第八章「Blackbox startup」
(執筆:イグリス)
ゲンダーとメイヴは再び地下へと続く階段の前に立っていた。階段の先は光が届かず、どこまで続いているのかは見当がつかない。
「深いな」
闇を見下ろし、そっと呟く。移動手段が車輪である二匹にとって、この階段は強敵だった。仮にも製作したのはヘイヴである。多少の段差ならなんとかなる。しかしこの深さは問題だ。最下層まで転がり落ちることにもなりかねない。
『この時代にエスカレータではないとは、気が利きませんね』
「底が知れれば何とかなったかもしれないが」
様子を探ろうと、ライトを当てたり、カメラを暗視モードに変えてみたりと試してみたが、視える限り延々と段差が続いていることが分かっただけだった。
「なにか方法はないものか」
『急須にひもをくくりつけて落としてみましょうか』
「バンジー☆急須……。いや、その手があった!」
その時ゲンダーの脳裏に閃光が走った。メイヴの左側のレバーを引き、リミットを生成させる。
『リミットを出してどうしようというのです?』
リミットも車輪移動であることに変わりはない。しかも二匹に比べると、性能は学理と落ちるため、この階段を無事に降りることは出来ないだろう。
「コイツが急須だ。リミットに先の様子を探らせる。仮に着地の衝撃で壊れても、どれほどの深さがあるのか見当が付けられる」
『あまり乱暴なことはしたくないのですが……』
「ミサイルをぶっ放すやつが言う台詞か!」
あまり乗り気でないメイヴに鋭いツッコミが入った。メイヴがリミットの方に視線を向けると、変わらぬ表情でリミットもこちらを見ている。そんなリミットを見ていると、何故か破壊衝動が増してきた。
『気が変わりました。ガンガン落としましょう』
「分かってもらえて嬉しいよ」
「グメー」
ノリノリで答えるメイヴ。グメーシスも楽しそうに鳴いている。さらに何体かのリミットを生成し、どこから取り出したのか、かなりの長さになるひもをリミットにくくりつけて、階段の底に向かって放り出した。
「ヴァナーナ」「ぼくリミットくんです……」
リミットたちの訳の分からない声がだんだん遠ざかっていく。
次の瞬間、空気が変わった。さっきまでは何もなかった階段の先からプレッシャーを感じる。
「ギャアアアァァァッッ」
遅れてリミットの悲鳴が聞こえてきた。
「何事だ!?」
「グメェェッ!」
何が起こったか理解するよりも早く、グメーシスが飛び出していく。慌てて止めようとするも間に合わない。その声は怒っているようにも聞こえた。
「グメーシス!」
不思議なことにグメーシスが通りすぎると、その周囲が白い粉となってどんどん積もっていく。両端の壁、そして段差が白い粉に変化し、目の前の階段が丸い穴になった。
『どうしますか?』
「転がり落ちるよりはましダ。行くぞ」
道が平坦ならば車輪でもなんとかなるかもしれない。
『そういうと思いましたよ』
二匹は覚悟を決めて、地下へと飛び込んでいった。
「深いな」
闇を見下ろし、そっと呟く。移動手段が車輪である二匹にとって、この階段は強敵だった。仮にも製作したのはヘイヴである。多少の段差ならなんとかなる。しかしこの深さは問題だ。最下層まで転がり落ちることにもなりかねない。
『この時代にエスカレータではないとは、気が利きませんね』
「底が知れれば何とかなったかもしれないが」
様子を探ろうと、ライトを当てたり、カメラを暗視モードに変えてみたりと試してみたが、視える限り延々と段差が続いていることが分かっただけだった。
「なにか方法はないものか」
『急須にひもをくくりつけて落としてみましょうか』
「バンジー☆急須……。いや、その手があった!」
その時ゲンダーの脳裏に閃光が走った。メイヴの左側のレバーを引き、リミットを生成させる。
『リミットを出してどうしようというのです?』
リミットも車輪移動であることに変わりはない。しかも二匹に比べると、性能は学理と落ちるため、この階段を無事に降りることは出来ないだろう。
