第六章A-2「小さな英雄」
ベイ博士の突然の思い付きで調査団一行は急遽大樹の上、雲よりも上の上空を目指して出発することになった。
曰く、地上各地では亜種の存在が確認されているが、彼奴らがどこから現れるのかはわかっていない。一方で空には亜種の存在は一切確認されていないが、だからといって空を調査対象から除外する理由にはならない。空から亜種がやって来ている可能性もあるとベイ博士は言う。
この大陸の雲の上、天地を貫く大樹の上は未知の世界であり、この大陸最先端の技術をもってしても観測が適わぬ未知の領域。前人未到の地へ向かえという彼の無茶な要求に、反対するシルマやイザールを押し切ってエラキスはふたつ返事で答えた。空の世界へはエラキス自慢の飛行艇シーラカンス号で向かうことに決まった。
そうして彼らがベイ博士と話している頃、キョクは一人マキナ中層部を徘徊していた。
キョクが三人とともにベイ博士の下へ行かなかったのは、彼が三人との間に距離を感じていたからなのかもしれない。
冒頭アルバールへやってきたキョクとメイヴはマキナから来たと言っていた。彼らはもともとガイストの下でその研究を手伝っていたが、理由あって彼らはガイストの下を離れて今はこのベイクーロ研究所に拠点を置いている。そのため、キョクにとってはこのあたりはとてもよく見知った場所だ。にもかかわらず、彼は三人とは別行動を取っている。
なぜ彼らがガイストの下にいなかったのか。それはアルバールで代表たちがガイストを呼んだのに彼が現れなかったことと関係しているのだが、メイヴはその理由を明かさなかった。そしてその理由はキョクも知っている。
「英雄だから何だって言うんだ。そんな肩書の一体何が凄いっていうんだ。本当に英雄が凄いのなら、こんなことにはならなかったはずだ」
歩きながらキョクは独りごちる。
「メイヴはたしかに性能も実力もオレじゃ敵わないし、最終的にはいつもしっかりと結果を出すけど、オレはメイヴのやり方には納得できない。ヘルツは英雄と言われているクせになんだかパッとしない爺さんだったじゃないか。そしてどいつもこいつもオレを見てはゲンダーゲンダー。そのゲンダーはもういないというのに…」
キョクは大陸の人々が称える『救国の英雄』という肩書に納得していなかった。それは、あるいは自身がいつもゲンダーと比較されるせいもあるのかもしれない。つまり、外面だけを見て本質を見ない。そんな周囲の態度に納得ができなかった。
「それからガイスト……オレを作ってクれた親のような存在。本当に英雄が凄いなら、そして本当に英雄が英雄として称えられているというなら、どうしてガイストがあんなに苦しまないといけないんだ。どうしてガイストがあんなに辛いを思いをしなければならないんだ!」
悔しそうな表情をしながらキョクは都市中層部にかかる架け橋にもたれかかって空を見上げる。マキナの空は、砂漠化の進む付近の環境とこの都市の厳しい環境も相まってか、いつも曇り空だった。
そこから下に視線を移すとマキナの下層部、いわゆる貧民街が目に入る。
貧民街には成功できなかった科学者や技術者、難民などの浮浪者がもう何年も前から押し込められている。
「きっと誰も表面だけみて本質なんか見てないんだよ。じゃなければ、あんなことには…。どうしてなんだよガイスト……オレにはよクわからないよ…」
下を見つめながらキョクは悲しそうに呟いた。
曰く、地上各地では亜種の存在が確認されているが、彼奴らがどこから現れるのかはわかっていない。一方で空には亜種の存在は一切確認されていないが、だからといって空を調査対象から除外する理由にはならない。空から亜種がやって来ている可能性もあるとベイ博士は言う。
この大陸の雲の上、天地を貫く大樹の上は未知の世界であり、この大陸最先端の技術をもってしても観測が適わぬ未知の領域。前人未到の地へ向かえという彼の無茶な要求に、反対するシルマやイザールを押し切ってエラキスはふたつ返事で答えた。空の世界へはエラキス自慢の飛行艇シーラカンス号で向かうことに決まった。
そうして彼らがベイ博士と話している頃、キョクは一人マキナ中層部を徘徊していた。
キョクが三人とともにベイ博士の下へ行かなかったのは、彼が三人との間に距離を感じていたからなのかもしれない。
冒頭アルバールへやってきたキョクとメイヴはマキナから来たと言っていた。彼らはもともとガイストの下でその研究を手伝っていたが、理由あって彼らはガイストの下を離れて今はこのベイクーロ研究所に拠点を置いている。そのため、キョクにとってはこのあたりはとてもよく見知った場所だ。にもかかわらず、彼は三人とは別行動を取っている。
なぜ彼らがガイストの下にいなかったのか。それはアルバールで代表たちがガイストを呼んだのに彼が現れなかったことと関係しているのだが、メイヴはその理由を明かさなかった。そしてその理由はキョクも知っている。
「英雄だから何だって言うんだ。そんな肩書の一体何が凄いっていうんだ。本当に英雄が凄いのなら、こんなことにはならなかったはずだ」
歩きながらキョクは独りごちる。
「メイヴはたしかに性能も実力もオレじゃ敵わないし、最終的にはいつもしっかりと結果を出すけど、オレはメイヴのやり方には納得できない。ヘルツは英雄と言われているクせになんだかパッとしない爺さんだったじゃないか。そしてどいつもこいつもオレを見てはゲンダーゲンダー。そのゲンダーはもういないというのに…」
