Chapter42「地竜潜入作戦3:裏の裏の裏の裏は表」
オレにとっては財宝こそが全てだ。
それを手に入れるためならば、オレはどんな手でも使ってみせる。
それを手に入れるためならば、オレはどんな手でも使ってみせる。
フリードに雇い直されたところを、トロウにさらに雇い直されたオレは、信用を得るためにフレイの居場所についてをトロウに話した。
「フレイは今、アルヴというところにいる」
アルヴは存在自体が秘密の隠れ里らしいが、そんなことはオレには関係ない。重要なのは、いかにしてより多くの財宝を手中に収めるか。それだけだ。
「ふむ。隠れ里アルヴ……。噂には聞いたことがあった。実在しているとは思わなかったがな」
「そこには神竜と呼ばれる存在がいる。神竜の結界によって、外部からその存在を感知することは不可能だ。それにそこへ至る方法を知る者でなければ、アルヴへは絶対に辿り着けないようになっている」
「なるほど。ラタトスクが効かないのはその結界のせいというわけか」
「そこには神竜と呼ばれる存在がいる。神竜の結界によって、外部からその存在を感知することは不可能だ。それにそこへ至る方法を知る者でなければ、アルヴへは絶対に辿り着けないようになっている」
「なるほど。ラタトスクが効かないのはその結界のせいというわけか」
トロウは納得したようにうなづいた。
「それで、そのアルヴへはどうやったら行ける?」
「すまないがオレは知らない。オレはジオクルスの後についていっただけだ。ウソだと思うなら、ラタトスクを使ってオレの行動を遡って確認してみろ」
「ふん……そこまで言うなら事実なのだろう。ならばフレイのほうから、アルヴを出てきてもらう必要があるか……。よし、ファフニール。さっそく仕事をやろう」
「すまないがオレは知らない。オレはジオクルスの後についていっただけだ。ウソだと思うなら、ラタトスクを使ってオレの行動を遡って確認してみろ」
「ふん……そこまで言うなら事実なのだろう。ならばフレイのほうから、アルヴを出てきてもらう必要があるか……。よし、ファフニール。さっそく仕事をやろう」
フレイたちはオレのことを味方だと思っているから、オレは問題なくアルヴへ戻ることができる。そこでトロウは、ウソの情報を流してフレイを外へ誘き出すように命令した。
「成功した暁には追加報酬をくれてやりましょう。だからせいぜい頑張ることですねぇ……。さあ、行って来い。第四竜将ファフニールよ!」
「ふん……」
「ふん……」
そうしてオレはトロウに一瞥をくれてやると、アルヴにいる仲間のもとへ向けて飛び立った。
すでに裏切られているとも知らずに……と、心の中でほくそ笑みながら。
すでに裏切られているとも知らずに……と、心の中でほくそ笑みながら。
アルヴは神竜の結界に守られている。それがどういう原理のものなのかはよく知らないが、おそらくはフィルターのようなものではないかとオレは考えている。
方法を知らない者は絶対に辿り着けないはずだが、アルヴにはワケあって流れ着いた者が多数いる。だから、おそらくは結界を通じて神竜がアルヴに近づく者を判別しているのではないかと思う。そいつを通すべきかどうかということをだ。
方法を知らない者は絶対に辿り着けないはずだが、アルヴにはワケあって流れ着いた者が多数いる。だから、おそらくは結界を通じて神竜がアルヴに近づく者を判別しているのではないかと思う。そいつを通すべきかどうかということをだ。
今のオレはフレイの仲間であると神竜に認識されている。だからオレは神竜のフィルターには弾かれることなくアルヴへ入ることができる。
雲の上にあるアルヴは常に場所が一定ではない。しかしフリードから分け与えられた緑色の玉の欠片が発する光がアルヴのある方向を教えてくれる。
雲の上にあるアルヴは常に場所が一定ではない。しかしフリードから分け与えられた緑色の玉の欠片が発する光がアルヴのある方向を教えてくれる。
光に従って進んでいくと、例の雷雲の塊が見えてきた。
雲の中は吹き荒れる暴風に叩きつけるような雨、それに雷の嵐だ。
本当にこんなところを無事に通り抜けられるものかと思ったが、神竜の加護を受けている玉の欠片を所持しているだけで、雷も雨風もまるで気にすることなく先へ進むことができた。
おそらくこの嵐も結界のひとつで、実物ではなく魔法で生み出されたものだ。
雲の中は吹き荒れる暴風に叩きつけるような雨、それに雷の嵐だ。
本当にこんなところを無事に通り抜けられるものかと思ったが、神竜の加護を受けている玉の欠片を所持しているだけで、雷も雨風もまるで気にすることなく先へ進むことができた。
おそらくこの嵐も結界のひとつで、実物ではなく魔法で生み出されたものだ。
