悪石島の日食(前編) ◆30RBj585Is
「よっこいしょ・・・っと」
人里に着いた蓬莱山輝夜は、そこらへんにある民家で休息をとることにした。
輝夜は、開始して間もない頃に繰り広げた水橋パルスィとの戦いに加え、その後の誰かに追跡されているような感覚がしたりして身体共に疲労が溜まっていた。
動けないわけではないものの、少しでも体力は万全に整えておくに越したことは無いだろう。
しばらくの間は自分は動かない。ゆえに参加者を探し回ることが出来ない。
だが、焦る必要は無い。ここは人里だ。戦場の中心に位置し、比較的目立つところである。
だから、焦らずにジッとするだけで誰かとぶつかることだろう。
ずっと、体力を回復させながら時が経てば・・・
「・・・早速、お客さんが来たわ。ひい、ふう・・・4人か」
ほら、来た。
思ったとおり。場所を選べば、わざわざこちらから探す必要が無いのだ。
「ルナ、準備はいい?」
「・・・!・・・!」
輝夜の支給品として利用される月の妖精・ルナチャイルドは答えない。いや、答えられない。嫌がっている表情からして何が言いたいのかは分かるが、どうでもいい。
ここは誰かが集まりやすい場所だ。こんなところで暴れたり騒がれたりしたら大変なことになる。
そのため、輝夜は人里に着くなりルナの自由を再度奪った。
これで彼女が余計なことをする心配は無い。そういった意味では、輝夜の言う準備はある意味でOKだろう。
輝夜は窓越しから4人の来客者を見る。
「さて、どのような難題を課そうかしら。相手は4人・・・慎重にいかなくちゃ」
右手に銃、左手にルナ、懐に手榴弾を構えながら彼女は言う。
伊吹萃香、河城にとり、
レティ・ホワイトロック、サニーミルクの4人は紅魔館へ向けて足を進めていた。
あそこでは悪魔の妹、
フランドール・スカーレットと落ち合うことになっている。
彼女がどのような方針で動いているかは詳しくは分からない。だが、少なくとも潰すべき者が一緒であることは確かだ。それは
―――八意永琳。この殺し合いの元凶である。
奴を倒すには生半可な戦力では太刀打ちできない。
戦力が、殺し合いに反対する同志が必要なのだ。それを得るために4人は紅魔館へ向かっている。
「ここが人里だな。長い道のりだったよ」
なお、紅魔館へ向かう道中では人里がある。戦場の中心に位置し、ひときわ目立つ場所であるそこは多くの参加者がいると踏んでいた。
今は一人でも多く、同志が欲しい。全員が一致しているその願いを叶えるには、この場所は避けるのは勿体無いだろう。
「でも、気をつけないといけないよ。人里にいるのはみんなレティみたいに殺し合いに乗っていないとは限らない。
中には霊夢みたいな奴だっているかもしれないから・・・」
だが、多くの参加者がいる場所に居るならば、それだけゲームに乗っている者に出会う可能性もある。
にとりの意見は確かにその通りだ。萃香はそう思う。
それに・・・
「そうねぇ。いざとなったらサニーの能力でずっと姿を隠すという手もあるけど・・・」
「流石にずっとは無理かも・・・。いつも私達は人間が近づいてきた時だけ能力を使って悪戯しているんだもん。
それに、これだけの人数で私よりも大きい人が多いし・・・思ったほどよりも時間は短いよ?」
サニーが言うには、この状況下ではずっと姿を隠すことは出来ないようだ。
そのため、襲撃者に備えて慎重に行動する必要がある。
戦場で慎重に行動するなんて、鬼の性分ではない。だが、そんな理屈を言っていられない状況であるゆえに仕方がない。
「・・・なるほど。じゃあ、普段は姿を隠さずに、必要になった時に使う。ってことでいいかい?」
4人がしばらく考えている時に、萃香は意見を言ってみる。
レティに見せてもらったサニーミルクの説明書によると、サニーは今のような太陽が出ている時間帯に妖力を充電できるらしい。
