天竜の役目。
それはケツァル王国に仕え、魔竜の封印を守ること。
先代天竜にして我が師オーシャン様は志半ばにこの世を去った。
慕うオーシャン様の無念、この俺が晴らしてみせる。
それはケツァル王国に仕え、魔竜の封印を守ること。
先代天竜にして我が師オーシャン様は志半ばにこの世を去った。
慕うオーシャン様の無念、この俺が晴らしてみせる。
Chapter12「遺志を継ぐ者」
天竜ゼロと魔竜ストラグル。
因縁の二者が対峙する。
「おまえが最も力の強い魔竜だそうだな。オーシャン様の命を落とした直接の原因はおまえ以外の魔竜だが……これも因縁ってやつだ。俺は天竜でおまえは魔竜、悪く思うなよ。恨むなら自分の立場を恨め」
「立場だと? 魔竜などという立場は貴様らが勝手に押し付けたもの。我は我だ、それ以外に何者でもない」
「いいだろう。おまえはおまえの好きにすればいい。だが俺も俺の好きなようにしよう。俺はただ天竜の仕事だからという理由だけで魔竜を追っているわけじゃないんでね」
「我と我の争いか。我意の闘いとは概して想いの強い者が勝つのだ。我が一体どれだけの時間封じられてきたと思うか。貴様如き小さき者になど劣らぬ。我が意志は重いぞ」
「俺の背負う遺志はさらに重い」
黒と黒が睨み合う。
両者ともに一歩も譲らず、また微塵も動きを見せない。
この渇いた砂漠の空気すらもまるで質量を持ったかのように重く、代わりに口の中が緊張に渇く。砂漠の渇いた空気が厭な汗を撫でる。重湿にして渇いた状況に、誰も差すべき水など持ち合わせていない。
「すごいです! こんどは黒いリミットですよ」
「奇跡の特売日やー、ですやー。かーぎやー」
「こんな立て続けに信じられません。実はあれはリミットではないんじゃないかと疑ってしまうほどです」
否、心なき儚き極限たちは胴体に内包するリミット汁を以って水を差した。
三体の極限たちが魔竜と天竜の間に割って入る。それを合図にか、両者は同時に飛び出した。
魔竜の強襲が、天竜の一撃が襲う。極限たちが割れてリミット汁をぶちまける。
緊張の糸は溶けて切られた。
黒き二竜がぶつかり合い、激しい戦いに砂塵が舞う。リミット汁は足場の瓦礫を溶かし煙を立ち昇らせる。もう何も見えない。
視界の外から激しい戦いの音だけが聞こえてくる。
鳴動、咆哮、鈍く響き渡る音。爆音もあった。
大地が唸り、大気が悲鳴を上げる。
喧騒が収まると二竜は互いに位置が入れ替わった状態で再び対峙して姿を現した。
周囲は抉られた瓦礫の地面、奇怪に捻じ曲がった鉄骨、そしておびただしい数のリミットたちの残骸。
瓦礫の山と砂丘で構成されていた地形は崩れて、もうどこが山でどこが谷かはわからなくなっている。
「魔竜というわりには大したことないじゃないか…!」
ゼロが肩で息をしながら言う。
「天竜というわりには大したことがないな」
一方でストラグルは全く疲れを見せていない。
「くそっ……馬鹿にするなッ」
「よかろう。もう少しだけ本気を出してやる」
黒竜が走る。その巨体からは想像もできないような速さで天竜との間合いを詰める。
目前というところで勢い良く振り返り、遠心力に任せた尾の一撃が天竜に襲いかかる。
ゼロは弾き飛ばされて転がった。
起き上がるよりも早く、既に黒竜の姿がすぐそこに。その巨体が重量に任せて頭上からのしかかる。
勝ち誇ったように黒竜が腹の下を確認するがそこにゼロの姿はない。
そこは砂の地面。地に潜り、黒竜の背後にゼロが飛び出す。
手には身の丈もあろうかという鋼鉄の柱。それをゼロは軽々と振り上げると、重力に任せて黒竜の尾に叩きつける。
尾が奇妙な方向に折れ曲がり、黒竜から悲痛な咆哮が飛び出す。
「貴様ッ、ナメた真似を!」
黒竜の眼が怒りに染まる。
どす黒い炎を雨のように浴びせかけるが、ゼロは軽業師のように飛んで跳ねてこれをかわすと、かわした勢いでそのまま鉄柱を振りかぶり、こんどは黒竜の横腹にそれを叩きつける。
黒竜の巨体が砂と瓦礫の大地に横倒しになった。
ここぞとばかりにゼロが追い打ちをかけるが、黒竜は大木のように太い後脚でそれを蹴り飛ばす。
鉄柱でそれを受け止めるが鋼鉄の柱はくの字にひしゃげて、同じく身をくの字に折り曲げた姿でゼロが弾き飛ばされる。
その隙に立ち上がった黒竜はその巨体にして器用に宙返りし、鞭のようにしなる尾を地面に落ちたゼロに向かって振り下ろす。
素早く受け身を取って体勢を立て直したゼロは、折れ曲がった鉄柱の山の部分を天へと向けてそれを地面に突き立てた。そこに黒竜の尾が落ちてきて、折れた鉄柱の先端が鋭く尾に突き刺さる。骨折していた尾は千切れて宙を舞い、辺りを朱に染めながら後方に落ちた。
因縁の二者が対峙する。
「おまえが最も力の強い魔竜だそうだな。オーシャン様の命を落とした直接の原因はおまえ以外の魔竜だが……これも因縁ってやつだ。俺は天竜でおまえは魔竜、悪く思うなよ。恨むなら自分の立場を恨め」
「立場だと? 魔竜などという立場は貴様らが勝手に押し付けたもの。我は我だ、それ以外に何者でもない」
「いいだろう。おまえはおまえの好きにすればいい。だが俺も俺の好きなようにしよう。俺はただ天竜の仕事だからという理由だけで魔竜を追っているわけじゃないんでね」
「我と我の争いか。我意の闘いとは概して想いの強い者が勝つのだ。我が一体どれだけの時間封じられてきたと思うか。貴様如き小さき者になど劣らぬ。我が意志は重いぞ」
「俺の背負う遺志はさらに重い」
黒と黒が睨み合う。
両者ともに一歩も譲らず、また微塵も動きを見せない。
この渇いた砂漠の空気すらもまるで質量を持ったかのように重く、代わりに口の中が緊張に渇く。砂漠の渇いた空気が厭な汗を撫でる。重湿にして渇いた状況に、誰も差すべき水など持ち合わせていない。
「すごいです! こんどは黒いリミットですよ」
「奇跡の特売日やー、ですやー。かーぎやー」
「こんな立て続けに信じられません。実はあれはリミットではないんじゃないかと疑ってしまうほどです」
否、心なき儚き極限たちは胴体に内包するリミット汁を以って水を差した。
三体の極限たちが魔竜と天竜の間に割って入る。それを合図にか、両者は同時に飛び出した。
魔竜の強襲が、天竜の一撃が襲う。極限たちが割れてリミット汁をぶちまける。
緊張の糸は溶けて切られた。
