第捌話「消滅」
いつの間にか眠ってしまっていたらしかった。
獣頭が語ってくれた彼女自身の過去によって、おれは獣頭の正体が生前飼っていた犬のグラティアだったと思い出すことができた。
しかし依然として自分自身のことは全く思い出せないままでいた。結局おれは誰で、おれは一体どんな罪を背負ってここに来たのだろうか。以前の閻魔邸での出来事が脳裏に蘇る。やはり、おれの罪は誰かを殺してしまったことなのだろうか。それとも、ティアを死なせてしまったから……?
そんなことをぼんやりと考えていると、けたたましい声がまどろみの中からおれを呼び戻した。
飛び起きて外の様子を見てみると、あちこちから火の手が上がっていた。
「な、なにがあったの!?」
ティアも驚いた様子で、きょろきょろと辺りを見回している。
何事かと慌てていると、頃合いを見計らったかのように竜頭が現れた。彼が言うには、冥府からハデスが攻めてきたのだという。そういえば、と地獄の奥の屋敷でこっそり聞いた話を思い出した。たしか閻魔が領地の拡大を狙っているとかで、誰かがそれを止めてほしいと頼み込んでいた。
「閻魔様は我々の主だ。あとは言わずともわかるな。おまえたち、ハデスの兵をできるだけ足止めするのだ! 時間を稼いでくれるだけでいい。その間に俺がなんとかする。決して、閻魔邸には誰も入れるな!」
竜頭は勇ましく言った。
「でも竜頭さん、ボクたちだけじゃ数の点で圧倒的に不利だよ……」
ティアの言う通りだった。おれが把握しているだけでも、今ここにいる三人以外の死神は魚頭ぐらいのものだ。鳥頭は昇天してしまったし、魚頭はどこにいるのかはっきりしない。それ以前にどんなやつかもよくわからない。竜頭は竜頭でやることがあるらしいので、実のところはおれとティアの二人でなんとかしなければならない。いくらなんでも、それは無茶な話だった。
不安そうな顔を見かねてか、竜頭が言った。
「案ずるな。ただ時間を稼いでくれればそれでいい。閻魔様に仕える鬼たちも手伝ってくれている。おまえたちは、ここを通る兵を足止めしてくれればそれでいい」
「でも……」
ティアはまだ不安そうだった。
「とにかく頼んだぞ。いいか、閻魔邸にだけは絶対に誰も入れるなよ!!」
竜頭はそう言い残して、すぐに閻魔邸へ飛んで行ってしまった。
おれは例の屋敷で聞いてしまった話のことを考えていた。今回、先に手を出してきたのはハデスの側だが、その原因は閻魔が冥府の土地を狙っているからだ。それなら非はこちらにある。たとえ自分たちが閻魔の家来であるとしても、自己防衛とはいえ手を出してしまっていいものなのだろうか。何よりも、自分とは関係のないところで起こった問題にこうして巻き込まれてしまうのがとても嫌だった。
しかしハデスの兵たちは悩んでいる時間は与えてくれなかった。すぐにハデスの兵たちが姿を現すと、一斉に閻魔邸へ向かって突撃する。
心にわだかまりを抱えながらも二人で兵たちを止めていく。
ハデスの兵とは、冥府に送られた死者たちだった。彼らは悪くないが、仕方なしに鎌で峰打ちして死者たちを追い払う。黄泉比良坂(よもつひらさか)での経験が皮肉な形で役に立つことになってしまった。死者たちを追い払うたびに心が痛む。
「あれー、あんたたち。何か面白そうなことやってるじゃないのさ」
頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。見上げると、そこには地獄で会った自称吸血鬼が浮かんでいた。
「よりによってこんな忙しいときに……。悪いけど、今はあんたの相手をしてる暇はないんだ!」
「そりゃ見ればわかるけどね。どうだい、ひとつあたいを雇ってみないかい? こんど血液をお腹いっぱい奢ってくれるってことで」
この世界に血液が売っているのか、そもそも奢るようななのかと疑問に思ったが、今はとにかく人手が欲しい。
