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暗いホールの中で見た事。私には、率直に言って夢としか思えない。
富竹さんが『昔の姿のまま』で『生きて』いて、そして…………そして、目の前で実験動物のように殺された。
同じ様に射殺された看護婦さんは『不死になるが知性を失う薬物』の力で蘇った。
でも夢じゃない。何故なら今、私の首には『吸血鬼やゾンビでも殺せる』首輪が巻かれているから。
何処かの国の大統領だというあの人の言う事を信じるなら、そうなる。

「あの夏に起こった事も今までの事も、実は全て夢でした
 ……………………なんて、期待してもいいのかな」

いや、雛見沢大災害が妄想のはずない。この20年間の日々は、幻にしては空虚すぎるもの。

20数年前───────雛見沢大災害は、私が起こした学校人質篭城事件の翌日未明にやってきた。
鬼ヶ淵沼から吹き出した硫化水素と二酸化ガスに包まれて、雛見沢村は全滅。
『宇宙人が攻めてくる』…………なんて、馬鹿げた妄想から目を覚まさせてくれた圭一君や魅ぃちゃん。
沙都子ちゃんも梨花ちゃんも、みんなみんな死んでしまった。
仲間を信じて、相談して。本当の本当に、そこまでするのかってぐらい頑張っても…………。
それでも、どうしようもない災害はやってくるんだ。
『イ』やな事からは逃れられない。それが現実。

(一体どういう状況なの?なんで富竹さんが…………。
 仮に生き延びてたとしても、それだと若かった事に説明がつかない。)

そもそも災害が起こるより前に富竹さんは死んでいたはずだし、死体の写真も見た。
あれから20年経ってるから大体50代後半のはずだけど、それで容姿が全く変わらないなんておかしい。
それに富竹さんが言ってた事も気になる。



──────諦めなければ前へ進める事を教えてくれた彼等と、三四さんがきっと…………



彼等というのは誰だか解らないけど、三四さんの名前と一緒に出てきたって事はそこに関連してるはず…………。
もし圭一君達のことだとしたら、あの占拠事件を見てたんだろう。
そうでもなければ『諦めなければ前に進める事』なんて教えた覚えの無い事を言わないはずだし。
でもそうだとするとよほど
『実は死なずに事件現場に居合わせていた富竹さんを、そのままここへ連れてきた』
ということでもない限り説明が─────

「フ、フフ…………アッハッハッハッハ……っ!
 ハハ………………はぁ、バカじゃないの…………」

いや、こんな飛躍した発想、苦笑しか出てこない。
これまで学校占拠事件の発端になった妄想を散々否定してきたのに、今更そんなの冗談も良いところだよ。

「もう人を殺すとか殺さないとか、祟るだとか祟らないだとか、そんな異常事態。
 中学生の時点でもう、つまらないって二度と嫌だって。既にやめたことなのに…………」

ほんと、ため息が出る。
家庭を守るためとはいえ、弾みで2人も人を殺した。その時点で、私はどこかおかしくなってたんだろうと思う。
圭一君の言う通りだった。1人で何でもやろうとしなければ。友達と、村のみんなと団結してあの人達を追い払えたとしたなら。
もしかしたら雛見沢でみんなと楽しい最期を過ごせたかもしれないのに…………。


うん、ま、富竹さんの件はきっとそんな大袈裟なものじゃないんじゃないかな。
そうきっと、照明の関係で若く見えただけ。肝心なのはまず落ち着いて考える事。
今いる小屋は丁度中を確認しにくい造りになってるし、何より周りが森と資材で囲まれてるから物音は発ちやすい。
誰かが接近すれば直ぐに判る。夜の内は灯りが外に漏れないよう気を付けてさえいれば問題無いと。
これからの方針をゆっくり決めるにはうってつけの初期位置。
かなり当たりなんじゃないかな?

