誰がために鐘は鳴る(後編)

誰がために鐘は鳴る(後編) ◆gcfw5mBdTg




 重さと速さを兼ね備えた拳を避ける為に与えられた余裕は、極僅か。
 幻想郷のパワーバランスの一角を担う種族は伊達ではない。
 いかなる技術も見られない、吸血鬼の速度と膂力に任せた一撃は参加者の中でもトップクラス。
 フランドールの爪、いや、拳は紅い軌跡を残しながら――鳩尾へ繰り出される。

 霊夢は避け切れず、轟音を伴う衝撃が伝播するが――怪我はない。
 衝撃に逆らわず後方に跳び、くるりと宙を舞い、木の葉のように緩やかに無音で着地する。


 博麗霊夢は博麗の巫女であっても所詮は人間。
 手加減しているとはいえ吸血鬼の膂力を浴びせられて無傷で耐えうる道理は無い。

 霊夢は、防いでいたのだ。
 不可視の拳の軌道上に一瞬の遅滞も躊躇もなく楼観剣を配置することによって。

「……見えていなかったわよね」

 運に任せての防御ではない。
 どこに来るのか分かっていない状況での防御では、意志や力が自然と弱まる。
 その程度の柔な防御ならば、フランドールは霊夢に甚大なダメージを与えていただろう。

「なんとなく、ね。そこにきそうな気がしたの」

 霊夢は自分の勘に微塵の疑いも持っていない。
 心の底から自分を信頼している故に、思考に先んじる回避を可能としているのだ。

「……この、化け物」

 本気でも通用していなかったであろうことを悟ったフランドールが苦渋の表情を浮かべる。

「あんたに言われるのは心外なんだけど……」

 霊夢は、僅かに残った腕の痺れを煩わしげに振り払いながら、フランドールに問う。

「……あんた、手加減してるでしょ。
 そこまでして魔理沙に義理立てするのはなんで?」

 霊夢の知っているフランドールは違った。
 全てに興味を持ち、全てに固執しない。
 知らないから、世界を、心を、人を。
 知っているから、自分が悪魔であることを、手に入らないことを。

「私達を尾けてたのなら鉄の球と血が転がってる場所を知ってるでしょ。あれ、魔理沙のなのよ」

「あー、あれってやっぱり魔理沙のだったのね。
 血の乾き具合からして結構前の代物なのに本人はピンピンしてるから不思議に思ってたんだけど」

「……嫌だったのよ、怖かったのよ。私には魔理沙があんな姿になるなんて耐えられない。
 それだけでも耐えられないでしょうけど、私にはもっと耐えられないことがあるのに気付いたの」

 五百年の幽閉により、己の狂気、孤独は生まれながらにしての運命だと諦めていた。
 運命とは鉄格子のように絡み合いながらも頑丈で変わらないものだと思っていた。
 だから、これから先も、変わらない、望んでもいけないと思い込んでいた。
 世界と自身とを分かつ檻は、自分が創った物だとということも知らず。
 心が痛むということにすら気付かぬまま成長してしまっていた。



 パチュリー・ノーレッジとスターサファイアは鍵だった。

 二人が死んだ時、喪失感があった。
 初めての経験だった。よく知らなかった。
 知らなかったから、自分自身さえ見失いそうになった。
 無意識に責め立て、無意識に焦らせ、無意識に誤魔化した。

 だから鍵が開いているのに外に出ようとしなかった。
 悲しみを紛らわせようとしてしまった。

 本当は寂しい、悲しいと思っているのに。
 心の底では必死に手を伸ばしているのに。


 そんなフランドールを魔理沙は外へと連れ出してくれた。
 魔理沙にとってはなんのこともないことであっても、フランドールにとって生き方を変えてしまうほどに大切な意味があった。
 世界は優しくない、けれど世界は温かいものだと、生きていた方が楽しそうだと思わせてくれた。

 魔理沙に手に引かれ檻から出たフランドールには、感情のゆらぎが僅かながら自覚できるようになった。
 その時の言い切れぬ疎外感から開放された高揚は、誰にも理解されないだろう。


 だが……同時に問題も生じた。
 檻は、閉じ込めるだけではなく外敵を避け付けないためのものである。
 フランドールは心を得たと同時に、悲しさや怖さも十二分に理解できるようになった。
 心を理解しても扱いには慣れていないフランドールは、いまだ不安定には変わりなかった。

 そして不安定なまま、切欠を得てしまった。
 魔理沙の残骸を目撃したフランドールは魔理沙の死を実感してしまった。
 魔理沙の死でも耐えられそうになかったのに、心を得たフランドールの想像力は更なる未来を予想してしまった。


 ――もう一度同じことが起きるんじゃないか、と。

 ――スターのように魔理沙が自分を庇って死ぬんじゃないか、と。


「魔理沙が死ぬだけでも嫌だし、庇われるのはもっと嫌、それだけよ。
 そのあと、あなたの血を察知したら、自然とこんなことになってたわ」


 魔理沙がフランドールを庇うという未来を否定できる要素が見当たらなかった。
 魔理沙が以前より頑丈になったという事柄が、より危ういとフランドールに思わせた。
 地雷現場の詳細を知らない故に、魔理沙が藍を庇って怪我をしたのではないかと想像してしまった。

