第2章「Unrivaled Ghost(この副題訳はだいたい合ってない)」
『ふむ。カッコ内がずいぶんとメタいこと言ってますねぇ』
「いきなりおまえは何のことを言ってるんダ?」
『なんでもないです。ところでゲンダー、面白いものがありますよ。ドアです。ピンクのドアです』
大樹のふもとの草原。そこに立っていたのはピンク色のドア……だけのもの。建物がそこにあるわけでもなく、ただドアだけがひとつ、ぽつんとそこに存在しており、その向こうには同じ景色だけが広がっている。
「なんダこりゃ。こんな何もない平原にドアがひとつ?」
『ど○でもドアァ~♪ ってやつですかね。これがマキナにつながってたらすごく助かるんですけどねぇ。タ○コプターに似たものなら私も持ってますよ。でも一番欲しいのは、もしもボッ○スです』
「なんか知らんが楽しそうダな、おまえ」
ピンクのドアは、不自然にドアだけがそこにあるということ意外には、とくにこれといって目立った特長はない。何の装飾もなければ変わった機能なんかもなさそうだ。ただ取っ手がひとつ、そこについているだけだ。
『こういうのは、とりあえず開けてみるのがお約束です。さぁ、はやくはやく』
そう言ってメイヴは謎のドアを開けてみるようゲンダーを促した。
お約束ってなんだよ。と心の中でつっこみながらも、何の警戒もなく無用心にその取っ手にゲンダーが触れる。
すると、けたたましい警報音が鳴り響き、無機質な音声が警告を発した。
【アラート! アラート! 未確認のIDを検出:警戒レベル2!】
慌てて手を引っ込めたゲンダーは、不満そうな目でメイヴを見つめた。
『あちゃぁー、やっぱりこうなっちゃいましたね』
「やっぱりっておまえ…」
謎のドアの警告はそれで収まりはしなかった。
【直ちに退去せよ! さもなくば警戒システムにより排除する】
途端にドア周辺の空間が蜃気楼のように歪み始め、紫の霧のようなものがたちこめる。続いて霧の中にいくつもの光の柱が伸びたかと思うと、どこからともなくボーリング玉程度の大きさの球体が次々と現れた。球体は宙に浮かんでおり、オーラのような淡い光を帯びながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。
どうやらこれが警報のいう警戒システムらしい。その球体には青い光を放つものと、赤い光を放つものがあった。
「おい、どうするつもりダ。変なのが湧いてきたぞ」
『あらあら。よくわからないものにうっかり触るからこういうことになるんですよ。ひとつ勉強になりましたね』
「おまえが触らせたようなもんじゃないか」
そのとき、浮かんでいる球体のひとつが一筋の光線を放った。
地面に一瞬にして線を描いたそれは、少し遅れて爆発を起こした。小さな球体が発射したわりには強力な爆発で、それは二人には命中しなかったが、まさに目と鼻の先で爆発が起こったのを見て、思わずゲンダーは機械でありながら腰を抜かしてしまったほどだ。
「ヒィっ! こ、攻撃してきたぞ」
『撃ってきましたか。なるほど、それならば…』
メイヴの頭上のアームが格納されると、それとは別のアームが中から飛び出した。
今度のものは途中から二股に分かれて二本の腕がついている。そしてその手にはなんと対戦車ミサイルが握られているではないか。
さらに胴体の左右が開いたかと思うと、姿を現したのはガトリング砲に迫撃砲といった重火器の類。
『それならばッ! 撃ち返しても何も問題はありませんね。これは正当防衛です』
「ええええッ!?」
『さあ、来ましたよ。撃て撃てェー!!』
迫り来る青や赤の球体の群れに向かってメイヴは間髪いれず重火器を乱射した。爆発が爆発を呼び、爆音が空を切り裂き、炎と煙でもう何がなにやらわからない。まさに一機当千、メイヴ無双の開幕であった。
『あっひゃっひゃっひゃ! 見ろォォ、敵がごみのようだぁあ!』