それにしても、今日はちょっと疲れた。大石さんと事件当時の事について話に行ったし。
帰りにスーパーで豚細とキャベツが半額になってないか見に行ったりしてて結構歩いたし。
とりあえずまず休む事が先決かな。
ベッドに横になる位じゃ危険にはならないはず。けっこう硬めのベッドだけど贅沢は言えないか。









─────────横たわってしばらくの間眼を閉じていれば、輝いていたあの頃の事を鮮明に思い出せる。
水鉄砲での闘い。傷の付いたカードでするジジヌキ。罰ゲームしなから歩く夕日が綺麗な帰り道。
トラップに引っかかる圭一君、それを見て笑う魅ぃちゃんと沙都子ちゃん。
雛見沢に引っ越してきて良かったって、2人で笑い合ったっけ…………。
みんな。幸せから転ぶまで今を精一杯、幸せに楽しめたかな?
いや、無理だよね。私のせいで、最期の夏は最悪だったよね─────────。







………………帰りたい、涙が出るほど。
あの頃の雛見沢分校に帰って、今度こそ『イ』やなことも何も無く過ごしたい。
もし、あの日々が帰ってくるのなら。殺し合いに参加するのも悪い選択肢じゃない、とも思う。
けどそんなのは神様でもない限り不可能。あの時の私でもない限り信じないし、有り得ないな。



─────────優勝者にはどのような望みも叶える権利が報酬として支払われる!不可能はないと明言しようッ!!



…………それにしてもアイツ、何を根拠に『不可能は無い』だなんて事を軽々しく口に出来たのか。
それは絶対に許されない。許されない嘘だ。
暗くてほとんど見えなかったけど、中学生位の子供の声もあの人集りの中には確かにあった。
そんな場所で言うには最悪の嘘だ。そうやってありもしないご褒美と死の恐怖で真実を覆って
子供達を道具にしようっていう魂胆が気に食わない。本当に気に食わない!!
病気の看護婦さんをゾンビに仕立て上げてまでそんな嘘をつくなんて…………っ!





ギリギリ音を立てる歯を引き離す。


軽く深呼吸。

吸って。

吐く。

駄目だ、こんなの。やっぱり少し疲れがあるみたい。冷静に、クールにならなきゃ。
何処だかは判断できないけど、あいつの言う通りなら国ぐるみの犯行。
警察の助けは期待できないし、騙されて殺し合いに加担した人もきっといる。
首輪の事とかどうやって他の国へ助けを呼びに行くかよりも、まずは自衛のための武器が無いとお話にならない。



─────────殺し合いに必要な道具だが、参加者の名簿、地図等々と共にデイバックに入れこちらで用意した。
 会場に移ったら好きに使ってくれて構わんッ!



そういえばあの人バッグの中に色々入れたって言ってたっけ?ちょっと見てみようかな。
多分ゲームバランスを考えて参加者1人々の実力に見合った武器か何かが入ってると思うけど…………。

「ん、どっこいしょっと」

出てきたのは明らかにバッグの中に入りきらない機関銃(?)だった。もう一度入れてみても問題なく入るみたい。
まるで四次元ポケットのように銃を吸い込んでいる。

「これって……………………?」

中がどうなってるのかは確かに気になった。
でも私は銃に何かが挟まっているのに気付いて、そんな事どうでも良くなった。
それは此処にいる人達の名前が記された、参加者名簿だった。

そして、そしてそこにはみんながいた。
しんだはずの。
しんだはずのみんなが。
みんなが。
あまりに突拍子が無さ過ぎて、ただ固まったまま。居なくなった彼らの名前をじっと見ていた。












ゴトッ……






「ぁ」


銃を取り落とした音で、だんだんと歪んだ視界が元に戻り始めた。
どういう、事かな?本当に、まさか…………嘘、だよね?
ぐるぐる期待と否定がない交ぜになってる。
三四さんがいた。あ、違う、三四さんの名前があった。三四さんも富竹さんと同時期に死んだはずの人間なのに。
いや、でも…………。
確かに富竹さんがいたなら、三四さんもいるかもしれない。
じゃあみんなは?
ただ混乱させて私や三四さんを殺し合いに参加させようとしてる?
何をすればいいの?
脱出して救助を呼ぶ?その前に協力出来そうな人を捜す?
会いに、行く?いないはずの人達に?







             どうしたらいいんだろう。







理解出来ない。筋が通らない。こんなあるはず無い事。
でも実際、死んだはずの人間は生きていた。
そもそも、どうやってここまで連れてこられたのかも検討がつかない。
家に帰ってお風呂に入って、冷蔵庫を開けたら劇場らしき場所で殺し合いの説明を受けてた。
なんて荒唐無稽にもほどがある。
というかよく考えたらなんで今スーツ姿なの?一瞬で早着替えさせられたとか…………だ、誰に?



