これからの正義の話をしよう ◆TDCMnlpzcc
闇に包まれた人里で、辺りを見回しながら歩く人影が二つ。
少々不用心な気はするが、目的のためには仕方ないのだろう。
「もうすぐ人里の外れだ。休まないのか?」
私、藤原妹紅は目の前の人影に声を掛ける。
「ぬ?ああ」
聞いているのか、聞いていないのか、どっちとも取れない返答が返ってくる。
「おい、鬼。体力が限界なら言ってくれ」
「うん」
鬼、伊吹萃香はうなずき。しかし、のろのろと歩き続ける。
紅魔館へと歩き出してもう一刻は経っている。
だが、いまだに人里から離れることもできず、目の前の鬼の歩くペースは落ちる一方だ。
見ていられない。
さらに、この状況で何者かに襲われる可能性も考えると、放っておかない方がよいだろう。
目の前の鬼が今、戦闘ができる状況には思えない。
紅魔館までの道に危険な奴がいたら、足手まといとなった今の鬼を抱えて私は戦えない。
今の内に、強引にでも止めるべきだ。
「なあ妹紅、少し休むか」
「え?ああ」
いつの間にか足を止めていた鬼の背中が目の前に現れ、私も慌てて足を止める。
意外にも当の鬼から休息を提案され、私は拍子抜けした。
鬼はすぐに道端に座り込んでしまう。
流石に道端に座り込むのはどうかと思い、私は少し離れたところにある木に寄りかかった。
寄りかかった所で微かな音が耳に入ってきた。
ふと、道端へと目をやると、鬼はもう寝息を立てている。
「何も寝なくても・・・」
呟いたものの、わざわざ起こす道理はない。
少し寝て、体力を回復してもらった方が何かと都合もいいだろう。
めんどうだな、と私は呟き、周りへの警戒に意識を移した。
鬼が眠りに着いてから一刻は経った頃。
伊吹萃香が起き上がる音で私は振り向いた。
「もう寝なくていいのか?」
「ああ、まあ大丈夫だ。それより、誰か来たかい?」
「だれも来ていないし、見てもいない」
「そう・・・ならいい」
一通り確認を終えると、鬼は民家の影に一瞥をくれ、再び向き直った。
暗闇の中、鬼の2本の角が静かに揺れる。
完全回復ではないようだが、ついさっきまでと雰囲気が変わっていた。
そのままじっと、なにかを探すかのように目を動かす。
「蓬莱人っていうのは目も良くなるのかい?」
「別に視力は人間と変わらないはずだけど・・・」
そこでふと、閃いた。
「だれかいるのか?」
今は夜。警戒していたとはいえ、明りがあったとはいえ、人間には遠くが見えない。
自ら練成した火のあかりも、少し離れれば役には立たない。
夜のフィールドでは夜に生きる者の方が、情報収集能力において有利になる。
そして、蓬莱人である私は、特に夜の住人というわけではない。
「一人、ね。意外と近くにいる」
鬼の視線を追うと、一つの民家の納屋が浮かび上がる。
良く目を凝らせばそこで微かに揺れる人影が見える。
こちらの視線に気づいてはいるようだが、一歩も足が出る様子はない。
凍りついた時間、溶かしたのはやはり鬼だった。
「私は隠れてこそこそする奴が嫌いだよ!!」
鬼が、吠える。
あたりに鳴り響く大声。
その声を聞いたのか、人影は納屋を離れこちらに向かってきた。
見たところ人影には武器を持っている様子はない。
とはいえ、ここは幻想郷。どんな奴だか分からない。
ウェルロッドを構える私の横で、鬼も火かき棒を軽く構える。
名乗りを聞いて、横の鬼が力を抜いたのが分かった。
不死だった私にとって、完全にかかわりのない存在だった閻魔様。
しかし、幻想郷に長いこと住む身としては聞いたことのある名前だ。
一度くらい会ったこともあったかもしれない。覚えてはいないけれど。
「伊吹萃香、鬼だ」
「藤原妹紅、蓬莱人」
つい事務的な受け答えになってしまうのはその雰囲気のためか?