キョクは大陸の人々が称える『救国の英雄』という肩書に納得していなかった。それは、あるいは自身がいつもゲンダーと比較されるせいもあるのかもしれない。つまり、外面だけを見て本質を見ない。そんな周囲の態度に納得ができなかった。
「それからガイスト……オレを作ってクれた親のような存在。本当に英雄が凄いなら、そして本当に英雄が英雄として称えられているというなら、どうしてガイストがあんなに苦しまないといけないんだ。どうしてガイストがあんなに辛いを思いをしなければならないんだ!」
悔しそうな表情をしながらキョクは都市中層部にかかる架け橋にもたれかかって空を見上げる。マキナの空は、砂漠化の進む付近の環境とこの都市の厳しい環境も相まってか、いつも曇り空だった。
そこから下に視線を移すとマキナの下層部、いわゆる貧民街が目に入る。
貧民街には成功できなかった科学者や技術者、難民などの浮浪者がもう何年も前から押し込められている。
「きっと誰も表面だけみて本質なんか見てないんだよ。じゃなければ、あんなことには…。どうしてなんだよガイスト……オレにはよクわからないよ…」
下を見つめながらキョクは悲しそうに呟いた。
しばらくそのままぼんやりしていたように思う。少し時間が立ち過ぎてしまっただろうか。
そろそろ次の任務があるかもしれないから三人のところへ戻っておこう。キョクがそう考えて振り返ったときだった。
「あれは…?」
遠方から黒い煙が立ち昇っているのが見える。キョクは何かいやな予感を感じた。
「あの方角はベイクーロの……まさか!」
最悪の事態も考えながら、キョクはスヴェン研究所へと走った。
たしかにあの三人とはまだあまり打ち解けられていない。ベイ博士ともメイヴのように親しくなれたわけではない。
だがそれでも見知った仲ではあるし、今は同じところに所属する仲間でもある。そんな彼らにもし危険が迫っているのだとしたら、それを見過ごすわけにはいかない。
スヴェン研究所に辿りついてみると、研究所から火の手が上がっていた。
研究員や技師たちが必死で消火活動に奔走しているのが見える。キョクはまず仲間の姿を捜した。
アルバールから乗ってきた装甲車はすでに焼け焦げてくず鉄の塊になっている。幸いか、その中には誰も犠牲者の姿はないようだ。
そのままキョクが捜索を続けていると、上方からその声が聴こえた。
「ネメェェエエエーッ!!」
炎に身を包んだ一匹のグメーシス亜種だ。胴体には『怒』の刻印がある。
以前に各地で調査団たちが集めてきた情報から、キョクはそれがすぐにネメーシスであるとわかった。
「亜種! たしかデルタチームが捕まえてきてたやつだ。クそっ、また湧いて来たのか!?」
ネメーシスは炎をまとったまま飛び交って、あちこちに火をつけて回る。このままでは被害は広がる一方だ。
ここは自分がなんとかしなければならない。キョクはそう判断した。
「ちょうどいい。今こそオレの実力を示して、オレはただのゲンダーの代用品じゃないってことを見せつけるいい機会だ!」
キョクはネメーシスに対峙する。一方でネメーシスは、キョクにはまるで関心がない様子でふらふらと飛び回っている。
そんな逃げ回る対象に右腕を向けてしっかりと狙いを定めると、キョクは攻撃を開始した。
腕からは無数の針が発射される。それはゲンダーの得意技である汁千本に似ているが、ゲンダーのそれとは本質的に異なる。溶解性の酸を飛ばすゲンダーに対して、キョクはその身体にたくさんあるサボテンの棘を模した針をマシンガンのように発射して攻撃する。ひとよんで『針一棘』(はりいっきょく)だ。
拡散して撃ち出される針は面の攻撃で逃げ回るネメーシスを確実に捉える。しかし、針ひとつひとつの威力は大したものではなく、また実体を持たないグメーシスの類には物理的な攻撃はまるで意味を成さなかった。
「効いていないのか? いや、そんなはずはない。きっと威力が足りないんだな。だったら全力を込めるまで……オレはいつだって全力だ!」
キョクはより正確にネメーシスへと狙いを定めると、構えた右腕にエネルギーを集中させて溜め込んだその一撃を放った。
拡散していた針は一点へと集中して発射される。その一撃は厚い鋼鉄の塊でさえ撃ち抜いてしまうほどに鋭く、強力な攻撃力を誇るキョクの必殺技『針一局』と呼ばれる。ややこしいが、これも(はりいっきょく)だ。ちなみに、さらにこれを両手で放つ『針一極』も存在する。
しかし無論グメーシスにもネメーシスにも、どの針一キョクも通用しない。
物理的な攻撃手段しか持たず、ゲンダーのように対精神体攻撃の『極限一本』のような手段も持ち合わせていないキョクには、決してグメーシスやその亜種に有効打を与えることはできない。
空回りするキョクをまるで気にも留めない様子でネメーシスは飛び回り、人々がやっとの思いで消火したところへ飛んで行ってはすぐに火をつけてしまう。まるで無駄な足掻きだとあざ笑うかのようにネメーシスはくるくると宙を舞ってみせた。
「あいつめ、馬鹿にしやがって……! クそっ、やっぱりオレじゃ駄目なのか? 何もできずにオレは見ていることしかできないなんて…」
悔しさを噛みしめながら、何か打つ手はないか、自分にできることはないのかと右往左往する。