とにかく!
このおかしな現状を受け入れるにしても、流石にあの事件の時みたいにすんなり信じるべきじゃない。
確かめる必要がある。
このバッグの中に信憑性のあるものでも入っていたら話は早いんだけど。

「これは?」

適当にバッグの中を漁ったら出てきたのは4つ折りの紙だった。
ただ『ネズミ花火』とだけ書いてある普通の何処にでもある紙。

「これだけ?もっと何かあると思ったけど」

そう思って投げ捨てたけど、でもそれで終わりじゃなかった。
捨てた方向から大量の何かがなだれ落ちる音で私はそれを見た、ただの紙から溢れるネズミ花火と紙マッチの洪水を。
『紙の間に挟まってました』じゃ、すまない量の花火と、拾い上げてもまだ平面から立体を吐き出す紙を見たら…………。
流石に信じざるを得ないかなぁ。かな。
今、あり得ないはずの何かに巻き込まれているって。
ふと、大石さんの言っていたことを思い出した。



──────私はねぇ、全てがあなたの妄想や、悪い夢だったとは思えないんですよ。



もしも、あの時見た事、知った事の一部が妄想じゃなかったとしたら?
そしたらこの理解不能な状況にも筋が通るかもしれない。
そうだ、思い出すんだ。あの時の記憶。全部が無くなったあの災害。
アレに比べればまだましだった、あの事件の事を……



─────────実はゾンビだったのかなぁ~……なーんて。



当時、冗談混じりに大石さんは言ってた。
例えば三四さんは2人いたんじゃなくて、何かの手段を使って生きていたんだとしたら…………。
偽装工作をして死んだ振りをした?何のために?
さっき見た『赤い水』のような薬品?いや、そんなのがあるんだったらそもそも死体が残らない。
これまでの疑問を全て解決する。何か、想像の中にしか無さそうなこと。何か…………。

「わからない、私には何も…………」

私はもうあの頃から離れ過ぎた。楽しい思い出はともかく、イやな事なんて思い出す事も少ない。
というより思い出したくもない。
最後圭一君が私を救ってくれようとした場面と、どう考えても不自然だった梨花ちゃんの言葉は強烈に印象に残ってるけど。



──────ならば精々頑張りなさいな、どうせもうすぐ滅ぶ世界だしね。



そういえば、梨花ちゃんもここに来ているらしい。
もし会えたならあの時何を知っていたのか、そして何をしていたのか聞いてみたい。
梨花ちゃんは伝染病とも宇宙人とも違う何かを見てた。
きっとそれは今の殺し合いにとっても、重要な事。
まぁもっとも、本当にいればだけど。



      ・・・・・
──────この雛見沢にもう興味はない。次の雛見沢を探しに行くことにするわ…………



ただ、あの言葉が今…………妙に引っかかる。
まるで何度も繰り返し雛見沢が出てくるみたいな口振りだった。
他にも似たような事を言っていた気がする。確かアレは



──────これは初めてではないのです。前の時、ボクにあと僅かの頑張りがあれば……!だから、今度こそ!



学校占拠事件の時。そう、そういえば、圭一君を逃がす時に言ってた。『前の時』と、『初めてではない』と確かに言ってた。
梨花ちゃんには『誰か』に学校を占拠されて、その『誰か』と大立ち回りを演じるなんて場面が前にもあった?
いや、違う。
辺鄙な田舎町でそんな事がそう何度も起こる訳ないし、梨花ちゃんはオヤシロ様の生まれ変わり。
雛見沢を離れる事もあり得ない。嘘を付いている風でもなかった。

「まさか、『昭和58年6月25日に雛見沢学校占拠事件で竜宮レナを相手に足止めする』事を何度もやってる?」

冷静に考えれば有り得ない。だけどそんなの今更過ぎる。多分ここが鍵なんだ。
考えろ、考えろ竜宮レナ。
漫画に出てくる特殊能力とか、エスパーでもいい。どうせ梨花ちゃんは特別な存在だったんだ。
オヤシロ様の力とか、どうとでも説明はつく。
そんな事を何度も経験できる方法。繰り返し『前(あ)の時』を……………………『時』?
『雛見沢の時』を繰り返してる?