 だからこそ、フランドールは恐怖に堪えきれず外敵、それも魔理沙を確実に害する存在を単独で排除しにかかったのだ。
 自分が死ねば魔理沙が悲しむと分かっていても、早まるなと忠告されても、心の奔流に逆らえなかったのだ。





「――それだけなの?」

 ……フランドールの想いに、霊夢は冷たい言葉を吐き捨てる。

 死んでほしくないという想いは霊夢にもある。
 だが――心を傾けるには値しない。

「ええ、そうよ。これだけよ」

 霊夢の冷めた言葉にフランドールは表情を険しくする。

「……私には良く分からないわね。
 そこまで執着できるようなものを私は持っていないし」

 霊夢は全ての物事に対し、一生懸命取り組むことを嫌う。
 努力が報われることなど信じていないから。

「……あなたは捨てただけじゃない。
 魔理沙は、霊夢と共に生きる為に命を賭けてるわ。
 お姉様だってあなたには信頼を置いているし、他にも、他にも、あなたは沢山持っていたのに」

 フランドールは不快さを吐き捨てる様に言い切った。
 己の目を精一杯凝らし射殺すかのように霊夢を睨む。
 霊夢の単調で平坦な態度が神経に障る。心の底から黒いナニカが這い上がってくる。

「捨てたんじゃないわ。
 最初から最後まで私は一人。ただそれだけよ」

 外界の如何なる要因も博麗の巫女を揺るがすことは叶わない。

 博麗の巫女は妖怪と人間の中立、中間に位置する唯一の存在。
 生粋の博麗の巫女である霊夢は、何者に対しても平等に見る。逆にいうと、誰に対しても仲間として見ない。

 相手の肩書きを平坦化する彼女は、時として人間、妖怪、種族を選ばず惹きつける事もある。
 だが周りに沢山人間や妖怪が居たり、一緒に行動を行っても、常に自分一人である。

 フランドールのような外因からの孤独とは異なる、根底からの孤独。
 故に、分かりあえる事も無く、理解される事も無い。

「――魔理沙に感謝しなさいよ。
 生け捕りにしたって、あなたは決して変わりはしないけど――殺しはしないわ」

 容赦はしないが、殺しはしない。
 欲しいのは、魔理沙の沈んだ心ではないのだから。
 フランドールは魔理沙の友達なのだから。

 底冷えした声で霊夢を呪いながらフランドールが――駆ける。



 二人の影が重なり合う。
 太陽から隔絶された薄暗闇の中、打ち合わされた爪と刀から甲高い金属音が鳴り響く。
 狙い迸る殺意の閃光を受け止め、弾き、激しく斬り結ぶ。白と紅の火花が散る。

 剣戟が幾度も打ち鳴らされる内に、二つの要因が、徐々に趨勢は傾けていく。

 一つは獲物の差。
 霊夢の楼観剣は長さ故に、森林では扱いづらく防御にも向かない。

 一つはフランドールの手加減の具合。
 手加減は既に急所を爪で狙わないといった程度になりかけている
 感情制御にいまだ慣れず、自制心のラインを前後しているのだ。


 だが、決定打までには一向に至らない。
 フランドールが届くと確信していても、霊夢には届かず虚空を斬るのみ。
 極めて正確で一寸の迷いもない流れるような体術は、如何なる攻勢も受け流す。
 現状を打破しようと破壊の能力を刀に行使しようにも、霊夢もそうはさせない。
 能力行使の隙により攻勢が途絶えた瞬間、霊夢の剣閃が、両腕もろともフランドールを断たんとする。
 能力は中断せざるを得なくなり、形勢は依然、維持される。


 膠着した戦場に痺れを切らしたのはフランドールだった。

 霊夢がフランドールの両の腕を回避した瞬間――三本目の腕が霊夢を襲う。

 ――禁忌「フォーオブアカインド」

 魔力により自らと同じ個体を作成し操作するスペルカード。
 フランドールから、首輪をしていないフランドールが一人生まれ落ち、本体と共に攻撃を仕掛けたのだ。

 霊夢は頭で考えるよりも、自然に体が動き、横に半歩跳び下がる。
 フランドールの爪が霊夢の衣服を引き裂き、腹部の柔肌を僅かに撫で、赤い線が引かれる。

 なおも二人のフランドールの攻勢は止まらない
 霊夢は横に流れた身体を床を強く踏み締めることで体勢を揺り戻そうとするも、隙が生じるのは避け得ない。

 強引に後方にステップを踏むも――後退する背中には大木。
 フランドールは絶好の機会を今、見事に自分のものとする

 木の葉が舞う中、二人のフランドールが迫る。
 身を捻りながら横凪ぎに渾身の力で左右から拳を振るう。




 ――だが、虚しく宙を掻く。

 拳の先には何も無く、ただ大木に亀裂を走らせただけだった。
 フランドールの攻撃が捉える瞬間、突如、霊夢が消失したのだ。



 突然の消失に二人のフランドールは困惑すると同時に――屈んだ。
 背後に血の匂いを感知した吸血鬼の本能が、身を沈めろ、と命令した。


 直後――寸前まで二人のフランドールの頭部が位置していた箇所を刈り取らんとする無音の斬光が水平に薙がれた。


 霊夢の奇襲を避けたフランドールは一旦、距離を取り、必死に状況を理解しようとする。
 そして理解する。霊夢はコンマ一秒も要せずにフランドールの背後に回ったということを。