黒き二竜がぶつかり合い、激しい戦いに砂塵が舞う。リミット汁は足場の瓦礫を溶かし煙を立ち昇らせる。もう何も見えない。
視界の外から激しい戦いの音だけが聞こえてくる。
鳴動、咆哮、鈍く響き渡る音。爆音もあった。
大地が唸り、大気が悲鳴を上げる。
喧騒が収まると二竜は互いに位置が入れ替わった状態で再び対峙して姿を現した。
周囲は抉られた瓦礫の地面、奇怪に捻じ曲がった鉄骨、そしておびただしい数のリミットたちの残骸。
瓦礫の山と砂丘で構成されていた地形は崩れて、もうどこが山でどこが谷かはわからなくなっている。
「魔竜というわりには大したことないじゃないか…!」
ゼロが肩で息をしながら言う。
「天竜というわりには大したことがないな」
一方でストラグルは全く疲れを見せていない。
「くそっ……馬鹿にするなッ」
「よかろう。もう少しだけ本気を出してやる」
黒竜が走る。その巨体からは想像もできないような速さで天竜との間合いを詰める。
目前というところで勢い良く振り返り、遠心力に任せた尾の一撃が天竜に襲いかかる。
ゼロは弾き飛ばされて転がった。
起き上がるよりも早く、既に黒竜の姿がすぐそこに。その巨体が重量に任せて頭上からのしかかる。
勝ち誇ったように黒竜が腹の下を確認するがそこにゼロの姿はない。
そこは砂の地面。地に潜り、黒竜の背後にゼロが飛び出す。
手には身の丈もあろうかという鋼鉄の柱。それをゼロは軽々と振り上げると、重力に任せて黒竜の尾に叩きつける。
尾が奇妙な方向に折れ曲がり、黒竜から悲痛な咆哮が飛び出す。
「貴様ッ、ナメた真似を!」
黒竜の眼が怒りに染まる。
どす黒い炎を雨のように浴びせかけるが、ゼロは軽業師のように飛んで跳ねてこれをかわすと、かわした勢いでそのまま鉄柱を振りかぶり、こんどは黒竜の横腹にそれを叩きつける。
黒竜の巨体が砂と瓦礫の大地に横倒しになった。
ここぞとばかりにゼロが追い打ちをかけるが、黒竜は大木のように太い後脚でそれを蹴り飛ばす。
鉄柱でそれを受け止めるが鋼鉄の柱はくの字にひしゃげて、同じく身をくの字に折り曲げた姿でゼロが弾き飛ばされる。
その隙に立ち上がった黒竜はその巨体にして器用に宙返りし、鞭のようにしなる尾を地面に落ちたゼロに向かって振り下ろす。
素早く受け身を取って体勢を立て直したゼロは、折れ曲がった鉄柱の山の部分を天へと向けてそれを地面に突き立てた。そこに黒竜の尾が落ちてきて、折れた鉄柱の先端が鋭く尾に突き刺さる。骨折していた尾は千切れて宙を舞い、辺りを朱に染めながら後方に落ちた。
「す、すげー。なんて戦いだ、あんなでかい竜と対等に戦うなんて…。リクの父さん、タダ者じゃないな!」
リシェは思わず感嘆の息を漏らした。
「おい、尻尾切断だぞ、尻尾切断! 天鱗が剥ぎ取れるといいな。黒魔竜の天鱗?」
メタメタが後に続く。
「この様子だと、もしかして勝てるんじゃないか!」
ウィルオンが期待するが、
「いえ、安心するのはまだ早いですよ。ケツァル王と同等だというのなら、ストラグルがこの程度の力のはずがない。奴はまだ全力を出していないのかもしれません。油断はできませんね…」
蒼竜は不安を口にする。
「まじかよ、どんだけ魔竜っていうのは強…………ってちょっと待て」
「はい?」
「はい、じゃねぇだろ。なんでおまえが一緒になって俺たちと観戦してるんだよ!」
ラルガはきょとんとした顔でウィルオンをしばらく見つめて、そして突然笑い始めた。
「何がおかしいんだ。俺たちは敵同士だろ!」
「くっくっく…。いえ失礼、あまりにも冷静に突っ込みを入れてくるものですから。くっくっくっく!」
「そうか、隙を見て俺を攻撃するつもりだったんだな! 思わず戦いに見入ってしまってた。危ねぇ」
「ああ、なるほど。そういう手もありましたか」
ラルガはさらに面白そうに笑った。
「……なんなんだこいつ」
「私もすっかり見入ってましたよ。こんなスケールの大きい戦いを見るのは何十年、いえ何百年ぶりでしょう。そう、まるであのときの……王宮が陥落した日。メーディと名乗る者に襲撃された日。加勢に来てくれた通りすがりの竜人族の戦いを思い出しますよ」
「はぁ」
「我々近衛部隊はまるで歯が立たなかった。そこに颯爽と現れたあの竜人族。結果的に王国は滅んでしまいましたが、もし王の乱心さえなければどうなっていたかわからない。あのときも私は彼の戦いに見入っていたものですよ。それはもうすごいもので! 是非とも我が国の兵士としてスカウトしたいところでした」
「なぁ、こいつ何か語り出したんだけど…」
「また去り際がかっこいいんです! これは後からヴァイルに聞いた話で……ああ、ヴァイルというのはまぁ、私の弟分のようなものなんですが、何でもヴァイルが彼の名を尋ねたそうなんです。すると彼は『たまたま居合わせただけだ。名乗るほどの者じゃない』と静かに去って行ったんだとか。あれほどの力を持ちながらまるで驕らない孤高の達人。能ある竜は魔力を隠す、とはまさに彼のためにある言葉ですね」
「おい、誰かこいつを止めてくれよ」
「そう、彼ほどの逸材がいればきっと最高の国を創ることができる。力がなければ何もできない。しかし力を持ち過ぎるとその者は驕り高ぶり威張り散らすようになる。そんな為政者が良い国を創れるわけがない! 私はケツァル王から最高の国というものがなんたるかを学んだ。ケツァルの血はもはや信用できない。危なっかしくて他の者たちに任せることもできない。彼が王になってくれれば最高なのだが、彼が今どこにいるのかもわからない。ならば私がやるしかない! ケツァル王から受け継いだ最高の国というものを私が実現してみせる!!」
「あーはいはい、そりゃーすごいね」
「あ、ああ……失礼。でもこんなにも心が躍るのはずいぶん久しぶりですよ。やはり力のある者は戦い方からして違う。見ていて勇気がもらえるというか……私も現役時代のことを思い出してしまいそうです」
「ああー…そりゃよかったね。で、どういう魂胆だ!? 俺とサシで戦えとでも言い出すのか」
「決闘ですか、それも悪くない」
「そうじゃない。俺とおまえは敵同士、それにおまえはケツァルを憎んでるんだろう? 何で仲良く話してんだ」
「あ……。そうでしたね。まぁ、いいではありませんか。私はストラグルを味方につけたかったのに嫌われてしまった。あなたたちも故郷が滅ぼされては困る。敵の敵は味方ということで、今はしばらく休戦ということにしようではありませんか。ストラグルの問題が解決するまでは」
