――あなたは死後の世界を信じますか。
天国や地獄、黄泉の国。私は地獄も黄泉の国も、閻魔様のお屋敷までをもこの目で見てきました。
少なくとも、私は死後の世界なんて信じていませんでした。実際にここに来るまでは。
そして今、私は新たに天国の景色をこの目に焼き付けているのです。
少なくとも、私は死後の世界なんて信じていませんでした。実際にここに来るまでは。
そして今、私は新たに天国の景色をこの目に焼き付けているのです。
第拾話「天国」
天国――
それは見る者によって姿を変える死後の楽園。ある者はそこに美しい風景を見出し、またある者は失ってしまった大切なものと再会を果たす。それが現実か、夢幻かどうか。死後の世界においてそれは大した問題ではない。この世界の存在ですら、おぼろげで不確かなものなのだから……。
この天国には草原が広がっていた。花は一面に咲き乱れ、小川はゆるやかに流れ、鳥たちは祝福の詩をさえずり歌う。その草原をうれしそうに走り回る一匹の犬の姿があった。犬は草原の向こうに何かを見つけると、尻尾を振りながらそちらのほうへ勢いよく駆け出して行った。
「……いいのか?」
閻魔は頼みを聞き終えると、腕を組みながら低い声で答えた。
「おれのことはいいんだ。それよりもあいつがかわいそうでならない。それにおれにはまだチャンスがあるが、あいつにはもうないんだ。だから……どうかお願いします!」
小さな死神の強い想いを受けて、閻魔はついにその願いを聞き入れることを決めた。
「本当にいいのだな。ではこの閻魔の名においてその願い、しかと聞き入れよう!」
閻魔は少し大きな手帳のようなものを取り出すと、そこに何かを書き入れた。すると手帳はまばゆい光を発し、その光は一筋に伸びて漆黒の空を突き抜けて、高く高く天へと上っていった。
「これでおまえの願いは聞き遂げられた」
小さな死神が閻魔にお礼のことばの述べようとしていると、急に彼の身体が光に包まれて透け始めた。彼自身も、そこに居合わせた自称吸血鬼も突然のことに驚いた。
「あ、あんた……! 消えてるよ!」
「えっ、なんでおれ…。閻魔様!?」
しかし閻魔は驚くことなく静かに答えた。
「まずおまえの願いは確かに聞き届けたから安心してほしい。おまえの罪は命を軽んじたことだ。そしておまえは獣頭のためを思って今願ったな。その想いがおまえの罪の償いとなり、罪を相殺させたのだ。償いを終えたおまえはこれから天へ昇ることになる」
「……! 閻魔様、いいんですか!?」
「私は何もしていないさ。たまたま、おまえの願いがおまえ自身をも救っただけのこと」
「……ありがとう」
「はて、なんのことかな」
閻魔はあっちを向いてしまったが、その顔は微笑んでいたような気がした。
「そうだ。あんたもありがとうな。あんたが来てくれなかったら、どうなってたかわからない」
消えゆく死神は吸血鬼に声をかけた。
「な、なんだい。あんたまで消えちまうのかい? せっかく仲良く……あっ、いや。そ、そうだ、あたいに血を奢ってくれるって約束だったじゃないのさ! あれはどうなっちまうんだい」
「ああ……。悪いな、叶えられそうにないよ。閻魔様にそれもお願いしとけばよかったか」
「あ、あたいは……ッ! ううっ。さ、さみしいじゃないか…」
「消えるわけじゃない。天に行くだけだ。あんただって、地獄にふらふらとやって来れるぐらいなんだ。きっとまた会えるさ」
「ち、ちくしょう! 絶対に遊びに行ってやるからな! 来るなと言われても行ってやる。迷惑だと言われても何度も何度もしつこく行ってやるからな!」
「ああ、あいつといっしょに待ってるよ。いつでも来いよな」
「こ、このバカやろう」
吸血鬼は翼で顔を隠してしまった。
「それじゃ、いつかまた会おう。閻魔様もまたご縁があれば」
「来世の終わりにいやでも会えるとも」
小さな死神は光に包まれて、その姿はほとんど見えなくなった。
「ま、待っとくれよ! あんたが誰かわからなくちゃ、遊びに行ってやれないだろう。だから最後に……な、名前を教えておくれよ」
「おれか。そういえばちょっと思い出してきたぞ。おれの名前は……」
彼は名を名乗ると明るく「またな!」と言い残して、光の粒となって消えてしまった。閻魔と吸血鬼はそれを最後まで見送った。
「ふん、バカやろう……」
吸血鬼は少しうれしそうだった。
閻魔は頼みを聞き終えると、腕を組みながら低い声で答えた。
