Chapter55「フレイ倒れる3:機械竜ゴライアス発進」
フレイ様を救うための解呪薬に必要な材料は三つ。
ゲルダは心当たりがあると言ってキュアル草を探しに行った。どうやらそっちはアルヴの中でも手に入るようだ。
一方、おれが集めるのはメーの体液と風竜の鱗。どちらもアルヴの外の空にあるから、外に詳しくないゲルダよりはおれのほうが適任のはずだ。
一方、おれが集めるのはメーの体液と風竜の鱗。どちらもアルヴの外の空にあるから、外に詳しくないゲルダよりはおれのほうが適任のはずだ。
「さてと、まずは移動手段をどうするかっすねぇ。仲間の竜はみんな出かけてる。そろそろヴァルちゃんか、あるいはクルスが帰ってきてるといいんすけど……」
ヴァルトは兄貴とともに今日も資材集めだ。最近ではドローミの島以外にも足を伸ばしているらしく、日に日に帰りが遅くなっている。
風竜の鱗ならヴァルトのをもらえばいいし、飛行速度も速いからまとまった数のメーを捕まえるのも難しくないはず。だからヴァルトが戻ってきてくれていれば一番良かったのだけど、あいにくその日は兄貴たちが帰ってくることはなかった。
風竜の鱗ならヴァルトのをもらえばいいし、飛行速度も速いからまとまった数のメーを捕まえるのも難しくないはず。だからヴァルトが戻ってきてくれていれば一番良かったのだけど、あいにくその日は兄貴たちが帰ってくることはなかった。
他に考えられる移動手段は大神殿に行って神竜様に転移魔法で飛ばしてもらう方法もあるが、それだと帰りの手段に困る。
あるいはグリンブルスティに戻って氷竜フィンブルに乗せてもらうことも可能だったが、それだと病床のフレイ様を看ている者がいなくなってしまう。もしフレイ様に万が一のことがあっては大変なので、できれば誰かついていてほしい。
船を動かせれば一番いいが、風の魔法が使えないおれにはグリンブルスティを飛ばすことはできなかった。
あるいはグリンブルスティに戻って氷竜フィンブルに乗せてもらうことも可能だったが、それだと病床のフレイ様を看ている者がいなくなってしまう。もしフレイ様に万が一のことがあっては大変なので、できれば誰かついていてほしい。
船を動かせれば一番いいが、風の魔法が使えないおれにはグリンブルスティを飛ばすことはできなかった。
「他に空を飛べるものは何か…………そうだ! あれがあった」
先日の経験は無駄じゃなかった。そう思っておれが向かったのはアルヴァニアのはずれにある雲の森。そこには例の金属の竜が静かに鎮座していた。
ロマンの塊、みんなの憧れメタルドラゴン。そのオーナーの姿はすぐ近くにあった。グリムはいつも一人で研究と称して機械弄りだ。
おれはそのメタルドラゴンを借りようと思って、事情をグリムに説明した。
ロマンの塊、みんなの憧れメタルドラゴン。そのオーナーの姿はすぐ近くにあった。グリムはいつも一人で研究と称して機械弄りだ。
おれはそのメタルドラゴンを借りようと思って、事情をグリムに説明した。
「――そういうわけでフレイ様のために薬の材料を集めなきゃならないんすけど、おれ一人じゃアルヴを出られないんで、あんたの力を貸して欲しいんすよ」
しかしグリムはこちらを振り向きもせずに答えた。
「前にも言ったがワタシは他人には興味がない。ここなら誰にも研究の邪魔をされないし、そのために必要な竜人の観察も気軽にできるというからワタシはアルヴへとやって来たのだ。おまえたちの世話を焼くために来たのではないぞ」
冷たい反応だな……と思ったが、そういう返事をされるだろうということはある意味想定内だった。グリムは研究さえできれば他はどうでもいい、というようなタイプの人間だ。だからこそ、おれにはある考えがあった。
「もちろん研究の邪魔はしないっすよ。ただ、あんたの発明品を少し貸して欲しいだけっす。そのメタルドラゴンは空飛べるっすよね?」