「わかった。頼めるか?」
「任せなって。こんどこそ、吸血鬼の実力を見せてやるよ! さぁ、おまえたち、やっておしまい!!」
「キーッ」
「キィーッ」
どこかの戦闘員みたいに奇声を発すると、自称吸血鬼の呼んだコウモリの群れが冥府の死者たちに飛びかかっていく。
「これならなんとかなりそうだね」
「猫の手も借りたい。いや、コウモリの手も借りたい、か」
「あたいは吸血鬼だってば!」
この調子なら、なんとか足止めできる……。そう思っていたそのときだった。地獄の方角から大男がぬうっと姿を現した。見覚えのある男だ。それはまさしく、例の屋敷で見かけたハデス本人だった。
「まさかの大将が来ちゃったよ!」
「と、とにかくできるだけのことはやってみるんだ」
おれたちは三人がかりでハデスの前に立ち塞がるが、
「なんだ、おまえたちは。おまえたちに用はない、邪魔をするな」
ハデスに片手であっさりと払い除けられてしまった。
「だめだ、ボクたちじゃどうしようもないよ……」
ティアが気弱に言った。
「これはまずい。竜頭に相談しかないな」
そう提案すると、自称吸血鬼はそれまではなんとかしてみせる、とコウモリの群れと共にハデスに顔目掛けて飛びかかって行った。ハデスがそれに気を取られているうちに、ティアを連れて閻魔邸へと急ぐ。
獣頭が語ってくれた彼女自身の過去によって、おれは獣頭の正体が生前飼っていた犬のグラティアだったと思い出すことができた。
しかし依然として自分自身のことは全く思い出せないままでいた。結局おれは誰で、おれは一体どんな罪を背負ってここに来たのだろうか。以前の閻魔邸での出来事が脳裏に蘇る。やはり、おれの罪は誰かを殺してしまったことなのだろうか。それとも、ティアを死なせてしまったから……?
そんなことをぼんやりと考えていると、けたたましい声がまどろみの中からおれを呼び戻した。
飛び起きて外の様子を見てみると、あちこちから火の手が上がっていた。
「な、なにがあったの!?」
ティアも驚いた様子で、きょろきょろと辺りを見回している。
何事かと慌てていると、頃合いを見計らったかのように竜頭が現れた。彼が言うには、冥府からハデスが攻めてきたのだという。そういえば、と地獄の奥の屋敷でこっそり聞いた話を思い出した。たしか閻魔が領地の拡大を狙っているとかで、誰かがそれを止めてほしいと頼み込んでいた。
「閻魔様は我々の主だ。あとは言わずともわかるな。おまえたち、ハデスの兵をできるだけ足止めするのだ! 時間を稼いでくれるだけでいい。その間に俺がなんとかする。決して、閻魔邸には誰も入れるな!」
竜頭は勇ましく言った。
「でも竜頭さん、ボクたちだけじゃ数の点で圧倒的に不利だよ……」
ティアの言う通りだった。おれが把握しているだけでも、今ここにいる三人以外の死神は魚頭ぐらいのものだ。鳥頭は昇天してしまったし、魚頭はどこにいるのかはっきりしない。それ以前にどんなやつかもよくわからない。竜頭は竜頭でやることがあるらしいので、実のところはおれとティアの二人でなんとかしなければならない。いくらなんでも、それは無茶な話だった。
不安そうな顔を見かねてか、竜頭が言った。
「案ずるな。ただ時間を稼いでくれればそれでいい。閻魔様に仕える鬼たちも手伝ってくれている。おまえたちは、ここを通る兵を足止めしてくれればそれでいい」
「でも……」
ティアはまだ不安そうだった。
「とにかく頼んだぞ。いいか、閻魔邸にだけは絶対に誰も入れるなよ!!」
竜頭はそう言い残して、すぐに閻魔邸へ飛んで行ってしまった。
おれは例の屋敷で聞いてしまった話のことを考えていた。今回、先に手を出してきたのはハデスの側だが、その原因は閻魔が冥府の土地を狙っているからだ。それなら非はこちらにある。たとえ自分たちが閻魔の家来であるとしても、自己防衛とはいえ手を出してしまっていいものなのだろうか。何よりも、自分とは関係のないところで起こった問題にこうして巻き込まれてしまうのがとても嫌だった。
