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俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA



「討伐令」
「ふん、無軌道な間抜けが出たということか……」
「君は、これを見て、『どこまで』ならやっていいと思うかな?」
「区切りがある、この伝達はその区切りを意図的に隠している」
「これは、ただの通達ではないね」
「我々へのメッセージという意味では同じだろうがな」
「そう。そして、ムーンセルからのメッセージではなく、ルーラーからのメッセージ」
「……ふむ」
「文面からすると、細かな『区切り』は掴めないが、『許容範囲』というものなら掴める」
「ルーラーへの攻撃行動……そこまで大胆に動くつもりはない」
「将来的にその動きはメリットが生む可能性は出てくるだろうけど、今はないだろうね」
「聖杯戦争の運営を損なう……NPCの大量殺害」
「それらしき案件は耳にしていないね」
「つまり、『一匹』や『二匹』の死自体は問題では無いということだ」
「可能性は高いね」
「ならば、食事の問題はないということ」
「試してみるかい?」
「当然だ、そして、情報収集」
「令呪の一画と情報は美味しいからね……ジョーカーか、こっちも身体を動かさない範囲で動いてみるよ」
「何をするつもりだ?」
「テレビとか、ネットとか、週刊誌とかだね。
 NPCがどんな風に動いているかわからないけど、何かしらの動きがあるかもしれないからね。
 確かな情報じゃなくて、僕らの未把握の集団には有名な噂話とかで蔓延してるかもしれない」
「無軌道な『標的』の動きは掴めなくても、『それ以外の人間』の動きから『標的』の動きを察することも出来る。
 ……ならば、その『それ以外の人間』へと働きかけ、人為的に流れを作ってみるとするか」
「じゃ、いってらしゃい」




性質上、カーズは霊体化へと至ることが出来ない。
黒いコートを羽織り(これは神狩屋から与えられたものだ)、夜の街を徘徊する。
徘徊することの危険性は重視している。
恐らく、マスターやサーヴァントがカーズを目撃すれば、カーズがサーヴァントであることはひと目でわかるだろう。
十万年を超える期間を永遠性そのものと言える肉と魂を維持して生存する、そんな元々の存在そのものが異常なのだ。
奇襲というアドバンテージを敵に与えてしまうだろう。
だが、高い不死性と幻想種級の対魔力を持つカーズは、不意打ちを主とする敵に対して非常に強い。
そういう意味では、この徘徊は敵への誘いでもあった。
応戦の際に打ち勝つ自信もある。
敵を減らさなければいけないというのに、敵がどこに居るのかもわからない。

「あ、お兄さん、どうすっか、この後! いい娘揃ってますよ!」
「……」

一方で、間抜けな人間には、その異常な存在性を認識できてないようだ。
あまりにも高過ぎる壁がどれほど高いのかを認識できないように。
この客引きには、カーズという存在を正しく認識できていないのだ。
カーズは無表情で客引きを見下ろす。
堀の深い顔立ちから発せられる鋭い視線に、客引きはゴクリと喉を鳴らした。
そのまま、カーズは古木の枝のような指を客引きの胸へと当てる。
そして、優しく押した。

「うわっ」

しかし、客引きは盛大に尻もちをつく。
客引きは一瞬だけ、きょとん、と間抜けな表情を作った後、怒りへ顔を染めてカーズを睨みつける。
しかし、カーズは客引きを無視し、綺羅びやかに光る看板を強く蹴りつけた。
看板は破壊され、ガラス片を撒き散らかす。
敵対行動だ。
当然、店の奥から『あからさま』な連中が出てくる。
カーズは逃げるように、誘うように路地裏へと消える。
遠巻きに見ていた人間も、そこから視線を逸らし、歩みを戻した。
酔った頭のおかしい男が、当然の報いと呼ぶには少々大きい報いを受ける。
もっとも、その事実を正しく認識できた人間は、この周囲には一人も居なかったが。

