第十四章「Room of Power」
(執筆:イグリス)
知識の間の扉の先は上の階層に続く階段だった。その一段一段はゲンダーとメイヴが一緒に乗れるほどの広さがある。
『段差……ですね』
「この程度の段差なら登れないことはない。少々苦労しそうだが」
ゲンダーが車輪のついた足を器用に持ち上げ上の段へと飛び移る。続いてメイヴがアームで自分の体を持ち上げ段差を登る。
『私にとってはこの苦労は少々とは言えませんね』
メイヴがぼやくとそれに答えるかのように床が動き始めた。どうやらエスカレータになっているようだ。
「おぉ、これなら楽ちんダ」
『親切設計ですね。ご都合主義、というべきでしょうか』
「なんのことダ?」
『……何でもありません』
そのままエスカレータに身を任せる。上へ進みながらちょうどぐるりと一周した地点でエスカレータが止まった。そこにあった扉を開け先に進むと、さっきの知識の間と同じような広さの部屋に出た。ゲンダーたちの後ろには自分たちが入ってきた扉。その反対側に扉がもう一つ。そしてそれ以外には何もなかった。
『何もありませんね。あの扉の向こう側がやはり次の階層に繋がっているのでしょうか?とりあえず先に進みますか?』
「何も無いところがまた怪しいダ。オレならクレイモアで辺り一面地雷原にしてやるところダ」
『点滅音で精神を破壊するトラップですか。しかし見たところそのようなものはありませんね。赤外線にも反応なし。どうやら本当に何も無いようです』
どんな罠が待ち受けていようと足を止めるわけにはいかない。そこに何も無いのならばなおさらだ。ゲンダーたちに先に進む以外の選択肢はなかった。特に急ぐわけでもなく部屋の半ばまで達した頃、ゲンダーの足元でカチリと音がした。床に誰かが上を通ることで動作するスイッチが仕掛けられていたようだ。
「ん?なにか踏んだダ?」
『ゲンダー、前を!』
床に気を取られていた視線を前方に向けると扉の前に天井が落ちてきていた。シャッターと呼ぶには分厚すぎる。それはまさに壁であった。
(完全に閉じる前に向こう側へ抜けられるか!?)
(私が隙間に潜り込めば時間が稼げる!?)
ドスンと言う音と共に前方の道は閉ざされる。考える間はあっても実行する間は無かった。そして後方からも同じ音が聞こえてきた。後ろを振り返ると入ってきた扉も壁に阻まれてしまったようだ。
『……どうやら閉じこめられてしまったようですね』
「そのようダ。しかしあれを見るんダ」
ゲンダーが進行方向にあった壁を指す。そこには大きなバツ印、そしてその下に何事か文字が書かれている。
力の間。そこにはそのように書かれていた。
「どうやら今度こそ力押しのようダ」
『あの壁を破壊しろということですね』
「グメぇ~」
全員がその言葉の意味を理解するのに時間は必要なかった。
「ではオレから。汁千本!」
ゲンダーの体から無数の汁が放たれる。かつてはリミットを溶解させG-ブロウティスを破壊したその液体だったが、何らかの加工が施されているのか、目の前の壁を溶かすことは出来なかった。
「予想はしていたがやはりダメか」
『二人とも少し下がっていてください』
メイヴが取り出した筒状の重火器、ロケットランチャーを構えている。弾頭は最新型。コンポジットアーマー、リアクティブアーマー問わず貫くその貫徹力は世界最強。まさに最強の矛と呼べる一品だ。これを防ぐ盾を作ることができるのはへイヴだけであった。この瞬間までは。
マークを狙って発射。そのとおりに命中、爆発。衝撃波がゲンダーたちを襲う。爆発による煙が晴れたそこには傷一つ無い壁が再び現れた。
『なんということでしょう。私の最大の一撃が……」
「グメメェ~~!!」
次はグメーシスが跳びかかる。その体に触れればあらゆる物質が粉となって崩れ落ちる。それが今まで見てきたことで分かっていたことだった。グメーシスと壁との距離が縮まり、接触。次の瞬間、グメーシスは壁の向こうに吸い込まれていった。
「グメ?」
かと思いきや、すぐに壁から顔を出してきた。首を傾げているのか、顔が少し傾いている。訳がわからないよとでも言いたげだった。
「グメーシスでもだめなのか。何か別の方法があるのか?」
ゲンダーが考え事をしているとどこからか、何かを引きずるような音が聞こえてきた。
『ゲンダー大変です。左右を見てください』
「左右?無理ダ、オレのカメラは一つづつ独立して操作することが出来ない」
『左右を同時に見なくてもいいんです。壁が迫ってきています』
「な、なんだって!?」