たしかにトロウにはアルヴへ行く方法をオレは「知らない」と言った。すでに雲塊を抜けてアルヴに到着しつつあることからわかるように、あれはウソだった。
だがオレはフレイがアルヴにいるとは話したが、アルヴがどこにあるかは話していない。だからトロウはアルヴがどこにあるかは知らない。
そしてアルヴに入ればラタトスクは効力を失うので、このウソがばれることはないし、スパイは雇い主に情報を流すものなのだから、フレイ側についていることになっているオレがアルヴへ入ったとしてもトロウは何も疑う理由が無い。
オレにはある考えがあった。
だがオレはフレイがアルヴにいるとは話したが、アルヴがどこにあるかは話していない。だからトロウはアルヴがどこにあるかは知らない。
そしてアルヴに入ればラタトスクは効力を失うので、このウソがばれることはないし、スパイは雇い主に情報を流すものなのだから、フレイ側についていることになっているオレがアルヴへ入ったとしてもトロウは何も疑う理由が無い。
オレにはある考えがあった。
アルヴへと戻ると、ジオクルスとオットー、そしてヴァルトがオレを迎えた。
「おお、ファフニール! 戻ったか。ヴァルトからラタトスクのことを聞いてな。潜入作戦のことがすでにばれているのではないかと……お主が危険な目に遭っているのではないかと心配しておったところじゃぞ」
心配そうな表情でクルスが真っ先に声をかけてきた。
「ああ……大丈夫だ。オレは問題なく潜入できている」
ああ、そうとも。オレが裏切ったことは気付かれていない。
「おい金ピカ。おまえ、まだラタトスクを持ったままだろ。クルスに頼んで取ってもらっちゃどうだァ? オレ様はそうしてもらった。まだ少し痛むがなァ……」
次に声をかけてきたのは馬鹿の風竜だ。
ヴァルト、やはりおまえは馬鹿だ。ラタトスクを取り除いたら、このオレがトロウに疑われてしまうではないか。それでは計画が台無しだ。
クルスも同様のことを提案してきたが、理由を説明してそれを断った。
ヴァルト、やはりおまえは馬鹿だ。ラタトスクを取り除いたら、このオレがトロウに疑われてしまうではないか。それでは計画が台無しだ。
クルスも同様のことを提案してきたが、理由を説明してそれを断った。
「トロウを信用させるためには、あえて見張らせておくほうがいい。そのほうが下手に怪しまれんだろうし、アルヴの中では無効化されるから何も問題あるまい」
「そうか。お主がそう言うなら、私はその言葉を信じるとしようかの」
「そうしてくれ。それよりフレイ王子はどこだ? 少し……用があってな」
「そうか。お主がそう言うなら、私はその言葉を信じるとしようかの」
「そうしてくれ。それよりフレイ王子はどこだ? 少し……用があってな」
フレイにはアルヴの外に出てもらう必要がある。そうでなければオレが困る。
居場所を尋ねると、オットーが街のほうを指差してオレに知らせた。
居場所を尋ねると、オットーが街のほうを指差してオレに知らせた。
「フレイ様ならアルヴァニアだ。しかし、王子は忙しい身。俺でよければ代わりにその用を聞こうと思うが?」
緑のニンゲン、オットー。フレイの側近だけあって、やはり用心深いと見える。
しかし直接オレから話すよりも、オットーから聞いたほうがフレイも信用するに違いない。そう考えて、オレはオットーにそれを話すことにした。
しかし直接オレから話すよりも、オットーから聞いたほうがフレイも信用するに違いない。そう考えて、オレはオットーにそれを話すことにした。
「ならおまえでいい。潜入の成果を伝えさせてもらおうか――」
成果を話し終えるなり、オットーもジオクルスも感嘆の声を上げた。
「今の話は本当なのか! よくそんなことが思いつくものだな」
「まったくじゃ! たしかにリスクはあるが、うまくいけば敵をかく乱できるぞ。お主、思った以上に頭が切れるようじゃのう!」
「あァん? つまりどういうことだよ。金ピカはトロウの手下のふりをして、フレイの仲間のふりをして……? 頭がこんがらがってくるぜ。わけがわからん」
「まったくじゃ! たしかにリスクはあるが、うまくいけば敵をかく乱できるぞ。お主、思った以上に頭が切れるようじゃのう!」
「あァん? つまりどういうことだよ。金ピカはトロウの手下のふりをして、フレイの仲間のふりをして……? 頭がこんがらがってくるぜ。わけがわからん」
理解できていないやつがいるようだが、馬鹿は放っておいて話を進める。
潜入作戦を行う以上、オレは誰からも疑われてはいけない。どちらも騙し、どちらからも信用される必要がある。
それが最も報酬を手にすることができる方法だという結論にオレは至った。
潜入作戦を行う以上、オレは誰からも疑われてはいけない。どちらも騙し、どちらからも信用される必要がある。
