ほんの僅かな姉の思い

ほんの僅かな姉の思い ◆MajJuRU0cM





いきなり妙な場所に飛ばされ、レミリア・スカーレットは多少の憤りを感じていた。
こんなところにいたんじゃ紅茶も飲めないし、ケーキも食べれない。おまけに日光を防ぐ日傘もなし。毎日の娯楽と昼に歩きまわる術を奪われて、レミリアが何も思わないわけがなかった。

「…殺し合い、ねぇ」

はっきり言って趣味じゃない。それにあの宇宙人の思い通りに事を運ぶのも癪に障る。
(乗らない、というのが一番なんだろうけど…)
ふと考えるのは咲夜や霊夢のことだ。あの会場で見かけた知人達の中で一番気になる二人。
(パチェやフランは特に心配はないでしょうけど、なんたって人間だからねぇ)
親友と妹は相当の力の持ち主だ。そうそう死んだりすることはない。だが、それが人間という弱い種族にも当てはまるかというとそうではない。
死なせたくない、という気持ちがレミリアにはあった。死なれるより生きててもらった方が都合が良いし、話相手が減るのも何だか嫌だ。
この遊戯に乗る危険性は誰にでもある。もしあの二人を確実に生かそうと考えるのなら出会った奴らを片っ端から殺していくのもありといえばありだ。
(さて、どうしたものか…)
その時、レミリアは自身に支給品が配られていたことを思い出した。

「…ま、たいして興味はないけれど」

一応調べておくか。
そう思い、袋から取り出したもの。
それはあの会場でデモンストレーションされた物、魔力もなしに相当の威力を発揮する黒光りした拳銃だった。

「…………」

拳銃が支給された。言ってみればただそれだけのこと。だが、そんな些細なことがこの幼き吸血鬼のプライドに傷をつけた。

「…吸血鬼であるこのレミリア・スカーレットが、こんな物なしでは生きられないとでも言いたいわけね」

メキメキと音をたてて拳銃はひしゃげ、瞬く間に粉々に砕け散った。

「いいわ、宇宙人。そのふざけた面を二眼と見れないように変えてやる。不老不死というのなら極上の苦しみを味あわせてやる。この私を侮辱することがどういうことか、はっきりと教えてやる」

レミリアは立ち上がり、暗闇を歩く。
支給品がランダムに配られているということを知らず。
本当の主催者が八意永琳ではないということを知らず。
八意永琳が何も知らずこの遊戯に参加していることも知らず。
ただ、その幼き体に宿したプライドに従い、夜の女王はただ道を往く……ところで、ふと何か気配を感じた。

「…おい、隠れてないで出てきたらどうだ?」







レミリアの言に従い、少女が確かに出てきた。……茂みに体を隠し、顔だけをひょこっと覗かせて。

「…それは喧嘩を売ってるとみなしていいのかしら?」

少女はぶんぶんと首を振る。かわいらしいツインテールが顔を動かす度に弧を描いた。

「じゃあさっさと出てきなさい。失礼でしょ」

少女はしばらく、う~と唸って、またぶんぶんと首を振った。
さすがのレミリアも、機嫌を損ねる前にため息をついてしまった。

「変な妖怪ね。……私はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼よ。あなたも名前くらい名乗れるでしょ?」

そう言われ、しばらく黙っていたものの

「……キスメ」

それだけ答えた。







「あ~、何? つまりあなたは、この会場に来てからずっとそこに隠れていたわけ?」

こくりとキスメは頷いた。

「その理由が、誰かに自分の体を見られるのが恥ずかしかったから。そうなのね?」

キスメはまたも、こくりと頷いた。
レミリアは再度溜息をついた。
こんな内気な妖怪は初めて見た。このままここにいてもどうせ誰かに殺されるのがおちだろうに、おそらくそんなことも分からないのだろう。
このまま放っておく方がレミリアにとっては都合が良かった。連れて行ったところで足手まといにしかならないし、何よりそんなことをする理由がない。

「…とにかくそこを出なさい。あんたの言ってた…桶だっけ? 一緒に探してあげるから」

しかし、レミリアは吸血鬼。いつも我儘放題とはいえ、基本は紳士的な種族なのだ。
その言葉でキスメの顔に、ぱあっと明るい笑顔が咲き、こくこくと何度も頷いた。

(上下左右にと、よくも大仰に顔を動かすものね)

おどおどと茂みから出てくるキスメを見つめながらレミリアは思った。

「ほら、じゃあ行くわよ」
「……おんぶ」
「はぁ?」
「…おんぶ」
「…………」


結局、おんぶすることになった。



(何で私がこんなことを…)
三度目の溜息をついて、それでもなおキスメを放りださないのは、一度言ったことを蔑ろにするのは吸血鬼のプライドに反すると思ったからだ。

ザアアァァ

木の葉が風で擦れ、爽やかな音色が辺りを包んだ。
「あら、いい風ね。……って、痛たたたた!!!」
だがキスメはいい風だと感じず、むしろ誰か怖い人が現れたのではないかと思ったのだろう。無意識的にレミリアを頼ろうとして、髪を思いっきり引っ張ったのだ。
「イタ、痛いって! 風! ただの風だから!!」
それを聞いて、ようやくキスメはレミリアの髪を離した。
(こ、こいつ……! 本気で放っぽり出してやろうか…!!)
ヒクヒクと頬を歪ませるレミリアにまったく気づかないキスメは、安心したとでも言うかのようにレミリアに覆いかぶさった。
「っとと。…あんまり引っ付かないで。歩きにくいから」
「…ごめんなさい。レミお姉ちゃん」
「……レミお姉ちゃんって?」
「? レミお姉ちゃんはレミお姉ちゃん」
「……まぁ、いいけど」
姉。その言葉を聞いて、自身の妹であるフランドール・スカーレットを思い出した。狂気に歪んだ妹。495年間、ずっと閉じ込めていた妹。…彼女を、こんなふうにおぶってやったことなどあっただろうか?
(…私らしくないわね)
いらぬ妄想を振り払い、レミリアは小さな幼子を背負ってせっせと歩いた。
その様は、端から見れば姉妹のように映ったかもしれない。



「…あとキスメ。いくら失礼なことをしたといっても、あんまり簡単に謝っちゃ駄目よ。妖怪は威厳をもたないといけないの」
「いげん?」
「えっと……まぁ、堂々としてろってことよ。どんな時でも、何があってもね」
「…うん、わかった! いげんする!」
「……言葉の使い方が違うわよ」

【B-3 一日目・深夜】
【レミリア・スカーレット】
[状態]健康 多少の気疲れ
[装備]なし
[道具]支給品
[思考・状況]基本方針;永琳を痛めつける
1. 何してんだろ、私…
2. 永琳の言いなりになる気はない。
3. とりあえず…紅魔館にでも行こうかな
4. 霊夢と咲夜を見つけて保護する
5. フランを探して隔離する
6.上記の行動の妨げにならない程度に桶を探す
※名簿を確認していません

【キスメ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品 ランダムアイテム1~3個(確認していません)
[思考・状況]基本方針;桶を探す
1. レミお姉ちゃんに付いて行く
2. レミお姉ちゃんみたいにいげんする
3. レミお姉ちゃんはおんぶしてくれるから好き
※殺し合いが行われていることを理解していません



07:強化プラスチックの悪魔 時系列順 09:ブレインエイジア
07:強化プラスチックの悪魔 投下順 09:ブレインエイジア
レミリア・スカーレット 27:消えないこだま/Haunting Echoes
キスメ 27:消えないこだま/Haunting Echoes


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最終更新:2009年03月21日 00:51
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