「それが俺の命を狙ってるやつの言う台詞かよ」
「全くですね、くっくっく…」
リシェは思わず感嘆の息を漏らした。
「おい、尻尾切断だぞ、尻尾切断! 天鱗が剥ぎ取れるといいな。黒魔竜の天鱗?」
メタメタが後に続く。
「この様子だと、もしかして勝てるんじゃないか!」
ウィルオンが期待するが、
「いえ、安心するのはまだ早いですよ。ケツァル王と同等だというのなら、ストラグルがこの程度の力のはずがない。奴はまだ全力を出していないのかもしれません。油断はできませんね…」
蒼竜は不安を口にする。
「まじかよ、どんだけ魔竜っていうのは強…………ってちょっと待て」
「はい?」
「はい、じゃねぇだろ。なんでおまえが一緒になって俺たちと観戦してるんだよ!」
ラルガはきょとんとした顔でウィルオンをしばらく見つめて、そして突然笑い始めた。
「何がおかしいんだ。俺たちは敵同士だろ!」
「くっくっく…。いえ失礼、あまりにも冷静に突っ込みを入れてくるものですから。くっくっくっく!」
「そうか、隙を見て俺を攻撃するつもりだったんだな! 思わず戦いに見入ってしまってた。危ねぇ」
「ああ、なるほど。そういう手もありましたか」
ラルガはさらに面白そうに笑った。
「……なんなんだこいつ」
「私もすっかり見入ってましたよ。こんなスケールの大きい戦いを見るのは何十年、いえ何百年ぶりでしょう。そう、まるであのときの……王宮が陥落した日。メーディと名乗る者に襲撃された日。加勢に来てくれた通りすがりの竜人族の戦いを思い出しますよ」
「はぁ」
「我々近衛部隊はまるで歯が立たなかった。そこに颯爽と現れたあの竜人族。結果的に王国は滅んでしまいましたが、もし王の乱心さえなければどうなっていたかわからない。あのときも私は彼の戦いに見入っていたものですよ。それはもうすごいもので! 是非とも我が国の兵士としてスカウトしたいところでした」
「なぁ、こいつ何か語り出したんだけど…」
「また去り際がかっこいいんです! これは後からヴァイルに聞いた話で……ああ、ヴァイルというのはまぁ、私の弟分のようなものなんですが、何でもヴァイルが彼の名を尋ねたそうなんです。すると彼は『たまたま居合わせただけだ。名乗るほどの者じゃない』と静かに去って行ったんだとか。あれほどの力を持ちながらまるで驕らない孤高の達人。能ある竜は魔力を隠す、とはまさに彼のためにある言葉ですね」
「おい、誰かこいつを止めてくれよ」
「そう、彼ほどの逸材がいればきっと最高の国を創ることができる。力がなければ何もできない。しかし力を持ち過ぎるとその者は驕り高ぶり威張り散らすようになる。そんな為政者が良い国を創れるわけがない! 私はケツァル王から最高の国というものがなんたるかを学んだ。ケツァルの血はもはや信用できない。危なっかしくて他の者たちに任せることもできない。彼が王になってくれれば最高なのだが、彼が今どこにいるのかもわからない。ならば私がやるしかない! ケツァル王から受け継いだ最高の国というものを私が実現してみせる!!」
「あーはいはい、そりゃーすごいね」
「あ、ああ……失礼。でもこんなにも心が躍るのはずいぶん久しぶりですよ。やはり力のある者は戦い方からして違う。見ていて勇気がもらえるというか……私も現役時代のことを思い出してしまいそうです」
「ああー…そりゃよかったね。で、どういう魂胆だ!? 俺とサシで戦えとでも言い出すのか」
「決闘ですか、それも悪くない」
「そうじゃない。俺とおまえは敵同士、それにおまえはケツァルを憎んでるんだろう? 何で仲良く話してんだ」
「あ……。そうでしたね。まぁ、いいではありませんか。私はストラグルを味方につけたかったのに嫌われてしまった。あなたたちも故郷が滅ぼされては困る。敵の敵は味方ということで、今はしばらく休戦ということにしようではありませんか。ストラグルの問題が解決するまでは」
「それが俺の命を狙ってるやつの言う台詞かよ」
「全くですね、くっくっく…」
誰よりもケツァル王国を愛していたラルガ。
バルハラ宮殿が彼にとって重要な意味を持つ場所であったという理由もあったが、国を愛していたのはそれだけではなかった。
今でこそケツァルを嫌っているが、もともとはラルガはケツァル王の意向に強く賛同していた。
ケツァル王はムスペ王セルシウスと親友同士だったこともあって、他国と友好的な関係で国政を行うことを目指していた。
一方で、ストラグルは先代ムスペ王ファーレンハイトの政策に感銘を受け、脅威となる可能性があるものはすべて潰すことで国の安全を保障すべきだという考えを持っていた。
ストラグルの行き過ぎた自衛観念は『喰われる前に噛み付け』を指標に掲げ、とうとう自国以外はすべて敵の可能性ありという極論に達し、ケツァルと真っ向から対立することになった。
ケツァルに賛同していたラルガもストラグルの意向には反対しており、今回はあくまでストラグルから力を借りるだけで、ストラグルに賛同するつもりは毛頭なかった。
迂闊だったのは、封印が解けた直後ならストラグルを操れるだろうと侮っていたいたことだ。
このままストラグルが他国を滅ぼして、バルハラ一国の世界を創ってしまうことは望まない。なぜなら、それはラルガの愛した国の在り方ではないからだ。そのような一国独裁の世界など、そのような国など素晴らしくもなんともない。
そもそもラルガがケツァルを嫌うようになった理由こそが、王宮陥落の日のケツァルの乱心によってケツァル自身の掲げた友好的な国政が守られなくなると危惧したからなのだ。
『国』というイメージに対して潔癖であるラルガはそれゆえに、ケツァルの一族の血を嫌うようになってしまった。己の愛する国のイメージが穢されてしまうのではないかと恐れて。穢されて美しくない国になってしまうぐらいなら、自分が完璧な国を創ってるやるのだと決心して。
ケツァルを嫌ってはいても、ラルガはケツァルの遺志をしっかりと継いでいた。
それゆえにこのままストラグルを放置しておきたいとは思うはずもなかった。
「このままストラグルが醜いバルハラの国を創ってしまうのを見過ごすわけにはいけませんからね…」
「バルハラが……なんだって?」
