白星「後日談」
カルストの村へ戻った俺たちは、今回の旅で見たこと、経験したこと、そして隕石についてわかったことをすべて長老に報告した。長老は予想以上の成果に満足そうな笑みを見せてくれた。
「隕石は地割れの底に落ちていきましたよ。もう何も怖いものはない、ってなもんです」
「さすがは村で一番を自称するだけのことはあるわい。正直、帰りが遅いんで逃げ出したかと思っとったが、おまえさんに頼んで正解だったようじゃのう。ほっほっほ」
「長老……そりゃないっすよ。俺、何度も死にそうになったんですからね」
こうして俺は今回の活躍を称えられて、村一番(自称)から、正式な村一番の狩人に昇格した。残念ながら次期族長の件についての話は来なかったが、一番の狩人に相応しい家を報酬として用意すると長老は約束してくれた。もちろん、これから建て始めるので、まだしばらくは古井戸の家暮らしになるのだろうが。
新しい家ができるまでの間は住み慣れたボロ家でみーぎゃ、あーぎゃとともに平穏な数日間を過ごした。村の仲間たちは最初は見慣れないしゃべるトカゲに警戒していたが、危険がないとわかるとすぐに打ち解けていった。
ちびどもを引き連れて、旅の活躍話を誇張を交えて話すのがここ数日の俺の日課となっていた。
「そこで俺の強い祈りが天に通じて雨を降らせた。その雨が悪霊をすべて清め、洗い流してしまったというわけさ。村を守らねばならない、という強い意志が神様にも伝わったんだな」
「いのったのボクだよ」
「しィぃ~~~っ! ちびすけぇ。いい子だから、ちょっと黙っててくれないかなー。あとでアメちゃんやるから」
「やれやれ。お主、狩人じゃなくてバカりゅうどの間違いなのではないか」
雨がすべてを洗い流したあともみーぎゃとあーぎゃの特殊な能力は残った。これらの能力は飛来した隕石とすれ違った影響で備わったもので、黒液によって力を得た大蛇などと同じ現象ではあったが、直接黒液に触れたわけではなかったために、暴走することなく自由に扱える能力として身についていた。黒液によって引き起こされたものではなく、また隕石の影響を受けてから数日が経っていたためなのか、雨に当たってもこの能力は彼らのものとして残ったのだ。一方、俺が暴走していたときに操っていたらしい稲妻を放つ能力は、きれいさっぱり洗い流されてしまった。少し残念だ。
「惜しいよなぁ。俺にも能力が残ったら、なにかと便利そうだったのに」
「稲妻のどこが便利だというのだ」
「みーぎゃの能力は作物を育てるのに役立つし、おまえの火は料理とかに役立つ。でも黒コゲにしてしまって狩りには向かないだろ。稲妻で獲物を気絶させれば一瞬だけだからコゲないし、新鮮な状態で獲ってこれそうだ」
「ほう。私に対抗するつもりか、いい度胸だ。一瞬だけしか攻撃できなくて大物が獲れるかな。まぁ、ちっぽけな獲物ばかり追いかけているほうがお主らしいか。所詮はバ狩人だからな」
「む。だったら稲妻のほうが夜を明るく照らせるぜ。火なんて薄ぼんやりとしか照らせないだろ」
「たしかにそうかもしれぬ。ま、一瞬だけのちっぽけな明かりだがな」
「ちぇ。人間舐めんなよ。だったら今に光を蓄える瓶を作ってやるぜ」
「せいぜい頑張るがよい。肝心の稲妻はもうなくなってしまったがな」
「くッそぉ! この借りはこんど返してやるからな」
「さしずめ、狩人ならぬ借人か」
「隕石は地割れの底に落ちていきましたよ。もう何も怖いものはない、ってなもんです」
「さすがは村で一番を自称するだけのことはあるわい。正直、帰りが遅いんで逃げ出したかと思っとったが、おまえさんに頼んで正解だったようじゃのう。ほっほっほ」
「長老……そりゃないっすよ。俺、何度も死にそうになったんですからね」
こうして俺は今回の活躍を称えられて、村一番(自称)から、正式な村一番の狩人に昇格した。残念ながら次期族長の件についての話は来なかったが、一番の狩人に相応しい家を報酬として用意すると長老は約束してくれた。もちろん、これから建て始めるので、まだしばらくは古井戸の家暮らしになるのだろうが。
新しい家ができるまでの間は住み慣れたボロ家でみーぎゃ、あーぎゃとともに平穏な数日間を過ごした。村の仲間たちは最初は見慣れないしゃべるトカゲに警戒していたが、危険がないとわかるとすぐに打ち解けていった。