「コイツが急須だ。リミットに先の様子を探らせる。仮に着地の衝撃で壊れても、どれほどの深さがあるのか見当が付けられる」
『あまり乱暴なことはしたくないのですが……』
「ミサイルをぶっ放すやつが言う台詞か!」
あまり乗り気でないメイヴに鋭いツッコミが入った。メイヴがリミットの方に視線を向けると、変わらぬ表情でリミットもこちらを見ている。そんなリミットを見ていると、何故か破壊衝動が増してきた。
『気が変わりました。ガンガン落としましょう』
「分かってもらえて嬉しいよ」
「グメー」
ノリノリで答えるメイヴ。グメーシスも楽しそうに鳴いている。さらに何体かのリミットを生成し、どこから取り出したのか、かなりの長さになるひもをリミットにくくりつけて、階段の底に向かって放り出した。
「ヴァナーナ」「ぼくリミットくんです……」
リミットたちの訳の分からない声がだんだん遠ざかっていく。
次の瞬間、空気が変わった。さっきまでは何もなかった階段の先からプレッシャーを感じる。
「ギャアアアァァァッッ」
遅れてリミットの悲鳴が聞こえてきた。
「何事だ!?」
「グメェェッ!」
何が起こったか理解するよりも早く、グメーシスが飛び出していく。慌てて止めようとするも間に合わない。その声は怒っているようにも聞こえた。
「グメーシス!」
不思議なことにグメーシスが通りすぎると、その周囲が白い粉となってどんどん積もっていく。両端の壁、そして段差が白い粉に変化し、目の前の階段が丸い穴になった。
『どうしますか?』
「転がり落ちるよりはましダ。行くぞ」
道が平坦ならば車輪でもなんとかなるかもしれない。
『そういうと思いましたよ』
二匹は覚悟を決めて、地下へと飛び込んでいった。
坂道を下りきってしばらく進むと強い明かりが見えてきた。近づいてみると頑丈そうな扉に丸い穴が空いていて、そこから光が入ってきている。その下にはまたもや白い粉。
「どうなっているんダ」
『グメーシスがやったのでしょうか』
疑問に思いつつ中に入る。中は電源が生きているようで、十分に明るかった。室内は広い円形で、中央には巨大な円柱のような機械がある。機械には大量にパイプが繋がっていて、その配線はどこへ繋がっているのか、室外へと続いていた。パイプの繋ぎ目からところどころ紫色の霧が漏れ出している。
「グメェェーーッッ!」
聞き覚えのある声が室内に響く。
「グメーシスの声ダ!」
『あちらを!』
メイヴの示す先を見ると一段と濃い紫の霧があった。その中央からだんだんと白い霧に変わっていき、中からグメーシスの姿が現れる。
「グメーッ」
こちらを見て嬉しそうに一声鳴くが、すぐに他の場所から出る霧に飛び込んでいった。
「霧を全て消そうとしているのか。しかしこれでは……」
グメーシスが去った場所からは再び霧が吹き出してきてしまっている。元を絶たない限り、際限なく吹き出してくるだろう。
『ゲンダー、どうやら中央の機械が発生源のようです』
「何とかできそうか?」
『アクセスしてみなければわかりません』
再び中央の機械に目をやると、操作盤らしき場所の周りに青い光、G-ブロウティスが漂っている。幸運なことに赤い光、G-レティスはいないようだ。
『あれなら何とかなりますね。私の対戦車ミサイルでぶっとばして差し上げましょう』
「本体ごと吹き飛ばしてどうするんダ。オレに任せるんダ」
ゲンダーは高速で接近し、漂うブロウティスに正確に汁を放った。狙い違わず、全てのブロウティスに当て、操作盤の周りの敵はすぐに一掃できた。メイヴは危険がなくなったことを確認すると、すぐに操作盤に取り付き、アクセスを開始する。
「どうダ、何とかなりそうか?」
そう聞いてきたゲンダーに自信を持って答える。
『何とかなります。さすがに中枢に比べればザルですね。地下では地上とは別のネットワークが構成されているようですが、この機械内の情報に限れば抜き放題ですよ』