とりあえず武器は下ろさないものの、私は少しリラックスした。
目の前の閻魔様が人妖を殺して回っているようにはとても見えない。
職業としても、雰囲気としても。
良く見れば閻魔様も修羅場をいくつかくぐり抜けてきた様子がある。
もう血は止まっているようだが、腹の傷は痛々しい。
「怪我は大丈夫か?」
「はい、ちょっと」
鬼に聞かれて、思い出したのだろうか?
閻魔様は驚いたようにわき腹の怪我に目を落とす。
「これは、ね。
地霊殿のさとりの妹にやられました。こいし、でしたね」
その名前に、私たちは目を落とした。
こんなに早く、先ほど埋葬した彼女の名前を再び突き付けられるとは思ってはいなかった。
改めて自分たちが殺したのだということを想い、目を閉じる。
「あなた方も会ったのですか?怪我もしているようですが」
私たちの反応から何かあったことを読み取ったのだろう。
私たちにとってつらい質問を投げかけてくる。
「ああ、殺してしまったよ」
鬼が、悔しそうに呟く。
人の善悪を図る閻魔に対して大それた発言だと思い、私は閻魔様の反応をうかがう。
殺人を犯したら地獄行き。
これは昔からの、私が幼かったころから教えられてきた
ルールだ。
確かに閻魔様は反応した。
しかし、それは怒っているというより、なんだか・・・。
信じられないことに、閻魔様は喜んでいた。
「そうですか、そうですか」
目を落としたままの鬼は閻魔様の反応に気付かない。
悔しそうに呻く鬼と、笑顔になった閻魔とが私の視界の中にはあった。
「それは良いことをしましたね」
閻魔の口からその言葉が出た瞬間。
私の、幻想郷の、世界のルールは音を立てて崩れ去った。
「良いこと、だと。何を言っている」
しばらく絶句した後、鬼が言葉を絞り出す。
ここで言葉を発せられたのは、鬼ゆえだろうか。
一方の私は、ウェルロッドを構えたまま何も言えなかった。
「よい行いをしましたね、と言ったのですが」
閻魔は動揺することなく、口から言葉を、吐き続ける。
「あなたたちは理解すべきです。今の幻想郷では殺すことが善行なのです」
「理解できないね。あんたは何を言っているのか分かっているのか?」
「理解しなくとも構いません。せめて受け入れればよいのです」
一瞬、蔑むかのような視線を投げかけた後、自分が常識だと言わんばかりに訴える。
「私にも理解できない。今まで殺すということは悪だと習ってきたから・・・」
「今までと今は違います。貴女が古明地こいしを殺したことも、今では善行の一つです」
「あんた、本当に閻魔なのか!!」
鬼が首に手を掛け締め付ける。
動じやすく、激しやすい。
閻魔はそんな鬼を見て、嗤ったように見えた。
「正真正銘の閻魔です」
私に引き離されて、ようやく首を離した鬼が信じられないものを見るかのように見つめる。
見つめられた閻魔は、表情一つ変えずに相対する。
閻魔は幻想郷の善悪の秩序の番人。
一方の鬼は秩序の破壊者。
しかし、月夜に照らされたその顔は、伊吹萃香のそれよりも恐ろしかった。
風が吹き、髪が静かに揺れている。
夜風が寒気を起こすのか、それとも今の状況が寒気を引き起こすのか。
とても寒さを感じる。
そういえば今は冬、だったか。
「とりあえず武器を持っているなら置いてください」
私はウェルロッドを構え直して告げる。
少なくとも目の前の閻魔を危険人物と判断したということだ。
「武器はもっておりません」
「信用できない」
閻魔は一歩も動かず。ペースも変えずに佇み続ける。
傍らには伊吹萃香と私が武器を向けて構えている。
傍から見ればこちらが悪に見えるだろう。
もしかしてこちらが本当に悪なのかもしれない。
「危ない!!」
タタタン!!
