ここはF-3区画、岩と荒涼たる大地の支配下。
そよ風の囁きと野うさぎが跳ね回る音が精々の静かな地。
空気は清らかであり空は溢れんばかりの星々がまばゆく輝き、カサカサと
タンブル・ウィードが転がって行く。

転がって──────────────弾け飛ぶ。

突如巻き起こった暴風、いや『暴風のような何か』に煽られたのだ。
その《風速》実に43km/h。世界記録を凌駕する速度を叩き出す彼の名は『ユウシャ
1日1分という超速度の環境、その環境において半日で世界を救うこと30回。
速さにおいては余程の事がなければ彼の世界で敵う者はない。
それを追い抜けて走るは驚き戸惑うウサギの群れ。彼らの走りは種類にもよるが最低60km/hは出る。
正に脱兎の如くとはこの事だ、平時の彼ならこれ以上出せずすぐ離されてしまうだろう。
だが越せる、追い越せるのだ。腕に光る装飾品がそれを可能にする。
現に彼は歩いているだけで本気は出していない。星降る腕輪は夜に煌めく。

次の瞬間、残されたのは土煙にまみれた兎達と抉れた地面のみ

時速約86.6km/h
これはかつて東日本を駆け抜けた蒸気機関車D51(通称デゴイチ)より速く
平地における日本の最大瞬間風速をも上回り、一部車両は高速道路の法定速度を超える…………

しかしそれは負担を伴うスピードだ。ガリガリと音をたてて削られていく体力を気にして
彼はペースを落としていく。これはあくまで速度を確かめる為の準備運動なのだ。

やがてF-4区画に躍り出た。遠く目の前には鳥取砂丘を模した砂漠が広がり、右手にはモノレールが金属音を鳴らす。
開けた岩地でユウシャは立ち止まり目を見開く…………『モノレール』その速度に…………
あれほどのスピードで走ることの出来る建造物に、ユウシャには1つ心当たりがあったからだ
彼にとっての余程の事、『動き回る』というより『回り動く』城、魔王ヘクトパスの管理する魔王城。
魔王城は横方向に高速回転することで擦り動いていたがアレはどうなっているのだろうか?
もしかすると魔王ヴァレンタイン(殺し会いなんて考えるのは魔王)の配下が動かしているのかもしれない
それならばプランは簡単!
倒して情報獲得、お金を手に入れ必要ならば時間を戻し、装備を整え仲間を集めて魔王を撃破。
そうと決まれば全力疾走、今の速さなら距離を詰めるのに5秒もかからないだろう…………




▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼




近くからよく見ると、どうやらこの城は全て鉄で出来ているようだった。
加えて綱の様なものを辿っているだけにも拘らず早歩きではどんどんと離されていってしまう程のパワー。
あの綱もどうなっているのかわからない。あの鉄の塊を5~6メートル浮かせてなんともないのか?
レンガと漆喰の建造物が主な環境で生まれ育ち、また世界を救うため速さを常に意識してきたユウシャにとって
これほど興味引かれる物体はなかった。
何より中にいる猛獣のような気配にだ、興味を持たれているのはこちらも同じな様だが…………
どうするにせよ何処かにしがみつかなければ置いていかれるだけ、しがみついてから中の人物について考えよう。

ここで5mという高さについて考えよう。
陸上の高跳び選手は垂直跳びで、少なくとも80cm台を叩き出すらしい。走り高跳びの人類最高は2m45。
垂直方向5mは、高山帯に住むヤマネコと同格以上でなくては出すことは不可能。
一般的な歩道橋最上段へ、一度の跳躍で飛び上がるだけのパワーが必要という事だ。
さしものユウシャにもこの距離に関しては自信がない。
他の土地へ行くのに馬車で越えられないのと、唱えるだけで世界が滅ぶ半日懸かりの大呪文
『ハメツの呪文』を使う魔王を止めるのに越える必要がない(周辺地域に攻略の鍵がある)ので
5m台の崖など登った経験がなかったのだ。