いつものように複数のウィンドウを開き、データを写し取っていく。データを垣間見ると、ここは紫色の霧を発生させる施設のひとつで、他の研究所の地下にも同じようなものがいくつもあるらしい。他には霧の特性、精神体の特性などがある。地下の地図もあった。地図をよく見ると大きなエレベータがあるようだ。こいつを動かせれば脱出もできるだろう。メイヴならやってくれるはずだ。データに目を通していると、メイヴからの言葉を表示するウインドウが消えてしまっていた。
「メイヴ?」
顔を上げてメイヴの方を見ると、メイヴの目や体が発光している。データのやり取りを示す文字の表示はさらに速度を増し、もはや目で追うのが困難になってきていた。メイヴのこんな様子をみるのは初めてだ。シャトルミサイルの解析の時はこうはならなかった。パイプの隙間からの霧の漏れはさらに激しくなり、いつの間にか二匹の周りにはG-ブロウティスが集まってきている。その中にはG-レティスの赤い光も見えた。
「おい、メイヴ!早く機械を止めてくれ!」
メイヴはゲンダーの声に気づいた様子はなく、アクセスを続けている。光がこちらに突進してきた。
「グメェェーーッッ」
やられる、と思った瞬間、グメーシスが飛び出してきて、周りの霧ごと光を白い砂に変えた。またグメーシスに助けられた。
「どうなっているんダ」
『グメーシスがやったのでしょうか』
疑問に思いつつ中に入る。中は電源が生きているようで、十分に明るかった。室内は広い円形で、中央には巨大な円柱のような機械がある。機械には大量にパイプが繋がっていて、その配線はどこへ繋がっているのか、室外へと続いていた。パイプの繋ぎ目からところどころ紫色の霧が漏れ出している。
「グメェェーーッッ!」
聞き覚えのある声が室内に響く。
「グメーシスの声ダ!」
『あちらを!』
メイヴの示す先を見ると一段と濃い紫の霧があった。その中央からだんだんと白い霧に変わっていき、中からグメーシスの姿が現れる。
「グメーッ」
こちらを見て嬉しそうに一声鳴くが、すぐに他の場所から出る霧に飛び込んでいった。
「霧を全て消そうとしているのか。しかしこれでは……」
グメーシスが去った場所からは再び霧が吹き出してきてしまっている。元を絶たない限り、際限なく吹き出してくるだろう。
『ゲンダー、どうやら中央の機械が発生源のようです』
「何とかできそうか?」
『アクセスしてみなければわかりません』
再び中央の機械に目をやると、操作盤らしき場所の周りに青い光、G-ブロウティスが漂っている。幸運なことに赤い光、G-レティスはいないようだ。
『あれなら何とかなりますね。私の対戦車ミサイルでぶっとばして差し上げましょう』
「本体ごと吹き飛ばしてどうするんダ。オレに任せるんダ」
ゲンダーは高速で接近し、漂うブロウティスに正確に汁を放った。狙い違わず、全てのブロウティスに当て、操作盤の周りの敵はすぐに一掃できた。メイヴは危険がなくなったことを確認すると、すぐに操作盤に取り付き、アクセスを開始する。
「どうダ、何とかなりそうか?」
そう聞いてきたゲンダーに自信を持って答える。
『何とかなります。さすがに中枢に比べればザルですね。地下では地上とは別のネットワークが構成されているようですが、この機械内の情報に限れば抜き放題ですよ』
いつものように複数のウィンドウを開き、データを写し取っていく。データを垣間見ると、ここは紫色の霧を発生させる施設のひとつで、他の研究所の地下にも同じようなものがいくつもあるらしい。他には霧の特性、精神体の特性などがある。地下の地図もあった。地図をよく見ると大きなエレベータがあるようだ。こいつを動かせれば脱出もできるだろう。メイヴならやってくれるはずだ。データに目を通していると、メイヴからの言葉を表示するウインドウが消えてしまっていた。
「メイヴ?」
顔を上げてメイヴの方を見ると、メイヴの目や体が発光している。データのやり取りを示す文字の表示はさらに速度を増し、もはや目で追うのが困難になってきていた。メイヴのこんな様子をみるのは初めてだ。シャトルミサイルの解析の時はこうはならなかった。パイプの隙間からの霧の漏れはさらに激しくなり、いつの間にか二匹の周りにはG-ブロウティスが集まってきている。その中にはG-レティスの赤い光も見えた。
