悪石島の日食(後編)

悪石島の日食(後編) ◆30RBj585Is



「嘘を吐くからこうなるのよ。これに懲りたら、今度こそ本当のことを言う事ね」
「そんな・・・萃香・・・っ」
「嘘だ・・・。嘘だと言ってよ・・・」
幻想郷最強の種族である鬼は死んだ。こうも、あっさりと。
だが、そんな現実は誰もが信じたくは無かった。
そんな残された3人は、ただ呆然とするだけだった。

「もう一度聞くわ。あなたたちは、永琳とどこで何をしていたのかしら」
それに対し、輝夜は萃香の死には目もくれずに再度質問を始める。
だが・・・
「・・・・・・」
「どうしたの?早く答え・・・」
にとりは口を利かない。というか、こっちを向こうともしない。
どういうつもりなのだろうか?
「う・・・」
「う?」
にとりは何やら唸っている。輝夜はなんだろうと思い、彼女の方へと注目しようとした。
その時
「う・・・うわあああああああああああ!!」
「・・・っ!?」
にとりは叫び声を上げながら手元に弾幕を生成し、それを輝夜へと投げつけた。
誰がどう見てもヤケクソにしか見えない行動だが、輝夜にとってそれは予想外の出来事だったのか、驚いた表情をしている。
「く・・・!」
すぐさま反撃に出ようと思った輝夜だが、時すでに遅し。
量が非常に多いにとりの弾幕は、避けようと思ったときにはそのほとんどが目前まで迫っており、まともに回避できるものではなかった。
ドバッ、ドバッ、ドババババババッ!!
そのため、輝夜はなす術も無く、弾幕を食らってしまう。

「や・・・やった!?」
にとりの突然の攻撃にはレティやサニーも驚いていた。
レティたちは、鬼が死んだ状況の中で何も出来ずにいた。もうどうしようもない絶望が彼女たちを動けなくしていた、そんな心境でのことだった。
それだけに、あまりにも突然の好機に少しだけ希望が沸いてきた。
それに、あれだけの数の弾幕を打ち込んだのだ。さっきの萃香と同様いやそれ以上にただではすまないはず。
せめて、輝夜のそばにいたルナだけは無事でいてほしい。強いて高望みするとしたらこれくらいだろうか。
以前、弾幕でリリーホワイトを殺害したことがあったレティはそう思っていた。




「・・・これはびっくりだわ。まさか、この期に及んで攻撃を仕掛けるなんてね」
「なっ・・・効いてないの!?」
だが、何故か輝夜には効いている様子が無い。リリーの時と全然違うではないか。
不公平だ、理不尽だ。これではまるで主催者・永琳が輝夜を贔屓しているようにしか・・・
「ダメだ・・・。やっぱりダメだったんだ・・・」
ここでにとりが弱音を吐いた。しかも、まるでこの結果を予想していたような態度でだ。
まさか、手加減していたとか?ルナもいたからとはいえ、ヤケクソになっているときにそんな配慮をする余裕なんて無いだろうに。

「当たり前でしょう。ただの水をぶつけただけでどうにかなると思っていたの?」
「み、水・・・?」
レティは意外そうな顔で輝夜を見る。そういえば彼女の服や肌は確かに濡れているし周囲は水浸しになっている。
「そうだよ、私は水を操る能力を持っている・・・。でも、それだけだよ!
水は沢山出せても威力はまるで無いんだ!弾幕ごっこなら強くても、こんな殺し合いじゃまるで役に立たない!」
にとりは泣き顔になりながら四つん這いになり地面を殴る。
もう敵対する輝夜を睨むこともしなくなった彼女は、完全に諦めているような雰囲気だった。

「もうおしまいだ・・・。萃香でさえ歯が立たない相手なんだ。倒すどころか逃げることも出来ないに決まっている!
こうなったら、こいつに永琳のことを話して見逃してもらうしか・・・!」
「その通り。最初からそうすれば、そこの鬼も死なずに済んだのよ。
さ、そうと分かったのなら早く話しなさい。内容次第では見逃してあげるから」
「分かった・・・分かったよぉ・・・。話すから、助けてよぉ・・・」
にとりは輝夜の強さに屈服したとしか言い様がない感じだ。
それはまるで、頼りになる仲間を失い命乞いをするだけの哀れな子犬のようだった。





