それは癒の國がまだ癒と呼ばれる以前の物語。
古来よりこの地に伝えられるひとつの大蛇伝説。
後に癒と呼ばれる島のとある集落に頭が8つの大蛇の化け物が現れたことがあった。
大蛇は毎晩、生贄と酒を差し出せばその集落、諏砂(スサ)を襲わないことを約束するという。
諏砂の民たちはこの大蛇を退治しようとしたが力及ばず、仕方なくその要求を飲むことにした。
大蛇の噂はすぐに島中に広がり、この8つ叉の頭をもつ大蛇は八岐大蛇と呼ばれるようになった。
古来よりこの地に伝えられるひとつの大蛇伝説。
後に癒と呼ばれる島のとある集落に頭が8つの大蛇の化け物が現れたことがあった。
大蛇は毎晩、生贄と酒を差し出せばその集落、諏砂(スサ)を襲わないことを約束するという。
諏砂の民たちはこの大蛇を退治しようとしたが力及ばず、仕方なくその要求を飲むことにした。
大蛇の噂はすぐに島中に広がり、この8つ叉の頭をもつ大蛇は八岐大蛇と呼ばれるようになった。
Chapter6「八岐大蛇」
大蛇が生贄を要求して八十と八日目になる朝、諏砂を訪れる旅人があった。
長は「ここは大蛇に支配されていて危険なのですぐに立ち去るように」と伝えたが旅の男は立ち去らなかった。それどころか、その大蛇を退治してやるというのである。
彼は力が自慢だったが、あまりに力が強すぎるために恐れられて國を追い出されてきたのだという。
「俺の力が役に立つのであれば、その大蛇を退治することで役に立ててみせよう」
本当に退治してくれるのならばそれはありがたい。だがいきなり現れた男を信用することはできなかった。
なぜなら彼は大蛇を退治するためだと言って酒を要求したのだ。
退治をするのになぜ酒が必要になるのか。大蛇に差し出さなければならないものを素性の知れないこんな男にくれてやる余裕があるはずもない。もし大蛇の機嫌を損ねてしまっては諏砂は一夜にして滅ぼされてしまうだろう。
あるいは旅人に化けた魔物かもしれない。大蛇を退治してやると我々を誘惑して、まんまと諏砂を滅ぼそうと企んでいるのではないか。
そこで諏砂の長も民たちもその申し出を断った。
しかし何度断られようとも男は意志を曲げず、そのまま集落のはずれの空き家に居座った。
長は「ここは大蛇に支配されていて危険なのですぐに立ち去るように」と伝えたが旅の男は立ち去らなかった。それどころか、その大蛇を退治してやるというのである。
彼は力が自慢だったが、あまりに力が強すぎるために恐れられて國を追い出されてきたのだという。
「俺の力が役に立つのであれば、その大蛇を退治することで役に立ててみせよう」
本当に退治してくれるのならばそれはありがたい。だがいきなり現れた男を信用することはできなかった。
なぜなら彼は大蛇を退治するためだと言って酒を要求したのだ。
退治をするのになぜ酒が必要になるのか。大蛇に差し出さなければならないものを素性の知れないこんな男にくれてやる余裕があるはずもない。もし大蛇の機嫌を損ねてしまっては諏砂は一夜にして滅ぼされてしまうだろう。
あるいは旅人に化けた魔物かもしれない。大蛇を退治してやると我々を誘惑して、まんまと諏砂を滅ぼそうと企んでいるのではないか。
そこで諏砂の長も民たちもその申し出を断った。
しかし何度断られようとも男は意志を曲げず、そのまま集落のはずれの空き家に居座った。
さて、陽は沈み今宵は十五夜、満月である。
大蛇の使いが今日の生贄と酒を引き取りに諏砂を訪れた。大蛇自身は諏砂の近くの洞窟に潜んでいる。
使いが生贄を選ぶ矢を射ると、白羽の矢が立ったのは長の家だった。家には長とその娘の二人だけが暮らしている。
「大切な娘を生贄にするわけにはいかん。私が生贄に行く」と歩み出る長だったが、民たちは長がいなくなっては困るからと長の娘を大蛇の使いに引き渡してしまった。
悲しみに暮れる長だったが、ふと今朝の旅の者を思い出してはずれの空き家に急いだ。
しかしそこに彼の姿はなかった。やはり期待外れだったのだろうか。
肩を落として戻ると、集落では騒ぎが起きていた。大蛇に差し出すための酒がすべて盗まれているのだという。
