東北大SF研 読書部会
星を継ぐもの」 ジェイムズ・P・ホーガン

著者紹介

ジェイムズ・P・ホーガン

1941年にロンドンで生。航空機関係の設計技術者として働いた後、セールス部門でいくつかの会社を渡り歩いた。この体験が本作の主人公ハント博士に活かされているらしい。1978年本作でデビューし、ハードSFに分類される作品を著作に多く持つ。


あらすじ

月面で真紅の宇宙服に身を包まれた死体が発見された。調査の結果、ほとんど人間と同じ生物のものであるこの死体は地球、月のいかなる人間でもなく、5万年以上も前に死んでいたことが分かった。物理学者ハント博士や生物学者ダンチェッカー教授らによって様々な仮説が打ち立てられ、検討され、放棄されていく中、木星の衛星ガニメデでは地球のものではない宇宙船の残骸が発見される。様々な謎が彼らに立ちはだかるが、最終的に全てをうまく説明するストーリーがハントとダンチェッカーによって語られる。



所感

ホーガンのデビュー作にて、ホーガンらしさが非常によく出ていて、かつホーガンで一番面白いと思う作品。筆者は仮説を検証して、矛盾があったらまた違う仮説を立てて…という過程で進んでいく物語が大好きであり、それはまさしくホーガンの作風なのだ。個人的には科学史を読んでいる感覚に近い。彼の作品はストーリーを楽しむという要素は薄目であり、メインディッシュはSF的トンデモ理論と、それを建設する過程である。大体のホーガン作品は大団円で終わるし、配役なども似たり寄ったりなので、(特に初期の作品では)物語的な起伏は読めてしまう。一方、彼の作り出すSF理論はとても魅力的で、それを小出しにしながら読者に(最序盤を除いて)常にワクワク感を与え、続きを読みたいと思わせる。基本的に科学的、技術的な小難しい議論が続けられるのだが、本作ではチャーリーの手記が非常に良いアクセントとなっている。ストーリー要素が薄いと書いてしまったが、本作ではプロローグやチャーリーの手記、ダンチェッカーの最後の演説などで語られるルナリアンの末路というのがなかなかエモくアツい。最後の最後にタイトル回収するのもグッとくる。本作を楽しく読むことができた人にはぜひとも続編である「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」や、「未来からのホットライン」「創世記機械」なども読んでみてほしい。相変わらず科学主義万歳で、与えられた謎に対して理論を組み立てていくというプロットなので、「星を継ぐもの」を気に入ったならこれらも気に入ると思う。
最終更新:2019年12月03日 01:34