からくり起床談 ◆3nT5BAosPA
「え、ここドコですか?」
時系列はとある島を舞台にした殺し合いが始まるよりも前まで遡る。
藤原千花が目を覚ました場所は、壁や天井、床の配色に白が多い部屋だった。
上半身を起こして辺りを見渡し、内装を視認する。そこでようやくここが何らかの医療施設であることに気がついた。ついでに、壁に掛けられた時計から、現在時刻が零時の直前辺りであることが判明した。
寝る前までの記憶を掘り起こすが、病院に寝泊まりすることになった覚えは微塵もない。そもそも、体の悩みと言えば日頃の食生活で体重がちょっと不安なことくらいしかない健康優良児である彼女にとって、病院ほど縁遠い施設はないだろう。
この状況の説明として最も有力なのは、何者かに拉致された、というものである。
藤原千花は政治家一族の娘だ。ならば、金銭あるいは政治的主張を目的に彼女を誘拐しようとする輩がいてもおかしくない。そんな可能性に危機感を抱かないほど、彼女は鈍感ではなかった──しかし。
しかし、だ。
拘束が一切されてない手足で起き上がって移動し、試しに部屋と外界を隔てている扉のドアノブに手を掛けてみる。すると、ドアノブは抵抗なく下がり、扉はいとも容易く開放された。
前屈みになって上半身を廊下側に出し、左右を確認する。長々とした白い廊下が続いているだけだった。人の気配はない。
千花は廊下に突き出した頭から疑問符を浮かべた。もし彼女がここにいる理由が誘拐ならば、近くには必ず誘拐犯がいるはずだからだ。 拘束や監視のひとつもつけずに、鍵をかけてない部屋に人質を放置する誘拐犯なんて、聞いたことがない。
どうぞ逃げてください、と言っているようなものではないか。脱出を推奨しているようにしか思えない。
とりあえずはこの建物から出ようと、千花は廊下に向かって一歩踏み出した。しかし、部屋を出てすぐのところに落ちていた何かが足に引っかかり、転んでしまう。大きな悲鳴と派手な転倒音を鳴らした彼女は、打った部位を涙目で摩りながら、自分の足を捕らえた物の正体を確かめた。
それは鞄だった。持ち運びに便利なデイバックが、部屋のすぐそばに転がっていたのだ。見ると、下部に『藤原千花』と書かれた名札が縫い付けられている。どうみても、千花のために用意されたものだった。
この場に来てようやく見つけた何者かの作為の現れを不気味に思いながら、千花は鞄を抱えて部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。ぎい、と寝具が軋む音が閑静な部屋に響く。
目が覚めると、そこは見ず知らずで居る理由も分からない病院であり、すぐそばには自分の名前が書かれた鞄が置かれていた、という何ともミステリアスなこの状況。それに謎解き好きの千花の興味が惹かれないはずがなかった。故に、彼女が次に取る行動に、拾った鞄の中身を確認する以外の選択肢は無い。こんな意味深なアイテムに触れずにいるのはあり得ないだろう。
もしかしたらこれは本当に誰かが私に仕掛けた脱出ゲームなのかもしれません、と千花は推測する。
仕掛け人は誰だろうか。千花の広い交友範囲を漁れば、夜の医療施設を貸し切りに出来る人がいないわけではないのだが……おっと、脱出ゲームである可能性がある以上、これ以上舞台裏のことを考えるのは野暮というものだろう。
それにしても、こんな状況でそんな可能性にまで頭が回る人なんて、ゲーム慣れしている私以外いないでしょうね──そう考えて、誇らしげに口元を緩める千花。ちょうどその頃、彼女から遠く離れた何処かで天才物理学者が大きなくしゃみと共に目を覚ましていた。
不安半分好奇心半分と言った様子で、千花は鞄を開き、その中身を精査しようとする。
しかし、彼女の視界に鞄の中身が映ることは無かった。
代わりに映ったのは、視界一杯のノイズ。
壊れたテレビの画面のようなそれが、突如として彼女の視界を乗っ取ったのである。
それからしばらく経って切り替わる視界。そこでは、頭に着けたリボンが特徴的な少女のワンマンショーが開催されていた。
BBと名乗った少女は語る。これから殺し合いをしてもらうと。
いったいどうやって流れているのかも分からないその映像を混乱しながら見ていた千花だったが、映像中で爆弾付きの首輪という物騒極まりないものについての説明が終わった後、彼女の視界はまたも移動することになる。
いや、移動したのは視界だけではない。肉体もだ。
藤原千花が目を覚ました場所は、壁や天井、床の配色に白が多い部屋だった。
上半身を起こして辺りを見渡し、内装を視認する。そこでようやくここが何らかの医療施設であることに気がついた。ついでに、壁に掛けられた時計から、現在時刻が零時の直前辺りであることが判明した。