生贄と酒を差し出さなければ諏砂が大蛇に襲われる。それを知っていながら勝手に酒を持ち出すなど諏砂の者には考えられないことだ。
(まさかあのよそ者が…)
誰もが例の旅の者を疑い、そして恨んだ。
このままでは我々はあの大蛇めによって八つ裂きにされてしまうだろう……。
大蛇の使いが今日の生贄と酒を引き取りに諏砂を訪れた。大蛇自身は諏砂の近くの洞窟に潜んでいる。
使いが生贄を選ぶ矢を射ると、白羽の矢が立ったのは長の家だった。家には長とその娘の二人だけが暮らしている。
「大切な娘を生贄にするわけにはいかん。私が生贄に行く」と歩み出る長だったが、民たちは長がいなくなっては困るからと長の娘を大蛇の使いに引き渡してしまった。
悲しみに暮れる長だったが、ふと今朝の旅の者を思い出してはずれの空き家に急いだ。
しかしそこに彼の姿はなかった。やはり期待外れだったのだろうか。
肩を落として戻ると、集落では騒ぎが起きていた。大蛇に差し出すための酒がすべて盗まれているのだという。
生贄と酒を差し出さなければ諏砂が大蛇に襲われる。それを知っていながら勝手に酒を持ち出すなど諏砂の者には考えられないことだ。
(まさかあのよそ者が…)
誰もが例の旅の者を疑い、そして恨んだ。
このままでは我々はあの大蛇めによって八つ裂きにされてしまうだろう……。
諏砂の東には山脈があり、鉄を多く含んだ土壌であるため山は黒い。そのためそこら一帯は鉄(クロガネ)と呼ばれている。
クロガネの山間には深く谷が刻まれており、その谷ひとつに大蛇の籠る洞窟はあった。
大蛇の洞窟の前に、大蛇の使いが生贄を連れて現れる。
「オロチ様、お持ちしました」
「ご苦労、下がってよいぞ」
しかし大蛇はすぐに異変に気付く。
今日の供物はいつもと様子が違う。
「……待て。今宵の酒はどうした!」
不機嫌そうに大蛇の16の眼が一斉に使いを睨みつけた。
使いはまるで呪縛を受けたかのように身を強張らせる。
「ひッ…。そ、それがその、諏砂のやつらが…」
諏砂の民が酒を差し出さなかったと説明しようとすると、
「オロチ様、それでしたらばこちらに」
別の使いの者が現れて大蛇に酒を差し出した。それは諏砂から盗まれたはずの酒だった。
「おお、ご苦労。今宵はいつもより多いではないか、褒めてつかわすぞ」
「有難きお言葉です。それでは私はこれにて…」
その場を去ろうとする使いを、ふと違和感を感じた大蛇の頭のひとつが呼び止める。
「待て、見かけない顔だな。おまえは何者だ」
大蛇の視線が背後に突き刺さる。
背筋をぞわぞわと悪寒が昇っていく。
しかし、それを悟られないように平静を装いつつ答える。
「な、何を仰いますオロチ様。私はずいぶん長くオロチ様に仕えておりますが、あなた様の記憶に残っていなかったとはいささか悲しゅうございます」
「む、そうであったか? それは悪かったな、下がってよい」
「では失礼致します」
なんとかその場を切り抜けると、逃げるように立ち去った。
そして岩陰に隠れると大蛇や他の使いに聞こえないようにそっと呟いた。
「ふぅ…、危ないところであった」
クロガネの山間には深く谷が刻まれており、その谷ひとつに大蛇の籠る洞窟はあった。
大蛇の洞窟の前に、大蛇の使いが生贄を連れて現れる。
「オロチ様、お持ちしました」
「ご苦労、下がってよいぞ」
しかし大蛇はすぐに異変に気付く。
今日の供物はいつもと様子が違う。
「……待て。今宵の酒はどうした!」
不機嫌そうに大蛇の16の眼が一斉に使いを睨みつけた。
使いはまるで呪縛を受けたかのように身を強張らせる。
「ひッ…。そ、それがその、諏砂のやつらが…」
諏砂の民が酒を差し出さなかったと説明しようとすると、
「オロチ様、それでしたらばこちらに」
別の使いの者が現れて大蛇に酒を差し出した。それは諏砂から盗まれたはずの酒だった。
「おお、ご苦労。今宵はいつもより多いではないか、褒めてつかわすぞ」
「有難きお言葉です。それでは私はこれにて…」
その場を去ろうとする使いを、ふと違和感を感じた大蛇の頭のひとつが呼び止める。