それが最も報酬を手にすることができる方法だという結論にオレは至った。
とくにトロウに疑われるわけにはいかない。いかにあいつに信用されるかが、この作戦のカギだ。そしてそのためには、あいつの狙い通りにフレイがアルヴの外に出たという事実をあいつに見せ付ける必要があった。
「フレイ王子というのは自分の身すらも守れないほど貧弱なのか? そうではないのだろう。スパイとして潜り込む以上、ある程度はトロウを納得させなければならない。だからフレイ王子にもアルヴの外で行動する機会を設けてもらいたい」
「ううむ。王子をお守りする立場とあってはフレイ様を危険にさらすのは反対と言いたいところだが、敵の情報を盗み、かく乱するというのはたしかにこちらが優位に立つために必要なこと。相手は強敵だからこそ、少しでも優位には立ちたい」
「そうであろう。まぁ心配することはない。ラタトスクさえ持たなければ行動を把握されることはない。もし攻撃を受けても、アルヴに逃げ込めば敵はこの場所へは絶対に辿り着けないのだからな」
「そういうことなら……。一度、フレイ様に相談してみようと思う」
「ううむ。王子をお守りする立場とあってはフレイ様を危険にさらすのは反対と言いたいところだが、敵の情報を盗み、かく乱するというのはたしかにこちらが優位に立つために必要なこと。相手は強敵だからこそ、少しでも優位には立ちたい」
「そうであろう。まぁ心配することはない。ラタトスクさえ持たなければ行動を把握されることはない。もし攻撃を受けても、アルヴに逃げ込めば敵はこの場所へは絶対に辿り着けないのだからな」
「そういうことなら……。一度、フレイ様に相談してみようと思う」
どうやら信用してくれたらしい。
その後オットーからフレイに話が回った。
アルヴ内でのやるべきこともあるが、だからといっていつまでもここにこもりきりというわけにはいかない。と、フレイもこれに納得したようだ。
ときどきはフレイも仲間の勧誘のために外を廻ることで話は落ち着いた。
その後オットーからフレイに話が回った。
アルヴ内でのやるべきこともあるが、だからといっていつまでもここにこもりきりというわけにはいかない。と、フレイもこれに納得したようだ。
ときどきはフレイも仲間の勧誘のために外を廻ることで話は落ち着いた。
まずは一歩前進。これで少し財宝に近づいたというものだ。
これが最も多く報酬を手に出来る方法。すなわち――
これが最も多く報酬を手に出来る方法。すなわち――
- トロウの側につく前金(金貨ひと山)及びその報酬。
- フレイの側につく前金(黄金の腕輪)及びトロウの情報を流す報酬。
- トロウの側に再びつく前金(金貨ひと山)及び追加報酬。
- トロウに”ウソの情報を流す”フレイ側からの追加報酬。
- そして最後にトロウを殺して、やつの財宝を総取り。
トロウ→フレイの二重スパイ。それも悪くないが、それだとトロウを殺したあとの財宝を手中に収めそびれてしまう。それは困る。
トロウからさらに報酬を引き出しつつ、かつ最後にはトロウをこの手で倒す必要がある。だからオレの執る手段はこうだ。
トロウからさらに報酬を引き出しつつ、かつ最後にはトロウをこの手で倒す必要がある。だからオレの執る手段はこうだ。
フレイ側に所属し、トロウ側にスパイとして潜入し、そこでトロウ側に寝返ってフレイの情報を伝える二重スパイ――――ではなく、トロウ側に所属するふりをして、フレイ側にはトロウの情報を。トロウ側にはウソの情報を。トロウ側を不利にしておけば、トロウを倒す際に有利に事が運ぶ。
すなわち、フレイ→トロウの”逆二重スパイ”というわけだ。
報酬はどちらからもきっちりいただく。追加報酬も上乗せだ。
フレイ側に所属することで最後にトロウを倒せる立場にいる。
ついでにそれが友(ジオクルス)の助けにもなるなら、言うことなしだろう。
報酬はどちらからもきっちりいただく。追加報酬も上乗せだ。
フレイ側に所属することで最後にトロウを倒せる立場にいる。
ついでにそれが友(ジオクルス)の助けにもなるなら、言うことなしだろう。
「よし。それではオレはトロウに”報告”に行って来よう。潜入作戦を続ける」
「わかった。お主には期待しておるぞ」
「期待はいらん、追加報酬を用意して待っていろ」
「わかった。お主には期待しておるぞ」
「期待はいらん、追加報酬を用意して待っていろ」
そして再びアルヴを発つと、トロウの待つバルハラ城へと飛び立った。
――これがオレの考え得る最適解。
だから言っただろう、オレにとっては財宝こそが全てだ。それを手に入れるためならば、オレはどんな手でも使ってみせる、と。
裏切りの裏切りだろうと、逆二重スパイだろうと、なんだろうと。
裏切りの裏切りだろうと、逆二重スパイだろうと、なんだろうと。