「いえ、なんでもありません。とにかくストラグルに好き勝手にされてしまっては私としても困ったことになります。困った時はお互い様でしょう」
「だから、それが命を狙うようなやつの言うことかよ。全くヘンなやつだぜ」
「そういうわけですから今は我々は協力し合ったほうが得策というわけです」
「まぁ、俺たちは応援することしかできないけどな」
こんどはウィルオンが微かに笑った。
バルハラ宮殿が彼にとって重要な意味を持つ場所であったという理由もあったが、国を愛していたのはそれだけではなかった。
今でこそケツァルを嫌っているが、もともとはラルガはケツァル王の意向に強く賛同していた。
ケツァル王はムスペ王セルシウスと親友同士だったこともあって、他国と友好的な関係で国政を行うことを目指していた。
一方で、ストラグルは先代ムスペ王ファーレンハイトの政策に感銘を受け、脅威となる可能性があるものはすべて潰すことで国の安全を保障すべきだという考えを持っていた。
ストラグルの行き過ぎた自衛観念は『喰われる前に噛み付け』を指標に掲げ、とうとう自国以外はすべて敵の可能性ありという極論に達し、ケツァルと真っ向から対立することになった。
ケツァルに賛同していたラルガもストラグルの意向には反対しており、今回はあくまでストラグルから力を借りるだけで、ストラグルに賛同するつもりは毛頭なかった。
迂闊だったのは、封印が解けた直後ならストラグルを操れるだろうと侮っていたいたことだ。
このままストラグルが他国を滅ぼして、バルハラ一国の世界を創ってしまうことは望まない。なぜなら、それはラルガの愛した国の在り方ではないからだ。そのような一国独裁の世界など、そのような国など素晴らしくもなんともない。
そもそもラルガがケツァルを嫌うようになった理由こそが、王宮陥落の日のケツァルの乱心によってケツァル自身の掲げた友好的な国政が守られなくなると危惧したからなのだ。
『国』というイメージに対して潔癖であるラルガはそれゆえに、ケツァルの一族の血を嫌うようになってしまった。己の愛する国のイメージが穢されてしまうのではないかと恐れて。穢されて美しくない国になってしまうぐらいなら、自分が完璧な国を創ってるやるのだと決心して。
ケツァルを嫌ってはいても、ラルガはケツァルの遺志をしっかりと継いでいた。
それゆえにこのままストラグルを放置しておきたいとは思うはずもなかった。
「このままストラグルが醜いバルハラの国を創ってしまうのを見過ごすわけにはいけませんからね…」
「バルハラが……なんだって?」
「いえ、なんでもありません。とにかくストラグルに好き勝手にされてしまっては私としても困ったことになります。困った時はお互い様でしょう」
「だから、それが命を狙うようなやつの言うことかよ。全くヘンなやつだぜ」
「そういうわけですから今は我々は協力し合ったほうが得策というわけです」
「まぁ、俺たちは応援することしかできないけどな」
こんどはウィルオンが微かに笑った。
「こいつでトドメだ!」
ゼロが新たな鉄柱を黒竜の尾の切断面に抉り込む。
黒竜は悲痛な呻きを上げてついに倒れた。
「気絶したか。……よし、あとはこいつをふん縛って連れて帰るだけだな。俺だけでは封印するほどの力はないが、ムスペ王が魔力に優れた者たちを集めてくれているはずだ。これだけ弱らせればなんとかなるだろうよ」
動かなくなった黒竜にゼロが近付く。
そんな無防備な様子を狙って、不意に黒竜の全身が発火し始めた。
「何事だ!」
黒竜の姿は灰になって消えてしまった。
困惑するゼロの背後で、灰が再集結して黒竜の姿をかたどる。
気付いた時には既に遅い。ゼロは黒竜の前脚に押さえ付けられていた。
「油断したな、愚か者め」
黒の魔竜ストラグルの能力は破壊と再生。
黒炎は全てを焼き尽くし、灰は新たなものを生み出す。
切断されたはずの尾もいつの間にか再生していた。
「さて、貴様も灰にして一からやり直させてやろう。悔い改めてもう二度と血迷った行動を起さぬことだ」
「や、やべぇ!」
慌ててもがくが、黒竜の脚の下からは一向に抜け出すことができない。
黒竜の口から漆黒の炎が漏れる。口一杯に溜められた黒の業火が溶岩の如く垂れる。
ゼロが新たな鉄柱を黒竜の尾の切断面に抉り込む。
黒竜は悲痛な呻きを上げてついに倒れた。
「気絶したか。……よし、あとはこいつをふん縛って連れて帰るだけだな。俺だけでは封印するほどの力はないが、ムスペ王が魔力に優れた者たちを集めてくれているはずだ。これだけ弱らせればなんとかなるだろうよ」
動かなくなった黒竜にゼロが近付く。
そんな無防備な様子を狙って、不意に黒竜の全身が発火し始めた。
「何事だ!」
黒竜の姿は灰になって消えてしまった。
困惑するゼロの背後で、灰が再集結して黒竜の姿をかたどる。
気付いた時には既に遅い。ゼロは黒竜の前脚に押さえ付けられていた。
「油断したな、愚か者め」
黒の魔竜ストラグルの能力は破壊と再生。
黒炎は全てを焼き尽くし、灰は新たなものを生み出す。
切断されたはずの尾もいつの間にか再生していた。
「さて、貴様も灰にして一からやり直させてやろう。悔い改めてもう二度と血迷った行動を起さぬことだ」
「や、やべぇ!」
慌ててもがくが、黒竜の脚の下からは一向に抜け出すことができない。
黒竜の口から漆黒の炎が漏れる。口一杯に溜められた黒の業火が溶岩の如く垂れる。
「お、親父ッ!」「ゼロ、しっかりせんかい!」
息子や父親の声が聞こえてくる。
だがどうやら俺はもうだめらしい。
リク、あまり構ってやれなくてすまない。
親父、押し付けちまってすまないが、リクのことをよろしく頼む。
そしてオーシャン様、俺はあなたに合わせる顔がない。本当に申し訳ない。
みんなどうか、悪く思わないでくれ――
だがどうやら俺はもうだめらしい。
リク、あまり構ってやれなくてすまない。
親父、押し付けちまってすまないが、リクのことをよろしく頼む。
そしてオーシャン様、俺はあなたに合わせる顔がない。本当に申し訳ない。
みんなどうか、悪く思わないでくれ――
覚悟を決めた。
もう何も怖くない。固く目を閉じる。
闇のような炎塊が降り注いだ。
もう何も怖くない。固く目を閉じる。
闇のような炎塊が降り注いだ。
(親父ぃぃいいいぃぃぃ……ぃぃ…………ぃ……!!)