「おい、メイヴ!早く機械を止めてくれ!」
メイヴはゲンダーの声に気づいた様子はなく、アクセスを続けている。光がこちらに突進してきた。
「グメェェーーッッ」
やられる、と思った瞬間、グメーシスが飛び出してきて、周りの霧ごと光を白い砂に変えた。またグメーシスに助けられた。

「おいメイヴ!ふざけている場合じゃないぞ!」
続けて声をかけるが、依然として反応はない。霧が濃くなってきた。再び光が集まってくるのも時間の問題だ。グメーシスはまた他の場所へ行ってしまった。今度も助けが間に合うとは限らない。どうすればこの状況を切り抜けられるのか、そんなことを考えていると今度は霧の発生装置のほうが悲鳴を上げてきた。
「出力増大中。臨界値を突破しました。爆発の危険があります。直ちに停止してください」
耳障りな警報と共に、不吉な情報を告げられる。考えている時間もなければ手段を選んでいる暇もない。ゲンダーははるか古代から知られ、調子の悪くなった機械を直す最も手っ取り早い方法を実行することにした。
「仕方ない。許せよ、メイヴ」
右腕を大きく振りかぶって、メイヴの側頭部に叩きつける。激しい音が響き、メイヴの体が横倒しになる。右手が少しへこんだ気がするが、気にしている場合ではない。
『システムに異常を確認。セルフチェックの後、再起動を行います。しばらくお待ちください』
そのメッセージを最後に開いていたウィンドウが次々と閉じられ、ついには本体のウィンドウの光も消えた。
(しまった、やりすぎたか)
「出力、なおも増大中。爆発の危険があります。直ちにこのブロックから退避してください」
後悔する間もなく警告が響く。しかも危険度が増しているようだ。さっきの地図でこの部屋に直通するエレベータがあることは分かっている。ここから離れるにはそれを使うしかない。しかしメイヴはまだ停止したままだ。メイヴの体を起こしてエレベータに向かう。資材の搬入用なのかかなり大きいエレベータだ。車輪が付いているメイヴをエレベータまで運ぶのは楽な作業だった。さらに幸運なことにエレベータのシステムにロックはかかってなく、ゲンダーでも動かすことができる。
「こいつ、動くぞ。よし、グメーシスこっちダ!」
「グメーッ!」
グメーシスも異常に気付いたようで、すぐにこちらへ向かってくる。室内は危険を示す赤いランプと紫色の霧のせいで何色なのかわからない。
「霧が入ってこないように注意してくれ!よし、行くぞ」
「グメーッ!」
任せろと言わんばかりに一声鳴く。不思議なことに周りの霧やG-ブロウティス、G-レティスは白い粉となって消えていったが、ゲンダーやメイヴ、エレベータなどは無事なようだ。グメーシスが意識しているのだろうか。扉が閉じ、エレベータが上昇を始める。どうやら難は逃れたようだ。
続けて声をかけるが、依然として反応はない。霧が濃くなってきた。再び光が集まってくるのも時間の問題だ。グメーシスはまた他の場所へ行ってしまった。今度も助けが間に合うとは限らない。どうすればこの状況を切り抜けられるのか、そんなことを考えていると今度は霧の発生装置のほうが悲鳴を上げてきた。
「出力増大中。臨界値を突破しました。爆発の危険があります。直ちに停止してください」
耳障りな警報と共に、不吉な情報を告げられる。考えている時間もなければ手段を選んでいる暇もない。ゲンダーははるか古代から知られ、調子の悪くなった機械を直す最も手っ取り早い方法を実行することにした。
「仕方ない。許せよ、メイヴ」
右腕を大きく振りかぶって、メイヴの側頭部に叩きつける。激しい音が響き、メイヴの体が横倒しになる。右手が少しへこんだ気がするが、気にしている場合ではない。
『システムに異常を確認。セルフチェックの後、再起動を行います。しばらくお待ちください』
そのメッセージを最後に開いていたウィンドウが次々と閉じられ、ついには本体のウィンドウの光も消えた。
(しまった、やりすぎたか)
「出力、なおも増大中。爆発の危険があります。直ちにこのブロックから退避してください」
