Chapter40「地竜潜入作戦1:ラタトスクはハラワタの中に」
資材収集をある程度終えたオットーたちはひとまずアルヴへと戻った。
トロウの配下である竜将たちには、その行動を監視するための魔法の媒体になるラタトスクという石が埋め込まれている。それを取り除かない限りは、竜将たちの動きはもちろん、その周囲の会話や状況までもがトロウに筒抜けの状態だった。
トロウの配下である竜将たちには、その行動を監視するための魔法の媒体になるラタトスクという石が埋め込まれている。それを取り除かない限りは、竜将たちの動きはもちろん、その周囲の会話や状況までもがトロウに筒抜けの状態だった。
「まったく、気持ち悪くてしょうがねェぜ。変な石コロが体内に入ってるって考えるだけで背筋がぞわぞわしてくる。なァ、おまえらの仲間でこれをなんとかできるやつはいねェのかよ」
苛立った様子でヴァルトは身を震わせた。
魔法によって埋め込まれているため、身体のどこにその石があるのかはわからないという。魔法でやったことならば、魔法で取り出すことも可能なはずだが、それがどういう魔法によるものなのかもわからないので、ヴァルトにはどうしようもなかった。
魔法によって埋め込まれているため、身体のどこにその石があるのかはわからないという。魔法でやったことならば、魔法で取り出すことも可能なはずだが、それがどういう魔法によるものなのかもわからないので、ヴァルトにはどうしようもなかった。
「ふむ。とにかくその石コロをなんとかすればいいんじゃろう。石コロならば、私でなんとかできるかもしれんぞ」
正しい取り出し方ではないので少し荒療治にはなるかもしれないが、石コロも大地の一部であるので、大地の魔法で解決できるかもしれない。とクルスは胸を叩いてみせた。
アルヴにいる限りはラタトスクは効力を発揮しないのでトロウに情報が漏れる心配はなかったが、その気味の悪いものをいつまでも持っていたくないと、ヴァルトはクルスに石コロの処理を任せることにした。
アルヴにいる限りはラタトスクは効力を発揮しないのでトロウに情報が漏れる心配はなかったが、その気味の悪いものをいつまでも持っていたくないと、ヴァルトはクルスに石コロの処理を任せることにした。
「よかろう。ならば少しじっとしておれ。少々痛みがあるかもしれんが、絶対に動くでないぞ。失敗しても知らんからな」
「痛みぐらいどうってことねェぜ。さっさと始めてくれ」
「痛みぐらいどうってことねェぜ。さっさと始めてくれ」
そういうことなら、とクルスはすぐに念じ始めた。
意識を集中させていくと、微かにヴァルトの身体からたしかに小さな石のようなものの気配が感じられる。それが具体的にどこの部分なのか、というのはクルスにもはっきりとはわからなかったが、しかしそれがどこであるとはっきり特定する必要はない。重要なのはその気配を把握し、意識のうちでしっかりと捉えることだ。
意識を集中させていくと、微かにヴァルトの身体からたしかに小さな石のようなものの気配が感じられる。それが具体的にどこの部分なのか、というのはクルスにもはっきりとはわからなかったが、しかしそれがどこであるとはっきり特定する必要はない。重要なのはその気配を把握し、意識のうちでしっかりと捉えることだ。
「見つけた。ではさっそく取り出す。覚悟は良いな?」
「二言はねェ。ひと思いにやってくれ」
「よし……行くぞ。はぁぁぁっ!!」
「二言はねェ。ひと思いにやってくれ」
「よし……行くぞ。はぁぁぁっ!!」
クルスは石コロの気配に向かって強く念を送った。
石コロはヴァルトの体内でぐらぐらと揺れ始める。それをヴァルトもしっかりと感じ取っていた。
石コロはヴァルトの体内でぐらぐらと揺れ始める。それをヴァルトもしっかりと感じ取っていた。
さあ、この石がこれからどうやって出てくるのか。
体内にあるのだから、肉を突き破って飛び出してくるのだろうか。それとも粉々になって糞便と一緒になって出てくるのか。あるいは勢いよく口から飛び出してくるのかもしれない。
