Chapter11「魔竜の復活」
「ウィルオン! おまえこそがケツァル王が子孫、3代目ケツァルなのですよ!!」
耳を疑った。
俺が――なんだって?
「王様の3代目! ウィルオン君は王子様だったのだ!? いや、王様の子どもが王子でその王子の子どもは……何て呼ぶのだ? それはともかく、ウィルオン君!!」
タネはかせが驚いた声を上げる。
それを聞いて再確認する。
「俺が……おまえの言うケツァル王国の、王の子孫だと?」
蒼竜は憎むような目つきでウィルオンを睨みつつ答える。
「ええ、そうです。おまえこそ、ケツァル王家の遺児。私がバルハラに国を再興すると誓った以上、王家の血は邪魔ものでしかない。ですから、おまえにはここで消えてもらわねばなりません」
「ケツァルの3代目……と言ったな。それじゃあ、2代目はどこへ行った? それが俺の父親なのか」
「2代目ケツァル、カサンドラ。幸い王子は初代ケツァル程の力は持ってはいませんでした。ですので……眠ってもらいましたよ」
「……そうか。なら俺の母は」
「同じく蛇竜族のミズチという者。癒國に隠れ住んでいましたが、まさか子どもがいたとはね」
「それが俺というわけか」
「私が憎いですか? おまえの両親を手にかけたこの私が…」
俺は物心ついたときから、タネはかせとともに暮らしてきたのだ。そしてナープやティルたちとともに日々を過ごしてきたのだ。
それが俺のすべてだ。
王家の血筋を引く者だと突然言われてもピンと来るわけもない。
「王家だかなんだか知らないが、そんなものは知るか。俺は俺だ、そんなにバルハラが欲しいならくれてやるよ。俺はケツァル王国なんて知らなかったし興味もない。だから、おまえに命を狙われる謂われはない!」
王国だとか王家の血だとか、そんなものは知ったことではない。
現に、こうして言われるまでは自分がケツァルの子孫だなんてことは知らなかった。そしてラルガに会わなければ、一生それを知ることもなかったのだろう。
それを今さら自分の正体を知ったところで何が変わるというのだろうか。
しかしこの蒼竜はそれでは納得できないようだった。
なおもラルガはウィルオンを睨み続ける。
「ケツァル王はあろうことか聖なるバルハラの地を、裏切りを以って穢したのです。その罪は血を以って償われなければならない。私はケツァルの一族を許せない!」
「だからなんだ! 俺はケツァルなんか知らない! 俺が放棄すると言ってるんだ、あとは再興するなり滅ぼすなり勝手にしてくれよ……俺を巻き込まないでくれ!!」
顔も姿も知らないような先祖の行いが原因で、自分の命が危険な目に晒されてはたまったもんではない。
その初代ケツァル王様とやらは、ずいぶんと子孫に迷惑なことをしてくれたものだと思わず呆れる。
「ケツァルか。なるほど、それで”僕”を狙ったんだな」
黙って話に耳を傾けていたティルが静かに言った。
「ティル……?」
しかし、それは自分たちの知る”ティル”とは少し感じが違って見えた。
「だからケツァルと同等の力を持つ僕たち魔竜の力を使ってウィルオンに対抗しようとしたんだね。たしかにウィルオンは2代目とは違う。本人は気付いていないけど、彼には強大な魔力が秘められている。非常に高い魔法耐性がその証拠…」
「”僕たち”魔竜!? ティル、何を言って……」
ティルを見つめる。視線が合う。
しかし、ティルは寂しそうな様子で目をそらしてしまった。
「ほう、記憶が戻ったのですか」
どうやらラルガは何か事情を知っているらしい。
「そう、かつてケツァルに匹敵する力を持つ4体の魔竜が存在しました。そのひとつがリムリプス。すなわちここにいるティルです」
「ティルが魔竜!?」
リムリプスとは封印された魔竜のうちの一体だった。
魔竜はストラグル、リムリプス、フェギオン、メロフィスの4体。
ケツァルの死により封印が弱まり、かつてストラグル以外の魔竜は復活を果たしてしまった。
それを先代天竜オーシャンが再度封印しにかかったが、道半ばで力尽き完全に封印しきれず終わった。
フェギオンとメロフィスは再び封じられたが、そのまま行方知れずになっていたのがリムリプスだった。
「でも、なんでティルが魔竜なんだよ! 証拠でもあるっていうのか!?」
認めたくないといった様子でリクが食ってかかる。
それを受けてラルガがリムリプスについて説明し始める。
リムリプスは分身や己の姿を隠す魔法、そして転移魔法に長けている魔竜だった。
