Interview with the Vampire

Interview with the Vampire ◆27ZYfcW1SM



ばさばさと山風がレミリアの服の袖を揺らした。
巻き上がる上昇気流をその身に受けながら崖から下を見下ろした。
「そこか……」
レミリアの視線の先には貫禄がある城が1城佇んでいる。

神槍「スピア・ザ・グングニル」

空中に赤い粒子が漂い、一瞬で収束する。
空に向かって掲げた右手の中には一条の投擲槍が現れた。

レミリアはそれを構え、一切の躊躇いも無く、一片の悔いも無く、城に向かって投擲した。
巨槍が唸りを上げて城に迫る。

しかし、城には結界があった。
槍の先端が結界に触れた瞬間、結界から青紫色のプラズマのような光が溢れた。
そして槍が強い圧力で潰されるかのようにひしゃげると、今度はこちらに向かって再構築された。

再構築された神槍はまるで不可視のクロスボウかバリスタにセットされていたかのように突然動き始める。
ベクトルは入射角と同じ角度。レミリアの右手を目指して寸分の狂いも無く、宙を滑った。

レミリアはあらかじめ予想していたのか、大して驚きもせず、冷静に自分のオーラで作られた槍を分解する。
澄んだ青空に赤い粒子が舞った以外、レミリアが神槍「スピア・ザ・グングニル」を使う前とまったく同じ状態に戻った。レミリアは傷一つ負わず、城もヒビ一つ入らなかった。

レミリアはこの状況に辛気臭い表情を浮かべる。
「だから嫌いなのよ。結界ってのは……妙な奴しか使わない術だから」

はぁと小さくため息をつくと、くるっと180度反転し、言った。

「これは宣戦布告よ。吸血鬼を敵に回して楽に死ねると思うな。
 私が生きているうちは一匹たりともその城を出ることはできないと思え」


「まぁ……出たければ出ればいいわ」

「その城がカンオケになるか、この地面に埋葬されるか、それだけの違いだけだからね」


太陽の光を遮る岩陰に腰を下ろした後、食事と傷の手当の準備をする。
手負いの吸血鬼は力を溜め込むことにしたのだった。


レミリア・スカーレットがこの投擲ポイントまでに到達するまでの経緯は下記のとおりだ。

紅魔館で、レミリアは自室に入って唖然とした。
なぜか自分の部屋が『物置』に成っていたのである。

紙でできた箱や不思議な壊れそうだけど硬くて軽い金属じゃない物質の箱が何個か置いてあったのだ。その箱の代金のつもりか、代わりに何個か備品が減っているようだ。ティーセットやら私の愛用の傘やらがなくなっている。

これも『主催者』とやらがやったのかしら? いや、そうに違いないわ。
足元にあった一つの箱を蹴り上げる。
さっきも言ったとおり、自分の愛用していた傘がなくなっている。
私にとって日光、特に昼の日差しは『死ぬほど嫌い』なもの。
なんとしても避けたいもの。だけど、それを遮る一番使いやすい道具がここにあるはずなのに無い。
はぁ……ため息もつきたくなる。
頭に手を当ててどうしようか考えていると、先ほど蹴った紙でできた箱から何かが出ていることに気がついた。
主催者が用意したものと考えると気が乗らなかったが、それを手にとって見ると服であることに気がつく。

深いオリーブ色(OD色)の私があまり好まない地味な色のコートだった。
フードが付いていて、おまけに長袖。サイズは大きめなのでかなりぶかぶかだが、その代わりにしっかりと足までを遮光してくれる。

「服で日光を防ぐのは盲点だったわ」

レミリアは地味な色のコートを放り投げる。
なら、自分が持っている服で遮光できるものをきればいい。
あんな地味なのは嫌よ。

いそいそとクローゼットをひっくり返すレミリアの姿があった。

数十分後……本当にクローゼットをひっくり返したレミリアの姿があった。

ベッドに並べられた衣服の数々。
赤いドレス、黒いワンピース、いつもの服……服の種類は多種多様だ。
レディは常に華麗でなければならない。
その理念どおり、どれもこれもレミリアが着たら思わず「かわいい。似合ってる」と絶賛したくなるような服ばかりだ。