「そう、どうりで何でもお見通しな訳…………」

オヤシロ様は『時を遡る力』を持っていた。
そしてその生まれ変わりである梨花ちゃんもその力を使える。そう考えれば辻褄が合う。
でもそんな大それた事、いくら梨花ちゃんでもノーリスクで使えるとは思えない。
そう考えると神社の前で死んだのにも説明がつく。きっと肉体を捨てる位しなきゃ使えないんだろう。
つまり梨花ちゃんが神社の前で腹を割かれていたのは、正確にはそう思われていたのは『自殺』。
もう一度、大災害で死んでしまったみんなと遊ぶために『戻った』。
それが真相ってところかな。かな。

「ずるいよ梨花ちゃん。1人だけ…………」

私だって、同じ状況なら迷わず同じ事をするけど。
もしそうなら、全く、宇宙人や伝染病なんか比べ物にならない秘密。
そして恐らくはこれを仕組んだ奴も同じ事が出来る。いや、もっと神に近い力を。
だから富竹さんも若いままだったし、死んだはずの人もいる。(それでも富竹さんの発言は謎だけど)
もしもこの推測が当たってさえいれば…………
生きてるんだ、みんな。少なくとも今この時は!

いてもたってもいられない、使えそうな物をバッグに入れたらさっさとここから出なきゃ。

といっても使えそうなのはさっきの花火とマッチ、薪とかの暖炉用具ぐらい。
結局すぐに小屋を出る事になりそうだけど。
それにしても、思った通りこのバッグおかしい。重さも変わらないし幾らでも薪が入る。

              ・・・・・
「やっぱり、あるんだ…………そういうの。
 じゃあ頑張ってみるかな。かな。…………また、ね」

自嘲するような呟きは、あの時の圭一君の言葉を借りるなら
『泣いている』って事なんだろうなぁ。
でもそうやって怒ってくれる圭一君はもういない。いないし、きっと此処では会えない。
今は生きているとしても『ただの中学生』が、殺し合いをやってる中で生き残れる可能性は限り無く低い。
反則的な超能力を持っている『らしい』梨花ちゃんや不死の化け物すら閉じ込められるこの会場。
脱出の芽も極めて小さいと思う。
それに、今私自身は未来にいるのかもしれない以上ここから出られても浦島太郎…………
いや、もっと酷い事になるかもしれない。
もしそうならなくても、皆がいないあの場所に戻る?
はは、冗談。
目の前に全部取り戻すボーナスチャレンジがぶら下がってるのに、それを取りに行かないなんて部活メンバーとして
ダメだよね。……よね?

もし本当に幸せを取り戻せるなら何だってしよう。もう一度初めからあの日々を取り戻す為に…………



「頑張ろう。もう一度、みんなと会うために」






【ラスヴィエット・山小屋/1日目/深夜】
 【竜宮玲奈ひぐらしのなく頃に
 [状態]:健康、+L3
 [装備]:AK-47@METAL GEAR SOLID3
 [道具]:ネズミ花火と紙マッチ(大量)@リトルバスターズ!
    ランダム支給品(0~1)、基本支給品一式
    刀の在りかを書いた紙(不明・不明、不明)
    薪・マッチ他暖炉用具@現地調達
 [思考・状況]基本行動方針:もう一度あの頃の雛見沢へ戻る能力があるのなら私も欲しい。
 1:まずは様子見。実際に『異能』があるのか、確認のため他参加者を観察したい。
 2:相手が中学生だろうと油断できない事はよく知ってる。誰が相手でも出来る限り慎重に動く。
 3:梨花ちゃんに会ったら推測が当たっているのか、本当は何があったのか聞く。


※参戦時期は罪滅ぼし編第1話「サイカイ」終了後の37歳時です。
※服装は同話中で着ていたものと同じです。
古手梨花が時を遡り、何度も過去を繰り返していることに気付きました。
※富竹二郎が祭囃編後の時間軸から来た事には気づけませんでした。
 また、開始時会場での発言にも疑問を持ったままです。





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最終更新:2015年01月14日 19:02