ただ対象をワープさせるだけではなく、空間そのものを別の次元に送り込んでしまえる程の力を誇ったという。さらに自身の姿を変えて見せて相手の目を欺くことを得意としていた。
空間を操り別次元を操作する能力。それがこそがリムリプスの力だった。
空間を捻じ曲げる能力はありとあらゆるものを無に葬り去ることができ、またありとあらゆるものを別の世界から送り込むことができる。この力を使えばどんなものでも即座に消滅させることが可能で、いつでもどんな場所にでも伏兵を送り込むことさえできた。
その力を恐れる者たちは、この強大な力を持つ魔竜をこう呼んだ。
『Transferor Imitator Lim Leaps』
すなわち『空間を転送する者、目を欺く者、リムリプス』と。
「――その頭文字を繋げて、しばしばその魔竜はこう呼ばれていました。『Till』と」
「ティ……ル…!!?」
オーシャンの手により封印されそうになったリムリプスは、グランディア種の幼竜に化けることで敵の目を欺き難を逃れようとした。結果的にはオーシャンが力尽きてしまったことにより、封印は達せられることはなかった。
だがその影響でリムリプス……つまりティルは記憶を失うことになったのだ。
2年前、ティルを餌にラルガは憎むべきケツァルの末裔ウィルオンを呼び寄せようとした。そこで彼はティルの正体を知ることとなる。
そして水門の城の一件でウィルオンが高い魔法耐性力を持つことを知ったラルガは、記憶を失った魔竜をうまく味方につけることでウィルオンを倒そうと考えたのだった。
「でもこうして記憶は戻った。そうなった以上、僕は絶対におまえに協力はしない。ウィルオンは僕の大事な友達だ。その友達の命を狙うというのなら、おまえが僕の敵だ。どうしてもウィルオンを消すというのなら、代わりに僕がおまえを消し去ってやる!」
ティルの姿がまるで蜃気楼のように歪んでいく。大きな気が周囲に満ち溢れる。
姿相応の大きさだったティルの影が見る見るうちに大きくなり、それはリクたちから見れば十分巨体に見えるラルガさえも軽く超えてしまう。
さっきまでティルがいたところに、ラルガの数倍はあるだろう巨大な蒼竜リムリプスが姿を現した。
ティルのような鮮やかな蒼、あるいはラルガのような暗い蒼ではなく、少しくすんだ蒼銀色の鱗を持つ山のような巨竜だ。タネはかせ程度なら簡単に片手で握り潰してしまえるだろう。
「本性を現したようですね! さすがは魔竜、なんと凄まじい魔力……。だが、おまえが協力する意思があろうとなかろうと、そんなことは関係ない!!」
ラルガが何やら聞いたことのない言語を口ずさむ。
すると、リムリプスはまるで硬直したかのように動きを止めた。両手が力なくだらりと前へ垂れる。目は虚ろに、真っ直ぐウィルオンを睨みつける。
「魔竜といえど、封印が解けたばかりでは力も戻り切ってはいまい。そんな状態ならば、この程度は造作もないことです……。さぁリムリプス、ウィルオンを消し去るのだ!!」
「まさか古代魔法!? 失われたはずじゃ…」
ウィザは驚いて目を丸くする。
かつて魔法が栄えていた時代に存在したという、相手の意思に関係なく強制的に相手の自由を奪い、術者の思うがままに操る禁断の闇の魔法。あまりの危険性のために封印され、そのまま第3世界の魔法文明が滅んだために失われてしまったはずだった。
失われた古代の魔法として文献でしかその存在を知らなかった。
その古代魔法が今、目の前で発現している。蒼竜の手によって。
「私はその第3世界からの生き残り。それはあとの時代に生まれた者たちの勝手な解釈に過ぎません。よもや、私もこの魔法を使う日が来るとは思いませんでしたが……今となっては、もはやそれを咎める者もいまい。さぁ、リムリプス! 憎むべきケツァルの遺児を葬り去るのです! 今こそ、ケツァルの一族に復讐を果たす時!!」
リムリプスは命令されるがままに、ウィルオンに対して目を光らせる。
「嘘だろ…。まさかティルと戦わなくちゃならないなんて…!」
魔竜がゆっくりと迫る。
ずしんと腹に響く衝撃。その巨体は一歩ごとに大地を震わせる。
なんて強大な存在。凄まじい魔力。しかもそれはかけがえのない友達だ。
戦いたくない。しかし、戦わなければやられる。
あるいは震えているのは自分自身なのかもしれない。
大切な友達が敵として立ちはだかるこの衝撃。
「くっくっく…。ティルが相手では手も足も出せまい!」
ラルガの言うとおりだった。
葛藤に思わず奥歯を噛み締める。
(この戦いは避けられないのか?)