とはいえ、姿を隠して行動できるサニーの能力は太陽が出ているこの時間帯でも長続きはしないとのこと。
更に、この大人数の姿を消すとなるとそれだけ彼女の負担も大きくなる。にとりの光学迷彩は定員1名なので負担を軽くする程度でしかない。
このことから、サニーの能力は無限に使えるわけではないようだ。
お酒に例えるならば、自分は毎日5升(約9リットル)の酒を飲みたいのに1日で補充される酒の量は4升だけ。
これでいつもどおりに飲み続けていると、やがて1日で飲める量が5升を切るということだ。
更に、人数が増えるならばそれだけ飲まれる酒の量も増え、尽きるまでの時間も早くなる。
そう考えると分かりやすいだろう。
お酒の例の様にサニーの能力を枯れるまで使い切って、その後に本当に必要な状況に出くわしたら目も当てられない。
お酒だって本当に飲みたいときに限って無いとなると、一暴れしたいくらいに腹が立つ。それと同様だ。
そうなるくらいなら、普段は能力を使わずに必要なときに使ったほうがはるかにいい。それが萃香の考えだ。
「・・・確かにそうだね。いつ襲われるか分からないのは嫌だけど・・・本当に襲われたときに対抗できない方がもっと嫌だな」
「私も、にとりと同じ考えね」
萃香の言った意見は、全員賛成しているようだ。
彼女らも自分と同じ考えのようで、必要なときに使えるということがどれだけ重要なことかがよく分かっているようでなによりだ。
(もっとも、お酒を例にして考えるなんて私だけだろうな)
と、萃香は苦笑する。
「こんなとき、スターがいればよかったんだけどなぁ・・・。もったいないことしたね」
サニーが呆れと淋しさが混じったような声で呟く。
スターとはスターサファイアのことで、サニーミルクと同じ三月精の一人である。
彼女は周囲の生き物を感知する能力を持っている。相手の場所を知るその能力は、この状況下では喉から手が出るほどに欲しいものである。
「まぁ、ね。あの時にフランから借りれば仲間を探すことも永琳を追うことも楽になったかもしれないし」
サニーの一言に関してはにとりも納得せざるを得ない。
あのときは永琳のことで頭がいっぱいだったとはいえ、その永琳を追う能力を持っていた者が目の前にいたことを失念してしまうなんて。
そうなると、本当にもったいないことをした。そう思い、にとりは後悔する。
「過ぎたことを悔やんでも仕方がない。今は紅魔館に行くことを考えたほうがいいさ。
あそこに行けば、そのフランと合流できる。その時に借りればいいんだよ」
後悔するにとりの様子を見て萃香は言う。後悔するな、と言わんばかりのやや強い口調で。
「・・・うん、そうだね」
「・・・にとり?なんで、そんな意外そうな目で私を見て・・・」
「いやぁ・・・ついさっきまでは後悔の理念の塊だった萃香がこんな事言うなんて意外だなと思っただけだよ」
「むぅ・・・!これはこれ、それはそれだ!」
ぷんぷんと怒る萃香をにとりは笑いながら謝る。
その様子はまさに漫才のようで、いつの間にか4人の間には笑顔が溢れていた。
「でも、萃香が元気になってよかった・・・。本気で心配していたんだからね」
安堵と笑顔が入り混じったような表情でにとりは言う。
「ま、心配をかけたのは自分でも分かってたし、悪かったよ。
吹っ切ったってわけじゃあないけど・・・もうあんな無様な真似はしない。嘘をつかない、鬼の名の元に誓う。
そして・・・今度こそ永琳を捕まえてとっちめてやるよ!」
萃香は拳を力強く握り、気合を入れながらそう誓った。
「永琳をとっちめる・・・ですって?」
怒りがこみ上げた口調で輝夜は言う。
萃香たちが輝夜が休んでいる民家の近くを通りかかるときに、輝夜はその言葉を聞いていた。