ちびどもを引き連れて、旅の活躍話を誇張を交えて話すのがここ数日の俺の日課となっていた。
「そこで俺の強い祈りが天に通じて雨を降らせた。その雨が悪霊をすべて清め、洗い流してしまったというわけさ。村を守らねばならない、という強い意志が神様にも伝わったんだな」
「いのったのボクだよ」
「しィぃ~~~っ! ちびすけぇ。いい子だから、ちょっと黙っててくれないかなー。あとでアメちゃんやるから」
「やれやれ。お主、狩人じゃなくてバカりゅうどの間違いなのではないか」
雨がすべてを洗い流したあともみーぎゃとあーぎゃの特殊な能力は残った。これらの能力は飛来した隕石とすれ違った影響で備わったもので、黒液によって力を得た大蛇などと同じ現象ではあったが、直接黒液に触れたわけではなかったために、暴走することなく自由に扱える能力として身についていた。黒液によって引き起こされたものではなく、また隕石の影響を受けてから数日が経っていたためなのか、雨に当たってもこの能力は彼らのものとして残ったのだ。一方、俺が暴走していたときに操っていたらしい稲妻を放つ能力は、きれいさっぱり洗い流されてしまった。少し残念だ。
「惜しいよなぁ。俺にも能力が残ったら、なにかと便利そうだったのに」
「稲妻のどこが便利だというのだ」
「みーぎゃの能力は作物を育てるのに役立つし、おまえの火は料理とかに役立つ。でも黒コゲにしてしまって狩りには向かないだろ。稲妻で獲物を気絶させれば一瞬だけだからコゲないし、新鮮な状態で獲ってこれそうだ」
「ほう。私に対抗するつもりか、いい度胸だ。一瞬だけしか攻撃できなくて大物が獲れるかな。まぁ、ちっぽけな獲物ばかり追いかけているほうがお主らしいか。所詮はバ狩人だからな」
「む。だったら稲妻のほうが夜を明るく照らせるぜ。火なんて薄ぼんやりとしか照らせないだろ」
「たしかにそうかもしれぬ。ま、一瞬だけのちっぽけな明かりだがな」
「ちぇ。人間舐めんなよ。だったら今に光を蓄える瓶を作ってやるぜ」
「せいぜい頑張るがよい。肝心の稲妻はもうなくなってしまったがな」
「くッそぉ! この借りはこんど返してやるからな」
「さしずめ、狩人ならぬ借人か」
そういった平和な日常が過ぎて、旅の苦労をすっかり忘れかけてきた頃、俺は長老に呼び出された。
新しく用意された家は一人で暮らすには十分すぎる大きさのもので、長老の家の次ぐらいに立派なものだった。わらぶきの質素な家がほとんどを占めるこの村で、石造りの頑丈な家は長老のところと集会場を除けば他にはない。これはいよいよ次期長老の相談が来たな、と心躍らせていると長老はこう切り出した。
「どうじゃ。なかなか大きな家じゃろう。おまえさんにはもったいないぐらいじゃったかな」
「そんな! とんでもないですよ、長老。こんな立派な家に住めるなんて、俺は幸せ者だなぁ」
「そうかそうか。喜んでくれてなによりじゃ。おまえさんが連れ帰ってきたおちびさんらも暮らせるよう大きめに作らせてもらった」
「そういうことでしたか。それでも十分に余りある広さですよ。さすが長老! 気が利いてる」
「うむうむ。じゃが、すぐにちょうど良い広さになるじゃろうて。実はおまえさんに、また頼みがあってのう」
「……え?」
村で俺がぶらぶらしていた数日の間に、呪術師のばあちゃんがちびたちを占って、新たな予言を導き出したらしい。それは以下のように語られている。
『星の海より来たるもの。黒に始まり、それは赤、緑、蒼、白、金、そして虹を呼ぶ。それら竜というものなり』
ちびたちを引き連れて村を練り歩き、結果的にしっかりと宣伝してまわったおかげで、こいつらの能力がいかに便利なものかは、すでに村では周知の事実になっていた。なるほど、それが長老や呪術師の耳に入らないわけがない。
「黒い隕石から能力をもらった、赤があーぎゃ。緑がみーぎゃか。つまりまだ他に似たようなのがいるわけか。ふーん、竜ね。そういやあーぎゃが火竜の国がどうとか言ってたっけな」
「太古より語られる伝承に出てくる生き物じゃ。まさか実在しておったとはのう」
「ほぉー、そんな伝承が。いやぁー、勉強になったなぁ。俺、またひとつ賢くなっちゃったなぁ。えっと、それじゃ長老。ちょっと用を思い出したんで、俺はこのへんで……」