だが、レミリアの趣味と、その理念が災いしているのが現状だ。

遮光には程遠い。どれも半袖やノースリーブ。ミニスカートなどなど。レミリアの白い肌をアピールするものばかり。

ハッと何かの気配を感じて振り返ると先ほど投げた地味な色のコートが落ちていた。
まるで「早く着ろよ」とでも言っているようだ。これは流石に私の想像だと信じたい。

数分後、レミリアの部屋のドアがゆっくりと開かれ、OD色のレインコートを着た膨れ面のレミリアが中から出てきたのだった。

レインコートを着たレミリアは館から出て、キスメの桶を探しに向かう。
探し当てた後は何をしようか。そんなことは考えられなかった。
表面上では知的で神速の吸血鬼であるが、考えることを放棄している私は屍鬼(グール)と大して違いはなかろう。

ただ「行く先に桶があればいいな」と、本気で探している人がいるのなら怒られそうな気持ちで探していた。
でも、そのときはそれで正しいと思っていた。

レインコートのおかげで遮光率はずいぶんと高く、肌が焼ける気配はまるで無かった。
それのおかげで歩いていることすら忘れかけていたときだった。

またもや嫌な気配を感じ、顔を上げると城が聳立していた。
幻想郷にこれまでこんな城は無かった。紅魔館ほどの建築物などあるはずが無かった。

気に入らない、気に入らない。
この『主催者』がすることすべてが気に入らない。
この私よりも大きな存在だと言っているような、そう、神にでもなったような態度を取る『主催者』が気に入らない。

そのとき、城の天守閣で一瞬光が瞬いた。何か鏡のようなもので太陽光を反射したのだろう。

私はすぐさま視線を向ける。そのものも私に気が付いたのだろうか、すぐに中に隠れてしまった。
愚弄。愚弄だ。
隠れて観察とは私を馬鹿にしている。
それに上から見下ろされることも気に入らなかった。

だから、レミリアは山に登った。
レミリアは今はあの城の中に攻め入ることはできないと既に悟っていた。
入れないから殺せない。殺せないからこの苛立ちをとめることはできない。

でも全部負けるのは許せなかった。
だからせめて高さだけでも勝つことにした。


高さだけ勝っても主催者にとっては痛くもかゆくも無い。むしろそんなことで勝った気になっているレミリアをみて腹を抱えて笑うかもしれない。

だが、それでいいのだ。
吸血鬼の生きる理由は何だ。
吸血鬼の繁栄? No 吸血鬼は自分こそが最高と考える。他者なぞ自分以下の存在でしかない。
優雅な生活? No 娯楽遊戯は人並みに楽しむが、それを人生にするような遊び人ではない。

吸血鬼は闘争だ。
戦いあっての吸血鬼。他者を従え、自分の手の内に世界を握る。気に入らないものは撃ち落し、反逆を頭の底辺にも考えさせない絶対支配。
吸血鬼は一種の戦闘狂なのかもしれない。


戦争に負けた一人の吸血鬼。
また負けることに恐怖を抱いた吸血鬼。
戦うことをやめた吸血鬼は屍鬼か、それ以下だ。
腐りかけた吸血鬼。

それを生き返らせたのは小さな勝利だ。このちっぽけな勝利だった。
『主催者』はまだ知らないのだ。
一回でも勝利の味を覚えた吸血鬼は骨の髄まで勝利を吸い尽くすほどの力を持った種族であることを。

日光を嫌い、岩陰に隠れて撃たれた銃創と腕の切り傷に切った布切れを巻くこの永遠に紅い幼き月の瞳には先ほどの死んだ魚のような目ではなく、紅蓮の炎が宿っている。


【D‐2 城の近くの山-山頂・一日目 昼】
【レミリア・スカーレット】
[状態]腕に深い切り傷(治療済)、背中に銃創あり(治療済)
[装備]霧雨の剣、戦闘雨具、キスメの遺体
[道具]支給品一式
[思考・状況]基本方針:威厳を回復するために支配者となる。もう誰とも組むつもりはない。
            最終的に城を落とす
 1.キスメの桶を探す。
 2.映姫・リリカの両名を最終的に、踏み躙って殺害する

 ※名簿を確認していません
 ※霧雨の剣による天下統一は封印されています。
 ※元気が出てきました
 ※紅魔館レミリア・スカーレットの部屋は『物置』状態です


86:悪石島の日食(後編) 時系列順 90:亡き少女の為のセプテット
86:悪石島の日食(後編) 投下順 88:文々。事件簿‐残酷な天子のテーゼ‐
71:屍鬼 レミリア・スカーレット 113:恐怖を克服するには――

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最終更新:2009年10月28日 21:07
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