「め、滅茶苦茶ダ……。戦争でも起こすつもりか、こいつは!?」
ようやく爆煙が晴れるとそこはまさに焼け野原。地面は抉れ、草木は燃え、いかにも戦場の跡といった様相。そして例の球体は木っ端微塵に粉砕され、周囲にその破片が散らばっていた。
「やったか!?」
『その台詞が出たときは、大抵やってないのがお約束ってもんですよ。油断しないでください。まだ反応が残っています』
遠隔モニタにレーダーが表示される。メイヴの位置を中心として四方に波紋が広がっており、前方にはまだ多数の存在があることをレーダーは示していた。
再び前方ドア付近の空間が揺らいだかと思うと、紫の霧の中に例の球体がまだかなりの数を残して姿を見せている。
「まダあんなに! くそぅ、キリがないじゃないか」
『霧ならあるんですけどね』
「冗談を言ってる場合じゃなさそうダぞ」
今度はメイヴに代わって、ゲンダーが汁千本で応戦する。
散弾のように広範囲にわたる攻撃は、重火器ほどの威力と派手さはないものの、視界に入る多くの球体を撃ち抜き撃破していく。汁千本を受けた球体は今度は粉々にはならず、なぜか霧散して消滅していった。しかし、中には効果がないものもいるようだった。
「なんダ? 赤いのには効かないのか!」
赤い球体に当たった一撃は、その光を散らすことなく吸い込まれていき、そして向こうの空間へと通り抜けていった。当の赤い球体は何事もなかったかのように、こちらへの進攻を続けてくる。
『ただの防衛兵器ってわけでもなさそうです。分析が必要みたいですね』
「できるのか」
『任せてください。しかし、少し時間がかかります。その間にゲンダーはこれを』
メイヴの中から再び武器を手にしたアームが伸びてきた。銃のような形で、どうやら光学兵器のようだ。
『ビームマシンガンです。実弾ではありませんが、それにも劣らない威力があります。敵の数が多いので、自身のエネルギーを射出する攻撃よりはこちらのほうがいいかと思います』
「よくもまあ、こんな物騒なものが次々と出てくるもんダ。しかし今はありがたい」
『二丁拳銃で蜂の巣にしてやりましょう』
両手にビームマシンガン。迫り来る謎の球体に向かってゲンダーは撃ちまくる。そしてその隣でメイヴは赤い球体の分析を始めた。
球体の群れに光の弾が雨のように降り注ぐ。青い球体は瞬く間にがらくたとなったが、やはり赤い球体には効果がない。
幸い迫る球体の軌道は単調だ。こちらの攻撃に対して一切の回避行動を行わず、一直線の動きしかしてこない。敵の光線はその直線上にしか発射されないので避けるのは簡単だ。
「しかし、こう数が多くてはいつまでもつか……メイヴまだか!?」
メイヴの返事はない。自身の周囲に電磁シールドを展開し、敵の攻撃を反射しつつ、複数の遠隔モニタを立ち上げて複雑な処理の真っ最中といったご様子だ。とても冗談を言っているような余裕はないらしい。
青い球体は簡単に撃破できる。しかし、赤い球体はどうやっても倒すことができない。そしていくら撃破しても、紫の霧の中から次々と増援が現れる。すぐに破壊される青と違って赤は溜まる一方で、対峙する敵の数は時を経るごとに増していくばかり。赤い球体の対処法がわからなくては、こちらの限界が先に来るのは明らかだった。
青い球体を撃ち落とし、こちらに迫る赤い球体をやり過ごしながら考える。
(なにか……なにか見落としていることはないのか)
球体の群れに光弾を乱れ撃つ。球体の群れは軌道を変えずに光弾に突っ込み、赤いほうだけが光弾をすり抜けこちらに迫る。
赤い球体は軌道を変えない。霧の中から発生しては、ただ真っ直ぐに向かってくる。
(……霧の中から? )
ハッと閃いて、電磁シールドをガンガン叩きながら叫んだ。
「わかったぞ! メイヴ、ミサイルに切り替えるんダ! 赤いやつを攻撃しろ!」
『ですがゲンダー、先程の攻撃で効果がないことが判明しています。数が多い場合は、高威力の武装よりも連射性の高い武装のほうが効果的で…』