「待て、見かけない顔だな。おまえは何者だ」
大蛇の視線が背後に突き刺さる。
背筋をぞわぞわと悪寒が昇っていく。
しかし、それを悟られないように平静を装いつつ答える。
「な、何を仰いますオロチ様。私はずいぶん長くオロチ様に仕えておりますが、あなた様の記憶に残っていなかったとはいささか悲しゅうございます」
「む、そうであったか? それは悪かったな、下がってよい」
「では失礼致します」
なんとかその場を切り抜けると、逃げるように立ち去った。
そして岩陰に隠れると大蛇や他の使いに聞こえないようにそっと呟いた。
「ふぅ…、危ないところであった」
大蛇の洞窟の前に使いたちが料理を運んでは並べている。男はそれを山の頂から眺めていた。
「やつら、あのようなものを食すのか。全く理解できぬ…」
運ばれてくるのは悪臭を放つ皿、不気味な色の汁、もとの正体を想像したくない奇怪な骨や肉塊。
皿の上には何かの目玉がいくつも転がっており、すでに魂のないその目と視線が合って思わずぞっとする。
大蛇の宴の噂は前々から聞いていた。
誰がどうやって調べたのかは知らないが、大蛇は毎晩八百の料理を平らげ、八升の酒を飲み干し、最後に連れられてきた生贄をいたぶっては飽きると一呑みにしてしまうのだという。
さすがに本当に八百あるわけではなかったが、並べ終えられた料理はかなりの量だった。どれもこれも気味の悪いものばかりだ。
しばらくして大蛇の宴が始まった。
噂に違わず大蛇はすぐに料理を平らげ、諏砂からこっそり持ち出してきた酒もすべて飲み干してしまった。
諏砂の民たちには悪いがこれも作戦のためだ。
大蛇は酔い潰れてそのまま眠ってしまった。事前に別の場所で調達してきた酒と合わせていつもより量を増していたからだ。 さて、ここまでは順調だ。
谷間へ駆け降りて大蛇の使いたちを軽く蹴散らすと、自慢の剣で大蛇に斬りかかる。大蛇の首が一本、宙を舞った。
大蛇が目を覚ますが酔いが回っていて思うように身動きがとれない様子。その隙を突いて二本、三本と首を斬り落としていく。
大蛇が尾を振りまわして反撃に出た。
尾をかわすと、そこから大蛇の背を駆け上りもうひとつ頭を斬り落とす。
そしてとうとう残すは一本の首だけになったときだった。
「おのれ、貴様ァ! 我が誰かわかっておるのか!」
不覚、大蛇の尾に巻きつかれてしまった。これでは身動きがとれない。
そのまま一呑みにしようと大蛇の最後の頭が近づいてくる。
大蛇の尾に剣を突き立てて脱出には成功するが、
「こ、これはなんということだ!」
大蛇の尾は首よりも硬いらしく、剣が折れてしまった。
折れた剣では大蛇にとどめを刺すことができない。
「だが残るはひとつ。ここで終わるわけにはいかぬ!」
折れた剣で大蛇に斬りかかるが全く歯が立たない。逆に尾の一撃に弾き返されてしまった。
弾き飛ばされた先には黒い水たまりがあった。
こんなものはさっきまでなかったはずだ。しかもその水たまりは移動しているようにも見える。
行く先を辿るとそれは大蛇に吸収されている。すると大蛇の頭が新たに一本生えてきたのである。
大蛇の二つの頭がこちらを憎々しく睨みつけている。
「まさか……復活するのか!」
周囲にはさっき斬り落とした大蛇の頭が転がっている。
慌てて斬り落とした頭を数えると明らかに数が合わない。代わりに足りない分だけ黒い水たまりができていた。
「さすがは化け物」
このままではすべての頭が復活してしまう。
今度は剣は折れてしまっており、酒はもう残っていないので酔わせて隙を突く作戦もとれない。
何か代わりに使えそうなものがないか探してみると、目についたのは転がる大蛇の頭だった。
剣で叩きつけて大蛇の牙をもぎ取ると、髪を結っていた紐でそれを剣に結びつけた。
大蛇の牙は巨大で、剣とほとんど同じかそれ以上の大きさと厚みがあった。
牙剣を両手に握りしめて大蛇に向けて構える。
「小癪な…。我に毒は効かぬぞ。毒に苦しむのはおまえのほうだ!」
牙を取られた頭は毒霧を噴き出し始めた。
「ぬぅ…、これはもたもたしていられんな」