後悔する間もなく警告が響く。しかも危険度が増しているようだ。さっきの地図でこの部屋に直通するエレベータがあることは分かっている。ここから離れるにはそれを使うしかない。しかしメイヴはまだ停止したままだ。メイヴの体を起こしてエレベータに向かう。資材の搬入用なのかかなり大きいエレベータだ。車輪が付いているメイヴをエレベータまで運ぶのは楽な作業だった。さらに幸運なことにエレベータのシステムにロックはかかってなく、ゲンダーでも動かすことができる。
「こいつ、動くぞ。よし、グメーシスこっちダ!」
「グメーッ!」
グメーシスも異常に気付いたようで、すぐにこちらへ向かってくる。室内は危険を示す赤いランプと紫色の霧のせいで何色なのかわからない。
「霧が入ってこないように注意してくれ!よし、行くぞ」
「グメーッ!」
任せろと言わんばかりに一声鳴く。不思議なことに周りの霧やG-ブロウティス、G-レティスは白い粉となって消えていったが、ゲンダーやメイヴ、エレベータなどは無事なようだ。グメーシスが意識しているのだろうか。扉が閉じ、エレベータが上昇を始める。どうやら難は逃れたようだ。
エレベータ内で一息つくとメイヴのウィンドウに光が灯った。
『セルフチェックを終了しました。システムを再起動します』
メッセージの後にメイヴの目が開く。
『おはようございます。どうやらシステムがダウンしてしまったようですね。状況を教えてください』
「何が起こったのか、こっちも聞きたいんダが……」
メイヴが暴走をしてからここまでのことを話す。当然、メイヴを殴り倒したことは話さない。
『なるほど。ご迷惑をおかけしました』
「オレも何度もメイヴに助けられたからな。当然ダ」
「グメー」
それにへイヴとの約束もある。話しているうちにエレベータの扉が開いた。どうやら到着したようだ。外に出ると少し建物が揺れたような気がした。どうやら霧の発生装置が爆発したようだ。地上のフロアに知らせが来ないのは、電気系統が死んでいるからなのか、あの装置が極秘のものだったからなのか。おそらく後者だろう。あたりの様子を見回すと、どうやらこのフロアが丸々駐車場になっているらしい。ここに来てようやく念願の乗り物を見つけた。資材を運ぶ大型のトラック、一般の移動用のエレカ、そして小型のホバークラフト。この中から選ぶのならホバークラフトだろう。マキナ製のものには劣るかもしれないが、それでも十分な性能を持っているようだ。
「こいつにしよう。動かせるか?」
ホバークラフトに乗り込みながらメイヴに尋ねる。
『妥当な選択だと思います。燃料も問題なし。耐久性も十分ですね。操縦も出来ます』
「グメェ」
意見が一致したようだ。出発の準備を進めながら話の続きを始める。
『先程のセルフチェックの結果、ブラックボックス内のプログラムが一部作動したようです。今回の暴走はそれが原因でしょう』
「確かにあの時のメイヴの様子は普通じゃなかったな。今は大丈夫なのか?」
『現在は停止しているようです。もともと私はブラックボックスを封印するためのシステムなのですが、どうやらへイヴでさえ完全なものは出来なかったようです』
「他人事のように言うな」
『しかし得たものもありますよ』
ゲンダーの言葉を無視してウィンドウをいくつか開き、データを表示する。
『暴走した際にあのネットワーク内のデータをほとんど回収することができたようです。あの短時間にこの成果は驚異的なものですね。これを見てください』
手を止め、いくつかのウィンドウを開いて見せてもらう。さっきはチラッとしか見えなかった紫色の霧の特性について、あの霧には精神体を固定する性質があり、霧がなくては精神体は存在できない。各研究所の地下で精製された霧は本社地下施設に集められ、精神体の解放やドーム外周部の防衛システムに使用される。そのようなことがわかる。
「本社の地下施設を破壊出来ればこの精神の解放とかいうやつは止められるようダナ」
『おそらくもう遅いでしょう。こちらのファイルを見てください。計画はすでに最終段階へと入っていたようです』