「……ねぇ、お兄さん。なんのつもりなのかね、アレ」
「……」

カーズはついてきた人間の数を確認する。
三人だ。
二人がカーズの前に出て、一人は裏路地から表通りを見張っている。
そのカーズの前へと出てきた長髪の男は舐めあげるようにカーズを睨みつける。
少し下がって、短髪の男が無言で睨みつけている。
その手には警棒のようなものが握られていた。
実質的に、この二人が件の店の用心棒<バウンサー>のようなものなのだろう。
なるほど、確かに『人間にしては』優れた肉体を持っている。
長髪の男がカーズの肩へと手を掛ける。
そこで終わらせることも出来たが、カーズはそれを一度だけ受け入れ、そして、優しく振り払った。
カーズにとってはこれ以上なく穏やかな挙動だったが、人間にとってはそうではない。
手が繋がっていること自体が奇跡だということを、目の前の人間は理解していないのだ。

「ッ!」

こめかみを引くつかせ、長髪の男は素早く拳を振り上げ、カーズの頬へと打ち付ける。
へへ、と笑ってみせた後、遅れて、大きな違和感を覚えた。
その瞬間に覚えなければいけない違和感。
しかし、『殴れば倒れる』という常識が先にあったから、その違和感を見逃してしまった。


「お、おい……!?」
「あん?」

違和感の発生源は右手。
いや、それは正しくない。

「お、俺の右手がねぇぇぇぇええっ!?」

『なぜなら、右手はすでにカーズに食い取られているから』だ。
カーズの全身は消化器官、触れれば、その生き物は喰われる。
すなわち、カーズに攻撃するということはカーズの巨大な口に飛び込むことと同義なのだ。

「おおおおおおおお!!!」

意味のない雄叫びを上げながら、人間たちはそのまま戦闘へと移った。
襲いかかる人間、襲いかかっているのかと不審に思うカーズ。
カーズにとって人間とはそんな相手だった。

数分後。
人間が無様に地面に転がっていた。

カーズは何もしていない。
ならず者達の『常識』からすると、避けることの出来ないはずの攻撃を避け続けただけだ。
狭い路地裏でならず者達は自分たちの動きによって、自らを傷めつけたのだ。
カーズは、コートの中から一つの魔具を取り出す。

血の運命紡ぐ石仮面<<ヴァンパイア・イヴ>>。

カーズの二つ所有している宝具の内の一つだ。
比較的傷の少ない短髪の男の顔へと仮面をつける。
そして、床に転がっていた特徴の薄い、見張りの男の顔を蹴り上げる。
見張りの男の頭部がサッカーボールのように転がった。
舞い散る血液が石仮面に付着し、石仮面は内部に仕込まれていた骨針を飛び出させた。
拷問器具と思えるそれは、しかし、脳みそを『刺激』する道具なのだ。

人間の脳が使用していない未知の能力を利用し、人を超人へと変える道具だ。

ならば、今、超人と向かい合っているカーズは危機なのか?
答えは否だ。
カーズはある意味では博愛主義者と捉えることも出来る。
花を踏みつけることはしない。
自らの利にならないのならば、リスのような小動物へと殺傷を行うこともない。
ひとえに、自らが偉大だからだ。
劣ったものへの興味の無さが、そうさせるのだ。
超人ですら、超越者であるカーズよりも劣った『餌』なのだ。
カーズは美術品のような自身の指を、その取るに足らない脳へと突き刺す。

「ファッ、アェ、アッ、エァ……アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ」

クチュクチュとかき混ぜるように脳をいじり回す。
味わうことのないはずの感触に、不気味に声を上げ続ける。
何かの遊び心だろう、カーズはその声を少々聞いた後、リズムよく脳を刺激する。
すると、ならず者は身体を激しく痙攣させながら、
ふと、頬を緩ませた。
超人もまた、超越者にとっては餌、いや、遊具にすら過ぎないのだ。




