絆 ◆QBpDZHAYRc
初春
太陽は光輝き、溢れんばかりの活力を大地に注ぐ。
風は南より来訪し、春の到来を知らせ、祝福する。
それらは、凍てつく大地に眠る生命を呼び覚ます。
だが、かの地にはない。
奮い立つ生命がない。
あるのは死。
人のみならず、妖怪や神にさえも恐怖をもたらし、狂気に駆り立てるほどの死のみ。
生命の歓喜をを体言する光と風が死と共にあるのは奇妙であり、歪であった。
その死の臭いに満ちた小さな世界の中に、河城にとりと
レティ・ホワイトロック、サニーミルクはいた。
彼女達は殺人鬼との遭遇、仲間の死に精神も、肉体も疲弊してしまい、木陰で休んでいた。
そして、あの憎き声で放送が流れる。
「萃香は呼ばれなかったよね?・・・生きてるってこと?」
にとりが確認するように尋ねる。
「そうなるわね。」
殺されたはずの仲間の生存は三人に喜びをもたらす。
だが、それだけだった。
喜色に顔を歪めたのもつかの間、すぐに暗い表情に戻る。
「助けに行くよね?」
「・・・」
にとりの問いかけにレティは答えなかった。スイカは意識を失うほどの重傷を負っていた。
もしかしたら、捕まっているのかもしれない。助けに行かなければならない。
しかし、レティは同意せず、にとりにもその気持ちはよくわかった。
そう、彼女達は恐れていた。
蓬莱山輝夜
彼女達を襲った永遠亭の姫
不意討ちとはいえ、鬼を一方的に倒すほどの力
萃香を助けるためにはそいつがいる場所に戻らなければならない。
力の差は歴然としていて、もし出会ったら次こそ殺されてしまうだろう。
彼女への恐怖がにとりも黙らせ、場は重い空気につつまれた。
「誰か来る!」
沈黙を断ち切るように、レティが言った。
少し離れた低い丘の上からこちらに向かってくる人影が見える。
「わわわ!」
サニーがレティのスキマ袋にあわてて隠れる。
三人はいつでも逃げられるようにしながら、気配のする方を警戒する。
やってきたのは白いシャツの上から赤いもんぺを赤いサスペンダーで吊るし、赤いリボンで銀髪をまとめた少女。
「こんにちは。私は殺し合いには乗ってないわ。あなたたちは?」
輝夜と同じ不死者、蓬莱人の藤原妹紅だった。
「少し前に襲われたばかりでね、今は休憩中。」
「私も逃げてきたようなものね。」
互いに意志を確認した後、四人はその場に座り込み、自己紹介と情報交換を始めた。
そして、レティが妹紅にこれまでの経緯を説明している間、にとりはスイカのことを考えていた。
伊吹 萃香は鬼だ。
鬼は最強の種族であり、かつて山を支配していた。
いわば、天狗や河童の上司にあたる。
だから、河童の私は鬼を毛嫌いしている。
では萃香は鬼だから嫌いか?
いや、萃香は違う。
萃香は優しい。
人妖問わず、仲間を想い、殺し合いに反対した。
私を助け、主催者に怒り、殺し合いに反逆する意志を誓い合った。
そう、盟友だ。
なら、盟友を見捨ててよいのか?
萃香は私を助け、深い傷を負った。
そのせいで、今どこかで助けを求めて苦しんでいる。
それどころか、もっと悪いことに輝夜に捕まり、情報のために拷問されているかもしれない。
見捨てるのか?
盟友が苦しんでいるのに。
見捨てるのか?