願わくば、奇跡が起こって戦わずに解決してほしいと切に祈る。
すると、にわかに暗雲が立ち込めて嵐が如く雷の渦がリムリプスを襲う。
「何だ!?」
「あっ、ごめん」
まだ魔法を練習していたタネはかせの『サンダーストーム』が発動したのだ。
「何やってんだ、タネはかせぇええ!!」
リクがタネはかせを締め上げる。
「いたたたた! ……でもすごいのだ。やったのだ。もしかして私って才能あるかも!」
リムリプスは雷の衝撃で気を失って倒れた。
いくら相手の意思を無視して操る魔法とはいえ、対象が気を失ってしまっては操ることはできないようだった。
悔しそうに舌打ちをする蒼竜の姿が見える。
「くっ、まさか本当に攻撃してくるとは容赦のない…。では仕方ありませんね、ならばもう一体の魔竜の力を借りるまで!」
足下に目をやる。
ラルガたちがいるのは瓦礫の積み重なった丘の上だ。
瓦礫の山や砂丘の谷間には今も数多くの主なき機械たちがうごめいている。
「あれを見てください。もっとでっかいリミットが現れたようです。銀のリミットです!」
「今日は珍しいリミットがたくさん現れますね。たーまやー」
「ぼくもいつかきっと珍しくなってみせます!」
その儚き機械たちに向かってラルガはリムリプスにかけたものと同じ精神操作の古代魔法を放つ。
魔竜と比べればリミットたちを操ることなど造作もないことだ。
機械に精神操作が通用するのかは疑問が残る点だが、そんな心配はよそに操られたリミットたちはラルガの思うがままに行動する。
主を得た機械たちは主の命令するがままに瓦礫の山を登り、その頂上に立つストラグルの封石へと次々にぶつかっていく。リミットたちは封石の力で封じられ、儚くも次々と姿を消していった。
「奴め、一体何をするつもりだ」
リミットたちが封石に吸い込まれていくほどに、封石の輝きは激しくなっていく。
そして封石は一体どれだけのリミットを呑み込んだだろう。限界点を突破した封石についにひびが入った。
リミットたちは封石の危険性をラルガに教えていただけではなかった。
戦いが始まる前のこと。封石はリミットたちを呑み込むと鼓動を刻むかのように光り始めたのだ。
古代の機械がどれほどの力を秘めているのかはわからないが、封石はリミットたちを呑み込むほどに輝きを増し、その封印の力を弱めていった。
封印の力が弱まる程に、封石は魔竜の力を抑え切れなくなる。
結果として、リミットたちは封印の解き方を教えてくれていたのだった。
そしてついに、激しく点滅しながら封石が砕け散る。
石が砕け散ったあとには大量のリミットたちがどこからともなく溢れ出し、瓦礫の山を転がり落ちて行った。
さらに、リムリプスのときと同様に大きな気が満ちる。あるいはそれ以上の魔力だ。
リムリプスよりもさらに一回り大きな黒竜がその場に姿を現した。
魔竜たちの中でも最も強力な力を誇ったという魔竜。その名は――ストラグル!
耳を疑った。
俺が――なんだって?
「王様の3代目! ウィルオン君は王子様だったのだ!? いや、王様の子どもが王子でその王子の子どもは……何て呼ぶのだ? それはともかく、ウィルオン君!!」
タネはかせが驚いた声を上げる。
それを聞いて再確認する。
「俺が……おまえの言うケツァル王国の、王の子孫だと?」
蒼竜は憎むような目つきでウィルオンを睨みつつ答える。
「ええ、そうです。おまえこそ、ケツァル王家の遺児。私がバルハラに国を再興すると誓った以上、王家の血は邪魔ものでしかない。ですから、おまえにはここで消えてもらわねばなりません」
「ケツァルの3代目……と言ったな。それじゃあ、2代目はどこへ行った? それが俺の父親なのか」
「2代目ケツァル、カサンドラ。幸い王子は初代ケツァル程の力は持ってはいませんでした。ですので……眠ってもらいましたよ」
「……そうか。なら俺の母は」
「同じく蛇竜族のミズチという者。癒國に隠れ住んでいましたが、まさか子どもがいたとはね」
「それが俺というわけか」
「私が憎いですか? おまえの両親を手にかけたこの私が…」
俺は物心ついたときから、タネはかせとともに暮らしてきたのだ。そしてナープやティルたちとともに日々を過ごしてきたのだ。
それが俺のすべてだ。
王家の血筋を引く者だと突然言われてもピンと来るわけもない。
「王家だかなんだか知らないが、そんなものは知るか。俺は俺だ、そんなにバルハラが欲しいならくれてやるよ。俺はケツァル王国なんて知らなかったし興味もない。だから、おまえに命を狙われる謂われはない!」
王国だとか王家の血だとか、そんなものは知ったことではない。
現に、こうして言われるまでは自分がケツァルの子孫だなんてことは知らなかった。そしてラルガに会わなければ、一生それを知ることもなかったのだろう。
それを今さら自分の正体を知ったところで何が変わるというのだろうか。
しかしこの蒼竜はそれでは納得できないようだった。
なおもラルガはウィルオンを睨み続ける。
「ケツァル王はあろうことか聖なるバルハラの地を、裏切りを以って穢したのです。その罪は血を以って償われなければならない。私はケツァルの一族を許せない!」
「だからなんだ! 俺はケツァルなんか知らない! 俺が放棄すると言ってるんだ、あとは再興するなり滅ぼすなり勝手にしてくれよ……俺を巻き込まないでくれ!!」
顔も姿も知らないような先祖の行いが原因で、自分の命が危険な目に晒されてはたまったもんではない。
その初代ケツァル王様とやらは、ずいぶんと子孫に迷惑なことをしてくれたものだと思わず呆れる。
「ケツァルか。なるほど、それで”僕”を狙ったんだな」
黙って話に耳を傾けていたティルが静かに言った。
「ティル……?」
しかし、それは自分たちの知る”ティル”とは少し感じが違って見えた。