「赤いやつの進攻を止められたのは最初の攻撃の時のみダ。そこに何か突破口があるはず。青い方はオレに任せて、ぶちかませ」
『しかし……いえ、わかりました。そこまで言うならゲンダー、私はあなたを信じます』
胴体のガトリング砲が中に引っ込み、代わりに次々とミサイルが射出される。弾頭は赤い球体をすり抜けていったが、着弾した爆発は赤い球体を巻き込んであたりを爆煙で覆った。煙が晴れるとそこには何もない。しかし、すぐに紫の霧がたちこめ、赤と青の球体が出現する。
『やはり効果がないのでは?』
「いや、そうでもないぞ。煙が晴れた直後には何もなかったが、その後から霧が出て球が現れた。逆に霧がなくなれば、球は消えるんじゃないか?」
『なるほど、面白い仮説です。しかしこの霧をどうやって吹き飛ばしましょう』
見渡す限りでは、辺り一面が霧に覆われている。全部まとめて吹き飛ばせば、自分たちも無事でいられる保証はない。
「おまえのプロペラはどうダ。空が飛べるんなら、その風圧で吹き飛ばすこともできるんじゃないか」
『すべてを吹き飛ばすことは出来ないでしょう。しかし私たちの周囲だけならあるいは……やってみましょう。時間稼ぎは任せましたよ』
ゲンダーはメイヴの胴体から出てきたミサイルランチャーを受け取り、勇ましく掲げて言った。
「合点承知ダァー!」
メイヴはすぐに準備を始めた。
まず頭のアームが格納され、代わりに一本のシャフトが伸びてくる。その先端が四つに分かれるとそれぞれ羽を展開してプロペラを形成する。柄の部分は再び収納、軸を安定させる。
これで準備完了。さっそくプロペラが回転を始めた。その間、ゲンダーはビームマシンガンとミサイルを使い分け敵を牽制する。いよいよ回転が勢いを増し、風圧で周りの霧を吹き飛ばし始めた。
「さあ、どうダ!」
霧の中から飛び出した青い球体はやがて失速して消えていく。赤いほうも同様だ。
「やった! うまくいったぞ」
『ゲンダー! これが限界です。あまり長くは持ちません。急いでこの場を離れましょう!』
そうだ。これで霧を完全に吹き飛ばしたわけではない。再び霧に包まれれば今度こそやられてしまうだろう。風を起こすメイヴを盾にゲンダーは突撃する。
『ゲンダー、正面に例のドアが!』
「構わんツッコめ!」
そのまま例のドアの中へ突進し、一気にくぐり抜ける。完全にドアを通り抜けるやいなや、すぐに扉を堅く閉ざした。その瞬間、突如として周囲の景色が一変した。
「いきなりおまえは何のことを言ってるんダ?」
『なんでもないです。ところでゲンダー、面白いものがありますよ。ドアです。ピンクのドアです』
大樹のふもとの草原。そこに立っていたのはピンク色のドア……だけのもの。建物がそこにあるわけでもなく、ただドアだけがひとつ、ぽつんとそこに存在しており、その向こうには同じ景色だけが広がっている。
「なんダこりゃ。こんな何もない平原にドアがひとつ?」
『ど○でもドアァ~♪ ってやつですかね。これがマキナにつながってたらすごく助かるんですけどねぇ。タ○コプターに似たものなら私も持ってますよ。でも一番欲しいのは、もしもボッ○スです』
「なんか知らんが楽しそうダな、おまえ」
ピンクのドアは、不自然にドアだけがそこにあるということ意外には、とくにこれといって目立った特長はない。何の装飾もなければ変わった機能なんかもなさそうだ。ただ取っ手がひとつ、そこについているだけだ。
『こういうのは、とりあえず開けてみるのがお約束です。さぁ、はやくはやく』
そう言ってメイヴは謎のドアを開けてみるようゲンダーを促した。
お約束ってなんだよ。と心の中でつっこみながらも、何の警戒もなく無用心にその取っ手にゲンダーが触れる。
すると、けたたましい警報音が鳴り響き、無機質な音声が警告を発した。
【アラート! アラート! 未確認のIDを検出:警戒レベル2!】