しかしハデスの兵たちは悩んでいる時間は与えてくれなかった。すぐにハデスの兵たちが姿を現すと、一斉に閻魔邸へ向かって突撃する。
心にわだかまりを抱えながらも二人で兵たちを止めていく。
ハデスの兵とは、冥府に送られた死者たちだった。彼らは悪くないが、仕方なしに鎌で峰打ちして死者たちを追い払う。黄泉比良坂(よもつひらさか)での経験が皮肉な形で役に立つことになってしまった。死者たちを追い払うたびに心が痛む。
「あれー、あんたたち。何か面白そうなことやってるじゃないのさ」
頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。見上げると、そこには地獄で会った自称吸血鬼が浮かんでいた。
「よりによってこんな忙しいときに……。悪いけど、今はあんたの相手をしてる暇はないんだ!」
「そりゃ見ればわかるけどね。どうだい、ひとつあたいを雇ってみないかい? こんど血液をお腹いっぱい奢ってくれるってことで」
この世界に血液が売っているのか、そもそも奢るようななのかと疑問に思ったが、今はとにかく人手が欲しい。
「わかった。頼めるか?」
「任せなって。こんどこそ、吸血鬼の実力を見せてやるよ! さぁ、おまえたち、やっておしまい!!」
「キーッ」
「キィーッ」
どこかの戦闘員みたいに奇声を発すると、自称吸血鬼の呼んだコウモリの群れが冥府の死者たちに飛びかかっていく。
「これならなんとかなりそうだね」
「猫の手も借りたい。いや、コウモリの手も借りたい、か」
「あたいは吸血鬼だってば!」
この調子なら、なんとか足止めできる……。そう思っていたそのときだった。地獄の方角から大男がぬうっと姿を現した。見覚えのある男だ。それはまさしく、例の屋敷で見かけたハデス本人だった。
「まさかの大将が来ちゃったよ!」
「と、とにかくできるだけのことはやってみるんだ」
おれたちは三人がかりでハデスの前に立ち塞がるが、
「なんだ、おまえたちは。おまえたちに用はない、邪魔をするな」
ハデスに片手であっさりと払い除けられてしまった。
「だめだ、ボクたちじゃどうしようもないよ……」
ティアが気弱に言った。
「これはまずい。竜頭に相談しかないな」
そう提案すると、自称吸血鬼はそれまではなんとかしてみせる、とコウモリの群れと共にハデスに顔目掛けて飛びかかって行った。ハデスがそれに気を取られているうちに、ティアを連れて閻魔邸へと急ぐ。
慌てて閻魔邸に転がり込む。閻魔邸に行くといっていたから、きっと竜頭は閻魔を守っているに違いない。
壁を抜けて最短距離で閻魔の部屋に飛び込むと、竜頭がいるかどうかも確かめる前に叫んだ。
「竜頭さん! 大変だ、ハデス本人が乗り込んできて……!」
「新入りィィィ……!? 貴様、あれほど誰もここへ入れるなと言っておいたものを。それは、おまえとて例外ではないぞ……」
竜頭は突然飛び込んできたおれやティアに驚いていた。しかし、おれたちはもっと驚いていた。
「り、竜頭さん……。な、何を?」
竜頭は閻魔に向かって大鎌を突き付けていた。閻魔は壁に追い詰められている。
「フン。見られてしまったしまったからには仕方がない。おまえたちにも閻魔同様、消えてもらうぞ……!」
竜頭はにやりと不気味に笑った。
「ど、どういうことなんだ!?」
問いかけると、竜頭は嘲るようにケタケタと笑いながら言った。
「良いだろう。冥土の土産に教えてやる。まずおまえたちは以前、ハデスの屋敷に忍び込んだな? 俺は知っているぞ。あのときあそこにいたのは俺だからな。もっとも、おまえたちは俺の存在には気がつかなかったようだが。そこでおまえたちが聞いた、閻魔が他の領土を侵略しているという話。あれは嘘だ。あれはただの陽動……閻魔の注意をそらすためのものに過ぎん。閻魔が気を取られている隙に俺はこいつを討つつもりだった。おまえたちが飛び込んでこなければ、今頃はうまくいっていたはずなのだがな」