寝る前までの記憶を掘り起こすが、病院に寝泊まりすることになった覚えは微塵もない。そもそも、体の悩みと言えば日頃の食生活で体重がちょっと不安なことくらいしかない健康優良児である彼女にとって、病院ほど縁遠い施設はないだろう。
この状況の説明として最も有力なのは、何者かに拉致された、というものである。
藤原千花は政治家一族の娘だ。ならば、金銭あるいは政治的主張を目的に彼女を誘拐しようとする輩がいてもおかしくない。そんな可能性に危機感を抱かないほど、彼女は鈍感ではなかった──しかし。
しかし、だ。
拘束が一切されてない手足で起き上がって移動し、試しに部屋と外界を隔てている扉のドアノブに手を掛けてみる。すると、ドアノブは抵抗なく下がり、扉はいとも容易く開放された。
前屈みになって上半身を廊下側に出し、左右を確認する。長々とした白い廊下が続いているだけだった。人の気配はない。
千花は廊下に突き出した頭から疑問符を浮かべた。もし彼女がここにいる理由が誘拐ならば、近くには必ず誘拐犯がいるはずだからだ。 拘束や監視のひとつもつけずに、鍵をかけてない部屋に人質を放置する誘拐犯なんて、聞いたことがない。
どうぞ逃げてください、と言っているようなものではないか。脱出を推奨しているようにしか思えない。
とりあえずはこの建物から出ようと、千花は廊下に向かって一歩踏み出した。しかし、部屋を出てすぐのところに落ちていた何かが足に引っかかり、転んでしまう。大きな悲鳴と派手な転倒音を鳴らした彼女は、打った部位を涙目で摩りながら、自分の足を捕らえた物の正体を確かめた。
それは鞄だった。持ち運びに便利なデイバックが、部屋のすぐそばに転がっていたのだ。見ると、下部に『藤原千花』と書かれた名札が縫い付けられている。どうみても、千花のために用意されたものだった。
この場に来てようやく見つけた何者かの作為の現れを不気味に思いながら、千花は鞄を抱えて部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。ぎい、と寝具が軋む音が閑静な部屋に響く。
目が覚めると、そこは見ず知らずで居る理由も分からない病院であり、すぐそばには自分の名前が書かれた鞄が置かれていた、という何ともミステリアスなこの状況。それに謎解き好きの千花の興味が惹かれないはずがなかった。故に、彼女が次に取る行動に、拾った鞄の中身を確認する以外の選択肢は無い。こんな意味深なアイテムに触れずにいるのはあり得ないだろう。
もしかしたらこれは本当に誰かが私に仕掛けた脱出ゲームなのかもしれません、と千花は推測する。
仕掛け人は誰だろうか。千花の広い交友範囲を漁れば、夜の医療施設を貸し切りに出来る人がいないわけではないのだが……おっと、脱出ゲームである可能性がある以上、これ以上舞台裏のことを考えるのは野暮というものだろう。
それにしても、こんな状況でそんな可能性にまで頭が回る人なんて、ゲーム慣れしている私以外いないでしょうね──そう考えて、誇らしげに口元を緩める千花。ちょうどその頃、彼女から遠く離れた何処かで天才物理学者が大きなくしゃみと共に目を覚ましていた。
不安半分好奇心半分と言った様子で、千花は鞄を開き、その中身を精査しようとする。
しかし、彼女の視界に鞄の中身が映ることは無かった。
代わりに映ったのは、視界一杯のノイズ。
壊れたテレビの画面のようなそれが、突如として彼女の視界を乗っ取ったのである。
それからしばらく経って切り替わる視界。そこでは、頭に着けたリボンが特徴的な少女のワンマンショーが開催されていた。
BBと名乗った少女は語る。これから殺し合いをしてもらうと。
いったいどうやって流れているのかも分からないその映像を混乱しながら見ていた千花だったが、映像中で爆弾付きの首輪という物騒極まりないものについての説明が終わった後、彼女の視界はまたも移動することになる。
いや、移動したのは視界だけではない。肉体もだ。
「え、ここドコですか?」
病院の一室からBBチャンネルのスタジオまで一瞬でワープさせられた千花は、事態を上手く呑み込めないと言った様子で呟く。
それが彼女の最期の言葉になった。
それが彼女の最期の言葉になった。
X X X X X
以上が、この殺し合いのオープニングの裏側で、藤原千花というひとりの少女が目覚めてから爆死するまでの経緯を描いたものだ。
そして、時系列は現在に戻る──深夜から、朝へと。
B-7エリアに位置する箱庭病院にて、持ち主を失ったデイバックの元に誰も訪れず、はや六時間。
持ち上げていた人物がこの場から一瞬で消えたため重力に従って床に落ちたデイバックは、それから少しも動いていない。
そして、落ちた拍子にデイバックの口から零れるようにして現れた『それ』も、同様に僅かな動きも見せていなかった。