そんなキョクのところへ心配した様子のシルマとイザールが駆けつけた。
「キョク君! 今までどこへ行っていたんだい!? でも無事でよかった。ここはいいから、君は消火活動を手伝ってくれ」
「ネメーシスに有効なのは水よ! アルバールから運んできた資料に載っていたの。機械のあなたなら人間よりもたくさんの水を一度に運べるはず。早く行きましょう!」
しかし、キョクは力なくその場に座り込んで動かなくなってしまった。
「無駄だ…。いくら消してもあいつがすぐに火をつけてしまう。元を断たないと意味がないんだよ」
「エラキスと同じことを言うのね。彼もそう言って、ベイ博士といっしょに飛び出して行ってしまったわ」
「デルタチームは飛行艇から水を散布してネメーシスを鎮めたらしい。きっと同じことをやるつもりなんだろう。だからネメーシスは彼らに任せて僕たちは少しでも被害を広げないようにしなくちゃ! 君の力が加わることで救える命だってきっとあるよ!」
二人が説得するが、それでもやはりキョクは動かない。どこか具合でも悪いのかと聞くと、キョクは深いため息を吐いた。
「オレはキョクだ……ゲンダーの代用品じゃない。たとえその用途で作られたとしてもオレはキョクなんだ。それなのに、その代用品としての役目も果たせないなんて。薄々感じてはいたんだ、オレは英雄のようにはなれないって。それを補おうといつも全力で頑張ってきたのにオレはいつも空回りするばかり。やっぱりオレはゲンダーにはなれないんだ。オレは何の役にも立てないんだよ…」
再び深いため息を吐くと、キョクはそのまま塞ぎこんでしまった。
ゲンダーはあんなに凄かったのにと比較されてきて、それが悔しくていつもキョクは全力で走り、そして空回りばかりしてきた。事あるごとに自分の実力を示して、自分はゲンダーには劣らないんだと主張しようとしてきた。
ゲンダーやメイヴは英雄である。しかし自分は英雄ではない。自分はゲンダーとは違うのだから、ゲンダーと比較してどうこうではなく、キョクとしての評価が欲しいといつも思っていた。
しかし力を発揮できずにまたゲンダーと比較されて、所詮は代用品に過ぎないという評価をされていくうちに、キョクは自分は英雄にはなれないことを思い知らされ、次第に英雄そのものを嫌うようになってしまった。
それに、その英雄というレッテルが今ガイストを苦しめているということをキョクは知っている。またキョクはそのことを知らないが、同様にヘルツも英雄であることに悩んでいる。だからこそ、キョクは救国の英雄というものに納得ができなかったのだ。
「オレは駄作だ。ゲンダーと違ってなんの役にも立てないんだよ。だからどうせオレが一人加わったクらいで状況は何も変わりはしない。いや、それどころかまた空回りして足を引っ張ってしまうかも…」
ふて腐れて愚痴をこぼすキョク。
そんな彼を見て「こんなときに何を言ってるの!」とシルマが動きかけたが、それよりも先に手を出したのはイザールだった。
鈍い衝撃。と、その次にはキョクは弾かれて地面を転がっていた。起き上がって見るとイザールの拳からは血が流れている。どうやら殴られたらしい。
「いい加減にしろよ!」
イザールは怒鳴った。
「どうせ役に立てないから何もしないだって! 今の君はぜんッぜん美しくない! いや、最悪に醜いよ!!」
普段はどちらかというとなよなよした印象の彼が突然大声を上げたことにシルマもキョクも驚いていた。
「たしかに君の気持ちはよくわかるよ。こう見えても僕だって今までたくさんの失敗をしてきたんだ。何をやってもダメだった。いや、今だって僕は役立たずかもしれない。僕なんて必要とされてないんじゃないかと思いかけたこともある。でも、それが何もしなくていい理由になるのかい!? 君はそうやって困っている仲間を見捨てるのか!?」
「オレはそんなつもりじゃ…」
「僕は見捨ててしまった……昔そうやって何もしなかったせいで、大切な友達を失ってしまったんだ。彼は僕の恩人だったのに。彼がいなかったら僕は今ここにいなかったかもしれないのに。後悔しているんだ…」
「イザール? あなた一体過去に何があったの」
「ひどい過去さ。できることなら話したくない。ともかく、自分が弱かったせいで僕は後悔をしたんだ。キョク君、君にも同じ思いをしてもらいたくはない」
キョクの両肩に手を置いて、屈みこんで視線の高さを合わせながらイザールが言った。
機械なのでさっき殴られた場所に痛みはなかったが、キョクは心に痛みを感じた。
「そうは言ったって……オレには本当に何もできない。認めたクなかった。けど、やっとわかった。思い知らされた。オレは弱いんだ…」
イザールは首を横に振る。
「僕だって弱い。誰だって弱い。みんな弱さを抱えて生きているんだよ。完璧な人間はいない。それはそんな人間が作った機械にも言えることさ」
「誰だって……それはガイストもそうなのか。メイヴも?」
「ああ。きっとあのゲンダー君だってそうだったはずだよ」
「そうか。それでガイストは…」
キョクは何か思い当たる節があるのか、俯いて黙り込んだ。
「でもね」
イザールは続けた。
「弱いのは一方的に悪いことじゃない。自分が弱いことを知ってるからこそ、それを補おうとすることができる。自分にできないことがあるとわかっているからこそ、仲間に助けを求めることができる。仲間に助けられるからこそ、こっちも自分にできることで助けてあげようと思うことができるんだ。一人でできることなんて、実はそんなに多くないんだよ」