「メタルドラゴンではない。ちゃんとした名前がある」
「そりゃすまねっす。えーっと、ゴ……ゴ……ゴリラ? っぽい感じの、たしか」
「ゴライアス」
「そうそう、それ。そのゴリちゃんを貸してくれるだけでいいんすよ。そしたらあとはお邪魔にならないよう、すぐに退散しますんで」
「メタルドラゴンではない。ちゃんとした名前がある」
「そりゃすまねっす。えーっと、ゴ……ゴ……ゴリラ? っぽい感じの、たしか」
「ゴライアス」
「そうそう、それ。そのゴリちゃんを貸してくれるだけでいいんすよ。そしたらあとはお邪魔にならないよう、すぐに退散しますんで」
とはいえ機械竜(ゴライアス)はグリムの半生をかけた研究の積み重ねによる努力の結晶のような存在だ。そう簡単には貸してくれないかもしれない。
しかしこっちもフレイ様の命がかかっているのだ。いざとなったら土下座してでも食い下がる覚悟でやってきた。
しかしこっちもフレイ様の命がかかっているのだ。いざとなったら土下座してでも食い下がる覚悟でやってきた。
さて、何と言って貸し渋られるかと息を呑んで身を引き締めていると、意外にもグリムはあっさりと返事をよこした。
「それなら問題ない。勝手にもっていけ」
「……えっ、いいんすか!?」
「なんだ。自分から頼んでおいて、なぜそんな不思議そうな声を出す?」
「……えっ、いいんすか!?」
「なんだ。自分から頼んでおいて、なぜそんな不思議そうな声を出す?」
ずいぶん拍子抜けした気分だった。何度断られようと絶対に諦めないつもりで、長期戦も覚悟していたというのに、さすがにあっけなさすぎる。
こうもあっさりと貸してくれるとは、本当に自分の研究以外にはまるで関心がないらしい。しかしそういうことなら、ありがたくお言葉に甘えておくまでだ。
こうもあっさりと貸してくれるとは、本当に自分の研究以外にはまるで関心がないらしい。しかしそういうことなら、ありがたくお言葉に甘えておくまでだ。
「それじゃあ、ありがたく借りさせてもらうっす。あ、心配いらないっすよ。前に乗せてもらったときに操作方法はだいたいわかったし、どこかにぶつけたりしないでちゃんと無事に返すと誓いますんで!」
「別にかまわん。材料さえあればその程度のものはすぐに作れる。設計図ならワタシの頭の中に入っている。もし壊れたら適当に処分しておいてくれ」
「え……。処分しとけって、そんな日用品かなんかじゃないんすから、こんなでかい機械。おれが言うのもナンっすけど、自分の発明品に愛着とかないんすか?」
「重要なのはそれを作るためのノウハウだ。モノ自体は大して意味を為さない」
「そ、そっすか……。でも、おれはちゃんと返すつもりっすからね!」
「わかったから、さっさと持っていけ。ワタシにはとにかく時間がないのだ。こうして話している時間さえも惜しい」
「別にかまわん。材料さえあればその程度のものはすぐに作れる。設計図ならワタシの頭の中に入っている。もし壊れたら適当に処分しておいてくれ」
「え……。処分しとけって、そんな日用品かなんかじゃないんすから、こんなでかい機械。おれが言うのもナンっすけど、自分の発明品に愛着とかないんすか?」
「重要なのはそれを作るためのノウハウだ。モノ自体は大して意味を為さない」
「そ、そっすか……。でも、おれはちゃんと返すつもりっすからね!」
「わかったから、さっさと持っていけ。ワタシにはとにかく時間がないのだ。こうして話している時間さえも惜しい」
そうやってゴライアスを押し付けられるようにして、グリムに追い返されてしまった。
「ヘンな人っすねぇ……。でもいいや。これで材料を探しに行ける」
研究者というのは変人が多いものだ。そう納得しておくことにしよう。
気を取り直して、さっそくゴライアスに乗り込み出発しようとしていると、突然後ろから誰かに呼び止められた。