衛宮切嗣は同居人である褐色肌の少年、ラーマが寝静まった頃を見計らって自宅を出た。
まずは、酒屋にいって酒を飲む。
酔わない程度に、だらだらと飲む。
思考をまとめるための飲酒だった。
聖杯戦争。
気乗りはしない。
いや、気乗りのした出来事など、少年としての最後の日を境にトンと体験していない。
生命は失われる、当然のように。
数値こそが平等なのだとしたら、己のし続けていたことはこの上なく平等なのだろう。
同時に、違反に近づいた主従への討伐令を思い出す。
恐らく、まだどの主従も脱落していないのだろう。
意思を感じさせる、聖杯戦争を動かそうという意思が。
聖杯戦争としてはおかしな出来事だが、一つの企画として考えると分かりやすいほどの時期だ。

「ふぅ…………おっと」

気分ばかりが昔に戻り、煙草を吸おうとして、そもそも煙草を持っていないことを思い出した。
和装にヤニの臭いがつけば、少年に悟られる。
煙草は己の心を落ち着けるには役立つが、成長期の少年の身体にとってはあまりよろしくないものだ。

「……」

切嗣は夜という夜を間酒屋で過ごし、和装のまま表通りへと出る。
東京は狭いが深い。
服としてしっかりと機能していれば、姿格好にとやかく言う人間は少ない。
歩きながら、思考を続ける。
聖杯戦争とはすなわち、奇跡を叶える手段。
根源への興味も薄く、聖遺物としての感激もない切嗣にとっては、そんな
いや、切嗣にとって言えば、聖杯とは『この世が生まれた際に生じる汚物』が注がれた器だ。
澄んだものがこの世に存在するのならば、不浄なるものも当然この世に存在する。
当然の成り立ちだ、何もおかしくはない。

「なんで……僕はそうじゃない……」

ふと、右肩が激しく疼き、同時に声が漏れた。
無意識の声だったのかもしれない。
切嗣はあの聖杯戦争以来、『おかしく』なっていた。
切嗣だけに感じられる変化だ。
何度となくアインツベルンへと足を運び、イリヤを連れ出すことも出来ない。
魔術に対する『感覚』がおかしくなっているのだ。
すなわち、自身の魔術回路は多くが焼き切れている。
すでに魔術師殺しとしてすら稼働しない存在が、今の自分だ。
なのに。
『自分は五体満足で生きている』のだ。
ひょっとすると、体の調子だけで言えば、魔術回路が完調だった頃よりも壮健になっている。
右肩が疼く。
その度に、背中に嫌な汗が流れる。
そして、憎悪が生まれてくる。
アイリを失ったこと、イリヤと会えないこと、正義の味方という呪いめいた存在になどなれないこと。
己の求めていものが、ただ、舐めあげるような上目遣いでしか見ることが出来ないこと。

それは間違いなく、自分自身の憎悪だった。


「……」

冷えた夜風に吹かれることで思考が冷静になると思っていた。
しかし、おかしくなってしまった自分でも許せないものがある。
ジョーカーとバーサーカーへの討伐令を思い出す。
意味のない感傷だ。
ただ、そんな人間が居ることと、人という数が簡単に減っていることが許せなかった。
切嗣はそう怒りの念を抱き、同時に、右肩が疼いた。
そういった、負の念を抱く度に右肩が疼くのだ。
疼く。
そう、右肩が疼く。
今までとは少々異なる風に、何かを示すように、右肩が疼く。

「……方角は、あっちか」

右肩の疼きが強まる。
サーヴァント。
切嗣は理解し、自身のサーヴァントは召喚した。
石蔵の中に『保管』したサーヴァントが飛び出る。
宙を裂き、切嗣の前へと現れた。
切嗣は迷いなく己のサーヴァント――――槍兵<<ランサー>>という名の槍を手に取る。
白髪の混じった短髪が生理現象を無視して地面に届くほどの長髪へと変わった。
切嗣の右肩の疼きと、ランサーの脈動が一致する。
敵は、どのテナントも入っていないビルの内部だ。
破壊するような乱暴さで、足を踏み入れた。
標的はすぐに見つかった。
何かを誘い出すかのように、分かりやすいほどに死体を弄っていた。