キョクは俯いたまま何も言わない。
「誰かにはできなくても君にはできることが必ずあるはずだよ。キョク君、逃げちゃだめだ! 自分の弱さを認めて、それに立ち向かわないと……勇気を出せよ! 君だって男だろう!」
イザールが激励するも、キョクはそのまま黙り続けた。
もういいから消火活動を続けようとシルマが促す。彼女に伴われてイザールはその場をあとにしたが、その顔に心配の色はもうなかった。
「大丈夫だよ。キョク君ならきっとわかってくれる…」
そろそろ次の任務があるかもしれないから三人のところへ戻っておこう。キョクがそう考えて振り返ったときだった。
「あれは…?」
遠方から黒い煙が立ち昇っているのが見える。キョクは何かいやな予感を感じた。
「あの方角はベイクーロの……まさか!」
最悪の事態も考えながら、キョクはスヴェン研究所へと走った。
たしかにあの三人とはまだあまり打ち解けられていない。ベイ博士ともメイヴのように親しくなれたわけではない。
だがそれでも見知った仲ではあるし、今は同じところに所属する仲間でもある。そんな彼らにもし危険が迫っているのだとしたら、それを見過ごすわけにはいかない。
スヴェン研究所に辿りついてみると、研究所から火の手が上がっていた。
研究員や技師たちが必死で消火活動に奔走しているのが見える。キョクはまず仲間の姿を捜した。
アルバールから乗ってきた装甲車はすでに焼け焦げてくず鉄の塊になっている。幸いか、その中には誰も犠牲者の姿はないようだ。
そのままキョクが捜索を続けていると、上方からその声が聴こえた。
「ネメェェエエエーッ!!」
炎に身を包んだ一匹のグメーシス亜種だ。胴体には『怒』の刻印がある。
以前に各地で調査団たちが集めてきた情報から、キョクはそれがすぐにネメーシスであるとわかった。
「亜種! たしかデルタチームが捕まえてきてたやつだ。クそっ、また湧いて来たのか!?」
ネメーシスは炎をまとったまま飛び交って、あちこちに火をつけて回る。このままでは被害は広がる一方だ。
ここは自分がなんとかしなければならない。キョクはそう判断した。
「ちょうどいい。今こそオレの実力を示して、オレはただのゲンダーの代用品じゃないってことを見せつけるいい機会だ!」
キョクはネメーシスに対峙する。一方でネメーシスは、キョクにはまるで関心がない様子でふらふらと飛び回っている。
そんな逃げ回る対象に右腕を向けてしっかりと狙いを定めると、キョクは攻撃を開始した。
腕からは無数の針が発射される。それはゲンダーの得意技である汁千本に似ているが、ゲンダーのそれとは本質的に異なる。溶解性の酸を飛ばすゲンダーに対して、キョクはその身体にたくさんあるサボテンの棘を模した針をマシンガンのように発射して攻撃する。ひとよんで『針一棘』(はりいっきょく)だ。
拡散して撃ち出される針は面の攻撃で逃げ回るネメーシスを確実に捉える。しかし、針ひとつひとつの威力は大したものではなく、また実体を持たないグメーシスの類には物理的な攻撃はまるで意味を成さなかった。
「効いていないのか? いや、そんなはずはない。きっと威力が足りないんだな。だったら全力を込めるまで……オレはいつだって全力だ!」
キョクはより正確にネメーシスへと狙いを定めると、構えた右腕にエネルギーを集中させて溜め込んだその一撃を放った。
拡散していた針は一点へと集中して発射される。その一撃は厚い鋼鉄の塊でさえ撃ち抜いてしまうほどに鋭く、強力な攻撃力を誇るキョクの必殺技『針一局』と呼ばれる。ややこしいが、これも(はりいっきょく)だ。ちなみに、さらにこれを両手で放つ『針一極』も存在する。
しかし無論グメーシスにもネメーシスにも、どの針一キョクも通用しない。
物理的な攻撃手段しか持たず、ゲンダーのように対精神体攻撃の『極限一本』のような手段も持ち合わせていないキョクには、決してグメーシスやその亜種に有効打を与えることはできない。
空回りするキョクをまるで気にも留めない様子でネメーシスは飛び回り、人々がやっとの思いで消火したところへ飛んで行ってはすぐに火をつけてしまう。まるで無駄な足掻きだとあざ笑うかのようにネメーシスはくるくると宙を舞ってみせた。
「あいつめ、馬鹿にしやがって……! クそっ、やっぱりオレじゃ駄目なのか? 何もできずにオレは見ていることしかできないなんて…」
悔しさを噛みしめながら、何か打つ手はないか、自分にできることはないのかと右往左往する。
そんなキョクのところへ心配した様子のシルマとイザールが駆けつけた。
「キョク君! 今までどこへ行っていたんだい!? でも無事でよかった。ここはいいから、君は消火活動を手伝ってくれ」
「ネメーシスに有効なのは水よ! アルバールから運んできた資料に載っていたの。機械のあなたなら人間よりもたくさんの水を一度に運べるはず。早く行きましょう!」
しかし、キョクは力なくその場に座り込んで動かなくなってしまった。
「無駄だ…。いくら消してもあいつがすぐに火をつけてしまう。元を断たないと意味がないんだよ」
「エラキスと同じことを言うのね。彼もそう言って、ベイ博士といっしょに飛び出して行ってしまったわ」
