誰も知らないあなたの仮面◆yy7mpGr1KA
ぱらり。ページをめくる音が小さく響く。
ぱらり。ページをめくる感覚が指先に伝わる。
ぱらり。紙とインクのにおいが仄かに漂う。
ぱらり。文字を読み、行間を読み解く。
ぱらり。物語の全てを丹念に味わう。
ぱたん。しおりを挟んで本を閉じる。
最早おなじみになりつつある、サーヴァントがコーヒーを淹れる光景に目を移す。
「食事の後すぐによくそれが読めるね……
ああ、砂糖がなくなりかけていたから買い足した方がいいかもね」
「ありがとう。ふむ、コレは習慣のようなものだからね。内容は二の次、とまではいかないがそう影響はしない。
確かに些かグロテスクといえるところはあるが……それも含めて興味深い」
読んでいた本を収め、自分の分を受け取る。
本のタイトルは『グリム童話集』。先日古物商で購入したものだ。
「シビュラの管理下では刺激の強い物語は殆ど淘汰されてしまった。学術的資料として原典に近い物語を知ることはできたけれど、こうして童話に触れるのは貴重な経験なんだ。
知識としても、物語としても、感覚の調整としても…とても有意義なひとときだ」
かちゃり、とコーヒーをテーブルに置く。
ちらり、とテレビのニュースに目を向け、そこに流れるアイドルの名を視界に収める。
「『シンデレラ』も希釈され、大きく形を変えた物語だ。魔法使いの生み出すカボチャとネズミの馬車が有名だが、この童話集にはどちらも登場しなかった。
魔法使いの代わりに小鳥がシンデレラにドレスや靴を与えていたよ。そしてその小鳥はシンデレラの二人の姉が王子を騙そうとする不正を暴く。
さらに姉妹の眼を啄んでシンデレラの周りから二人を完全に追いやり、彼女を幸せにする」
本を手に取り、きちんと本棚の一角に収めつつ語り続ける。
「〈小鳥〉とは〈臆病な大衆〉の象徴。〈目〉は邪視に始まる〈悪意〉、〈罪〉を意味する。体の一部を啄むのは鳥葬による罪の浄化、ひいては〈死〉のメタファーだ。
つまり原典における『シンデレラストーリー』とは罪を負った人間を大衆が死罪にすることで幸せになること、とも解釈できるわけさ」
「……そう聞くとさほどおかしなものではないね。描写は大分残虐だったけど」
少しだけ目を通した物語を思い返し、その描写も想起して僅かに眉をしかめる。
「専門家が耳にすれば鼻で笑うようなものかもしれないがね。象徴学なんかは専門じゃないんだ。
……ちなみにその象徴学でネズミは疫病を媒介する死の象徴で、カボチャは愚鈍の象徴だ。昨今のシンデレラは死に引き回される愚者であるという解釈も成り立つのさ」
照れ隠しか、愉快なジョークでも口にするのか笑みを浮かべている。
「残虐だからと大切な本質を切って捨て、見た目を華美にすることに囚われて滑稽な物語を紡ぐ。実に愚かしいと思わないかい?」
それは物語のことでもあり、人間のことでもある。
そう、目で語る。
「ここにきて幾度か食事を楽しんだ。シビュラの管理下での食事は99%以上がハイパーオーツという麦を基にした合成食品なんだ。
もしかすると今まで生きてきて本当に『食事』をとったのは初めてかもしれない、そう思ったよ。そのくらいここでの食事や君の淹れてくれたコーヒーは……美味しかったよ。
栄養価やバランスと言う意味では間違いなく合成食品の方が格段に優れているにも関わらずね」
「それは光栄だね」
簡素に答え、二杯目を注いだり配達物に目を通したり。
無関心気に、しかしその実噛みしめて、耳を傾けて。
「童話はより童に向けた物語になった。食事はより効率的になった。しかしその過程でより本質的な何かを失ってしまっている。
……人間もまた、その本質を見失っているんじゃないか」
原典の童話に描かれるような人間らしさを。
だからこそ興味がある。
NPCとは人間か?人形か?