「だからケツァルと同等の力を持つ僕たち魔竜の力を使ってウィルオンに対抗しようとしたんだね。たしかにウィルオンは2代目とは違う。本人は気付いていないけど、彼には強大な魔力が秘められている。非常に高い魔法耐性がその証拠…」
「”僕たち”魔竜!? ティル、何を言って……」
ティルを見つめる。視線が合う。
しかし、ティルは寂しそうな様子で目をそらしてしまった。
「ほう、記憶が戻ったのですか」
どうやらラルガは何か事情を知っているらしい。
「そう、かつてケツァルに匹敵する力を持つ4体の魔竜が存在しました。そのひとつがリムリプス。すなわちここにいるティルです」
「ティルが魔竜!?」
リムリプスとは封印された魔竜のうちの一体だった。
魔竜はストラグル、リムリプス、フェギオン、メロフィスの4体。
ケツァルの死により封印が弱まり、かつてストラグル以外の魔竜は復活を果たしてしまった。
それを先代天竜オーシャンが再度封印しにかかったが、道半ばで力尽き完全に封印しきれず終わった。
フェギオンとメロフィスは再び封じられたが、そのまま行方知れずになっていたのがリムリプスだった。
「でも、なんでティルが魔竜なんだよ! 証拠でもあるっていうのか!?」
認めたくないといった様子でリクが食ってかかる。
それを受けてラルガがリムリプスについて説明し始める。
リムリプスは分身や己の姿を隠す魔法、そして転移魔法に長けている魔竜だった。
ただ対象をワープさせるだけではなく、空間そのものを別の次元に送り込んでしまえる程の力を誇ったという。さらに自身の姿を変えて見せて相手の目を欺くことを得意としていた。
空間を操り別次元を操作する能力。それがこそがリムリプスの力だった。
空間を捻じ曲げる能力はありとあらゆるものを無に葬り去ることができ、またありとあらゆるものを別の世界から送り込むことができる。この力を使えばどんなものでも即座に消滅させることが可能で、いつでもどんな場所にでも伏兵を送り込むことさえできた。
その力を恐れる者たちは、この強大な力を持つ魔竜をこう呼んだ。
『Transferor Imitator Lim Leaps』
すなわち『空間を転送する者、目を欺く者、リムリプス』と。
「――その頭文字を繋げて、しばしばその魔竜はこう呼ばれていました。『Till』と」
「ティ……ル…!!?」
オーシャンの手により封印されそうになったリムリプスは、グランディア種の幼竜に化けることで敵の目を欺き難を逃れようとした。結果的にはオーシャンが力尽きてしまったことにより、封印は達せられることはなかった。
だがその影響でリムリプス……つまりティルは記憶を失うことになったのだ。
2年前、ティルを餌にラルガは憎むべきケツァルの末裔ウィルオンを呼び寄せようとした。そこで彼はティルの正体を知ることとなる。
そして水門の城の一件でウィルオンが高い魔法耐性力を持つことを知ったラルガは、記憶を失った魔竜をうまく味方につけることでウィルオンを倒そうと考えたのだった。
「でもこうして記憶は戻った。そうなった以上、僕は絶対におまえに協力はしない。ウィルオンは僕の大事な友達だ。その友達の命を狙うというのなら、おまえが僕の敵だ。どうしてもウィルオンを消すというのなら、代わりに僕がおまえを消し去ってやる!」
ティルの姿がまるで蜃気楼のように歪んでいく。大きな気が周囲に満ち溢れる。
姿相応の大きさだったティルの影が見る見るうちに大きくなり、それはリクたちから見れば十分巨体に見えるラルガさえも軽く超えてしまう。
さっきまでティルがいたところに、ラルガの数倍はあるだろう巨大な蒼竜リムリプスが姿を現した。
ティルのような鮮やかな蒼、あるいはラルガのような暗い蒼ではなく、少しくすんだ蒼銀色の鱗を持つ山のような巨竜だ。タネはかせ程度なら簡単に片手で握り潰してしまえるだろう。
「本性を現したようですね! さすがは魔竜、なんと凄まじい魔力……。だが、おまえが協力する意思があろうとなかろうと、そんなことは関係ない!!」
ラルガが何やら聞いたことのない言語を口ずさむ。
すると、リムリプスはまるで硬直したかのように動きを止めた。両手が力なくだらりと前へ垂れる。目は虚ろに、真っ直ぐウィルオンを睨みつける。
「魔竜といえど、封印が解けたばかりでは力も戻り切ってはいまい。そんな状態ならば、この程度は造作もないことです……。さぁリムリプス、ウィルオンを消し去るのだ!!」
「まさか古代魔法!? 失われたはずじゃ…」
ウィザは驚いて目を丸くする。
かつて魔法が栄えていた時代に存在したという、相手の意思に関係なく強制的に相手の自由を奪い、術者の思うがままに操る禁断の闇の魔法。あまりの危険性のために封印され、そのまま第3世界の魔法文明が滅んだために失われてしまったはずだった。
失われた古代の魔法として文献でしかその存在を知らなかった。
その古代魔法が今、目の前で発現している。蒼竜の手によって。
「私はその第3世界からの生き残り。それはあとの時代に生まれた者たちの勝手な解釈に過ぎません。よもや、私もこの魔法を使う日が来るとは思いませんでしたが……今となっては、もはやそれを咎める者もいまい。さぁ、リムリプス! 憎むべきケツァルの遺児を葬り去るのです! 今こそ、ケツァルの一族に復讐を果たす時!!」
リムリプスは命令されるがままに、ウィルオンに対して目を光らせる。
「嘘だろ…。まさかティルと戦わなくちゃならないなんて…!」
魔竜がゆっくりと迫る。
ずしんと腹に響く衝撃。その巨体は一歩ごとに大地を震わせる。
なんて強大な存在。凄まじい魔力。しかもそれはかけがえのない友達だ。
戦いたくない。しかし、戦わなければやられる。
あるいは震えているのは自分自身なのかもしれない。
大切な友達が敵として立ちはだかるこの衝撃。
「くっくっく…。ティルが相手では手も足も出せまい!」
ラルガの言うとおりだった。
葛藤に思わず奥歯を噛み締める。
(この戦いは避けられないのか?)
