レポート05「ハジマリ」
とうとう出張先の研究所に到着した。
姿は見えないが、研究所ではいつも通りの隕石の研究が行われいるようだ。そこで聞き覚えのある声を耳にした。
(この声は……仲の良かった同僚だ)
死んでもなお研究を続けるなんてなんと熱心なことだろう。それとも自分が死んだことに気がついていないのだろうか、かわいそうに。あるいは”この異世界におけるあいつ”なのかもしれないが。ここには”この世界での自分”もいるのだろうか。
そんなこと考えてる私に構うこともなく同僚たちは研究を続けている。やはり私の姿もまた、向こうからは見えていないのだ。
私の席は…やはりなかった。最初の夢の通りだ。
(では、次は停電して地震でも起こるとでもいうのか?)
あるいは、あれは夢ではなかったのだろうか。だとすれば、ますます謎だ。あの停電や揺れはなんだったのか。本当に隕石が落ちたのだろうか。いや、それはおかしいのだ。ならばここは何のための施設なのか。何より私以外のすべての人が死んでしまうほどの隕石が落ちたのならこの建物も無事なわけがない。
(そうなると、やはり全員が幽霊になってしまったというよりも並行世界だと考えたほうがまだおかしくはないのか…)
姿は見えないが、研究所ではいつも通りの隕石の研究が行われいるようだ。そこで聞き覚えのある声を耳にした。
(この声は……仲の良かった同僚だ)
死んでもなお研究を続けるなんてなんと熱心なことだろう。それとも自分が死んだことに気がついていないのだろうか、かわいそうに。あるいは”この異世界におけるあいつ”なのかもしれないが。ここには”この世界での自分”もいるのだろうか。
そんなこと考えてる私に構うこともなく同僚たちは研究を続けている。やはり私の姿もまた、向こうからは見えていないのだ。
私の席は…やはりなかった。最初の夢の通りだ。
(では、次は停電して地震でも起こるとでもいうのか?)
あるいは、あれは夢ではなかったのだろうか。だとすれば、ますます謎だ。あの停電や揺れはなんだったのか。本当に隕石が落ちたのだろうか。いや、それはおかしいのだ。ならばここは何のための施設なのか。何より私以外のすべての人が死んでしまうほどの隕石が落ちたのならこの建物も無事なわけがない。
(そうなると、やはり全員が幽霊になってしまったというよりも並行世界だと考えたほうがまだおかしくはないのか…)
「しかし残念だったな…」
ふと、研究所にいる同僚のひとりが言った。
「この隕石のおかげで新しく色々なことが判明した。もしかしたら歴史に残る発見かもしれない。とくにこのプロジェクトに張り切ってたあいつにもこの成果を見せてやりたかったよな…」
「ああ、行方(ナメカタ)さんか…。あれは、かわいそうになぁ」
突然、自分のことが話題に出たので驚いた。
「わ、私のことか?」
すると二人は驚いたように口々に言った。
「おい、ナメカタの声が聞こえたような気がしたぞ!」
「おれもだよ!? しっかしあれは不幸な事故だったね…」
声だけは聞こえているのだろうか。話の先が気になるので黙って耳を傾ける。すると彼らは意外な事実を話し出したのだった。
つい最近、砂漠に落ちたという新しい隕石が手に入り、ナメカタはそれを研究するプロジェクトに参加していたのだ。送られてきた情報によると、今までのものとは全く異なる特性をもっているようだったので、その隕石を調査できる日を今か今かと楽しみにしていた。ついにその日がやってきて、喜び勇んで出張先の研究所へ出発した。
それを聞くなり、例の不可解な夢がフラッシュバックする。
ふと、研究所にいる同僚のひとりが言った。
「この隕石のおかげで新しく色々なことが判明した。もしかしたら歴史に残る発見かもしれない。とくにこのプロジェクトに張り切ってたあいつにもこの成果を見せてやりたかったよな…」
「ああ、行方(ナメカタ)さんか…。あれは、かわいそうになぁ」
