『創世記機械』
ジェイムズ・P・ホーガン (James P . Hogan) 
山高 昭 訳    
The Genesis Machine (1978) 創元SF文庫 星雲賞受賞

5/19   読書会れじゅめ 担当 CJB8

1 あらすじ

 東西分裂が進み、両者の緊張関係が高まる中、若き天才理論物理学者ブラッドリー・クリフォードは、政府機関高等通信研究所で統一場理論の研究を独自に進め、画期的な成果をあげた。物質、電磁気力、そして重力の本質を見事に解き明かしたのだ。この理論を応用すれば、宇宙のエネルギーを自由に操り、利用することができる。使い方によれば究極の兵器にもなる、そこに目をつけた西側軍部は、ともすると反抗的なクリフォードを辞職に追いやり、理論の提唱者不在のまま独自に研究を進めようとする。彼は非政府機関の国際科学財団に移り、細々と研究を続けていたのだが、行き詰った軍部に招かれて再び政府に組し、惜しみなく提供される資金と技術力を駆使して最終兵器を作り上げた・・・。


2 作者について

 1941ねんイギリスのロンドンで生まれ、王立航空研究所工業専門学校で電子工学を専門に学んだ後、アメリカに渡り設計技術者や設計セールスマンなどの職を転々とする。会社勤めの傍ら書き上げた『星を継ぐもの』(1977)で作家デビュー。現在はダブリン近郊海辺の町で暮らしている。

3 こーさつ

この世界でホーガンが打ち出したSF的要素は、
  • 既知の場をすべて同じ土俵に引きずり出す「統一場理論」であり、
  • これは強い相互作用、弱い相互作用、電磁力、重力物質といったあらゆる現象の本質を、相関す 
 する一組の方程式で表すことを可能にし、
  • すなわち、すべての現象が「六次元直交座標空間複合体」--「K空間」として表すことができ、
  • 「K空間」を決定するのは六個の座標軸をそれぞれに振動する諸成分であり、
  • そこで知覚される「K波動」関数を観測することが可能になった。
  • つまり、“質量”さえも振動成分の相互作用による物ととらえることになるから、その相互作用
 によっては(あくまで観測できる態様としてであるが、)「何もない」状態から「何かある」状態への
 瞬時の移行も可能になる。
  • 重力場に影響を与える質量はきわめて微小部分だけで大部分は重力的に不活性。これが空間を占め、体積は持つものの、質量的にはなんらの貢献をしていないもの。
  • 当然、宇宙----ここでは空間と時間----は単なる容れ物ではなくなり、
  • 「何もない」空間それ自体が客観化(つまり受身である意味研究対象の枠外の存在ではないとい
 うこと)かつ定量化能な実体としてみなしうる。
  • 観測できない空間を「高次空間」、できる空間を「低次空間」としたとき、両者の共鳴に人工的に
 干渉しえたなら、エネルギー(という形でたち現われている現象)を即時に転送しうることになる。
  • これを兵器として利用すれば、爆撃どころではなく消滅が可能になる。

  • ・・・・・たぶん。難しすぎて理解できないところが多いです。嘘と論理もどきの飛躍でしか把握できませんでした。そもそも架空の理論をでっちあげてあーだこーだ言っているわけですから、教科書を読むように逐語的に追う必要はないのかもしれませんが・・・。
 非常に詳細な設定・理論を組んでこれでもかと語り倒してくれるホーガンですが、「統一場」という、ひとつの架空の理論を放り込んで、行き着く先とそこまでの過程、そして登場人物の魅力でもって、
「素粒子?なにそれおいしいの?」といった科学おんちにもぐいぐい読ませてしまうのもまた彼の持ち味でしょう。
 私は宇宙なんとかよりも、何もないところに瞬時に発生させるという一点に驚きましたね。これに
説明をつけるために延々と理論説明をいれているところには敬意を表して読み飛ばし、科学者が軍事部門を・・・東側と西側に分かれて両者の緊張関係が極限まで高まり、目下それが最大の関心事となっている時勢においては世界を・・・征服してしまうという、シナリオ全体に感動しました。
 科学万歳!天才万歳!
 ・・・・・・クリフォードが平和主義者でよかった。厭世家で自己中心的な人間だったら終末へのカウントダウンですよ。あるいは、彼以上の天才で軍に忠誠を誓うことを愛国心と信じて疑わないおめでたい科学者が登場していても泥沼の戦端が開きますね。いや、西側の完全勝利か・・
というような危惧を抱かずに楽しめるのがホーガンのホーガン節たる所以ですね。科学はあくまでも人類に有益なもの。この作品では、更に、科学を極めていこうとする科学者もまたまともな思考回路を持っていなければならないということで。ついでにある程度高尚な理想に基づいた傲慢さを持ち合わせていなければいけないということで。文書屋はわからずやということで。

 読後感はよいですね。あまりにすっきりと収束していくので、マークⅢのビームの波に呑まれたかと思うほどです。すっきりしたところで世界が始まる、まさに「創世記機械」。同じジェネシスでもどっかのアレとは逆ベクトルですばらしいです。ニュートロンジャマーや、常温ギガ伝導体(毛色は違いますが・・・)とは桁が違いますね。111年後に人類が闘争本能から解放されていますように・・・
平和に乾杯!

長々と駄文失礼いたしました。何か言う必要などないくらいに面白いお話です。




4 ほかの作品(あちらでの出版順)


1977 Inherit the Stars 『星を継ぐもの』
1978 The Genesis Machine 『創世記機械』
1978 The Gentle Giants of Ganymede 『ガニメデの優しい巨人』
1979 The Two Faces of Tomorrow 『未来の二つの顔』
1980 Thrice upon a Time 『未来からのホットライン』
1981 Giant's Star 『巨人たちの星』
1982 Voyage from Yesteryear 『断絶への航海』
1983 Code of the Lifemaker 『造物主の掟』
1985 The Proteus Operation 『プロテウス・オペレーション』
1987 Endgame Enigma 『終局のエニグマ』
1988 *Minds, Machines and Evolution
1989 The Mirror Maze 『ミラー・メイズ』
1991 The Infinity Gambit 『インフィニティ・リミテッド』
1991 Entoverse 『内なる宇宙』
1992 The Multiplex Man 『マルチプレックス・マン』
1993 Out of Time 『時間泥棒』
1995 The Immortality Option 『造物主の選択』
1995 Realtime Interrupt 『仮想空間計画』
1996 Paths to Otherwhere 『量子宇宙干渉機』
1997 Bug Park 『ミクロ・パーク』
1998 Mind Matters (Nonfiction)
1998 Star Child
1999 Outward Bound
1999 *Rockets, Redheads and Revolution
1999 Cradle of Saturn 『揺籃の星』
2001 Martian Knightlife
2003 The Anguished Dawn
2005 Mission to Minerva

2019.02.24 Yahoo!ジオシティーズより移行
http://www.geocities.jp/tohoku_sf/dokushokai/genesis.html
なお、内容は執筆当時を反映し古い情報・元執筆者の偏見に基づいていることがあります by ちゃあしう
最終更新:2019年03月26日 00:21