慌てて手を引っ込めたゲンダーは、不満そうな目でメイヴを見つめた。
『あちゃぁー、やっぱりこうなっちゃいましたね』
「やっぱりっておまえ…」
謎のドアの警告はそれで収まりはしなかった。
【直ちに退去せよ! さもなくば警戒システムにより排除する】
途端にドア周辺の空間が蜃気楼のように歪み始め、紫の霧のようなものがたちこめる。続いて霧の中にいくつもの光の柱が伸びたかと思うと、どこからともなくボーリング玉程度の大きさの球体が次々と現れた。球体は宙に浮かんでおり、オーラのような淡い光を帯びながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。
どうやらこれが警報のいう警戒システムらしい。その球体には青い光を放つものと、赤い光を放つものがあった。
「おい、どうするつもりダ。変なのが湧いてきたぞ」
『あらあら。よくわからないものにうっかり触るからこういうことになるんですよ。ひとつ勉強になりましたね』
「おまえが触らせたようなもんじゃないか」
そのとき、浮かんでいる球体のひとつが一筋の光線を放った。
地面に一瞬にして線を描いたそれは、少し遅れて爆発を起こした。小さな球体が発射したわりには強力な爆発で、それは二人には命中しなかったが、まさに目と鼻の先で爆発が起こったのを見て、思わずゲンダーは機械でありながら腰を抜かしてしまったほどだ。
「ヒィっ! こ、攻撃してきたぞ」
『撃ってきましたか。なるほど、それならば…』
メイヴの頭上のアームが格納されると、それとは別のアームが中から飛び出した。
今度のものは途中から二股に分かれて二本の腕がついている。そしてその手にはなんと対戦車ミサイルが握られているではないか。
さらに胴体の左右が開いたかと思うと、姿を現したのはガトリング砲に迫撃砲といった重火器の類。
『それならばッ! 撃ち返しても何も問題はありませんね。これは正当防衛です』
「ええええッ!?」
『さあ、来ましたよ。撃て撃てェー!!』
迫り来る青や赤の球体の群れに向かってメイヴは間髪いれず重火器を乱射した。爆発が爆発を呼び、爆音が空を切り裂き、炎と煙でもう何がなにやらわからない。まさに一機当千、メイヴ無双の開幕であった。
『あっひゃっひゃっひゃ! 見ろォォ、敵がごみのようだぁあ!』
「め、滅茶苦茶ダ……。戦争でも起こすつもりか、こいつは!?」
ようやく爆煙が晴れるとそこはまさに焼け野原。地面は抉れ、草木は燃え、いかにも戦場の跡といった様相。そして例の球体は木っ端微塵に粉砕され、周囲にその破片が散らばっていた。
「やったか!?」
『その台詞が出たときは、大抵やってないのがお約束ってもんですよ。油断しないでください。まだ反応が残っています』
遠隔モニタにレーダーが表示される。メイヴの位置を中心として四方に波紋が広がっており、前方にはまだ多数の存在があることをレーダーは示していた。
再び前方ドア付近の空間が揺らいだかと思うと、紫の霧の中に例の球体がまだかなりの数を残して姿を見せている。
「まダあんなに! くそぅ、キリがないじゃないか」
『霧ならあるんですけどね』
「冗談を言ってる場合じゃなさそうダぞ」
今度はメイヴに代わって、ゲンダーが汁千本で応戦する。
散弾のように広範囲にわたる攻撃は、重火器ほどの威力と派手さはないものの、視界に入る多くの球体を撃ち抜き撃破していく。汁千本を受けた球体は今度は粉々にはならず、なぜか霧散して消滅していった。しかし、中には効果がないものもいるようだった。
「なんダ? 赤いのには効かないのか!」
赤い球体に当たった一撃は、その光を散らすことなく吸い込まれていき、そして向こうの空間へと通り抜けていった。当の赤い球体は何事もなかったかのように、こちらへの進攻を続けてくる。
『ただの防衛兵器ってわけでもなさそうです。分析が必要みたいですね』
「できるのか」