自らの意思を、人間らしさを彼らは保持しているのか。
「だとしたらこれはその人間性の発露、といえるかな」
「ん?なにかな」
フェイトが手に取ってみせたのは配達物の中にあった封筒。
聖杯戦争参加者の皆様へ、と書かれたその封筒の中身は
ジョーカーと言うマスターに対する討伐令。
「こんな序盤から討伐令が出されるほどの違反。よほどの問題行為をやらかしたんだろう」
「……確かに機械的に従うことはしない、自らの意思で振る舞う人間らしい行動と言えるかもしれないね」
届いた書面に目を通し、その意図を吟味する。
「何らかの違反、もしくはルーラーに対する反逆行為をした者がいるわけだ。
その動機は…ルーラーや聖杯戦争に対する反抗なのか、それとも無関係で身勝手な振る舞いの結果なのか?
反抗であるならば『聖杯戦争』という現状を受け入れ難いか、もしくはただルーラーが気に入らないだけの単純なものか」
「幼稚な反抗であってほしくはないね。できれば僕の知るような義憤でもって反旗を翻す革命家であってほしいと思うけど…」
かつての友、造者主の唱えた救世を否定し、退けた英雄。
その父親、彼もまた造物主との戦いに勝利した偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)。
彼らのように殺し合いと言う現状を打開しようとした者ならば興味もわくが
「そうではなさそうだね」
「恐らくはそういった意思や思想のあるものじゃない、ただの犯罪行為でしかないだろう。
白塗りの雑なメイクに加えてジョーカー、道化師という通り名。そして早期での違反行為……
キラー・クラウン、殺人ピエロと呼ばれた男がいる。33人を強姦し、殺害した連続殺人犯だ。
ジル、あるいはジャック・ザ・リッパーしかり悪名高い犯罪者にはこうした通称のようなものがつくことがある。
ジョーカーと言う通称もそれではないかな。具体的な所業は分からないが、まず間違いなく典型的な無秩序型の犯罪者」
「だとすると、ただサーヴァントという力に酔ったというわけではないか」
断片的な情報から手配された男について考察。
容貌に加え、違反行為。バーサーカーという戦術構築においては戦力外のクラスにもかかわらずルーラーに処断されず、マスターに討伐令が下されている。
日常的に犯罪行為を行ってきた人物であろうと二人、共有する。
接触するか無視するか、褒賞に見合う程度の相手か。
「動機は……物欲型や支配願望型の線は薄いかな。それなら聖杯戦争に違反するほどの動きにはならないだろう。
神からの啓示などといって浮浪者や売春婦などに手を出す幻想型?滅ぼすべき集団がいると勝手に決めつける使命思考型?
