とある島雲に蒼き原種竜の姿はあった。
かつてケツァル王に仕えていた従者。そしてティルをさらい、ウィルオンの命を狙ったあの竜。ラルガだ。
ラルガの元へ、紅き竜は舞い戻る。
同じくケツァル王に仕えていた原種竜だ。
「ヴァイル。ストラグルの封石がどこにあるかはわかりましたか?」
紅竜は蒼竜に素直に報告する。
「ああ、兄貴。ついに見つけた。大樹の北西、ビゲストという大陸にスロヴェストという遺跡がある。かつてはそこに機械都市が存在したらしいが…。封石はその遺跡の中だ」
知らせを受けて蒼竜は不敵な笑みを浮かべた。
「それは朗報ですね! では、次にフェギオンとメロフィスの封石も探してもらえると助かります」
「了解した。だが、なぜかつての陛下の敵である魔竜の封石を探すのだ? 封印は天竜たちが厳重に管理してくれているはずだ」
「おまえは余計な心配はしなくてよろしい。これもすべて王国の復活の為なのです」
「そうか…。わかった。ならば行ってこよう」
紅竜は再び飛び立った。
そして蒼竜は次の計画を確認する。
「ふむ……順調だな。さて、私もぼんやりしてはいられない。まずはリムリプスを手中に収めなくては。続いてストラグルだ。そうとも、これも王国の復活の為に。再びバルハラに王国を築くのだ…!」
蒼竜は己の目的のために飛び立つ。
王家のために。
かつてケツァル王に仕えていた従者。そしてティルをさらい、ウィルオンの命を狙ったあの竜。ラルガだ。
ラルガの元へ、紅き竜は舞い戻る。
同じくケツァル王に仕えていた原種竜だ。
「ヴァイル。ストラグルの封石がどこにあるかはわかりましたか?」
紅竜は蒼竜に素直に報告する。
「ああ、兄貴。ついに見つけた。大樹の北西、ビゲストという大陸にスロヴェストという遺跡がある。かつてはそこに機械都市が存在したらしいが…。封石はその遺跡の中だ」
知らせを受けて蒼竜は不敵な笑みを浮かべた。
「それは朗報ですね! では、次にフェギオンとメロフィスの封石も探してもらえると助かります」
「了解した。だが、なぜかつての陛下の敵である魔竜の封石を探すのだ? 封印は天竜たちが厳重に管理してくれているはずだ」
「おまえは余計な心配はしなくてよろしい。これもすべて王国の復活の為なのです」
「そうか…。わかった。ならば行ってこよう」
紅竜は再び飛び立った。
そして蒼竜は次の計画を確認する。
「ふむ……順調だな。さて、私もぼんやりしてはいられない。まずはリムリプスを手中に収めなくては。続いてストラグルだ。そうとも、これも王国の復活の為に。再びバルハラに王国を築くのだ…!」
蒼竜は己の目的のために飛び立つ。
王家のために。
Chapter8「魔竜の封印」
ナープたちとは入れ違いになる形で、ガルフは火竜の国ムスペを訪れていた。
ムスペの火竜王セルシウスに呼ばれていたからだ。
大火山の頂上付近にムスペ城はあった。
ムスペ城の塔に大きく開かれた空洞はそのままムスペ城の広間に通じている。そこから城内に入り火竜王に謁見する。
「よくぞ参った」
ガルフは頭を垂れて火竜王の前に立つ。
「面を上げるがよい。楽にしてもらって構わないぞ」
「はい。時に火竜王様、此度はどうして俺をお呼びになったのでしょうか」
ガルフは火竜王との面識はなかった。
そんな火竜王がガルフを知っているということ自体が驚きだった。
当然、ガルフには自分が呼ばれた理由など想像もつかない。
「うむ。まずは会わせたい者がいる」
火竜王が合図すると、玉座の陰から久しく見る顔が現れた。
記憶の片隅に残る、ずいぶんと懐かしい顔だった。
「よ、よう。元気だったか」
「親父…!?」
姿を現したのはフロウ。
ナープ兄弟が長い間、ずっと捜し続けてきた父親だった。
それが今、目の前にいる。
「今まで色々とすまなかったな…」
「親父、まさかムスペ王の下にいたとは…! 一体これはどういうことだ?」
「実はおまえに手伝ってもらいたいことがある」
火竜王がガルフに言った。
「俺に……手伝ってもらいたいこと? それも火竜王様から直々に」
「ガルフ。オーシャン……おまえたちの母さんと関係があることなんだ」
こんどはフロウが言った。
「まずオーシャンが天竜だったということは知ってるか?」
「天竜とは?」
「ふむ。よろしい、私から説明しよう」