『任せてください。しかし、少し時間がかかります。その間にゲンダーはこれを』
メイヴの中から再び武器を手にしたアームが伸びてきた。銃のような形で、どうやら光学兵器のようだ。
『ビームマシンガンです。実弾ではありませんが、それにも劣らない威力があります。敵の数が多いので、自身のエネルギーを射出する攻撃よりはこちらのほうがいいかと思います』
「よくもまあ、こんな物騒なものが次々と出てくるもんダ。しかし今はありがたい」
『二丁拳銃で蜂の巣にしてやりましょう』
両手にビームマシンガン。迫り来る謎の球体に向かってゲンダーは撃ちまくる。そしてその隣でメイヴは赤い球体の分析を始めた。
球体の群れに光の弾が雨のように降り注ぐ。青い球体は瞬く間にがらくたとなったが、やはり赤い球体には効果がない。
幸い迫る球体の軌道は単調だ。こちらの攻撃に対して一切の回避行動を行わず、一直線の動きしかしてこない。敵の光線はその直線上にしか発射されないので避けるのは簡単だ。
「しかし、こう数が多くてはいつまでもつか……メイヴまだか!?」
メイヴの返事はない。自身の周囲に電磁シールドを展開し、敵の攻撃を反射しつつ、複数の遠隔モニタを立ち上げて複雑な処理の真っ最中といったご様子だ。とても冗談を言っているような余裕はないらしい。
青い球体は簡単に撃破できる。しかし、赤い球体はどうやっても倒すことができない。そしていくら撃破しても、紫の霧の中から次々と増援が現れる。すぐに破壊される青と違って赤は溜まる一方で、対峙する敵の数は時を経るごとに増していくばかり。赤い球体の対処法がわからなくては、こちらの限界が先に来るのは明らかだった。
青い球体を撃ち落とし、こちらに迫る赤い球体をやり過ごしながら考える。
(なにか……なにか見落としていることはないのか)
球体の群れに光弾を乱れ撃つ。球体の群れは軌道を変えずに光弾に突っ込み、赤いほうだけが光弾をすり抜けこちらに迫る。
赤い球体は軌道を変えない。霧の中から発生しては、ただ真っ直ぐに向かってくる。
(……霧の中から? )
ハッと閃いて、電磁シールドをガンガン叩きながら叫んだ。
「わかったぞ! メイヴ、ミサイルに切り替えるんダ! 赤いやつを攻撃しろ!」
『ですがゲンダー、先程の攻撃で効果がないことが判明しています。数が多い場合は、高威力の武装よりも連射性の高い武装のほうが効果的で…』
「赤いやつの進攻を止められたのは最初の攻撃の時のみダ。そこに何か突破口があるはず。青い方はオレに任せて、ぶちかませ」
『しかし……いえ、わかりました。そこまで言うならゲンダー、私はあなたを信じます』
胴体のガトリング砲が中に引っ込み、代わりに次々とミサイルが射出される。弾頭は赤い球体をすり抜けていったが、着弾した爆発は赤い球体を巻き込んであたりを爆煙で覆った。煙が晴れるとそこには何もない。しかし、すぐに紫の霧がたちこめ、赤と青の球体が出現する。
『やはり効果がないのでは?』
「いや、そうでもないぞ。煙が晴れた直後には何もなかったが、その後から霧が出て球が現れた。逆に霧がなくなれば、球は消えるんじゃないか?」
『なるほど、面白い仮説です。しかしこの霧をどうやって吹き飛ばしましょう』
見渡す限りでは、辺り一面が霧に覆われている。全部まとめて吹き飛ばせば、自分たちも無事でいられる保証はない。
「おまえのプロペラはどうダ。空が飛べるんなら、その風圧で吹き飛ばすこともできるんじゃないか」
『すべてを吹き飛ばすことは出来ないでしょう。しかし私たちの周囲だけならあるいは……やってみましょう。時間稼ぎは任せましたよ』
ゲンダーはメイヴの胴体から出てきたミサイルランチャーを受け取り、勇ましく掲げて言った。
「合点承知ダァー!」
メイヴはすぐに準備を始めた。
まず頭のアームが格納され、代わりに一本のシャフトが伸びてくる。その先端が四つに分かれるとそれぞれ羽を展開してプロペラを形成する。柄の部分は再び収納、軸を安定させる。