「その用は誰か他の者にやらせよう。おまえさんには、残りの竜を見つけて連れ帰ってきてもらいたい。これも我が村の発展のためじゃ。どこにあるかもない隕石を見つけ出したおまえさんなら、どこにいるかもわからない竜を見つけるのもきっと余裕じゃろ?」
「無茶言わんでください」
「おまえさんが適任じゃ。おまえにしかできんとさえ言おう。さあ、旅立つのだ。そして捜して来い。伝説の竜を!」
「ええぇー!!」
新しく用意された家は一人で暮らすには十分すぎる大きさのもので、長老の家の次ぐらいに立派なものだった。わらぶきの質素な家がほとんどを占めるこの村で、石造りの頑丈な家は長老のところと集会場を除けば他にはない。これはいよいよ次期長老の相談が来たな、と心躍らせていると長老はこう切り出した。
「どうじゃ。なかなか大きな家じゃろう。おまえさんにはもったいないぐらいじゃったかな」
「そんな! とんでもないですよ、長老。こんな立派な家に住めるなんて、俺は幸せ者だなぁ」
「そうかそうか。喜んでくれてなによりじゃ。おまえさんが連れ帰ってきたおちびさんらも暮らせるよう大きめに作らせてもらった」
「そういうことでしたか。それでも十分に余りある広さですよ。さすが長老! 気が利いてる」
「うむうむ。じゃが、すぐにちょうど良い広さになるじゃろうて。実はおまえさんに、また頼みがあってのう」
「……え?」
村で俺がぶらぶらしていた数日の間に、呪術師のばあちゃんがちびたちを占って、新たな予言を導き出したらしい。それは以下のように語られている。
『星の海より来たるもの。黒に始まり、それは赤、緑、蒼、白、金、そして虹を呼ぶ。それら竜というものなり』
ちびたちを引き連れて村を練り歩き、結果的にしっかりと宣伝してまわったおかげで、こいつらの能力がいかに便利なものかは、すでに村では周知の事実になっていた。なるほど、それが長老や呪術師の耳に入らないわけがない。
「黒い隕石から能力をもらった、赤があーぎゃ。緑がみーぎゃか。つまりまだ他に似たようなのがいるわけか。ふーん、竜ね。そういやあーぎゃが火竜の国がどうとか言ってたっけな」
「太古より語られる伝承に出てくる生き物じゃ。まさか実在しておったとはのう」
「ほぉー、そんな伝承が。いやぁー、勉強になったなぁ。俺、またひとつ賢くなっちゃったなぁ。えっと、それじゃ長老。ちょっと用を思い出したんで、俺はこのへんで……」
「その用は誰か他の者にやらせよう。おまえさんには、残りの竜を見つけて連れ帰ってきてもらいたい。これも我が村の発展のためじゃ。どこにあるかもない隕石を見つけ出したおまえさんなら、どこにいるかもわからない竜を見つけるのもきっと余裕じゃろ?」
「無茶言わんでください」
「おまえさんが適任じゃ。おまえにしかできんとさえ言おう。さあ、旅立つのだ。そして捜して来い。伝説の竜を!」
「ええぇー!!」
こうして俺は(半ば無理やり)新たな旅に出ることになった。
今度の旅は一人じゃない。赤と緑のちびすけたちもいっしょだ。
「ボクのおかあさんもいっしょにみつけようね」
「私の故郷への帰り道も責任を持って探してもらうからな」
それぞれ都合のいいことを言ってるが、成り行きとはいえ約束していたことではあった。
しかたない。あくまで長老の頼みはついでということにしておいて、こいつらの旅に付き合ってやるとするか。どうせ見つかりそうにもないのはどっちも同じなのだから。
そう考えると満更いやでもなかった。二匹の仔竜を引き連れて、再び俺はカルストの村を発ったのだった。
「さーてと、どこから行ったもんかな」
その後、俺たちのあてのない旅がどうなったのかはまた別の物語だ。
今度の旅は一人じゃない。赤と緑のちびすけたちもいっしょだ。
「ボクのおかあさんもいっしょにみつけようね」
「私の故郷への帰り道も責任を持って探してもらうからな」
それぞれ都合のいいことを言ってるが、成り行きとはいえ約束していたことではあった。
しかたない。あくまで長老の頼みはついでということにしておいて、こいつらの旅に付き合ってやるとするか。どうせ見つかりそうにもないのはどっちも同じなのだから。
そう考えると満更いやでもなかった。二匹の仔竜を引き連れて、再び俺はカルストの村を発ったのだった。
「さーてと、どこから行ったもんかな」
その後、俺たちのあてのない旅がどうなったのかはまた別の物語だ。