それこそ、セイバーのサーヴァント、カーズである。
カーズはあの後、放浪を続けた。
そして、同じように人を殺した。
と言っても、カーズが消去した人間の数は両手の指で足りる数。
ジョーカーが快楽的な殺人を犯すものならば、という場合のための誘い。
そのために、わざとゆったりと時間をかけて、児戯めいて遊んでいた。
そんなことを当てもなく続けていれば、すでに日の昇る時間も迫ってきている。
手駒を作ることはしなかったが、幾分かの栄養補給も済んだ。
神狩屋のほうも、ジョーカーへの直接的な情報は期待しないが、何がしかの足取りは手に入れたかもしれない。
ならば、とマスターの下へと戻ろうと腰を上げた。
そんな瞬間に、敵と出会った。
カーズの求めていた、首に賞金のついた標的ではないが。

「これは私じゃぁない。私は、食い散らかす人間とは違う」
「『これ』は?」

長髪の男だった。
白髪の混じった髪を、縛ることもせずに無造作に宙へと流している。
無骨で巨大な槍を構えるが、奇妙な気配をしている。
サーヴァントに違いないのに、サーヴァントだと確信できない。
そんな気配だ。

「わかっていたが、バーサーカーではないということだな」
「私も『それ』を探している、これはその一環だ。撒き餌では効果がない可能性が高そうだがな」

そんなカーズを見据えながら長髪の男、衛宮切嗣は自身のサーヴァントである獲物を握りしめる。
獲物は霊的に脈動していた。


獣の槍<<スピアー・オブ・ビースト>>。


それ自体が宝具である、槍兵のサーヴァント。
マスターの身体能力を大きく向上させる、あらゆる逸話で例えられる『獣』を殺す槍。
魔力回路の殆どを失い、自身の魔術を満足に扱うことも出来ない切嗣をして超人へと変える槍。
その根源は、『太陽を憎むもの』への憎悪。
憎しみに囚われ、もはや、人から槍へと成った混濁した意識では目前の敵へ憎悪を向けることしかしない。
そんな『蒼月』を刻まれた槍と、自身の右肩から命令が伝わる。


憎め。
憎め、憎め。
憎め、憎め、憎め。
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め

あまりにも露骨過ぎて、簡単に無視できてしまう命令。
しかし、戦いの最中、憎悪という色に染まった感情が切嗣へと流れこんでくる。
その感情を、どんな人間が無視できようか。
いずれ、切嗣を染めてしまうほどの濃厚な感情だ。
己の肩に潜むものに憎悪を唆され、己の槍の憎悪を扱う。
それは確実に切嗣を蝕むものだ。

「ふむ……まあ、良い」
「……」

カーズはそんな言葉を残すと、爆発するような空気の動きがあった。
弾け飛ぶ速さで、切嗣へと迫る。
獣の槍が、半ば自動的に対応した。
切嗣の首筋へと迫る刃を槍の刃が防ぐ。
その刃は、右の腕から直接生えている。

輝彩滑刀の流法<<モード・オブ・シャイニングブレ―ド>>。

チェーンソーのように微細な振動をする、骨を刃と化したその剣で槍を受け止める。
重い。
しかし、本来ならばそんな言葉では済まないはずの戦力差があるはずだ。
切嗣はカーズと何合か斬り合う。
次第に十合、二十合と増えていくが、変わらないことがある。
攻勢はカーズ、防勢は切嗣。
それでも防勢を維持できていることが異常だった。
獣の槍はそれほどに異常なものだった。
また、槍であることも有利に働いていた。
切嗣は、波紋のような、太陽と同じ波長のエネルギーを生みだす呼吸法を身につけていない。
ならば、カーズの全身を使った『食事』から免れることが出来なかっただろう。


「……」

同時にカーズもまた、獣の槍への、言語化しづらい感情を抱いていた。
親しいものは、常に抱いていた感情。
そうだ、太陽へ向けた感情だ。
己が受け入れられないものへと向ける感情である。
同時に、太陽とは異なっていることも理解していた。
憎悪を以って、輝くものへと抱く憎悪を討つ。
そんなものを原動力にするならば長くはない、直感的にカーズは悟る。
道具作成のスキルも持つカーズには、その槍の指向性が理解できた。
槍自身が槍として以外の作用を持っている類のものだ。
そんな、自らの破滅を原動力としているような輩を相手にするのも馬鹿らしい。
自分以外の誰かとともに破滅してもらうのが一番だ。
恐らく、槍にも探査能力もあるのだろう。