声が、
遠くなる。
意識が、
遠く――
「久しぶりに面白そうな相手を見つけた」
すぐ耳元で声が聴こえた。
「!?」
目の前に見知らぬ黒紫色の鱗を持つ竜人族の姿があった。
翼も尾も角もない。ゼロより体格が大きいわけでもない。
しかし、その竜人族の男は片手で、それも素手で黒炎の塊を受け止めていた。
「あ、あんたは一体?」
「ただの通りすがりだ。名乗るほどの者ではない」
竜人族は黒竜の顔を見上げた。
「…なるほど」
炎塊を投げ捨てると左手で小石をひとつ拾い跳躍、竜人族の身体は瞬く間に黒竜の頭上に跳び上がった。
「何者だ! 貴様も我に歯向かうか!」
黒竜は上空の竜人族に向かって、黒火球を雨あられと飛ばした。
空中では避けきれまい。無論、竜人族はそれを避けることができなかった。
否、避けなかった。
竜人族が右手で火球に触れると、それはすぐに凍りついて落下していった。
目にも止まらぬ速さで無数にある火球は全て氷球と化してしまった。
「氷の使い手か? だがこれは受け切れまい!」
黒竜は漆黒の炎の熱線を吐き出した。
例え絶対零度であろうと、絶えず熱流動するこの黒き獄炎を凍らせることは絶対に不可能。凍らせた傍からすぐに絶対熱が押し寄せて、氷を押し溶かすだろう。この炎に溶かせないものなど存在しない。
すると竜人族の男は右腕を上空に向かって振り上げた。その軌跡を紅い線が描く。
熱線は紅い線をなぞるように向きを変えると、上空へと流れて消えた。
「なんだ、今の技は!?」
竜人族が右腕を振りかぶる。
その手を黒いオーラが纏う。
「貴様、エンチャ――」
「…つまらん」
右手が黒竜の額にそっと触れる。
「グ……ォォオオォォオォオオオオ!!」
黒い閃光が走ったかと思うと瞬時にして黒竜の姿は消え去り、拾っていた小石に吸い込まれてしまった。
何事もなかったかのように竜人族が着地し、差し出した左手にはぽとりと黒い石がひとつ落ちた。
無言でその石をゼロに突き付けると、石を渡すなり不満そうにその場に横になってしまった。
「あ、あんた…。すごいな」
「物足りん。やはりメーディぐらいでないと満足のいく相手にはならん。奴はどこにいるんだ…」
ゼロには全く関心がないといった様子でその竜人族の男……ウェイヴは欠伸をするだけだった。
「!?」
目の前に見知らぬ黒紫色の鱗を持つ竜人族の姿があった。
翼も尾も角もない。ゼロより体格が大きいわけでもない。
しかし、その竜人族の男は片手で、それも素手で黒炎の塊を受け止めていた。
「あ、あんたは一体?」
「ただの通りすがりだ。名乗るほどの者ではない」
竜人族は黒竜の顔を見上げた。
「…なるほど」
炎塊を投げ捨てると左手で小石をひとつ拾い跳躍、竜人族の身体は瞬く間に黒竜の頭上に跳び上がった。
「何者だ! 貴様も我に歯向かうか!」
黒竜は上空の竜人族に向かって、黒火球を雨あられと飛ばした。
空中では避けきれまい。無論、竜人族はそれを避けることができなかった。
否、避けなかった。
竜人族が右手で火球に触れると、それはすぐに凍りついて落下していった。
目にも止まらぬ速さで無数にある火球は全て氷球と化してしまった。
「氷の使い手か? だがこれは受け切れまい!」
黒竜は漆黒の炎の熱線を吐き出した。
例え絶対零度であろうと、絶えず熱流動するこの黒き獄炎を凍らせることは絶対に不可能。凍らせた傍からすぐに絶対熱が押し寄せて、氷を押し溶かすだろう。この炎に溶かせないものなど存在しない。
すると竜人族の男は右腕を上空に向かって振り上げた。その軌跡を紅い線が描く。
熱線は紅い線をなぞるように向きを変えると、上空へと流れて消えた。
「なんだ、今の技は!?」
竜人族が右腕を振りかぶる。
その手を黒いオーラが纏う。
「貴様、エンチャ――」
「…つまらん」
右手が黒竜の額にそっと触れる。
「グ……ォォオオォォオォオオオオ!!」
黒い閃光が走ったかと思うと瞬時にして黒竜の姿は消え去り、拾っていた小石に吸い込まれてしまった。
何事もなかったかのように竜人族が着地し、差し出した左手にはぽとりと黒い石がひとつ落ちた。
無言でその石をゼロに突き付けると、石を渡すなり不満そうにその場に横になってしまった。
「あ、あんた…。すごいな」
「物足りん。やはりメーディぐらいでないと満足のいく相手にはならん。奴はどこにいるんだ…」
ゼロには全く関心がないといった様子でその竜人族の男……ウェイヴは欠伸をするだけだった。
「――やはりあなたはあの時の!!」
「何のことだ。人違いだろう」
ウェイヴは背を向けて否定するが、ラルガにはその背中に確かに見覚えがあった。
確かにあの日、颯爽と現れて国のために戦ってくれたあの背中だった。
「あなたほどの者だ。もちろん無事だとは確信していました。しかし、あのときは国王が無礼を申し訳ありませんでした。王は乱心していたのです」
「何のことを言っている?」
ケツァル王国が滅んだ日。ウェイヴは襲撃を仕掛けてきたメーディを相手に本当によく戦ってくれた。
しかしどういうわけか、ケツァル王は突然ウェイヴに突進し突き飛ばしたのだ。続いてラルガに突進、負傷していたためにうまく飛ぶことができず、危うく大地に叩きつけられるところだった。
「あるいは、そもそもメーディの襲撃自体が王との共謀だったのかもしれません。理由はわかりかねますが……他なる魔竜たちが全て封印されていた当時、王に敵がいるとは考え難く……それともやはり王は乱心されて……ああ、わからない。しかし恩人であるあなたを突き飛ばすなど、調和を良しとするケツァル王の意向を思えばあり得ないこと。やはり王は乱心していたとしか! そうだ、もし突き飛ばしていなければメーディから国を守ることも……」
「できなかっただろうな」
「ええ、そうで……え?」
「俺はケツァル王に助けられた。もし突き飛ばされていなければ、俺は負けていたかもしれない」
ウェイヴとメーディの力はほぼ互角だった。
しかし一瞬の隙をついてケツァル王国は滅ぼされてしまった。
すなわち、ウェイヴは一瞬の隙を突かれてメーディにトドメをさされかけたのだった。
危機に気がついたケツァル王は咄嗟にウェイヴを突き飛ばし、身を挺してそれを庇った。
ケツァルは他国との友好的な関係を望んでいた。ウェイヴがどこの国の者かは知らないが、他国の者にここまで我が国のために戦ってもらった上に、そのせいで命を落とされたとあってはとても王として申し訳がつかない。
他国の者に戦わせておいて、自分たちは指を咥えて見ていたというのか。そしてその者を見殺しにしたというのか。
そんな批難を恐れたわけではないが、もしそうとあっては王として、いや友好性を指標とする者として自分で自分が許せない。
自分の国のことでもないのに彼はここまで戦ってくれている。それなのに我らときたらどうだ。なんという有様。この有様では滅ぶのも致し方あるまい。己の未熟さが招いたこと。
そこに関係のない彼を巻き込んではいけない。彼を犠牲にしてはいけない。彼を死なせるわけにはいかない。たとえこの身が朽ち果てようとも!