左右をみると、ゴゴゴゴッという音と共に両面の壁が迫ってきていた。あまりスピードは出ていないが確実に眼に見える速さで近づいてきている。このままでは直に押し潰されてしまう。
「ま、ままま、まだ、あわあわ、慌てるようなじ、時間じゃ、ない。そうだ、ありったけの爆薬で破壊することは出来ないか?」
『ゲンダー落ち着いてください。そんなことをすれば私たちも無事ではすまないでしょう。少し時間を稼ぎます。その間に考えましょう』
そう言うと、メイヴは二体のリミットを取り出した。今までのリミットとは色が違う。一方は赤、もう一方は緑色をしている。
『パロットくんとポロットくんです。迫り来る壁を止めるために設計されたリミットのバリエーションです』
「なんて限定的な設計構想なんダ……」
トコトコと前に出てくる二体のリミット、パロットくんとポロットくん。
「オニイサマガデキタミタイデトッテモウレシカッタデスワ!」
「アンタラヲココデコロサセヤシナイ!」
訳のわからない台詞に黙りこむゲンダー。二体は左右に分かれて壁の前に立ち、
「イクゾッポロット!」
「ウンッ!」
その手を壁に当て、
「「ブレイク!」」
『段差……ですね』
「この程度の段差なら登れないことはない。少々苦労しそうだが」
ゲンダーが車輪のついた足を器用に持ち上げ上の段へと飛び移る。続いてメイヴがアームで自分の体を持ち上げ段差を登る。
『私にとってはこの苦労は少々とは言えませんね』
メイヴがぼやくとそれに答えるかのように床が動き始めた。どうやらエスカレータになっているようだ。
「おぉ、これなら楽ちんダ」
『親切設計ですね。ご都合主義、というべきでしょうか』
「なんのことダ?」
『……何でもありません』
そのままエスカレータに身を任せる。上へ進みながらちょうどぐるりと一周した地点でエスカレータが止まった。そこにあった扉を開け先に進むと、さっきの知識の間と同じような広さの部屋に出た。ゲンダーたちの後ろには自分たちが入ってきた扉。その反対側に扉がもう一つ。そしてそれ以外には何もなかった。
『何もありませんね。あの扉の向こう側がやはり次の階層に繋がっているのでしょうか?とりあえず先に進みますか?』
「何も無いところがまた怪しいダ。オレならクレイモアで辺り一面地雷原にしてやるところダ」
『点滅音で精神を破壊するトラップですか。しかし見たところそのようなものはありませんね。赤外線にも反応なし。どうやら本当に何も無いようです』
どんな罠が待ち受けていようと足を止めるわけにはいかない。そこに何も無いのならばなおさらだ。ゲンダーたちに先に進む以外の選択肢はなかった。特に急ぐわけでもなく部屋の半ばまで達した頃、ゲンダーの足元でカチリと音がした。床に誰かが上を通ることで動作するスイッチが仕掛けられていたようだ。
「ん?なにか踏んだダ?」
『ゲンダー、前を!』
床に気を取られていた視線を前方に向けると扉の前に天井が落ちてきていた。シャッターと呼ぶには分厚すぎる。それはまさに壁であった。
(完全に閉じる前に向こう側へ抜けられるか!?)
(私が隙間に潜り込めば時間が稼げる!?)
ドスンと言う音と共に前方の道は閉ざされる。考える間はあっても実行する間は無かった。そして後方からも同じ音が聞こえてきた。後ろを振り返ると入ってきた扉も壁に阻まれてしまったようだ。
『……どうやら閉じこめられてしまったようですね』
「そのようダ。しかしあれを見るんダ」
ゲンダーが進行方向にあった壁を指す。そこには大きなバツ印、そしてその下に何事か文字が書かれている。
力の間。そこにはそのように書かれていた。
「どうやら今度こそ力押しのようダ」
『あの壁を破壊しろということですね』
「グメぇ~」
全員がその言葉の意味を理解するのに時間は必要なかった。
「ではオレから。汁千本!」
ゲンダーの体から無数の汁が放たれる。かつてはリミットを溶解させG-ブロウティスを破壊したその液体だったが、何らかの加工が施されているのか、目の前の壁を溶かすことは出来なかった。
「予想はしていたがやはりダメか」
『二人とも少し下がっていてください』
メイヴが取り出した筒状の重火器、ロケットランチャーを構えている。弾頭は最新型。コンポジットアーマー、リアクティブアーマー問わず貫くその貫徹力は世界最強。まさに最強の矛と呼べる一品だ。これを防ぐ盾を作ることができるのはへイヴだけであった。この瞬間までは。
マークを狙って発射。そのとおりに命中、爆発。衝撃波がゲンダーたちを襲う。爆発による煙が晴れたそこには傷一つ無い壁が再び現れた。
『なんということでしょう。私の最大の一撃が……」
「グメメェ~~!!」