(どうやら河童は降参したようね。上手くいってよかったわ)
泣き崩れるにとりを見て輝夜はそう思った。ここまで来るのに、自分は良く頑張ったと思う。
そもそも、人数的に不利な上にその中に鬼がいる軍団を相手にするのは危険な行為だ。
普通なら諦めるところなのだが、奴らは永琳と敵対しているのだ。放っておくわけにはいかない。
とはいえ、ここで脅威となるのが鬼の存在だ。正直、1対1でも勝てる気がしない相手だ。
手榴弾を使えば一掃できるかもしれないが、確実かどうかは怪しい。仮に鬼が生き残っていたら、仲間を殺された怒りで何をしてくるか堪ったものではない。
鬼だけは確実に抑えなければならないのだ。ならば、確実な手段で仕留めるのが一番。
輝夜の支給品、ルナチャイルドは音を消す能力を持つ。その能力を発砲とともに用いれば、音のない銃撃が可能だ。
普通、銃を撃ったら銃声で気付かれてしまう。だが、その音を消してしまったらどうなるか?
狙われた相手は当たるまで気付くことはないだろう。現に、奴らは鬼が負傷するまでは自分たちが狙われていると気付いていなかったのだから。
まぁ、結果としては鬼を殺す前に気付かれて逃げられそうになったが・・・そこはあえて自分の姿をさらけ出すことで防げた。
その所為で鬼に殴られそうになるわ河童に攻撃されるわで大変だったが、それでもここまで来れたのだ。結果がよければ細かいところはどうでもいい。
贅沢を言うならば、自分の狙ったとおりに銃弾を当てられるような技術が欲しいところだろう。そう考えると、ついさっき鈴仙を仲間にしなかったことを少し悔やんだ。

(さてと、後はこの河童から永琳の情報を聞くだけね。必死に命乞いをする様は、まさに鈴仙そっくりだわ。
まぁ、それだけに、もう嘘は吐くことはないでしょう。なんたって、鈴仙と同じく嘘を吐いても顔で分かる性質だからね。
もっとも・・・彼女の時と違って、どんな事を言おうが見逃すつもりは無いけど)



「水・・・」
にとりが泣き崩れているその傍らで、レティは考え事をしていた。
にとりが言う水とは何だろう。やっぱり、どこにでも存在するあの液体だろうか。
雪が融ければ水滴になる。白い霧は細かい水滴の集まりだ。その水なのだろうか。
だとしたら・・・
(ああ、そう・・・そういうことね。どうして、今まで思いつかなかったのかしら)
この状況を切り抜けるにはどうすればいいのか?
答えは簡単だった。
(にとりの弾幕が水だというのなら・・・いけるはず!)
その答えは、レティの手中から繰り出された。




輝夜からは、突然レティが右腕を上げたように見えた。
弾幕を撃つのだろうか。でも、もう無駄だ。ついさっき、にとりの突然の攻撃の件で用心深くなっているのだから。
少しでも不審な動きを見せたら撃つ。腕を上げるだけでも許容できない。
だから撃つ。急所をぶち抜いて即死させてやる。そうすれば、残りは河童と妖精だけになり、より深い絶望を与えられる。
…そのはずだった。