視界が反転して、頭に痛みが走った。
少なくとも一人は、こちらが悪だと判断した・・・らしい。
「四季映姫様!!ご無事ですか!?」
博麗霊夢の弾幕が続いて鬼を吹き飛ばすのを確認して、あたい、小野塚小町は叫んだ。
あたいの上司に当たる閻魔様、四季映姫・ヤマザナドゥはこちらをみて、うなずいた。
霊夢とともに人里へと降りてすぐ、あたい達は誰かの叫び声を聞いた。
声の主を探し、ひた走ると、閻魔に武器を向ける不届きものをも目撃したというわけだ。
もちろんあたいは躊躇せずに撃った。
「霊夢!!なんで!!」
声をあげた鬼は、博麗霊夢の二発目の弾幕を受けて沈黙する。
隣の少女は・・・倒れたまま動かない。
あたいが撃った瞬間、鬼によって弾かれた少女は、弾丸の洗礼に関しては回避に成功した。
ただ、鬼の馬鹿力で弾き飛ばされ、頭を打ったらしい。
構えていた拳銃は離れたところに転がっている。
接近した霊夢は果物ナイフで倒れ伏した少女、藤原妹紅にとどめを刺しに行く。
驚くほど機械的。感情のこもっていない一撃が振り落とされる。
ある意味では信頼が置ける、と言えるだろう。
が、あたいは少し寒気を感じた。
「やめろ!!」
鬼が跳ね起き、振り落とされたナイフを火かき棒で弾き飛ばす。
そのまま少女を抱え、私たち二人から距離をとる。
飛び道具を持つあたいにとっては無駄な行動だ。
そのまま照準に捉えて・・・
「霊夢、邪魔だ!!」
間に入った博麗霊夢によって射撃は妨げられた。
声を掛けたものの、霊夢に避ける気配はない。
その背中からは、自分で始末をつけるという意思がにじみ出ていた。
対する鬼は相当消耗しているらしい。
人間である霊夢でも十分相手ができるだろう。
「やれやれ、幻想郷にはろくな奴がいないな。みんな自分勝手だ」
「ええ、その通りだと私も思います」
あたいのぼやきに対する返答は、確かに背後から聞こえた。
聞きなれた声、というわけではないが、ちょっと前に聞いたばかりの声だ。
あまり会いたい人物ではなかった。
「ろくじゃない奴、の一人はあなたなのです」
背後の妖怪は語り続ける。
前方で戦いを始めた霊夢達は気付いていないらしい。
あいさつくらいはした方がよさそうだ。
「あたいたちは運命の赤い糸がついているみたいですね。お久しぶりです」
「お久しぶりです。小野塚さん。諏訪子さんを殺したのはあなただったのですね」
「さすがさとり、なんでもお見通しですか。あたいもこまっちゃいますね」
能力に制限が付いているはずなのに、もう心を読まれている。
やりにくいったらありゃしない。
まあ、こうゆう負の感情もまた、読まれているのかもしれない。
できる限り平静を装っているものの、今はさとりの相手をしていたい気分ではない。
むしろ今は絡まれたくなかった。
今まで自分がしてきたことを目の前の上司にばらされることは好ましくない。
あたいのやったことに四季映姫様が怒りを持ったといって、あたいのやることは変わらない。
むしろ、四季映姫様ならばあたいのやっていることを理解して下さるかもしれない。
でも、あたいにだって心、不安な気持ちくらいは残っている。
その心を突くのが、さとりの本髄なのだろうが・・・。
振り返ると、前に会った時よりも紅く染まった、古明地さとりの姿があった。
あの時いた人間、東風谷早苗をふくめ、護衛に着けた者は姿がない。
「今は一時的に分かれて行動しています」
霊夢は遠くで武器を振り上げ、こちらに気づいていない。
四季様はいつの間にか姿を消していた。
目の前のさとりは霊夢に、あたいに対して鋭い眼をくれる。
「あなたたちも、もうやめたらどうですか?こんなこと」
「それを決めるのはあたいじゃない。運命と正義だよ」
武器を構えたあたいに対して、その眼が悲しそうにゆがんだ。
「想起『うろおぼえの十王裁判』」
目の前に弾幕が広がる。
どこかで見たような弾幕。
あまりに近くで放たれた弾幕に、あたいは能力を使って一気に距離をとった。
「おいおい、これは反則だろう」
距離を開けても弾幕に隙間はない。
とっさに近くの畑に飛び込む。
その上をすさまじい速さで弾幕の第一波が通り過ぎた。
