Chapter41「地竜潜入作戦2:黄金の竜は漆黒の中に」
大樹の頂上にあるニンゲンどもの国ユミル。つい最近までは、そこにいるトロウとかいう魔道士にオレは雇われていた。そいつはニンゲンのふりをしているが、その正体は明らかに竜だ。隠してもオレには気配ですぐにわかる。
だがトロウが何者だろうが、そんなことはどうでもよかった。
とにかくそいつの命令に従ってさえいれば、黄金に輝く財宝をくれるという話だった。しかも前金として金貨をひと山くれた。
財宝さえもらえるなら、正義だの悪だの、そんなものは興味が無い。
だからトロウを裏切るようなことになっても、オレは後ろめたいなんて1ミリも思ったりはしない。
とにかくそいつの命令に従ってさえいれば、黄金に輝く財宝をくれるという話だった。しかも前金として金貨をひと山くれた。
財宝さえもらえるなら、正義だの悪だの、そんなものは興味が無い。
だからトロウを裏切るようなことになっても、オレは後ろめたいなんて1ミリも思ったりはしない。
今、オレは再びユミルへと向かっている。トロウの命令だからではない。
ジオクルスが連れてきたフリードとかいうニンゲンは、無限に増える黄金の腕輪をオレにくれた。そしてその見返りに自分たちの味方につけと言ってきた。
ジオクルスが連れてきたフリードとかいうニンゲンは、無限に増える黄金の腕輪をオレにくれた。そしてその見返りに自分たちの味方につけと言ってきた。
オレは財宝というものが好きだ。
竜に金など必要ないと思うかもしれない。たしかに金でモノをやりとりするのはニンゲンだけの文化だ。だから金なんて持っていてもオレには意味がない。とくにニンゲンどもが金だと言い張っている紙切れなんて、あんなものただのゴミだ。
竜に金など必要ないと思うかもしれない。たしかに金でモノをやりとりするのはニンゲンだけの文化だ。だから金なんて持っていてもオレには意味がない。とくにニンゲンどもが金だと言い張っている紙切れなんて、あんなものただのゴミだ。
しかし金銀財宝の輝き。あれはとても魅力的だ。
眺めているだけで心が昂ぶる。その輝きが高揚感を与えてくれる。
だからそんな財宝を、オレは手元に置いておきたい。それはいくつあっても足りない。多ければ多いほどいい。この世界のすべての財宝を手中に収めるのがオレの夢だ。手に入れられる財宝は何ひとつ見逃すわけにはいかない。
眺めているだけで心が昂ぶる。その輝きが高揚感を与えてくれる。
だからそんな財宝を、オレは手元に置いておきたい。それはいくつあっても足りない。多ければ多いほどいい。この世界のすべての財宝を手中に収めるのがオレの夢だ。手に入れられる財宝は何ひとつ見逃すわけにはいかない。
フリードの黄金の腕輪は欲しい。しかしトロウの報酬も絶対に欲しい。
だからオレはフリードの側につくことを約束し、まず黄金の腕輪を得た。
しかしトロウの味方であることも続ける。もちろん報酬の財宝のためだ。
だからオレはフリードの側につくことを約束し、まず黄金の腕輪を得た。
しかしトロウの味方であることも続ける。もちろん報酬の財宝のためだ。
ジオクルスはこう提案してきた。
トロウの味方のふりをして報酬を手に入れろ。
そしてトロウの情報を流せばそれを買ってやる。
さらに最後にトロウを殺せば、奴の財宝はすべて譲る。
そしてトロウの情報を流せばそれを買ってやる。
さらに最後にトロウを殺せば、奴の財宝はすべて譲る。
悪くない話だった。だからオレはその提案に乗ることにした。
なぜなら、オレは一度目をつけたものは絶対に諦めないからだ。たとえどんなに時間がかかろうとも、たとえどんな手段を使おうともだ。
なぜなら、オレは一度目をつけたものは絶対に諦めないからだ。たとえどんなに時間がかかろうとも、たとえどんな手段を使おうともだ。
こうしてユミル潜入作戦が開始された。
と言っても、オレのやることは今までと大して変わらない。
ただトロウの命令に従って、その片手間にトロウの情報をジオクルスたちに流す。それだけだ。
そして報酬をもらって用済みになったら、ジオクルスたちの力を借りてトロウを殺すだけでいい。それですべてはオレのものになるのだ。
と言っても、オレのやることは今までと大して変わらない。
ただトロウの命令に従って、その片手間にトロウの情報をジオクルスたちに流す。それだけだ。
そして報酬をもらって用済みになったら、ジオクルスたちの力を借りてトロウを殺すだけでいい。それですべてはオレのものになるのだ。
ユミルは大樹の上に放射状に広がっているニンゲンの街だ。どこからかき集めてきたのか、この空では貴重なはずの石を大量に使った家がいくつも並んでいる。
街の中央には一際大きくて目立つ、石でできた城がある。それがユミルの中心であり、ニンゲンどもの王が住んでいる場所、バルハラ城だ。
