『大統領暗殺計画』-1
作者・ティアラロイド
943
米国首都・ワシントンD.C. ホワイトハウス***
グラント「――なっ!?」
アーチャー「以上が、あなたとブレッド前国務長官が、
サンクフレシュ製薬と癒着していた動かぬ証拠です」
ある日、ホワイトハウスに呼び出されたグラント国防長官は、
CIA調査官アーチャーによって眼前に突きつけられた書類や写真の数々に驚愕する。
マイケル「今まで長らくお待たせしたがね、国防長官。
今日限りを持って君はクビだ」
グラント「私を解任などできるものか!」
ジョディ「あら、したわよ。たった今…」
グラント「おわかりでしょうな大統領? 私を敵に回すということは、
"最高法院"をも敵に回すということですぞ!」
マイケル「………」
グラント「今に後悔するぞ! マイケル・ウィルソン!」
グラント"前"国防長官は憤慨して出て行った。
そして大統領執務室前の廊下にて、口ひげがトレードマークのある人物とすれ違う。
トニー「………」
グラント「――!!」
トニー・スターク――またの名をアイアンマン。
スターク・インターナショナルの社長でもあり天才的な発明家。
そして自ら開発した強化アーマーに身を包み悪と戦う、
アメリカ合衆国を代表するスーパーヒーローの一人である。
トニーは無言で会釈し、そのまま通り過ぎようとしていたが、
グラントに呼び止められる。
グラント「やはり貴様だったか、トニー・スターク!」
トニー「これは国防長官閣下…いや、そのご様子では
もう解任されたようですな。やはりとはどういう意味ですかな?」
グラント「大方、
ブレイバーズとかいう茶番に我が国も加わるよう、
大統領に入れ知恵したのは君だろう?」
トニー「ハハハ、ひどい誤解だ。
ブレイバーズ計画は、
もうかなり以前から大統領と日本の剣桃太郎首相との間で
共同で進められていたことです。私は少しそのお手伝いをしたまで」
グラント「ヒーローと呼ばれる荒くれ共が政府の管理を離れて
好き勝手に暴れる社会が到来するか。世も末だな…」
グラントは捨て台詞を吐いて去っていった。
大統領執務室に入ったトニー・スタークを、
マイケル・ウィルソンらが迎える。
トニー「今そこでミスター・グラントとすれ違いました。
ひどく憤慨しておられましたが、どうしました?」
マイケル「たった今鼻っ柱を圧し折られたのさ」
トニー「なるほど…」
ジョディ「それではミスター・スターク、
早急に本題に入りたいと思いますが」
トニー「わかりました。こちらが、
ブレイバーズへの参加を表明した
我が合衆国在住のヒーローたちの名簿です」
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一ヵ月後…。
UAE首都ドバイ・迎賓館***
中東屈指の世界都市並びに金融センターである、アラブ首長国連邦の首都ドバイ。
この日、ドバイ市街地中心部の迎賓館では、世界各国の石油産業の主要関係者を
招いての財界パーティーが催されていた。
矢吹「これはキバラ石油大臣」
キバラ「矢吹さん、久方ぶりですな。今もご壮健そうで何よりだ」
日本財界の雄と呼ばれ、地球連邦政府の第八世界銀行の理事もかねる
矢吹コンツェルンの総帥・矢吹郷之介と、
中東の産油国の一つ、アダブ王国の
親日家としても知られるキバラ石油相である。
側に控えていたボーイがバーボンの瓶を取り、
それぞれ二人の持つグラスに注ぐ。
キバラ「聞いております。
ブレイバーズの噂。
矢吹コンツェルンも相当額の出資をされたようですな」
矢吹「出資というほどのことではありません。
世界の平和のために戦いに身を投じる若者たちにとって
ほんの少しでもサポートになればと思ったまで」
キバラ「平和に寄与することは、世界経済の安定にも寄与することです。
我が国もこの件に対して協力を惜しまぬつもりです。この事、
ブレイバーズの上層部にもよろしくお伝えください」
矢吹「わかりました。私からもそれなりに話を通しておきましょう」
