強化プラスチックの悪魔

強化プラスチックの悪魔 ◆27ZYfcW1SM





木の根が今にも飲み込まんとしようとしている苔が生えかけた石の上に腰掛けた。

「はぁ……面倒な」
愚痴ならいくらでも吐くことが出来る。しかし、愚痴を聞く相手もいないし、何より、言った所で何かが変わるわけでもない。
だから、一言だけ声に出して言う。

「なんで僕まで……」

そういいながら頭を2,3回掻いた。


森近霖之助

このゲームの只一人の男性がここにいた。
彼は遊戯に呼ばれたものの中では特別に異色を放つ人物だろう。なぜなら、紅い霧異変、遅れる春異変、永夜ノ異変、花ノ、山ノ、地底ノ……すべてに関して中立もとい、誰も異変の関係者と接触していない。

すべての関係者の中心である博麗の巫女、博麗霊夢と、おまけの霧雨魔理沙はしょっちゅう会うが、町の酒店のほうが僕よりよっぽど会っているだろう。三度のガラクタより一杯の酒だ。一杯じゃなくて一樽かな?

関係者じゃないとすれば、幻想郷の強さかと考える。
八雲紫に風見幽香などなど、幻想郷の強い妖怪、人間を上から順に取っていけばこの集団になるのでは?

だとしたら買いかぶりすぎだ。弾幕もスペルカードも所持していない只の半妖の僕だ。人里で剣道に精通している人間のほうがよっぽど強い。もっとも、自分のことを考える前に稗田阿求が参加している時点でこの仮説は否定されていたのだが……





……そういえば、異変に巻き込まれるのは初めてかな?

ある意味では吸血鬼の異変とかで巻き込まれはしたが、異常気象と同じようなものだった。こんなんで巻き込まれた! とでも騒いでいたら、毎回解決に動いている巫女に鼻で笑われてしまう。

だが、今回は正真正銘巻き込まれていると断言できよう。
なぜなら……


「何かしようとするなら……殺しますわ」

なにやらちょっと変な丁寧語で話す女の子が、僕の後ろからごつっとした金属棒を向けているのだから。




僕は声も出さなかった。
殺される! とも震えもしなかった。

殺気が後ろから流れてくるが、僕の取った行動は只一つ。
一回のため息をつくことだけだった。

その態度が女の子にとって不満だったのだろう。少し、声を荒げて言った。
「聞こえてるの?」
「聞こえてるさ。で、僕をどうするのかな?」
「それは私が決めますわ」
「そうか、出来れば早くしてもらいたいものだね」

後ろからカチンって音がした。たぶん二回なったと思う。比喩と本当の音が1回づつ。




「こっちを向きなさい」
「動いていいのかい?」
「いいわよ」

何を怒っているのだろう? そんなことを頭の端っこで考えつつ振り向いた。首だけで。

「ああ、君だったのか」
「……私だったら態度でも変えるのかしら?」
「そんなことするわけないだろう」

居たのは隙間妖怪八雲紫。にこやかに笑いつつ、その笑顔には青筋が入っている。

知ったことではない。

さて、状況は芳しくないな。なにせ僕はこの紫が苦手なのだ。
以前、ストーブの燃料をもらったことがあったが、そのとき突然現れるわ、いつの間にか燃料を入れているわ……行動が奇妙奇天烈だった。里で大道芸でもやったら儲かりそうだ。内容は想像は出来ないが。

その紫は僕を殺そうとしているのか銃を持っている。種子島式火縄銃とは比べることも出来ないくらい精巧なつくりで、重量感と圧倒的な破壊力を持ってそうな銃だ。

種子島ですらこの距離では僕は死んでしまうだろうに、あんな銃で撃たれれば弱い妖怪なら一撃で死んでしまうだろう。もちろん僕も死んでしまうことも言っておく。

ここにきてやっと死に直面したと言えよう。下腹部がスーと高いところから落ちたように感覚が麻痺した。

「それで、僕に何か用があるのかい?」
「ええ、もちろんよ。殺し合いのゲームなんですもの。他者を殺してこそゲームの真髄ですわ」
「つまり、僕を殺すと」
「そういうことになりますわ」
「冗談じゃない」
「フフフ……どうするの?」
「足掻かせてもらうよ。君くらいの妖怪だったら抵抗するのも愚かなのかもしれないけどね」
「では、もし逃げられたらどうするつもり?」
「さぁ、どうだろう? 誰かが異変を解決するまで逃げ回るかな」
「そう……なら……」


