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ここは3-Bのスラム街。今は、不良達の下世話な話し声も人々の雑踏が大地を鳴らす事もない。
静かな裏通りに、換気扇の音が不気味に機械音を響かせるだけだ。
牛骨肩パット付き紫貴族服という場違いな衣装をまとった美青年が
額に手を添えいやにカッコいいポーズを決めていた。

「ふん、しょせん人間の考えることなどくだらんな」

異様な光景と言えるだろう。通りに備え付けられたゴミ箱の上に丸い鏡を立て掛けて
様々な角度から自分の姿を映し、独り言を言っているのだから。
彼はナルシストだ。それも美しさを求めるあまり魔王となった元人間。

「このワタシが本気をだしては、ただの人間など紙屑同然ではないか。仮に
 集団になろうと『人間』が『人間共』になるにすぎん。気をつけるべきは
 不死の化け物と水の品質管理のみ、殺し合いになどなるまい」

故にこの発言も含めて至って正常、いつもとまるで変わらない。
変わったことといえばツッコミ役がいない事ぐらいのもの。

「序盤でザコは勝手に片付くだろう、後の者は美しければ配下にひきいれ
 そうでなければ放っておこう。あとはミレニアの安否さえしれたなら
 こんな醜い首輪を付け、ミレニアとワタシを引き離した罪はつぐなわせてくれる
 ファニー・バレンタイン、そしてヒテイヒメとその配下の者達よ
 キサマら全員…………」

そしてサイコーにカッコいいポーズからのサイコーにカッコいい決め台詞。


「 セ カ イ セ ー フ ク し て く れ る わ !! 」


───────女神歴200年は地獄だった。邪悪の化身ノワールの魔の手に一国が堕ちたかと思えば
あんなヘンタイに全て討ち滅ぼされ、兵と家屋の損害甚大という大惨事となったのだから。
…………某国の兵長A

一目見て気に入った鏡をバッグの中に仕舞い込み、施設を出る。
『こんな汚い場所にいては健康に悪い』との判断からだ、彼の行動原理はいつだってそう
別に恩人であるユウシャを探そうだとか、知り合いがいないか不安がるとか
優勝を目座そうだとも、脱出のためにとも思わない。

彼は──────休日に道端の花を愛でるように『美しさを求めて』この場を練り歩くつもりである。

さっきの行動も『首輪を付けられたせいで美観を損なってないか』を見るためのものだ。
裏通りの終りに辿り着いたとき思い出した、後回しの確認事項も常人常魔なら忘れるわけもないものだった。

「ふむ、わが美しき召喚魔法も変わりなく使用できるようだな」

目前には豪壮な大怪石、今にも襲いかかりそうな山脈のごときゴーレムが立っている。
6~7秒間で最大の大きさとなる魔方陣を展開し
規模に応じたモンスターを呼び出す呪文。
それがマオウの武器、召喚魔法。
既にバトルロワイアルが始まってから30分過ぎであるが何故戦力確認を怠ったのか、それは言うまでもないく優先順位の問題だ。
どんどんとモンスターを呼び出していく、キラーパンサーにスライム、リザードマン、ゴースト
出たらすぐ死ぬ最弱の石ころボーヤまで全て出し切った所で、妙なことに気付く。
周囲は、マオウの知る範囲では城だったとしても考えられない規模の建造物が
恐ろしい程密集していた。
と、いうのは出している最中に確認して、すでに珍妙な造形だとは気付いている。
材質もレンガではなく鉄を用いているというような細かい所までしっかり見ている。
問題はモンスター達を押し退けて見えた光景が全くそれとは異なっていたことだ。

『進入禁止』の看板や黒と黄のフェンスに見覚えはなかったが、なにかを建造していることは明白だ。
一瞬『時の女神』が誰かの願いを聞き入れ、さっきまでの景色が出来上がる前まで
時を戻したのでは?
とも思った。しかし、それなら道路だった場所にまでフェンスが立てられ別の建築物の
工事が行われているのはおかしい。
恐らく世界を白黒の世界に変える呪文を持つという魔王のように、何らかの結界ないし
景色を一変させる魔力を持つものの仕業だろう。
同業で特筆して強い、ザインやラミデス程の力がなくとも繰り出せるちんけな魔術。どうということはない。
それに辺りが打って変わって騒がしすぎる。紅く滲んだ色彩の、三つ目のベルがけたたましく鳴り響いて
「摘んでしまおう」「女王様に捧げよう」という声がそこら中から聞こえてくる。