次はグメーシスが跳びかかる。その体に触れればあらゆる物質が粉となって崩れ落ちる。それが今まで見てきたことで分かっていたことだった。グメーシスと壁との距離が縮まり、接触。次の瞬間、グメーシスは壁の向こうに吸い込まれていった。
「グメ?」
かと思いきや、すぐに壁から顔を出してきた。首を傾げているのか、顔が少し傾いている。訳がわからないよとでも言いたげだった。
「グメーシスでもだめなのか。何か別の方法があるのか?」
ゲンダーが考え事をしているとどこからか、何かを引きずるような音が聞こえてきた。
『ゲンダー大変です。左右を見てください』
「左右?無理ダ、オレのカメラは一つづつ独立して操作することが出来ない」
『左右を同時に見なくてもいいんです。壁が迫ってきています』
「な、なんだって!?」
左右をみると、ゴゴゴゴッという音と共に両面の壁が迫ってきていた。あまりスピードは出ていないが確実に眼に見える速さで近づいてきている。このままでは直に押し潰されてしまう。
「ま、ままま、まだ、あわあわ、慌てるようなじ、時間じゃ、ない。そうだ、ありったけの爆薬で破壊することは出来ないか?」
『ゲンダー落ち着いてください。そんなことをすれば私たちも無事ではすまないでしょう。少し時間を稼ぎます。その間に考えましょう』
そう言うと、メイヴは二体のリミットを取り出した。今までのリミットとは色が違う。一方は赤、もう一方は緑色をしている。
『パロットくんとポロットくんです。迫り来る壁を止めるために設計されたリミットのバリエーションです』
「なんて限定的な設計構想なんダ……」
トコトコと前に出てくる二体のリミット、パロットくんとポロットくん。
「オニイサマガデキタミタイデトッテモウレシカッタデスワ!」
「アンタラヲココデコロサセヤシナイ!」
訳のわからない台詞に黙りこむゲンダー。二体は左右に分かれて壁の前に立ち、
「イクゾッポロット!」
「ウンッ!」
その手を壁に当て、
「「ブレイク!」」
しかし何も起こらなかった。
「全然役に立たないじゃないか!」
パロットとポロットはリミットを元にして作られているためその足には車輪が付いている。当然、その場に踏ん張ることには適していない。依然、パロットとポロットを押しつつ迫ってきている。
『これはまずいですね。早急に何とかしなければ』
「ええぃ、落ち着いている場合か!なにか方法はないものか……」
この時、迫り来る危険によりゲンダーの集中力は最大にまで高まっていた。その集中力はゲンダーの処理能力を大幅に引き上げ、短い時間の中でより多くの思考を巡らせることを可能にしていた。
(メイヴの最大火力は通用しなかった。破壊力の質による攻撃も量による攻撃も駄目。グメーシスの粉塵化も効かない。だったらオレが何とかするしか無いんダ。どうする。どうするんダ、オレ!考えろ!オレのできる攻撃は汁千本だけ。これは量による攻撃ダ。ならば質を上げてやることは出来ないか?千本の汁を一本に束ねることが出来れば!オレにできるのか?ええぃ、迷ってる暇はない。やるしかないんダ。千本の威力を一本に!)
『どうするんです?』
覚悟を決めた表情で右手を壁に向ける。汁千本を放つ要領で体中の体表面の内圧を高めていく。しかしまだ発射しない。次に圧力を徐々に右手に集めていく。数百本の汁を高速で飛ばすほどの力が今、一点に集中していく。右手が内側からの圧力で破裂しそうになる。しかしまだダ。まだ発射しない。さらに力を手先に凝縮。限界まで、極減まで溜めて……
「み な ぎ っ て き た!今だ、汁一本!」
パロットとポロットはリミットを元にして作られているためその足には車輪が付いている。当然、その場に踏ん張ることには適していない。依然、パロットとポロットを押しつつ迫ってきている。
『これはまずいですね。早急に何とかしなければ』
「ええぃ、落ち着いている場合か!なにか方法はないものか……」
この時、迫り来る危険によりゲンダーの集中力は最大にまで高まっていた。その集中力はゲンダーの処理能力を大幅に引き上げ、短い時間の中でより多くの思考を巡らせることを可能にしていた。
(メイヴの最大火力は通用しなかった。破壊力の質による攻撃も量による攻撃も駄目。グメーシスの粉塵化も効かない。だったらオレが何とかするしか無いんダ。どうする。どうするんダ、オレ!考えろ!オレのできる攻撃は汁千本だけ。これは量による攻撃ダ。ならば質を上げてやることは出来ないか?千本の汁を一本に束ねることが出来れば!オレにできるのか?ええぃ、迷ってる暇はない。やるしかないんダ。千本の威力を一本に!)