弾は奥の納屋に当たって、軽い音を立てる。
しかし、次の波が来る気配はない。
顔を上げると、第二波が来るようすもない。ついでにさとりの姿もない。
「牽制か。引っ掛かるなんてあたいもまだまだかね」
古明地さとりは守るべき賢者の一人だ。
わざわざ追って殺すべきターゲットではない。
こちらの方針にも反発しているようで、わざわざ近くで護衛するのも間違いだろう。
もう霊夢の姿もない。
あたいは獲物を失って途方に暮れた。
倒れていた少女も銃とともに姿を消していた。
こんなんじゃ先が思いやられるねえ。まだ二十人近く生きているっていうのに。
ほとんど丸一日かけてやった有意義な仕事は片手で数えられる。
そのうちの一つも、さとりの単独行動であまり意味をなしていない。
初めは幻想郷にとって最善を尽くしてさえいればよいと思っていたが・・・
いったいどのように動けば最善だったのだろうか。
ただ、現実として重要人物として考える方々は皆、生きながらえている。
これがあたいの貫いた「幻想郷のための」正義のおかげだと少しうれしいのだが。
霊夢はまだ帰らないのかねえ。
人気のない人里に一人たたずみ、小野塚小町は欠伸をした。
【D-4 人里のはずれ 一日目・夜】
【小野塚小町】
[状態]万全
[装備]トンプソンM1A1改(47/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×5、
銃器カスタムセット
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1. 霊夢はまだ終わらないのか?
2.生き残るべきでない人妖を排除する
3.霊夢と共に行動。重要度は高いが、絶対守るべき存在でもない
ここまで来たらさすがに大丈夫だろう。
伊吹萃香は振り返って博麗霊夢が追いかけてきていることを確認して立ち止まった。
「鬼ごっこはもう終わりよ」
後ろで霊夢が鋭く叫んだ。
走り続けること数分。
萃香は妹紅から霊夢を遠ざけることには成功した。
死神の方も誰かと戦闘を始めたらしく、妹紅に手を出す余裕はなさそうだ。
閻魔が何かしない限り、彼女の安全だけは守られることになる。
萃香はこの陽動でかなり体力を使ってしまった。
が、今の状況では飛び道具を持った死神のそばで戦うよりは勝率はありそうだ。
彼女は鬼。そのようなことを気にするようなことは、滅多にないのだが・・・。
火かき棒を握り直し向き合う。
霊夢は何に動じるでもなく、黙ってそれに相対する。
鬼と巫女が相まみえる。
【D-4 人里のはずれ 一日目・夜】
【博麗霊夢】
[状態]万全
[装備]果物ナイフ、ナズーリンペンデュラム、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障)
不明アイテム(1~4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.萃香を殺す
2.とにかく異変を解決する
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない
※さとりの姿は見ていません
【
伊吹 萃香】
[状態]疲労(小)、銃創(止血)、胸にごく浅い切り傷、血液不足、妖力15%(あと6時間程度で全快)
[装備]歪んだ火掻き棒、静葉の服
[道具]なし
[基本行動方針]命ある限り戦う。意味の無い殺し合いはしない。
[思考・状況]
1.目の前の霊夢に対応する
2.気絶している妹紅はどうなっているか心配
3.妹紅と紅魔館に向かう。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す。
4.てゐを探し出し、他の参加者への脅威を排除したい。
5.酒を探したい。
※密の能力の使いすぎで力を使い果たしました。銃創は塞がっているので、命の危険はありません。
※美鈴の気功による自然治癒力の上昇も、その効果が切れました。
※永琳が死ねば全員が死ぬと思っています。
※レティと情報交換をしました。
頭が痛い。
撃たれたのだろうか?
