悪鬼滅殺(3)◆ZbV3TMNKJw
☆
「ガアアアアアアア!」
突如あがる雄たけびに、明は思わず振り返る。
そこにいたのは、涎を垂らし、眼窩が赤くなった炭治郎。
「嘘...炭治郎...」
明の心臓が締め付けられる。
まただ。また、仲間が吸血鬼にされた。
それも、自分はこんなに近くにいたというのに。
まただ。また、仲間が吸血鬼にされた。
それも、自分はこんなに近くにいたというのに。
「くっ!」
倒れている風太郎に飛び掛かろうとする炭治郎を止める為に、明は駆け出そうとする。
(すまない、済まない炭治郎!)
吸血鬼になれば、もう戻ることはできない。
人の血を啜り続けなければ、彼は邪鬼か亡者になってしまう。
いや、それ以前に、成りたての吸血鬼は吸血衝動が殊更強い。
強い精神力を持った、親友のケンちゃんですら、それには抗いきれなかった。
いまは怪我で意識が朦朧としているが、もしも風太郎を食らい意識を取り戻せば、それは彼にとっての地獄だろう。
ならば―――殺すしかない。炭治郎の為にも、斬るしかない。
人の血を啜り続けなければ、彼は邪鬼か亡者になってしまう。
いや、それ以前に、成りたての吸血鬼は吸血衝動が殊更強い。
強い精神力を持った、親友のケンちゃんですら、それには抗いきれなかった。
いまは怪我で意識が朦朧としているが、もしも風太郎を食らい意識を取り戻せば、それは彼にとっての地獄だろう。
ならば―――殺すしかない。炭治郎の為にも、斬るしかない。
「邪魔をするな明。私の同胞の誕生を祝おうじゃないか」
それを止めるのは、雅。炭治郎を見て隙の出来た明の肩を掴み、首元にかぶりついた。
「が...」
じゅるじゅるじゅる。じょーどぼどぼ。
明の身体から力が抜け、涙と涎と共に、小便がズボンから流れ出る。
「相変わらず美味い血だ」
ぬぽっ、と牙が明の首元から離され、力を失った明の身体がどさりと倒れこむ。
「た、炭治郎...!」
「あ、アガアアア!」
「あ、アガアアア!」
明の目の前で、デイバッグを盾に必死に抵抗する風太郎といまにも食らいつかんばかりの勢いでのしかかる炭治郎の戦いが繰り広げられている。
「やめろ...炭治郎...!」
震える声で呼びかけるも、炭治郎は止まらない。
ただ目の前の獲物を食らいつくさんと牙を向けるだけだ。
ただ目の前の獲物を食らいつくさんと牙を向けるだけだ。
「アハハハハ、中々楽しい見世物じゃないか」
ケラケラと笑う雅を、明は倒れたままの体勢で睨みつける。
「その顔だ、明。その復讐心と悲しみの入り交ざった表情、それを眺めるのは実に愉しいぞ!ハハハハハハ!!」
「み...雅ィィィィィ!!」
「み...雅ィィィィィ!!」
満足げに嗤う雅の嗤い声が響き渡る。
いくら憎悪をぶつけようとも、それを止める者はだれもいない。
必死に抵抗する明を嘲笑うかのように、風太郎の首元と炭治郎の牙は近づいていく。
いくら憎悪をぶつけようとも、それを止める者はだれもいない。
必死に抵抗する明を嘲笑うかのように、風太郎の首元と炭治郎の牙は近づいていく。
「やめろ...やめてくれ...!」
明は、目の前の惨劇に懇願するように手を伸ばす。
その腕を踏みにじるかのように、雅の足は明の腕を踏みつけへし折った。
その腕を踏みにじるかのように、雅の足は明の腕を踏みつけへし折った。
「ぐあっ!」
「ん?貴様、義手だったか。私が斬った腕が生えた訳ではなかったのだな...まあいい」
「ん?貴様、義手だったか。私が斬った腕が生えた訳ではなかったのだな...まあいい」
雅は屈み、折れた義手を放り捨てた。
「く...炭治郎...!」
懇願する明の願いも空しく、炭治郎の牙は風太郎の首元に突き立てられた。
それを見た雅は再び嗤い、明の心は絶望に満ちる。
それを見た雅は再び嗤い、明の心は絶望に満ちる。
「ぐ...くうっ」
明の頬を涙が伝う。
吸血された際のそれではなく、純粋な涙だ。
吸血された際のそれではなく、純粋な涙だ。
なぜ。なぜ自分はこんなにも無力だ。
いくら強くなろうとも、なにも救えない。仇を殺すこともできない。
敵の、味方の屍を積んだところで、あの男には届かず奪われるだけだ。
いくら強くなろうとも、なにも救えない。仇を殺すこともできない。
敵の、味方の屍を積んだところで、あの男には届かず奪われるだけだ。
(俺は...チクショウ...チクショウ...!)