提示されたファイルにはプロジェクトGの内容が書かれていた。少数の被験者を用いた生成実験に始まり、存在確率の改善、意識の保持、精神体自身の増強といった改良。この時点で計画に関係の無い住人は次々と意識を持たない精神体に変化させられてしまったようだ。続いて、末端研究員の解放、そして幹部、役員の精神の解放が行われた。精神体の反乱を恐れたためか、意識を持つものはほんの一部に限られている。そして、この計画の最終目的がマキナ、フィーティンを足がかりとしたフローティア世界の全生命体の精神を解放し、支配することだった。
『ドーム内には生きているものの気配は感じられませんでした。おそらくこのドーム内は全員ゴーストにされてしまったのだと思います』
「しかしここ数日でマキナやフィーティンが侵略されたという情報は聞いていないぞ。そんなことがあれば、へイヴが知らないはずがない」
『もしかしたらこの事を知って、私たちをマキナに向かわせようとしたのかもしれません』
「しかし、マキナへ行くのはメイヴを正しく扱えるものを捜すためだったはずダ。どうしてそんな回りくどいことを……」
『マキナが陥落する前に捜せ、ということか。あるいは私を使うことでこの計画を阻止することができるのか』
気まずい沈黙が流れる。確かにメイヴは施設の一つを破壊した。過程はどうあれ結果は出ているのだ。
「まだ情報が足りないな。最新の情報がほしい。本社に行ってみたほうがいいと思うんダガ?」
『私も同意見です。それにこの高速道路を降りるには一度本社を経由する必要があるようです。無駄足にはなりません』
「ついでといってはなんダガ、やはり本社の施設も破壊したいな」
『なぜです?』
「おそらく精神の開放を行う施設としては唯一のものだと思う。もしかしたら他にもここのようなドームがあるかもしれないが、貴重なものには代わり無いはずだ。できればここの研究データをドームごと吹き飛ばしたいんダガ。データがなくなればプロジェクトの続行も難しくなるはずだからな」
『本社に行ってみなければ可能かどうかはわかりませんが試してみる価値はありますね。それに、私も派手なことは好きからね』
「グメェェーーー」
オレを忘れるなと言いたそうにグメーシスが勇ましく鳴いた。それを合図にエンジンをかけ、発進させる。
『ゲンダー』
「なんダ?」
『もし私が再び暴走したその時は、殴り倒してでも止めてください』
「……まかせろ」
すでに一度殴り倒したとは言えない。
だれもいない高速道路を一台のホバークラフトが風を切り裂き駆け抜けて行った。
『セルフチェックを終了しました。システムを再起動します』
メッセージの後にメイヴの目が開く。
『おはようございます。どうやらシステムがダウンしてしまったようですね。状況を教えてください』
「何が起こったのか、こっちも聞きたいんダが……」
メイヴが暴走をしてからここまでのことを話す。当然、メイヴを殴り倒したことは話さない。
『なるほど。ご迷惑をおかけしました』
「オレも何度もメイヴに助けられたからな。当然ダ」
「グメー」
それにへイヴとの約束もある。話しているうちにエレベータの扉が開いた。どうやら到着したようだ。外に出ると少し建物が揺れたような気がした。どうやら霧の発生装置が爆発したようだ。地上のフロアに知らせが来ないのは、電気系統が死んでいるからなのか、あの装置が極秘のものだったからなのか。おそらく後者だろう。あたりの様子を見回すと、どうやらこのフロアが丸々駐車場になっているらしい。ここに来てようやく念願の乗り物を見つけた。資材を運ぶ大型のトラック、一般の移動用のエレカ、そして小型のホバークラフト。この中から選ぶのならホバークラフトだろう。マキナ製のものには劣るかもしれないが、それでも十分な性能を持っているようだ。
「こいつにしよう。動かせるか?」
ホバークラフトに乗り込みながらメイヴに尋ねる。
『妥当な選択だと思います。燃料も問題なし。耐久性も十分ですね。操縦も出来ます』
「グメェ」
意見が一致したようだ。出発の準備を進めながら話の続きを始める。
