悪魔の住む家 ◆27ZYfcW1SM
「ちょっと薄味かねぇ? 濃い味のほうが気力が付くってもんだよね」
そういって小野塚小町は鍋の中に塩コショウを二振りさらにほど入れた。
ここは
アリス・マーガトロイドの家のキッチンである。
霊夢と同盟を結んだ後、放送直前ということもあってアリスの家で待機することとしたのだった。
二人、いやゲームに参加する者たちにとって定時放送は多少のリスクを犯してでも聴かざるを得ない重要な情報である。
さらに二人は殺して回る側、つまりマーダーである。5人の頭を吹き飛ばすには5発の銃弾が必要なように、使用回数制限のある武器と残りの頭数を計算する必要があるのだ。
特にトンプソンというゲーム中で最高レベルのアタリを持つ小町はいかにこの『アタリ』を長持ちさせるかによってゲーム難易度が大きく変わってくる。
ただ単に「くそっ、弾切れか!?」だけは国際問題にも匹敵する深刻な大問題なのだ。
それだけ熱心に放送に聞き入れば注意力は散漫になるだろう。
そして、その隙を狙ってくる者が存在するのもこのゲームなのだ。
ただ殺し合いをさせるだけのゲームなのに、さまざまなスタンスが取れるのがこのゲームの面白いところ。主催者が見て喜ぶところ。
とりあえず、放送のときを狙って襲ってくるものが『グー』だとするなら、棒立ちで放送を聴くのが『チョキ』。奇襲することが難しい場所に潜んで放送を聴くのは『グー』くらいだろう。
デメリットもしっかりと考慮しなければ取り返しがつかなくなるのはどんな現象も同じである。
〆
「さて、情報交換と行こうじゃないか? 霊夢」
アリスの家のリビングに置かれたソファーにどっしりと腰を下ろした小町はその向かい側のソファーに座る霊夢に問いかけた。
霊夢は片時も放さないトンプソン機関銃に一瞬目を向ける。小町はその視線に気づかないフリをした。
「私は大したことはしてないわよ。ちょっと何人か殺してきたくらい」
「貴女がほしそうな情報なんてあったかしら?」と霊夢は手の平を上に向けて首を振った。
「そうだね。私も何から話せばいいか分からないよ。それじゃ今まで出会ってなおかつ生きている者とか」
そんな感じで慣れない情報交換を二人は始めていった。
接触した人物とそのスタンス。そして、所持しているものだ。
二人とも信頼しあっているわけではない。
小町はトンプソン機関銃はもともと持っているから仕方ないものの、他に何を持っていると聞かれたときは『何も』と答えた。
本当に何も持っていない小町であったが、その態度と口調、目の動きからは『スキマの中にはまだ何かある』と思わせる態度をした。
それに霊夢が騙されたかは不明であるが。
霊夢も火薬などの殺傷力のある武器や持っているだけで大きく有利になれる道具はスキマの中にしまったままだった。
ただ、銃を持っていない霊夢にとって無用の宝玉である銃器カスタムセットは小町のトンプソンを見て渡すことにした。
『時間はあまり無い』と小町はすぐにトンプソンを改造をはじめるのだった。
情報交換も殆ど終わり、「最後に一つ聞いていいかい?」と小町は霊夢に尋ねた。
「このゲームが優勝以外で終らせることができるとしたらどうする?」
ハッと小町は驚きの表情を浮かべた。
それは霊夢も同じであった。一瞬ではあったが霊夢の表情が固まったのを小町は見た。
「くだらない……」
霊夢は手を振るとソファーから立ち上がり部屋の奥へ消えていった。
小町ははぁと大きなため息をつきながら自身の膝に顔を押し付けた。
「そうだよね。甘い考えは捨てないと辛いのは自分だって言うのにね」
しかし、甘さはすべて捨てられる自信がなかった。
小町は立ち上がる。考えより先に体を動かしたら何か変化があるだろうと思って。
「霊夢、和食と洋食どっちがお好きかい?」
「和食ー」
「なら洋食だね」
「何でよ!」
「未練があったほうが長生きできるかもしれないじゃないか」
「どういう理屈よ。それに食べ物の未練なんて恥ずかしいじゃない」
「食べ物の恨みは恐ろしいって言うじゃない?」
「それはそうだけど……」
「それに食べ物で死んだ奴は狡賢い悪霊になりやすい」
「なんで?」
「食えない奴なのさ」
「…………くだらないわ」
〆
塩コショウを加えた鍋の中のコンソメスープを少し小皿へと移し、それに唇をつけた。
「こんなものかねぇ」
小町の後ろにはとても戦争ゲーム中とは思えない料理が数品並んでいた。
その中には肉料理は無いが、軽食とはいえない豪華さと栄養価があった。
仮に肉が材料としてあったとしても、小町はその食材を鍋に入れようとは思わなかったが。