突然、自分のことが話題に出たので驚いた。
「わ、私のことか?」
すると二人は驚いたように口々に言った。
「おい、ナメカタの声が聞こえたような気がしたぞ!」
「おれもだよ!? しっかしあれは不幸な事故だったね…」
声だけは聞こえているのだろうか。話の先が気になるので黙って耳を傾ける。すると彼らは意外な事実を話し出したのだった。
つい最近、砂漠に落ちたという新しい隕石が手に入り、ナメカタはそれを研究するプロジェクトに参加していたのだ。送られてきた情報によると、今までのものとは全く異なる特性をもっているようだったので、その隕石を調査できる日を今か今かと楽しみにしていた。ついにその日がやってきて、喜び勇んで出張先の研究所へ出発した。
それを聞くなり、例の不可解な夢がフラッシュバックする。
気がつくと私は車を運転していた。
どこかへ向かっているようだが、それはおそらく研究所。どこか嬉しいような楽しいような気持ちが胸の中にあった。退屈な研究ばかりだったところに、未知の隕石というロマン溢れるえさが投下されたのだ。それは私を喜ばせるには十分すぎた。私は喜々としてアクセルを踏み込んだのだった。
街の様子を見る。通行人の姿がちらほらと見える。私も今はただの一般人に過ぎないがこの研究の成果によっては有名になれるのではないか…そんなことを考えていたような気がする。
住宅街を通り抜けて、例の線路沿いの道路に差し掛かる。例によって目の前に白いもやが現れ始めた。
頭痛がひどくなる。痛みで意識が半覚醒する。私の意識の半分は白いもやの中、半分は研究所に立って同僚たちの話に耳を傾けているという不思議な状態になった。
同僚たちの話は続いた。そして、それを聞いているうちについに私は真実に至った。目の前の白いもやが晴れる。
例の線路沿いの道路だ。もやが晴れた向こうから姿を現したのは……人影だ!
「あ、危ない…!!」
慌ててブレーキを踏む。ハンドルを切る。こんどは頭の中に白いもやがかかっていた。そして次に気がついたときには、私は例の茂みに転がっている私自身を見下ろしていたのだった。ピクリとも動かない。同時に私を見下ろしている私を見上げてもいた。
(た、助けてくれ…)
思わず手を伸ばしかけるが、身体は痺れて全く動かない。不思議と痛みは感じなかった。そして、そのまま私は眠りについたのだった。これがあんな場所で目を覚ました真相だった。
一方でそれを見下ろしていた私は冷静だった。横たわる私が眠ったのを確認すると、ハッとしてさっきの人影のほうを見やる。すると、その人影はまったく同じ場所に立っていた。よく見ると、少し地面から浮かんでいるようにも見える。そう、動かない私を見下ろしている今の自分のように。
眺めていると人影はすうっと霧のように姿を消した。人影は最後ににやりと顔を歪めたような気がした。そして私も消えた。
どこかへ向かっているようだが、それはおそらく研究所。どこか嬉しいような楽しいような気持ちが胸の中にあった。退屈な研究ばかりだったところに、未知の隕石というロマン溢れるえさが投下されたのだ。それは私を喜ばせるには十分すぎた。私は喜々としてアクセルを踏み込んだのだった。
街の様子を見る。通行人の姿がちらほらと見える。私も今はただの一般人に過ぎないがこの研究の成果によっては有名になれるのではないか…そんなことを考えていたような気がする。
住宅街を通り抜けて、例の線路沿いの道路に差し掛かる。例によって目の前に白いもやが現れ始めた。
頭痛がひどくなる。痛みで意識が半覚醒する。私の意識の半分は白いもやの中、半分は研究所に立って同僚たちの話に耳を傾けているという不思議な状態になった。
同僚たちの話は続いた。そして、それを聞いているうちについに私は真実に至った。目の前の白いもやが晴れる。
例の線路沿いの道路だ。もやが晴れた向こうから姿を現したのは……人影だ!