「やはりここにも魔物共はいるのか。ちょうどいい、すこし道案内をたのむとしよう」

いつの間にか、綿毛のように肥大化した頭にカイゼルひげを生やした化物が
黄ばんだすき歯を剥き出しにして、暗い眼窩で睨むなか、マオウは
あえて手下モンスター達を還した。
還さなければ近付けないからだ。近付く事に意味がある。

「1つ頼みがある、キサマらの主を探しているのだ。このワタシを案内するがいい」

もはや目前に迫った化物達には、不思議な事にさっきまでの敵意は見られず
むしろ驚き戸惑って隣と顔を見合わせている。
遠くにいるものは特に変わり無く、建設作業を続けているか
こちらに気づいて殺気を孕んだ目でこちらを睨んでいるかのどちらかだ。
これがマオウのもう1つの能力「魅了」。
自身の余剰魔力半径20m圏内に触れた魔物を服従させる能力。
効力は早期に現れるはずにもかかわらず、彼等は言うことを聞かない。
この状況にマオウもまた驚愕していた。彼等の話に聞き耳を立てた時、その疑問は氷解したが…………。

「…………そうか、キサマらそうとう大事に手入れされているのだな。
 安心しろ、出方次第では危害を加えるつもりはない」

その言葉を皮切りに彼等は飛び跳ねながら道を作り、跪いて礼をする。
「ごくろう」と一言労い花道歩く姿は、正に多くの者を導く『王』足る者の威厳を放っていた。

しばらく歩くと整地された区画に出た。そこはどちらかといえば見慣れた景色に近く
工事中の薄汚い空間よりも心なしか空気がキレイになったよう。
案内の最中気になった事があり、住居の中も見学しようと試みた。
結局使い魔達に阻まれて叶わなかったが、しかし察しはつく。
そんなこんなで遂に最深部まで辿り着いた。入り口は酷くゴミゴミとしていて
紙細工の集まりのよう、扉も木を組んでいるというよりは白い木片を長方形にして
女性と文字のようなものが描かれた赤い扉をはめ込んでいるの方が近い。

「…………ゲルドルード、か?」

瞬間、幾つものドアが開き中へ引き釣り込まれ、気が付けば
空中に開かれた通路の縁に立っていた。見下ろすとそこは薔薇園
規格外な巨大さの薔薇咲き誇る魔女の領域。中央には長椅子が置かれ、結界の主『魔女・ゲルトルート』は座っている。
魔王は魔女を認めると数瞬薄く口を開け、そして微笑みながら身を投げた。
着地は鮮やか片足立ちで、彼は胸に手を当て指差しながら高らかに宣言した。

「いいぞキサマ!スバラシイ!姿は醜悪だが、キサマの育てる薔薇には見所がある!
 四天王を揃えたワタシに足りないものはただ1つ、喜ぶがいい、今日からキサマは
 このマオウの右腕となるのだ!!フハハハハハ!!」

薔薇の魔女は魔王に近付きしげしげと眺め、静止した。まるで会話をするかのように
顔の形を流動させる。魔王は頷きそれに答えた。

「うむ、おまえの薔薇の香りは道中ずっと届いていたぞ。ミレニアであっても
 ここまでのモノは育てられんだろう。
 ぜひともわが城に紫の薔薇を埋め、美しい茨の砦を築いてほしいものだ」

本来物言わぬスライムと話していた事もあった魔王には、彼女と会話することができた。
二人は互いの信じる『美しさ』について語らい、楽しい一時を過ごす。
その最中の魔王はとても楽しそうで、まるで10年来の親友と会話しているよう。
だが彼等の会話はどこか不自然さを伴うもので、“ いつか ” 瓦解しそうな危うさがあった。
そしてその “ いつか ” は、天災のように突然に表れる。

「おお、そうだ。キサマの醜さをみごとに緩和できるスバラシイ品物を手に入れたのだ。
 あの不快な輩からの贈り物というのは少々気にさわるがな!」

バックの中からあるものを取り出した。それは神秘的な魔力をまとっていて
一目で神器か儀式用具だとわかるほどの圧倒的存在感。
魔王は事も無げにそれを取り出し魔女へ見せた。

「これだ、これを覗くと紫のオーラが滲み出て美しさを際立たせるのだ。
 キサマも見るがいい、『真実の美しさ』を知る事ができるぞ」

その品物、名を『ラーの鏡』といい、映したものの『真実の姿』を見せる鏡である。
魔女はこの世の者とは思えぬ悲鳴をあげて飛び退く。
そこには過去が映っていた、かつて彼女が人であった頃の…………
ただ虚像の肌色は死人のそれで、眼窩から絶望のあまり涙のように
球形の影を落としながら力無く笑う。
見えたモノはあまりにも残酷で、彼女が攻撃と見なすには十分すぎるほどの光景だった。