これらも物欲型などと同じ理由で考え難い。
となると、快楽型か承認欲求型……もっとも不規則で理不尽な動機だ。それこそ、ルーラーに対して犯罪行為を行ってもおかしくない」
「分かりきったことだが、こうして要素を並べるととんだ危険人物だね……行くのかい?」
「『人間は人間にとっての狼である』。狩る者であり、同時に狩られる者でもあるんだ。それは個の意思と欲求で決まる。
ジョーカーはきっと誰よりも己の意思を貫いている『人間』だ。原典の童話に描かれるような残虐で自由な『人間』だ。
彼は僕らにとって狩る者なのか、狩られる者なのか、それを見分けることができる者なのか。
その思想、意思、能力……とても、惹かれる人物だ。彼が承認に飢えているならば僕がそれを満たそう。ぜひ会って話してみたい」
この世に孤独でない人間などいない。
だからこそ人は人を知ろうとする。
フェイト・アーウェルンクスがネギ・スプリングフィールドに関心を抱いたように。
槙島聖護が
狡噛慎也に興味を抱いたように。
ジョーカーもまた誰かを求めているのではなかろうか。
見せつけたい相手は特定の誰かなのか、不特定なのか。
それは……『槙島聖護』でも構わないのか。
「了解、マスター」
「では行こう。幸い縛られるスケジュールはもうない」
聖杯戦争の参加者に与えられる仮初の身分。
再現されたセーフハウスと同様槙島聖悟にもそれは与えられていた。
池袋近郊の女子校の教師。それが彼の『東京』における役割…のはずだった。
しかしすでにその職は辞している。
安定した収入や人脈を長期にわたって得られる職というのは数年単位で見れば魅力的かもしれないが、この聖杯戦争が数年にわたるということはまずない。
ならば日雇いの労働など即座にリターンが得られるものに従事する方が今は賢明だ。
この広い東京で職を辞する程度でマスターだとばれる危険は薄い。
もしばれるならそれは情報収集に相当長じているか身近にマスターが存在するということ。演じることで浪費する時間や労力を別のことに向けた方が有意義だ。
物品や住居などはもともとの自分の持ち物と変わらないのだから社会的地位のように捨てはしない。
しかし誰かが定めた職に就くなどという、かつて見てきたシビュラの奴隷のような真似はごめんだった。
だから己の意思で辞めた。
そうして得た自由な時間。
今まではNPCで色々試そうと準備を重ね、これから本格的に動こうとしていたがジョーカーのことを知った以上そちらを優先する。
NPCはいくらでもいるが、ジョーカーはもしかすると話す前に誰かに倒されてしまうかもしれないのだから。
準備の一つ、買い込んだ工具から釘打ち機と釘を取り出し、愛用の剃刀と共に持って出ようとする。
「君は僕の知っている教師とは随分違うよ……
ああ、行くのは構わない。向かうのはここに書かれた場所だよね?でもこの手紙をどこまで信用していいものかも考えた方がいいんじゃないかな?」
「……裁定者のサーヴァントというはそこまで信を置けないのかい?」
「聖杯戦争もルーラーも皆平等にスタートなんて妄言、まさか信じないだろう?」
マスターの能力の差異はさておき、与えられるサーヴァントの実力差。
個性など言えば聞こえはいいが、こと単純な戦争ならばセオリー通り三騎士が有利。
参加者ごとの仮初の身分。
拠点に物資、職と大きなお世話も交じっているが恵まれている。しかし他全ての主従がこうであるとは限らないし、職が変われば生活スタイルも変わる。
それは戦争における時間の浪費と言う不平等を生み出す一因となる。
手紙を読むタイミング。
情報と言うのは刻一刻と価値を変える。
この手紙が届いたのは昨日配達物を確認してから次に確認するまでの間のいつか。
もしかすると昨晩の段階でこれを知った参加者がいるかもしれない。
もし今朝忙しくてこれの確認ができなかったなら、討伐令のことを知ったのは今日の夜にまでもつれ込んだかもしれない。
「確実に知らせるなら念話に映像投影、使い魔などを僕なら使う。それができなくとも直接手紙を渡すなりして参加者の認識の差異をなくすべきだ。
にもかかわらずこの形式。褒賞の香りは確かに甘いけど、その下に毒があるんじゃないかと勘繰ってしまうね」
「手紙の内容にも何らかの意図や差異があるかもしれない、か」
容姿を知ったことがマイナスになる可能性はある。
このピエロメイクは誰にでも真似できるものであり、逆にこれを解かれては誰がジョーカーか分からない。
NPCにメイクをして囮にされてしまうかもしれないし、メイクをせずに大衆に紛れての不意打ちなどを許してしまう可能性もある。
居場所の候補は有効な情報かもしれないが……
既にジョーカーが移動していた場合無駄足になる。
むしろ当てなくさまよう参加者が有利になることもないとは言い切れない。
情報は生ものだ。
時間が経ち腐ったそれの価値は激減する。