『どうするんです?』
覚悟を決めた表情で右手を壁に向ける。汁千本を放つ要領で体中の体表面の内圧を高めていく。しかしまだ発射しない。次に圧力を徐々に右手に集めていく。数百本の汁を高速で飛ばすほどの力が今、一点に集中していく。右手が内側からの圧力で破裂しそうになる。しかしまだダ。まだ発射しない。さらに力を手先に凝縮。限界まで、極減まで溜めて……
「み な ぎ っ て き た!今だ、汁一本!」

ドンッという音と共に凄まじい勢いでゲンダーの汁が発射される。音が聞こえた瞬間にはすでに壁に衝突、貫通し、壁とさらにその向こうの扉に大穴を開けていた。
『なんという威力。さすがです、ゲンダー。ゲンダー?』
先程までいた場所にゲンダーの姿はなかった。ゲンダーは汁一本を放ったの反動で後方の壁まで吹き飛ばされていた。
『ゲンダー!無事ですか!?』
「オレは大丈夫ダ!早く先にいけ!』
『しかし……』
「行くんダ!」
依然として壁は閉じようとしている。皆が押し潰されるまでさほど時間は残っていない。メイヴが文字を出力する前に強い口調で命令した。と同時にゲンダーも自分の開けた穴に向かって走り出す。壁が閉じるスピードが増してくる。メイヴは穴の向こうにたどり着いたようだ。しかしゲンダーが間に合わない。
(潰される!)
ゲンダーが諦めかけたその瞬間、
『なんという威力。さすがです、ゲンダー。ゲンダー?』
先程までいた場所にゲンダーの姿はなかった。ゲンダーは汁一本を放ったの反動で後方の壁まで吹き飛ばされていた。
『ゲンダー!無事ですか!?』
「オレは大丈夫ダ!早く先にいけ!』
『しかし……』
「行くんダ!」
依然として壁は閉じようとしている。皆が押し潰されるまでさほど時間は残っていない。メイヴが文字を出力する前に強い口調で命令した。と同時にゲンダーも自分の開けた穴に向かって走り出す。壁が閉じるスピードが増してくる。メイヴは穴の向こうにたどり着いたようだ。しかしゲンダーが間に合わない。
(潰される!)
ゲンダーが諦めかけたその瞬間、
「オニイサマガデキタミタイデトッテモウレシカッタデスワ!」
「アンタラヲココデコロサセヤシナイ!」
「イクゾッポロット!」
「ウンッ!」
「アンタラヲココデコロサセヤシナイ!」
「イクゾッポロット!」
「ウンッ!」
「「ブレイク!!」」
壁が止まった。ゲンダーの後方ではパロットとポロットが互いに背中を預け、壁の進行を食い止めている。
『ゲンダー捕まってください!』
前を見るとメイヴがアームを伸ばしてくれている。ゲンダーが手をつかんだのを確認し全力でアームを引き戻す。程なくしてゲンダーをこちら側に引っ張り出すことができた。その直後、グシャッという嫌な音と共に壁が完全に閉じられた。
「パロット、ポロット……。すまない、ありがとうダ」
『ゲンダー……』
「メイヴもありがとう。おかげで助かったダ」
「グメェ~」
「グメーシスも、心配かけてすまない」
『ゲンダー、右腕は大丈夫なのですか?』
ゲンダーの汁一本はその破壊力で強固な壁、扉だけでなくゲンダーの右腕をもボロボロに破壊していた。
「大丈夫ダ。オレにも自己修復機能は搭載されているからな。直に回復するだろう」
そうして、小さな犠牲を出しながらも力の間を乗り越えたゲンダーたちは扉をくぐって先に進んでいった。
『ゲンダー捕まってください!』
前を見るとメイヴがアームを伸ばしてくれている。ゲンダーが手をつかんだのを確認し全力でアームを引き戻す。程なくしてゲンダーをこちら側に引っ張り出すことができた。その直後、グシャッという嫌な音と共に壁が完全に閉じられた。
「パロット、ポロット……。すまない、ありがとうダ」
『ゲンダー……』
「メイヴもありがとう。おかげで助かったダ」
「グメェ~」
「グメーシスも、心配かけてすまない」
『ゲンダー、右腕は大丈夫なのですか?』
ゲンダーの汁一本はその破壊力で強固な壁、扉だけでなくゲンダーの右腕をもボロボロに破壊していた。
「大丈夫ダ。オレにも自己修復機能は搭載されているからな。直に回復するだろう」
そうして、小さな犠牲を出しながらも力の間を乗り越えたゲンダーたちは扉をくぐって先に進んでいった。
Chapter14 END
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