「炭治郎よ、その雑魚よりも美味い血がここにあるぞ」
シャッ
雅のブーメランが明の胸元を裂き、血を噴出させる。
「ぐあっ!」
明の呻き声が漏れる。
致命傷ではないが、それでも激痛だ。麻痺が回復しても、行動に支障はでるだろう。
致命傷ではないが、それでも激痛だ。麻痺が回復しても、行動に支障はでるだろう。
「炭治郎よ、明を食え。そうすれば私の右腕として配下に加えてやる」
炭治郎のこめかみがぴくりと動く。
(こ、こいつは...!)
明は雅の意図を察する。
奴は、炭治郎を部下にするのではなく、彼と自分を殺し合わせたいのだ。
だから、自分には抵抗できる程度の余力を残し、武器も奪わず残しておいた。
炭治郎が自分を殺しても、自分が炭治郎を殺しても。どちらに転んでも、雅にとっては愉しみのひとつでしかない。
奴は、炭治郎を部下にするのではなく、彼と自分を殺し合わせたいのだ。
だから、自分には抵抗できる程度の余力を残し、武器も奪わず残しておいた。
炭治郎が自分を殺しても、自分が炭治郎を殺しても。どちらに転んでも、雅にとっては愉しみのひとつでしかない。
「くっ...!」
だが、抵抗できねば、炭治郎はさらに罪を重ねてしまう。雅を悦ばせるとわかっていても、戦うしかない。
風太郎の血を吸い終えた炭治郎が駆け出す。
明は痺れ、痛む身体に耐えつつ立ち上がり日輪刀を構える。
明は痺れ、痛む身体に耐えつつ立ち上がり日輪刀を構える。
(炭治郎...!)
彼はまだ意識が朦朧としているはずだ。
おそらく、このまま剣を振るえば両断できる。
真っすぐに突っ込んでくる炭治郎。それを待ち構える明。
おそらく、このまま剣を振るえば両断できる。
真っすぐに突っ込んでくる炭治郎。それを待ち構える明。
シャッ。
刀は、振るわれた。
が。
「えっ」
炭治郎の姿はそこにはなく。
明の頭上を、炭治郎は跳び越えていった。
明の頭上を、炭治郎は跳び越えていった。
「なっ」
驚いたのは明だけではない。雅もだ。
炭治郎が跳んだのは、明の背後にまわるためではなく。
炭治郎が跳んだのは、明の背後にまわるためではなく。
―――ヒノカミ神楽 輝輝恩光
雅へと斬りかかる為だったからだ。
☆
炭治郎の牙を退ける最中、風太郎はある疑問を抱いていた。
(なんで俺はまだ吸われてないんだ?)
いくら、炭治郎の意識が朦朧としているとはいえ、それでも身体のほとんどが傷ついている一般人の風太郎を押し込めないほど脆弱ではない。
それは、御子を潰したことからうかがえる。
だが、風太郎はまだ吸われていない。しっかり抵抗できている。
それは、御子を潰したことからうかがえる。
だが、風太郎はまだ吸われていない。しっかり抵抗できている。
「ぁ...!がぁ...!」
「......!」
「......!」
炭治郎の小さな呻き声を、風太郎は聞き逃さなかった。
抗っているんだ。吸血鬼となり血に飢えたその状態で。恐らく、刺されたナイフで傷ついているであろう脳髄で。
理性はなくとも、炭治郎は必死に本能に抗っているんだ。
抗っているんだ。吸血鬼となり血に飢えたその状態で。恐らく、刺されたナイフで傷ついているであろう脳髄で。
理性はなくとも、炭治郎は必死に本能に抗っているんだ。
(炭治郎...!)