火竜王は天竜について説明した。
かつて昔、大樹のあたりにユミルという国があった。
ユミルは残念ながら滅んでしまい、その首都バルハラは今では遺跡となっているが、そこにケツァル王国という国が存在していたことがあった。
天竜とはそのケツァルの国王に仕えていた者のことだ。
「ケツァル王国…。一夜にして滅んだと噂になっているあの国か」
「うむ。ただの伝説だと考える者もいるが、ケツァル王国は実際に存在していた。だが、見ての通りその国も滅んでしまい、今となってはただの廃墟だ。実はその国が滅んだことに問題があるのだ」
ケツァル王は神竜と称されていたが、それに敵対する4体の魔竜がかつて存在していた。
4体の魔竜はケツァル王によって封印され、魔竜を封じた封石は地上の各地に隠された。
その封石を監視するのが天竜親衛隊の役目であり、親衛隊たちを総括するのが天竜だった。
「だが、ケツァル王が倒れたことによってその封印が弱まってしまったのだ」
魔竜とはすなわち、フェギオン、メロフィス、ストラグル、そしてリムリプスの4体だ。
もっとも強力な魔竜とされるストラグルはとくに強い封印を施されていたので封印は無事だったが、他の3体の魔竜は復活を果たしてしまった。
復活した魔竜を再び封じるため、ケツァル王にその監視を命じられていた天竜が行動を開始した。
当時の天竜オーシャンは、側近であるフロウ、ゼロと共に各地を巡り、ようやく復活した魔竜を発見した。
メロフィスとフェギオンは無事に再度封印されたが、最後にリムリプスを封印しようという際にオーシャンが倒れてしまった。力を使い果たしてしまったのだ。
そしてオーシャンはそのまま帰らぬ存在となってしまった。
「お袋……。そうだったのか」
「俺がついていながら、なんて情けねぇ…。だが俺はオーシャンを助けてやることができなかったんだ」
オーシャンはフロウの仕えるべき相手であり、かつ妻でもあった。
それを失い、力になることができなかったフロウは絶望し、姿を眩ませてしまった。
そのため天竜は残った側近のゼロが継ぐことになった。
「情けねぇもんさ。自分の子どももほったらかして放浪してたってんだからな…」
悲しみに暮れたフロウは各地を放浪した後に、火竜王セルシウスと遭遇する。
「セルシウスは俺の旧友なんだ。そこで俺はしばらくセルのところにやっかいになっていたってわけだ。すまねぇな、ダメな親父でよう…」
「親父…。いや、俺は親父を責めたりはしない。無事だったとわかっただけでも良かった」
「本当にすまなかった…! 他の兄弟たちは元気にしているのか? もうずいぶん大きくなったんだろうな…」
「ああ。みんな親父を捜してくれている。一番下のナープはとくに親父に会いたがっていた。早く顔を見せてやってほしい」
火竜王は久方ぶりの親子の再会に水をさすまいとしばらく黙して見守っていたが、会話がひと段落する頃合いを見計うと言った。
「さて、そろそろ本題に入らせてもらってよろしいかな」
「ああ、すまんなセル。どうぞ続けてくれ」
火竜王は説明を再開した。
天竜オーシャンの働きによって、復活した魔竜メロフィスとフェギオンは再封印された。
残る魔竜リムリプスも再封印された……かのように見えたが、
「すべての封印は元通りになったはずだった。しかし、リムリプスの封印は不完全だったということがわかったのだ」
リムリプスはストラグルに次いで強力な魔竜だった。
それゆえに神竜ケツァルの力無くして、それを再度封印するのは簡単なことではなかったのだ。
「そこで、オーシャンの血を引く者としておまえを呼ばせてもらった。手伝ってもらいたいというのは、すなわちリムリプスの封印だ」
「オーシャンは高い魔力を持っていたんだ。俺やおまえたち、ましてやゼロなんかじゃ到底及ばねぇさ。セルですら敵わないほどだったんだ。だが、オーシャンの血を引くおまえたち兄弟と俺、ゼロ、そしてセルが力を合わせればあるいは……というわけだ」
もちろん、オーシャンがいくら魔力に優れていたからと言って、ケツァル王のように一人で魔竜を封印できたわけではない。
メロフィスやフェギオンは、オーシャンとフロウ、そしてゼロの力を合わせることでようやく封印することができたのだ。
それほどに魔竜とは強大な存在だった。それもそのはず、あのケツァル王に対峙していたほどの竜なのだ。
