ベツレヘムの星

ベツレヘムの星 ◆Yke3utbQug




目の前に一人の少女がいる。
私は彼女を殺すつもりだった。
そのために掲げた銃は、彼女を捕らえられない。
手も足も、全身が打ち震え、彼女に銃を向けるのを拒む。


直視することさえできない神々しさをまとって彼女が近づいてきた時、
私は自らの命を守る気力さえ消え失せた。






「殺し合いをしてもらいます」


永遠亭の主の懐刀といっても良い実力者、八意永琳の一言を聞いてから
既に10分(実の所途中記憶が明瞭でない所があり釈然としないのだが)経っただろうか。
一人の半妖、上白沢 慧音は森の中を歩いていた。
手には先ほどスキマの中から取り出した一本の短刀。
白楼剣と呼ばれるそれは、過去彼女自身が戦った相手の獲物の一つだが、今はこの通り彼女の手の中にある。
地図によればここはF-4、魔法の森の中。
必ずしも広くはないそのエリアには、拠点として使用可能な建物が三つ存在する。
一つ、香霖堂。二つ、マーガトロイド邸。そして三つ目が彼女の向かう先、魔理沙邸。
既にそれは視界に現れ、彼女の足を速めさせる。


「…失礼します」


思っていたよりも若干小さい建物の中に入ってみると、先客がいたらしく部屋の外に雑多な物が積まれている。
近づいて一見するとそれはバリケードのように見えなくも無いが、強そうでもない。
例えばそう、こんな風に一押しすれば、


グラリ


…一押し、すれば…
このように崩れ落ちるだろう。と、言うより現に崩れ落ちた。
しばし呆然と佇む慧音の耳に異質な音が流れ込む。
それは…誰かが咳き込む声。


「だ、大丈夫…じゃぁ、無さ、そうだが・・」


慌てて慧音が近寄ったそこには、舞い上がった埃と雑多なわけの分からないものと、
苦しそうに咳き込む一人の少女がいた。

慧音が一人の少女と遭遇した少し東、G-4、博霊神社。
因幡 てゐはここで出会った一人の参加者、東風谷 早苗の話を半ばうんざりしながら聞いていた。
始めは情報交換のつもりだったのだがお互いこの場所で会った参加者は互いが始めて。
支給品の情報(無論武器は隠し通した、スキマはこういう時便利だ)以外は有益な情報は無く、
無理に知り合いの話を聞こうとした結果いつのまにか
「どうやってみんなで生きて帰るか」という講談が始まった。


(何ていってるんだろう…)
なにぶん話が長い上に全く興味が持てない。
別に早苗の話し方が悪いのではない。てゐが優勝することしか考えていないためである。


いや、それでは正確ではない。
彼女の脳内で導き出された結論はこうだ。
まず、何をどうやっても不死者が死ぬことは有り得ない。
故に「参加者」として数えられている輝夜、なぜか名簿に名前が載った「主催者」永琳は実際には参加者ではない。
この場所では通常の参加者のごとく行動するであろうが、唯の参加者がこの二人にかかっていって起きる事態は一つだけ。
返り討ちである。
故にこの殺し合いは、輝夜、永琳、もう一人の不死者(妹紅とか言う名前だった)と「優勝者」、計四人が生存することになる。
ならば状況は簡単。
早いうちに二人のどちらかと会い、その庇護を得るだけでよい。
優曇華のことが一瞬頭に浮かんだが、主催者が永琳なら「彼女には」優遇があるのかもしれない。
だからこそそれを持たない自分は、「自力で」生き延びる。
最悪逃げ切ることさえできれば生還は叶う。一刻も早く逃げ出したいのである。


現実にはそれは叶わず、いまだ聞いてもいない話に相槌を打つばかりだが。









「この殺し合いから抜け出す…手伝いをしてほしいと?」
「あぁ。そういうことになる」


場所は魔理沙邸前。慧音と先ほどの咳き込んだ少女…パチュリー・ノーレッジは語り合っていた。
呼吸器の強くないパチュリーを抱え家から出てきてしばらく。
ようやっと落ち着いたパチュリーに向けて慧音はある提案を持ちかけた。
殺し合いからの脱出経路を探す、という提案である。