フィリナ「おじ様方、先ほどから何を難しそうなお話をされてますの?」
キバラ「おおー、フィリナか」
キバラからフィリナと呼ばれた、この明るいブロンドの長い美しい髪の少女。
何を隠そう中東の石油王として名高いアルジェリアの実業家一族、
アルシャード家の令嬢であり、こう見えても弱冠19歳の若さにして、
実家が保有する事業部門の3分の1の経営権を握る才媛である。
アルジェの旧宗主国であるフランス国籍であり、普段はフランスに在住している。
キバラ「紹介しましょう矢吹さん。こちらは私の姪、すなわち妻の姉の娘で、
フィリナ・クラウディア・アルシャード」
フィリナ「叔父様、矢吹のおじ様のことなら以前からよく存じ上げてますわ。
ご無沙汰しております、矢吹会長」
矢吹「ほほー、しばらく見ない間に、あのフィリナ嬢が随分とまあ
大きくなったものだ」
フィリナ「まあ…おじ様ったら」
矢吹「そうだ、せっかくの機会だから、こちらもある人物を紹介しよう。
当君、こっちに来たまえ」
矢吹に呼ばれてやって来たのは、一人の中年紳士だった。
矢吹「紹介しましょう。こちらは当八郎君。
登山家で世界的な地図の権威でもあり、
私の仕事をいろいろと手伝ってもらっている」
当「はじめまして、当八郎です」
キバラ「どうも、キバラです」
フィリナ「お初にお目にかかります。フィリナ・クラウディア・アルシャードと申します」
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当「いやあ、貴女のような美しいお嬢さんにお目にかかれるとは光栄だなあ」
フィリナ「私も光栄です。噂に聞くマイティジャックの隊長さんに、
こうしてお目にかかれるなんて」
フィリナの口から"マイティジャック"という言葉が出たとき、
一瞬だけ当の顔色が変わった。
当「ハハハ、そっちの方はすでに一線から退いていましてね。
今は別の人間が隊長です。しかしよくそんなことまでご存知だ。
正直驚いたな…」
フィリナ「常にビジネスは情報戦が命ですもの。
それくらいは知ってて当然です。当さんはこの度の
ブレイバーズにも参加されるのですか?」
当「それもビジネスのための情報戦の一環ですかな?」
フィリナ「いいえ、こっちは単なる私の好奇心」
アルハザード「その話なら是非とも私も聞いてみたい」
フィリナ「貴方は…!?」
当「――!!」
フィリナたちの歓談に横から割って入ってきた、
中東の民族衣装にサングラスの男。
サラジア共和国のアフマド・アルハザード副大統領である。
彼もまたこのパーティーに客として招かれていた。
キバラ「これはアルハザード副大統領」
当「貴方がサラジアのアルハザード副大統領ですか。
先日のお国で起こった石油コンビナート襲撃の怪獣騒ぎでの
閣下のご活躍は耳にいたしております」
アルハザード「ハハハ、それほどでも。
それよりも東西文化の華麗なる交流のところ、横から大変失礼。
ブレイバーズの話には私も大いに関心を持っていましてね。
我がサラジアも
ブレイバーズには協力を惜しまぬ方針を
示していますが、どうもアメリカや日本といった一部の
西側諸国のみで計画が主導されているようで、サラジアには
とんと詳しい情報は入って来ないのです」
矢吹「さあ、私も一介のしがない財界人。個人的に資金提供を
申し出ているとはいっても、あまり詳しい事は私も知りませんなあ」
アルハザード「そうでしたか…」
矢吹「お役に立てず、申し訳ない」
アルハザード「いやいや、こちらこそどういたしまして」
フィリナ「少しのぼせちゃいました。叔父様、外の空気を吸ってきて
よろしいかしら?」
キバラ「ああ、いいよ。行っておいで」
アルハザード「………」
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バルコニーへ出て、外の空気に当たるフィリナ。
しかし隅の物陰のほうで、なにやら二人の男が話し込んでいるのに気がついた。
フィリナ「こんなところに人が…??