願わくば、奇跡が起こって戦わずに解決してほしいと切に祈る。
すると、にわかに暗雲が立ち込めて嵐が如く雷の渦がリムリプスを襲う。
「何だ!?」
「あっ、ごめん」
まだ魔法を練習していたタネはかせの『サンダーストーム』が発動したのだ。
「何やってんだ、タネはかせぇええ!!」
リクがタネはかせを締め上げる。
「いたたたた! ……でもすごいのだ。やったのだ。もしかして私って才能あるかも!」
リムリプスは雷の衝撃で気を失って倒れた。
いくら相手の意思を無視して操る魔法とはいえ、対象が気を失ってしまっては操ることはできないようだった。
悔しそうに舌打ちをする蒼竜の姿が見える。
「くっ、まさか本当に攻撃してくるとは容赦のない…。では仕方ありませんね、ならばもう一体の魔竜の力を借りるまで!」
足下に目をやる。
ラルガたちがいるのは瓦礫の積み重なった丘の上だ。
瓦礫の山や砂丘の谷間には今も数多くの主なき機械たちがうごめいている。
「あれを見てください。もっとでっかいリミットが現れたようです。銀のリミットです!」
「今日は珍しいリミットがたくさん現れますね。たーまやー」
「ぼくもいつかきっと珍しくなってみせます!」
その儚き機械たちに向かってラルガはリムリプスにかけたものと同じ精神操作の古代魔法を放つ。
魔竜と比べればリミットたちを操ることなど造作もないことだ。
機械に精神操作が通用するのかは疑問が残る点だが、そんな心配はよそに操られたリミットたちはラルガの思うがままに行動する。
主を得た機械たちは主の命令するがままに瓦礫の山を登り、その頂上に立つストラグルの封石へと次々にぶつかっていく。リミットたちは封石の力で封じられ、儚くも次々と姿を消していった。
「奴め、一体何をするつもりだ」
リミットたちが封石に吸い込まれていくほどに、封石の輝きは激しくなっていく。
そして封石は一体どれだけのリミットを呑み込んだだろう。限界点を突破した封石についにひびが入った。
リミットたちは封石の危険性をラルガに教えていただけではなかった。
戦いが始まる前のこと。封石はリミットたちを呑み込むと鼓動を刻むかのように光り始めたのだ。
古代の機械がどれほどの力を秘めているのかはわからないが、封石はリミットたちを呑み込むほどに輝きを増し、その封印の力を弱めていった。
封印の力が弱まる程に、封石は魔竜の力を抑え切れなくなる。
結果として、リミットたちは封印の解き方を教えてくれていたのだった。
そしてついに、激しく点滅しながら封石が砕け散る。
石が砕け散ったあとには大量のリミットたちがどこからともなく溢れ出し、瓦礫の山を転がり落ちて行った。
さらに、リムリプスのときと同様に大きな気が満ちる。あるいはそれ以上の魔力だ。
リムリプスよりもさらに一回り大きな黒竜がその場に姿を現した。
魔竜たちの中でも最も強力な力を誇ったという魔竜。その名は――ストラグル!