これで準備完了。さっそくプロペラが回転を始めた。その間、ゲンダーはビームマシンガンとミサイルを使い分け敵を牽制する。いよいよ回転が勢いを増し、風圧で周りの霧を吹き飛ばし始めた。
「さあ、どうダ!」
霧の中から飛び出した青い球体はやがて失速して消えていく。赤いほうも同様だ。
「やった! うまくいったぞ」
『ゲンダー! これが限界です。あまり長くは持ちません。急いでこの場を離れましょう!』
そうだ。これで霧を完全に吹き飛ばしたわけではない。再び霧に包まれれば今度こそやられてしまうだろう。風を起こすメイヴを盾にゲンダーは突撃する。
『ゲンダー、正面に例のドアが!』
「構わんツッコめ!」
そのまま例のドアの中へ突進し、一気にくぐり抜ける。完全にドアを通り抜けるやいなや、すぐに扉を堅く閉ざした。その瞬間、突如として周囲の景色が一変した。
どうやらあの球体はこのドアを越えて入ってくることはないようだった。
景色の変化に驚きつつも、やっとのことで安全が確認できると、途端に力が抜けてゲンダーはその場にへたり込んでしまった。
メイヴはプロペラの回転を止め、頭部に格納した。そこから代わりにいつもの一本のアームが出てくる。
「ふぅぅぅ……一時はどうなることかと思ったが」
『なんとかなりましたね。逃げるが勝ちってやつです』
「しかし、また何かおかしなことに巻き込まれたようダ。さっきまで何もない草原にいたと思ったんダが、これは一体どうなってるんダ。あのドア、どうみても向こう側も草原ダったよな」
『やっぱり、あれはどこ○もドアだったのでは! まさかもうこの国では実現されたのでしょうか。ああ、惜しいことをした。こんなことなら、しっかり分析して記録しておくべきでした』
「そんなことよりも、ここがどこなのかを分析して欲しいな」
今ゲンダーたちは見知らぬ場所にいる。地面と壁は金属で出来ており、金属特有の光沢で無機質に光っている。
空を見上げるとドーム状の建物の中であることが見てとれて、人工の光が全体をぼんやりと照らしているのがわかった。例のドアを背に、前方には巨大なビル群が整然と列をなしている。巨大な半球の中に街が作られているようだ。
ビルとビルの間には変わった風体の歩道が敷かれている。ベルトが移動し、乗っているだけで目的地に運ばれる仕組みになっているようだが、今は静まり返っていて稼動していない。
そしてこれほど大きな街であるにもかかわらず、不思議なことに誰かがいるような気配は全く感じられなかった。
「不気味なほど静かダ。さっきとは大違いダな」
『レーダーに動体反応なし。付近には私たち以外に誰もいないようです。まるでゴーストタウンですね。それから位置情報の取得に失敗しました。空間が歪んでいるのか、それとも未知の技術によって妨害されているのか。どちらにせよ、この場所は何か理由があって存在を隠されているようです。ちょっと気になりますね』
「まあ、なんダっていいさ。オレたちの目的には関係ない。しばらくここでほとぼりが冷めるのを待って、頃合を見てまたそこから出て行くダけさ」
そう言って振り返ろうとすると、
【6番ゲートに異常発生。ゲートを封鎖します】
突然、後方でシャッターが閉じる音がした。見ると、先ほどくぐってきたドアを閉鎖するように壁が降りている。入ってきたところから出ることはできなくなった。まあ、これであの霧が入ってくることもないだろうが。
「ちぇッ、タイミングよく閉じ込めてくれやがった。あのドアといい、警戒システムといい、よっぽど知られたくない秘密があるらしいな」
防壁は押しても引いてもびくともしない。メイヴが破壊を試みようとまた兵器を取り出したが、出口もろとも吹っ飛ばしてしまいそうだったので、ゲンダーは慌ててそれを止めた。
『ここから出るのは難しそうですね』
「どうすればいい?」