以前から萃香たちが何やら真剣な顔で会話をしているので何のことかと気になったが、まさか永琳のことだったとは。
しかも、言葉からして明らかに永琳を敵視している。奴らをこのままにすると、永琳に何らかの害を与える可能性が高い。
そんな災いの芽は直ちに摘まねばならない。そう思い、手榴弾を手に取ろうとするが・・・
「そういえば・・・あの鬼は確か、『今度こそ』って言っていたわね。ということは・・・」
輝夜はしばらく黙る。
「・・・ふむ、だとすると・・・あの手を使おうかしら」
何かを思いついたのか、輝夜はうんうんとうなづく。
そして萃香たちが民家を通り過ぎ、窓越しから彼女らの背が見えるのを確認した後・・・
「さて、ルナ。協力してもらうわよ」
輝夜はルナに何らかの処置を施し
「そこの妖怪たちよ。この難題の創造者、蓬莱山輝夜が課す難題を・・・」
銃口を4人の方に向け・・・
「あなたたちは解けるかしら?」
無音の銃弾を解き放つ。
「・・・ん?」
萃香はふと立ち止まり、辺りを見渡し始めた。
「どうしたの?」
その様子ににとりは思わず疑問を口にする。
「いや、禍々しい空気を感じたような気がしたんだ。気のせいかもしれないけど・・・」
「鬼が言うと、妙に説得力があるわね・・・」
だが鬼の萃香が言うからか、誰もが嫌な感覚を覚える。
萃香はともかく、他の3人はここから離れたい。そう言いたげな表情だった。
「とりあえず、萃香。ここから離れたほうがいいんじゃ・・・」
にとりはそのことを言おうとし、萃香を見る。
そのときだった。
「う・・・く!?」
「萃香・・・?」
突然、萃香が膝を地面に付けた。
何やっているんだろう。そう思い、にとりは萃香に近づこうとしたが・・・
ボフッ
「・・・え?」
突然、にとりの帽子が吹っ飛んだ。風でもないのに。
一体、何が起こったのだろう。にとりがそう思っていると・・・
「萃香・・・っ!それは・・・!?」
レティが突然、震えた声で悲鳴を上げた。
その声ににとりは即座に反応し、萃香の方を見る。なんと、その彼女は・・・
バスッ
「があああああああっ!!?」
体の所々に撃ち付かれたような傷を発し、悶えていた。
「萃香っ!?」
いったい、何が起こったのだろうか。にとりは思った。
何かの弾幕?呪いのわら人形?天狗のマクロバースト?
さっぱり検討がつかない。いったい、どんな手を使えばこんなことが出来る?
この不可解な状況に、もはやにとりは何が何だか分からなくなり呆然とするしかなかった。
「とにかく、ここから逃げないと・・・。サニー、私達の姿を消して!」
「う、うん!」
レティの呼びかけにサニーが反応する。それを聞いたにとりもハッとなり、ほんのわずかであるものの落ち着きを取り戻した。
「萃香、逃げるよ!」
にとりは萃香の元に寄り、自分の肩を貸すように担ぐ。
萃香は荒々しい息をするだけで返事はない。ただ、にとりの呼びかけにこくりとうなずくだけだ。
それでも、萃香もここからは退きたいと思っていることは理解できた。
だが・・・
「もう遅いわよ。あなたたちはもう、私が課す難題からは逃れることは出来ない」
突然、何者かの声が聞こえた。4人全員は声に反応し、その方向を見る。
「あんたは・・・」
見たところどこかの姫様なのだろうか、高貴な女性だ。その女性が黒い塊をこちらへ向けて立っている。
見た瞬間、全員が理解できた。こいつは殺し合いに乗っている、と。
全員が動けない空気であろう、そんな中で必死に呼びかける者がいた。
「ルナっ、ルナでしょ?返事をして!」
意外にも、サニーが必死になって向こうの相手に向けて呼びかける。
それもそうだろう。銃を持った女性は誰かを抱えている。
それは月の妖精、ルナチャイルド。サニーミルクと同じ三月精の一人であり、大切な親友なのだ。
(サ、サニー・・・?)