風太郎の目じりに涙が浮かぶ。こいつは、こんなになっても頑張っている。
血を吸っても仕方ないと思えるほどの環境でもなお、必死に抗っている!
血を吸っても仕方ないと思えるほどの環境でもなお、必死に抗っている!
「た...」
炭治郎頑張れ、負けるな、目を覚ませ。そんな激励の言葉は、しかし押しとどめられる。
炭治郎がこのまま自我を取り戻したらどうなる?間違いなく、雅は子供が飽きた玩具を捨てるように炭治郎を殺すだろう。
雅も傷ついているとはいえ、こんな疲労困憊の状態で奴に適うはずがない。
明も倒れた以上、この場の三人の命は雅の掌の中にある。その気になれば全員、容易く摘まれてしまう。
炭治郎がこのまま自我を取り戻したらどうなる?間違いなく、雅は子供が飽きた玩具を捨てるように炭治郎を殺すだろう。
雅も傷ついているとはいえ、こんな疲労困憊の状態で奴に適うはずがない。
明も倒れた以上、この場の三人の命は雅の掌の中にある。その気になれば全員、容易く摘まれてしまう。
せめて、炭治郎が少しでも元気にならなければもうどうしようもない。
だったらどうする。どうすればいい。
考えろ。勉強だけが俺の取り柄だ。こういう時こそ脳細胞を働かせろ!
考えろ。考えろ。考えろ!!
―――頭を使うとお腹が空くんですよ
...あ?
何故か、急に五月の言葉が脳裏を過った。
なにを思い返しているんだ俺は。全く関係ないだろうコレ。
なにを思い返しているんだ俺は。全く関係ないだろうコレ。
―――もう足を引っ張るだけの私じゃないですか?
今度は四葉だ。
いや、確かに足を引っ張るだけじゃいけないとは思っているが。今はお前たちのことは関係なくてだな。
いや、確かに足を引っ張るだけじゃいけないとは思っているが。今はお前たちのことは関係なくてだな。
―――『おいおい』『関係ないだなんて冷たいこと言うなよ』『きみの立派な教え子たちだろ?』
さも当然のように俺の走馬灯に割り込んでくるな球磨川禊。
というかお前とそんな会話した覚えないんだが。どうせだったらこの状況を切り抜ける策でも教えてくれ。
というかお前とそんな会話した覚えないんだが。どうせだったらこの状況を切り抜ける策でも教えてくれ。
―――『だーかーらー』『僕たちみたいなシュールラブコメ勢がガチガチのシリアスにまともにやって勝てるわけないんだって』『当然さ』『場数が違いすぎる』
―――『でもかき回すことはできる』『なんせ僕らは理不尽で倫理感を疑われる喜劇(コメディ)の経験は彼らよりも上だからね』
―――『皆が真剣になってる中で』『日常の描写からなんかうまい感じに繋げて伏線だったんですって言い張って』『誰も予想できないくだらねー展開をぶつけてカタルシスを感じられるって押し付けて』『そして最後に嘲笑でもいいから笑われる』
―――『それが喜劇(ぼくら)に許された特権だぜ上杉くん』
...球磨川。お前、しゃべりすぎた。
俺は喜劇の主人公になったつもりはないしおまえと一緒にするな。
俺は喜劇の主人公になったつもりはないしおまえと一緒にするな。
ただ。
風太郎は、肩の力を抜き、抵抗を止めた。
「疲れた頭に栄養は定石だよな」
炭治郎の牙が食い込み、吸血が始まる。
全身の力が抜け、身体の至る箇所から液が漏れだす。
全身の力が抜け、身体の至る箇所から液が漏れだす。
(くっ...意識が飛びそうだ...けどもう少し頑張れ、俺!)