「……どんな手品よ、それ」

 分身の影響か、僅かな攻防で息を切らせているフランドールが尋ねる。

「たいした芸じゃないわよ。
 微調整はあまり利かないし疲れるし」

 ――亜空穴。

 零時間移動(テレポート)を可能とする霊夢の術。
 霊夢はこれを使用し、コンマ一秒の差でフランドールの爪を回避し、フランドールの後方へと舞い降りたのだ。
 神の御技かと錯覚するような所業だが霊夢にとっては〝できるからやる〟その程度のものでしかない。

 フランドールは、霊夢の血が付着した爪を舐めながら思考する。
 霊夢が背後に現れた瞬間から攻撃するまでには僅かにタイムラグがあった。
 手品の詳細さえ分かれば十分対抗できる。

 フランドールはそう判断を下し、溜めた息吹を吐き出し果敢に攻める。
 大気を揺るがす音が響くと同時に、一気火勢に打ち始める。
 霊夢は先程と同じように追い詰められ、またも亜空穴を行使する。

 だがフランドールには無駄な足掻きとしか捉えられない。
 零時間移動(テレポート)をしようが、霊夢から流れる新鮮な血の匂いが居場所を教えてくれる。
 意識さえしていれば対応は容易。


 吸血鬼の本能が指し示す獲物の居場所は――上方!



 フランドールが上方を仰げば――――宙に浮いている精神統一中の霊夢。

 ――神霊「夢想封印」

 霊夢の全身が発光し、妖怪が最も嫌う有り難い光の大型の霊力弾、十発程度が今、放たれる。

 標的は当然、フランドール。
 誘導弾であり回避に集中しなければ避け切れない。


 だが、フランドールは回避を拒否した。

 空中での精神統一を、回避に優れる霊夢を討つ好機と見た。
 フランドール一人でなら突破は不可能だが、二人なら突破できる。
 霊力弾を二手に分ければ、威力不足。一方に集中させれば、片方は無傷。
 甚大なダメージを負うが確実に押し切れる。

 即時判断を下し、地を蹴り、翼を広げ、跳び上がる。
 制限されていようが、多少の高度ならば支障はない。
 二対の紅の槍は怒涛の勢いで大気を斬り裂き続ける。

 霊夢から放たれる霊力弾の軌道は、二本。

 死地へと踏み出したフランドールを襲う衝撃は相当のものだった
 脳と視界がぐらつく余りに苛烈な感覚に顔をしかめる。
 だが奥歯を噛み鳴らし、全力全開を以って命を糧に燃え盛り――突破した。
 意識も失っていない、勢いは多少減衰したものの十分、霊夢を撃ち落せる。


 二本の朱き槍は、一直線に飛び、霊夢へと到達する――はずだった。


「――これが神に仕えるものの力なのよ」


 フランドールが霊力弾を突破した瞬間。
 瞬きを許さぬ閃光が視界を蹂躙し、埋め尽くしていた。


 フランドールは強烈な圧迫感に襲われ、霊夢への接触すら叶わず、無情にも、撃墜されていた。



「自分自身をもうちょっと考慮に入れてれば、これぐらい見抜けたでしょうに。
 捨て身なんてものはね、攻略を諦めたものが使用する悪手でしかないのよ」

 夢想封印の標的は、二人のフランドールだけではなかった。
 フランドールの死角、霊夢の頭上。
 すなわち、魔法の森の天蓋の役割の果たす枝葉を霊力弾の一発が吹き飛ばした。


 天蓋を破壊した結果、降臨したのは、吸血鬼の弱点――太陽。




 趨勢は決した。




 霊夢にとって防戦は防戦ではなかった。
 霊夢は攻勢に出て傷を負いつつ殺すよりも効率的な手段をとったというだけだ。
 会話の内容から、フランドールが自分を厭わず、魔理沙が来る前に決着をつけたいということは理解できた。
 それを理解していれば、優勢だが決着は訪れないという状況を維持するだけで無謀な策に取り掛かるということを予想できた。

 フランドールとの戦闘で霊夢の予想外なものは何もなかった。
 例えフランドールが手加減をしなかったとしても、霊夢の消耗が増えるのみで結果は変わらなかっただろう。
 あるいは攻勢に出すぎることにより、より早く決着は着いていたかもしれない。