しかし彼にはどんな荒れ地をも越えて走る事の出来る『走法』がある。
───────何処かの世界で行われたレースに参加した『とあるインディアン』は
脚が地に付く瞬間、かかとを一瞬しか地面に触れさせず、足にかかる負担、衝撃を
爪先から地面へ逃がし負担を軽減。さらにエネルギーを再活用し踏み込みに使う事で
時速40km、最大加速45kmを叩きだす『大地を味方にしている走法』。
どの様な地形であっても馬より速く走る事実から、彼にも似たような事が出来る筈
だがこの走りをマスターするには
『体格』『類稀なる高速の体重移動』『全身を使った柔軟な動き』全てが必要。
彼には恐らく何かが足りず、全力走行時にダメージが蓄積するのだろう。

さて、そういう訳で岩場等の障害物はいくらでも越えてきた彼はあるものを利用する事に決定。
全速力でそれに突進し、噴煙を上げてソレヘ跳ぶ。
レール利用のモノレールには無くてはならないもの、意外ッ!それは『鉄骨』!!
鉄の支柱を踏み台に、一直線に車両ドアへ

「グッ…………!」

支柱への踏み込みが甘かったもののなんとか縁に掴まることができた。
疲労から来る暑い汗を片手で拭い、もう一度縁を握り直した時。ドアの片方が蹴破られ
瞬間、冷たい別の液体が、全身を包み込んだ…………空洞の向こうに男が立っている。
黒騎士魔王ザインと対峙した時程の、相当の威圧感をもってこちらの様子を窺っている。
ユウシャは咄嗟に状況を『危険』と判断。振り子の原理で車体下に脚を付け
勢い良く踏み込みそのまま斜めに半回転。男の横をすり抜け車内へ飛び込み
取り出したるは1枚のあぶらとり紙。これ自体に攻撃力などない、あるわけがない。
だがその効果たるや正に彼にこそ相応しい最高の相性…………
それを指の間に仕込み、反転、突撃、全力前進、時速80kmの交通事故的な暴力が男へ降りかかる。
男は予想通り強敵、片腕でその突撃を止めたもう片腕で腕を掴みに来た。
しかし、ユウシャの突撃拳の強みはその衝撃に非ず。相討ちを取られたとしても一瞬で手を引き次の動作に移る
そのピッチにこそ真価があるッ!!拳の衝撃が伝わった瞬間、跳ね返ってくる反動をバネに後ろへ…………
超短距離のヒット&アウェイ!!
さらにッ!!あぶらとり紙の相乗効果!!
その『体力を攻撃した分だけ回復する効果』は『全力の走り』で失われた体力をその場で回復するッ!!

「やめろテメェ!!話を聞きやがれ!!!」

その台詞を男が口走り終わるまでの間に最低でも10回は打撃を加えている。まるで話など聞いていない。
連続した作業をミスなく高速でやるというのは、思いの外緻密な作業なのだ。
一方男は冷静に相手の機能を探っていく。利点は何か、欠陥はどこか。
敵の攻撃はだんだんと威力を増してきている。ものの数秒で、隙の突き方に至っては最早別人
まるで鉄板が針にすり変わっていくよう…………もう待ちの時間はない。

「ッチ、行くぞコラァ!!!!」

当たった時点で掴もうとしたなら既に逃げている、なら当たる前に当てて動きを止めればいい……!!
豪快にして単純だが、的は得ている。当たらなければ反動は利用できず、わずかに動きは鈍る。
加えて!!

(下………………!!)

これまで防ぐだけだった動きから、突然の攻勢!!
加えて横の動きは慣れていても縦の動きはここに来て初めて、この攻撃防ぐ手立て無し!!