「……ふむ」
「ふぅ……っぅ……」

感情を整理するように、カーズは切嗣との距離を取り直す。
切嗣は肺に溜まった空気を吐き出した。
やはり、サーヴァント、すなわち英雄との差は大きい。
その差をここまで詰める獣の槍への畏怖も覚えた。
しかし、相手は恐らくまだ手札を残している。
自らもまた、上がある。
『封印の赤織布』と呼ばれる宝具を解放すれば、獣の槍はパフォーマンスを向上させる。

「……」
「……」

睨み合いが続く。
切嗣がどのタイミングで自らの手札を切るか決めかねている。
カーズは、獣の槍への嫌な予感が安易な攻撃を躊躇わせる。


「オンッ!」


その瞬間だった。
鋭い吠えが響いた。
それだけならば、二人の間に大きな変化は生まれない。
しかし、カーズは獣の槍に抱いた感情を超えるものを抱き。
切嗣は右肩がこれ以上なく疼きを発したことに気を取られ。
音の発生源へと視線を向けた。

「お……!」
「くぅ……!?」

口が開かれた。
そこから、音が飛び出た。


『――――――――!!!!!』


それは雄叫びだけだった。


『カーズ』は、憎悪と羨望。
『切嗣の肩に潜むもの』は、憎悪と恐怖。
その感情が込められた雄叫びだった。
その真っ白な犬を見た瞬間、カーズと切嗣の叫びが口から飛び出たのだ。
己が己であるかぎり、隠し切れない本能の叫び。

「――ッッ!」

『カーズ』『衛宮切嗣』『切嗣の肩に潜むもの』
その『三者』のなかで最も影響が少なかったのは、切嗣だった。
左片手に持ち替えた獣の槍を横薙ぎに振るう。
白犬へと激しい感情を取られたことで、右半身の動きが鈍いからだ。

右半身に違和感を覚える中、片手での薙ぎ払いという十分な攻撃ではなかったこと。
カーズ自身は弱点だと思っていた霊体でないという事実が獣の槍の霊体特攻を防いでいたこと。
遅れて輝彩滑刀の流法を用いた上での防御を取ったことによって、カーズを斬り裂くことは出来なかった。

斬り裂くことは出来なかったが、殴打としては十分な意味を持った。
カーズの腹部へと叩き込まれた一撃を、カーズを地面へと浮遊させる。
そのまま、ビルの外部へと弾き出される。
朝日の差さない裏路地へと、あるいは、隣のビルへと叩き込まれたかもしれない。
白犬も気にかかるが、そのまま、カーズの後を追おうとした瞬間。
白犬の方向から足音が聞こえた。

――――不味い。

恐らく、白犬のマスター。
切嗣もあそこで敵サーヴァントを仕留めたとは思わない。
白犬のサーヴァントへの反応を見る限り、先ほどのサーヴァントは白犬を敵視しているのは間違いない。
カーズがそのまま撤退を選ぶか、攻撃を繰り出してくるかは五分と五分。
切嗣はこの場に留まり、白犬とカーズへの迎撃を選んだ。
己を英霊へと高まらせる獣の槍を強く握りしめ、身構える。