最後の力を振り絞り、首元に手をかけ炭治郎の耳元に呼びかけ続ける。
「炭治郎...炭治郎...」
「ガ...」
「起きろ...炭治郎...!」
「ガ...」
「起きろ...炭治郎...!」
照準の定まらない眼に徐々に光が宿っていく。
血を吸えなくて意識が朦朧としているのなら、血を吸わせてやれば意識が戻りやすくなるのは当然の理屈だ。
血を吸えなくて意識が朦朧としているのなら、血を吸わせてやれば意識が戻りやすくなるのは当然の理屈だ。
「...?」
意識を取り戻し、困惑の表情を浮かべる炭治郎の吸血が止まる。
目を覚ましてこの状況ならば無理もない。
風太郎は、炭治郎へと小さな声で耳打ちする。
目を覚ましてこの状況ならば無理もない。
風太郎は、炭治郎へと小さな声で耳打ちする。
「炭治郎、お前は吸血鬼にされた。だから、俺がお前に血を吸わせたんだ」
「―――!」
「―――!」
顔色を変え、すぐに離れようとする前に風太郎は言葉を紡ぐ。
「落ち着け。これは、雅に一泡ふかす最後のチャンスだ」
「...?」
「いま、あいつはお前が理性のない吸血鬼だと思い込んで油断してる。自分に斬りかかってこないと思い込んでる」
「...?」
「いま、あいつはお前が理性のない吸血鬼だと思い込んで油断してる。自分に斬りかかってこないと思い込んでる」
チラ、と視線を投げ出されたデイバックへと向ける。
「あそこにお前が使ってた刀が落ちてる。あれで思い切りやってやれ。明さんと二人で雅を倒せ」
「...ふぇ、ふぇも(でも)」
「これは俺たち三人が生き残る最良の選択肢だ。俺が選んだことなんだから、お前が気に病むことじゃない」
「...ふぇ、ふぇも(でも)」
「これは俺たち三人が生き残る最良の選択肢だ。俺が選んだことなんだから、お前が気に病むことじゃない」
腕の力が抜けていき、瞼も重くなっていく。
おそらく、この戦いの結末は見届けられないだろうなと思う。
構わない。これで足を引っ張ることもない。ようやく二人の役に立てる。
おそらく、この戦いの結末は見届けられないだろうなと思う。
構わない。これで足を引っ張ることもない。ようやく二人の役に立てる。
「頼んだぜ、炭治郎」
最後の力で、ぽん、と頭を叩き、風太郎の意識は闇に落ちた。
☆
ザ ン ッ
雅の腕が切り裂かれ地に落ちる。
「馬鹿な、貴様、なぜ...」
「上杉さんが託してくれた」
「上杉さんが託してくれた」
剣を握りしめる腕に力が漲る。普段からは考えられないほどの力が溢れる。
「お前を倒す為に、あの人が俺に継いでくれたんだ」
託された想いは一つではない。
その多くは芽吹くことなく折られ、踏みにじられてきた。
その多くは芽吹くことなく折られ、踏みにじられてきた。
なんど託されても。なんど打ちのめされても。彼は止まることを許さない。
「雅!俺はお前を絶対に許さない!」
だからこそ、戦い続ける。託されたものが芽吹くまで。その命が燃え尽きるまで。
―――ヒノカミ神楽 円舞
振るわれる剛剣を、雅はブーメランで受け止める。
(ッ...この重さ...!)
押し返すことなく、競り合うこともなく、雅は後方へと弾き飛ばされた。
「くっ」
着地しつつ、斬られた腕を拾い再生させる。
(片腕だったからか?いや、どちらにせよ結果は変わらなかっただろう)
力で押し負けた。こんな経験は、不死の身体を手に入れてから初めてだった。
「吸血鬼風情が私の力を上回るとは。ハッ、わからんこともあるものだ」
この殺し合いに連れてこられてからは面白いことばかりだ。
今まで戦ってきた中でも有数の達人である鬼殺し。
鬼の王。
誰よりも高く羽ばたく人間。
吸血鬼以上の不死性を持つ亜人。
宮本明。
鬼の王。
誰よりも高く羽ばたく人間。
吸血鬼以上の不死性を持つ亜人。
宮本明。
そして、長に歯向かう吸血鬼。
ここで終わってもいいと思えるほどの高揚感があふれ出す。
「あの退屈な世界で過ごすよりお前たちで遊びつくした方が楽しそうだ...こい!竈門炭治郎!どちらが最強の吸血鬼か、ここで決めようじゃないか!!」
☆
「炭治郎...」
ヨロ、ヨロ、とふらつき、しかし力が抜け膝を着く。
吸血の効果だ。それに、先の胸元の一撃による出血も響いているのだろう。
吸血の効果だ。それに、先の胸元の一撃による出血も響いているのだろう。
(あいつが戦っているのに、俺は...!)