「デルタチームは飛行艇から水を散布してネメーシスを鎮めたらしい。きっと同じことをやるつもりなんだろう。だからネメーシスは彼らに任せて僕たちは少しでも被害を広げないようにしなくちゃ! 君の力が加わることで救える命だってきっとあるよ!」
二人が説得するが、それでもやはりキョクは動かない。どこか具合でも悪いのかと聞くと、キョクは深いため息を吐いた。
「オレはキョクだ……ゲンダーの代用品じゃない。たとえその用途で作られたとしてもオレはキョクなんだ。それなのに、その代用品としての役目も果たせないなんて。薄々感じてはいたんだ、オレは英雄のようにはなれないって。それを補おうといつも全力で頑張ってきたのにオレはいつも空回りするばかり。やっぱりオレはゲンダーにはなれないんだ。オレは何の役にも立てないんだよ…」
再び深いため息を吐くと、キョクはそのまま塞ぎこんでしまった。
ゲンダーはあんなに凄かったのにと比較されてきて、それが悔しくていつもキョクは全力で走り、そして空回りばかりしてきた。事あるごとに自分の実力を示して、自分はゲンダーには劣らないんだと主張しようとしてきた。
ゲンダーやメイヴは英雄である。しかし自分は英雄ではない。自分はゲンダーとは違うのだから、ゲンダーと比較してどうこうではなく、キョクとしての評価が欲しいといつも思っていた。
しかし力を発揮できずにまたゲンダーと比較されて、所詮は代用品に過ぎないという評価をされていくうちに、キョクは自分は英雄にはなれないことを思い知らされ、次第に英雄そのものを嫌うようになってしまった。
それに、その英雄というレッテルが今ガイストを苦しめているということをキョクは知っている。またキョクはそのことを知らないが、同様にヘルツも英雄であることに悩んでいる。だからこそ、キョクは救国の英雄というものに納得ができなかったのだ。
「オレは駄作だ。ゲンダーと違ってなんの役にも立てないんだよ。だからどうせオレが一人加わったクらいで状況は何も変わりはしない。いや、それどころかまた空回りして足を引っ張ってしまうかも…」
ふて腐れて愚痴をこぼすキョク。
そんな彼を見て「こんなときに何を言ってるの!」とシルマが動きかけたが、それよりも先に手を出したのはイザールだった。
鈍い衝撃。と、その次にはキョクは弾かれて地面を転がっていた。起き上がって見るとイザールの拳からは血が流れている。どうやら殴られたらしい。
「いい加減にしろよ!」
イザールは怒鳴った。
「どうせ役に立てないから何もしないだって! 今の君はぜんッぜん美しくない! いや、最悪に醜いよ!!」
普段はどちらかというとなよなよした印象の彼が突然大声を上げたことにシルマもキョクも驚いていた。
「たしかに君の気持ちはよくわかるよ。こう見えても僕だって今までたくさんの失敗をしてきたんだ。何をやってもダメだった。いや、今だって僕は役立たずかもしれない。僕なんて必要とされてないんじゃないかと思いかけたこともある。でも、それが何もしなくていい理由になるのかい!? 君はそうやって困っている仲間を見捨てるのか!?」
「オレはそんなつもりじゃ…」
「僕は見捨ててしまった……昔そうやって何もしなかったせいで、大切な友達を失ってしまったんだ。彼は僕の恩人だったのに。彼がいなかったら僕は今ここにいなかったかもしれないのに。後悔しているんだ…」
「イザール? あなた一体過去に何があったの」
「ひどい過去さ。できることなら話したくない。ともかく、自分が弱かったせいで僕は後悔をしたんだ。キョク君、君にも同じ思いをしてもらいたくはない」
キョクの両肩に手を置いて、屈みこんで視線の高さを合わせながらイザールが言った。
機械なのでさっき殴られた場所に痛みはなかったが、キョクは心に痛みを感じた。
「そうは言ったって……オレには本当に何もできない。認めたクなかった。けど、やっとわかった。思い知らされた。オレは弱いんだ…」
イザールは首を横に振る。
「僕だって弱い。誰だって弱い。みんな弱さを抱えて生きているんだよ。完璧な人間はいない。それはそんな人間が作った機械にも言えることさ」
「誰だって……それはガイストもそうなのか。メイヴも?」
「ああ。きっとあのゲンダー君だってそうだったはずだよ」
「そうか。それでガイストは…」
キョクは何か思い当たる節があるのか、俯いて黙り込んだ。
「でもね」
イザールは続けた。
「弱いのは一方的に悪いことじゃない。自分が弱いことを知ってるからこそ、それを補おうとすることができる。自分にできないことがあるとわかっているからこそ、仲間に助けを求めることができる。仲間に助けられるからこそ、こっちも自分にできることで助けてあげようと思うことができるんだ。一人でできることなんて、実はそんなに多くないんだよ」
キョクは俯いたまま何も言わない。
「誰かにはできなくても君にはできることが必ずあるはずだよ。キョク君、逃げちゃだめだ! 自分の弱さを認めて、それに立ち向かわないと……勇気を出せよ! 君だって男だろう!」
イザールが激励するも、キョクはそのまま黙り続けた。
もういいから消火活動を続けようとシルマが促す。彼女に伴われてイザールはその場をあとにしたが、その顔に心配の色はもうなかった。
「大丈夫だよ。キョク君ならきっとわかってくれる…」