時刻は午前の六時過ぎ、朝を迎えた時間帯である。夜の帳がとっくに上がった空には太陽があり、窓から差し込む朝日はがらんとした病室を照らしていた。
室内にある全てが温かな光を浴びる。白い床も、白い壁も、白い天井も、ベッドも、椅子も、鞄も、そして『それ』も例外ではない。
『それ』は全身が金属でできており、左右に二本ずつ生えた腕と脚。さらに、計四本の腕にはそれぞれ刀剣が握られているという、なんとも奇妙な構造をしている人形だ。顔の造形から、それが女を模したものであることが窺える。
その人形の名は微刀・釵。
またの名を日和号。
戦国時代を支配した稀代の刀鍛冶、四季崎記紀が打った刀の中でも、とびきり異端を極めた刀である
日和号は窓から差し込んだ日光を暫く浴びると、無機質な暗さを湛えるだけだった瞳に光を灯し、それまで微動だにしていなかった脚を動かして立ち上がる。その存在だけでとある巨大な湖を幕府から壱級災害指定地域に認定させた殺人人形の、起動の瞬間であった。
そして、時系列は現在に戻る──深夜から、朝へと。
B-7エリアに位置する箱庭病院にて、持ち主を失ったデイバックの元に誰も訪れず、はや六時間。
持ち上げていた人物がこの場から一瞬で消えたため重力に従って床に落ちたデイバックは、それから少しも動いていない。
そして、落ちた拍子にデイバックの口から零れるようにして現れた『それ』も、同様に僅かな動きも見せていなかった。
時刻は午前の六時過ぎ、朝を迎えた時間帯である。夜の帳がとっくに上がった空には太陽があり、窓から差し込む朝日はがらんとした病室を照らしていた。
室内にある全てが温かな光を浴びる。白い床も、白い壁も、白い天井も、ベッドも、椅子も、鞄も、そして『それ』も例外ではない。
『それ』は全身が金属でできており、左右に二本ずつ生えた腕と脚。さらに、計四本の腕にはそれぞれ刀剣が握られているという、なんとも奇妙な構造をしている人形だ。顔の造形から、それが女を模したものであることが窺える。
その人形の名は微刀・釵。
またの名を日和号。
戦国時代を支配した稀代の刀鍛冶、四季崎記紀が打った刀の中でも、とびきり異端を極めた刀である
日和号は窓から差し込んだ日光を暫く浴びると、無機質な暗さを湛えるだけだった瞳に光を灯し、それまで微動だにしていなかった脚を動かして立ち上がる。その存在だけでとある巨大な湖を幕府から壱級災害指定地域に認定させた殺人人形の、起動の瞬間であった。
「標的・探索」
ぱくぱくと。
口にあたる部分を開閉させながら、日和号は発音する。
すると部屋を出て、やがて病院の外へと出て行った。
日和号は、特定の相手の殺害といったような設定を与えることで多様な戦況に対応できる刀だ。この島で彼女が与えられた設定は、『持ち主である藤原千花以外の参加者の殺害』である。
それを達成するために、日和号は標的を求めて前に進む。
彼女が四本の手で握っている四本の刀は、朝日を浴びて妖しくも美しい光を反射していた。
口にあたる部分を開閉させながら、日和号は発音する。
すると部屋を出て、やがて病院の外へと出て行った。
日和号は、特定の相手の殺害といったような設定を与えることで多様な戦況に対応できる刀だ。この島で彼女が与えられた設定は、『持ち主である藤原千花以外の参加者の殺害』である。
それを達成するために、日和号は標的を求めて前に進む。
彼女が四本の手で握っている四本の刀は、朝日を浴びて妖しくも美しい光を反射していた。
【藤原千花@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ 死亡】
【日和号@刀語 起動】
【日和号@刀語 起動】
【B-7・箱庭病院/1日目・朝】
【日和号@刀語】
[状態]:
[装備]:刀@刀語×4
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:藤原千花以外の参加者の斬殺
1.標的・探索
[備考]
※OP時点で死亡した藤原千花のデイバックは、箱庭病院の一室に置き去りにされています。
【日和号@刀語】
[状態]:
[装備]:刀@刀語×4
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:藤原千花以外の参加者の斬殺
1.標的・探索
[備考]
※OP時点で死亡した藤原千花のデイバックは、箱庭病院の一室に置き去りにされています。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| 拝啓、桜舞い散るこの日に | 藤原千花 | Eliminated |
| Debut | 日和号 | [[]] |