黒竜は威圧的なオーラを放っている。
強大な力を持っていることは魔法に詳しくない者の身にも明らかに感じられた。
「おまえさえ消えればついにケツァルの血筋は絶える。そして私がバルハラを蘇らせる。ストラグルの力を借りてウィルオンを倒す!」
ラルガは黒竜を操ろうと試みた。
リムリプスを操ったときと同様の呪文を詠唱する。
しかし、ストラグルは初代ケツァルが他の魔竜を差し置いてとりわけ厳重に封印していた存在。侮っては痛い目を見るだけである。
「効かない……だと!」
ラルガの精神操作の魔法は全く効果がなかった。
黒竜はラルガを見下ろして言う。
「なんだ貴様? 貴様如きがこの我を操ろうなどとは愚かしいことよ。だが解放してくれたことは感謝しよう。これでようやくケツァルめに復讐できるというものだ」
黒竜はまっすぐにウィルオンを睨んだ。
「ほう、感じるぞ。ケツァルと同じ色の魔力を持っているな。貴様、ケツァルと何か関係があるのか?」
「お、俺は……べ、別に!」
問う黒竜にウィルオンに代わってラルガが答えた。
「おまえの憎むべきケツァルはすでに死にました。その者はケツァル一族の最後の生き残り。すなわちウィルオンを倒すことがケツァルへの復讐になるのです。さぁストラグル、今こそ復讐を!」
黒竜は不機嫌そうにラルガを睨んだが、すぐに視線をウィルオンに戻した。
「ふん、小うるさい奴め。貴様に命令される筋合いなどないわ! しかしケツァルが死んだだと? ……我が敵はケツァルのみ、あのような者など我は知らぬ。ケツァルがいなくなったのなら、もう復讐する必要などあるまい」
「そ、そんな! あいつはおまえを封印したケツァルの子孫なんです。それも最後の一頭だ! もう少しでケツァルの一族を全て葬り去ることができるというのに……!」
「黙れ。復讐の必要はもうないと言っている。我は我の好きなようにさせてもらう」
なおも食い下がるラルガに一切関心を示さず、黒竜は自身の目的を語る。
ケツァル王国は今でこそケツァルが興し敵対した魔竜たちが封じられたと伝えられているが、実際は少し違った。
バルハラの新王国はそもそもケツァルと魔竜たちの5竜によって興された国だった。
しかし意見の不一致からそれぞれが対立、最終的に勝ち残ったのがケツァルであり、負けた4頭は封印されてケツァルに敵対した魔竜として後世に伝えられることになったのだ。
もし立場が違えばケツァルが魔竜として封印され、ストラグルやリムリプスが神竜と呼ばれ王となっていた未来もあっただろう。
そして対立したケツァルがいなくなった今、黒竜は改めて己が目的に向かって動き始めるのだった。そんなストラグルの目的とは――
「我は世界の全ての国を大樹の王国として統一すべきだと考えたのだ。全てがひとつとなれば自ずと敵はなくなり争いは起こらぬ。その障害になるものはすべて排除すればよい。我に邪魔立てするならば、まずは鬱陶しい貴様から消してくれようぞ!」
「な、何!」
黒竜は攻撃の矛先を真っ先にラルガに向けた。
凄まじい気が満ちる。空は暗雲に覆われて雷鳴がとどろき始める。
「あー。よくわからないけど、これはお約束の『悪役が力を制御できずに自滅するパターン』に入ったようなのだ。これで一件落着はもう目に見えているのだ。ティル君やウィルオン君の正体もわかったことだし、めでたしめでたしだね」
タネはかせは気楽にそう言ってのけるが、
「案ずるな。おまえたちは後でゆっくり消してやる。手始めにこの邪魔な地上の世界を全て潰すとしよう。そうだな、三日だけ待つがよい。三日で地上の全ての者を我がバルハラに服従させてみせようぞ!」
黒竜の目的は言いかえれば、バルハラ以外の全ての制服だった。
バルハラが滅んだ今、対象となるのは世界の全て。この強大な黒竜ならば本当に全てを滅ぼしてしまいかねない。
「あいつめ、どエラいもん復活させてくれやがったな」
「あんなこと言ってるよ! ど、どうするの!?」
「どうもこうも、黙って滅ぼされるのを待ってるわけにもいかないだろう! 俺たちがなんとかするしかない。大丈夫、こんどはティルと戦うわけじゃない」
「無理だって、あんなすごそうなの!! 一番強い魔竜とか言ってたし、オレたちじゃ敵わないよ! そうだ、地上のあっちこっちに協力を頼んで…」
「落ち着けリシェ、そんな暇はねーぞ。大丈夫だ、魔竜だろうとおまえだろうとおれが食ってやるから問題ない」
「私に任せるのだ。きっと主人公補正で無事なんとかなるに決まってるのだ。とりあえずタネリミ君突撃ィ」
「無謀だ…。ウィザ、それよりも再び封印することはできないのか」
「初代ケツァルと同等の力なんでしょ!? ティルは気絶してるし、ウィルオンは素質あるらしいけど全然魔法出せてなかったし、ボクだけじゃ封印なんてとてもできない!」
勝ち目は全く見えないが立ち向かおうとする者。
慌てて混乱に陥る者。楽観的な者。
「ああ、なんということでしょう。ぼくにそっくりな機械がたくさんいました。ついに還るべき故郷を見つけた!」
それから論点がズレている者。
思わぬ事態の連続に冷静さを欠く一行の前に黒竜が立ち塞がる。
「全く騒がしいものよ。そこまで言うのなら特別におまえたちから消してやろうぞ。誰からだ? 前に出るがいい!」