にもかかわらず伝達に遅れの生じる可能性のある手紙を用いた。
知らないという罪と不要な情報を知り過ぎる罠。
どちらも不利。
悪法もまた法なら悪平等もまた平等。そんなひねくれた仮説まで浮かんでしまう。
それを踏まえると……
「ジョーカーのことを知られたくない参加者、もしくは優先的に知らせたい参加者、あるいは褒賞をあたえたいお気に入りがいる。
だが全員に討伐令を知らせないわけにはいかない。逆をいえば討伐令さえ伝えれば最低限問題はない。
手紙に何か付記されていたり、逆に何か欠けていることがあるかも。確実に読んでほしければ手渡せばいいし、知られたくないなら乱雑に放って置いてもいい。
つまりこの手紙も通達以上の意図が籠められている可能性があるということか」
「ジョーカーを探す、という方針はいいよ。ここは工房敷設に向かないから、引き続きの外出はキャスターとしても望むところだ。
ただこの手紙をどこまで信じるか。丁寧に配達されたとみるか、粗雑に手渡されなかったとみるか」
僕らをジョーカーと接触させたいのか、させたくないのか。
あるいは警戒されているのか、贔屓されているのか。
もしくは……ルーラーサイドが何らかの理由で僕らとの接触を避けた、あるいは避けさせられているのか。
「もっと言えばこれが本当にルーラーからの手紙なのか。封と手紙さえ用意すれば偽造することも難しくはなさそうだよ」
「さすがにこれは本物だろうね。次からは警戒の必要もあるし、今後僕らが偽造することもあるかもしれないが」
僅かながら手紙への疑心。
根本になるルーラーへの、聖杯戦争への不信。
警戒心は高まる。
しかしそれでも彼の意思は変わらなかった。
「『この世は舞台である。誰もがそこで一役演じなければならない』。
台本通りに動くだけでなくアドリブで魅せるのが名優だ。思い通りに動く演者などそれこそ人形で十分。
ここがデウス・エキス・マキナの掌の上でも僕はハムにもマリオネットにもなるつもりはない。己の意思で動くだけさ。
この情報を知らせるのがただの役目ではなく誰かの意思ならば、僕はその真意も知りに行きたい」
「……決まりか」
そこに意思があるならば、たとえ神でも問い質してみせる。
それが槙島聖護の意思。
【A-2/新宿区、歌舞伎町のマンション/1日目 朝】
【槙島聖護@PSYCHO-PASS】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]剃刀、釘打ち機
[道具]釘打ち機のマガジン×2
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しみ、そのなかで様々な『人間』の意思を確かめる
1.ジョーカーに強い興味。会って話してみたい
2.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる
3.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※
ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。
※池袋近郊の女子校の教師として勤めるはずでしたが辞めました。
※NPC相手に色々試す準備をしていました。釘打ち機はその一環です。
他にどんなことをしていたかは後続の書き手さんにお任せします。
【キャスター(フェイト・アーウェルンクス)@魔法先生ネギま!】
[状態]健康
[装備]指輪(魔法の発動体)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦いと、強い意志を持つ人間を求める
1.ジョーカーに関心。ショーゴと共に探す
2.工房敷設に適した霊脈を見つける
3.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる
4.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。
[道具解説]
釘打ち機@現実
通称ネイルガン。
装填数20発、使用空気圧2MPaくらい。威力はコンクリート壁に穴をあけるくらい。
マガジン交換で釘をセットするタイプなので、カバーあけてマガジンを排出・セットすればすぐにリロードできる。釘のサイズは32~50mm。
射程距離は20mくらい、ただしまともに狙える有効射程距離は10mもあればいい方。
本来は先端に何かがふれていないと釘を打てないので銃器のようには使えないのだが、先端スイッチを改造することでフルオートでの発射が可能となる。
PSYCHO-PASS一期で槙島および手引きされたヘルメット集団が主に飛び道具として用いた武器。
現実出典とするがイメージはそこ。
最終更新:2015年04月28日 01:34