「どうしてそんなことを……」
「知れたこと。罪を背負った者を死神として縛り付けている張本人はこの閻魔だ! こいつさえいなくなれば、俺たちは解放される。もう汚らわしい死者の相手などする必要もないのだぞ!」
竜頭は高々と咆哮した。
「汚らわしいだなんて、そんな……。ボクは知ってるよ。死者だからって、天国へ行けなかったからって、みんながみんなそうとは限らないよ。黄泉のおばあさんはボクに大切なことを教えてくれた。ご主人も、魚頭さんもみんなボクに優しくしてくれる。竜頭さんもそうだと思ってたのに、どうして…」
竜頭はティアのことばを一蹴して言った。
「死者は死者だ。死とは汚らわしく、忌み嫌われるものなのだ。俺は生前、永い時を生きてきた。そして多くの生き物を見てきた。俺はかつて竜神としてニンゲンどもに崇められていた。だが、いざ俺の命が尽きてみるとどうだ。やつらは手を返したように俺を忌み嫌った。俺の亡骸は山の奥深くに投げ込まれ、さらには大岩で封じられてしまった。それだけ、死というものは恐れられているものなのだ。俺はすぐにでもこんなところは出ていってやる。のうのうと死者ども相手などしている暇はないわ!」
竜頭は二度目の咆哮をあげた。
「だめだ、こいつには話が通じないようだ」
「お互いにな。さて、俺からの餞別はここまでだ。冥土の土産には十分すぎるだろう。残念だが、そろそろおまえたちには消えてもらわなければならない。死神に冥土なんてないがな! 無に帰するがいい!」
竜頭は大鎌を投げた。飛び退いてこれをかわすと、大鎌は空中に留まり激しく回転をし始めた。
大鎌の斬撃が風の刃となって、周囲の壁や天井、床を容易くえぐっていく。
もうもうと立ち昇る粉塵が視界を奪う。気がついた時には、もう目の前に大鎌を振りかざした竜頭の姿があった。
だめだ、敵う相手じゃない……! 敗北を覚悟したそのとき。
壁を抜けて最短距離で閻魔の部屋に飛び込むと、竜頭がいるかどうかも確かめる前に叫んだ。
「竜頭さん! 大変だ、ハデス本人が乗り込んできて……!」
「新入りィィィ……!? 貴様、あれほど誰もここへ入れるなと言っておいたものを。それは、おまえとて例外ではないぞ……」
竜頭は突然飛び込んできたおれやティアに驚いていた。しかし、おれたちはもっと驚いていた。
「り、竜頭さん……。な、何を?」
竜頭は閻魔に向かって大鎌を突き付けていた。閻魔は壁に追い詰められている。
「フン。見られてしまったしまったからには仕方がない。おまえたちにも閻魔同様、消えてもらうぞ……!」
竜頭はにやりと不気味に笑った。
「ど、どういうことなんだ!?」
問いかけると、竜頭は嘲るようにケタケタと笑いながら言った。
「良いだろう。冥土の土産に教えてやる。まずおまえたちは以前、ハデスの屋敷に忍び込んだな? 俺は知っているぞ。あのときあそこにいたのは俺だからな。もっとも、おまえたちは俺の存在には気がつかなかったようだが。そこでおまえたちが聞いた、閻魔が他の領土を侵略しているという話。あれは嘘だ。あれはただの陽動……閻魔の注意をそらすためのものに過ぎん。閻魔が気を取られている隙に俺はこいつを討つつもりだった。おまえたちが飛び込んでこなければ、今頃はうまくいっていたはずなのだがな」
「どうしてそんなことを……」
「知れたこと。罪を背負った者を死神として縛り付けている張本人はこの閻魔だ! こいつさえいなくなれば、俺たちは解放される。もう汚らわしい死者の相手などする必要もないのだぞ!」
竜頭は高々と咆哮した。
「汚らわしいだなんて、そんな……。ボクは知ってるよ。死者だからって、天国へ行けなかったからって、みんながみんなそうとは限らないよ。黄泉のおばあさんはボクに大切なことを教えてくれた。ご主人も、魚頭さんもみんなボクに優しくしてくれる。竜頭さんもそうだと思ってたのに、どうして…」