ドカン! ――









「冗談よ」
「そのようだね」

花畑の方向から小さな爆音が聞こえてきた。
そんなことはさておき、紫は銃をおろした。一言ああ、疲れる。とつぶやいて。

「逃げ回るくらいなら私についてきなさい。悪くはしないわ」
「具体的にはどんな待遇だい?」
「……細かいわね」
「商人だから当然さ」
「まぁいいわ。そうね……
 戦闘になったら私が戦うわ。
 この銃をあげるわ。
 貴方は私の力になりなさい。
 私の言うことを信じなさい。
 ――で、どうかしら?」


「だめだ」

僕の一言に紫はきょとんとした。そして堰を切ったように「何で?」といった。




「『この異変が解決するまで』これを条件に入れないと」
紫はああ、なるほどといった感じで手を叩いた。
この条件を入れないと異変が終った後も僕は紫の下僕になってしまう。

「分かったわ。解決するまで絶対よ」
「よし、その提案を呑もうじゃないか」

こうして僕に紫という大妖怪がついた。いいのか悪いのか……



「約束どおり、この銃をあげるわ」
「上手に使えるかは分からないけどね」
「貴方の能力は未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力でしょ?」
「確かにね。だけど今は見ただけでは分からないんだ」

そのとおり、銃とは知っていても、なんて名前か分からない。ぼんやりと薄い膜がかかったようだ。

「集中すれば少しは見れるかもしれない。やってみるよ」

膜を破くように目をつぶって銃の存在を感じる。

「っ……はぁ……まるで100個のアイテムを見たみたいだ」
「それで分かったの? 私だって流石に銃だとくわしい知識はないわ」

取扱説明書というのも銃と一緒にもらったが、弾の入れ方とか発射方法とかしか書いてはいなかった。
どういう風に弾が飛び、どういう状況で有効的に使えるのかまで知る必要があるというのに……

しかし、僕の体力を消費して鑑定した結果。それらに繋がる知識を得ることが出来た。




「銃本体の正式名称はフランキ SPAS12、散弾を発射する程度の機能がみたいだ。
 そして、この弾にも種類があるみたいで、支給されたのはバードショットとバックショットの2種みたいだ。
 バードショットは小型の動物を狩る能力があるみたいだね。そしてバックショットは中型の動物や対人用に使われるみたいだ」

「なるほど……銃の扱いは貴方に一任するわ。弾の種類は貴方が決めていいわよ」
「そうさせてもらうさ……ところで紫」

「何? ……」

「この首輪……おかしいよ。僕の能力が通用しないんだ」

「解析は出来ないって事ね……だめね、使えないわこいつ」
そういいながら紫は僕の肩をとんとんと叩いた。


何かあるって事か……紫……


「もういいわ。行きましょう。こんな雨ざらしな場所では落ち着いて眠ることも出来ないわ」
「そうだね」

僕はバードショットとバックショットを交互につめた銃を持って立ち上がった。

「そういえば、君は殺し合いに乗っているのかい?」
「はぁ? なんで? 私が愛する幻想郷でこんなことをして……死ぬのは只一人、アイツだけで十分です」
「アイツ? 八意永琳かい?」
「フフ……フフフフフフ……」

紫は僕の問いに黒い笑いで返した。




【A‐7 一本の木のそば・一日目 深夜】
【森近霖之助】
[状態]ちょっとした疲れ
[装備]SPAS12 装弾数(7/7)バードショット・バックショットの順に交互に入れてある
[道具]支給品一式、不明アイテム(1~3)、バードショット(8発)、バックショット(9発)
[思考・状況]契約どおり、紫についていく

【八雲紫】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明アイテム(0~2)武器は無かったと思われる
[思考・状況]主催者をスキマ送りにする
[備考]主催者に何かを感じているようです。



03:19年前の歌声の日 時系列順 08:ほんの僅かな姉の思い
06:生命遊戯 Easy 投下順 08:ほんの僅かな姉の思い
森近霖之助 19:八雲立つ夜
八雲紫 19:八雲立つ夜


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最終更新:2009年03月21日 20:43
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