「私に得なことがある?危険しかないんだったら…出直してきてくれるかしら」
「生憎優勝を狙うより遥かに得だと思う。もっと言うなら、優勝狙いでは生き残れないと思っている。」


慧音は優勝は端から狙えないと諦めていた。
理由は参加者の中にあった三人の不死者。
不死者が三人もいるとなると、「一人以外皆殺しにして優勝」は絶対に不可能なのは自明の理。
優勝が不可能なら戦えども戦えども死から逃れることは出来ない。順当に戦うならば。


「従えば犬死には免れない。従えないなら抗ってみるのも悪くはないと思うが」
「抗って勝てる見込みはあるの?」
「今のところは分からないが…」


慧音はスキマから一つの箱を取り出す。その中には何かの道具が整頓されて詰められていた。


「少なくとも、殺し合わせる側は、私たちに抗う権利をくれるらしい。…妙な話だが。」


その箱は明らかに、工具箱であった。











話をまるで聞かずに今後の計画等を一人でつらつらと考えていると、目の前に早苗がいないことに気がついた。
傍にはスキマが二つあったため近くにいることは分かったが、
ふと思い立ち中を覗くと、てゐが一番気にしていた支給品を彼女が持っていったことに気がついた。

「制限解除装置」。
説明書の但し書きが正確ならば、「参加者一人の首輪による制限を10分間無効化する」という無骨な金属の塊。
1度使うと24時間使用不能になるが、本来の実力を短い時間にせよ発揮できるのは非常に魅力的だった。
しかし…それは早苗が持ち去った。
出来れば自身の手で持っておきたいと思ったそれを最初「考えがあるから」と言う彼女に返したのを思い出す。
考えとは何だ、と思う間もなく鳥居の前に彼女を見つけ、


そして彼女の考えを知る事となる。
…最もてゐにとってその考えとは、決して支持出来ないものであったのだが。












「体調はどうだ?」
「だいぶ楽にはなったけど…調子がいいとは言えないわね」
「全力で戦わせたいなら万全の体調の時に連れてきてくれればいいものを…
 わざと弱らせて何を考えているんだ」
「…あなたも調子が悪いの?」
「どうも頭痛がするんだ。ひょっとすると永琳の言っていた『全力を出せないようにする措置』なのかもしれない。
 それともう一つ気になるんだが…今日の月は満月だったか?」
「いやに赤いけれど満月なのは確かよ。でも…不自然ね」
「あぁ、日にちに合わない。それに『ねぇ、あれ…なにかしら』うん?」


二人が見上げた空には怪しく赤く光る満月と…


月をも凌ぐ光を放つ、一つの星。







早苗は自身の制限を解き、空に星を映し出した。
星の輝きは神社の上で神々しく瞬き、彼女がその場所にいることを空に印した。
しかしそれは、てゐにとっては芳しくない事態であった。
恐らく彼女は自身の力の証を出すことで自身の知人に場所を伝え、合流を図ろうとしたのだろう。
だがしかし、それはあまりにも分の悪い賭け。
仲間が空を何らかの理由により見上げてやってきて、自分たちの代わりに戦ってくれるならてゐも拒絶はしない。
問題はそれがあまりにも望み薄なこと。
仲間の誰も星を見つけられなかったら?やってこようとして殺されてしまったら?
私は魔力の尽きた早苗と二人で永遠に来ない仲間を待ちつづけねばならないではないか!
その間にやって来る「仲間じゃない者」を全員私一人で対処しろというのか?