大蛇が再び尾を巻きつけようとしてくるが同じ手を二度は食わない。
跳び上がってこれをかわし、そのまま牙の剣を尾に振り下ろすと尾は綺麗に切断された。
「これは…!?」
すると大蛇の尾から剣が出てきた。なぜかはわからなかったが、これを使わない手はない。
牙の剣と尾の剣でそれぞれ、残る2つの頭を斬り落とした。
すべての頭を斬り落としたが、大蛇の身体は洞窟の奥に逃げ込もうとしていた。
斬り落とした頭も黒い水に変化して身体のあとを追う。剣に固定した牙までもが液化して洞窟へ向かっていった。
「おのれ化け物め、そんなに洞窟の中が好きなら永遠にそこにいるがいい!」
尾から出てきた剣を洞窟の前に突き刺すと、祖國で覚えた封印の術を剣を媒体として施し、大蛇を洞窟の中に閉じ込めることに成功した。剣が抜かれない限りは二度と大蛇が外に出てくることはないだろう。
退治には至らなかったが、ついに諏砂を大蛇から解放することができた。
するとそのとき急に目が霞んできた。
「まさか、例の毒霧のせいか…」
その後しばらくのことは記憶にない。
「やつら、あのようなものを食すのか。全く理解できぬ…」
運ばれてくるのは悪臭を放つ皿、不気味な色の汁、もとの正体を想像したくない奇怪な骨や肉塊。
皿の上には何かの目玉がいくつも転がっており、すでに魂のないその目と視線が合って思わずぞっとする。
大蛇の宴の噂は前々から聞いていた。
誰がどうやって調べたのかは知らないが、大蛇は毎晩八百の料理を平らげ、八升の酒を飲み干し、最後に連れられてきた生贄をいたぶっては飽きると一呑みにしてしまうのだという。
さすがに本当に八百あるわけではなかったが、並べ終えられた料理はかなりの量だった。どれもこれも気味の悪いものばかりだ。
しばらくして大蛇の宴が始まった。
噂に違わず大蛇はすぐに料理を平らげ、諏砂からこっそり持ち出してきた酒もすべて飲み干してしまった。
諏砂の民たちには悪いがこれも作戦のためだ。
大蛇は酔い潰れてそのまま眠ってしまった。事前に別の場所で調達してきた酒と合わせていつもより量を増していたからだ。 さて、ここまでは順調だ。
谷間へ駆け降りて大蛇の使いたちを軽く蹴散らすと、自慢の剣で大蛇に斬りかかる。大蛇の首が一本、宙を舞った。
大蛇が目を覚ますが酔いが回っていて思うように身動きがとれない様子。その隙を突いて二本、三本と首を斬り落としていく。
大蛇が尾を振りまわして反撃に出た。
尾をかわすと、そこから大蛇の背を駆け上りもうひとつ頭を斬り落とす。
そしてとうとう残すは一本の首だけになったときだった。
「おのれ、貴様ァ! 我が誰かわかっておるのか!」
不覚、大蛇の尾に巻きつかれてしまった。これでは身動きがとれない。
そのまま一呑みにしようと大蛇の最後の頭が近づいてくる。
大蛇の尾に剣を突き立てて脱出には成功するが、
「こ、これはなんということだ!」
大蛇の尾は首よりも硬いらしく、剣が折れてしまった。
折れた剣では大蛇にとどめを刺すことができない。
「だが残るはひとつ。ここで終わるわけにはいかぬ!」
折れた剣で大蛇に斬りかかるが全く歯が立たない。逆に尾の一撃に弾き返されてしまった。
弾き飛ばされた先には黒い水たまりがあった。
こんなものはさっきまでなかったはずだ。しかもその水たまりは移動しているようにも見える。
行く先を辿るとそれは大蛇に吸収されている。すると大蛇の頭が新たに一本生えてきたのである。
大蛇の二つの頭がこちらを憎々しく睨みつけている。
「まさか……復活するのか!」
周囲にはさっき斬り落とした大蛇の頭が転がっている。
慌てて斬り落とした頭を数えると明らかに数が合わない。代わりに足りない分だけ黒い水たまりができていた。
「さすがは化け物」
このままではすべての頭が復活してしまう。
今度は剣は折れてしまっており、酒はもう残っていないので酔わせて隙を突く作戦もとれない。
何か代わりに使えそうなものがないか探してみると、目についたのは転がる大蛇の頭だった。
剣で叩きつけて大蛇の牙をもぎ取ると、髪を結っていた紐でそれを剣に結びつけた。