「な・・・っ!?」
突然、レティの手から風が発生し輝夜を襲う。
別に吹き飛ばされるほどの強いものではない。そもそも、ただの風だったらそんなに慌てる必要は無い。
だが、レティが起こした風は普通の風とは違う。
「これは・・・さ、寒い・・・!」
そう、彼女は寒気を輝夜にぶつけたのだ。
レティは寒気を操る能力を持つ。雪を、場合によれば雷を呼ぶそれは、制限を受けているであろうとはいえ氷よりもはるかに冷たい空気だ。
そんなものをまともに受ければ全身の体温をあっという間に奪われ、体が思い通りに動けなくなる。しかも、輝夜はにとりの水弾幕で濡れているため、効果は倍増だ。
それでも輝夜はウェルロッドの引き金を引こうとする。だが、腕に力が入らない所為で照準が合わない。こんな状態で撃っても外すだけだろう。
ならば手榴弾を・・・と思ったが、ピンを引く力があっても投げる事に不安があって出来そうにない。
しかもあまりの低温で白い霧が発生したようで、前が見えない。こうなっては狙いをつけるどころか目標そのものの場所が分からなくなる。
このままではまずい。凍死するというよりは動けなくなったところを捕まえられてしまう。
輝夜は嫌な予感がし、寒さゆえに冷や汗が出ない代わりに身を震わせていた。

「・・・ん?」
だが、幸いにもこの極寒地獄は長くは続かなかったようで、10秒もしないうちに寒さは和らぎ、白い霧も無くなって視界が晴れてきた。
五体満足、襲ってくるような気配も無い。つまり助かったということだろうか。
もっとも、助かったということは、逆に言うならば・・・
「・・・どうやら、逃げられてしまったようね」
つい先まで正面にいた3人の妖怪たちが姿を消していた。
輝夜の周りにいるのは・・・未だに寒がっているルナと道の真ん中で転がっている鬼の死体だけだった。



【D-4 人里(辺境にあたる) 一日目 昼】
【蓬莱山輝夜】
[状態]疲労(体が寒い)
[装備]ウェルロッド(不明/5)
[道具]支給品一式×2、ルナチャイルド、ウェルロッドの予備弾×不明(45以下)、破片手榴弾×1
[思考・状況]優勝して永琳を助ける。
[行動方針]にとり、レティ、サニーを見つけ、永琳の情報を得る(そして殺す)。だが、休むことも考えたい
※ウェルロッドの予備弾は45以下。萃香たちと顔を合わせるまでに何発撃ったかが不明。1発で仕留められないほど技術が低いのか?







「はあっ・・・はあっ・・・」
レティが輝夜に寒気をぶつけた後、すぐさま3人は輝夜から逃げ出した。それも、サニーの能力を使って見失いやすいようにするほどに念入りにだ。
なぜなら、そうでもしないと輝夜に捕まって殺されてしまう気がしてならなかったからだ。それくらい、彼女に対する恐怖心が強かった。
更なる攻撃を仕掛けようとはこれっぽっちも思ってない。鬼をも殺す道具を持った相手に勝てる気がしないからだ。
せめて、輝夜が連れていたルナを奪えたらよかったが・・・あの状況ではそう簡単にはいかなかっただろう。
「私たち・・・助かったの・・・?」
にとりは信じられないような顔でレティを見ながら尋ねる。
「ええ・・・。何とかなってよかったわ」
それに対し、レティも息を切らせながらもにっこりと答える。

「それにしても信じられない・・・。レティのあの攻撃だけで逃げられるとは思ってなかったから・・・」
「私も思ったよ。ただ透明なって逃げるだけじゃ絶対に殺されるって思ってたし・・・」
「それはどうも。でも・・・」
大したことではないとレティは思う。
大体、寒気をぶつけたのは賭けだったし、逃げるのだって命がけでやったことなのだから。
寒気で動きを鈍らせ、霧を発生させて視界を奪った隙を狙って、サニーの透明化の能力を使って逃げる。これがたまたま上手くいっただけにすぎないのだから。
まぁ、強いて言えば・・・

「逃げることが出来たのは、にとりのお陰でしょうね」
「・・・えっ?」
にとりは思った。自分は何か特別なことをしただろうか?思い当たる節はなかったが・・・
「あなたの水の弾幕は、私の寒気の効果を高めたのよ。
水がばら撒かれたことで、相手の体温が奪いやすくなり霧を発生させるきっかけにもなった。それらの要素が欠けていたら、どうなっていたか分からなかった。それに・・・」
「それに?」
「萃香が殺されたとき、私はどうすることも出来なかった。その状況の中、あなたは動いてくれた。あれが無かったら、私は何もすることもなく終わっていたでしょうね」
萃香が殺されたとき、にとりは輝夜に弾幕で攻撃した。これのことである。
「・・・あれか。ヤケクソで攻撃したつもりだったけど・・・それで私たちが助かったって言うのなら、ちょっぴり嬉しいかな」
まさかの行動が福をもたらしていたとは。そう思うと、少し照れくさくなる。