答えは否だ。
情報交換が一通り終わり、何か思索にふけっていた妹紅は思考を中断して尋ねた。
「あなたたちはこれからどうするの?」
暫しの沈黙が流れる。萃香をの救出を諦めることができず、だけども、待ち受ける死地に飛び込む決意もできず。
以前と変わらない重苦しい空気が流れた。
にとりはその空気を破るため、意を決したかのように口を開く。
「萃香を助けに行こう。」
「あなた自分が言ってることわかってるわよね?」
「ああ、わかってるよ。」
「私達が行っても殺されに行くようなものよ?」
驚きを込めて繰り返すレティに、にとりは語る。
「それもわかってる。はっきり言って私の力は弱い。
レティと合わせても輝夜に勝てる見込みは愚か、逃げるのも難しいと思う。」
そこで一端、話を切る。皆、にとりの次の言葉を促すように黙っていた。にとりは続ける。
「私は臆病者だ。
今までずっと強い者の影に隠れて、守ってもらっていた。
輝夜や霊夢のような奴と戦う力はないし、立ち向かう勇気もない。
今でもそれは変わらないし、強い敵に襲われたら怯えてしまい、命乞いとかをするかもしれない。
輝夜のとこに行くなんてすごく怖い。正直、行きたくない。」
輝夜に襲われた時のことを思い出し、にとりの身体が震え出す。
それを歯を食い縛り、拳を握り締め、意志の力で抑える。
「でも、萃香は盟友だ。
ここに来てからずっと一緒にいた。一緒に主催者に怒り、殺し合いに抗うことを約束した。
頼りないとこもあったけど、あいつは私を何度も守ってくれたんだ。
だから、私は萃香の背中ぐらいは守ると誓った。一緒に生き残り、平和な日常に仲間たちと帰ると誓ったんだ。
それで今、その萃香が苦しんでいる。ボロボロでほとんど動けなくて、助け求めているはずだ。
なら、私は助けに行かなきゃならない。
輝夜や霊夢に会うのは怖い。他にもどんな危険があるかわからない。
だけど、萃香を、、大切な仲間を、盟友を失うのはもっと嫌なんだ!」
にとりが己の小さな肝を鼓舞するようにした心情の吐露は確かに三人の心に届いた。
「そうね、友達を見捨てるのは後味が悪いわ。サニーもいいわね?」
「うん、危なくなったら、私が隠してあげる!」
レティが賛同し、サニーも続く。
「じゃあ、助けに」
しかし、共感を覚えることは意見に同意することとは別であって。
「だめよ。」
「なんでさ!?」
突然、妹紅が遮る。みんな同意してくれたと思っていたにとりには寝耳に水。怒って、噛みつくように問い詰める。
「確かに仲間を見捨てることは良くないわ。私も間違いなく助けに行く。
けどね、あなたはだめよ。助けに行ってはいけない。
なぜなら、あなたは首輪を解析しなければならないでしょ?
あなたの死は私たちの敗北に等しいの。だから、あなたは危険を避けるべき。
なにがなんでも生き延びなければならないのよ。」
「じゃあ、萃香を見捨てるの?」
妹紅は萃香と面識がない分、三人より冷静に現状を分析し、判断することができた。
幻想郷において、この首輪を解析し、外すことができるのは河童以外にほとんどいないだろう。
だからこそ、にとりが危険にさらされるのは避けなければならない。
理解はしている。されど、萃香のことを思い、にとりは悲痛な声を上げる。
「見捨てないわ。私が行く。」
「なら、みんなで行った方が良いじゃないか!!」
「さっきも言ったでしょ?あなたは生き延びなければならない。
それに四人で行くのは危険よ。私はあなた達よりはるかに強い。
それでも、ここには霊夢や輝夜のような殺し合いに乗った強者がいる。
私は輝夜のことをよく知っているし、霊夢とも戦ったから向こうの出方もある程度わかるけど、それでも、あなた達を守りながら助け出すのは無理だわ。
だから、私ひとりで行く。ひとりなら勝てなくても、逃げることはできるわ。
助けに行くのは私の役割で、あなたの役割ではない。あなたは自分の役割をしなさい。
会ったばかりで信用できないってなら別だけど・・・。」
「信用はしてるけど・・・・・・わかったよ。」
にとりは不満だったが、妹紅の案が一番成功しそうでもあった。レティに目配せをすると彼女も同じらしい。
苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、その提案を受け入れた。
「決まりね。なら、私は行くわ。首を長くして待っているだろうからね。」
そう言って立ち上がった妹紅をにとりが引き止める。
「待って。これを持って行きなよ。光学迷彩って言ってお前さんを危険な連中から隠してくれるよ。」
「ありがたいけど、受け取れないわよ。それはあなたが生き残るのに必要だわ。
それに私逹は会ったばかり。信用しろって言っといてなんだけど、信用し過ぎじゃない?」
「私は信用する。妹紅でいいかな?妹紅は私の無茶をいさめて、代わりに危険な場所に行ってくれるんだ。
悪い奴とは思えないさ。だから、私は妹紅を信用する。」
「嘘をついてるかもしれないわよ?それをもらって逃げてしまうかも。」
内心ではにとりの心は揺るがないとわかっていても、妹紅は繰り返してみる。
「そうだったら困るけど、人間は盟友・・・とはここでは言い切れないけど、妹紅は信用できる。
なんとなくだけど、そんな気がする。だから、妹紅は盟友だ。盟友は信頼しなきゃね!