しばらくして上空に飛行艇が並び、水が散布され始めた。
研究所を覆っていた炎は見る見るうちに小さくなり、ようやく炎は鎮火された。暴れていたネメーシスもいつの間にか姿を消していた。
上空から拡声機を通して声が響く。
『諸君、どうにか火は消し止められたな。幸い研究所の中は無事だ。各自まず負傷している者はその手当てを優先してくれ。大丈夫な者は被害を受けた者の確認とその支援を頼む。周辺にも被害が飛び火しているかもしれないので、もし気付いたら積極的にフォローしてやってほしい』
『Well done, all! 思ったより酷いことにならなくて良かったぜ。Cactusboyはちゃんと見つかったか?』
ベイ博士とエラキスの声だ。シルマとイザールは手を振ってエラキスの問いに答える。キョクはそんな様子をぼんやりと眺めていた。
少しして、飛行艇から降りてきたエラキスは自分の目で直接キョクの無事を確認して安心の色を示した。
「目を離した隙にいなくなりやがって、こいつめ。あんまし俺たちに迷惑かけるんじゃねーぜ?」
キョクの頭をぽんぽんと軽く叩きながらエラキスは笑う。
さすがに今のキョクにはその言い方はまずいとイザールが止めに入るが、理由がわからないエラキスは不満そうな顔でイザールに掴みかかる。互いの認識のずれから喧嘩に発展しそうなところでキョクが小さな声で言った。
「……なんでおまえたちはそこまでオレのこと心配してクれるんだ?」
「Huh? 心配されるのは嫌いかよ」
「そうじゃないけど。任務でしばらク一緒にはいたけど、おまえたちとはそんなに会話もしてなかったし……というか、何話していいのかわからなクて…。お互いまだあまりよく知らないのに心配してクれるなんて」
「おまえ、わけのわかんねーことを言うやつだな。任務の仲間が急にいなくなってたら誰だって心配するだろ、普通」
キョクは彼らには黙ってマキナの街をぶらついていたのだ。
たしかにシルマ、イザール、エラキスの三人は調査団の一員ではあるが、キョクはそれ以上には考えていなかった。あくまでただのチームメンバー程度に考えているに過ぎなかったのだ。
「こんなオレでも仲間と呼んでクれるのか」
「Did something happen? なんか元気ないみてーだが……何言ってんだ。最初から俺たちは仲間だったろ。違うのか?」
「……ごめん。オレが間違ってた。ありがとう…」
キョクは小さな声で答えた。
「Where'd it come from!?」
いきなりどうしたんだと困惑するエラキスとそれを見つめるキョク。そんな二人を微笑ましそうにシルマとイザールが眺める。
安心した顔のイザールにシルマはそっと耳打ちした。
「あのお説教が効いたみたいね。あなたのこと、ちょっとだけ見直したわよ」
「えっ、今なんて…」
「ふふ。なんでもないわ」
ともあれ火の手は消し止められ、キョクと三人との距離も少し近づいたところで一件落着。これから調査団は空へ向かうことになった経緯とその目的をその場でキョクに伝え、さて出発の準備でも始めようかと話していたちょうどそのときである。
「ネメ……ネメェー…!」
鎮火とともに消えたと思っていたネメーシスが突然飛び出してきた。
それはエラキスの背後に現れたため、彼はまだその存在に気付いていない。
水の散布によってネメーシスは弱っていたが、それでも人が大火傷をするには十分な火をその身にまとっている。ネメーシスはそっとエラキスに忍び寄ると、せめて一矢報いてやろうとでも言わんばかりに彼の背中に飛びかかる。
「あ、危ないッ!」
するとキョクは咄嗟にエラキスを突き飛ばして、両手でネメーシスを受け止めようとした。
ネメーシスはキョクの身体をすり抜けていったが、その火はキョクに燃え移りパチパチと火花を飛ばし始める。
事態に気がついた仲間たちは、急いでネメーシスとキョクに水を被せると、デルタチームからの報告と対策に倣って、こんどこそ静かになったネメーシスを水の中に沈めて完全に無力化した。
「キョク! 大丈夫なの!?」
火に包まれたキョクは棘の先端が少し焦げてしまったようだが平気な顔をしていた。
「オレは機械だから火はへっちゃらだ。エラキスが焦げなクてよかったよ」
「Oops… 俺としたことが油断してたぜ。Thanks my HERO!」
「べ、別に…。ヒーローなんて大げさだろ。ただ……気がついたら勝手に身体が動いてただけだよ」
「いーや、おまえは俺のヒーローさ。俺を助けてくれたんだからな」
人は大きな怪我をするとすぐに動けなくなってしまう。そしてその回復も遅い。一方で機械は故障があっても修理をすればすぐに復活することができる。機械は修理できるが、人はそうはいかないのだ。だからこそエラキスは彼を命の恩人、ヒーローと称した。
それでも自分はそんな大したものじゃないと否定するキョクにシルマが言った。
「他人を助けることに大きいも小さいもないわ。わたしも昔は自分にはなにもできないと思っていたわ。そして、あなたと同じようにどうして助けてくれるのかと疑問に思ったことがあった。そのときにわたしは学んだことがあるの」
結果としてそれが役に立ったかどうかではなく、その助けようとする気持ちが重要だ。
そして大切なのは行動する意思。みんなのために何かしてあげたいという意志なのだとシルマは語った。