でも・・・
「でも・・・助からなかったのが一人、いるよ・・・」
「ええ・・・。まさか、こんなことになってしまうなんて・・・」
幻想郷の鬼、伊吹萃香は死んだ。輝夜に襲われたとき、何も出来なかった不甲斐ない自分たちを最後まで助けてくれた、そんな頼れる存在を失ってしまった。
「ね、ねぇ・・・萃香ってさ、鬼なんだよね?よく分からないけど、鬼ってあれくらいで死んだりしないんだよね?」
「・・・」
「・・・・・・」
サニーの問いには誰も答えない。いや、答えられない。
それは誰だってそうだと思いたいが、実際に見てしまった。萃香は死んだのだ。
「・・・っ、萃香ぁ・・・」
「にとり・・・」
レティは、泣き出すにとりをなだめようとする。
だが、そんなレティだって泣いている。そんな身分で誰かを慰めることなど出来ようか。
「私たちを守るって言ってたのに・・・永琳をとっちめてやるって約束したのに・・・」
「・・・・・・」
にとりの涙は止まらない。その涙が自身の能力で弾幕になるのではないかと思わんばかりに。
「何で!何で死んじゃうんだよ!萃香ぁ・・・!!」
そんな彼女には、数時間前での宣言通りに、地面を殴りながら泣き叫ぶしか出来ることがなかった。



【D-4 人里(辺境にあたる) 一日目 昼】
【河城にとり】
[状態]疲労、激しい精神疲労
[装備]光学迷彩
[道具]支給品一式 ランダムアイテム0~1(武器はないようです)
[思考・状況]基本方針;不明
1.紅魔館へ向かう。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す
2.皆で生きて帰る。盟友は絶対に見捨てない
3.首輪を調べる
4.霊夢、永琳、輝夜には会いたくない
※首輪に生体感知機能が付いてることに気づいています
※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※レティと情報交換しました

レティ・ホワイトロック
[状態]疲労(足に軽いケガ:支障なし) 、精神疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、不明アイテム×1(リリーの分)、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る気は無い。可能なら止めたい
1.紅魔館へ向かう(少々の躊躇い)
2.この殺し合いに関する情報を集め、それを活用できる仲間を探す(信頼できることを重視)
3.輝夜の連れのルナチャイルドが気になっている
※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※萃香たちと情報交換しました




気が付けば暗闇の中をさまよっていた。
ここはどこだろう。何故こんなところにいる。暗闇の中でたたずむ萃香は思う。
…いや。そんなことは、実は思うまでもなく分かっていた。
(ああ、そうか。私は・・・死んでしまったんだね)
体が軽い感覚と力が抜けていく割には心地よい感触が萃香の体を支配する。
もし、このままでいたら・・・多分、死んでしまうのだろう。
でも仕方ないことだ。生死の理を曲げるなんて最強の種族の鬼だって出来やしない。
(にとり、レティ、サニー、ごめん。私は・・・)
だから、このまま生者必滅の理を受け入れよう。萃香はそう思い、何もしないことにした。


そのときだった。
『どうしたんだ、だらしないねぇ』
誰かの声が聞こえる。
(誰・・・?)
ここには自分以外の気配が感じられない。それなのに、どこから聞こえてくるのだろうか。
『誰と言うか。つい前は声だけでも合わせたばかりというのに、寂しいものだよ』
また声が聞こえる。だが、今度ははっきりと分かる声だ。
今なら分かる。その相手は自分が最も見知った仲間なのだから。