でも、痛いということはまだ死んではいないらしい。
私、藤原妹紅はまだ生きている。
この痛みは頭に穴が空いた痛みではない。
これでも死ぬことには慣れている。
輝夜との戦闘中に頭が吹き飛んだのは何回、いや何百回あっただろうか。
スペルカード1枚ごとに死んでいる経験が、これは致命傷ではないと告げていた。
おそらく私は頭でも打ったのだろう。
黙って、眼を開ける。
眼が覚めたらそこは普段の竹林、今までのことは全部夢。
そのような妄想に、うっすらと期待している自分に自分が驚く。
だが、そんなことは起きないと、私は理解していた。
本当に今日一日が夢だったらよかったのだが。
誰かが私をつついている。
「妹紅さん、起きましたか」
視界をウェルロッドの銃口が埋め尽くしていた。
思わず火を練成した私を見て、目の前の閻魔は困惑した表情を浮かべた。
そして銃を私へと差し出す。
想像と違う行動に、私は思わず毒気を抜かれてしまった。
「あなたが何をしたいのか分からない」
再び我が手に戻ってきたウェルロッドを構えながら、閻魔に告げる。
「私はただ人を諭したいだけですよ」
「諭す?」
「ええ。殺すことは善であると、ね」
こいつは危険なのか、危険でないのか。
私には判断できない。
「あんたは殺さないのか?」
「何を言っているのですか?」
私の疑問に、閻魔は笑って答えた。
「私は説く。それが私の仕事だから。貴女は善行をお積みなさい。成仏できますよ」
閻魔の黒い目がこちらを見つめる。
「貴女も人殺しでしょう。あなたも長く生きてきたのでしょう」
「それは、別だ。人を殺していい理由にはならない」
「わたしには貴女がここでしてきたことが手に取るようにわかる」
「お前に何が分かる」
閻魔の吐く言葉は毒。吸いすぎると死んでしまう。
何かが、きっと。
「目の前の命を救うことも殺すこともできずに傍観していた」
「・・・」
「貴女に何ができましたか?貴女は他人に殺すことをまかせて怠けていただけ」
「怠けてなんかいない。私は」
「人が死ぬのを防げましたか?その顔ではそんなことはできていないみたいですね」
「これから救う」
少し、自分が押されていることに気付いた。
「古い常識論を説いたところで、貴女はすべてを失うだけです」
「じゃあ人を殺せと、それこそ無茶苦茶だ」
「ではどうするのです。さとりの妹はなぜ殺したのですか」
「殺すしかなかったからだ。できれば殺したくはなかったよ」
閻魔が少し笑った。勝利の笑み。
「殺さなくても済むなんてことはありません。殺さなければ殺されますよ」
「私は死を恐れない」
「そうですか」
閻魔の視線は私の手元に注がれている。
ウェルロッドはまっすぐ閻魔の頭に向けられている。
「貴女がそう思っているなら構いませんよ」
それだけ言うと、つい、と後ろを向いて歩きだした。
閻魔の白い肌はそのまま黒い闇へと消えていく。
遠くまで行くと、幽霊のように揺れ、人影は消えた。
寒さが肌をひどく突きさす。
普段は平穏な夜の人里には、不穏な戦闘の音が鳴り響いている。
私は武器を握りしめ、閻魔と反対の方向に走り出した。
拳銃には弾丸が込められている。
何のために弾は込められているのか、私にはわからない。
閻魔の言うことを聞く気はない。
しかし、いざとなったら私は引き金を引いてしまうだろう。
私は長く生きている。
殺さなければ、いや、殺してもなお善人になれない者さえ、何人も見てきている。
とはいえ、この幻想郷には根っからの悪人は少ないと知っている。
殺さなければいけない者など基本的にいないのだ。
だがそれこそ幻想。死者は増え続け、殺しに走る者も増え続けている。
博麗の巫女までもが殺しを続けている今、普段の幻想郷はもうないのだろう。
確かに、閻魔の言う通り、ここでは今までの常識は通用しない。
殺しを厭う理由は存在しない。
私はここで、「その場に応じた」正義を行使するしかない。
過去の自分から見れば、とんでもない決断もしなければいけないのかもしれない。
だが、それで皆が救われるなら、それが正しい行動なのだ。
閻魔様の言うことは完全に間違っていたのだろうか?