大蛇の牙は巨大で、剣とほとんど同じかそれ以上の大きさと厚みがあった。
牙剣を両手に握りしめて大蛇に向けて構える。
「小癪な…。我に毒は効かぬぞ。毒に苦しむのはおまえのほうだ!」
牙を取られた頭は毒霧を噴き出し始めた。
「ぬぅ…、これはもたもたしていられんな」
大蛇が再び尾を巻きつけようとしてくるが同じ手を二度は食わない。
跳び上がってこれをかわし、そのまま牙の剣を尾に振り下ろすと尾は綺麗に切断された。
「これは…!?」
すると大蛇の尾から剣が出てきた。なぜかはわからなかったが、これを使わない手はない。
牙の剣と尾の剣でそれぞれ、残る2つの頭を斬り落とした。
すべての頭を斬り落としたが、大蛇の身体は洞窟の奥に逃げ込もうとしていた。
斬り落とした頭も黒い水に変化して身体のあとを追う。剣に固定した牙までもが液化して洞窟へ向かっていった。
「おのれ化け物め、そんなに洞窟の中が好きなら永遠にそこにいるがいい!」
尾から出てきた剣を洞窟の前に突き刺すと、祖國で覚えた封印の術を剣を媒体として施し、大蛇を洞窟の中に閉じ込めることに成功した。剣が抜かれない限りは二度と大蛇が外に出てくることはないだろう。
退治には至らなかったが、ついに諏砂を大蛇から解放することができた。
するとそのとき急に目が霞んできた。
「まさか、例の毒霧のせいか…」
その後しばらくのことは記憶にない。
大蛇に酒を差し出せなかったので、一体どんな恐ろしいことが起こるのかと眠れぬ夜を明かしたが意外なことに何も起こらなかった。
それどころか、翌朝には生贄として連れられて行った我が娘が帰ってきたのである。
娘は例の旅の男を連れて帰ってきた。娘の話によると、なんと彼の者は大蛇を洞窟の中に封印したのだという。娘は諏砂の民たちに大蛇封印の一部始終を話した。
最初は信じない者もおり私も半信半疑だったが、実際に大蛇の尾から出てきたという剣が洞窟の前に刺さっており、洞窟の入り口は強力な結界で閉じられていた。何よりも娘が無事に帰ってきたことが大蛇が封印されたという証拠だった。
男は大蛇の毒にやられたようでしばらく眠り続けたが、娘の必死な看病によって大蛇封印から八日の後に目を覚ました。
我々は彼の者を諏砂を救った英雄、諏砂の王たる者だとして諏砂之王(スサノオ)と呼び称えた。
スサノオは大蛇の封印が解かれないよう、あの剣を守らなければならないと言った。
そこで我々は洞窟の前に祭壇を建ててその封印を守るとともに、大蛇封印の一連の流れを物語としてまとめ後世に伝えることにした。
我が娘とめでたく結ばれたスサノオはしばらく諏砂に留まったが、あるとき「行かなければならないところができた」と言い残してどこかへ旅立ってしまった。
後に私の孫が父スサノオを探して旅に出るのだが、それはまた別の物語である。
それどころか、翌朝には生贄として連れられて行った我が娘が帰ってきたのである。
娘は例の旅の男を連れて帰ってきた。娘の話によると、なんと彼の者は大蛇を洞窟の中に封印したのだという。娘は諏砂の民たちに大蛇封印の一部始終を話した。
最初は信じない者もおり私も半信半疑だったが、実際に大蛇の尾から出てきたという剣が洞窟の前に刺さっており、洞窟の入り口は強力な結界で閉じられていた。何よりも娘が無事に帰ってきたことが大蛇が封印されたという証拠だった。
男は大蛇の毒にやられたようでしばらく眠り続けたが、娘の必死な看病によって大蛇封印から八日の後に目を覚ました。
我々は彼の者を諏砂を救った英雄、諏砂の王たる者だとして諏砂之王(スサノオ)と呼び称えた。
スサノオは大蛇の封印が解かれないよう、あの剣を守らなければならないと言った。
そこで我々は洞窟の前に祭壇を建ててその封印を守るとともに、大蛇封印の一連の流れを物語としてまとめ後世に伝えることにした。
我が娘とめでたく結ばれたスサノオはしばらく諏砂に留まったが、あるとき「行かなければならないところができた」と言い残してどこかへ旅立ってしまった。
後に私の孫が父スサノオを探して旅に出るのだが、それはまた別の物語である。