街の中央には一際大きくて目立つ、石でできた城がある。それがユミルの中心であり、ニンゲンどもの王が住んでいる場所、バルハラ城だ。
オレの見たところでは、ニンゲンの王はトロウの言いなりになっているようだったが、ニンゲンの国が竜に支配されていようが滅びようがどうでもいい。オレには関係のないことだし、オレはただオレに必要なことをやるだけだ。
城の上部には大きく開けたバルコニーがある。竜が何頭か並んでも問題ない程度の広さだ。これまでも何度かトロウに呼ばれたときは、ここでそいつと顔を合わせてきた。城の中は狭くてオレには入れない。
翼をたたんでいつも通りにバルコニーに降り立つと、そこにはいつも通りに漆黒のローブに身をまとった男が立っていた。こいつがトロウだ。
「ほう、わざわざお出迎えとはご苦労なことだ。よくオレが戻るとわかったな」
いつもはトロウに呼ばれたから城に顔を出していただけだ。だが今回は呼ばれたわけではない。こいつの情報をジオクルスに売って報酬をもらうために、何か良さそうな情報はないかと探るために来ている。
トロウは不敵な笑みを見せながら言った。
「配下の者の動きすら管理できないようでは、上に立つ者としては失格です。例えば、あのニョルズ王のようにね……。ふ、ふふふ……」
不気味に笑ってみせているが、同じ竜であるオレにはいくら表面上を取り繕ったところで誤魔化し切れるものではない。この男は顔では笑ってみせながらも、鋭い気を身体から発していた。そのローブと同様に黒い、そして重い、殺気を。
「くだらん前置きは抜きにしないか。オレはアタマの足りない風竜や平和呆けした氷竜とも、あの出来損ない共とも違う。貴様、オレを殺す気だな?」
するとトロウは、あくまで不敵な笑みは崩さずに低い声で答えた。
「ふむ、お見通しでしたか。全く地竜どもの洞察力は恐ろしいですねぇ……。まあいい。それならば腹を割って話そうじゃないか、ファフニール」
深くかぶったフードの奥で、爛れた血のように赤黒い眼が鋭く光る。
「おまえ、この私を裏切るつもりだな? 私の裏をかくつもりなのだろうが、甘く見てもらっては困る。おまえのことは全てお見通しだ。私に隠し事はできんぞ!」
トロウの発する殺気がより強くなった。
気配や力を感じ取る能力に長けた地竜であるからこそ解かる。この漆黒の魔道士の力は尋常ではない。その殺気だけで、オレ一人の力なんかでは到底敵わない相手だというのが容易に理解できる。
気配や力を感じ取る能力に長けた地竜であるからこそ解かる。この漆黒の魔道士の力は尋常ではない。その殺気だけで、オレ一人の力なんかでは到底敵わない相手だというのが容易に理解できる。
しかし臆することはない。たしかに今ここで戦って勝てるような相手ではない。
ならば戦わなければいいのだ。目的のためなら、オレは手段は選ばない。
だから、まずは正直に話してやることにした。
ならば戦わなければいいのだ。目的のためなら、オレは手段は選ばない。
だから、まずは正直に話してやることにした。
「知っている。ラタトスクだろう? あれは大地の力だ。地竜のオレが気付かないわけがない。オレの行動はすべて筒抜けなのだろう」
あの馬鹿のヴァルトでさえ把握していることだ。ラタトスクを仕掛けられていることに気付かないなどあり得ない。むしろ、どうやってあの馬鹿がその事実に気付けたのかが不思議で仕方ないぐらいだ。
「……気付いていたか。ならばなぜ、私に見られていると知っていながら裏切ろうなどと考えた? ファフニール、おまえ一体何を企んでいるのだ」
初めてトロウがにやついた笑みを崩した。そして気配が変わった。黒く重い殺気は、黒く、しかし不穏に渦巻いた気配になった。つまり警戒しているのだ。
「考えた? 少し違うな。それはオレが考えたわけではない。ジオクルスが提案してきたことだ。報酬を出すからスパイをやれ、とな」
「ジオクルス……! あいつの入れ知恵か。やはりもっと早く始末しておくべきだった。最初にエインヘリアル共がしくじったりさえしなければ今ごろは……」
「とにかく見ていたのなら、わざわざ説明するまでもないだろう。オレはあいつらに雇われた、それだけのことだ。貴様を裏切ることになったのは、あくまでその結果に過ぎん」
「本当にそれだけか? ジオクルスとは親しい関係らしいじゃないか」
「ふん、それはまた別の話だ。報酬を払うというから手を貸すことにしただけだ。なんなら、さらにオレを雇い直してみるか?」
「ジオクルス……! あいつの入れ知恵か。やはりもっと早く始末しておくべきだった。最初にエインヘリアル共がしくじったりさえしなければ今ごろは……」
「とにかく見ていたのなら、わざわざ説明するまでもないだろう。オレはあいつらに雇われた、それだけのことだ。貴様を裏切ることになったのは、あくまでその結果に過ぎん」