 弱者の選択は意味を持たない。
 弱者の運命は絶対者の採決に帰結する。



 霊夢が、倒れ伏したフランドールに一歩、一歩、接近していく。



「…………ハッ…っ…ッ」

 太陽に焼かれたフランドールは精一杯の強がりを言う余裕すらなかった。
 倒れながらも必死に身体を動かし太陽の加護からは逃れたものの、力はいまだ戻らない。
 自分の呼吸の音すら感じ取れず、息を吸っているのか吐いているのかすらよく分からない。

 死に体のフランドールは、力を振り絞り、よろめきながらも立ち上がる。
 状況は好転したわけではない。本調子には程遠い。今にも意識を失う寸前だ。
 それだけでなく、フランドールは自分の身体に不備が発生していることに、気付いた。
 だが、不備がどういうものなのか一瞬、理解できなかった。いや、拒否していたのだろう。
 しかし逃避にも限界がある。フランドールは緩やかに理解した。


 ――なにも、見えない。


 ……太陽を直視した影響で、視力を喪失したのだ。
 血の匂いにより、近づいているというのは分かるが、それ以外がまったく分からない。
 フランドールは霊夢の意思一つで、自分の運命が左右されるということを正確に理解する。

 霊夢が今、なにをしようとしているのか。
 刀なのか、弾幕なのか、体術なのか。
 一秒後にくるのかもしれない。二秒後かもしれない。今にも振り下ろされようとしているのかもしれない。

 フランドールには見当もつかない。抵抗は出来ない




 ……終わってたまるもんかッ!!
 自分は一人ではなかったとようやく自覚できた。
 フランドールは、スターサファイアや霧雨魔理沙を初めとする様々な人に手助けされていた。
 なのに、ここでフランドールが倒れたら、その全ては無駄だったということになってしまう。

 フランドールは生涯で神に初めて願った。
 絶対にこんな所で終わる訳にはいかない。
 一人で生きる霊夢が正しいと認めるなどできるはずがない。
 たった一度でいい、霊夢の意思を否定する力を、と心中で叫び吼える!




 ――――だが神への願いは叶わない。

 物語とは、舞台の上の立つ者だけが全てを決定付ける。
 だから神に願いは届かない。ましてや吸血鬼の想いが神に到達するなど在り得ない。








 なのに、フランドールには――〝把握できた〟



 自分の心に従い、フランドールがしかと伸ばした右腕が。
 大上段から振り下ろされフランドールの脳天へ届こうとしていた楼観剣の刀身を〝掴み取った〟


「なッ!?」

 霊夢の顔が始めて驚愕に染まる。
 フランドールが行ったのは刀の軌道を理解していなければ到底できない正確無比な動作だった。
 視力を失った半死半生の吸血鬼では決して行えない芸当であるはずなのだ。
 霊夢が驚いたのはそれだけではない。

「……妖、精……?」

 巫女としての技能を保有する霊夢は、物に宿った神霊や霊魂などを霊視できる。
 霊夢には、とても小さな少女、霊夢にも見覚えのある妖精がフランドールを庇う様が、うっすらと垣間見えたのだ。


 フランドールの神業を可能としたのは視力ではない。

 ――〝動くものの気配を探る程度の能力〟

 スターサファイアがフランドールを庇った際、返り血を浴びた。
 頬を伝い、口へと吸血鬼として血を吸ってしまった。
 吸血自体にそのような効果などありえるはずがない。
 自然に宿る妖精だからこそ、フランドールへと媒介を移せたのだ。


 妖精が生じさせた奇跡に等しいイベントには状況証拠が存在する。 

 スターサファイアを初めとする三月精は支給品として参加した。
 支給品故、制限は参加者とは異なる。その一つにこのようなものがある。

 ⑦迷子にさせないようにしましょう。参加者からある程度離れると支給品が爆発します

 項目が正しいのならば、スターサファイアの首輪は爆発していないと道理が合わない。
 しかし、現にスターサファイアの遺体は香霖堂の一室に留まっている。

 なぜなのか。
 ……簡単なことだ。

〝スターサファイアは、ずっとフランドールの側にいた〟

 首輪はそう判断した。ただ、それだけだ。







「……あなたみたいな自分勝手な奴にやられてやらないわ」

 フランドールは鋼を掴み取った感触が伝わった瞬間、膨大な魔力の波を右腕に送り込む。
 ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を全力全開で行使する。
 視力がない故に、点は見えないが、己の手の内にあれば不都合はない。
 身体中の血を掻き集め、全身より溢れ出る魔力を右腕に集約する。
 能力は想像以上の力を発揮し――バキリ、と小気味いい音を立て楼観剣の刀身が半分、勢いよく折り取った。