「あ、危ない…!!」
慌ててブレーキを踏む。ハンドルを切る。こんどは頭の中に白いもやがかかっていた。そして次に気がついたときには、私は例の茂みに転がっている私自身を見下ろしていたのだった。ピクリとも動かない。同時に私を見下ろしている私を見上げてもいた。
(た、助けてくれ…)
思わず手を伸ばしかけるが、身体は痺れて全く動かない。不思議と痛みは感じなかった。そして、そのまま私は眠りについたのだった。これがあんな場所で目を覚ました真相だった。
一方でそれを見下ろしていた私は冷静だった。横たわる私が眠ったのを確認すると、ハッとしてさっきの人影のほうを見やる。すると、その人影はまったく同じ場所に立っていた。よく見ると、少し地面から浮かんでいるようにも見える。そう、動かない私を見下ろしている今の自分のように。
眺めていると人影はすうっと霧のように姿を消した。人影は最後ににやりと顔を歪めたような気がした。そして私も消えた。
なんと死んでいたのは私のほうだった。
世界は正常だった。なぜみんなの姿が見えないのかはわからないが、いなくなったのはみんなではなくて自分だったのだ。
職場に現れない私は行方不明という扱いになった。後日、私が目を覚ました例の茂みから死体が見つかったのだという。
先ほどの同僚の反応からすると、私の声は向こうにも聞こえている。私もまた向こうからすれば姿なき声だったのだ。どういうわけか物を掴むことはできた。つまり私の姿が見えない向こうからも物が浮かんでいるように見えていたのだろう。新聞にあったポルターガイスト現象を起こしていたのも私ということになる。
死んだことに気づいていなかったのは私のほうだった。私が幽霊だったのだ!
世界は正常だった。なぜみんなの姿が見えないのかはわからないが、いなくなったのはみんなではなくて自分だったのだ。
職場に現れない私は行方不明という扱いになった。後日、私が目を覚ました例の茂みから死体が見つかったのだという。
先ほどの同僚の反応からすると、私の声は向こうにも聞こえている。私もまた向こうからすれば姿なき声だったのだ。どういうわけか物を掴むことはできた。つまり私の姿が見えない向こうからも物が浮かんでいるように見えていたのだろう。新聞にあったポルターガイスト現象を起こしていたのも私ということになる。
死んだことに気づいていなかったのは私のほうだった。私が幽霊だったのだ!
死者の魂が何らかの理由で現世にとどまっていて、霊感の強い人にはその魂が見えてしまうことがあるという。例えば死んでしまった自分を見つけてほしい、楽しみにしていたことに未練がある、はたまた自分の死に気づいていないなどの理由で。
幽霊などというものは人々が勝手に妄想して生み出した架空の存在に過ぎないのだ。幽霊なんて実在しない……少なくとも私はそう考えていた。そう、考えて”いた”のだ……。
幽霊などというものは人々が勝手に妄想して生み出した架空の存在に過ぎないのだ。幽霊なんて実在しない……少なくとも私はそう考えていた。そう、考えて”いた”のだ……。
「そ、そんな…! 私は、私は…!!」
愕然とする私の背後から姿なき声が聞こえた…ような気がした。
「やあ…。やっと思い出してくれたみたいだね…」
「……!?」
ふり返ろうとしたときには既に遅かった。私が覚えているのはそこまでだ。
愕然とする私の背後から姿なき声が聞こえた…ような気がした。
「やあ…。やっと思い出してくれたみたいだね…」
「……!?」
ふり返ろうとしたときには既に遅かった。私が覚えているのはそこまでだ。
自分が死んでいることを自覚してしまったナメカタは消滅してしまった。
成仏してあの世へ行ったのか、それとも…
成仏してあの世へ行ったのか、それとも…
レポート05 怨了
……これで終わるとでも思ったかい!?
いいや、終わらないさ…。未練に囚われた魂がそう簡単に成仏できるものか…。引きこんでやろう、何度でも。認めてなるものか…。
認めない…。認めないぞ、私は! 事故だか何だか知らないが、そんな納得のいかないものがあってたまるか! そして、こんな不幸な世界にただ一人取り残されてたまるものか!
こうして私は決意したのだった…。私だけがこんな目に遭うなど赦さない…。必ず他の並行世界のすべての私を同じ目に遭わせてやろうと…。
一人だけ幸せな未来を手に入れようなど、赦してなるものか……。
いいや、終わらないさ…。未練に囚われた魂がそう簡単に成仏できるものか…。引きこんでやろう、何度でも。認めてなるものか…。
認めない…。認めないぞ、私は! 事故だか何だか知らないが、そんな納得のいかないものがあってたまるか! そして、こんな不幸な世界にただ一人取り残されてたまるものか!
こうして私は決意したのだった…。私だけがこんな目に遭うなど赦さない…。必ず他の並行世界のすべての私を同じ目に遭わせてやろうと…。
一人だけ幸せな未来を手に入れようなど、赦してなるものか……。
怨みの連鎖は続く…