有刺鉄線のような腕を振るい、鏡を叩き落とすと元の長椅子へ。
マオウには何が起こったのか解らない。だが、堪えきれぬ憤怒の言葉を発しながら頭を歪める姿と
飛ばされてきた4本脚を目にしては、交渉決裂と、迎え撃たなければ死ぬという現実を
否応なしに受け入れなければならなかった。
マオウは小さく呟いた。

「何故だ……何故『そんなこと』をする?」

砂煙をあげて、椅子はマオウに直撃したかに見えた。しかしここは薔薇園
土ならともかく砂が舞うだろうか? いや、舞わない。
煙の先では椅子が砂の怪物に持ち上げられていた。足元はドーム状になっており
そこにマオウはいた。今だ晴れぬ砂のせいで表情はうかがい知れないが
しかし足元に光る魔方陣は如実にその意思を伝えていた。
先程まで最大だった魔力は今3段階ほど縮んでいる。
それは既に隊列を組み終わっているということと同義。
両サイドからのショットタイプによる連係攻撃が既にセットされている。
が、魔女を火刑に処すには至らなかった。蝶に似た羽を生やし宙へ逃げたのだ。

「ッチ、スピードタイプとは…………厄介な!」

この時同時にマオウは思考していた。倒すにしろ止めるにしろ
マオウにとって戦術を組み立てるには3種のタイプ:パワー・スピード・ショット
を知らなければならない。
スピードタイプを倒すにはパワータイプ。けれどそれはこの場において
ある理由から、マオウに覚悟を要求するモノだった。

「ここでは薔薇がちってしまう、すな男も動かせん。どうする?」

マオウの頭は疑念でいっぱいではあったが冷えてもいた。人間においてもそうだが
『驚いた時は心拍数とは裏腹に考えが駆け巡り続ける』ということがままある。
ちょうど『背後に幽霊を見つけた人が騒がずに仲間の脚を進ませる』のに似ている。過去激昂して、バイオレット城のバイオレットティーの元になる紫の花を踏みつけてしまった事を思い出す。
流石のマオウでも同じ轍は踏まない。そして目の前の女性にも踏ませはしない。
直ぐ様ポイズンリザードとカエルを呼び出し後を追わせる花を避けるよう細心の注意を払いながら移動させる。
このマオウはまま詰め将棋に追い込み、最も被害の少ない場所に誘導。
瀕死にしてから説得を試みる腹積もり。

魔女の方も何もせず逃げていたわけではない。何故か働かない使い魔達に業を煮やし
既に触手の届く位置まで接近している!茨を伸ばし、隙間からマオウを引き釣りだそうと試み
見事成功した。鈍重な『すな男』はゆっくりと上を向くだけで何もしては来ない。
あとはハサミで切り刻むのみ、チェックメイトだッ!!


「待っていたぞ、ワタシを掴み上げるこの瞬間を。高さも十分だ、十分準備は出来ている」


守りに『すな男』を使った理由は大きく3つ。
①ショットで椅子を破壊するよりも確実に避けられるから。
②薔薇を避けて召喚できる可能性があった唯一のパワータイプだから。
そして③ハサミを通さず針金のみを通しリスクを最低限に近付くため。
全ては、手に握られた進むべき道を照らし出す希望を確実に当てる為に…………!

「喰らえ、キサマが見た目に反して燃え辛い体質だったとしても
 『これ』ならばひとたまりもあるまい!」

投げつけられたそれは何とランタン!燃料は十分に溜められている。当たり割れたなら、その威力火炎瓶と同値!
とはいえ、ふところまでは魔王の蛮力をもってしてやっと届くかという程度の距離。
近付くにつれ動きは鈍くなり、魔女にとってはそう『ハエが止まっちまいそうなスローな動き』でしかない。
当然壊れない程度の力ではね除けられ、攻撃は失敗に終わったかに見えた。
しかし、布石は打たれている。攻撃を当てるには、ポイズンリザードが少し跳ねるだけで良かった。
『終わったはずの驚異が視界の端から襲ってくる』などということは、怒りで茹で上がった頭では計算できない。

《●△₩¢#%◆§☆※♯■◯ヱяァ !!》

ガラスの割れる音と共に、頭から燃え上がる。火を消そうと空中へ飛び上がり
周囲を見る暇無くがむしゃらに動く魔女に、分散した2ヶ所から魔法弾を当てることは容易い。

爆発による噴煙が宙に立ち込める中、飛び散った火種を手下達に消させつつ
交渉のため、解放されたマオウはある場所へ移動していた。
魔女が最初にいた場所、最も美しく咲く薔薇のある場所へ…………


