詰められたセイバーを見つめる。
そこに酷薄なものはない。
長刀の剣士はただ、窮地に立たされた相手の、起死回生を狙う瞳に見惚れていた。
「………っ。この為に自らの武器を傷つけたのか、アサシン……!」
「無論。埒(らち)があかぬのでな、勝負を付けに来た。
これならば以前のおまえに戻ろうと思ってな。果たし合いの最中に、後の事など考えるな」
「――――――――」
息を呑む。
彼女の心を見透かしたアサシンの言葉は、罵倒ではなく――――
「……!?」
境内が燃えている。
響き合う剣の音と、砕け散る剣の音。
それは間違いなく、ギルガメッシュと
衛宮士郎の戦いの音だった。
「ふむ。どうやら宴もたけなわというところだな。こんなところで門前払いを受けている場合ではないぞ、セイバー」
「アサシン――――!」
剣に力が入る。
目の前の障害を弾き飛ばそうと剣に魔力を籠める。
……だが、出来ない。
その瞬間こそが彼女の終わりだ。
このまま間合いを離してしまえば、それこそアサシンの術中である。
「くっ――――」
不甲斐なさに歯を鳴らす。
彼女は剣に魔力を籠めたまま、為す術もなく剣を合わせる。
そこに、
「何を迷う。お互い、やるべき事は一つだろう」
透明な声で、剣士は告げていた。
「……アサシン?」
「もとより、我らは役割を果たす為だけに呼び出された。
私がこの門を守るように、おまえにも守る物がある。
ならば迷う隙などあるまい。
―――それにな、セイバー。時間がないのは、おまえに限った話ではない」
「――――――――」
その言葉には、偽りなどなかった。
架空の役割のみを果たしてきた剣士の、最初で最後の本当の言葉。
願わくば、死力を尽した結果が見たい、と。
この時代に召喚され、この門を守り続けた報酬、唯一の望みを、目前の剣士は告げていた。
「――――失礼をした。確かに、お互い時間はない」
剣に籠めた魔力を放出する。
「ぬっ……!?」
容赦なく放たれた力は、アサシンの体を弾き飛ばす。
距離にして二メートル。
アサシンにとっては最高の間合いを前にして、セイバーは動かない。
山門に走る事も、弾かれたアサシンに駆け寄る事もない。
結界を解く。
自らの剣を露わにして、セイバーはアサシンと対峙した。
眼に迷いはない。
必要とあらば全ての力を使う。
全力を以って目前の敵をうち倒すと、その姿が語っていた。
「――――――――」
事ここに至って語るべき言葉などない。
架空の剣士はゆっくりと長刀を構え、
「――――――――いざ」
己が最強の剣技で、生涯最高の敵を迎え入れた。
「――――――――いざ」
そうして、剣士はその業物を構えた。
構えらしき物を持たぬアサシンの唯一の構え。
異なる円を描く刃を同時に放ち、敵を四散させる必殺剣。
それを彼女は体験している。
……以前放たれた刃は、敵を囲む円と縦軸しかなかった。
だからこそ彼女は避け、こうして命を繋いでいる。
だが、真のソレは三つの軌跡を持つという。
円を描く線と頭上から股下までを断つ縦の線。……そして恐らくは、左右に逃げる敵を捉える横の線。
この三つが同時に放たれるのならば逃げ場などない。
間合いに入ったが最後、一つの軌跡を受けた瞬間に二つの軌跡が体を四散させる。
左右にも逃れられず、後退したところで長刀は苦もなく逃げる胴を薙ぐだろう。
―――魔剣、燕返し。
サーヴァントすら凌駕する神域の技。
無名の剣士が、その存在全てを懸けて練り上げた究極の一が、ここにある。
長刀が揺れる。
その体が、一足で間合いを詰める。
セイバーを断ち切る距離、
あらゆる守りを許さぬ間合いから、牢獄の如き軌跡が繰り出される――――!
セイバーは聖剣を使わない。
もとより、この間合いになった時点で宝具など使えない。
いかにセイバーの聖剣が速かろうと、アサシンの燕返しは、それを遙かに上回る。
聖剣に魔力を籠めた時点で彼女の首は跳んでいる。
故に、頼りとなるのは純粋な剣技のみ。
――――円が走る。
二度目だというのにその鋭利さ、迅速さに感嘆し、絶望する。
このような一撃――――果たして、如何なる修練の果てに辿り着くのかと。
その時、彼女にあったものは戦慄だけだった。
防げるものではない。
この魔剣は、人の身で神仏に挑む修羅の業。
神ならぬ身では防ぐ事も返す事も許されまい。
息を呑む。
脳裏には砂粒ほどの微かな閃き。
それが何なのか、それが合っているのかなど考えない。
彼女は、ただ己が直感に全てを賭け、
全能力を以って、その“勝利”へと疾走した。
その姿を、架空の剣豪はどう取ったのか。
銀の鎧が、腕の隙間をすり抜けていく。
剣士の左腕下、腰と二の腕の間。
その、僅かばかりの隙間こそが、魔剣の死角だと彼女は見抜いたのか。
セイバーは身を丸め、三つの刃で鎧を削がれながらも、その一点のみを突破した。
彼女の予知――――卓越した直感があってこその妙技。
まだ見ぬ魔剣の完成形、不完全ながらも一度燕返しを体験したが故に、その完成図を予知し得た。
―――だが、驚嘆すべきはそんな事ではない。
彼女を生かしたのはその決意。
瞬間に浮かんだ閃きを信じ、刹那の隙間に全ての能力を傾けた。
通れる筈のない隙間、僅かでも遅ければ輪切りにされるという恐れを振り払って地を駆けた。
故に。
真実その決意こそが、かの魔剣を破り去った『強さ』だった。
しかし、勝負はついていない。
燕返しを躱されたところで敵は真横、しかも剣士の抜刀を上回る速度での跳躍だ。
その体勢、容易に直せるものではない――――!
長刀が翻る。
返す刃は魔剣に至らぬまでも最速。
だが。
振り払われた一撃は、僅かに剣士を上回っていた。
「ぐ――――ぬ」
口元を締める。
堅く唇を閉ざし、倒れぬよう四肢に力を込める。
―――剣士の足下には、金の髪をした騎士がいる。
その輝きを五臓六腑(ごぞうろっぷ)の流しものなどで汚すなど、剣士の流儀には存在しない。
セイバーに言葉はない。
はらり、と金の髪が石段に舞っていく。
……首が付いている事が不思議だった。
……手足が削がれていない事は奇跡だった。
……あの僅かな隙間に身を投じた瞬間、体を四つに断ち切られたと実感した。
差があるとしたら、それだけの差だったのだ。
剣士の長刀。
それがたわんでいなかったのなら、彼の魔剣は生涯無敵であったろうに。
【能力概要】
【以上を踏まえた戦闘能力】
最終更新:2021年06月03日 22:30