光学迷彩は大丈夫だよ、サニーが同じことをできるからね。」
「うん、任せて!!」
えっへんと、サニーが得意そうに胸を張る。力が弱い自分が頼りにされるのがうれしいのだろう。
それを見て、にとりはにやりっと笑った後に妹紅に向き直って真剣な顔をする。
「ということでこっちは心配ないよ。そのかわり、約束して。萃香を絶対に助けるって。」
「・・・ええ、約束するわ。合流したら、紅魔館に向かえばいいのね?」
「そうだよ。」
「わかったわ。それじゃあ、また紅魔館で。」
妹紅は光学迷彩を受け取り、足早に去って行った。
それを見送り、三人は悪魔の館を目指して歩き出す。
「なんだか私はいないみたいだったわね。」
「私もそうだった。」
「あはは、ごめんよ。」
「別にいいわよ。にとりのかっこいい口上が聞けたしね。」
レティにからかわれたにとりは苦笑する。そして、急に真面目になって言った。
「レティ、サニー。あんたたちも盟友だからね。」
「・・・そうね。もちろんよ。」
レティは少し戸惑いながらも、すぐに微笑み、返事をする。
サニーはそれを見て喜び、元気よく言った。
「私も!!」
三人は笑い合った。
(にとりはいい子ね。私も友達と呼んでくれる。血で汚れてしまった私でも・・・。)
彼女達がいる世界は死の支配する世界
これから何が彼女達を待ち受けているかわからない
今歩んでいる道は破滅へ通じているのかもしれない
しかし、彼女達のまわりには死の闇に負けないくらい濃い生命の輝きが確かにあった
【C-4 一日目 真昼】
【河城にとり】
[状態]疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式 ランダムアイテム0~1(武器はないようです)
[思考・状況]基本方針;不明
1.紅魔館へ向かう。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す
2.皆で生きて帰る。盟友は絶対に見捨てない
3.首輪を調べる
4.霊夢、永琳、輝夜には会いたくない
※首輪に生体感知機能が付いてることに気づいています
※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※レティ、妹紅と情報交換しました
【レティ・ホワイトロック】
[状態]疲労(足に軽いケガ:支障なし) 、精神疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、不明アイテム×1(リリーの分)、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る気は無い。可能なら止めたい
1.紅魔館へ向かう(少々の躊躇い)
2.この殺し合いに関する情報を集め、それを活用できる仲間を探す(信頼できることを重視)
3.輝夜の連れのルナチャイルドが気になっている
※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
※萃香、にとり、妹紅と情報交換しました
輝夜が殺し合いに乗っていることは少々意外だった。
あいつが殺しをするのは私とだけなはず。普通ならこのふざけたゲームに乗るとは思えない。
しかし、永琳が主催者なら話は別だ。従者がしていることなら、主である輝夜も主催なのかもしれない。
永琳もこんなことをする人物じゃないが、現に起きている。月人の考えることなど地上人にはわからないことなのだろう。
まあ、今はそんなことはどうでもいい。重要なのは輝夜を〝殺せる〟ということだ。
蓬莱山輝夜
月の姫にして伝説のかぐや姫その人
私が1300年恨み続け、400年殺し合いを続けてきた怨敵
本来、私も輝夜も蓬莱人であり、不死である。だから、今までの殺し合いは心情はともかく、戯れみたいなものだった。
それがこの場では〝殺す〟が本当に可能になるのだ。永久に続くはずだったこの恨みを晴らすことができる。
居場所はわかった。殺し合いに乗っているのなら躊躇う理由もない。
にとりからもらった光学迷彩を使えば不意をつける。輝夜を殺すことができる。
そう、殺せる────────
だめだ!勘違いするな、自分!!
これは人を助けるために渡されたんだ!!
- そう、私がやるべきことは鬼を助けることであって、宿敵を殺害することではない。復讐は後回しだ。
あれだけ頼まれたのだ。約束を反故にするほど、私は人間として腐ってはいけない。
「ハァ・・・。全く、私もとんだお人よしだ。せっかく、宿敵を殺す数少ない機会なのにねぇ。
まあ、助けずに殺しに行ってましたなんて言ったら慧音が怒るだろうしね。それに・・・」
私の遊び心で殺してしまった猫の少女
真意はわからないが私を助け、死んでしまった
アリス・マーガトロイド
目の前でアリスを殺されて壊れてしまった少女
私はだれも助けることができず、非情な現実を嘆き、己の無力を痛烈に思い知らされた。
だが、くじけなかった。私はもう一度立ち上がり、チャンスを得たのだ。
なら、その好機を生かさなければならない。
「輝夜、喜びなさい。すごく残念だけど、今は殺さないであげる。まあ、邪魔をするなら容赦しないけどね。
今、私がするのは人助け(人じゃなくて鬼だけどね)。どっちにしろ同じ。
もう目の前で悲劇が起こるのはごめんだわ。私は無力だけど、それが諦めることにはならない。────次こそは救ってみせる」
【D-4 人里 一日目 真昼】
【
藤原 妹紅 】
[状態]※妖力消費(後4時間程度で全快)
[装備]なし
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲、光学迷彩
[思考・状況]基本方針:ゲームの破壊及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
1.萃香を助ける。
2.守る為の“力”を手に入れる。
3.無力な自分が情けない……けど、がんばってみる
4.にとり達と合流する。
5.慧音を探す。
※黒幕の存在を少しだけ疑っています。
※再生能力は弱体化しています。
※にとり、レティと情報交換しました
最終更新:2010年07月28日 19:40