そんな魔竜を野放しにしておいては危険だとセルシウスは判断した。
そこで現天竜ゼロに力を貸そうと考えているところだったのだ。
「なるほど…。そういうことだったのか」
「ガルフよ。おまえには兄弟たちにリムリプス封印の協力を取り付けてほしいのだ。やってくれるか?」
「火竜王様に頭を下げられては断るわけにもいきません。俺にできることであれば力を貸しましょう」
ガルフは二つ返事でセルシウスの頼みを受けると答えた。
「それはありがたい。礼を言うぞ」
「しかし火竜王様。魔竜というのはそんなにも危険なものなのですか?」
火竜王はその問いに首を横に振った。
セルシウスも魔竜に会ったことはなかった。
「だが、あのケツァル王と同等の力を持つのだと仮定するなら、それが危険である可能性は高い。それに私は約束をしているのだ」
「約束?」
「うむ。ケツァル殿とのな…。ゆえに私は魔竜を封印せねばならないのだ」
どうやらセルシウスはケツァル王とは面識があるようだった。
「わかりました。では、まず俺は一体何をすれば?」
「うむ。まずは……」
火竜王はガルフとフロウに指示を出した。
そしてムスペ城からは、二頭のアキレア竜が飛び立っていった。
一方は同じくオーシャンの血を引く兄弟たちに協力を要請するために。一方は魔竜リムリプスの居場所を探るために。
ムスペの火竜王セルシウスに呼ばれていたからだ。
大火山の頂上付近にムスペ城はあった。
ムスペ城の塔に大きく開かれた空洞はそのままムスペ城の広間に通じている。そこから城内に入り火竜王に謁見する。
「よくぞ参った」
ガルフは頭を垂れて火竜王の前に立つ。
「面を上げるがよい。楽にしてもらって構わないぞ」
「はい。時に火竜王様、此度はどうして俺をお呼びになったのでしょうか」
ガルフは火竜王との面識はなかった。
そんな火竜王がガルフを知っているということ自体が驚きだった。
当然、ガルフには自分が呼ばれた理由など想像もつかない。
「うむ。まずは会わせたい者がいる」
火竜王が合図すると、玉座の陰から久しく見る顔が現れた。
記憶の片隅に残る、ずいぶんと懐かしい顔だった。
「よ、よう。元気だったか」
「親父…!?」
姿を現したのはフロウ。
ナープ兄弟が長い間、ずっと捜し続けてきた父親だった。
それが今、目の前にいる。
「今まで色々とすまなかったな…」
「親父、まさかムスペ王の下にいたとは…! 一体これはどういうことだ?」
「実はおまえに手伝ってもらいたいことがある」
火竜王がガルフに言った。
「俺に……手伝ってもらいたいこと? それも火竜王様から直々に」
「ガルフ。オーシャン……おまえたちの母さんと関係があることなんだ」
こんどはフロウが言った。
「まずオーシャンが天竜だったということは知ってるか?」
「天竜とは?」
「ふむ。よろしい、私から説明しよう」
火竜王は天竜について説明した。
かつて昔、大樹のあたりにユミルという国があった。
ユミルは残念ながら滅んでしまい、その首都バルハラは今では遺跡となっているが、そこにケツァル王国という国が存在していたことがあった。
天竜とはそのケツァルの国王に仕えていた者のことだ。
「ケツァル王国…。一夜にして滅んだと噂になっているあの国か」
「うむ。ただの伝説だと考える者もいるが、ケツァル王国は実際に存在していた。だが、見ての通りその国も滅んでしまい、今となってはただの廃墟だ。実はその国が滅んだことに問題があるのだ」
ケツァル王は神竜と称されていたが、それに敵対する4体の魔竜がかつて存在していた。
4体の魔竜はケツァル王によって封印され、魔竜を封じた封石は地上の各地に隠された。
その封石を監視するのが天竜親衛隊の役目であり、親衛隊たちを総括するのが天竜だった。
「だが、ケツァル王が倒れたことによってその封印が弱まってしまったのだ」
魔竜とはすなわち、フェギオン、メロフィス、ストラグル、そしてリムリプスの4体だ。
もっとも強力な魔竜とされるストラグルはとくに強い封印を施されていたので封印は無事だったが、他の3体の魔竜は復活を果たしてしまった。
復活した魔竜を再び封じるため、ケツァル王にその監視を命じられていた天竜が行動を開始した。