「!! ラ、ラルガはどうしたんだ!?」
「奴なら向こうで消し炭になっておるわ」
黒竜の背後に黒コゲになった蒼竜の姿が見えた。
水門の城での戦いでは圧倒的な力の差で一行を苦しめたあの蒼竜が、ほんの数秒であのとおりだ。
圧倒的な魔力のさらに上をいく魔竜ストラグル。奇跡でも起こらない限り”ウィルオンたちは絶対に敵わない”相手だ。
「どうした、遠慮はいらぬぞ。あまり我を無為に待たせるな。……よかろう、それならばまとめて消してやる!」
黒竜の大顎が天地を裂くかのように開かれる。
息を大きく吸い込むと、黒竜は漆黒の業火を吐き出した。
ウィザは咄嗟に魔力のシールドを張る。しかし、その程度のものでは到底防ぎきれるわけがない。
タネはかせはタネリミに命令を送る。しかし、タネリミはリミットたちに気を取られてどこかへ行ってしまっていた。
ティルなら同じ魔竜としてストラグルに対抗できるかもしれない。しかし、ティルは気を失ったままだ。
リクが一歩前に出て仲間を庇う。メタメタが炎を食べようと大口を開ける。しかし、そんなことをしても全くの無駄だ。
ウィルオンはここぞというときに、ラルガの言うケツァルの血が目覚めて力を発揮できることを祈る。しかし、祈ったところで奇跡など起きるわけがない。
リシェやウクツは何もすることができない。
強大な力を持っていることは魔法に詳しくない者の身にも明らかに感じられた。
「おまえさえ消えればついにケツァルの血筋は絶える。そして私がバルハラを蘇らせる。ストラグルの力を借りてウィルオンを倒す!」
ラルガは黒竜を操ろうと試みた。
リムリプスを操ったときと同様の呪文を詠唱する。
しかし、ストラグルは初代ケツァルが他の魔竜を差し置いてとりわけ厳重に封印していた存在。侮っては痛い目を見るだけである。
「効かない……だと!」
ラルガの精神操作の魔法は全く効果がなかった。
黒竜はラルガを見下ろして言う。
「なんだ貴様? 貴様如きがこの我を操ろうなどとは愚かしいことよ。だが解放してくれたことは感謝しよう。これでようやくケツァルめに復讐できるというものだ」
黒竜はまっすぐにウィルオンを睨んだ。
「ほう、感じるぞ。ケツァルと同じ色の魔力を持っているな。貴様、ケツァルと何か関係があるのか?」
「お、俺は……べ、別に!」
問う黒竜にウィルオンに代わってラルガが答えた。
「おまえの憎むべきケツァルはすでに死にました。その者はケツァル一族の最後の生き残り。すなわちウィルオンを倒すことがケツァルへの復讐になるのです。さぁストラグル、今こそ復讐を!」
黒竜は不機嫌そうにラルガを睨んだが、すぐに視線をウィルオンに戻した。
「ふん、小うるさい奴め。貴様に命令される筋合いなどないわ! しかしケツァルが死んだだと? ……我が敵はケツァルのみ、あのような者など我は知らぬ。ケツァルがいなくなったのなら、もう復讐する必要などあるまい」
「そ、そんな! あいつはおまえを封印したケツァルの子孫なんです。それも最後の一頭だ! もう少しでケツァルの一族を全て葬り去ることができるというのに……!」
「黙れ。復讐の必要はもうないと言っている。我は我の好きなようにさせてもらう」
なおも食い下がるラルガに一切関心を示さず、黒竜は自身の目的を語る。
ケツァル王国は今でこそケツァルが興し敵対した魔竜たちが封じられたと伝えられているが、実際は少し違った。
バルハラの新王国はそもそもケツァルと魔竜たちの5竜によって興された国だった。
しかし意見の不一致からそれぞれが対立、最終的に勝ち残ったのがケツァルであり、負けた4頭は封印されてケツァルに敵対した魔竜として後世に伝えられることになったのだ。
もし立場が違えばケツァルが魔竜として封印され、ストラグルやリムリプスが神竜と呼ばれ王となっていた未来もあっただろう。
そして対立したケツァルがいなくなった今、黒竜は改めて己が目的に向かって動き始めるのだった。そんなストラグルの目的とは――
「我は世界の全ての国を大樹の王国として統一すべきだと考えたのだ。全てがひとつとなれば自ずと敵はなくなり争いは起こらぬ。その障害になるものはすべて排除すればよい。我に邪魔立てするならば、まずは鬱陶しい貴様から消してくれようぞ!」
「な、何!」
黒竜は攻撃の矛先を真っ先にラルガに向けた。
凄まじい気が満ちる。空は暗雲に覆われて雷鳴がとどろき始める。
「あー。よくわからないけど、これはお約束の『悪役が力を制御できずに自滅するパターン』に入ったようなのだ。これで一件落着はもう目に見えているのだ。ティル君やウィルオン君の正体もわかったことだし、めでたしめでたしだね」
タネはかせは気楽にそう言ってのけるが、
「案ずるな。おまえたちは後でゆっくり消してやる。手始めにこの邪魔な地上の世界を全て潰すとしよう。そうだな、三日だけ待つがよい。三日で地上の全ての者を我がバルハラに服従させてみせようぞ!」
黒竜の目的は言いかえれば、バルハラ以外の全ての制服だった。
バルハラが滅んだ今、対象となるのは世界の全て。この強大な黒竜ならば本当に全てを滅ぼしてしまいかねない。
「あいつめ、どエラいもん復活させてくれやがったな」
「あんなこと言ってるよ! ど、どうするの!?」