「戦いの基本は食事からってね~」
次の料理を作ろうとしてフライパンに手を伸ばしたそのとき、耳に例の音楽が流れ始めた。
放送に気がついた霊夢もキッチンへと入ってくる。
二人はごくりっと生唾を飲んでその放送に耳を傾けた。
「ここに来て一気に減ったね。何かの反動か? はたまた死にかけだったのが死んだか?」
小町は自分の知った名前がないことにどこかほっとしつつ地図と名簿から目を放した。
しかし、霊夢は相変わらず難しい顔をしたままだった。
「どうしたんだい? 気になるやつでも死んだのかい?」
「……そんなことはないけど」
森近霖之助の名前が心に引っかかったが、小町に悟られないと無理に顔を作った。
「それにしても今回の放送は今までと違っておかしかったわね」
「ああ、それはあたいも思ったよ。ずばり、今回の放送はなぜ月兎に情報を与えたか? だね」
力が制限される、与えられる武器、道具がランダム、出発地点がランダム。
これらを考えて考察するとすぐに思い浮かぶことが参加者の能力を可能な限り平等に近づけるだ。
小町も力が制限され、武器がランダムな時点で『他のゲーム』と同じだと思ったのだった。
主催者は一方的な虐殺を見たいのではない。
八雲紫が能力を自在に使えたら……
首輪を外して傷ついたら禁止エリアへ避難とか卑怯な戦法ができる。
西行寺幽々子は亡霊のままだったら……
放たれた銃弾はその身を貫くことはなく、近づくだけで蔓延する死の香りに誘われ全員が冥土送りとなるだろう。
それらを縛れば、力の弱い妖精でも武器によっては大妖怪すら倒せるようになる。
戦闘勝率もランダムになる。
ランダムランダムランダム……すべては可能な限りのフェアプレイを見るため。
その徹底した確立論に主催者の故意が介入を果たしたのだ。
違和感を覚えるのは少数じゃないだろう。
永遠亭の者だからとか言われればそれまでなのだが、ゲームに参加させる時点で既に見捨てたも同然。
殺しても死なない人形説もあるが、既にネタ晴らしした以上このゲームに『人形はもう一体も存在しない』
層考えるのが妥当。つまり、参加しているのは生身の優曇華。死んだらそれで終わり。
一人しか生き残れないってことはてゐとウドンゲどちらか一方は確実に死ぬ。
だから『見捨てたも同然!』
「テコ入れかねえ……」
「ええ、これは悪意を持ったテコ入れね。まるで悪魔のささやきね……」
「洗脳とも言うかもよ、この場合」
「まぁ、これで戦場は動くわ。月兎が無理な戦いに走る可能性がでる」
「結果死人が出る。月兎かそれ以外かは置いておいてね」
霊夢がスキマを持ち上げながら言った。
「少なくとも今回のは永琳らしくない露骨なテコ入れだったわね」
小町は疑問符を浮かべた。永琳らしくない?
「主催者さんは私たちを祝福しているわ」
「地獄に見たは主催者様か……」
小町はトンプソン機関銃のベルトを肩に掛けながらつぶやいた。
【F-4 魔法の森 一日目・夜】
【博麗霊夢】
[状態]万全
[装備]果物ナイフ、ナズーリンペンデュラム、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障)
不明アイテム(1~4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.小町と共に行動
2.とにかく異変を解決する
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない
【小野塚小町】
[状態]万全
[装備]トンプソンM1A1改(50/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×5、
銃器カスタムセット
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1.霊夢と共に行動。重要度は高いが、絶対守るべき存在でもない
2.生き残るべきでない人妖を排除する
※トンプソンM1A1改
もともとのトンプソンM1A1にフォアグリップを装着し、レーザーポインターをつけたもの。
狙いをつけやすくなった。
※銃器カスタムセット
ゲームに参加する銃器のカスタムパーツと予備弾がある程度入っている。
銃の種類によってはカスタムパーツが入っていない。しかし、予備弾は必ず入っているようだ。
銃器カスタムとあるが、それ以外の刀やナイフ、防具などの支給品全般の整備、修理道具なども入っている。
最終更新:2010年12月20日 23:43