ケツァルは捨て身の覚悟でウェイヴを庇った。
突き飛ばされたウェイヴは、そのおかげで致命的な一撃を受けることなく済んだ。
その代償としてケツァル王は死に、ケツァル王国は一夜にして滅ぶこととなった。
「ケツァル王は最期まで立派に己の義を通した。誇るべき名君だろうに」
「な……まさか!? しかし、その後に王は私を確かに雲岸から突き落とした。私は危うく命を落としかけたんだ!!」
「俺が助けられたとき、俺が弾き飛ばされている間に何が起こっていたのかは知らん。メーディの攻撃を受けて吹き飛ばされた王がたまたま動けなかったおまえにぶつかったのかもな。……運の悪いことだ」
「そ、そんな!! それは確かなのですか!?」
「見ていないことは知らん。だが俺が王に助けられたことだけは確かだ。これで満足か」
「では、すべて私の……勘違い……だったというのか…………!!!」
蒼竜はいつもより増して蒼くなり、その場にへたり込んでしまった。
呆然とただ空を、大樹の頂上の辺りを眺めつつ黙りこんでしまった。
「ケツァル王…………様」
蒼竜の頬に一筋の涙が流れた。
それは己を責める後悔の涙か、それとも王は狂ってなどいなかったことを安堵する涙、あるいは信頼した王がもういなくなったのをようやく心に受け止められたことによる哀しみの涙だろうか。
「お、おい。元気出せよ。さっきはあんなに楽しそうに語ってたじゃねぇかよ」
項垂れる蒼竜をケツァル王の末裔が慰める。
「ウィルオン……。すまない…すみませんでした、ウィルオン。私の勘違いから大変な目に合わせてしまいましたね」
「もういいよ。いいから元気出せよ、言ってたじゃないか。ケツァルから何か学んだって。おまえがケツァルの遺志を継いでやるんだろ? おまえが最高の国ってやつを作るんだろ? 俺は……じいちゃんのこと何も知らないしさ」
「そう……ですね。私がやらなければ…! ケツァル王様、疑って申し訳ありませんでした。王国は必ず私が復活させてみせます。以前のように……いや、以前以上に! それがせめてもの私の罪滅ぼし…!」
蒼竜の目に、そして心に光が戻った。
ラルガは真っ直ぐに期待の念を込めてウェイヴを見つめた。
が、すでにそこにウェイヴの姿はなかった。
「くっ、何も言わずに去ってしまうとはなんと掴みどころのない…。だがそれがいい。いつか必ず我が国の兵にスカウトしてみせる!」
「き、切り替えが早いな。まぁ、元気が出たんならよかったよ」
ラルガの様子に半ば呆れながらも、これでようやく一件落着だなとその場を立ち去ろうとするウィルオン。しかし、ケツァルに仕えた蒼竜は、そんなケツァルの末裔を引きとめた。
「ウィルオン。いえ、ウィルオン様。私は王家の顔に泥を塗ってしまった…。これまでの無礼、改めて謝罪致します」
「な、なんだよ急に」
「今となってはケツァル王家の血を引くのはウィルオン様のみ。王家への許しを請うにはもはやあなたしかいないのです」
「はぁ。めんどくさいんだな、王家って。仕方ないなぁ。えー、ケツァル王家の子孫の名に於いてウィルオンがここにおまえを赦す。……こんなんでいいのか?」
「ありがとうございます、3代目ケツァル王様」
蒼竜は頭を垂れて恭しく最敬礼をしてみせた。
「……俺は王なんてやらないからぞ。柄じゃないし。ケツァルを継ぐのはおまえなんだろ?」
「ええ。ケツァル様の遺志は私が継ぎます。私が最高の国にしてみせます」
「そうか。それじゃ」
ウィルオンが去ろうとするが、ラルガはしつこくそれを引きとめる。
「そうはいきません。あなたはケツァル様の血を引く者。王家の血なしにケツァル王国は名乗れませんから」
「だったらラルガ王国でいいだろ!」
「いいえ、ケツァル様の遺志を継ぐのですからケツァル王国でなければなりません。そして、その血を継ぐことができるのはあなただけです。ケツァルなしにケツァル王国にあらず!」
蒼竜が王家の末裔に詰め寄る。
じりじりと後ずさるケツァルの子孫。
「俺は嫌だぞ! 今まで散々命狙っときながら都合よすぎるだろ!」
「だからその罪滅ぼしですってば」
「いや、いいって。おまえにやるよ。おまえが王をやれよ」
「それでは初代ケツァル様に無礼にあたります。そんな畏れ多いことなどできましょうか」
「じゃあ、3代目ケツァルとしての命令だ。おまえが王をやれ」
「命令をするということは私より上の立場、つまりあなたが王ですね。あとその命令は聞けませんので悪しからず」
「いいじゃないか、面白そうなのだ。私は今までウィルオン君の面倒を見てきた保護者にあたる存在なのだ。だから私が許可するのだ。あ、ハンコいる?」
「タネはかせは黙ってろ!」
「あ、ハンコはこちらにお願いします。そうと決まっては善は急げ、さっそく王宮へ…」
「助けてくれ、竜攫いだ!!」
ひと騒ぎあって、半ば無理やり押し切られる形でウィルオンはラルガ、ついでにタネはかせとタネリミとともにバルハラへと向かって連れ去られていった。
空路を行くアットロー号に縛り付けられたウィルオンの叫び声がいつまでも空に木霊していた。
「何のことだ。人違いだろう」
ウェイヴは背を向けて否定するが、ラルガにはその背中に確かに見覚えがあった。
確かにあの日、颯爽と現れて国のために戦ってくれたあの背中だった。
「あなたほどの者だ。もちろん無事だとは確信していました。しかし、あのときは国王が無礼を申し訳ありませんでした。王は乱心していたのです」
「何のことを言っている?」
ケツァル王国が滅んだ日。ウェイヴは襲撃を仕掛けてきたメーディを相手に本当によく戦ってくれた。
しかしどういうわけか、ケツァル王は突然ウェイヴに突進し突き飛ばしたのだ。続いてラルガに突進、負傷していたためにうまく飛ぶことができず、危うく大地に叩きつけられるところだった。
「あるいは、そもそもメーディの襲撃自体が王との共謀だったのかもしれません。理由はわかりかねますが……他なる魔竜たちが全て封印されていた当時、王に敵がいるとは考え難く……それともやはり王は乱心されて……ああ、わからない。しかし恩人であるあなたを突き飛ばすなど、調和を良しとするケツァル王の意向を思えばあり得ないこと。やはり王は乱心していたとしか! そうだ、もし突き飛ばしていなければメーディから国を守ることも……」
「できなかっただろうな」
「ええ、そうで……え?」
「俺はケツァル王に助けられた。もし突き飛ばされていなければ、俺は負けていたかもしれない」
ウェイヴとメーディの力はほぼ互角だった。
しかし一瞬の隙をついてケツァル王国は滅ぼされてしまった。
すなわち、ウェイヴは一瞬の隙を突かれてメーディにトドメをさされかけたのだった。
危機に気がついたケツァル王は咄嗟にウェイヴを突き飛ばし、身を挺してそれを庇った。
ケツァルは他国との友好的な関係を望んでいた。ウェイヴがどこの国の者かは知らないが、他国の者にここまで我が国のために戦ってもらった上に、そのせいで命を落とされたとあってはとても王として申し訳がつかない。
他国の者に戦わせておいて、自分たちは指を咥えて見ていたというのか。そしてその者を見殺しにしたというのか。
そんな批難を恐れたわけではないが、もしそうとあっては王として、いや友好性を指標とする者として自分で自分が許せない。
自分の国のことでもないのに彼はここまで戦ってくれている。それなのに我らときたらどうだ。なんという有様。この有様では滅ぶのも致し方あるまい。己の未熟さが招いたこと。
そこに関係のない彼を巻き込んではいけない。彼を犠牲にしてはいけない。彼を死なせるわけにはいかない。たとえこの身が朽ち果てようとも!