「おれのことはいいんだ。それよりもあいつがかわいそうでならない。それにおれにはまだチャンスがあるが、あいつにはもうないんだ。だから……どうかお願いします!」
小さな死神の強い想いを受けて、閻魔はついにその願いを聞き入れることを決めた。
「本当にいいのだな。ではこの閻魔の名においてその願い、しかと聞き入れよう!」
閻魔は少し大きな手帳のようなものを取り出すと、そこに何かを書き入れた。すると手帳はまばゆい光を発し、その光は一筋に伸びて漆黒の空を突き抜けて、高く高く天へと上っていった。
「これでおまえの願いは聞き遂げられた」
小さな死神が閻魔にお礼のことばの述べようとしていると、急に彼の身体が光に包まれて透け始めた。彼自身も、そこに居合わせた自称吸血鬼も突然のことに驚いた。
「あ、あんた……! 消えてるよ!」
「えっ、なんでおれ…。閻魔様!?」
しかし閻魔は驚くことなく静かに答えた。
「まずおまえの願いは確かに聞き届けたから安心してほしい。おまえの罪は命を軽んじたことだ。そしておまえは獣頭のためを思って今願ったな。その想いがおまえの罪の償いとなり、罪を相殺させたのだ。償いを終えたおまえはこれから天へ昇ることになる」
「……! 閻魔様、いいんですか!?」
「私は何もしていないさ。たまたま、おまえの願いがおまえ自身をも救っただけのこと」
「……ありがとう」
「はて、なんのことかな」
閻魔はあっちを向いてしまったが、その顔は微笑んでいたような気がした。
「そうだ。あんたもありがとうな。あんたが来てくれなかったら、どうなってたかわからない」
消えゆく死神は吸血鬼に声をかけた。
「な、なんだい。あんたまで消えちまうのかい? せっかく仲良く……あっ、いや。そ、そうだ、あたいに血を奢ってくれるって約束だったじゃないのさ! あれはどうなっちまうんだい」
「ああ……。悪いな、叶えられそうにないよ。閻魔様にそれもお願いしとけばよかったか」
「あ、あたいは……ッ! ううっ。さ、さみしいじゃないか…」
「消えるわけじゃない。天に行くだけだ。あんただって、地獄にふらふらとやって来れるぐらいなんだ。きっとまた会えるさ」
「ち、ちくしょう! 絶対に遊びに行ってやるからな! 来るなと言われても行ってやる。迷惑だと言われても何度も何度もしつこく行ってやるからな!」
「ああ、あいつといっしょに待ってるよ。いつでも来いよな」
「こ、このバカやろう」
吸血鬼は翼で顔を隠してしまった。
「それじゃ、いつかまた会おう。閻魔様もまたご縁があれば」
「来世の終わりにいやでも会えるとも」
小さな死神は光に包まれて、その姿はほとんど見えなくなった。
「ま、待っとくれよ! あんたが誰かわからなくちゃ、遊びに行ってやれないだろう。だから最後に……な、名前を教えておくれよ」
「おれか。そういえばちょっと思い出してきたぞ。おれの名前は……」
彼は名を名乗ると明るく「またな!」と言い残して、光の粒となって消えてしまった。閻魔と吸血鬼はそれを最後まで見送った。
「ふん、バカやろう……」
吸血鬼は少しうれしそうだった。
昔々、ではなく最近のお話です。天国というところに一匹の犬がいました。
彼女は大切なご主人をわるものから守るために果敢に立ち向かいましたが、不幸なことに彼女は死んでしまいました。気がつく彼女は天国にいました。不思議と悪くない場所でした。
犬は草原を走っていきます。すると、草原の向こうで誰かが手を振っていることに気が付きました。それは見覚えのある顔でした。それはとても懐かしく、そして優しい顔。彼女はとてもうれしくなりました。
「あぁ……ご主人!!」
犬は草原の向こうにいる彼の胸の中に飛び込んで行きました。
彼女は大切なご主人をわるものから守るために果敢に立ち向かいましたが、不幸なことに彼女は死んでしまいました。気がつく彼女は天国にいました。不思議と悪くない場所でした。
犬は草原を走っていきます。すると、草原の向こうで誰かが手を振っていることに気が付きました。それは見覚えのある顔でした。それはとても懐かしく、そして優しい顔。彼女はとてもうれしくなりました。
「あぁ……ご主人!!」
犬は草原の向こうにいる彼の胸の中に飛び込んで行きました。
ご主人の幸せはボクの幸せ。
だから、ボクはいつでもご主人に笑っていてほしい。
だから、ボクはいつでもご主人のそばにいたい。
だから、ボクはいつでもご主人に笑っていてほしい。
だから、ボクはいつでもご主人のそばにいたい。
ボクはこの運命に感謝します――