玩具箱の銃

玩具箱の銃 ◆5wsAzI.7vk




木々に覆われた林の中。
枝の隙間から差し込む月明かりに照らされ、少女の長い銀髪が煌めく。

少女の名は、藤原妹紅。
この理不尽な殺し合いに参加させられた一人である。

しかし妹紅には死ぬ気なんてなかった。
いや、正確には死など有り得なかった。

妹紅は不死の存在である。
蓬莱の薬を飲んだことによって、老いることも死ぬこともない体になった。
だからこそ、妹紅は考える。
なぜ自分がこの殺し合いに参加させられたのかを。

『最後の一人になるまで互いに殺しあっていただき、その結果残った一人が生きたまま解放される』

確かにそう言っていた。
だが、説明が行われている時に輝夜の姿を確認した以上、『最後の一人になる』ことは不可能だろう。
輝夜も妹紅と同じく、死ぬことはないのだから。

主催者は八意永琳。
あの女のことだ。
何か大きな考えがあってのことに違いない。
または、本当の黒幕は別にいるとか――

どちらにせよ、こんなくだらない殺し合いにのるつもりはない。

妹紅は決意する。
このゲームを破壊し、主催者を殺すことを。

……まあ永琳も不老不死なので、それは不可能なのだが。
とりあえず気が済むまで痛めつけてやろう。


ふと、首の冷たい感覚に気付く。
すっかり忘れていたが、まずは首輪を外さなければならないのだった。
先程これが爆発し、簡単に一人死んでしまった。
自分もただでは済まないだろうと、妹紅は思う。
とりあえず、首輪を外せそうな人を探しに行くことにした。


が、その時。
妹紅の赤い瞳が真っ直ぐに、草の陰に隠れた何者かを捉えた。



「出てきなさいよ」

そうはっきりと告げる。
相手には確実に聞こえているだろう。
しかし、反応がない。
辺りが沈黙に支配される。

次の瞬間。

「動かないで!」

妹紅の真後ろ、草陰から何者かが飛び出してきた。
幼い少女のものらしき、舌っ足らずな声。

「私は銃を持っているんです。……動いたら撃ちます」

少女の声は震えている。
こいつに撃つ気はないと、妹紅は確信した。
第一、銃を持っているならば闇討ちだってできたはず。
それをしなかったということは、少女は殺し合いのっていないということだ。
そんな少女を襲うなんて大人げないことをする気にはならなかった。

「あなた……殺し合いにのってるんですか?」

少女が尋ねてくる。

自分から誰かを襲うつもりはない。
ただ、相手がその気なら話は別。
躊躇いなんてない。容赦なく殺す。
そう考える妹紅は、はっきりと「いいえ」とは答えなかった。

「そうだと言ったら?」

「……ここで止めます」

『止める』か。あくまでも『殺す』ではないんだな。
もし相手が殺人鬼でも、少女はそうするのだろうか。
だとしたら甘過ぎる。
そう思った。

妹紅は少女の方へ振り返る。

「ああ!動かないでって言ったのに!」

当然、少女は慌てふためく。

少女はまるで捨てられた子猫のようだった。
恐怖で押し潰されそうなのに、自分を守る為に戦おうとする。
弱々しい声で必死に鳴き、手を差し延べようとすると引っ掻いてくる。
そんな感じ。


「体震えてるじゃない」

「ふ、震えてないですっ!」

少女なりの精一杯の強がりだった。
しかし手は震えて、銃口の位置が定まらない。

「こんな玩具で何ができる?」

それを妹紅は少女の手から取り上げ、じっくり見てみる。
何とそれは、本当にただの玩具だった。
引き金を引くと水が出てくる仕掛けになっている。

「あっ……か、返して!」

少女はそれを取り返そうと、必死に跳びはねている。
が、高く持ち上げている為届かない。
わざとらしく玩具をちらつかせて見せると、悔しそうに顔を真っ赤にさせた。

その様子を見て、妹紅はつい吹き出してしまう。

「~~~!!ッ何が可笑しいっ」

「あはははははは!!」

「……!?」

急に笑い出した妹紅を不審な目で見つめ、少女は一歩後ずさる。
そしてそのまま踵を返し、走り去ってしまった。

「あ、ちょっと!」

呼び止めようとするが、少女の姿はすぐに見えなくなってしまう。


「参ったわね……」

少女は、他の参加者達に自分のことを言い触らすだろう。

『殺し合いにのっている奴がいて、さっき私を殺そうとした』

そんな風にあのか弱そうな少女に言われれば、誰だって信じざるを得ない。
そうすれば、自分を殺しに人が集まって来るかもしれない。
死ぬ気はないが、そうなれば面倒だ。
早めに誤解を解いた方がいいだろう。

そう考えた妹紅は、少女が向かったと思われる方向に歩き出した。


少女――橙が置いていった玩具の銃をしまって。


【A-4 一日目・子の刻】
藤原 妹紅
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3個(未確認)、水鉄砲(元は橙の支給品です)
[思考・状況]基本方針:ゲームの破壊
1. 殺し合いにはのらず、ゲームを破壊する。主催者は痛めつけてやる。
2.自分からは襲わないが、相手がその気なら容赦なく殺す。
3.少女の誤解を解く。
4.首輪を外せる者を探す。
※自分が不老不死のままだと信じています。
※黒幕の存在を少しだけ疑っています。


【A-4 一日目・深夜】
【橙】
[状態]健康、恐怖
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~2個(使える武器はないようです)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに反対
1. 妹紅から逃げる。
2.誰も殺したくない。
3.死にたくない。
※東の方へ逃げていきました。


※お互いに姿を確認しましたが、名前は知りません。


09:ブレインエイジア 時系列順 11:小さな鬼の不安
09:ブレインエイジア 投下順 11:小さな鬼の不安
藤原妹紅 32:零れ落ちるモノ
29:プリンセス天子 -Illusion-


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最終更新:2009年03月24日 23:02
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