 霊夢の表情を想像したフランドールは、ニヤリ、と苦しげに笑い、残る力を、折り取った刀身に込め、霊夢へと投擲する。

 刀身の行方は――胸元へ到達したものの、血を一滴垂れ流すのみ。
 霊夢の中指と人差し指に挟み取られていた。薄皮一枚だけを貫くに留まっていた。


 防がれたことを確認したフランドールは畳み掛けようとするも――――そこまでだった
 予想以上に魔力、体力の消耗は著しく、フランドールの抵抗は、続かない。


 倒れるわけにはいかない。
 生きろという声が自分を急き立てる。
 だが……やはり身体はもう動かない。

 誰か一人の都合で時計の針は止まらない。
 霊夢は滲む汗を拭おうともせず、二指で挟み取った刀身を無言で投げ返す。
 フランドールの喉元に、楼観剣の刀身が風を巻いて迫る。


 フランドールには、もう成す術はない。
 スターサファイアの能力により軌道が見えていても身体が追いつかない。

 それでは意味がない。一時的ではだめなのだ。
 勝てないと既に悟っている。でも、それでも引けない理由がある。
 だから、続かなければ意味がないのに――フランドールがそう思った時だった。



「――言ったろ?」


    友達の声が聞こえた。


         「――友達だってな」


 刀身はフランドールへ届く寸前、不意に吹き飛び、地面に突き刺さる。
 フランドールの前に躍り出たのは、とても愛らしい、小さな少女だった。
 身に纏うは、白と黒の洒落たエプロンドレス。
 ウェーブがかった黄金色の髪、月すら射抜く黄金の瞳。



 フランドールを救った少女は――霧雨魔理沙、その人だった。



 霧雨魔理沙は、ぼさぼさになったフランドールの髪をやんわりと撫で付ける。
 魔理沙から伝わる体温は、母親のようにフランドールの存在を肯定してくれた。
 視力を失っているフランドールには魔理沙の表情は窺えない。だが、それだけで十分、理解できた。

 フランドールは小さく首を振った。
 結局、庇ってもらってしまった自分に落胆した。
 心の底から情けなさを悔やんでいた。

 なのに、フランドールの瞳からは、宝石のような涙が溢れていた。
 悲しみからの涙ではなく、喜びの涙が、心からの涙が。
 自分が涙を流していると理解する間もなく……フランドールは意識を失った。



 フランドールを無事を確認した魔理沙は、向き直り、霊夢と対峙する。

「リグルとフランの借りと私の帽子、そしてお前も返してもらうぜ。私の大事なものなんでな」

「随分と遅かったわね、魔理沙。
 あんたと藍の乱入をずっと警戒してたのが無駄になるところだったじゃない。
 で、協力の件は考えてくれた? 無駄みたいだけど」

「誰がするか。お前が私に協力するんだよ。
 ……始める前にだな、私からも聞いておきたい事があったんだ、答えてくれるか?」

「一人一人にそんなのやってたら冥土の土産って足りなくなりそうなんだけど? まぁ答えてあげるわよ」

「お前は……香霖を、殺せるのか?」

「…………もう、決めたのよ」

「……嘘だな。
 私は知ってるんだぜ……お前の気持ちをな」

「……あんたが私の何を知ってるっていうのよ、私の本質を見抜けなかったくせに」

「今からでも理解してやるさ。私達は友達だからな」

「そうね、太陽と月ぐらいには仲が良い友達じゃないかしら」




「……私じゃ霊夢に追いつけないとでも言いたげだな。
 ああ、いーさ。それなら私は太陽が疲れるまで追い続けてやるよ。
 それで追いついたら今度は太陽を背負って運んでやる。太陽が元気になるまでな」




「無駄よ、太陽は何物も受け入れないわ。
 開闢から終焉まで、博麗に届く者はいないのよ」







 もしかしたら。
 博麗霊夢が博麗の巫女でなければ。
 別の運命へ辿り着いていたかもしれない。
 だが、もしかしたらなんて過程は、無意味だ。
 博麗の巫女でない霊夢は霊夢ではなく、どこにも存在はしないのだから。
 博麗霊夢は、人間である前に、博麗なのだから。

【F-5 魔法の森 一日目・真昼】

【博麗霊夢】
[状態]疲労(小)、霊力消費(中)、腹部、胸部の僅かな切り傷
[装備]楼観剣(刀身半分)、果物ナイフ、ナズーリンペンデュラム、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×4、メルランのトランペット、キスメの桶、文のカメラ(故障)、救急箱、解毒剤
    痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服
[思考・状況]基本方針:力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
 1.魔理沙達を殺す。
 2.1が済めば、D-4からG-4までを適当に見回り、敵と巫女服を探す。
 3.お茶が飲みたい

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し
[装備]ミニ八卦炉、ダーツ(5本)
[道具]支給品一式、ダーツボード、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.霊夢を止める。
2.真昼、G-5に、多少遅れてでも向かう。その後、仲間探しのために人間の里へ向かう。
3.幽々子を説得したいが……。
4.霊夢、輝夜を止める
5.リグル・パチュリー・妖夢・幽々子に対する強い罪悪感。このまま霊夢の殺人を半分許容していていいのか?
※主催者が永琳でない可能性がそれなりに高いと思っています。