当時の天竜オーシャンは、側近であるフロウ、ゼロと共に各地を巡り、ようやく復活した魔竜を発見した。
メロフィスとフェギオンは無事に再度封印されたが、最後にリムリプスを封印しようという際にオーシャンが倒れてしまった。力を使い果たしてしまったのだ。
そしてオーシャンはそのまま帰らぬ存在となってしまった。
「お袋……。そうだったのか」
「俺がついていながら、なんて情けねぇ…。だが俺はオーシャンを助けてやることができなかったんだ」
オーシャンはフロウの仕えるべき相手であり、かつ妻でもあった。
それを失い、力になることができなかったフロウは絶望し、姿を眩ませてしまった。
そのため天竜は残った側近のゼロが継ぐことになった。
「情けねぇもんさ。自分の子どももほったらかして放浪してたってんだからな…」
悲しみに暮れたフロウは各地を放浪した後に、火竜王セルシウスと遭遇する。
「セルシウスは俺の旧友なんだ。そこで俺はしばらくセルのところにやっかいになっていたってわけだ。すまねぇな、ダメな親父でよう…」
「親父…。いや、俺は親父を責めたりはしない。無事だったとわかっただけでも良かった」
「本当にすまなかった…! 他の兄弟たちは元気にしているのか? もうずいぶん大きくなったんだろうな…」
「ああ。みんな親父を捜してくれている。一番下のナープはとくに親父に会いたがっていた。早く顔を見せてやってほしい」
火竜王は久方ぶりの親子の再会に水をさすまいとしばらく黙して見守っていたが、会話がひと段落する頃合いを見計うと言った。
「さて、そろそろ本題に入らせてもらってよろしいかな」
「ああ、すまんなセル。どうぞ続けてくれ」
火竜王は説明を再開した。
天竜オーシャンの働きによって、復活した魔竜メロフィスとフェギオンは再封印された。
残る魔竜リムリプスも再封印された……かのように見えたが、
「すべての封印は元通りになったはずだった。しかし、リムリプスの封印は不完全だったということがわかったのだ」
リムリプスはストラグルに次いで強力な魔竜だった。
それゆえに神竜ケツァルの力無くして、それを再度封印するのは簡単なことではなかったのだ。
「そこで、オーシャンの血を引く者としておまえを呼ばせてもらった。手伝ってもらいたいというのは、すなわちリムリプスの封印だ」
「オーシャンは高い魔力を持っていたんだ。俺やおまえたち、ましてやゼロなんかじゃ到底及ばねぇさ。セルですら敵わないほどだったんだ。だが、オーシャンの血を引くおまえたち兄弟と俺、ゼロ、そしてセルが力を合わせればあるいは……というわけだ」
もちろん、オーシャンがいくら魔力に優れていたからと言って、ケツァル王のように一人で魔竜を封印できたわけではない。
メロフィスやフェギオンは、オーシャンとフロウ、そしてゼロの力を合わせることでようやく封印することができたのだ。
それほどに魔竜とは強大な存在だった。それもそのはず、あのケツァル王に対峙していたほどの竜なのだ。
そんな魔竜を野放しにしておいては危険だとセルシウスは判断した。
そこで現天竜ゼロに力を貸そうと考えているところだったのだ。
「なるほど…。そういうことだったのか」
「ガルフよ。おまえには兄弟たちにリムリプス封印の協力を取り付けてほしいのだ。やってくれるか?」
「火竜王様に頭を下げられては断るわけにもいきません。俺にできることであれば力を貸しましょう」
ガルフは二つ返事でセルシウスの頼みを受けると答えた。
「それはありがたい。礼を言うぞ」
「しかし火竜王様。魔竜というのはそんなにも危険なものなのですか?」
火竜王はその問いに首を横に振った。
セルシウスも魔竜に会ったことはなかった。
「だが、あのケツァル王と同等の力を持つのだと仮定するなら、それが危険である可能性は高い。それに私は約束をしているのだ」
「約束?」
「うむ。ケツァル殿とのな…。ゆえに私は魔竜を封印せねばならないのだ」
どうやらセルシウスはケツァル王とは面識があるようだった。
「わかりました。では、まず俺は一体何をすれば?」
「うむ。まずは……」
火竜王はガルフとフロウに指示を出した。
そしてムスペ城からは、二頭のアキレア竜が飛び立っていった。
一方は同じくオーシャンの血を引く兄弟たちに協力を要請するために。一方は魔竜リムリプスの居場所を探るために。