いったい何を話しているのかしら…」
男たちに気づかれないように近づき、そっと聞き耳を立てるフィリナ。
フィリナ「……(あの男は、確か一月前にアメリカの国防長官を
解任されたはずのグラント氏? そしてもう一人は…
暗くて顔がよく見えないわ)」
???「すでに大統領は我々のコントロールを離れましたな」
グラント「全くだ。自分がホワイトハウスの借家人にすぎないという
ことを忘れてしまったらしい…」
フィリナ「……(いったいなんの話をしているのかしら?)」
グラント「超常的な能力をもった化け物どもを管理することもなく、
正義の名目で野に放つなど、聞いただけでも虫唾が走る!」
???「もはや猶予はなりますまい。
いよいよ決断に移るときが来たようですな」
グラント「表の第47代大統領、マイケル・ウィルソンJrの抹殺を!」
フィリナ「――!!」
グラント「誰だ!?」
グラントたちが自分たちの密談を聞いている誰かの存在に気づいた時、
すでにその場にフィリナの姿はなかった。
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ヒマラヤの地球教本部***
ド・ヴィリエ「総大主教猊下、
アメリカ合衆国・影の政府からの
使者が参っております」
総大主教「わかった、通すがよい」
高い天井と列柱のある、大きな広間へと通されたのは、
松葉杖をついた一人の日本人の老人だった。
早乙女「総大主教猊下にあられましては、ご機嫌麗しく、
恐悦至極に存じます」
その男・早乙女英治は恭しく一礼した。
総大主教は軽く頷き、聖座より相手を見下ろす。
ド・ヴィリエ「アメリカの影の政府とは白人至上主義者の集まりと
聞いていたが、お前のような黄色人種(イエロー)がいるとは意外だな」
早乙女「ご不審ですが…?」
ド・ヴィリエ「………」
早乙女「…そもそもそれは誤解です。我らの影の大統領は、
忠誠さえ誓えば、人種・出自を問わず、能力に応じて
引き上げてくださいます」
総大主教「時に、汝らの影の大統領は息災にしておるか?」
早乙女「矍鑠たるものです」
整列していた主教の一人が、早乙女から
影の大統領なる人物からの親書を受け取り、
ド・ヴィリエを介して総大主教の許に運ばれる。
総大主教はざっと親書に目を通した。
総大主教「用件はわかった。汝らがそれを望むのであれば、
余は構わぬぞ」
早乙女「ありがたき幸せ」
総大主教「使者殿には、しばし別室にて休まれるがよい」
早乙女は主教の一人に案内され、広間より退室した。
総大主教「ド・ヴィリエよ、汝もあの男を見たであろう。
感想を聞きたい」
ド・ヴィリエ「はい、つかみどころのない男でございますな。
それで、影の政府からはなんと…?」
総大主教「連中は今、
アメリカ合衆国から追い出されそうに
なっておるのだ」
ド・ヴィリエ「ほう…」
総大主教「それで余に泣き付いてきおった。現大統領の
マイケル・ウィルソンJrを代わって始末してほしいのだそうだ」
ド・ヴィリエ「地球教の…我ら
ロゴスの利益になることで
ありましょうか?」
総大主教「マイケル・ウィルソンJrが死ねば、
新たにアメリカに彼らの傀儡政権が出来る」
ド・ヴィリエ「で、どうなるのでございます?」
総大主教「今巷で評判の
ブレイバーズとやらにアメリカが
参加する方針を取りやめ、我らと同盟すると言ってきおった。
それが連中の取引条件だそうだ」
ド・ヴィリエ「いかがなされます?」
総大主教「いずれはアメリカも倒さねばならん。着々と手は打っておる。
が、戦略的観点からも、今はアメリカを敵に回すのは得策ではない。
そうであろうが?」
ド・ヴィリエ「はい。まさにご慧眼にございます」
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○マイケル・ウィルソンJr→グラントを国防長官から解任する。