竜頭はティアのことばを一蹴して言った。
「死者は死者だ。死とは汚らわしく、忌み嫌われるものなのだ。俺は生前、永い時を生きてきた。そして多くの生き物を見てきた。俺はかつて竜神としてニンゲンどもに崇められていた。だが、いざ俺の命が尽きてみるとどうだ。やつらは手を返したように俺を忌み嫌った。俺の亡骸は山の奥深くに投げ込まれ、さらには大岩で封じられてしまった。それだけ、死というものは恐れられているものなのだ。俺はすぐにでもこんなところは出ていってやる。のうのうと死者ども相手などしている暇はないわ!」
竜頭は二度目の咆哮をあげた。
「だめだ、こいつには話が通じないようだ」
「お互いにな。さて、俺からの餞別はここまでだ。冥土の土産には十分すぎるだろう。残念だが、そろそろおまえたちには消えてもらわなければならない。死神に冥土なんてないがな! 無に帰するがいい!」
竜頭は大鎌を投げた。飛び退いてこれをかわすと、大鎌は空中に留まり激しく回転をし始めた。
大鎌の斬撃が風の刃となって、周囲の壁や天井、床を容易くえぐっていく。
もうもうと立ち昇る粉塵が視界を奪う。気がついた時には、もう目の前に大鎌を振りかざした竜頭の姿があった。
だめだ、敵う相手じゃない……! 敗北を覚悟したそのとき。
「ご主人、危ないッ!!」
おれは横に突き飛ばされていた。
目に映ったのは、おれを庇って竜頭の大鎌に斬られるティアの姿だった。
「ティア……!?」
「ご主…人…。これでボクはこんどこそ、あなたを守れたのかな……。ボクはあなたの…役に…立てました…か……」
ティアの被っている頭蓋骨にヒビが走っていく。そして頭蓋骨が真っ二つに割れてしまうと、その瞬間にティアの姿は跡形もなく消滅してしまった。からん、と乾いた音を立てて二つに割れた頭蓋骨が床に落ちる。
「そ、そんな……。せっかく思い出せたのに、やっと逢えたのに! あれほど、逢いたがっていたじゃないか。いつでも笑っていてほしいと言ってたじゃないか! 笑えない。こんなの笑えないだろ……」
床に落ちた割れた骨を震える手で拾い上げる。この骨の下にあったティアの姿はもうどこにも存在しない。
「手元が狂ったか。まぁいい、順番が前後しただけのこと。案ずるな、すぐにおまえも後を追わせてやる」
「竜頭、よくも……」
おれは鎌を持ち直すとそれを竜頭に突きつけた。
「来い。おまえのような新入り如きに劣る俺ではない」
鎌はそれを初めて手にしたとき以上に重く感じられた。
互いに鎌を振りかぶると、閻魔邸には鋼のぶつかり合う音が響いた。
目に映ったのは、おれを庇って竜頭の大鎌に斬られるティアの姿だった。
「ティア……!?」
「ご主…人…。これでボクはこんどこそ、あなたを守れたのかな……。ボクはあなたの…役に…立てました…か……」
ティアの被っている頭蓋骨にヒビが走っていく。そして頭蓋骨が真っ二つに割れてしまうと、その瞬間にティアの姿は跡形もなく消滅してしまった。からん、と乾いた音を立てて二つに割れた頭蓋骨が床に落ちる。
「そ、そんな……。せっかく思い出せたのに、やっと逢えたのに! あれほど、逢いたがっていたじゃないか。いつでも笑っていてほしいと言ってたじゃないか! 笑えない。こんなの笑えないだろ……」
床に落ちた割れた骨を震える手で拾い上げる。この骨の下にあったティアの姿はもうどこにも存在しない。
「手元が狂ったか。まぁいい、順番が前後しただけのこと。案ずるな、すぐにおまえも後を追わせてやる」
「竜頭、よくも……」
おれは鎌を持ち直すとそれを竜頭に突きつけた。
「来い。おまえのような新入り如きに劣る俺ではない」
鎌はそれを初めて手にしたとき以上に重く感じられた。
互いに鎌を振りかぶると、閻魔邸には鋼のぶつかり合う音が響いた。