(その声は・・・勇儀?)
姿は見えない。気配も感じない。ただ、それでも勇儀がここにいるということは感じることが出来た。
『そうだよ、やっと気付いてくれたか。さっきから私はずーっとあんたを呼びかけていたというのに』
(そ、そうだったのか?それは悪かったよ。てっきり、私一人だけだと思っていたからさ)
勇儀は何となくだが呆れているような感じで話していた。
いや、呆れられても仕方ないだろう。何せ、自分は仲間を守ると言っておきながらこんな志半ばで死んでしまったのだから。正直、自分でも呆れている。
そのためか、萃香はついばつが悪そうな顔をする。

(それにしても、勇儀がここにいるってことは・・・やっぱり私は死んじまったんだね)
勇儀は第一放送の時に名前が呼ばれていた。すなわち、彼女はすでに死亡している。
そんな彼女がここにいるということは、やっぱりここは死の空間なのだろう。
普通、死後は三途の川に渡った後に閻魔の裁判次第で冥界なり地獄なり行くのだが・・・
そんなことは、この戦場では関係ないのだろうか。
『そう、死んじまったのさ。だから、お前さんはこんなところにいるんだよ。辺りに何も無い、無の空間に・・・』
ああ、やっぱり。流石は月の頭脳と呼ばれる八意永琳。死後の世界も作ることもお茶の子さいさいと言ったところだろうか。
それが分かればもういい。これ以上はどうしようもないことだから。
自分は死んだ。これだけはどうやっても変えることはできないのだから。
(そう、か・・・。そうだよね。ということは・・・これで私もめでたく勇儀と同じところに行けるってことだね・・・)
だから、おとなしく死を受け入れよう。そう思うことにした。


『何、勘違いしている?』
(えっ?)
だが、突然勇儀が思考を中断させた。それも剣幕な口調でだ。もしかして、怒っているのだろうか。
理由がさっぱり分からない。特に間違ったことは言ってないと思うのだが・・・
どういう意味で勇儀はそう言ったのか、それを聞こうとする。
だが、勇儀はその思考を読んだかのように言葉を続けた。
『まだお前さんの戦いは終わってないじゃないか!?』
(私の戦い・・・?)
自分の戦いだって?どういうことだろうか。
しばらく考えてみたが、何が言いたいのかさっぱり分からない。そう思っていると・・・
『・・・言い方が悪かったね。お前さんはこれで未練は無いのかい?やりたいことはもう無いのかい?私が言いたいのはそれさ』

(・・・!)
勇儀の言葉に萃香の体に電撃が走った。
このまま死んでしまったら仲間を殺し合いから守ることが出来ない。霊夢の件だってほったらかしだ。そして、何より永琳をとっちめることが出来ない。
そう。勇儀の言うとおり、未練が山ほどある。それを丸投げのまま死ぬことなんて出来ない。
そう思うと、このまま死を受け入れるなんてしたくない。何が何でも生き延びてやる。その気持ちでいっぱいになってきた。
(私は・・・まだ死ぬわけにはいかない。やるべきことは沢山ある・・・!だから、私は・・・!
萃香は、ここまで来て出てきた本音を告白する。
もう死んでしまった身だ。どうにも出来ないと分かってはいるものの、それでも足掻けるならば足掻きたい。そう思ってのことだった。
『・・・そうか』
萃香の言葉に対し、勇儀はしばらく黙る。
改めていうが、姿が無いゆえ表情は全く分からない。ただ・・・それでも萃香には勇儀が安心そうな顔をしていると感じた。

『それが聞けただけでも安心したよ。だったら言ったとおり、生きてやりたいことをやりな。あんたにはその資格がある』
(えっ?私は死んだはずじゃ・・・。勇儀だってそう言っただろ?)
『ああ、言ったね』
(も、もしかして嘘をついたのか!?鬼のクセに!!)
『ウソは言ってないよ。ただ・・・』
(ただ?)
『鬼が戦いを止めた時、それがすなわち鬼の死だ。答えはそこにあると思ってくれたまえ』
(それってどういう意味・・・)
『おっと、悪いけど私はこれでお別れだ。それじゃあ、頑張りな。健闘を祈ってるよ』
(なっ、ちょっ・・・待ってよ!ゆう・・・)
徐々に勇儀の声が小さくなっていく。注意深く耳を澄ましても、音を萃めようとしても無意味だ。
そして、とうとう・・・勇儀の声は聞こえなくなった。





にとりたちが輝夜から逃げ、その輝夜もどこに行ったのだろうか。彼女らの戦いがあった場所では鬼の死体があるのみだった。
…いや、はたしてそうなのだろうか?
視点を鬼に移してみると・・・
「ぐ・・・・・・ぅ」
なんと、鬼は生きていた。体中を銃で撃たれ、傍から見ればこちらが死んでしまいそうな有様であるはずなのに。
流石は幻想郷最強の種族といったところか?