「ウラァァアアア!!!」

中間にあった防御のための片腕は衝撃と風圧で跳ね上げられ、拳が音を立てて腹にめり込んだ。
当人の視点から言うなら、「まばたきする間に背でつり革を留める鉄棒を砕き散らしていた」
といったところだ。屋根を突き破って行かなかっただけ、まだ加減されていた等とは信じたくなかった。
が、伸びきってない腕を見てそれは確信に変わり、そして「化け物め」という感じの事を思った。

「やっと止まったか、ほとんどライズもしてねぇのに随分速えぇな兄ちゃん。
 ま、少し落ち着いてオジサンと話でもしようや」



「ん?」



「あ…」



「ダメだ、寝てらぁこいつ………やり過ぎたか」





▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ ▼





どうやらこの男、悪い人間では無さそうだ。
というのがユウシャの雹堂影虎に対する印象だった。
起きたらある程度の治療がしてあったし、柄は悪いが殺し合いには乗ってないらしい。
人より魔に近い並々ならぬ力を感じるが、善い魔王も居ないことはない
大概ハメツの呪文を唱えていなければ楽しい奴等なので心配ないだろう。
鉄の移動式城塞について質問したら

「あ?なんだお前モノレールも知らねぇのか?」

と親切に教えてくれたし、ついでになにやら凄そうな武勇伝も教えてくれた。
これまでの事情を話し、お金はあるか?というニュアンスの事を聞いたら

「随分燃費の悪いバーストだな、俺が持っててもしょうがねぇからやるよ。
 ……ッチ、何でも用意できる事の証明かと無駄に勘ぐっちまったぜ」

っと、何と気前よく1500Gもくれた、これで女神像があれば5回も時を戻せる。
ユウシャは一通りの情報交換後にした自己紹介の

「この雹堂影虎、ヤ…………とある筋ではちったぁ名の通った男よ」

「ヤ…………」の部分が気になったが

「やっ~~~~と、ある筋ではちったぁ名が通り始めた男よ」

そう言おうとしたのだと強引に解釈した。最後に行き先を訊ねる事にした。
魔王は基本自分の攻略法を暴露する生き物なので、刀を集めるのが最善だろう。
しかし、ユウシャにわかるのはC-6:グロズニィグラードという場所にアヌビス刀という刀がある事ぐらいだ。
もっと人に会い、刀の在りかについて調べなければそこから先は判らない。
だがこの先もいい人物に会えるとは限らないのも事実。冗談で世界をハメツさせる奴がゴロゴロいるなら
『くしゃみをしたら殺されました』というのも無い話じゃない。咄嗟の時の用心棒は必要なのだ。
というような内容の事を話すと男は迷わず答えた。


「俺は───────」





【F-5 駅ホーム/1日目/深夜】
 【ユウシャ@勇者30
 [状態]: 疲労(中)、腹に鈍痛、腰に打ち身、利き腕でない方の腕に軽い傷み、lv6
 [装備]:あぶらとり紙@リトルバスターズ!!
 [道具]:星降る腕輪@ドラゴンクエストⅦ、もたざる者の町で払った通行料(借金込み)@勇者30
    基本支給品一式、刀の在りかを書いた紙(C-6・グロズニィグラード、アヌビス刀)
 [思考・状況]基本行動方針:ハメツの呪文を唱え始める前に魔王ヴァレンタインを倒す。
1:刀と、もしもの時のために女神像を探す。
2:これまでにないタイプの魔王のため情報を集める。
3:カゲトラが仲間になってくれるなら心強い

※参戦時期は魔王を30回倒した後です。
※ファニー・ヴァレンタインの事を魔王だと思っています。
※戦いの最中に超速レベルアップするようです。
※雹堂影虎を友好的な魔王だと勘違いしています。

 【雹堂影虎@PSYЯEN
 [状態]: 健康
 [装備]: 無し
 [道具]:ランダム支給品(0~2)、基本支給品一式、刀の在りかを書いた紙(不明・不明、不明)
 [思考・状況]基本行動方針:???
1:???
2:殺し合いには乗らない。


※参戦時期は不明です。




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雹堂影虎  ?

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最終更新:2013年07月13日 02:41