プリンセス天子 -Illusion-

プリンセス天子 -Illusion- ◆30RBj585Is





「殺し合いをしてもらいます・・・か。
 まさか、こんなことになるとは思わなかったわ」
比那名居天子は暗い夜の山の中を歩きながら呟いた。その表情は、何が何だか訳が分からないと言いたげな感じだ。

彼女は天界に住む天人である。そして、以前に発生した地震および異常気象を起こした張本人でもある。
その動機はというと・・・
簡単に言えば、異変を起こしたかった。そして、それを解決する者と戦いたかった。ただそれだけ。
地震や異常気象から何かを得ようとしたわけではない。博麗神社を自分の住処として建て直そうとしたことはあったが、あれはもののついでの事。
本当に、異変を起こすことだけが目的だったのだ。
そもそも、こんな考えに至った理由は、天界がとても平和で退屈だったからである。
毎日が歌やら酒やら踊りやらとかの繰り返し。傍から見れば羨ましいかもしれないが、本人にしてみれば、毎日同じことの繰り返しで嫌だっただけ。
そんな中、幻想郷の人妖が異変を起こす、解決するといったやり取りを見て天子は思った。自分も異変を起こしてみたい、と。

そんな自分が、まさか異変に巻き込まれる側になってしまうとは思わなかった。
さすがは幻想郷といったところ。ちょっと干渉しただけですぐにこういう目に遭うとは。天界の常識に囚われてはいけないということか。


この状況で、天子はどう思うのだろうか?
その答えは、すぐに彼女の口から出た。
「ふふふ、面白いじゃない!
 生を勝ち取るためのイスの奪い合い、いつ来るか分からない死との戦い・・・。死神なんかと戦うよりもよっぽど良いわ!
 目指すはもちろん優勝ね!」
天子はどう思うのか、その答えは考えるまでもないようだ。

天子は興奮していた。
初めて異変に巻き込まれたということもあるが、それ以上にこの殺伐とした雰囲気が快感だった。
本来、天子の楽しみといえば、定期的に来る死神との戦いだ。更に言えば、戦うことが楽しみといえる。
といっても、弱い奴と戦うのは好きじゃない。戦いの最中の緊張感がまるで無いから、勝ったときの達成感も得られないのだ。
だが、少なくとも死神は自分を死なせるつもりで本気で向かってくる。負ければ死ぬし、相手もそうさせるつもりなだけに、緊張感がある。これがいい。
そして、あの女が言った殺し合いとやらは、最後の一人になるまで殺し合うと言った。
当然、全員は生き残るために必死なはず。正直、死神なんかよりも危険で手ごたえがあると思われる。
そんな奴らと立て続けに戦えることを考えると、笑いが抑え・・・
「うふ、うふ、うふふふふふふふ・・・
 おっとっと、いけないいけない。まだ戦ってもないのにこんなんじゃあ、よくないわね。
 さっさと相手を見つけないと・・・」
危うく変な幻想に惑わされるところだった。そんな自分に喝を入れ、戦う相手を探すために再び歩き始めた。



「・・・あら?」
もう少しで山を下るというところで、その先は崖になっていた。とはいえ、高さはないため、そのまま飛び降りても問題はないだろう。
そして、その崖を見下ろすと、誰かが木陰で休んでいた。
その誰かはキョロキョロと辺りを、特に西側を意識するように見渡している。
まぁ、天子にとってはそんなことはどうでもいい。それよりも・・・
「さてと、一人目発見ね。攻撃と行こうかしら。武器は・・・」
そういえば、スキマ袋には武器があるらしい。せっかくだから何かを使いたいところだ。

だが、
「スキマ袋か・・・。あのおばさんを思い浮かぶわね・・・。名前は確か、八雲紫。
あいつも参加しているらしいけど・・・」
八雲紫。あの女とは博麗神社で戦ったことがある。
その時の彼女は非常に怒っていた。触れた者を即殺してしまいそうな迫力だった。
天子の行ったことは幻想郷を滅ぼしかねない行為だったから当たり前とはいえ、当の本人はそんな自覚は全く無い為、なぜあんなに怒るのかが分からなかった。
そんな相手と戦った結果は・・・見事な惨敗だった。
負けた後、すぐに逃げたかった。命乞いをしたいとも思った。
その時だろうか、初めて死ぬほどの恐怖と屈辱を味わった気がする。

「どうも、あのおばさんはいけ好かないわ。何とかならないかしら」
天子は怒りを覚えながら、スキマ袋に手を突っ込んで武器になりそうなものを探す。
水、食料、時計といったそういえば説明のときに言ってたものの他に、説明には無かったものがある。それは
「おお、弓矢か。他の天人様が使っているのを見たなぁ・・・。デサインは違うけど」
弓と束になってまとまった矢と
「・・・何、これ。傘のつもり?ダサっ!?赤くて細長いの付いてるし・・・
これは役には立たなさそうね。・・・捨てちゃおうかなぁ」
誰の物か分からない、悪趣味な傘だった。

持ち物をスキマ袋に戻し、再度ターゲットの方を見る。
「まぁ、いいわ。いざとなったら素手でもやってやる。
 だから、まずは・・・」
そう言い、弓を構え矢をセットする。
ギリギリと弓の弦がうなり、弓と矢の先端がきしむ。
そして・・・
「戦闘開始よ!」
天子は言うと同時に、矢を発射した。