フランドール・スカーレット
[状態]頬に切り傷、右掌の裂傷、視力喪失、体力全消耗、魔力全消耗、スターサファイアの能力取得、気絶
[装備]無し
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.魔理沙についていく、庇われたくない。
2.殺し合いを強く意識。反逆する事を決意。レミリアが少し心配。
3.永琳に多少の違和感。
4.パチュリーを殺した奴を殺したい。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じてます
※気絶、視力喪失、スターサファイアの能力の程度は後に任せます。

【八雲藍】
[状態]健康
[装備]天狗の団扇
[道具]支給品一式、不明アイテム(1~5)中身は確認済み
[思考・状況]紫様の式として、ゲームを潰すために動く。
1.フランドールを捜す。
2.E-5、F-5、G-5ルートで八意永琳との合流場所へと向かう。
3.八意永琳の件が済んだ後、会場のことを調べるために人間の里へ向かう。ここが幻想郷でない可能性も疑っている。
4.霊夢と幽々子様と首輪の存在、魔理沙の動向に関して注意する。
5.無駄だと分かっているが、橙のことが諦めきれない。


 ◇ ◇ ◇


「――――香霖堂へと立ち寄った後はどうするんだい?」

「そうね……彼岸などいかがでしょう。三途の川を渡れるならば、の話ですが。
 唯一壁が書かれていないことに加え、三月の今頃は同じく彼岸、何かがあるかもしれません。
 単純な脱出路というわけではないでしょうけれど、ね」

「同感だ。仮に脱出路だとしたら、地図に書き込むなんてサービスはしないだろう――――」

 議論を幾つか交わしながら月面探査車を運転していると……巨大な森林を遠目で目視できた。
 真昼の太陽の鋭い日差しに呼応するかのように魔法の森の木々は深緑を増し、枝葉を大きく広げている。

 今、見えている魔法の森は南端。地図ではG-6あたりだろうか。
 そして、とりあえずの目的地である香霖堂は、魔法の森の西の入り口付近にある。
 つまり北西に向かえばいいわけだが……流石に魔法の森を突っ切るわけにもいかないな。
 多少迂回をしてでも大人しく平原を行くのが無難な線だろう。
 一応は同行者にも意見を聞いておこうかと、ふと視線を助手席の妖怪少女に向けた。

 すると……僕は想像外のものを目撃することとなった。


 想像外といっても別の誰かがいたり誰もいなかったりしたわけではない。
 隣にいたのは隙間妖怪、八雲紫。当然だ、運転中に同行者が変動するなどそうそうありえることではない。
 いや、紫ならばいなくなっていもまったく不思議ではないかもしれないが、とにかく、僕の隣に座っているのは紫だった。

 想像外だったものは、紫の様子である。


 紫は、なんというか――――綺麗だった。

 恥じらうように睫毛を伏せ、頬に薄紅色を差した官能的な表情。
 ふわりと波打つ黄金色の髪、ゆらりと柔らかくしなだれる四肢。
 それらは紫を年頃の少女のようにも妖艶な妙齢の女性のようにも揺らめかせ、僕の感覚を錯覚させる。
 不明瞭な危うさを感じさせる繊細な魅力には、誰であろうと魅入られ、意識を刈り取られるだろう。
 まさしく幻想的と呼ぶに相応しい美しさである。

「ん……――っ、ふ。酒は神の美禄とはうまく言ったものよね」

 まぁ、しなだれた手に杯を携えていなければ、の話だが。
 いつのまにか酒を飲んでいたらしい。運転と討論に集中していて気付かなかったようである。

「貴方も、どう?」

 一息で杯を干した紫は、にこやかに微笑みながら杯を差し出し、柔らかい物腰で酒に誘ってきた。
 人に運転をやらせておいて一片の悪気も見せないとは逆に清清しい。もはや図々しいと言う気すら起きない。
 さて、酒の誘いはどうするか……。

「――酒返しはせぬもの。ありがたく一杯喰わされるとしよう」

 少々、悩んだが……僕は紫の申し出を受けることにした。
 主な理由は二つ。
 まず一つ、僕も紫も多少の酔いで行動に支障が出るような下戸ではない。
 二つ、妖怪は精神的なダメージには脆い、そして僕の半分はその妖怪である。

殺し合いの場で宴会とは不謹慎ではあるが、こういったことも必要だろう。
 どうせこれから不安はいくらでも舞い込んでくるのだ。常日頃から緊張感を張り詰めていてはやっていけない。
 ……決して、酒の香りと紫の飲みっぷりに釣られたというわけではない。

 ハンドルに片手を残し、運転に注意を払いながら、もう片方の手で杯を受け取る。
 僕が杯を掲げると、意図を汲み取った紫が杯と杯とを逢わせ、カチン、と打ち鳴らす。二つ分の杯の音が、小さく小さく響き渡った。

 芳醇な香気が鼻に抜ける。
 杯に唇を寄せ、コクリと液体を嚥下すると……うん、素晴らしい口当たりだ。
 揺蕩う酒気と洗練された淀みのない味が心地よい。肌に、胃に染み渡るようだ。よほどの名蔵で醸された酒なのだろう。
 誰が用意したのかは知らないが酒の見る眼は確かなようである。