「聞け!薔薇の魔王よ!しゆうは決した!
 話しただろう?心の美しさを呼び戻せ!
 怒りを抑え、今いちど協議の場を設けようではないか!
 はなしを聞け、理性があるのなら!」


…………何分ともコンマ何秒ともつかない曖昧な時間が流れている。
これまでの攻勢より、むしろこちらの方が辛い。
薔薇の中への移動は理性を試すため気付いてくれれば止めを刺さずにすむ。
しかしながら、現実は時に非情である。煙の中から狂ったようにハサミを打ち鳴らし躍り出た姿は
なんとも饒舌。なんとも破滅的。
魔女が目前まで迫り、薔薇の1つが散るのを看取った時───────覚悟は決まった。

「…………さらば、 さらば友よ。 すまない 」

地鳴りと共に、上空に無数の蝶が舞っていった。





大通りの中心で、マオウは涙している。いきなりの攻撃の時からか、彼女を殺めた時からか
いつから流しているかは本人すら自覚がない。ほこりを払い涙をハンカチで拭って
形見であろう目の前に現れた黒い宝石を手に取る。

「あるいは、と、思わなかったわけではない。だがつらいな…………」

マオウとて途中から薄々感じてはいた。
『ほとんど知性を持たない魔物なのではないか』ということは…………
マオウには召喚に応じる多くの魔物達がいる。力を貸してくれる四天王がいる。
美しい友情を感じたクラウスやサイゾウがいる。
自分にいつも着いて来てくれる恋人のミレニアがいる。
けれど、美しさについて互いに語り合える友は居なかった。
それも恐らく、推測ではあるが人間から魔王となった、それも同じ召喚魔法を使う
仲間に出会う事は二度とないかもしれない。

「惜しい者を亡くした。もしワタシの言葉がより美しければ怒りを沈めることができたかもしれん
 ミレニアよ、相手の心をひらくというのはなかなかに難しいものだな
 それにしても、解せん、何故こうなってしまったのだ?」

鏡を見たとたん凶暴化した理由はなんなのだろう?
もう一度落ちていた『鏡』を見たところで、マオウには理解できない。
他にも腑に落ちない部分はある。この宝石に巻かれている黒い鉄帯は
どこかで見たことがある。首輪に似ているが、だとしたら主催者から配られたこれに
どうしてあの結界の中で見た『ゲルドルード』の文字が刻まれているのか?
名簿を調べると、どうやらあの魔女の名前らしいが…………それならば
殺せたのだから不死ではないはずの者の首輪が何故これについている?
大地の力が集まっている気配がしたのに何故土の四天王タリアンは現れなかったのか?
疑問は尽きないが、あてがあるとしたら1つある。

「マホウショウジョ。人名なのか職業名なのかは不明だが、ふむ、調べてみるか」

ぶつ切りの語りだったが魔女『ゲルドルード』によると、マホウショウジョというのはここに来る直前に
彼女の美しい庭園を荒らしに来た不届きな輩らしい。
一旦はボロボロにされた庭がここに来てからはキレイになっていてホッとしたとも話していた。

「話の通じる美しい者だとよいがな。いや、あんなにも美しい花園をぶち壊しにするのだから
 心の方は期待しないでおこう」

宝石をふところに納め、自分のバックを拾った時、ある物に気が付いたが一瞥して背を向けた。

「これはここに置いていくとするか。ワタシには、使う資格はない」

あの魔女のものと思われるデイバックをその場に置き、魔王は去っていく。
その背中は孤独を感じさせるものがあった。






【ゲルトルート@魔法少女まどか☆マギカ:死亡確認】


【スラム街3-B/1日目/深夜】
 【マオウ@勇者30
 [状態]:腰回りに傷(小)、最大魔力レベル5
 [装備]:無し
 [道具]:ランダム支給品(0~2)、基本支給品一式(ランタン無し)
    首輪付きグリーフシード(ゲルトルート)@魔法少女まどか☆マギカ
    ラーの鏡@ドラゴンクエストⅦ、刀の在りかを書いた紙(不明・不明、不明) 
 [思考・状況]基本行動方針:美を求めてさ迷う
1:ミレニアの安否を確かめる。
2:マホウショウジョについて調べる。
3:美しくないものは問答無用で叩き潰す。

※3-Bにゲルトルートのデイバックが放置されています。


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最終更新:2014年05月11日 14:58