血の色は/地の色は/赤色/黄色 ◆Ok1sMSayUQ
「ふう、まあ、上手くいかないものね」
夜明けの空は黄色に輝いている。撫でるようなそよ風が少女の長い黒髪を揺らし、肌をくすぐる。
少女、博麗霊夢はあぐらをかいて座り込んでいる。
およそ女の子らしさとは無縁のものだったが、本人は意に介してもいない。
否、彼女は気にする必要がなかった。そうするように定められているからで、意味を考えるようにはなっていない。
「あーあ、服が破れちゃった」
霊夢の着る特徴的な服は秋穣子の最後に放った破片手榴弾により散々な様相を呈していた。
爆風と共に破片を撒き散らし、敵の肌を切り裂くことを目的としたそれは、少なからぬ損傷を霊夢に与えた。
見るも無残に破けてしまったスカート部分は裂け目まではっきりとして、ドロワーズの白を部分的に見せている。
裾もほぼ用を為さぬ程度に損壊しており、傍から見れば霊夢は乞食か世捨て人のように思えなくもない。
傷らしい傷はあった。白く滑らかな素肌は至近距離から受けた爆風により火傷を負い、赤く焼け爛れている。
破片は爆発した直後咄嗟に放った『夢想封印』によりほぼ相殺することができたが、衝撃波まではどうすることもできない。
吹き飛ばされ、さらに擦り傷があちこちにできている。服が破れているのもそのためだった。
『喰らいボム』ですら完全に攻撃を防ぐに足るとはいかなかったのだ。
治療が必要な状況だった。骨折していないとはいえ、十分な状態での戦闘は望むべくもない。
ひりひりと痺れるような痛みは霊夢の全身に蔓延している。
霊夢は一旦座り込み、身体が落ち着くのを待った。指の先から足の先まで疼き、身体が動いてくれない。
風はまだ冷たい。暦の上では初春であり、寒がりには防寒具が必須な時期でもある。
なのに、それなのに。博麗霊夢は顔色を変えない。
痛いことには痛いが、それだけの話であって、
また寒いとは思いながらも、その実身体は寒いと感じていないからだった。
霧雨魔理沙は呆れるのだろう。そんなことを考える。
年中その腋出しファッションでよく風邪を引かないな、と。
霊夢からすれば不思議なことだった。どうして風邪を引かなければならないのか、と。
体調を崩すことはなくもない。
けれどもそれは自身が体調を崩すだろうと思ったときだけで、少なくとも無自覚に体調を崩したことはない。
だからそんな質問をされても霊夢は首を傾げるしかなかった。
「そういえば、これで後39人か。意外と減ったものね」
まるで自分以外は誰も殺しあっていないかのような口ぶりで言う。
経験から言っても霊夢に進んで戦いを挑んできた妖怪はいない。
そもそも、本気で戦いあうような妖怪なんてごく一部だけだと思っていたのだ。
霊夢がそう思うのは、決して妖怪達が平和主義者からだなどと考えているわけではない。
戦いを仕掛けるのは霊夢で、それを待ち受けるのが妖怪だという意識があったからだった。
しかし頭数が減り、目的の達成が楽になったのには相違ない。
異変解決は迅速に、華麗に、完璧にが霊夢の信条だ。
「……魔理沙はどうしてあんなことを言ったのかしら。訳が分からないわね。いつものことだけど」
もう一人の異変解決人と言える魔理沙のことを思い出し、霊夢は小首を傾ける。
永琳の言いなりになる気か、と言われても殺しあうことが異変解決の、唯一無二の手段なのだから何を疑問に思うのか。
そう、これは仕組みなのだ。この幻想郷という『舞台』で、『博麗霊夢』が、殺し合いをする。
言い換えれば、これはゲームだ。異変解決という目的を持って、いつものように戦う。それだけではないのか。
霊夢は疑問を持たない。彼女にとっては殺し合いも妖怪が引き起こす異変も大差ないように思えてならなかった。
敵は倒す。それがシステムだ。定められた目的へ、定められた手段で動く。それが
ルールだ。
博麗霊夢は、それを為すだけの駒に過ぎない。そういうことだった。
だが、と霊夢は思う。それを是として行動している自分の中に引っかかるものがあった。
参加者の中には森近霖之助がいる。
誰にでも同じような態度で接する霊夢が唯一「霖之助さん」と敬称をつけて呼ぶ、唯一の存在。
どうしてなのかは分からない。しかし霖之助と接するときだけは本当の意味で何にも縛られない、
霊夢という女の子として喋ることができた。そうしている自分が別人のように思え、けれども悪くないと思っていた。
果たして霖之助を目の前にしたとき、これまでのようにルールに従って行動することができるのだろうか?
魔理沙を目の前にしたときでさえ感じなかったものが、霖之助相手ならばという不安があった。
それでもやらなければならないのだと霊夢は感じた。
幻想郷が、世界がそう求めているからだ。世界は破滅を望んでいる。
たとえそれが霊夢自身を滅ぼすことになったとしても、やらないわけにはいかなかった。
それが、霊夢に課せられた『役割』だった。
「ふむ、さて」
立ち上がり、軽く体を動かす。何とか動ける程度ではあったが、やはり体は重い。休息が必要そうだ。
服もボロボロだ。これ幸い、建物は近くにある。休憩がてら服を探してもいいかもしれない。
「ああ、でもどうせ街に出るんだから……お茶が欲しいわ」
霊夢はお茶中毒だ。一日最悪三回飲んで落ち着いていなければ気がすまない。
必要もないのに求めてしまう。ルールにもないのに、なぜか。
案外自分は駒になりきれていないのかもしれないと霊夢は思って、笑った。
その笑みは果たして自分のものか、決められたものなのか。
答えを知っているものは誰も、いない。
【D-3一日目・朝】
【博麗霊夢】
[状態]腕や足に火傷、及び擦り傷。またそれらによる疲労感
[装備]楼観剣
[道具]支給品一式×4、ランダムアイテム1~3個(使える武器はないようです)、阿求のランダムアイテム0~2個
メルランのトランペット、魔理沙の帽子、キスメの桶、救急箱、賽3個
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗り、優勝する
1.力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除する
2.どこかで休憩する
3.服が欲しい
※ZUNの存在に感づいています。
最終更新:2009年07月04日 16:35