「役に立てないかもしれない、じゃない。役に立つかもしれない。その気持ちが嬉しいのよ」
「そうだね。そしてキョク君の咄嗟の行動はたしかにエラキスを救った。それはゲンダーの代用品だからではなくて、紛れもなく君の意思で行ったことだろう。だからエラキスは君に感謝しているんだよ。英雄のゲンダーではなくて、ね」
「Yeah! 今日のMVPはキョクだな。称えようぜ、俺たちの小さな英雄を!」
彼らはキョクを称えた。本当の意味でキョクは彼らと仲間になったのだ。
仲間として認識されているとわかって、キョクは自分が代用品ではなくキョクとして認められていることを知った。
ゲンダーと比べられることが嫌なのではないし、もちろんメイヴや英雄のことが嫌いなのでもない。ただキョクは自分の居場所が欲しかったのだ。
「ありがとう、みんな。それから……今まですまなかった。オレこれからは自分のためじゃなくて、仲間のために全力を尽くすよ!」
仲間たちは心を開いたキョクを温かく迎えた。
研究所を覆っていた炎は見る見るうちに小さくなり、ようやく炎は鎮火された。暴れていたネメーシスもいつの間にか姿を消していた。
上空から拡声機を通して声が響く。
『諸君、どうにか火は消し止められたな。幸い研究所の中は無事だ。各自まず負傷している者はその手当てを優先してくれ。大丈夫な者は被害を受けた者の確認とその支援を頼む。周辺にも被害が飛び火しているかもしれないので、もし気付いたら積極的にフォローしてやってほしい』
『Well done, all! 思ったより酷いことにならなくて良かったぜ。Cactusboyはちゃんと見つかったか?』
ベイ博士とエラキスの声だ。シルマとイザールは手を振ってエラキスの問いに答える。キョクはそんな様子をぼんやりと眺めていた。
少しして、飛行艇から降りてきたエラキスは自分の目で直接キョクの無事を確認して安心の色を示した。
「目を離した隙にいなくなりやがって、こいつめ。あんまし俺たちに迷惑かけるんじゃねーぜ?」
キョクの頭をぽんぽんと軽く叩きながらエラキスは笑う。
さすがに今のキョクにはその言い方はまずいとイザールが止めに入るが、理由がわからないエラキスは不満そうな顔でイザールに掴みかかる。互いの認識のずれから喧嘩に発展しそうなところでキョクが小さな声で言った。
「……なんでおまえたちはそこまでオレのこと心配してクれるんだ?」
「Huh? 心配されるのは嫌いかよ」
「そうじゃないけど。任務でしばらク一緒にはいたけど、おまえたちとはそんなに会話もしてなかったし……というか、何話していいのかわからなクて…。お互いまだあまりよく知らないのに心配してクれるなんて」
「おまえ、わけのわかんねーことを言うやつだな。任務の仲間が急にいなくなってたら誰だって心配するだろ、普通」
キョクは彼らには黙ってマキナの街をぶらついていたのだ。
たしかにシルマ、イザール、エラキスの三人は調査団の一員ではあるが、キョクはそれ以上には考えていなかった。あくまでただのチームメンバー程度に考えているに過ぎなかったのだ。
「こんなオレでも仲間と呼んでクれるのか」
「Did something happen? なんか元気ないみてーだが……何言ってんだ。最初から俺たちは仲間だったろ。違うのか?」
「……ごめん。オレが間違ってた。ありがとう…」
キョクは小さな声で答えた。
「Where'd it come from!?」
いきなりどうしたんだと困惑するエラキスとそれを見つめるキョク。そんな二人を微笑ましそうにシルマとイザールが眺める。
安心した顔のイザールにシルマはそっと耳打ちした。
「あのお説教が効いたみたいね。あなたのこと、ちょっとだけ見直したわよ」
「えっ、今なんて…」
「ふふ。なんでもないわ」
ともあれ火の手は消し止められ、キョクと三人との距離も少し近づいたところで一件落着。これから調査団は空へ向かうことになった経緯とその目的をその場でキョクに伝え、さて出発の準備でも始めようかと話していたちょうどそのときである。
「ネメ……ネメェー…!」
鎮火とともに消えたと思っていたネメーシスが突然飛び出してきた。
それはエラキスの背後に現れたため、彼はまだその存在に気付いていない。
水の散布によってネメーシスは弱っていたが、それでも人が大火傷をするには十分な火をその身にまとっている。ネメーシスはそっとエラキスに忍び寄ると、せめて一矢報いてやろうとでも言わんばかりに彼の背中に飛びかかる。
「あ、危ないッ!」
するとキョクは咄嗟にエラキスを突き飛ばして、両手でネメーシスを受け止めようとした。
ネメーシスはキョクの身体をすり抜けていったが、その火はキョクに燃え移りパチパチと火花を飛ばし始める。
事態に気がついた仲間たちは、急いでネメーシスとキョクに水を被せると、デルタチームからの報告と対策に倣って、こんどこそ静かになったネメーシスを水の中に沈めて完全に無力化した。
「キョク! 大丈夫なの!?」
火に包まれたキョクは棘の先端が少し焦げてしまったようだが平気な顔をしていた。
「オレは機械だから火はへっちゃらだ。エラキスが焦げなクてよかったよ」
「Oops… 俺としたことが油断してたぜ。Thanks my HERO!」
「べ、別に…。ヒーローなんて大げさだろ。ただ……気がついたら勝手に身体が動いてただけだよ」