ルナもサニーの声に反応する。だが、それだけで口も利けないし体も動かせない。
これでは感動の再会どころではない。下手すれば・・・サニーが殺されてしまう。
それなのに、自分ではどうすることも出来ない。道具として輝夜に使われ、殺人の肩入れをさせられる。ただそれだけだった。
「そこの妖精は黙りなさい。さもないと、そこの鬼のような目に遭うわ」
「ひっ・・・」
やたらうるさいサニーを輝夜は銃口を彼女に向けて威嚇する。
銃というものを理解していないはずのサニーでも、今の輝夜の気迫を前に退いてしまう。
恐らく、ルナも自分やスターと同じく支給品としてこの戦場に来ている。サニーはそう思った。
そのルナは返事も動きも無い。ただ辛そうな表情を見せるだけである。
そういえば、自分の首輪の機能には動きや口を封じるものがある。もし、それがルナにも付いているとしたら・・・彼女はまさしく、それらを封じられているのだろう。
でも、理解したところで何が出来る?4対2なのに全然勝てる気がしない。サニーはそう思えてならなかった。
「あんたは誰だよ!なんでこんなゲームに乗っているの!?」
とても怖い。すぐに逃げ出したい。そんな恐怖を押し殺してでも、にとりは怒り口調で輝夜に問う。
「今はあなたたちには何も教える義理はない。もし、知りたいのなら・・・」
だが、輝夜はそれに答えるつもりは無い。
何故なら、彼女はある目的があるのだ。それは・・・
「蓬莱山、輝・・・夜・・・!」
だが、その前に萃香が何やらブツブツ言っている。
そしてゆっくりと立ち上がり、怪我を押しながら輝夜を睨みつける。
そう見えた瞬間には・・・
「奴は・・・永遠亭の姫。そして・・・主催者、八意永琳の主・・・!!」
鴉天狗に勝るとも劣らないものすごいスピードで輝夜に向けて突進し、拳を振り下ろした。
「なっ・・・!」
だが、その拳が輝夜に命中することなく、彼女の目前でピタリと止まる。
別に萃香は何もされたわけではない。とはいえ、殴りたい目標は目の前にいる。
だが、その2人の間にはルナがいた。そう、輝夜は彼女を萃香の攻撃の盾になるように目の前に突きつけたのだ。
蓬莱人でさえ重症を負わせる自信のあるパワーで妖精を殴ったらミンチ肉にしてしまう。
そう思うと、反射的に拳が止まってしまうのも無理は無い。
だが、拳をプルプルと震わせてこう着している間が大きな隙になったようで・・・
「しまっ・・・」
いつの間にか、萃香の周りには光り輝く弾幕で包まれていた。
避けなければ・・・という思考を脳が導き出す。だがもうすでに遅く、その瞬間・・・
―――難題「龍の頸の玉 -五色の弾丸-」
ズガガガガガガガ!!
大きな音とともに、弾幕が萃香の体を破壊した。
…ドサッ
「「「萃香ああああぁぁぁぁ!!」」」
後ろに吹っ飛ぶように倒れた萃香の元に、思わず3人が駆けつける。それと同時に輝夜は3人に銃を向け・・・撃つことはせずに距離をとる。
その様子を、萃香はまさに鬼の形相で睨みつける。なんと、彼女はあれだけの傷を負っていながらまだ生きているようだ。もっとも、もはや起き上がるので精一杯だろうが・・・
「ふん、私の正体をすでに知っている者がいるとは少々想定外だったわ。こうなれば、隠し事は無しね。
私はそこの鬼が言うとおり、永遠亭の姫、蓬莱山輝夜。八意永琳の主にあたる者よ」
輝夜は堂々と、迫真の態度で4人の前で名乗り出る。
永琳の主。それを聞いたとき、萃香を除く3人は驚いた表情になる。
「永琳の主だって・・・?そんなあんたがなんで殺し合いに乗っているんだよ!まさか・・・まさか、グルなのか!?」
「さぁ、どうかしら。それ以上の事は教える必要は無いでしょう?」
答える必要は無い、ということか。にとりは歯ぎしりする。
「そんなことよりも、私はあなたたちに聞きたいことがあるのよ」
チャキ、と拳銃を構えながら輝夜は逆に問う。
「な、何だって・・・」
にとりは思わず体を震わせた。聞きたいことって何だ?そう思っていると、