どれにしたってたしかに痛そうだ。
ヴァルトは焦燥感を覚えながらも、不安と恐怖に耐えてその時を待った。
体内にあるのだから、肉を突き破って飛び出してくるのだろうか。それとも粉々になって糞便と一緒になって出てくるのか。あるいは勢いよく口から飛び出してくるのかもしれない。
どれにしたってたしかに痛そうだ。
ヴァルトは焦燥感を覚えながらも、不安と恐怖に耐えてその時を待った。
「う……!」
すると突然、ヴァルトは倒れこんでうずくまってしまった。
そしてしきりに腹が痛いと訴えた。
そしてしきりに腹が痛いと訴えた。
「我慢せい、男じゃろう! もう少しの辛抱じゃ」
「い、息が……く、苦しい……」
「耐えろ! そうじゃ、ユミルにいた頃に人間から腹痛に効く呼吸法を聞いたことがある。私がやるのを真似てみよ。せーのっ、ひっひっふー。ひっひっふー」
「そ、それ、違うやつ、だろ……!」
「い、息が……く、苦しい……」
「耐えろ! そうじゃ、ユミルにいた頃に人間から腹痛に効く呼吸法を聞いたことがある。私がやるのを真似てみよ。せーのっ、ひっひっふー。ひっひっふー」
「そ、それ、違うやつ、だろ……!」
苦しむヴァルトの姿をオットーはただ見ていることしかできない。心配そうな面持ちで、ただヴァルトの無事だけを祈った。
少し前までは敵対心しかなかったというのに、今では本当の仲間のように心配している。そうだ、ヴァルトはもう敵ではない。それがわかった今では、素直にこの風竜を心配することができる。
少し前までは敵対心しかなかったというのに、今では本当の仲間のように心配している。そうだ、ヴァルトはもう敵ではない。それがわかった今では、素直にこの風竜を心配することができる。
そうやって見守っていると、ヴァルトの腹が……いや、下腹部が膨らんできたようにも見える。
もうすぐラタトスクが出てくる。ただし石は尻から出る。
まさかそういうことなのだろうか。
もうすぐラタトスクが出てくる。ただし石は尻から出る。
まさかそういうことなのだろうか。
嫌な予感をありありと感じながらも、オットーは静かに見守った。
「む。この手ごたえ! 出る、出るぞ! 踏ん張れ! 耐えるんじゃヴァルト!」
「ぬ……ぐぐぐ…………ぬおォォォォォォッ!!」
「ぬ……ぐぐぐ…………ぬおォォォォォォッ!!」
力のこもった雄叫び。風竜の咆哮。
あまり見たくないような気もするが、今まさにヴァルトの肛門を引き裂くかのようにその狭い道をこじ開けて、栗色の石コロが転がり出て――
あまり見たくないような気もするが、今まさにヴァルトの肛門を引き裂くかのようにその狭い道をこじ開けて、栗色の石コロが転がり出て――
――――来ない?
思わず閉じかけそうになった、しかしそれでも薄っすらと開けていた目をさらに細めてオットーは何が起こったのかと様子を窺った。すると、
『――コロン』
オットーの背後で何かが転がった。
「え?」
振り返るとそこに栗色の玉が転がっている。
見覚えがある玉だ。フレイが以前アリアスに手渡されたものとそっくりの玉だ。
これこそまさしく監視の石ラタトスクそのもの。それは物言わず、ただ静かに冷たくそこにひとつ、ころりと転がっているのだった。
見覚えがある玉だ。フレイが以前アリアスに手渡されたものとそっくりの玉だ。
これこそまさしく監視の石ラタトスクそのもの。それは物言わず、ただ静かに冷たくそこにひとつ、ころりと転がっているのだった。
「ヴァルトとは全然関係ない場所に出てきたぞ。俺はてっきり……」
「ふふん。得てして魔法とはそういうものじゃ。さーて、こんないかがわしい代物に用はあるまい。こんなもの、こうじゃ!」
「ふふん。得てして魔法とはそういうものじゃ。さーて、こんないかがわしい代物に用はあるまい。こんなもの、こうじゃ!」
クルスは地竜の大きな脚でラタトスクを粉々に踏み潰してしまった。
その様子をオットーはあっけにとられた様子で眺め、そして一方ヴァルトはうずくまったまま、白目を剥いて悶絶していた。