「いーや、おまえは俺のヒーローさ。俺を助けてくれたんだからな」
人は大きな怪我をするとすぐに動けなくなってしまう。そしてその回復も遅い。一方で機械は故障があっても修理をすればすぐに復活することができる。機械は修理できるが、人はそうはいかないのだ。だからこそエラキスは彼を命の恩人、ヒーローと称した。
それでも自分はそんな大したものじゃないと否定するキョクにシルマが言った。
「他人を助けることに大きいも小さいもないわ。わたしも昔は自分にはなにもできないと思っていたわ。そして、あなたと同じようにどうして助けてくれるのかと疑問に思ったことがあった。そのときにわたしは学んだことがあるの」
結果としてそれが役に立ったかどうかではなく、その助けようとする気持ちが重要だ。
そして大切なのは行動する意思。みんなのために何かしてあげたいという意志なのだとシルマは語った。
「役に立てないかもしれない、じゃない。役に立つかもしれない。その気持ちが嬉しいのよ」
「そうだね。そしてキョク君の咄嗟の行動はたしかにエラキスを救った。それはゲンダーの代用品だからではなくて、紛れもなく君の意思で行ったことだろう。だからエラキスは君に感謝しているんだよ。英雄のゲンダーではなくて、ね」
「Yeah! 今日のMVPはキョクだな。称えようぜ、俺たちの小さな英雄を!」
彼らはキョクを称えた。本当の意味でキョクは彼らと仲間になったのだ。
仲間として認識されているとわかって、キョクは自分が代用品ではなくキョクとして認められていることを知った。
ゲンダーと比べられることが嫌なのではないし、もちろんメイヴや英雄のことが嫌いなのでもない。ただキョクは自分の居場所が欲しかったのだ。
「ありがとう、みんな。それから……今まですまなかった。オレこれからは自分のためじゃなくて、仲間のために全力を尽くすよ!」
仲間たちは心を開いたキョクを温かく迎えた。
突然のネメーシスの来訪をなんとか解決して、調査団は改めてベイ博士の依頼のもと、飛行艇シーラカンス号で空へ向かう準備を進めていた。
そんな中でキョクは自分はマキナに残りたいという相談を持ちかけた。
「せっかく仲良くなれたところなのに、どうして?」
「イザール。おまえのあのときの言葉でオレは目が覚めたよ。そのことは感謝してる。実はおまえが言ってクれたことを是非とも教えてやりたいやつがマキナにいるんだ。あいつもオレと同じように自分を責めて悩んでる。オレはあいつを助けてやりたい!」
キョクは力強く言った。
「シルマも言ってクれたよな。気持ちが大切なんだって。オレはあいつを助けたいんだ。だから、そのためにオレはマキナに残りたい」
三人は迷うことなく、このキョクの頼みを受け入れた。キョクはもう何度目かわからないお礼を言って彼らに頭を下げた。
「わがまま言ってごめんな。でも、あいつもオレにとっては大事な人なんだ」
「わかったよ。もうそれ以上言わなくていい。僕は君の意思を尊重するよ」
「空から戻って来たときにまた合流しましょう。大丈夫、調査はわたしたちに任せておいて」
「Cactusboy, be ambitious! サボテンよ、大志を抱けってな。行ってこい、小さな英雄!」
仲間たちに見送られてキョクはマキナの街並みの向こうへと溶け込んでいった。
そして三人は飛行艇の準備を終えると、いよいよ大樹の貫く雲の向こう、空高くへと飛び立って行った。
空を行く飛行艇の姿に気がついたキョクは静かに頷くと、天上へと登って行くそれとは対照的にマキナの地下へと足を進める。
「待っててクれ。オレがおまえを助ける。オレがおまえを苦しみから解放してみせる。だからもう少しの辛抱だぞ、ガイスト…」
そんな中でキョクは自分はマキナに残りたいという相談を持ちかけた。
「せっかく仲良くなれたところなのに、どうして?」
「イザール。おまえのあのときの言葉でオレは目が覚めたよ。そのことは感謝してる。実はおまえが言ってクれたことを是非とも教えてやりたいやつがマキナにいるんだ。あいつもオレと同じように自分を責めて悩んでる。オレはあいつを助けてやりたい!」
キョクは力強く言った。
「シルマも言ってクれたよな。気持ちが大切なんだって。オレはあいつを助けたいんだ。だから、そのためにオレはマキナに残りたい」
三人は迷うことなく、このキョクの頼みを受け入れた。キョクはもう何度目かわからないお礼を言って彼らに頭を下げた。
「わがまま言ってごめんな。でも、あいつもオレにとっては大事な人なんだ」
「わかったよ。もうそれ以上言わなくていい。僕は君の意思を尊重するよ」
「空から戻って来たときにまた合流しましょう。大丈夫、調査はわたしたちに任せておいて」
「Cactusboy, be ambitious! サボテンよ、大志を抱けってな。行ってこい、小さな英雄!」
仲間たちに見送られてキョクはマキナの街並みの向こうへと溶け込んでいった。
そして三人は飛行艇の準備を終えると、いよいよ大樹の貫く雲の向こう、空高くへと飛び立って行った。
空を行く飛行艇の姿に気がついたキョクは静かに頷くと、天上へと登って行くそれとは対照的にマキナの地下へと足を進める。
「待っててクれ。オレがおまえを助ける。オレがおまえを苦しみから解放してみせる。だからもう少しの辛抱だぞ、ガイスト…」