「どうもこうも、黙って滅ぼされるのを待ってるわけにもいかないだろう! 俺たちがなんとかするしかない。大丈夫、こんどはティルと戦うわけじゃない」
「無理だって、あんなすごそうなの!! 一番強い魔竜とか言ってたし、オレたちじゃ敵わないよ! そうだ、地上のあっちこっちに協力を頼んで…」
「落ち着けリシェ、そんな暇はねーぞ。大丈夫だ、魔竜だろうとおまえだろうとおれが食ってやるから問題ない」
「私に任せるのだ。きっと主人公補正で無事なんとかなるに決まってるのだ。とりあえずタネリミ君突撃ィ」
「無謀だ…。ウィザ、それよりも再び封印することはできないのか」
「初代ケツァルと同等の力なんでしょ!? ティルは気絶してるし、ウィルオンは素質あるらしいけど全然魔法出せてなかったし、ボクだけじゃ封印なんてとてもできない!」
勝ち目は全く見えないが立ち向かおうとする者。
慌てて混乱に陥る者。楽観的な者。
「ああ、なんということでしょう。ぼくにそっくりな機械がたくさんいました。ついに還るべき故郷を見つけた!」
それから論点がズレている者。
思わぬ事態の連続に冷静さを欠く一行の前に黒竜が立ち塞がる。
「全く騒がしいものよ。そこまで言うのなら特別におまえたちから消してやろうぞ。誰からだ? 前に出るがいい!」
「!! ラ、ラルガはどうしたんだ!?」
「奴なら向こうで消し炭になっておるわ」
黒竜の背後に黒コゲになった蒼竜の姿が見えた。
水門の城での戦いでは圧倒的な力の差で一行を苦しめたあの蒼竜が、ほんの数秒であのとおりだ。
圧倒的な魔力のさらに上をいく魔竜ストラグル。奇跡でも起こらない限り”ウィルオンたちは絶対に敵わない”相手だ。
「どうした、遠慮はいらぬぞ。あまり我を無為に待たせるな。……よかろう、それならばまとめて消してやる!」
黒竜の大顎が天地を裂くかのように開かれる。
息を大きく吸い込むと、黒竜は漆黒の業火を吐き出した。
ウィザは咄嗟に魔力のシールドを張る。しかし、その程度のものでは到底防ぎきれるわけがない。
タネはかせはタネリミに命令を送る。しかし、タネリミはリミットたちに気を取られてどこかへ行ってしまっていた。
ティルなら同じ魔竜としてストラグルに対抗できるかもしれない。しかし、ティルは気を失ったままだ。
リクが一歩前に出て仲間を庇う。メタメタが炎を食べようと大口を開ける。しかし、そんなことをしても全くの無駄だ。
ウィルオンはここぞというときに、ラルガの言うケツァルの血が目覚めて力を発揮できることを祈る。しかし、祈ったところで奇跡など起きるわけがない。
リシェやウクツは何もすることができない。
――所詮、貴様たちは無力だ――
黒炎が迫る。
(もうおしまいか…!)
と、その時。
上空から一直線に、もの凄い速度で黒い影が突っ込んでくる。
影は黒炎とリクたちの間に落ちた。
衝撃と怒号。そして舞う砂塵。
空からやってきたそれは、勢いがままに黒い火炎をかき消した。
「チッ、何やら強い魔力が急に現れたと思ったら……こういうことか!」
砂塵が晴れると黒い影は黒い竜人族の姿に変わる。それはリクやウクツの姿に非常によく似ていた。
翼は持たないが強靭な肉体と長い尾を持つ。頭にはたてがみと左右に二対の計四本の角を持つ。
竜人族ホーンディア種。そして現在の天竜。
「ゼロ!!」
「親父!?」
ウクツとリクが同時に叫んだ。
「リムリプスまでいるじゃないか。ようやく見つけた…。だが、どうやらストラグルをどうにかするのが先と見える」
「お、親父。実は…」
「リク? なんでおまえがここに。危ないから下がっていろ、こいつは天竜の役目だ」
天竜ゼロは正眼に黒竜ストラグルを見据える。
黒竜と黒竜人が言葉なしに対峙する。
(ふむ…。少しはできるようだな)
黒竜が身構える。
天竜はリクたちを離れさせると、間合いを取って構える。
黒に囲まれた二対の金の眼と眼が睨み合った。
「魔竜……オーシャン様の無念…。ここに晴らす!」
天竜として。
慕う師の為に。
黒が黒に挑む。
(もうおしまいか…!)
と、その時。
上空から一直線に、もの凄い速度で黒い影が突っ込んでくる。
影は黒炎とリクたちの間に落ちた。
衝撃と怒号。そして舞う砂塵。
空からやってきたそれは、勢いがままに黒い火炎をかき消した。
「チッ、何やら強い魔力が急に現れたと思ったら……こういうことか!」
砂塵が晴れると黒い影は黒い竜人族の姿に変わる。それはリクやウクツの姿に非常によく似ていた。
翼は持たないが強靭な肉体と長い尾を持つ。頭にはたてがみと左右に二対の計四本の角を持つ。
竜人族ホーンディア種。そして現在の天竜。
「ゼロ!!」
「親父!?」
ウクツとリクが同時に叫んだ。
「リムリプスまでいるじゃないか。ようやく見つけた…。だが、どうやらストラグルをどうにかするのが先と見える」
「お、親父。実は…」
「リク? なんでおまえがここに。危ないから下がっていろ、こいつは天竜の役目だ」
天竜ゼロは正眼に黒竜ストラグルを見据える。
黒竜と黒竜人が言葉なしに対峙する。
(ふむ…。少しはできるようだな)
黒竜が身構える。
天竜はリクたちを離れさせると、間合いを取って構える。
黒に囲まれた二対の金の眼と眼が睨み合った。
「魔竜……オーシャン様の無念…。ここに晴らす!」
天竜として。
慕う師の為に。
黒が黒に挑む。