気を取り直して、さっそくゴライアスに乗り込み出発しようとしていると、突然後ろから誰かに呼び止められた。
「すみません。さっきのお話、聞こえてしまったのですが、フレイ王子が苦しんでいるというのは本当なのですか?」
振り返るとそこに立っていたのは、フードを深めに被った蛇っぽい姿のお姉さんだった。こう見えても彼女は人間で、ユミル王家の王宮魔道士の一人。おれや兄貴にとって先輩にあたる立場のひとだ。名前はたしか……
「サーモン先輩!」
「あ、あはは……。ワタシはそんなおいしそうな名前じゃないわ。ワタシは灼熱の魔道士サーモスです」
「あ、あはは……。ワタシはそんなおいしそうな名前じゃないわ。ワタシは灼熱の魔道士サーモスです」
サーモスは苦笑してみせた。
蛇のような顔は少し恐いが、こうして笑ってみせると意外と可愛らしい。
たしかトロウに呪われて蛇のような姿に変わってしまったとかいう話だ。そういえば、彼女も呪いを解く研究のためにこの森に隠れ住んでいるんだっけ。
蛇のような顔は少し恐いが、こうして笑ってみせると意外と可愛らしい。
たしかトロウに呪われて蛇のような姿に変わってしまったとかいう話だ。そういえば、彼女も呪いを解く研究のためにこの森に隠れ住んでいるんだっけ。
「こりゃ失礼しました。ええと、その通りなんすよ! フレイ様が急に苦しんで倒れてしまって、もしかしたら敵に呪いをかけられたのかもしれないっす。それで、錬金術の先生に解呪の薬を作ってもらうために、材料を取りに行くところっす」
「なるほど……。王家に仕える者として、王子の一大事に黙って見ているわけにはいきません。どうかワタシにも手伝わせてもらえませんか?」
「なるほど……。王家に仕える者として、王子の一大事に黙って見ているわけにはいきません。どうかワタシにも手伝わせてもらえませんか?」
サーモスは協力を申し出てくれた。たしかに一人で探すよりは、少しでも人手が多いほうがいい。それに彼女には、他にも手伝う理由があるという。
「解呪の薬というものがあるなんて。アルヴに暮らしてしばらく経つけど、そういうものは初めて聞きました。もしかしたらこのワタシにかけられた呪いも、それさえあれば解けるかもしれない……!」
そういうことなら、なおさら断る理由はない。
おれはありがたく協力を受けることにした。
おれはありがたく協力を受けることにした。
「それじゃあ、さっそく発進するっすよ。ちょっと揺れますんで、しっかりつかまっててくださいね、サモ先輩!」
「さ、サモ先輩?」
「さ、サモ先輩?」
二人でゴライアスに乗り込み、慣れた手つきでいくつかのスイッチを入れる。
先日の経験が今こそ活かされるとき。動かし方は、前にクルスたちと浮遊岩石群に行ったときに覚えてしまった。
燃料良し、計器良し、メインエンジン点火、動作良好。
先日の経験が今こそ活かされるとき。動かし方は、前にクルスたちと浮遊岩石群に行ったときに覚えてしまった。
燃料良し、計器良し、メインエンジン点火、動作良好。
「いざ、機械竜ゴライアス発進!!」
今おれの脳内にはドラムロールが鳴り響き、そしてシンバルが力強く打たれた。
夢と希望とロマンを乗せて、どこまでも行くよ機械竜。
我らが主君を救うため、さらばアルヴよ、しばしの別れ。
大空を舞い、我らが目指すは、運命繋ぐ奇跡の薬。
使命を帯びて飛び立つ船は、その名は機械竜ゴライアス。
我らが主君を救うため、さらばアルヴよ、しばしの別れ。
大空を舞い、我らが目指すは、運命繋ぐ奇跡の薬。
使命を帯びて飛び立つ船は、その名は機械竜ゴライアス。
作詞:おれ 作曲:募集中
そしてゴライアスはおれたちを乗せてアルヴを飛び立つ。
さあ、待ってるっすよフレイ様。すぐに薬の材料見つけてくるっすからね!
さあ、待ってるっすよフレイ様。すぐに薬の材料見つけてくるっすからね!