ケツァルは捨て身の覚悟でウェイヴを庇った。
突き飛ばされたウェイヴは、そのおかげで致命的な一撃を受けることなく済んだ。
その代償としてケツァル王は死に、ケツァル王国は一夜にして滅ぶこととなった。
「ケツァル王は最期まで立派に己の義を通した。誇るべき名君だろうに」
「な……まさか!? しかし、その後に王は私を確かに雲岸から突き落とした。私は危うく命を落としかけたんだ!!」
「俺が助けられたとき、俺が弾き飛ばされている間に何が起こっていたのかは知らん。メーディの攻撃を受けて吹き飛ばされた王がたまたま動けなかったおまえにぶつかったのかもな。……運の悪いことだ」
「そ、そんな!! それは確かなのですか!?」
「見ていないことは知らん。だが俺が王に助けられたことだけは確かだ。これで満足か」
「では、すべて私の……勘違い……だったというのか…………!!!」
蒼竜はいつもより増して蒼くなり、その場にへたり込んでしまった。
呆然とただ空を、大樹の頂上の辺りを眺めつつ黙りこんでしまった。
「ケツァル王…………様」
蒼竜の頬に一筋の涙が流れた。
それは己を責める後悔の涙か、それとも王は狂ってなどいなかったことを安堵する涙、あるいは信頼した王がもういなくなったのをようやく心に受け止められたことによる哀しみの涙だろうか。
「お、おい。元気出せよ。さっきはあんなに楽しそうに語ってたじゃねぇかよ」
項垂れる蒼竜をケツァル王の末裔が慰める。
「ウィルオン……。すまない…すみませんでした、ウィルオン。私の勘違いから大変な目に合わせてしまいましたね」
「もういいよ。いいから元気出せよ、言ってたじゃないか。ケツァルから何か学んだって。おまえがケツァルの遺志を継いでやるんだろ? おまえが最高の国ってやつを作るんだろ? 俺は……じいちゃんのこと何も知らないしさ」
「そう……ですね。私がやらなければ…! ケツァル王様、疑って申し訳ありませんでした。王国は必ず私が復活させてみせます。以前のように……いや、以前以上に! それがせめてもの私の罪滅ぼし…!」
蒼竜の目に、そして心に光が戻った。
ラルガは真っ直ぐに期待の念を込めてウェイヴを見つめた。
が、すでにそこにウェイヴの姿はなかった。
「くっ、何も言わずに去ってしまうとはなんと掴みどころのない…。だがそれがいい。いつか必ず我が国の兵にスカウトしてみせる!」
「き、切り替えが早いな。まぁ、元気が出たんならよかったよ」
ラルガの様子に半ば呆れながらも、これでようやく一件落着だなとその場を立ち去ろうとするウィルオン。しかし、ケツァルに仕えた蒼竜は、そんなケツァルの末裔を引きとめた。
「ウィルオン。いえ、ウィルオン様。私は王家の顔に泥を塗ってしまった…。これまでの無礼、改めて謝罪致します」
「な、なんだよ急に」
「今となってはケツァル王家の血を引くのはウィルオン様のみ。王家への許しを請うにはもはやあなたしかいないのです」
「はぁ。めんどくさいんだな、王家って。仕方ないなぁ。えー、ケツァル王家の子孫の名に於いてウィルオンがここにおまえを赦す。……こんなんでいいのか?」
「ありがとうございます、3代目ケツァル王様」
蒼竜は頭を垂れて恭しく最敬礼をしてみせた。
「……俺は王なんてやらないからぞ。柄じゃないし。ケツァルを継ぐのはおまえなんだろ?」
「ええ。ケツァル様の遺志は私が継ぎます。私が最高の国にしてみせます」
「そうか。それじゃ」
ウィルオンが去ろうとするが、ラルガはしつこくそれを引きとめる。
「そうはいきません。あなたはケツァル様の血を引く者。王家の血なしにケツァル王国は名乗れませんから」
「だったらラルガ王国でいいだろ!」
「いいえ、ケツァル様の遺志を継ぐのですからケツァル王国でなければなりません。そして、その血を継ぐことができるのはあなただけです。ケツァルなしにケツァル王国にあらず!」
蒼竜が王家の末裔に詰め寄る。
じりじりと後ずさるケツァルの子孫。
「俺は嫌だぞ! 今まで散々命狙っときながら都合よすぎるだろ!」
「だからその罪滅ぼしですってば」
「いや、いいって。おまえにやるよ。おまえが王をやれよ」
「それでは初代ケツァル様に無礼にあたります。そんな畏れ多いことなどできましょうか」
「じゃあ、3代目ケツァルとしての命令だ。おまえが王をやれ」
「命令をするということは私より上の立場、つまりあなたが王ですね。あとその命令は聞けませんので悪しからず」
「いいじゃないか、面白そうなのだ。私は今までウィルオン君の面倒を見てきた保護者にあたる存在なのだ。だから私が許可するのだ。あ、ハンコいる?」
「タネはかせは黙ってろ!」
「あ、ハンコはこちらにお願いします。そうと決まっては善は急げ、さっそく王宮へ…」
「助けてくれ、竜攫いだ!!」
ひと騒ぎあって、半ば無理やり押し切られる形でウィルオンはラルガ、ついでにタネはかせとタネリミとともにバルハラへと向かって連れ去られていった。
空路を行くアットロー号に縛り付けられたウィルオンの叫び声がいつまでも空に木霊していた。
「た、大変だな。ウィルオンも…」
ウィルオンが攫われていく様子を眺めていたリクが呟いた。
「助けなくていいの?」
「ま、まぁ。とりあえずもうラルガに命を狙われることはなくなったから大丈夫なんじゃないのか。逆に狙われたとしてもラルガが守ってくれそう」
姿はもう見えなくなったが、まだウィルオンの叫び声が聞こえる。よほど嫌なのだろう。
「あれがケツァル王の子孫とはねぇ。あんな王様で大丈夫か?」
ゼロもまたウィルオンが攫われていく様子を眺めていて、リク同様に呟いた。
「とりあえず大丈夫だ、問題ないと答えざるを得ない…。しかし親父、久しぶりだな。ちゃんと天竜の仕事してたんだ」
「まあな」
天竜はケツァル王国に仕える存在。
たとえ王が変わってもその役割が変わることはない。
もっとも、王よりも先代天竜にして師匠であるオーシャンに陶酔しているゼロにとっては、誰が王であろうとあまり関係はないのかもしれないが。
ゼロは手に持つ黒い石を握りしめた。
ウェイヴに渡された石。魔竜ストラグルを封印した石だ。
(あいつ、たった一人で魔竜を封印しやがった…)
ウェイヴの正体が何者なのかはわからなかったが、おかげで目的の魔竜封印をひとつ果たすことができた。
(オーシャン様。どうやら運命の女神様は、俺にはまだ早いと言っているようです。あなたの下へ参るのはもう少し遅くなりそうですが……)
ストラグルの封石を見つめる。
「……だが、おかげでまだ頑張れる。あなたの無念を晴らすことができる」
黒き天竜は一人静かに新たに決意を固め直した。
ウィルオンが攫われていく様子を眺めていたリクが呟いた。
「助けなくていいの?」
「ま、まぁ。とりあえずもうラルガに命を狙われることはなくなったから大丈夫なんじゃないのか。逆に狙われたとしてもラルガが守ってくれそう」
姿はもう見えなくなったが、まだウィルオンの叫び声が聞こえる。よほど嫌なのだろう。
「あれがケツァル王の子孫とはねぇ。あんな王様で大丈夫か?」
ゼロもまたウィルオンが攫われていく様子を眺めていて、リク同様に呟いた。
「とりあえず大丈夫だ、問題ないと答えざるを得ない…。しかし親父、久しぶりだな。ちゃんと天竜の仕事してたんだ」
「まあな」
天竜はケツァル王国に仕える存在。
たとえ王が変わってもその役割が変わることはない。
もっとも、王よりも先代天竜にして師匠であるオーシャンに陶酔しているゼロにとっては、誰が王であろうとあまり関係はないのかもしれないが。
ゼロは手に持つ黒い石を握りしめた。
ウェイヴに渡された石。魔竜ストラグルを封印した石だ。
(あいつ、たった一人で魔竜を封印しやがった…)
ウェイヴの正体が何者なのかはわからなかったが、おかげで目的の魔竜封印をひとつ果たすことができた。
(オーシャン様。どうやら運命の女神様は、俺にはまだ早いと言っているようです。あなたの下へ参るのはもう少し遅くなりそうですが……)
ストラグルの封石を見つめる。
「……だが、おかげでまだ頑張れる。あなたの無念を晴らすことができる」
黒き天竜は一人静かに新たに決意を固め直した。
リクたち一行はようやく一件落着を迎えて安堵していた。
「まぁ、ウィルオンは気の毒だけど、もう危険に晒されることはなくなったし…」
「ティルを狙ってたラルガもウィルオン連れてどこか行っちゃったしね」
「うむ、何やら誤解が解けた様子だ。もうティルを狙ってくることもないと考えていいだろう」
「ティルの正体も、ついでにウィルオンの正体もわかったんだよな。あと問題起こすタネはかせもいなくなってるし。なんだ、全部解決じゃねーか。安心したらおれ腹減ったぞ、リシェ焼いて食おうぜ」
「はいはいやめて」
ティルはまだ気を失ったままのようだった。
いつの間にかリクたちの見慣れた仔竜の姿に戻っている。
しばらくその姿で過ごしていたからなのか、その姿でいるのが一番楽な状態なのかもしれない。
何も知らずに眠るティルを静かに眺める。
ティルが目を覚ましたら、まず何て声をかけようか。
一件落着おめでとう?