「今のは・・・夢だったのか・・・?」
意識が戻った萃香はついさっきの出来事について考えていた。
何故、あんな夢を見たのだろうか。何故、勇儀があの場に出てきたのだろうか。
…考えようとしても、理由は分からない。
ただ、一つだけ分かることはある。それは・・・
「私はまだ死ぬわけにはいかない・・・。やるべきことがあるんだ!」
やるべきことのために、地獄の底から蘇ったということだ。





ところで、萃香は何故生きていたのか。
現に、彼女は全身に大きな怪我を負っている。普通の人妖ならばそれで死んでしまってもおかしくない。
だが、それは鬼だからという理由で通用する。ただの妖怪とは体の強さが違うということだ。
ただし、その場合は怪我による出血が問題となる。これだけは鬼だろうが神だろうが生きる者全てにおいて言えること。ある程度の血を失えば、その生命は終了するはずだ。

だが、萃香はそれはクリアーしている。
理由は何故か?それは彼女の能力にある。
萃香は疎密を操る能力を持つ。ここまで言えば分かるだろう。
そう、彼女は傷口から流れ出るはずの血を萃めることにより、体内の血液を失わずに済んでいるのだ。
生きている限りこの能力を使い続ければ、萃香は妖力が尽きるまで失血で死ぬことは無い。
萃香が生きている理由はここにあったのだ。

ただ、萃香はそれに気付いていない。そもそも、自分が能力を使っていることにすら気付いていない。もはや、闘争本能だけで彼女の能力は発現しているのだ。
原因はただ一つ、『鬼が戦いを止めた時、それがすなわち鬼の死だ』という言葉にある。
現に、萃香の戦いはまだ終わっていない。
やるべきことやる、その執念が彼女の能力を発現させた。そう捉えると、戦いを止めるすなわちやるべきことを諦めていたら、彼女は本当に(失血で)死んでいただろう。
あの言葉はそういう意味だったのである。

とはいえ、あの言葉は夢の中で出てきたことだ。
所詮、夢は見た本人の幻でしかない。それなのに、何故あの言葉が出たのだろうか。
その原因は・・・何なのだろうか・・・?



【D-4 人里(辺境にあたる) 一日目 昼】
【伊吹萃香】
[状態]重傷 疲労 能力使用により体力低下(底が尽きる時期は不明。戦闘をするほど早くなると思われる)
[装備]なし
[道具]支給品一式 盃(輝夜は、役に立たないと判断して放置したと思われる)
[思考・状況]基本方針;命ある限り戦う。意味のない殺し合いはしない
1.にとりたちを捜す
2.紅魔館へ向う。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す
3.鬼の誇りにかけて皆を守る。いざとなったらこの身を盾にしてでも……
4.仲間を探して霊夢の目を覚まさせる
5.酒を探したい
※無意識に密の能力を使用中。底が尽きる時期は不明
※永琳が死ねば全員が死ぬと思っています
※レティと情報交換しました


86:悪石島の日食(前編) 時系列順 87:Interview with the Vampire
86:悪石島の日食(前編) 投下順 87:Interview with the Vampire
86:悪石島の日食(前編) 蓬莱山輝夜 110:赤い相剋、白い慟哭。
86:悪石島の日食(前編) 河城にとり 112:
86:悪石島の日食(前編) レティ・ホワイトロック 112:
86:悪石島の日食(前編) 伊吹萃香 110:赤い相剋、白い慟哭。

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最終更新:2009年10月23日 19:52
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