 酒を欲する舌の要求は尽きず、たちまち杯は空を満たす。
 運転をしながら二杯目をどうするかと迷っていると、すかさず紫が酒を注ぎ、杯の中身を満たしてくれた。

 かの大妖怪に酌をしてもらえるとは光栄なことだ。
 紫の厚意をありがたく頂き、杯を口へと運ぼうとした、その時――紫の持っている酒瓶に初めて違和感を覚えた。

 特別な何かがあったというわけではない
 上物ではあるが変哲もない酒である。

 違和感を覚えたのは、名前だ。
 よくよく見ると……契約の際、紫の渡した酒とは異なる。
 そうだ、これは僕の袋にずっと入っていたはずの酒だ。もちろん、紫のものではない。
 紫は、怪訝な表情の僕を見て、含み有り気に笑った。

「視線が怖いわね。言いたいことがあるならちゃんと言ってくださらない?
 でないと私に殿方の心なんて分かりませんわ。殿方に乙女の心が分からないように、ね」

 僕は呆れ、困った様に眉根を寄せた。
 追求などできるはずがない。今、僕達は酒の神である奇しの神の御前にいるのだ。
 ここで紫に文句を言えば、自分の器が小さいと言ってしまうようなものである。

「まったく……相変わらず人を喰った言動が好きだね、君は」

「ふふ、人を喰うのは妖怪の生業ですからね」

 紫は無垢な少女のように笑みを咲き誇らせた。
 ……まぁ、いいか。目くじらをたてるようなものでもない。
 長年の付き合いで多少は慣れた、というより諦めた。とりあえず後で日記にツケの記載だけはしておこう。

 気を取り直して、杯の液体を一気に呷る。
 鬱屈も吹き飛ぶような上等な冷酒。良いものは何度飲んでも良いものだ。
 しかし……ここまでの銘酒で宴会をするならば足りないものがあるのが惜しいな。

「やはり肴が欲しいところだね。
 春に夜桜、夏には星、秋に満月、冬には雪、と言われるが、そのどれもがないのが残念だ」

「酒は燗、肴は刺身、酌は髱(たぼ)。
 若い美女にお酌してもらっているんだから我慢なさいな」

 手を口に当てて優雅に微笑む紫。

「僕としては一人で静かに飲む方が好みだけどね。
 ところで〝若い〟女性がてんで見当たらないんだが、一体どこにいるんだい?」

 僕の隣にはクスクスと妖しく微笑んでいる無邪気に見えなくもない妖怪少女しかいない。
 この娘は身長こそ僕より低いが、僕の知る限りでは霊夢や魔理沙を百人積み重ねても足りない年齢のはずである。

「あら、ひどい。ここにいるじゃありませんか、お父様」

 紫はニッコリと笑みを零し、僕の左腕を抱え込むようにして体を寄せる。
 僕の体に紫の腕が押し付けられ、感触が布地越しに伝わり、互いの体温が流動する。
 気がつけば、互いの吐息が掛かり、影法師が重なるまでに、僕と紫は近づいていた。
 好奇心と悪戯心に満ち溢れた妖艶な笑みが僕の視界を支配していく。


「いつから君はクオーターになったんだ」

 僕は深い溜息を漏らしながら紫を柔らかく振りほどいた。
 紫はからかっているだけだ。僕が酒の肴になるのは遠慮願いたい。
 あら、残念、と紫が堪えきれないように笑い声を漏らした。僕達は静かに笑い合い、再び杯に酒が注がれる。
 またコツン、と互いの杯を逢わせ、そして飲み干す。

 それからは自然と会話は途絶え、辺りが春の静寂に包まれた。
 静かに杯を酌み交わす音以外には一切、聞こえない。お互い話さず、視線も合わさない。
 だというのに不思議と居心地の悪さはない。意外と僕は紫に気を許しているらしい。
 一人で静かに飲むというが一番だという持論を崩すつもりはないが、たまには他人と飲むのも悪くは、ないな。



 …………。



 心地よい沈黙の宴会を謳歌していたが、そろそろ、酒も尽き、酔いも薄れてきた。
 だが会話はまだない。宴会の余韻に浸っていた。


 そんな中、突然、紫が、独り言のように落ち着いた声でポツリと呟いた。

 ――――妖怪が、太陽に届くと、思いますか

 八雲紫は、魅入られたように太陽を仰いでいた。
 どこか悲しげに、過日の幸福に想いを馳せるように儚さを覗かせる紫は、先程よりも、綺麗だった。
 だが、綺麗であると同時に……いつもの紫よりも小さく見えた。
 謎の家での一件から薄々感付いていたことではあるが、紫の本質は、霊夢や魔理沙のような変わった少女でしかないということだろうか。

 …………だから紫は酒を必要としたのかもしれないな。
 考えれば考えるほどに迷いや謎は深まり、一向に解決の目処が立たないまま、時計の針は狂わず回る。
 そんな未曾有の苦境に置かれ、たまには酒や僕によっかかりたくなったのだろう。
 誰であろうと一人で生きていくことのできる者などいるはずがない。
 人も妖怪も神も悪魔も、なにもかもが、他者を必要とするのだ。例外はない。香霖堂だって誰も来なければ商売が成り立たない。