痺れが取れない。もがや立ち上がることすらままならない。
―――『しょうがないよ』『明ちゃんは悪くない』
傍らに像が浮かび上がり、明へと優しく語り掛ける。
―――『彼はもちろん上杉くんも結局過負荷(ぼくら)にはならなかった』『あんな奇跡は過負荷(ぼくら)には起こせないからね』
球磨川禊。混沌よりも這い寄る過負荷は、この状況においても堕落に引きずり落そうというのか。
―――『過負荷(ぼくら)は勝利を飾れない』『過負荷(ぼくら)が干渉すればそれこそ勝利から遠ざかるだろうね』
関係あるか。いま、炭治郎が苦戦している。それを指を咥えて眺めていろというのか。
―――『勝つためだよ』『今のままなら勝率は五分だ』『悪い数字じゃない』『勝ちたいなら過負荷(あきらちゃん)は大人しくしているべきだ』『勝つためならしょうがないことだ』
目を瞑り、悟ったような表情で、おおよそ球磨川らしくない真面目な解説を述べ。
―――嫌だ。過負荷(ぼく)だって一度くらい勝ってみたい。
括弧つけるのを止めた。
―――過負荷(ぼくら)が勝っちゃいけないなんて誰が決めた。過負荷(ぼくら)が脇役じゃないといけないなんて誰が決めた。
明の肩に、そっと手が添えられる。
―――明ちゃん。証明してくれ。過負荷(ぼくら)も、主役を張れるんだってことを
そして、球磨川の像は消えた。
言いたいことだけ言って、明の言葉を聞くこともなく消え去った。
言いたいことだけ言って、明の言葉を聞くこともなく消え去った。
球磨川の消えた後を見た明の目が見開かれる。
これは、いつの間にかデイバックに入れられていたのか?それとも―――
これは、いつの間にかデイバックに入れられていたのか?それとも―――
なんでも構わない。
明は、転がっていたソレを、力強く握りしめた。
☆
―――ヒノカミ神楽 火車
まるで業火のように振るわれる剣技を、雅はただ受け止めることはしない。斬られることもしない。
―――ヒノカミ神楽 灼骨炎陽
再生ができるとはいえ、佐藤から受けた全身破壊のダメージはまだ完治しきっていない。もしもあの連撃をまともに受ければ再生が効くのかもわからない。
―――ヒノカミ神楽 炎舞
だから躱す。炭治郎を、対等な敵であると認めているからこそ、全力をもって勝利する。
「喜べ炭治郎!貴様のその剣技、間違いなく煉獄を超えているぞ!!」
全力で振るうブーメランを刀身で受けた炭治郎の身体は大きく吹き飛ばされる。
雅の賞賛も炭治郎には届かない。ただただ、眼前の敵を滅することしか見えていない。
雅の賞賛も炭治郎には届かない。ただただ、眼前の敵を滅することしか見えていない。
―――ヒノカミ神楽 陽華突
弾かれてもなお、すぐに体勢を立て直し突貫する。
さしもの雅も避けきれず、その突きを右肩に受け、腕ごと吹き飛ばされた。
さしもの雅も避けきれず、その突きを右肩に受け、腕ごと吹き飛ばされた。
「判断を誤ったな」
同時に。
炭治郎の左腕の肘から切れ込みが入りずり落ちていく。
相打ち。雅は防御を捨て、炭治郎へのカウンターに全てを費やしたのだ。
炭治郎の左腕の肘から切れ込みが入りずり落ちていく。
相打ち。雅は防御を捨て、炭治郎へのカウンターに全てを費やしたのだ。
だが、あくまでもただの吸血鬼である炭治郎に対して、吸血鬼の始祖である雅は腕の1本程度ではすぐに再生してしまう。
とっさに刀を右手に持ち替え、止血する間もなく再び斬りかかる。
―――ヒノカミ神楽
「フンッ!」
飛び掛かる炭治郎に、雅は足元に落ちている己の部位を蹴り上げとばした。
