それは、エルナトから癒へ向かう道中の物語――
Chapter2.5「ぼへ~」
大海原を行く影がひとつ。風に揺られてどこへやら。
それは、癒の國を目指すコテツとステイであった。
船に乗ることができなかったので、ステイが癒まで自力で飛んでいくというのだ。ステイの背にはコテツが乗っている。
「ねぇ、コテツ。まだ着かないの?」
「さァなぁ。オイラは癒とエルナトの間を飛んだことないからわかンねぇや」
「サブナビもらってくればよかったかもね。おいらもう、疲れたよ…」
しかしここは海のど真ん中、どこにも休めそうなところはない。
「おっ、どんこの舟がいるぜぃ。あれに乗せてもらったらどうだ?」
「そんなのだめだよ。沈んじゃうじゃない!」
いつぞやのボロ舟で出航したどんこたちの舟がちょうど真下を通っていたが、ステイが乗ればすぐに舟は沈んでしまうだろう。ところで、いつの間にか乗っていたどんこが一匹減っていたが、彼らに一体何があったのかは誰にもわからない。
「きっともう少しだ。がんばろうぜぃ」
「もう限界だよ。コテツが重いんじゃないの?」
「そンなわけあるか。少なくともおめぇよりは軽い」
「じゃあ刀が重い!」
「おめぇの槍だって!」
言い合ってる間にもどんどん高度が落ちていく。
「あぁ、もうだめ…。下へまいりま~す!」
「おいおい! 何とかしろよ!」
「神よ、我を助け給へぇぇぇ!」
「祈るなァ! そして自分だけ助かるなァ!!」
そしてついに墜落。続けて弾力。柔らかい衝撃を受けた。
どうやら何か茶色くて柔らかいものの上に落ちたようだ。
「あ、あれ? オイラたち海の上にいたんじゃなかったか!?」
「地面が現れた!? これが奇跡ってやつなんだね、神様ありがとう!」
「カミサマはともかく……。一体何がどうなってやがるンだァ?」
よく見ると、それは地面ではなく馬の背中の上だった。
「あァ、なンだよ驚かせやがって。馬がいたのか」
「おかげで助かったね」
その馬は海の上に立っている。いや、浮いているのかもしれない。
それにしても、なんともぼへ~っとした馬である。
ああ、波の音が心地よい……
それは、癒の國を目指すコテツとステイであった。
船に乗ることができなかったので、ステイが癒まで自力で飛んでいくというのだ。ステイの背にはコテツが乗っている。
「ねぇ、コテツ。まだ着かないの?」
「さァなぁ。オイラは癒とエルナトの間を飛んだことないからわかンねぇや」
「サブナビもらってくればよかったかもね。おいらもう、疲れたよ…」
しかしここは海のど真ん中、どこにも休めそうなところはない。
「おっ、どんこの舟がいるぜぃ。あれに乗せてもらったらどうだ?」
「そんなのだめだよ。沈んじゃうじゃない!」
いつぞやのボロ舟で出航したどんこたちの舟がちょうど真下を通っていたが、ステイが乗ればすぐに舟は沈んでしまうだろう。ところで、いつの間にか乗っていたどんこが一匹減っていたが、彼らに一体何があったのかは誰にもわからない。
「きっともう少しだ。がんばろうぜぃ」
「もう限界だよ。コテツが重いんじゃないの?」
「そンなわけあるか。少なくともおめぇよりは軽い」
「じゃあ刀が重い!」
「おめぇの槍だって!」
言い合ってる間にもどんどん高度が落ちていく。
「あぁ、もうだめ…。下へまいりま~す!」
「おいおい! 何とかしろよ!」
「神よ、我を助け給へぇぇぇ!」
「祈るなァ! そして自分だけ助かるなァ!!」
そしてついに墜落。続けて弾力。柔らかい衝撃を受けた。
どうやら何か茶色くて柔らかいものの上に落ちたようだ。
「あ、あれ? オイラたち海の上にいたんじゃなかったか!?」
「地面が現れた!? これが奇跡ってやつなんだね、神様ありがとう!」
「カミサマはともかく……。一体何がどうなってやがるンだァ?」
よく見ると、それは地面ではなく馬の背中の上だった。
「あァ、なンだよ驚かせやがって。馬がいたのか」
「おかげで助かったね」
その馬は海の上に立っている。いや、浮いているのかもしれない。
それにしても、なんともぼへ~っとした馬である。
ああ、波の音が心地よい……

「いやいや、それはねぇだろう!!」
コテツは正気に戻った。
「なンで馬が海に立ってやがンだァ!?」
「ぼへ~?」
「一体何者だおめぇ!」
「ボク、ヤナギ~」
「名前を聞いたんじゃねぇ。どうして海に立ってられるンだおめぇは!」
「ぼへ?」
ヤナギは不思議そうな顔をしている。そして逆にコテツに訊いた。
「じゃあ、どうしてわんこは海に立てないの?」
「あァ? なンだよ、オイラのほうがおかしいっていうのか!?」
また変なやつに会ってしまった。半ば後悔しながらコテツが言い返す。
「おめぇなァ。海に立てるやつなンて普通はいねぇンだよ。おかしいのはおめぇだろうが!」
「えええっ!! 海に立っちゃいけないの!?」
どうも話が噛み合わない。ヤナギは器用な誤解をしているようだ。
「いや、いけねぇというより物理的にだなァ…」
ぼへ~ん。ヤナギは落ち込んでいる。
「そもそも、おめぇはどうやって今の状態を維持して…」
ぼへ~~ん。ヤナギは沈み込んでいる。