「もしかして、永琳の事・・・かしら」
レティが答えを聞いてきた。何かを予想し、悟ったような表情で。
そして、輝夜はその言葉に薄ら笑みを浮かべながら、
「そう、察しがいいわね。まさしくその通りよ」
そう答えた。
「あなたたち、その永琳を見かけなかったかしら?良かったら教えてくれると助かるわ」
「永琳を・・・?」
確かに見た。
レティの場合は、遠目だが魔理沙と何やら話している光景を。
そして萃香とにとりの場合は、見たところか本人と対峙した事を。
だが、そんなことを馬鹿正直に輝夜に言って何になる。彼女がそれを知って何になるというのか。
目的は分からない。ただ、一つだけ言えることはある。
こんな殺し合いに乗るような奴だ。どうせ、碌なことではない。
そんな奴に与える情報など、全く無い。
「・・・知らないよ。永琳のことなんて、何も知らない」
にとりは怯えた口調で輝夜に言う。
もちろん嘘。こんなことを言っていいのかと思ったが、片膝を付いてうつむいている萃香は『よく言った』と言わんばかりの笑みを浮かべていたので良しとしたい。
「そう・・・分かったわ」
答えを聞いた輝夜は何やら諦めたような表情でため息をする。
銃口はこちらに向けたままとはいえ、ついさっきに比べると隙があるように見える。
何とかして奇襲を仕掛けられないか、誰もがそう思っていると・・・
「そこの河童、あなたは嘘吐きね」
「!?」
突然、自分の事を呼ばれたにとりは思わず動揺する。しかも、銃口を自分の方へと向けてきたではないか。
確かに嘘は吐いたが・・・だからといって、すぐバレるような言い方だったか?
そう思っていた時・・・
「私はね、あなたたちが私と対面する直前に言っていた会話を聞いたのよ。確か、『今度こそ永琳をとっちめてやる』だったかしら」
にとりは、顔が髪の色のように青くなる感覚を覚えた。
「今度こそってことは、あなたたちは以前に永琳を捕まえかけたような言い方ね。それなのに、知らないと答えるなんてどういうこと?」
「そ、それは・・・」
嘘の発言者、にとりは口ごもる。
何かいい言い訳は無いか?どうやって嘘を貫き通す?
考える時間があっても何も思い浮かばない。ただ、嫌な汗がだらだらと流れていくだけだった。
「もういいわ、あなたが嘘を吐いたことは分かったから。
それにしても、こんな立場に置かれておきながら私を騙そうとするなんてね」
輝夜はそう言い、銃を持つ手に力を入れる。
「ま、待って!にとりは・・・」
レティが必死に執り成そうとするが、輝夜は聞く耳持たず。
その輝夜が持つ銃が怪しげなオーラを放ち、それがにとりの体を蝕むような感じがした。
これから自分は何をされるか悟ったにとりだが、動けずにただ呆然とするのみ。
そして
ドン!
にとりへと向かって銃声が鳴り響いた。
(ああ。私、今度こそ死んじゃった。だって、鬼の萃香だって何も出来なかったもん。
そんな相手に狙われて助かるわけないよ)
にとりはそう思い、目を閉ざして力を抜いた。
…だが、撃たれたはずなのに、痛みは何故か感じない。
痛みを感じる間もなく死んでしまって、もう死後の世界にいるのかとも思ったが・・・
そういえば、これと似たようなことがあった。霊夢に襲われて殺されそうになったところを萃香に助けてもらったときの事だ。
妙なデジャヴを覚え、にとりは再び目を開く。すると・・・
「すい・・・か?」
にとりの目の前には萃香が立っていた。もう、立つ力すら残っていないはずなのに。
とすると、自分は萃香のお陰で助かったということか?
でも、どうやって?
だって、自分は確かに撃たれた。それなのに、何故無傷でいられる?
まさか・・・自分を庇って!?
「萃香・・・。何で、こんなこと・・・」
にとりは萃香に対して何かを言いたげだった。
だが、それを言おうとした時にはもう遅く・・・
…ドサッ
萃香は力尽き、前のめりに倒れた。
…そして、そこから動くことはもう無かった。
最終更新:2009年08月04日 00:12