「くあっ!」
ぶつかり、バラバラになったソレは炭治郎の視界を狭め、技の勢いを殺し、雅への目測を僅かにずらす。
結果、炭治郎の技は空振り、雅に最大の隙を与えることになる。
結果、炭治郎の技は空振り、雅に最大の隙を与えることになる。
「さらばだ、炭治郎」
首切り処刑のギロチンのように、雅のブーメランが炭治郎の首へと振り下ろされる。
「うおおおおおお!!」
ガ ァ ン
力任せに振るわれた大刀が炭治郎への斬撃を弾き飛ばす。
明だ。復活した明が炭治郎への攻撃を防いだのだ。
明だ。復活した明が炭治郎への攻撃を防いだのだ。
「明!貴様、痺れていた筈では!?」
「託されたんだよ、お前に勝てと!最悪のひねくれ者にな!」
「託されたんだよ、お前に勝てと!最悪のひねくれ者にな!」
明の痺れを和らがせていたのは、肩に刺さった螺子の先端部分。
気付け代わりに刺されたソレが、明に再び戦う力を呼び起こしたのだ。
気付け代わりに刺されたソレが、明に再び戦う力を呼び起こしたのだ。
「いくぞ炭治郎ォ!!」
「ハイ!!」
「ハイ!!」
明と炭治郎、それぞれの刺突が雅の身体目掛けて放たれる。
右肩が再生しきっていない以上、雅にこの二つを躱す術はない。
右肩が再生しきっていない以上、雅にこの二つを躱す術はない。
「「ガアアアアアアアアア!!!!」」
互いの咆哮が重なる。
これで終わらせる。鬼を討つと!
これで終わらせる。鬼を討つと!
ギ イ イ ィ ィ ィ ン
明と炭治郎の脳に激痛が走り、二人の目と鼻から血液があふれ出し、身体が崩れ落ちる。
脳波干渉(サイコジャック)。
本来は催眠用のソレは、雅が全身全霊を込めたことで殺傷力を有し、防御不可能な攻撃技と化した。
脳波干渉(サイコジャック)。
本来は催眠用のソレは、雅が全身全霊を込めたことで殺傷力を有し、防御不可能な攻撃技と化した。
(これで終わりだ。奴らの武器を回収すれば―――)
明と炭治郎の手から零れ落ちた武器へと手を伸ばす。
これさえなければ、もはや雅の勝利は揺るがない。
これさえなければ、もはや雅の勝利は揺るがない。
「私の勝ちだ!」
ガシリ。
武器を取ったのは、雅ではなく、炭治郎の手。
握ったものは、沖田の日本刀ではなく、天元の日輪刀だった。
握ったものは、沖田の日本刀ではなく、天元の日輪刀だった。
サイコジャックは身体に痛みを与えることでその効果が解かれる。
炭治郎は既に佐藤のナイフで脳髄にまでダメージを負わされていた。
幸運にも、それが雅のサイコジャックの影響を和らげたのだ。
炭治郎は既に佐藤のナイフで脳髄にまでダメージを負わされていた。
幸運にも、それが雅のサイコジャックの影響を和らげたのだ。
ドッ
雅の胸元に日輪刀が突きたてられる。
「ガッ、小僧が!」
パ ァ ン
雅のブーメランが炭治郎の右腕を斬り飛ばす。
だが、緩まない。炭治郎の心は、この程度で揺らぎはしない。
だが、緩まない。炭治郎の心は、この程度で揺らぎはしない。
「ウ...ガアアァァァ」
炭治郎の口が大きく開き、切り離された己の腕ごと柄を噛み締める。
ズズズ
死に瀕し、吸血鬼の力も加わった万力の握力が日輪刀を赫く染める。
それを雅も炭治郎も認識することなく日輪刀は雅の身体を蝕んでいく。
それを雅も炭治郎も認識することなく日輪刀は雅の身体を蝕んでいく。
残る力を振り絞り、繰り出されるは、最後の型。
ヒノカミ神楽―――日の呼吸、十二の型を繰り返すことで円環を成し、現れる本来の型とは異なる新しい型。
