人を探して、三千歩 ◆TDCMnlpzcc
リリカ・プリズムリバーは、神社の境内でため息をついた。
予想に反して人気のない神社、ここには目的の人物はいそうにない。
レミリアは自分の館に戻ってきたから、他の人たちも家にいるかと思っていたけれど・・・
どうやら皆、わざわざ家に戻るようなことはしていないらしい。
つまりこれで完全に当ては外れてしまったわけで、リリカは今後の振る舞いに困っていた。
博麗霊夢、霧雨魔理沙、西行寺幽々子の三人の誰かはすぐに見つかる、
そう思っていたのだが、期待通りにはいかなかった。
「誰か、いないよね」
声を掛けてみるも返事はない。
辺りに人気がないのを確認すると、彼女は神社の中へと入って行った。
―――時は遡り、霧雨魔法店へと場所を移す
放送直後 リリカ・プリズムリバー
放送は終わり、幾人もの死者が出たことが告げられた。
中にはリリカ自身会ったことのある知り合いもいた。
しかし、この放送は、リリカにとって大きな意味を持たなかった。
彼女の肉親はもういない。
もう肉親が、メルラン姉さん、ルナサ姉さんが呼ばれることはない。
家族の死が告げられる不安はない。
そのため、他の参加者と違い、彼女は放送を慎重に聞くことができた。
放送の感想は特にない。
ただ、レミリア達がまだ生きていて、
探し人である三人もまた、生きているであろうことが分かっただけである。
放送の内容を頭に叩きこみ、リリカは改めて辺りを見渡す。
部屋一面に散らばったがらくた、ごみ、マジックアイテムらしきもの。
幽霊屋敷かと見間違える程の惨状に眉をひそめ、人の痕跡がないことを確認する。
ここには霧雨魔理沙はいなそうだ。
そればかりか、殺し合いが始まってから、立ち寄ったことさえないかもしれない。
「当てが外れたなあ、どうしようか」
このまま人の多そうな人里に向かうか、
博麗霊夢に会えることを期待して、神社へ向かうか、
普段なら姉さん達が決めてくれるのよね・・・
そして私は隙を窺って、良いとこだけを全部さらってゆけばよい。
それがプリズムリバー三姉妹の常。
今は私一人しかいない。
私一人で決めなくてはならない。
これからもずっと。
行き先は純粋に距離で決める。
それが良いだろう。あまり感情にとらわれずに冷静に判断できる。
距離だけで考えれば近いのは博麗神社だ。
人里は、神社を訪れた後で良いだろう。
霊夢さんならこんな最中でも、のんびりお茶とか飲んでいそうだな。
ふと、のんびりお茶を飲んでいる巫女の姿が目に浮かぶ。
彼女なら、何が起ころうとも動じず、冷静に行動してくれる気がする。
レミリアと渡り合うにも十分な実力を持っている。
彼女が血まみれの姿で、実の姉を殺したそのままで、
紅茶を楽しんでいたことをリリカが知る由もない。
早くレミリア達をどうにかして、殺し合いからも脱出したい。
その一心でリリカは動いている。
荷物を大急ぎでまとめ、リリカは霧雨魔法店を後にした。
―――時は再び、冒頭へと戻る
博麗神社にて リリカ・プリズムリバー
「入りますよ~」
人はいない。
ただ、縁側には冷めたまま据え置かれているお茶が二杯。
とりあえず人妖が、それもある程度の信頼関係があるグループが、
ここに立ち寄っていたらしい。
ただし、今はいない。
冷めたお茶は、壊れた日常の象徴のようで、
世界が変わってしまったことを訴えかけてくる。
飲んでいた人たちは、さほど口も付けずにどこかへ行ってしまったらしい。
台所では、三本あったであろう包丁が一本欠けていた。
残る一本は誰かが持っていったのだろう。
なぜ三本の内一本だけ持っていったのだろうか。
一方の境内には乾いた血の痕が残っており、
なぜか冥界の人魂灯が賽銭箱の前に置いてある。
ここで戦闘があったようだが、さっきのお茶や包丁と関係があるかは、分からない。
神社の石段のすぐそばには、人里の半妖の死体が転がっていた。
その壊れようは、山の上の神様の死に様よりすさまじく、吐き気を催させた。
一体どんな武器を使ったのだろうか、破壊は周囲の木にも及んでいた。
誰もいない
誰もいない神社
ただし、ここで何かがあったことだけは確か
仲間割れか、事故か、襲撃か、急な用事か。
石段のわきで見た、無残な死体が関係あるのかもしれない。
なにやら気味が悪く、リリカはここを早々に立ち去ることにした。
紅魔館で起きたようなことがここでも起きたのか。
彼女は紅魔館で起きたことを忘れたかった。
あそこで起きた恐怖、事故、裏切り、虐殺。
それは右手の傷のように、リリカの心に刻みつけられている。
リリカはここから逃げ出したいと思った。
誰かが来ることを考えて書置きだけは残して、目的地も考えずに石段を降りる。
石段を降りて、しばらく歩くと、例の死体へとたどり着いた。
ボロボロになったスキマ袋を漁って、もはや何もないことを知り、残念に思う。
リリカには武器も足りなかった。
とりあえず神社で手に入れた包丁一本が左手に握られてはいる。
だが、十六夜咲夜に取られたナイフ型拳銃や、
閻魔の持っていた機関銃のような強い支給品は持っていない。
レミリアと争うには、それだけでなく身を守るにも、包丁と護符だけでは頼りない。
「強い武器も欲しいわよね」
リリカは呟き、人里へ向けて歩き始めた。
【G‐4 博麗神社周辺・一日目 夜】
【リリカ・プリズムリバー】
[状態]腹部に刺傷(大よそ完治)、右手人差し指切断(止血処置済)
[装備]霊撃札(24枚) 、包丁
[道具]支給品一式、オレンジのバトン、蓬莱人形
[思考・状況]生き延びて姉達の遺言を果たす
[行動方針]
1.人里の方へ向かってみて、魔理沙、幽々子、霊夢の順に頼る。
2.仲間を集めて紅魔館に戻り、脱出の障害になり得るレミリアたちを打倒する。
3.できれば強い武器も揃えたい。
4.出来るならば姉達とヤマメを弔いたい。
5.映姫とはなるべく顔を合わせたくない。
※博麗神社に書置きが残されています。内容、置き場所は後の書き手にお任せします。
※神社に三本あった包丁の内、一本が残っています。
最終更新:2010年12月20日 23:51