ふとてゐはスキマの中に隠しておいた自身の支給品を思い出す。
それは「トンプソン M1A1」という名前らしい一丁の銃。
優曇華が使っている銃に比べて大きすぎると思って説明書を読んでみたら、
先のルール説明で使われていた「拳銃」のような弾を何十発と撃ち込めるようになっているらしいと分かった。
幸先がいいととって置いたこれをスキマからゆっくりと引っ張り出す。


早苗を殺してしまおう。


今のところまだ仲間が来る気配はない。ならばここで殺してしまって、さっさと逃げるのが得策ではないか?
いつ来るか分からない彼女の仲間を待つよりは、ここで彼女を殺して支給品を奪い取り、全力で逃げるほうがまだ見込みがある。
そうだ、殺してしまおう。解除装置はしばらく使い物にならないだろうがしかたがない。
後ろから近づいて・・・銃口を向ければ・・・



彼女が不意に、振り向いた。







「向かうのはいいけれど…呼んでいるのが『殺して廻る側』だったらどうするの?」
「おそらくその可能性は薄いだろう。仮にそうだとしてあの方法では妖力を消費しすぎる。
 集まった者を即刻殺すつもりなら、もっと別な方法を探ったほうがよい。
 武器があるにしろないにしろ、妖力の有無が重要なことに変わりはないだろうしな」
「集まる側はどうかしら?」
「おそらくむこうで星を出した者たちもそれは考えていたはずだ。
 『星の光』なら空を見上げなければ気付くことはない。そして、殺す相手を探すのに空を見るのは無駄だと大抵の者が考えているだろう。
 現に我々は飛べなくなっている訳だしな」


二人は仲間を求める星の光に導かれ、先ほどまで歩いてきた。
少し前に星の光は掻き消えたが、尚二人はその輝きのあった場所へと進む。


「ところで、あの家で積んであったあれは?」
「…散らかってたから片付けたのよ。ご存知の通り体はあまり強くないから。
 あんなに埃が立つとは思わなかったけど」
「その、なんだ、…済まない」




私は慧音の話を完全に信じるつもりはない。


慧音が突然脱出を持ちかけた時、私が気にしたのは「首輪が爆発しないか」ということだった。
永琳…というらしいあの女はルール説明の時あの死んだ少女の動きをずっと映し出していた。
あれを私たち全員に行っていたとしてもおかしくはない。
そして首輪の爆弾は逃げようとするものを容赦なく爆破する。
だとすれば首輪を外して逃げようとするものは当然、外れる前に爆破されると考えていい。
…だが慧音の首も私の首も木っ端微塵になることはなく、現にこうして語り合っている。
考えられるのは二つ、「外れるはずがないと高をくくっている」か「外そうとするのを待っている」か。
わざわざ外す為の工具箱を渡しておいて、前者はありえないだろう。
…と、なればやっぱり…


「どうかしたかパチュリー、急に黙り込んで」
「…なんでもないわ」



慧音とパチュリー。
二人の聡明な少女が、ゆっくりとこの異変の渦中に飲まれていく。


【一日目 黎明】

【F-4 魔理沙邸東】

【東方の二賢者】
 基本行動方針:この殺し合いから脱出できないか模索する


【上白沢 慧音】
 基本行動方針:優勝は望み薄なので脱出を狙う
 [状態]:軽い頭痛 人間状態
 [装備]:白楼剣
 [道具]:基本支給品 にとりの工具箱 +α?
 [思考・状況]
  一:「星」を放った者に会いに神社に行く
  二:パチュリーとともに行動
  三:工具箱の持ち主に会えると良いのだが…
  四:可能なら妹紅に会いたい

 ※ハクタク化はおそらくなんらかの制限がかかっていると思われます。
 ※参加者に含まれる不死者3人が不死のままだと信じています。
 ※魔法の森の瘴気により体調に影響が出ているようです。
  本人は「制限」のせいではないかと考えています。


【パチュリー・ノーレッジ】
 基本行動方針:逆らっても得がないので脱出に協力してみる、が…
 [状態]:喘息の調子は一応落ち着いてる 後は良好
 [装備]:特に無し
 [道具]:基本支給品 ランダム支給品×?
 [思考・状況]
  一:慧音について神社へ向かう
  二:可能なら紅魔館の者達の消息が知りたい
  三:…最悪優勝狙いも考慮する