「ね、ねえ、アマちゃん……さっきの叫び声なに……?」

その瞬間、組み立てていた考えが吹き飛んだ。
声には聞き覚えがある。
演技とは思えない、恐怖を怯えた色。
まだ年若い、少女の声。

「見るんじゃない!」

切嗣は叫んだ。
己の右肩が上がらないほどの疼きを堪えながら、叫んだ。
そして、現れた少女の前に立った。




時は少々遡る。

『オンッ! オンッ!』
「……」
『オンッ! オンッ!』
「……」

高坂穂乃果は先ほどから己だけに聞き取れる遠吠えを聞いていた。
布団を深く被っても、その鳴き声は消えはしない。
念話、というやつだ。
アマテラスの叫び

「あー、もう! なに、散歩!?」
『オンッ、オンッ!』

アマテラスは叫び続けている。
その口に、封筒を抱えていた。
不審な表情のまま封筒を手に取り、時計を確認する。

「うわっ、まだ五時……」
『オンッ!』
「……わかったって!
 そんな耳元で鳴かれたら、どっちみち寝られないわけだし」

そう言いながら穂乃果はジャージへと着替える。
思えば、朝練も行わなくなった生活にも慣れてきてしまっている。
元々そうだったとはいえ、何か、虚無感を覚えた。

『オンッ!』
「分かった、分かったから」

薄々、このアマテラスが穂乃果の置かれた状況を理解していることに気づいていた。
先程も、穂乃果は夢を通じて見たこともない世界の光景を見ていた。
恐らく、アマテラスの記憶なのだろう。
そこから知ることは少なかったが、同時に、アマテラスも穂乃果の記憶を夢で見ている可能性もある。
息をつく。

「はいはい、で、どこに……って、うわぁ!?」
「オンッ!」
「ちょ、ストップ、ストップ!」

穂乃果がジャージへと着替えて外に出た瞬間だった。
実体化したアマテラスは頭を低くして穂乃果の股間に潜り込み、勢い良く頭を上げる。
自然と穂乃果は前傾姿勢となり、アマテラスの柔らかな背中に鼻を打ち付ける。
四つん這いになったアマテラスの背中へ、逆向きに四つん這いの形で伸し掛かっている、といえばわかりやすいだろうか。

「本当に、これ、もう、やめてアマちゃん!」

アマテラスは背に穂乃果を乗せたまま、走りだす。
白い巨犬に乗り、夜明けを疾走する少女。
明らかに噂になるであろう、奇特な情報。
異様な速さで駆るアマテラスに振りほどかれないよう、叫ぶことすら出来ない。
穂乃果からすると、後ろ向きに高速で動いている状況だ。
慣れない感覚に、令呪の使用という考えすら浮かばない。

「オンッ!」

十数分ほどだろうか。
ひょっとするともっと短いかもしれないし、もっと長かったかもしれない。
目的地へと辿り着いたのだろう、アマテラスは歩を止めた。
穂乃果は地面へと転がるようにして、アマテラスの背中から降りる。
そして、アマテラスはテナントの入っていない空虚なビルの中へと走り去っていった。
穂乃果は息をついて、大きく伸びをした後にアマテラスの背中を追いかけようとする。



『――――――――!!!!!』


その瞬間、雄叫びが響き渡り、激しい轟音が響いた。
ピタリ、と穂乃果は歩を止める。
穂乃果は逡巡する。
この先には危険がある、それはわかった。
迷い、迷い、やがて中へと踏み込んだ。
危険だからこそ、見知ったアマテラスが恋しくなったのだ。

「ね、ねえ、アマちゃん……さっきの叫び声なに……?」

穂乃果はアマテラスへと問いかける。
アマテラスは、いつもの吠えを発しなかった。
おかしいとは思ったが、そのまま歩みを進める。
アマテラスの気配のするフロアを覗いた。

「見るんじゃない!」

低い声が響いた。
しかし、穂乃果はビクリと身体を震わせるだけで、目を閉じはしなかった。
だから、その奥にあるものが見えた。
首なしのしぼんだ死体と、目がえぐり取られた死体。
それは死体とすら思えないほどに異常な死体だった。
肉体というほどに膨らみと厚さがあるほどの人間の身体から、厚さがなくなっていた。
吸血。
あるいは、カーズの遊び。
もはや、生命でないものを見て、穂乃果は拒否するように叫んだ。

「え……え、え、あ、あああああああああ!?」
「……ッ!」

しかし、巨大な槍を握った異常なまでに長髪の男の身体でも隠せないほどに死体が転がっていた。
特異な死体だ。
ただ、人に刃を突き刺したから死んだ、といった死体ではない。
そのまま、逃げ去るように長髪の男は去っていった。