「だからどうやって……うおっ!?」
ぼぶぇ~…ぶくぶく。ヤナギは海に沈みこんでいる。
「まてまてェ! わかった、早まるな! おめぇは特別なンだ。だから海にも立てるンだよ、な! な!?」
「そっかー。よかったー」
ヤナギは浮かび上がった。
「お、おぅ。なンかよくわからねぇが、まァすごいことだぜぃ…」
ヤナギは浮かれている。
「よかったよかったー」
ヤナギはますます浮かれている。
「!?」
ヤナギはますます空に浮かれている。
「お、おい…飛ンでる。おめぇ、飛ンでる。どうやって…」
「ぼへっ!? だめなの…?」
またヤナギが困った顔をしている。
ヤナギが再び落ち込み始めた。そして沈み込むだろう、海に。
「いや…。なンでもねぇや…」
もうどうにでもなれ。
「ちょうどいいし、癒まで乗ってこうよ。おいら疲れちゃったし」
ステイが提案した。
「乗ってこうっておめぇ、飛行機じゃあるまいし」
「馬は乗り物なんだよ」
「そ、そうか。そうなんだったっけか…」
ステイはヤナギを空タクシーなどと名付けて喜んでいる。
わんこ一匹と刀一本で送料がいくら……とヤナギも乗り気である。
「送料言うな! わんこは物かよ! わんこって言うな!!」
コテツも違う意味で乗っていた。
回復したのか、いつの間にかステイは自分で飛んでいた。
「でも不思議だよね。ヤナギって突然現れてさ」
「だなァ。まぁ、おかげで助かったけどな」
「それに突然いなくなってさ」
「そうだなァ…あ? な、なンだってェ!?」
いつの間にかヤナギが消えていた。
その事実に気がついてしまったコテツは真っ逆さまに海に落ちた。
コテツは正気に戻った。
「なンで馬が海に立ってやがンだァ!?」
「ぼへ~?」
「一体何者だおめぇ!」
「ボク、ヤナギ~」
「名前を聞いたんじゃねぇ。どうして海に立ってられるンだおめぇは!」
「ぼへ?」
ヤナギは不思議そうな顔をしている。そして逆にコテツに訊いた。
「じゃあ、どうしてわんこは海に立てないの?」
「あァ? なンだよ、オイラのほうがおかしいっていうのか!?」
また変なやつに会ってしまった。半ば後悔しながらコテツが言い返す。
「おめぇなァ。海に立てるやつなンて普通はいねぇンだよ。おかしいのはおめぇだろうが!」
「えええっ!! 海に立っちゃいけないの!?」
どうも話が噛み合わない。ヤナギは器用な誤解をしているようだ。
「いや、いけねぇというより物理的にだなァ…」
ぼへ~ん。ヤナギは落ち込んでいる。
「そもそも、おめぇはどうやって今の状態を維持して…」
ぼへ~~ん。ヤナギは沈み込んでいる。
「だからどうやって……うおっ!?」
ぼぶぇ~…ぶくぶく。ヤナギは海に沈みこんでいる。
「まてまてェ! わかった、早まるな! おめぇは特別なンだ。だから海にも立てるンだよ、な! な!?」
「そっかー。よかったー」
ヤナギは浮かび上がった。
「お、おぅ。なンかよくわからねぇが、まァすごいことだぜぃ…」
ヤナギは浮かれている。
「よかったよかったー」
ヤナギはますます浮かれている。
「!?」
ヤナギはますます空に浮かれている。
「お、おい…飛ンでる。おめぇ、飛ンでる。どうやって…」
「ぼへっ!? だめなの…?」
またヤナギが困った顔をしている。
ヤナギが再び落ち込み始めた。そして沈み込むだろう、海に。
「いや…。なンでもねぇや…」
もうどうにでもなれ。
「ちょうどいいし、癒まで乗ってこうよ。おいら疲れちゃったし」
ステイが提案した。
「乗ってこうっておめぇ、飛行機じゃあるまいし」
「馬は乗り物なんだよ」
「そ、そうか。そうなんだったっけか…」
ステイはヤナギを空タクシーなどと名付けて喜んでいる。
わんこ一匹と刀一本で送料がいくら……とヤナギも乗り気である。
「送料言うな! わんこは物かよ! わんこって言うな!!」
コテツも違う意味で乗っていた。
回復したのか、いつの間にかステイは自分で飛んでいた。
「でも不思議だよね。ヤナギって突然現れてさ」
「だなァ。まぁ、おかげで助かったけどな」
「それに突然いなくなってさ」
「そうだなァ…あ? な、なンだってェ!?」
いつの間にかヤナギが消えていた。
その事実に気がついてしまったコテツは真っ逆さまに海に落ちた。
「…で、結局乗せてもらった、と」
コテツはどんこのボロ舟に拾われたのである。
もふもふさせろっ! とどんこが群がってくる。
「おいらまだ乗ったことないから訊くんだけど。フネって楽しい?」
「こんなの楽しいわけあるかァ! ってか飛ぶ元気があるなら助けに来ねぇか!!」
そして、まもなくどんこの舟は沈没した。
コテツはどんこのボロ舟に拾われたのである。
もふもふさせろっ! とどんこが群がってくる。
「おいらまだ乗ったことないから訊くんだけど。フネって楽しい?」
「こんなの楽しいわけあるかァ! ってか飛ぶ元気があるなら助けに来ねぇか!!」
そして、まもなくどんこの舟は沈没した。
Chapter2.5 END
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