○ジョディ・クロフォード→グラント国防長官解任の場に立ち会う。
○アーチャー→グラント国防長官に、サンクフレシュとの癒着の動かぬ証拠を突きつける。
○トニー・スターク→
ブレイバーズ計画のため、ホワイトハウスに呼び出される。
○キバラ特使→現在はアダブ王国の石油大臣に就任しており、ドバイでの財界パーティーに招かれる。
○矢吹郷之介→ドバイでの財界パーティーに招かれる。
○当八郎→矢吹郷之介に付き添う形で、ドバイでの財界パーティーに出席。
○フィリナ・クラウディア・アルシャード→偶然、アメリカ大統領暗殺計画を立ち聞きしてしまう。
●グラント→国防長官を解任される。
●アフマド・アルハザード→ドバイでの財界パーティーに招かれる。
●早乙女英治→
アメリカ影の政府の使者として、ヒマラヤの地球教本部を訪問。
●ド・ヴィリエ→
アメリカ影の政府の使者としてやって来た早乙女英治を出迎える。
●総大主教→
アメリカ影の政府から、大統領暗殺を依頼される。
【今回の新規登場】
○アーチャー調査補佐官(BLOOD+)
当初はサンクフレシュ製薬の幹部ヴァン・アルジャーノの腹心と思われていたが、
実はアメリカのグラント国防長官とサンクフレシュ製薬との間の癒着を密かに内偵、
潜入捜査していた人物。
○トニー・スターク(アイアンマン)
巨大企業スターク・インダストリー社の社長兼CEO。自身の頭脳を使って数々の新技術を次々に開発し
一躍時の人となりつつも、兵器産業により莫大な富を築き、「死の商人」と批判されていた。
しかし新兵器の実用テストの為に訪れた戦地でゲリラに捕われた際に、実際に戦場の悲惨さを
目の当たりにし改心。インセン教授の助けにより無事に脱出・生還した後、自社を軍需産業から
一切手を引かせ、自らはパワードスーツを身に纏い、正義と平和のための戦いを開始した。
「世界平和プロジェクト」を掲げ、その第一歩として日本に「アークステーション」を建設しており、過去に訪日経験もある。
○キバラ特使(仮面ライダーX)
日本との石油輸出協定を結ぶ為に訪日した産油国アダブ王国の特使。
日本経済混乱を目論むGODの怪人ヘラクレスに命を狙われるが、Xライダーに救われた。
○矢吹郷之介(マイティジャック)
日本財界の雄と呼ばれる矢吹コンツェルンの総帥。悪の組織Qによる世界の危機を予見し、
マイティジャック隊を創設した。
○当八郎(マイティジャック)
マイティジャックの初代隊長。アマチュア登山家で、地図の世界的な権威でもある。
矢吹郷之介に、その人格、能力などを認められ抜擢された。その冷徹なまでの平常心は、
時として部下の反発を受けることもあったが、実は人情家でもあり、敵の策略で部下を失った際には、海岸で一人立ち尽くすナイーブな一面も見せた。
○フィリナ・クラウディア・アルシャード(闘争の系統オリジナル)
アルジェの石油王一族アルシャード家の財産継承権利第7位の令嬢。
父親が入り婿でフランス人であるため、普段はフランス国内に在住。
弱冠19歳にして、アルシャード家が保有する事業部門の
3分の1の経営権を握る才媛であり、日本語も堪能。
●早乙女英治(THE UNLIMITED 兵部京介)
B.A.B.E.L.の前身である、陸軍特務超能部隊の隊長であった旧日本軍の軍人で、
蕾見不二子や兵部京介の上官でもあった人物。太平洋戦争終戦直前に
伊八号の脳を使い、兵部がエスパーを率いて世界を破滅させる未来を知ったことにより、
自分たちの作り出した兵部を占領軍に知られる前に抹殺しようとして銃撃するが、
額に弾丸を受けながらも奇跡的に助かった兵部によって返り討ちにされる。
実はその後も一命をとりとめ終戦直後にGHQの手引きによって合衆国に渡り
USEI(合衆国ESP捜査局)創設に関わった。対エスパー融和派のノーマン市長暗殺を
計画するが未然に阻止され、兵部によって廃人にされた。
最終更新:2020年11月22日 13:49