「なにこれ……なにこれ!?」
「オンッ!」
「アマちゃん、なんなの……ねえ、ねえ……!」

表面上は動揺しながら、穂乃果は次第に落ち着きを取り戻しつつあった。
これは聖杯戦争。
奇跡を求めるために、他者を殺す儀式。
つまり、穂乃果は死と近くにいるのだ。
そして、その生命は目の前の白犬に託されている。
何を考えているかもわからない、この白犬に。

「……アマちゃん、私に、何しろっていうの?」
「オンッ、オンッ!」

アマテラスは分かって欲しかった。
目の前の死体が、友人にならない可能性は決して低くないと。
穂乃果が動かなければ、自分も動けないことを。
誰もアマテラスを信仰しない今のままでは、アマテラスは神霊ではなくただの霊犬だ。
何よりも、マスターである穂乃果が自分を信じてくれなければ。
そして、自分を信じてくれなければ、穂乃果を守れない。
穂乃果の大事な者も守れない。

「わけわかんないよ……!」

穂乃果にその想いは伝わっていない。
ただ、呆然と。
まるで空気の抜けたタイヤのように絞れた死体を見て。
アマテラスの肌を抓るように、強く握った。



「お帰り」

カーズは、そのまま神狩屋の下へと帰った。
撤退。
あのまま、槍使い(切嗣)と白犬(アマテラス)と戦う選択はあり得なかった。
あのまま二人が戦って自滅してくれれば上々だ。

「おや、傷じゃないか」
「……聖杯戦争。なるほど、厄介なものかもしれんな。
 先ほどにしたって、食事を済ませていなければ無事では済まなかっただろう……」

シンクへと向かって口内から血を吐き出す。
カーズの追ったダメージは大きい。
強大な敵だった、破滅への道のりを原動力としているだけの馬力はある。
だが、それ以上に、それ以上に。

「こっちは上手く噛み砕けないね、もうちょっと待ってくれるから。
 幸い、君には休養が必要なようだしね」
「そうさせてもらおう」
「それで、敵はどうだったんだい? ジョーカー……ではなさそうだね」

カーズの表情を観察しながら神狩屋は問いかける。
カーズは複雑な表情をしていた。
彫刻や絵画の一級の美術品に描かれるような、深遠な表情だった。
それは、槍使い(切嗣)に向けられるものではない。
そう、カーズは、この場においても出会ったのだ。

「太陽だ」
「太陽?」

カーズは、宿敵と出会ったのだ。

【B-2/千代田区・古物屋『神狩屋』/1日目 朝】

【鹿狩雅孝@断章のグリム】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]私服
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争のキャストとして動く。
1:情報を入手する。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。

【カーズ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]ダメージ(中)
[装備]なし
[道具]血の運命繋ぐ石仮面
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:身体を癒やす。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※アマテラスを『太陽』に親しい存在だと認識しました。
※切嗣(獣の槍)を憎しみを原動力に動く者だと認識しました。



【B-2/秋葉原/1日目 朝】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]健康、精神的動揺
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ジャージ
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:とにかく今は落ち着きたい。後のことはそれから考える。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握していません。

【アマテラス@大神】
[状態]健康
[装備]三種の神器
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:穂乃果と穂乃果の大事なものを護る。


【衛宮切嗣@Fate/Stay Night】
[状態]ダメージ(極小)、疲労(中)
[装備]獣の槍
[道具]和装
[所持金]ほどほど
[思考・状況]
基本行動方針:確固とした方針を定められていません。
1:ただ、憎しみを唆す想いだけが募る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※カーズをサーヴァントと認識しました。
※アマテラスをサーヴァントと認識しました。

【獣の槍@うしおととら】
[状態]なし
[装備]封印の赤織布
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:憎しみ
1:憎しみ。



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014:disillusion 時系列順 008:Who is in the center it is chaos?


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000:DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 鹿狩雅孝&セイバー(カーズ 019:GOSSIP→PERSONA
高坂穂乃果&セイバー(アマテラス 017:僕らは■■のなかで
衛宮切嗣&ランサー(獣の槍 018:遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路-

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最終更新:2016年04月14日 02:10