「本当にそれだけか? ジオクルスとは親しい関係らしいじゃないか」
「ふん、それはまた別の話だ。報酬を払うというから手を貸すことにしただけだ。なんなら、さらにオレを雇い直してみるか?」
疑念を隠し切れないトロウに対してオレはひとつの提案をした。
こちらにはラタトスクがある。しかしジオクルスの側にはそれがない。だから、ここで再びオレが寝返ったとしても、向こうはそれに気付くことはない。
スパイのふりをしてウソの情報を流すこともできるし、ラタトスクだけでは把握し切れない詳細な情報を持ってくることもできる、と。
もちろん、更なる報酬をよこすことを忘れずに付け加えて。
こちらにはラタトスクがある。しかしジオクルスの側にはそれがない。だから、ここで再びオレが寝返ったとしても、向こうはそれに気付くことはない。
スパイのふりをしてウソの情報を流すこともできるし、ラタトスクだけでは把握し切れない詳細な情報を持ってくることもできる、と。
もちろん、更なる報酬をよこすことを忘れずに付け加えて。
「つまり二重スパイか。この守銭奴め……報酬さえもらえるなら友すら売るのか」
「手段は選ばん。オレにとっては財宝が全てだ。それでどうする。雇うのか、雇わないのか? 返事は今だ。雇わないなら、貴様の情報を向こうに売るだけだ」
「公言スパイとはずいぶんいい度胸だな。それは脅迫のつもりか? 金次第でころころと立場を変えるようなおまえなど信用できるか。私の邪魔をするなら、この場で消えてもらう」
「……!!」
「手段は選ばん。オレにとっては財宝が全てだ。それでどうする。雇うのか、雇わないのか? 返事は今だ。雇わないなら、貴様の情報を向こうに売るだけだ」
「公言スパイとはずいぶんいい度胸だな。それは脅迫のつもりか? 金次第でころころと立場を変えるようなおまえなど信用できるか。私の邪魔をするなら、この場で消えてもらう」
「……!!」
トロウはさっと手を振り上げた。その手からは禍々しい闇の波動があふれ出す。
しかしすぐにその手を下ろすと、
しかしすぐにその手を下ろすと、
「いや、待てよ。ファフニール、ジオクルスと行動を共にしていたということは、おまえフレイの居場所を知っているな? ふふふ……これは好都合だ! ちょうど今、私はフレイの居場所を見失っていましてねぇ……」
再び不敵な笑みを取り戻したトロウは顔を近づけてこう言った。
「だからフレイの居場所を私に教えろ。そうすればおまえを信用して、再び雇ってあげることにしましょう。もちろん報酬も上乗せだ。くっくっく……」
「本当にフレイの居場所を教えれば、オレを信用してくれるのか? もしかしたらオレはウソの居場所を教えるかもしれんぞ?」
「いいや、おまえは私にウソはつけない。なぜなら、私にはラタトスクがあるからだ。スパイは必ず雇い主に情報を伝えにいかなければならない。つまりおまえは必ずフレイの元へ行く。だからウソの居場所を教えてもすぐにわかる」
「……なるほど。そちらのほうが一枚上手のようだ。ならばまずは前金をくれ。そうすれば、すぐにでもフレイの本当の居場所を教えてやる」
「くっくっく……。所詮は金で買える安い忠誠心だ。だからこうも簡単に寝返る! いいだろう、くれてやる。安い買い物さ……」
「本当にフレイの居場所を教えれば、オレを信用してくれるのか? もしかしたらオレはウソの居場所を教えるかもしれんぞ?」
「いいや、おまえは私にウソはつけない。なぜなら、私にはラタトスクがあるからだ。スパイは必ず雇い主に情報を伝えにいかなければならない。つまりおまえは必ずフレイの元へ行く。だからウソの居場所を教えてもすぐにわかる」
「……なるほど。そちらのほうが一枚上手のようだ。ならばまずは前金をくれ。そうすれば、すぐにでもフレイの本当の居場所を教えてやる」
「くっくっく……。所詮は金で買える安い忠誠心だ。だからこうも簡単に寝返る! いいだろう、くれてやる。安い買い物さ……」
トロウはさらにもうひと山の金貨を前金として差し出した。
黄金はいい。この輝き。いくら眺めても飽きない。いくらあっても良い。
前金は転移魔法で自分の棲家にトロウに送ってもらい、オレはさっそくフレイの居場所についてトロウに話し始めた。
黄金はいい。この輝き。いくら眺めても飽きない。いくらあっても良い。
前金は転移魔法で自分の棲家にトロウに送ってもらい、オレはさっそくフレイの居場所についてトロウに話し始めた。
「まさかスパイとして送り込んだ友が、早くも裏切って二重スパイとして送り込まれようとは思うまい。ジオクルスの愕然とする顔が目に浮かぶようだ。そしてフレイの慌てた姿も……! ふ、ふふふ。ふははははは!」
トロウの満足げな高笑いは、暗闇に染まるユミルの空によく響いた。