ヒノカミ神楽―――日の呼吸、十二の型を繰り返すことで円環を成し、現れる本来の型とは異なる新しい型。
―――ヒノカミ神楽 拾参の型
炭治郎の咥えた刀が振り下ろされ、雅の身体を縦に裂いていく。
そして、その衝撃で天元の日輪刀の爆薬に着火。
繰り出されるは、赫刀と天元の日輪刀本来の機能が合わさりできた奇跡の型。
そして、その衝撃で天元の日輪刀の爆薬に着火。
繰り出されるは、赫刀と天元の日輪刀本来の機能が合わさりできた奇跡の型。
―――紅蓮華(ぐれんげ)
爆薬が爆ぜ、雅の身体を破壊し、まるで死者に手向ける彼岸花のように血の華を咲かせた。
初めて味わう激痛に雅は意識を失いかける。
だが、まだ死なない。たとえ上半身と下半身を分断されても、内臓を焼き尽くされても、首輪を破壊されない限り、雅は死ぬことはない。
だが、まだ死なない。たとえ上半身と下半身を分断されても、内臓を焼き尽くされても、首輪を破壊されない限り、雅は死ぬことはない。
なにより。
(これが臨死の恍惚...最高じゃないか)
雅は、かつてないほどの多幸感に溢れていた。
最強の肉体を手に入れてより、何度も死にかけたことはあったが、炭治郎の肉体を喰らったところで生き延びれるかもわからないほど死に瀕したことはなかった。
最強の肉体を手に入れてより、何度も死にかけたことはあったが、炭治郎の肉体を喰らったところで生き延びれるかもわからないほど死に瀕したことはなかった。
不死の王が生き延びる為に必死に足掻く。これ以上のスリルはそう味わえるものではないだろう。
「礼を言うぞ炭治郎!そして私の中で永遠に眠るがいい!」
雅の口が大きく開き、炭治郎へと襲い掛かる。
―――ヌッ。
「!!」
牙が炭治郎へと食い込む寸前、爆炎の中から縫い出てきた日本刀が雅の口腔を貫いた。
「ガ...」
「終わりだ、雅!!」
「終わりだ、雅!!」
シャッ
刀が振り下ろされ、雅の頭頂から身体にかけて真っ二つに裂ける。
ピピピピピ
首輪の警告音が鳴り始める。
明でも炭治郎でもなく、雅の体内から。
つまり、明の斬撃は、確かに雅の首輪を捉えていたということだ。
明でも炭治郎でもなく、雅の体内から。
つまり、明の斬撃は、確かに雅の首輪を捉えていたということだ。
「明...私は死ぬのか...?」
縦に割れた雅の口がぽつぽつと呟き始める。
「...お前の遊びもここまでだ。雅」
先ほどまでの高揚と激昂が嘘だったかのように、雅と明は静かに言葉を紡ぐ。
「...ハッ。そうか...存外...やりきってみれば...まあ、悪くはない気分だな」
雅には後悔など微塵もなかった。
退屈を感じ始めていた生の最後にこれほど満たされたのだから当然だ。
退屈を感じ始めていた生の最後にこれほど満たされたのだから当然だ。
だから。
「地獄で待っているぞ明。その命尽きるまで私を愉しませてみせろ」
改心も謝罪もすることなく、雅は嗤う。
最期まで人間を嫌い、見下してきた吸血鬼の王として。
己の死すらも愉しみの一つとして受け入れて。
最期まで人間を嫌い、見下してきた吸血鬼の王として。
己の死すらも愉しみの一つとして受け入れて。
ボンッ、と小さな爆音が鳴り、長かった彼岸島の歴史の幕が、いまここに降りた。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| 悪鬼滅殺(2) | 雅 | 悪鬼滅殺(4) |
| 佐藤 | ||
| 竈門炭治郎 | ||
| 宮本明 | ||
| 上杉風太郎 | ||
| 童磨 |