中央に天地を貫く大樹がそびえ立つ大樹大陸。
かつて大樹は神が植えた樹として大切にされており、その頃この大陸はプランティアと呼ばれていた。
これはその当時に誕生した我らがフィーティン王国の歴史について記したものである。
かつて大樹は神が植えた樹として大切にされており、その頃この大陸はプランティアと呼ばれていた。
これはその当時に誕生した我らがフィーティン王国の歴史について記したものである。
「フィーティン王国伝説:英雄と伝説の剣」
大樹大陸がまだプランティアと呼ばれていた頃のこと。
南東部の今と変わらない場所に、我らがフィーティンの王都はあった。
その王都の酒場にローブに身を包んだ一人の男が顔を出す。すると、店主は親しい様子で男に声をかけた。
「おや、これはこれは! 珍しい方がいらっしゃった。お久しぶりですね」
杯を磨きながら店主は目を丸くした。が、すぐに慣れた手つきでひとつのボトルを取り出す。
「いつものやつですね?」
「ああ…」と、男は低い声で答える。
酒場に人の姿はまばらで、彼ら以外には静かに酒を嗜む数人の客と、リュートを携えた吟遊詩人が一人いるだけだ。
それも当然のこと。もう日が沈んでからずいぶん経っており、月はもう天辺を通り過ぎている。
ピーク時の賑やかさとは打って変わって、深夜の酒場はとても静かで落ち着いた雰囲気だった。
男がカウンターの席に腰かけたことを知ると、吟遊詩人はリュートを奏でて王家の歌を唄い始める。
それはフィーティン王国誕生の伝説を唄ったもの。初代フィーティン王アーサーの物語。
南東部の今と変わらない場所に、我らがフィーティンの王都はあった。
その王都の酒場にローブに身を包んだ一人の男が顔を出す。すると、店主は親しい様子で男に声をかけた。
「おや、これはこれは! 珍しい方がいらっしゃった。お久しぶりですね」
杯を磨きながら店主は目を丸くした。が、すぐに慣れた手つきでひとつのボトルを取り出す。
「いつものやつですね?」
「ああ…」と、男は低い声で答える。
酒場に人の姿はまばらで、彼ら以外には静かに酒を嗜む数人の客と、リュートを携えた吟遊詩人が一人いるだけだ。
それも当然のこと。もう日が沈んでからずいぶん経っており、月はもう天辺を通り過ぎている。
ピーク時の賑やかさとは打って変わって、深夜の酒場はとても静かで落ち着いた雰囲気だった。
男がカウンターの席に腰かけたことを知ると、吟遊詩人はリュートを奏でて王家の歌を唄い始める。
それはフィーティン王国誕生の伝説を唄ったもの。初代フィーティン王アーサーの物語。
我らが王の地、フィーティンの地。この偉大な王の地も、統一される前は戦乱の地。
大陸を取り巻く戦乱の渦、そして渦巻く憎しみの炎。数あまたの小さな王国が、今日も領地を巡って争い合う。
そして聖ブライトン王国もまた、そんな小さな国々のひとつ。苦しい戦いの最中にあった。
ブライトン王は悩んでいた。彼らの国は苦境にある。
北のザクセーヌ国が勢力を増している。まわりの小国を次々に征服、そしていよいよブライトン国に迫る。
周辺国を併合して、敵の兵士は数千万。対する自国は数千程度。絶対絶命大ピンチ。
しかし時は待ってはくれない。とうとう戦の日がやってきた。
ブライトン王、先陣を切って決死の突撃。けれども結果は明らかだった。
王は勇敢に戦った。おかげで敗北まぬがれるも、名誉の負傷で王倒れる。
さらば我らがブライトン王。失意の中に王は去る。光となって天に消ゆ。
ならば我がと王子立つ。討ってみせよう父の仇。
朝日とともに戦闘再開。王子果敢に戦うも、隙を突かれて帰らぬ人に。
王家潰えて絶望の底。もうおしまいだと民は嘆く。ブライトン国もここまでか。
それでも希望は失くさない。しわがれ声で長老が言った。
「代々伝わる逸話では、剣抜きし者が危機を救う」
城の中庭に深々と、伝説の剣が突き立っている。
その名も聖剣カルブリヌス。抜けば英雄、伝説の勇者。選ばれた者だけがそれを手にする。
兵士も民もこぞって挑むが、誰一人として剣を抜けない。
そこに突然現れた、汚い身なりの旅の男。
藁にもすがろうと民たちは、旅の男を呼び止めて、伝説の剣を掴ませる。
するとなんということか。男は剣を引き抜いて見せた。
彼こそ伝説の英雄だ。と、戸惑う男を筆頭に、翌日迎えた戦闘再開。
「俺はただの旅人だ。剣など触ったこともない」と男は言うが、一騎当千の活躍で、ザクセーヌ兵を退けた。
王家の仇ザクセーヌ。今そこ反撃、全軍進撃。伝説の英雄の活躍で、あっという間に攻め上げる。
そしてとうとう決着のとき。なんと男はザクセーヌ王を打ち倒し、あれよあれよの快進撃。周囲の小国まとめ上げ、ひとつの国を打ち立てた。
人々は願う、彼こそが、王家を継ぐべき真なる勇者。
男は決めた、継ぐことを。ブライトンの伝説の、勇者の名前をいただいて、打ち立てた国に名をつけた。
その名はフィーティン、我らが王国。こうして新たな伝説は、男と共に始まった。
彼こそ初代フィーティン王。その名はアーサー、伝説の男。
大陸を取り巻く戦乱の渦、そして渦巻く憎しみの炎。数あまたの小さな王国が、今日も領地を巡って争い合う。
そして聖ブライトン王国もまた、そんな小さな国々のひとつ。苦しい戦いの最中にあった。