それとも、これで今まで通り一緒に過ごせるね?
あるいはシンプルにおはよう?
もしかしたら、自分が魔竜だったということを知られて気にしているかもしれない。
自分が原因で騒動に巻き込んでしまったことを気にしているかもしれない。
それだったらまず、そんなことは何も気にしていない。魔竜だろうと何だろうとティルはティルだから心配はいらない、と伝えるべきだろうか。
いや、悩むのはよそう。
そんなことはティルが目覚めてからゆっくり考えればいい。
魔法時代の生き残りである蒼竜ラルガ、強大な力を持つ魔竜ストラグル。そんな強力な竜を相手に、ケツァル王国の問題にも巻き込まれて、あんなにも大きな問題を俺たちは乗り越えてきたんだ。
それに比べれば、これから起こることなんてきっと大したことはないはずだ。
だから、悩むのはよそう。
ティルが目覚めたらゆっくり考えよう。
そうだ、ティルと一緒に。仲間と一緒に。
考える時間はたくさんある。だって、これからは安心してティルと一緒に過ごせるのだから。
「まぁ、ウィルオンは気の毒だけど、もう危険に晒されることはなくなったし…」
「ティルを狙ってたラルガもウィルオン連れてどこか行っちゃったしね」
「うむ、何やら誤解が解けた様子だ。もうティルを狙ってくることもないと考えていいだろう」
「ティルの正体も、ついでにウィルオンの正体もわかったんだよな。あと問題起こすタネはかせもいなくなってるし。なんだ、全部解決じゃねーか。安心したらおれ腹減ったぞ、リシェ焼いて食おうぜ」
「はいはいやめて」
ティルはまだ気を失ったままのようだった。
いつの間にかリクたちの見慣れた仔竜の姿に戻っている。
しばらくその姿で過ごしていたからなのか、その姿でいるのが一番楽な状態なのかもしれない。
何も知らずに眠るティルを静かに眺める。
ティルが目を覚ましたら、まず何て声をかけようか。
一件落着おめでとう?
それとも、これで今まで通り一緒に過ごせるね?
あるいはシンプルにおはよう?
もしかしたら、自分が魔竜だったということを知られて気にしているかもしれない。
自分が原因で騒動に巻き込んでしまったことを気にしているかもしれない。
それだったらまず、そんなことは何も気にしていない。魔竜だろうと何だろうとティルはティルだから心配はいらない、と伝えるべきだろうか。
いや、悩むのはよそう。
そんなことはティルが目覚めてからゆっくり考えればいい。
魔法時代の生き残りである蒼竜ラルガ、強大な力を持つ魔竜ストラグル。そんな強力な竜を相手に、ケツァル王国の問題にも巻き込まれて、あんなにも大きな問題を俺たちは乗り越えてきたんだ。
それに比べれば、これから起こることなんてきっと大したことはないはずだ。
だから、悩むのはよそう。
ティルが目覚めたらゆっくり考えよう。
そうだ、ティルと一緒に。仲間と一緒に。
考える時間はたくさんある。だって、これからは安心してティルと一緒に過ごせるのだから。
……そうだろう? ティル。
何も知らずに眠る蒼い仔竜。
それを優しく抱き上げるリク。
それを優しく抱き上げるリク。
しかし平穏はそう長くは続かない。
仔竜に迫る影。背後には黒。
「リク、ちゃんと天竜の仕事してるのかと言ったな」
ゼロは声をかける。
「その仕事ぶりを今から見せてやるよ」
天竜の役目。
それは魔竜を封印すること。
「リク。ティルを渡すんだ」
「えっ…?」
魔竜。それは罪。
存在するだけで罪。
「やめてくれよ、親父! ティルは悪い奴じゃない」
魔竜はオーシャン様の命を奪った。
憎むべき悪魔の竜。それが魔竜。
「俺はティルのことをよく知ってる。ティルと2年近く一緒に過ごしていたんだ」
魔竜は存在してはならない。
封印されなければならない。
「やめろ…。やめてくれ、親父! ティルは俺の…」
それが魔竜の運命。定め。宿命。
魔竜とは絶対的に悪なのだ。
「大切な友達なんだよ!!」
今こそ無念を晴らす時。
遺志を継ぐ時。
「これが俺の役目なんだよ。…悪く思うな」
今コソ復讐ヲ。
仔竜に迫る影。背後には黒。
「リク、ちゃんと天竜の仕事してるのかと言ったな」
ゼロは声をかける。
「その仕事ぶりを今から見せてやるよ」
天竜の役目。
それは魔竜を封印すること。
「リク。ティルを渡すんだ」
「えっ…?」
魔竜。それは罪。
存在するだけで罪。
「やめてくれよ、親父! ティルは悪い奴じゃない」
魔竜はオーシャン様の命を奪った。
憎むべき悪魔の竜。それが魔竜。
「俺はティルのことをよく知ってる。ティルと2年近く一緒に過ごしていたんだ」
魔竜は存在してはならない。
封印されなければならない。
「やめろ…。やめてくれ、親父! ティルは俺の…」
それが魔竜の運命。定め。宿命。
魔竜とは絶対的に悪なのだ。
「大切な友達なんだよ!!」
今こそ無念を晴らす時。
遺志を継ぐ時。
「これが俺の役目なんだよ。…悪く思うな」
今コソ復讐ヲ。