幻想郷の夜はとても寒かった。
【D-4 人里のはずれ 一日目・夜】
【四季映姫・ヤマザナドゥ】
[状態]脇腹に銃創(出血) 、精神疲労(中)、肉体疲労(中)
[装備]携帯電話
[道具]支給品一式
[思考・状況]基本方針:参加者に幻想郷の法を説いて回る
1.自分が死ぬこともまた否定はしない
2.これは増えすぎた妖怪を減らす儀式なのでは?
3.自分は必要な存在なので死ぬことはないはず
※帽子を紛失しました。帽子はD-3に放置してあります。
【
藤原 妹紅】
[状態]腕に切り傷、妖力小程度消費(あと1時間程度で全快)、頭に軽いけが
[装備]ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲、光学迷彩
[基本行動方針]ゲームの破壊、及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
[思考・状況]
1. どこかで戦っている誰かを守りたい。
2.閻魔の論理は気に入らないが、誰かや自分の身を守るには殺しも厭わない。
3.萃香と紅魔館に向かい、にとり達と合流する。
4.てゐを探し出して目を覚まさせたい。
5.輝夜が操り人形? 本当だろうか……?
※以前のてゐとの会話から、永琳が主催者である可能性を疑い始めています。
※近くの戦闘音に向かって走っています。誰と誰の戦闘かは他の書き手にまかせます。
夜風が身を凍えさせる。
古明地さとりは箒にしがみつき滑走していた。
先ほどの戦闘。
乱入してみたのは良かったが、本当にそれでよかったのか自信はない。
ただ、博麗霊夢と小野塚小町が危険人物だと知っていた。
それが割り込んだ理由だ。
これ以上目の前で人が死ぬのを見たくなかった。
とはいえ、我ながら急きすぎた行動だったと反省する。
危険人物らと相対しているから、危険でない人物とは限らない。
鬼はこのようなゲームには乗らなそうに思えるが、もう一人の少女は分からない。
閻魔は・・・先ほどの
ルーミアとの会話を考えると黒に近い気がしてしまう。
結局死神とも戦うだけ戦って、情報の交換はできなかった。
もっとも、心を読んで、彼女と博麗の巫女との関係は理解できたのだが。
箒は一直線に大通りを突き進む。
目の前からは、血のにおいと強い妖気が立ち込めている。
強い妖怪が出す独特のにおい。
さとりはそれが鬼の妖気ではないかと踏んでいた。
伊吹萃香は巫女と戦っているはずだ。
地上の妖怪の賢者からは近づくなと警告されていたが、会ってしまったものは仕方がない。
倒すか、説得して、八雲紫さえ分からなかった理由を「読む」。
そうすれば何かが分かるかもしれない。
それは皆を生きて返す鍵になるかもしれない。
生きているすべての人妖を助ける。
それが彼女の正義だった。
それは本当に此処での正義なのだろうか?
【D-4 人里のはずれ 一日目・夜】
【古明地さとり】
[状態]:健康 、動揺
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.できるなら小町や霊夢の行動を止めたい
2.こいしと燐の死体の探索。空の探索と保護
3.西行寺幽々子、八意永琳の探索
4.こいしと燐を殺した者を見つけたら・・・
5.ルーミアを……どうするのが最善だった?
6.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
[備考]
※ルールをあまりよく聞いていません(早苗や慧音達からの又聞きです)
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※主催者(=声の男)に恐怖を覚えています
※八雲紫と情報交換をしました
※閻魔を警戒
※明け方までに博麗神社へ向かう
※小町の心を読みました
※向かった先にだれがいるのかは、後の書き手にお任せします
最終更新:2011年05月31日 21:18