『考えられる手段はふたつあります。どこかにあるこの防壁の解除装置を見つけて作動させる。またはドーム内を探索して別の出口を探す、ですね』
「どっちにしても、このドーム内を調べるしかないわけダ」
目の前には数え切れないほどのビルが立ち並んでいる。横にも奥にも、端が見えないほどの広さがある。街がまるごとひとつ入ってしまうほどの巨大なドームなんて聞いたことがない。
そんな広範囲の中から果たして防壁の解除装置なんて見つけられるだろうか。それを考えると別の出口を探したほうがまだ希望はあるかもしれないが、それでもこの広さなので、やはり一筋縄ではいきそうにもなかった。
壁沿いに進んでいけば同じようなゲートがあるかもしれない。そう考えてしばらく進んでみると、5番ゲートと書かれた扉を発見することができた。が、こちらもさっき入ってきたところと同様に防壁が降りていた。さらに進んでみるも、4番ゲートも3番ゲートも同じ有様だった。
『どうやら全部閉じられているご様子で。早くも手段はひとつしかなくなったようです』
「よりによって大変なほうが残っちまったけどな。まさかここの建物をしらみつぶしに全部探すなんてアナログな方法はやめてくれよ。メイヴ、こうなったらおまえが頼りダ。何かレーダーとかセンサーとかを駆使して、解除装置がどこにあるか一発でわかる方法はないのか?」
『なくはないです。が、そこまで都合よくはありませんね』
メイヴがいうには、どこか適当な建物に入って、そこでこのドームについての情報をスキャンすることができれば、ドームの構造も出口の位置も、そして防壁の解除装置の場所も一目瞭然になるらしい。問題は、このドームの情報を取得できそうな建物がどれなのかがわからないということだ。
「それじゃ、結局変わらんじゃないか」
『まあ、言ってても始まりませんよ。とりあえずどこか適当な建物に入ってみないことには』
仕方なく、ビル群を間を抜けてドームの街を行く。
片っ端から調べつくしてもいいが、それでは時間もかかるし期待値も低い。解除装置にしても、ドームの情報にしても、そういった重要なものが置かれているのは概して中枢にある大きな建物だ。そう推理したメイヴの提案で、二人はとりあえずドームの中央を目指すことにした。
中枢だから中央にある、というのは安直な考えだったが、他に情報がないのだから仕方がない。
草原の緑から一転、灰色のビルの林をかき分けて、二人の影はドームの奥へと飲み込まれていった。
景色の変化に驚きつつも、やっとのことで安全が確認できると、途端に力が抜けてゲンダーはその場にへたり込んでしまった。
メイヴはプロペラの回転を止め、頭部に格納した。そこから代わりにいつもの一本のアームが出てくる。
「ふぅぅぅ……一時はどうなることかと思ったが」
『なんとかなりましたね。逃げるが勝ちってやつです』
「しかし、また何かおかしなことに巻き込まれたようダ。さっきまで何もない草原にいたと思ったんダが、これは一体どうなってるんダ。あのドア、どうみても向こう側も草原ダったよな」
『やっぱり、あれはどこ○もドアだったのでは! まさかもうこの国では実現されたのでしょうか。ああ、惜しいことをした。こんなことなら、しっかり分析して記録しておくべきでした』
「そんなことよりも、ここがどこなのかを分析して欲しいな」
今ゲンダーたちは見知らぬ場所にいる。地面と壁は金属で出来ており、金属特有の光沢で無機質に光っている。
空を見上げるとドーム状の建物の中であることが見てとれて、人工の光が全体をぼんやりと照らしているのがわかった。例のドアを背に、前方には巨大なビル群が整然と列をなしている。巨大な半球の中に街が作られているようだ。
ビルとビルの間には変わった風体の歩道が敷かれている。ベルトが移動し、乗っているだけで目的地に運ばれる仕組みになっているようだが、今は静まり返っていて稼動していない。