 紫の様子は知らぬが花という言葉もあることだし、僕の心に留めておくだけにしておくとしよう。
 僕は紫の言葉へと想いを移す。

 それにしても…………太陽、か。

 天高く聳える雲にすら到底掴めない高みから、燦々と、容赦なく遍く地平を照らす。
 昼に生きる存在である人間にとっては無くてはならない存在。
 数ある天体でも一際輝く唯一無二の天体。日本神話の最高神――太陽。

 人間にとっても妖怪にとっても太陽は特別な存在であるが、その意味は異なる。
 人間は昼に生きる。妖怪は夜に生きる。境界が違えば、見方も違う。

 陰の存在である妖怪は陽の頂点である太陽には逆らえない。
 それは神が定めた法則であり常識であり現実。
 妖怪には、残酷なまでに強烈な陽光に怯え、身を隠し、夜の星空の世界に逃げ込む他、無い。

 ましてや太陽に手を届かせるなんて奇跡は、加護を授かる立場である人間ですら成し得ることはできない。
 妖怪に至っては、文字通り天地がひっくり返っても在り得ない。
 つまり、無謀としか言いようがないものである。

 僕は太陽を仰ぎながら応えた。

「僕のような一介の半妖では、やってみなくてはわからないね。
 まぁ、僕としてはイーカロスのように蝋の翼で飛び上がるのも一興ではある、とだけ言っておこう」

 紫は僕の返事に満足したのかは分からない。
 それきり僕達は、また何も語らないまま、静かに時を持て余してた。
 静まり返った空気の中、静寂はまたしばらく絶えることはなかった。



 ……沈黙の中、僕は先程の発言を思い返していた。
 つい、心のままに口走ってしまったが…………いやはや、大言壮語としかいいようがないね。
 軽々しく命を賭けると言ってのけるなど、商売人として失格である。
 紫との契約破棄をするつもりはないということを除いても、実に子供じみた発言だ。柄でも趣味でもない。

 ……まぁ、いいか。一度言ってしまったものはしょうがない。自分の言葉に従おう。
 男とは大抵そんなものである。見栄と伊達と虚勢をなんとか通すのが男なのだ。
 それに結局やることはこれまでと、そう変わるものでもないのだしね。
 今はただ歩いてゆこう。行き先が根の国であろうと後悔はしない、自らが決めたことなのだから。




 …………。




 宴会の余韻も醒め、酒も既に抜けた。それでもまだ香霖堂へは到着しない。
 香霖堂到着までの時間を真面目に考え始めた時――――突然、右手に位置する魔法の森から、見覚えのある弾幕が空へと飛び出した。

「あれは……霊夢か」

 霊夢の得意とするスペルカード、夢想封印。
 香霖堂の前で弾幕を繰り広げるのもそう珍しいことではない、見覚えがあるのも当たり前だ。

「覚による想起という可能性もありますが、十中八九、霊夢のものですね。……予定は一旦中断しましょう」

 僕と紫は月面探査車を止め、地上へ降りた。
 月面探査車はどうするのだろう、と思っていると、紫が袋を近づけ、ちょっと車に手をかけるだけでスキマ袋にするすると入っていった。
 相変わらず便利なものだ。まぁ、そんなことはどうでもいい。

「――霊夢の加勢にいかないとね」


【F-5 一日目 真昼】

【八雲紫】
[状態]正常
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式、不明アイテム(0~2)武器は無かったと思われる
    酒2本、空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱、日記
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにして契約を果たす。
 1.霊夢の元へ。
 2.八意永琳との接触
 3.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じている
[備考]主催者に何かを感じているようです

【森近霖之助】
[状態]正常
[装備]SPAS12 装弾数(7/8)、文々。新聞
[道具]支給品一式、バードショット(8発)、バックショット(9発)
    色々な煙草(12箱)、ライター、酒27本、栞付き日記
[思考・状況]基本方針:紫との契約を全うする。
[備考]異変自体について何か思うことがあるようです。

117:誰がために鐘は鳴る(前編) 時系列順 119:悲しみの空(前編)
117:誰がために鐘は鳴る(前編) 投下順 118:吾亦紅
117:誰がために鐘は鳴る(前編) 博麗霊夢 119:悲しみの空(前編)
117:誰がために鐘は鳴る(前編) 霧雨魔理沙 119:悲しみの空(前編)
117:誰がために鐘は鳴る(前編) フランドール・スカーレット 119:悲しみの空(前編)
117:誰がために鐘は鳴る(前編) 八雲藍 119:悲しみの空(前編)
117:誰がために鐘は鳴る(前編) 八雲紫 119:悲しみの空(前編)
117:誰がために鐘は鳴る(前編) 森近霖之助 119:悲しみの空(前編)


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最終更新:2009年12月22日 07:18
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