エスケープ・フロム・SDM ◆27ZYfcW1SM
不味い事になったわね。ええ……
幻想郷に建物は少ない。人里が一番多く、それ以外が存在しない。後は大抵一軒屋がぽつぽつとあるだけなのだから。
それゆえに、人里はなれた一軒屋には人が萃まり易い。
人だけじゃなく、鳥や虫や妖怪だって萃まり易いわけだが……
かくいう私、射命丸文もその一人なんですがね。
特に私が今居る紅魔館はひときわ目立ちやすい建物だろう。
例えるなら灯台くらいでしょうか? 私は灯台を見たことないのけど、大きな灯火を灯して遠くから見えるようにする建物らしい。だったら例えは間違っていないと思う。
今はみんな宿無し状態。おまけにどの家も自分勝手に踏み入るのが自由ときた。
自分で言うのも癪なんだが、幻想郷には図々しい者が殆どだ。かくいう私、射命丸文もそうですがね。
こんな灯台の家の中に居たらいつ誰が来てもおかしくは無い。
今はまだまだ人数が多く、力を持った者もまだまだ疲弊していない。ゲーム進行率30%程度かな? まだ事を起こすには早すぎる。
下手にゲームにのっている人に遭遇して殺してしまうのは勿体無いというものだ。
ゲームにのっている人たちにはもっともっとがんばってゲームをクリアしていってもらわないといけませんからね。
ゲームにのっていない人が来ても偽情報とか危険人物マップは既に用意済み。これを当ててやる事にしよう。
後者はどうにかなる。でも、前者は私が見つかったら見つけた者を殺さないといけないという強制イベントが発生してしまう。
ああ、新聞記者に逃走はないのだ。なのよ。
スピードには自信があるけど、下手に背中を見せるのは死への予兆でしかないからね。
相手が本気で殺しに来るのならこっちも本気。逃げようなんて甘い考えを捨てないと死ぬのは私に決まっている。本気でも博麗の巫女に勝てるか分からないのだから。
もちろん、逃走が確実にできるという戦況が生まれたのなら逃げるに越したことはないけど。
まあ、一番は見つからないこと。見つからなければ前者も後者も選択可能。一石二鳥ね。石で天狗は殺せないと思うけどなぁ。
大きな屋敷に誰にも見つからないように情報を集める。まるでスパイのようだ。新聞記者でありながらスパイとは……誰かが私を題材に小説とか書いてくれたらベストセラーになったりしないかな?
そんなことを考えているうちに地下への階段を発見する。
地下への階段を下りるとそこには図書館が広がっていた。
天井は見上げるほど高く、天井に届きそうなくらい高い本棚が迷路の壁のように並べられている。これは組みあがっているといっても過言ではないだろう。
本は最高の情報媒体だ。
誰が見ても素直に情報を教えてくれるし、情報を無視したって怒らないし、何回見たって同じ事を言ってくれるから。
ただ……ここの本は多すぎる。
本は素直に情報を教えてくれる。大変ありがたいことだ。だけど、知っている情報しか教えてくれない。
人も同じだけど、本は人よりも情報の好き嫌いが激しい。数式の本に文字の意味を聞いても1単語すら分からないのだから。
私が知ろうとしている『ゲームについての情報』を知っている本は一体どこで眠っているのだろう。
図書館なら司書さんくらい居るんでしょ? 司書さーん! って居るわけないか……
居ても困るんだけどね。
仕方が無い。適当に調べて回りますか。
えーっと何々……? 『ウロボロスの偽書』? パチュリーさんが好みそうだ。
次は……『エイリアン妖山記』、『HELLSING』、『エメラルド・タブレット』、『八つ墓村』、『夜鳴きの森』……
『狂気―ピアノ殺人事件』、『エノク書』、『シュレーディンガーの猫』……
私は今まで本棚には本を並べるものだと信じていたんだけど、その意味は違ったようだわ。
とりあえず、この本棚に私の求めている本は無いと思う。むしろ、他の本棚もこのようだったら司書と持ち主が居ない今はこの図書館から本を探し出すのは森から木の葉を見つけるようなものかもしれない。
半ばあきらめかけたときだった。
バタン……
かすかであったが、扉が閉まる音。
誰かが来た。図書館の扉の音ではない。おそらく正面扉。
人数は不明。ゲームにのっているか否かも当然不明。
不味い事になったわね。ええ……誰も来ないことが一番だったのに……
兎に角、図書館に留まるのはいい選択ではない。紅魔館から脱出するのが最善かと。
手早く荷物をまとめる。
ついでにお土産代わりに本棚に納められている本を一列隙間袋に押し込んだ。
『影の書』、『明け星を見上げて』、『クライマーズ・ハイ』、『腹腹時計』……
どれも役にたたなそうな本ばかりだ。燃料とか防刀くらいにはなるかな。
つめ終わるとすぐに扉を出る。地下は逃げ場は少ない。追い詰められたら御仕舞いだ。
1階に着くとできるだけ身を隠すように壁の出っ張りなどの死角を利用して正面扉へ向かう。
新聞記者として、そして好奇心旺盛な私として、侵入者の顔くらいは見ておきたかった。好奇心は猫をなんたらはこの際考えないとする。
(いたっ!)
侵入者はいとも容易く発見することができた。
青のメイド服。そう、射命丸がゲーム開始から一番初めに見た参加者、十六夜咲夜。
侵入者ではなかった。家の持ち主だ。侵入者は私のほうだった。
あー不味いね。ほんと。
彼女がゲームにのっていないことは既に分かっている。
だけど襲ってこないかといえば、そうではない。
彼女は紅魔館は私の主人の家だと主張して私を追い出そうとするだろう。つまり戦闘発生。私は不幸(アンラッキー)。
これは速やかな退避こそが最善の選択だと疑う余地はない。
偶然にも再び館の外にメイド長は出て行ったので、その隙に速やかに、されど音は立てず脱出する。
きわめて地味な作業であった。
湖のほとりまでやってきてようやく胸をなでおろす。
苦労をして紅魔館に潜入して手に入ったものは役にたた無そうな本が1列分とメイド長、十六夜咲夜がとうとう得物であるナイフを手に入れたことということ。
背負っていたプリズムリバー姉妹、最後の一人
リリカ・プリズムリバーとの関係は不明。生死も不明。
咲夜の情報はうれしい。だが潜入の代金としてあの本たちは割に合わない仕事だった。
「まぁ、捨てる紙あれば拾う神ありってね」
本を必要としている人に売りさばけば案外いい代金に化けるかもね。
さて、次はどこに行こうかしら?
【C-2 紅魔館周辺 一日目 昼】
【射命丸文】
[状態]健康
[装備]短刀、胸ポケットに小銭をいくつか
[道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本
[思考・状況]情報収集&情報操作に徹する。殺し合いには乗るがまだ時期ではない。
1.プリズムリバー亭にでも行きますか。
2.燐から椛の話を聞いてみたい。
※妹紅、天子が知っている情報を入手しました。
※本はタイトルを確認した程度です
最終更新:2010年03月24日 14:35