そしてこれほど大きな街であるにもかかわらず、不思議なことに誰かがいるような気配は全く感じられなかった。
「不気味なほど静かダ。さっきとは大違いダな」
『レーダーに動体反応なし。付近には私たち以外に誰もいないようです。まるでゴーストタウンですね。それから位置情報の取得に失敗しました。空間が歪んでいるのか、それとも未知の技術によって妨害されているのか。どちらにせよ、この場所は何か理由があって存在を隠されているようです。ちょっと気になりますね』
「まあ、なんダっていいさ。オレたちの目的には関係ない。しばらくここでほとぼりが冷めるのを待って、頃合を見てまたそこから出て行くダけさ」
そう言って振り返ろうとすると、
【6番ゲートに異常発生。ゲートを封鎖します】
突然、後方でシャッターが閉じる音がした。見ると、先ほどくぐってきたドアを閉鎖するように壁が降りている。入ってきたところから出ることはできなくなった。まあ、これであの霧が入ってくることもないだろうが。
「ちぇッ、タイミングよく閉じ込めてくれやがった。あのドアといい、警戒システムといい、よっぽど知られたくない秘密があるらしいな」
防壁は押しても引いてもびくともしない。メイヴが破壊を試みようとまた兵器を取り出したが、出口もろとも吹っ飛ばしてしまいそうだったので、ゲンダーは慌ててそれを止めた。
『ここから出るのは難しそうですね』
「どうすればいい?」
『考えられる手段はふたつあります。どこかにあるこの防壁の解除装置を見つけて作動させる。またはドーム内を探索して別の出口を探す、ですね』
「どっちにしても、このドーム内を調べるしかないわけダ」
目の前には数え切れないほどのビルが立ち並んでいる。横にも奥にも、端が見えないほどの広さがある。街がまるごとひとつ入ってしまうほどの巨大なドームなんて聞いたことがない。
そんな広範囲の中から果たして防壁の解除装置なんて見つけられるだろうか。それを考えると別の出口を探したほうがまだ希望はあるかもしれないが、それでもこの広さなので、やはり一筋縄ではいきそうにもなかった。
壁沿いに進んでいけば同じようなゲートがあるかもしれない。そう考えてしばらく進んでみると、5番ゲートと書かれた扉を発見することができた。が、こちらもさっき入ってきたところと同様に防壁が降りていた。さらに進んでみるも、4番ゲートも3番ゲートも同じ有様だった。
『どうやら全部閉じられているご様子で。早くも手段はひとつしかなくなったようです』
「よりによって大変なほうが残っちまったけどな。まさかここの建物をしらみつぶしに全部探すなんてアナログな方法はやめてくれよ。メイヴ、こうなったらおまえが頼りダ。何かレーダーとかセンサーとかを駆使して、解除装置がどこにあるか一発でわかる方法はないのか?」
『なくはないです。が、そこまで都合よくはありませんね』
メイヴがいうには、どこか適当な建物に入って、そこでこのドームについての情報をスキャンすることができれば、ドームの構造も出口の位置も、そして防壁の解除装置の場所も一目瞭然になるらしい。問題は、このドームの情報を取得できそうな建物がどれなのかがわからないということだ。
「それじゃ、結局変わらんじゃないか」
『まあ、言ってても始まりませんよ。とりあえずどこか適当な建物に入ってみないことには』
仕方なく、ビル群を間を抜けてドームの街を行く。
片っ端から調べつくしてもいいが、それでは時間もかかるし期待値も低い。解除装置にしても、ドームの情報にしても、そういった重要なものが置かれているのは概して中枢にある大きな建物だ。そう推理したメイヴの提案で、二人はとりあえずドームの中央を目指すことにした。
中枢だから中央にある、というのは安直な考えだったが、他に情報がないのだから仕方がない。
草原の緑から一転、灰色のビルの林をかき分けて、二人の影はドームの奥へと飲み込まれていった。