その様子をオットーはあっけにとられた様子で眺め、そして一方ヴァルトはうずくまったまま、白目を剥いて悶絶していた。
「ふぅ。監視の石とは厄介な代物じゃのう」
「まったくだ。しかし、これと同じものをフレイ様は持たされていた。それをくれたのは、ユミルを出るときに我々を助けてくれた男だ。名はたしかアリアス……」
「ふむ。そやつもトロウの息がかかっていると見て間違いないじゃろうな」
「なんということだ。我々を介抱してくれた恩人だと思っていたんだが」
「安心させるための演技じゃろうな。少なくともヴァルトよりも厄介な相手なのは間違いない。もしまた会うようなことがあれば気をつけることじゃ」
「くそっ! 俺があのとき、もっとしっかりしていれば……」
「過ぎたことじゃ。次に気をつければ良い。しかし……ラタトスクか……」
「まったくだ。しかし、これと同じものをフレイ様は持たされていた。それをくれたのは、ユミルを出るときに我々を助けてくれた男だ。名はたしかアリアス……」
「ふむ。そやつもトロウの息がかかっていると見て間違いないじゃろうな」
「なんということだ。我々を介抱してくれた恩人だと思っていたんだが」
「安心させるための演技じゃろうな。少なくともヴァルトよりも厄介な相手なのは間違いない。もしまた会うようなことがあれば気をつけることじゃ」
「くそっ! 俺があのとき、もっとしっかりしていれば……」
「過ぎたことじゃ。次に気をつければ良い。しかし……ラタトスクか……」
悔しがるオットーの隣で、クルスは粉々になった石の破片を眺めながら、一抹の不安を胸に抱いていた。
ヴァルトは言っていた。竜将はすべてラタトスクを体内に埋め込まれていると。
竜将はすべてトロウの監視下にあるのだ。それはヴァルト以外の竜将すべてに言えること。そして、その竜将の周囲の状況はすべてトロウに筒抜けなのだ。
ヴァルトは言っていた。竜将はすべてラタトスクを体内に埋め込まれていると。
竜将はすべてトロウの監視下にあるのだ。それはヴァルト以外の竜将すべてに言えること。そして、その竜将の周囲の状況はすべてトロウに筒抜けなのだ。
(ファフニール……。あやつ、大丈夫なんじゃろうか)
クルスは地竜の友のことを想っていた。
第四竜将ファフニール。トロウに金で雇われていた黄金の竜。
フリードによって雇い直されてこちら側の味方になった経緯を持つが、そのファフニールにもラタトスクが仕込まれていたということは、すでにその事情もトロウに知られている可能性が高い。
第四竜将ファフニール。トロウに金で雇われていた黄金の竜。
フリードによって雇い直されてこちら側の味方になった経緯を持つが、そのファフニールにもラタトスクが仕込まれていたということは、すでにその事情もトロウに知られている可能性が高い。
今、ファフニールは”寝返ったことを知らないはずの”トロウの元へと向かっている。まだトロウの仲間であるふりをして、敵側の情報を盗む作戦のためだ。
しかし、その作戦がすでにトロウにばれているとしたら?
しかし、その作戦がすでにトロウにばれているとしたら?
任務に失敗したヴァルトをトロウは消そうとした。
ならば裏切り者の処遇がどうなるのかは想像に難くない。
幾度と無く殺し合った仲ではあったが、それでもファフニールはクルスにとって大切な友だった。殺し合うほど仲が良い関係だった。
その友が危険な状況にある。クルスは心配せずにはいられなかった。
ならば裏切り者の処遇がどうなるのかは想像に難くない。
幾度と無く殺し合った仲ではあったが、それでもファフニールはクルスにとって大切な友だった。殺し合うほど仲が良い関係だった。
その友が危険な状況にある。クルスは心配せずにはいられなかった。
(いつかお主を殺すのはこの私じゃぞ。それ以外の誰にもそれは許さん。だからファフニール……頼むから無事であってほしい――)
思わずユミルのバルハラ城の方角へ目をやったが、アルヴから見えるのは分厚い雷雲の層が広がる灰色の景色だけだった。