ブライトン王は悩んでいた。彼らの国は苦境にある。
北のザクセーヌ国が勢力を増している。まわりの小国を次々に征服、そしていよいよブライトン国に迫る。
周辺国を併合して、敵の兵士は数千万。対する自国は数千程度。絶対絶命大ピンチ。
しかし時は待ってはくれない。とうとう戦の日がやってきた。
ブライトン王、先陣を切って決死の突撃。けれども結果は明らかだった。
王は勇敢に戦った。おかげで敗北まぬがれるも、名誉の負傷で王倒れる。
さらば我らがブライトン王。失意の中に王は去る。光となって天に消ゆ。
ならば我がと王子立つ。討ってみせよう父の仇。
朝日とともに戦闘再開。王子果敢に戦うも、隙を突かれて帰らぬ人に。
王家潰えて絶望の底。もうおしまいだと民は嘆く。ブライトン国もここまでか。
それでも希望は失くさない。しわがれ声で長老が言った。
「代々伝わる逸話では、剣抜きし者が危機を救う」
城の中庭に深々と、伝説の剣が突き立っている。
その名も聖剣カルブリヌス。抜けば英雄、伝説の勇者。選ばれた者だけがそれを手にする。
兵士も民もこぞって挑むが、誰一人として剣を抜けない。
そこに突然現れた、汚い身なりの旅の男。
藁にもすがろうと民たちは、旅の男を呼び止めて、伝説の剣を掴ませる。
するとなんということか。男は剣を引き抜いて見せた。
彼こそ伝説の英雄だ。と、戸惑う男を筆頭に、翌日迎えた戦闘再開。
「俺はただの旅人だ。剣など触ったこともない」と男は言うが、一騎当千の活躍で、ザクセーヌ兵を退けた。
王家の仇ザクセーヌ。今そこ反撃、全軍進撃。伝説の英雄の活躍で、あっという間に攻め上げる。
そしてとうとう決着のとき。なんと男はザクセーヌ王を打ち倒し、あれよあれよの快進撃。周囲の小国まとめ上げ、ひとつの国を打ち立てた。
人々は願う、彼こそが、王家を継ぐべき真なる勇者。
男は決めた、継ぐことを。ブライトンの伝説の、勇者の名前をいただいて、打ち立てた国に名をつけた。
その名はフィーティン、我らが王国。こうして新たな伝説は、男と共に始まった。
彼こそ初代フィーティン王。その名はアーサー、伝説の男。
唄い終えると、吟遊詩人は一礼して近くの椅子に腰かけた。そして静かに杯を傾ける。
「伝説の剣カルブリヌス……か」
カウンター席で男は苦そうに呟いた。
「それがあれば、俺にでも一騎当千の働きができたのかね」
ため息を吐く男に、杯に酒を注ぎながら店主は言った。
「何を仰ってるんですか。あなたはその伝説の英雄の血を引く者でしょう、陛下?」
頷いて男はローブのフードを外した。立派な髭を蓄えた威厳ある顔がそこから現れる。
そう、この男こそフィーティン第7代国王ジョフリー=フレデリク=フィーティンなのだ。
彼もまたブライトン王のように悩みを抱えていた。
明日は開戦の日、西の荒野を抜けた先のエルフィン国との戦いが始まる。邪悪を打ち払うという銀を手に入れるため、この戦いは負けるわけにはいかない。ジョフリーは勝ってエルフィンの森の奥にある銀の鉱脈を手に入れなければならなかった。
「だが伝説の剣は3代王カーチスの時代に盗まれてしまったという。伝説は失われてしまった」
ジョフリーは深いため息を吐いた。
「いいえ、すべての伝説が失われたわけではありませんよ」
そう言って店主は酒を注いだ杯をジョフリーに差しだした。
銘酒カルブリヌス、別名を王家の血。
6代王すなわちジョフリーの父、フレデリク=エルバート=フィーティンが王家の伝説になぞらえて造らせたフィーティンを代表するワインだ。
「ああ……そうだったな」
言って、王はそれを飲み乾した。
その赤い雫は今もこの国に、そして王家に受け継がれている。
伝説の英雄の血は今も脈々と続いているのだ。
「伝説の剣カルブリヌス……か」
カウンター席で男は苦そうに呟いた。
「それがあれば、俺にでも一騎当千の働きができたのかね」
ため息を吐く男に、杯に酒を注ぎながら店主は言った。
「何を仰ってるんですか。あなたはその伝説の英雄の血を引く者でしょう、陛下?」
頷いて男はローブのフードを外した。立派な髭を蓄えた威厳ある顔がそこから現れる。
そう、この男こそフィーティン第7代国王ジョフリー=フレデリク=フィーティンなのだ。
彼もまたブライトン王のように悩みを抱えていた。
明日は開戦の日、西の荒野を抜けた先のエルフィン国との戦いが始まる。邪悪を打ち払うという銀を手に入れるため、この戦いは負けるわけにはいかない。ジョフリーは勝ってエルフィンの森の奥にある銀の鉱脈を手に入れなければならなかった。
「だが伝説の剣は3代王カーチスの時代に盗まれてしまったという。伝説は失われてしまった」
ジョフリーは深いため息を吐いた。
「いいえ、すべての伝説が失われたわけではありませんよ」
そう言って店主は酒を注いだ杯をジョフリーに差しだした。
銘酒カルブリヌス、別名を王家の血。
6代王すなわちジョフリーの父、フレデリク=エルバート=フィーティンが王家の伝説になぞらえて造らせたフィーティンを代表するワインだ。
「ああ……そうだったな」
言って、王はそれを飲み乾した。
その赤い雫は今もこの国に、そして王家に受け継がれている。
伝説の英雄の血は今も脈々と続いているのだ。