 ※喘息の発作を一度起こしました。現在は治まっています。
 ※慧音により、不死者である三人は殺せないと吹き込まれました。
 ※何らかの形により永琳に監視されていると考えています。
  まだ慧音にこのことは話していません。


 ※魔理沙邸の一室に物が散乱しています。
  どのような物があったのかは確認されていません。







ふと後ろに気配を感じ振り返ると、そこにいたのはてゐさんでした。
…銃を持っていたのは予想外でしたが。
「武器は持っていない」と言っていたのは嘘だと分かりショックでしたが、
撃たれたくはないので念のため持っておいたスペルカードで迎え撃とうとした途端、
彼女は崩れ落ちてしまいました。
その目はあきらかに私を恐れていました。
…どういうことでしょう?


振り向いた彼女と目が合ったとたん、その視線に凍りついた。
彼女がスペルカードを掲げるのが見える。
手が震え、銃口が彼女を捕らえられない。
足がもつれ、その場にひざまずく。
彼女の無垢な瞳が私を捉える。
枷をはめられた一匹の兎でしかないこの自分を、圧倒的な霊力が押しつぶす。
やめて、見ないで、それ以上近づかないで・・・



制限の外れた「現人神」の力を全身で感じたてゐは最早こみ上げる恐れ…いや畏れと言うべきか…に抗うことが出来ない。

てゐに降りかかる神の力が消えるまで、後、8分。


【ラッキーガールズ】
 基本行動方針:決裂中


【因幡 てゐ】
 基本行動方針:優勝し、生き残る
 [状態]:「現人神」への畏れ
 [装備]:トンプソンM1A1(弾数不明)
 [道具]:基本支給品 トンプソンM1A1用弾倉(個数不明) 
     ランダム支給品×?
 [思考・状況]
  一:早苗こわいこわいこわい
  (二:永琳か輝夜の庇護を得たい)

 ※不死者は不死のままであると考えています。
  またこれにより、3人の不死者は「偽の参加者」だと考えています。
 ※早苗と情報交換を行いました。
  彼女の仲間の情報、支給品の情報は把握済みです。


【東風谷 早苗】
 基本行動方針:皆揃って生きて帰る
 [状態]:現人神(制限解除) 若干のショック
[装備]:制限解除装置(使用中・残り8分)
 [道具]:基本支給品 ランダム支給品×?
 [思考・状況]
  一:どうしたんでしょう…
  二:てゐさんは…初めから裏切るつもりだったのでしょうか…

 ※てゐと情報交換を行いましたが、武器に関しての情報は隠されました。
  目の前のトンプソン以外にてゐに武器があるかどうかは全く分かりません。


 ※制限解除装置に関して
  ・一度使うと10分間首輪による制限を解除する。
  ・10分経過した場合、以後24時間使用不能
  ・同時に二人以上が使用することは出来ない
  ・使用中に対象の者が死亡した場合、その時点で効果を無くし、以後24時間使用不能
  ・首輪を無効化する能力への制限、及び不死に対しての制限は解除されない。
  ・「制限」以外の首輪の各機能には影響しない。(爆弾・位置捕捉・盗聴機能は正常通り)


 ※博霊神社上空に明るい星が瞬きました。
  東に空が見えれば視認出来たでしょうが、音がないので空を見ていなければ気付かない可能性があります。


24:ホワイトアウトな奥遠和の監視網 時系列順 05:少女団結
03:19年前の歌声の日 投下順 05:少女団結
上白沢慧音 20:奇跡のダークサイド
パチュリー・ノーレッジ 20:奇跡のダークサイド
因幡てゐ 20:奇跡のダークサイド
東風谷 早苗 20:奇跡のダークサイド


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最終更新:2010年03月22日 12:29
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