「・・・あの人は追ってこないの?」
妹紅から逃げ切り、木陰で休んでいた橙は今もなお周囲を見渡す。
もうすでに体の疲労が無くなっていても、いつあの人間に襲われるのかが分からないといった不安が彼女の心を疲労させる。
しかも、あの人間に武器(になりそうな物)を奪われ、身を守るための道具は無くなった。
猫特有の動きを活かした戦いなら出来るが、それが通用するのはせいぜい雑魚妖怪程度。
しかも、その雑魚妖怪すら何をするのかが分からない。もし、相手が強力な武器を持っていたら・・・
とてもではないが、生き残れるとは思えない。
今度、誰かに見つかったら・・・
そう思っていたときだった。

ビスッ!
「わぁ!?」
突然、何かが刺さった音がした。
音がした方向を見ると、そこには矢が地面に突き刺さっていたのが分かる。
ついさっきまでこんなものは無かったはず。
まさか・・・
「誰?誰なの!?」
橙はとっさに立ち、周囲を見渡す。
だが、矢を射抜いたのだから、すぐ分かる位置にはいないことは分かる。
だから、矢の方向を睨みつける。
「そこのお前!姿を見せろ!居るんでしょ!?」
橙が見た方向は、背の高い草が生い茂っている。
だから、攻撃した奴はそこに隠れているに違いない。

そう思っていたとき、
「残念。上からよ!」
「・・・えっ?」
上から何者かの声が聞こえて・・・その声の主であろう者が空中で矢を構えているのが見えた。
避けなきゃ・・・。橙はそう思った。
だが、そう思ったと同時に、空中にいる何者かは矢をこちらに向けて発射した。

ドスッ!
「うあっ!?」
橙はとっさに回避しようとした。
だが、遅かったのか。何かに当たった音と同時に強烈な痛みを腹部から感じた。
その部分を見ると・・・
「う・・・あ、あ、あああああぁぁぁぁ・・・」
矢が深々と、橙の腹部に突き刺さっていた。


「おお、まさか当てられるとは思わなかったわ。私ったらラッキーね!」
崖から飛び降りながら矢を射た後、すたんと地面に着地した天子は獲物に矢が当たったことを確認する。
だが、獲物の正体を見て、天子は不機嫌な顔になる。

(こいつ、八雲の式か・・・。いきなり出くわすとはね)
自分をボロボロに負かした奴の式だ。それだけで紫のことを思い浮かぶのも無理はない。
だが、それだけにやりがいがあるというもの。
いきなり紫と戦えと言われても勝てる気がしないが、式ならば充分に勝算はあると同時に手強い印象もある。

だから、相手にとっては矢一本くらい食らったところでどうってことはないだろう。
当然あの化け猫は何かを仕掛けてくる。
そう思い、天子は身構えて目の前の橙を警戒する。
「ふふふ、覚悟しなさい。八雲の式の一匹目よ。
 あなたを倒して・・・八雲紫への恐怖を乗り越えてやるわ!」

こうして、天子から見れば強敵との戦いが始まった。


…が、
「って・・・あれ?」
おかしい、何もしてこない。
このことに疑問を感じた天子は、怪訝そうに橙を見つめる。
よく見ると、彼女は腹部から、そして口から血を出しながら倒れていて動く気配がない。
「おかしいわね。八雲の式だから強いはずなのに・・・」
不思議に思えた天子は、悪趣味な傘で橙の体をつんつんと突っついてみたりぺしぺしと叩いてみたりする。
が、それでも反応はない。力尽きてしまったようだ。
あの八雲の式が、こうもあっさりと死んでしまうとは。
どうやら、悪ふざけでやった奇襲が違う意味で仇になったようだ。
うん、そうだと思いたい。八雲の式は強いはずなんだ。



今更どうこう思っていても仕方がないので、天子は今後の方針を考えることにした。
だが、彼女は単純な思考ゆえに、すぐに決まった。
「んー、まぁいいか。八雲の式はもう一匹いたはず。
八雲紫への恐怖の改善は、そいつで我慢しようか。
それに、対戦相手は八雲だけじゃないからね。そいつらとも戦わないと」
だとすると・・・
天子は西側にある森を睨みつける。
そこは、橙が休憩中にやたら見つめていたところだ。
まるで、そこから誰かが来るのではと思っているような振る舞いに、頭の回転があまり良くない天子でも気になるところ。
「もしかしたら、あそこに誰かがいるかもしれないわね。
よしっ。それじゃ、あの森に行ってみようか」
そう思い、西側の森を見つめる。

「ふふふ。楽しいゲームは今度こそ、これからよ!」
そして、次なる獲物にわくわくしながら天子は歩き出した。



【B-4 山の崖下付近・一日目 黎明】
【比那名居天子】
[状態]正常
[装備]永琳の弓、矢18本(残り2本は橙と地面に刺さっている)
[道具]支給品一式、悪趣味な傘
[思考・状況]ゲームを楽しみ、優勝する。八雲紫とその式は自分の手で倒したい。

 ※B-4山の崖下付近に橙の死体と一緒にスキマ袋(支給品一式、不明アイテム1~2)が落ちています。

【橙 死亡】

【残り45人】


28:長い夜の終わり 時系列順 30:嘘と真実の境界
28:長い夜の終わり 投下順 30:嘘と真実の境界
比那名居天子 53:死より得るもの/Necrologia
10:玩具箱の銃 死亡


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最終更新:2011年03月05日 03:37
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