『先程のセルフチェックの結果、ブラックボックス内のプログラムが一部作動したようです。今回の暴走はそれが原因でしょう』
「確かにあの時のメイヴの様子は普通じゃなかったな。今は大丈夫なのか?」
『現在は停止しているようです。もともと私はブラックボックスを封印するためのシステムなのですが、どうやらへイヴでさえ完全なものは出来なかったようです』
「他人事のように言うな」
『しかし得たものもありますよ』
ゲンダーの言葉を無視してウィンドウをいくつか開き、データを表示する。
『暴走した際にあのネットワーク内のデータをほとんど回収することができたようです。あの短時間にこの成果は驚異的なものですね。これを見てください』
手を止め、いくつかのウィンドウを開いて見せてもらう。さっきはチラッとしか見えなかった紫色の霧の特性について、あの霧には精神体を固定する性質があり、霧がなくては精神体は存在できない。各研究所の地下で精製された霧は本社地下施設に集められ、精神体の解放やドーム外周部の防衛システムに使用される。そのようなことがわかる。
「本社の地下施設を破壊出来ればこの精神の解放とかいうやつは止められるようダナ」
『おそらくもう遅いでしょう。こちらのファイルを見てください。計画はすでに最終段階へと入っていたようです』
提示されたファイルにはプロジェクトGの内容が書かれていた。少数の被験者を用いた生成実験に始まり、存在確率の改善、意識の保持、精神体自身の増強といった改良。この時点で計画に関係の無い住人は次々と意識を持たない精神体に変化させられてしまったようだ。続いて、末端研究員の解放、そして幹部、役員の精神の解放が行われた。精神体の反乱を恐れたためか、意識を持つものはほんの一部に限られている。そして、この計画の最終目的がマキナ、フィーティンを足がかりとしたフローティア世界の全生命体の精神を解放し、支配することだった。
『ドーム内には生きているものの気配は感じられませんでした。おそらくこのドーム内は全員ゴーストにされてしまったのだと思います』
「しかしここ数日でマキナやフィーティンが侵略されたという情報は聞いていないぞ。そんなことがあれば、へイヴが知らないはずがない」
『もしかしたらこの事を知って、私たちをマキナに向かわせようとしたのかもしれません』
「しかし、マキナへ行くのはメイヴを正しく扱えるものを捜すためだったはずダ。どうしてそんな回りくどいことを……」
『マキナが陥落する前に捜せ、ということか。あるいは私を使うことでこの計画を阻止することができるのか』
気まずい沈黙が流れる。確かにメイヴは施設の一つを破壊した。過程はどうあれ結果は出ているのだ。
「まだ情報が足りないな。最新の情報がほしい。本社に行ってみたほうがいいと思うんダガ?」
『私も同意見です。それにこの高速道路を降りるには一度本社を経由する必要があるようです。無駄足にはなりません』
「ついでといってはなんダガ、やはり本社の施設も破壊したいな」
『なぜです?』
「おそらく精神の開放を行う施設としては唯一のものだと思う。もしかしたら他にもここのようなドームがあるかもしれないが、貴重なものには代わり無いはずだ。できればここの研究データをドームごと吹き飛ばしたいんダガ。データがなくなればプロジェクトの続行も難しくなるはずだからな」
『本社に行ってみなければ可能かどうかはわかりませんが試してみる価値はありますね。それに、私も派手なことは好きからね』
「グメェェーーー」
オレを忘れるなと言いたそうにグメーシスが勇ましく鳴いた。それを合図にエンジンをかけ、発進させる。
『ゲンダー』
「なんダ?」
『もし私が再び暴走したその時は、殴り倒してでも止めてください』
「……まかせろ」
すでに一度殴り倒したとは言えない。
だれもいない高速道路を一台のホバークラフトが風を切り裂き駆け抜けて行った。
Chapter8 END
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